ニュースの真相

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リニア騒動の真相53安倍首相辞任と「静岡問題」?

『安倍「お友だち」融資 3兆円』とは?  28日夕方、安倍晋三首相が突然、体調を理由に辞意表明した。表明と同時に政治の主導権争いが始まった。JR東海の葛西敬之名誉会長と安倍首相との関係は深く、リニアは着工前から政治的な色彩が強かった。総工費9兆円の工事費のうち、3兆円は財政投融資を活用した資金が投入されたからだ。JR東海にとっては、安倍路線をそのまま継承してもらえる政治家が新首相に望ましいだろう。コロナ禍の中、苦境に立たされているJR東海に強い支援を差し伸べる新首相が登場するかどうか?  葛西会長と安倍首相との深い関係にメスを入れたのは、2018年8月20日号日経ビジネスのリニア特集。パート2『安倍「お友だち融資」3兆円 第3の森加計問題』は題名通り、衝撃的だった。『森友学園、加計学園の比ではない3兆円融資。(略)安倍と葛西は頻繁に会合を重ねていた』の太字の前文から、『第3の森加計問題』を詳しく伝えていた。  安倍首相は2016年6月、「新たな低利貸付制度で、リニア計画を前倒しする」と発表した。日経ビジネス記事は、『日本政策金融公庫の幹部が(異常な融資スキームに)首をかしげる。「そもそも、30年後から返すって、貸す方も借りる方も責任者は辞めているでしょうし、生きているかどうか分からないですよね」』と財投融資に疑問を投げ掛けた。静岡県の一般会計予算が約1兆2千億円、3兆円は県予算の2倍以上の膨大な金額である。日本政策投資銀行は、「相手先が倒れたら、銀行も一緒に死んでしまう。大手銀行は1社2千億円がぎりぎりのライン」として貸し出しをしなかった。森友学園や加計学園の問題とはケタ違いの”疑惑”である。  鉄道建設・運輸施設整備支援機構から無担保、金利は平均0・8%を支払い、元本返済30年猶予という破格の条件を問題にした。安倍首相は新低利貸付制度の発表前、懇意の葛西会長と頻繁に会合を重ねていることから、安倍首相の”忖度”があったのではないかと日経ビジネス記事は推測している。2016年度に5千億円、17年度に2兆5千億円の計3兆円の融資がすでに実行された。3兆円となると、金利0・8%と言っても半端な額ではなくなる。どのように支払っていくのか不明だが、単純に計算すれば、毎年240億円支払わなければならない。  安倍首相を巡る”疑惑”を取り上げた日経ビジネス記事を、他の大手メディアはどこも追い掛けなかった。まあ、”疑惑”があったとしても、リニアが順調に開通して、JR東海がちゃんと3兆円を返済すれば問題ないからかもしれない。しかし、リニア開通には暗雲が立ち込めている。「静岡県が着工を認めてもらえないので、2027年開業は難しい」(金子慎JR東海社長)とメディアが伝える「静岡問題」が最大の暗雲らしい。「静岡問題」が「3兆円融資」に大きな影響を与えるはずだ。  「静岡問題」を解決できずに辞任するのは、安倍首相にとって内心忸怩たる思いだろう。 コロナ禍の影響で苦境に立たされるJR東海  「静岡問題」に追い打ちを掛けるのがコロナ禍である。日経ビジネス2020年8月17日号は、リニア「静岡問題」を再び、取り上げている。「不信の連鎖、リニアにブレーキ」というタイトルだが、最初にコロナ禍による悲惨な数字を挙げている。ことし4~6月期の連結最終赤字726億円となり、大幅な最終赤字は避けられず、21年3月期の業績予想を見送った、とJR東海の窮状を伝えた。  2027年品川ー名古屋間開通後、大阪までの開通を当初2045年を計画していたが、3兆円の借り入れで最大8年間の前倒しを見込んでいた。ところが、JR東海収入の約7割を稼ぎ出している東海道新幹線が赤字に転落してしまった。この苦境が長引けば、前倒し計画にも影響が出てくる。前倒しどころか、2027年開業が「静岡問題」で絶望的である。  金利分の毎年平均240億円返済だけでなく、2027年開業が遅れれば、総工費は毎年千億円単位で膨らみ、一方でリニアによる収入は一銭も入ってこないのだ。「静岡問題」やコロナ禍の影響で当初の計画は大きく狂っている。2年前の日経ビジネスのリニア特集は、金子社長に「3兆円返済」について問い質していた。その最後の問いは、「JR東海はちゃんと返せるから借りたのか?」だった。  『金子:はい。』(「いいえ」と答えるはずもない。元本返済が始まるのは2046年から。金子社長は90歳を超える。誰もそんな先のことはわからないだろう)  もし、現在、同じ質問を受けたとしても、金子社長は「はい」と答えるだろう。この2年間、JR東海は「静岡問題」の解決の糸口さえつかめない。2年前と違い、「静岡問題」を解決して、リニア工事を無事着工するという、現社長としての責任を明確にしなければ、「はい」と回答しても説得力はない。  昨年10月から、国交省が「静岡問題」に介入している。だから、政府を挙げて「静岡問題」を解決してくれることに金子社長は期待しているのかもしれない。 有識者会議は期待に応えているか?  金子社長はことし4月、国交省の有識者会議の役割に強い期待をにじませ、「静岡問題」を解決してくれるよう要請した。有識者会議は金子社長の期待にこたえられているのか?  第5回有識者会議が25日、国交省で開かれた。今回も、JR東海は分厚い資料を用意、限られた時間の中で丁寧な説明をした。用意したのは、資料2「大井川水資源利用への影響回避・低減に向けた取り組み(素案)」、資料2(別冊)データ。資料3-1「大井川流域の現状(素案)」、資料3-2「当社が実施した水収支解析について(素案)」、資料4「畑薙山断層帯におけるトンネルの掘り方・トンネル湧水への対応(素案)」。新たな資料4は、トンネル掘削によって、山梨、長野両県への湧水流出を想定したものだった。  第4回会議で、「大井川中下流域の地下水への影響はほとんどない」という議論が進んでいた。第5回会議は、「地下水への影響」問題の決着が図られるのかどうかが最も大きな関心だった。ところが、第4回会議からの進展は全く見られず、単にJR東海がトンネル掘削についての新たな資料について説明したことにとどまった。4回から5回への議論で何ら収穫はなかったのだ。  資料はちゃんとそろえられているのだ。なぜ、もっとじっくりと議論して、ひとつ、ひとつ結論を得るような方向にもって行かないのか?  「中下流域の地下水への影響はほとんどない」。JR東海は「水収支解析」によって、トンネル掘削に伴う地下水位の低下は、上流部の椹島以北の範囲にとどまっている、と説明。さらに、①上流域の岩盤内の地下水の多くは、中下流域に達するまでに河川に流出している、②地質モデルでは、「南アルプスは付加体と呼ばれる地質構造であり、鉛直方向の連続性が卓越していることから、上流域の帯水層が中下流域まで伸びているとは考えにくく、地下水が下流域へ流れていかない」と専門機関の見解をもらっている、③中下流域の地下水は、降水と大井川の表流水が地下に浸透することにより涵養されているから、「中下流域の地下水への影響はない」と、図を含めて、非常に分かりやすく説明していた。当然、説得力もある。  「概括的に」「相対的に判断すれば」「おおむね」などの言葉を使い、福岡捷二座長は「地下水への影響はない」という結論に誘導しようとしたが、森下祐一静大客員教授は県地質構造・水資源専門部会長の立場で、さまざまな反論を試みた。  結局、会議の結論は「座長コメント」でまとめられた。「地下水への影響は概括的に問題ないと言えるのではないかとの複数の意見があった。これを確かにするために、今後、化学的なデータや静岡市による解析結果等を用いて、追加の検討を行うよう指示があった」。何だ、これ。結論をまとめるどころか、これではいつまでたっても結論に到達しないだろう。  「中下流域の地下水への影響があるのか、ないのか」を徹底的に議論すべきだった。賛成か、反対かを問えばいいのだ、まず、結論を得た上で、それぞれが専門家としての矜持をかけて、意見をぶつけ合うべきだ。今回の議論でその片鱗が見られたのは、たった一度、沖大幹東大教授が森下氏に直接、何が納得できないのか質問したときだけである。焦点ボケの議論をいつま続けていても結論を得ることはできないだろう。 「静岡問題」議論に終わりが見えない  28日、川勝平太知事は「水環境だけが問題ではない。水環境問題が解決すれば終わりではない。(残土処理、生物多様性など)47項目すべてを議論しなければならない」と述べた。これでは、いくら時間を掛けても、議論の終わりは見えてこない。  さらに、28日、難波喬司副知事名で江口秀二鉄道局審議官宛に「座長コメント」に対する意見書を送った。13日、有識者会議の議論の基となっているJR東海の「水収支解析」批判を意見書として、上原淳鉄道局長宛に送ったのに続いて、「会議の運営について、地域住民に不信感を与える恐れがある」など、今回は国交省を批判している。国交省主催の会議に関わらず、これだけ県が疑問を投げ掛ければ、会議そのものの存在について県民の多くが不信を抱くだろう。  川勝知事は「有識者会議の検討結果は尊重するが、専門部会に持ち帰り、流域住民の理解を得ることを優先する」としている。さまざまな県のプレッシャーからか、第5回有識者会議で福岡座長は、はっきりとした方向を示すことができず、あいまいなままで議論を終えてしまった。有識者会議に過度の期待は掛けない方がいい。  第5回有識者会議を終えた27日、金子社長は会見で「議論はある程度の時間が掛かるので、これは必要な時間だ」などと会議が長期化するのを容認する発言をした。「ある程度の時間」や「必要な時間」がどれくらいを指すのか分からないが、川勝知事の発言や難波副知事の意見書を見れば、1年や2年というスパンでは無理だろう。「議論(線路)は続くよ、どこまでも♪」で、本当にいいのか?  さて、安倍首相辞任に戻る。慢性の潰瘍性大腸炎は完治しないが、寛解(症状が治まる)と再燃(症状が悪化)を繰り返し、平均寿命を全うできるようだ。新首相は、総裁選への出馬を明らかにした菅義偉官房長官にほぼ決まりか?菅長官が来年9月までの安倍首相の任期を全うし、静養後、元気を取り戻した安倍首相が再々登板するシナリオが一番、JR東海にとってはよさそうだ。白血病で長期休養した競泳の池江璃花子の復帰が、安倍首相辞任の日と重なったのも偶然ではないだろう。  「お友だち」安倍首相のおかげで3兆円もの融資を受けているのだから、JR東海は国交省に頼らず、「静岡問題」を自らの手で解決したほうがいい。そのためには、地元の人たち(首長を指していない)と虚心坦懐に話をすることである。 ※タイトル写真は、安倍首相の辞任を伝える28日静岡新聞号外から。首相としての再々起を期待したい。首相退任後、安倍氏は72歳になった元気な川勝知事に会いに来静したほうがいいだろう

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リニア騒動の真相52「伝家の宝刀」抜くとき?

県意見書、有識者会議の結論に「待った」  13日、静岡県はJR東海が行った「水収支解析」の疑問点を意見書として、国交省鉄道局長宛に送った。4月にスタートした国の有識会議は、JR東海の提出したデータを基に議論を行ってきた。そのデータの根幹となるのが、「水収支解析」であり、その解析方法が信頼性に欠けると指摘した。JR東海は、水収支解析モデルの精度が高いとして、「トンネル湧水による河川水や地下水への影響」を説明しているが、モデルの適用範囲に限界があることを認めるべきだと県の意見は非常に辛辣だ。  また、環境省総合環境政策統括官宛にも文書を送り、JR東海の水収支解析によって、南アルプス国立公園の地下水位が300m以上低下するという「環境影響評価書」に示されていない大幅な低下を予測していることに対して、生態系への影響などに、環境省はどのように対応するのか尋ねている。  25日、第5回有識者会議が開催される。JR東海の説明を基に議論を行ってきただけに、この意見書をどのように取り扱うのか、議論は振り出しに戻る可能性さえ出てきた。また、川勝平太知事は、有識者会議の結論は尊重するが、県専門部会に持ち帰り、流域住民の理解を得ることを求めている。第4回有識者会議で、「中下流域の地下水への影響はほとんどない」という方向に議論が進み、次回の会議でまとめるよう議論は進んでいた。県の意見書は、有識者会議の結論に待ったを掛ける狙いがあるのだろう。  第1回有識者会議で、金子慎JR東海社長は「南アルプスの環境が重要であるからといって、あまりに高い要求を課して、それが達成できなければ、中央新幹線の着工も認められないのは、法律の趣旨に反するのではないか」、「静岡県の整理されている課題自体の是非、つまり、事業者にそこまで求めるのは無理ではないか、それが達成できなければ、工事を進めてはならないという県の対応について、適切に対処をお願いしたい」など、有識者会議の役割に強い期待をにじませた。  金子発言は川勝知事らの猛反発を受け、謝罪、撤回に追い込まれたが、実際に「県の対応」を見ると、金子発言を否定できないほど”攻撃的”である。国交省は静岡工区の早期着工を進める立場で有識者会議を設置したが、このままでは有識者会議自体が存在の意味を失う可能性さえある。  一体、どうすればいいのか? 河川法「許可権限」を県から召し上げる?  6月26日、金子社長は川勝知事に面会、ヤード(宿舎を含めた作業基地)整備の準備工事再開を要望した。7月10日には、国交省の藤田耕三事務次官も準備工事再開を要請したが、川勝知事は地元の理解が得られないとして、準備工事がトンネル本体工事の一部とみなすなど県自然環境保全条例を拡大解釈、運用することによって、藤田次官の要請を拒否した。  実際には、約4㌔の輸送用トンネル、導水路トンネル、先進坑、8・9㌔のトンネル本体工事などで、河川法の県知事許可(占用)が”大関門”。準備工事再開を認めたとしても、それほど問題でないのだが、県は”攻撃的”な姿勢を崩したくなかったのだ。ただ、金子社長はその後の記者会見で「静岡県が着工を認めてもらえないので、2027年開業は難しい」など発言しているから、準備工事さえ認めてもらえれば、トンネル本体工事もなし崩しに着工できると、内心、期待していたのだろう。多分、河川法の許可権限が大きく立ちはだかっているのを忘れたかったのかもしれない。  2018年10月、JR東海幹部が「強行着工」を口にしたことが一部新聞で報道された。当時、JR東海は本体トンネルから導水路トンネルを設置する椹島まで水を戻すことで、100㌔も離れた中下流域への影響はないと強く主張、県との議論はかみ合わなかった。利水者との合意は道義的な問題と考えていた。いまでも中下流域への影響は全くないという姿勢が根本にあるから、今回の県意見書のように矛盾点を突かれることになってしまう。  静岡工区の着工に向けて、一番手っ取り早い方法は知事の許可権限を国交大臣が召し上げてしまうことである。河川法の許可権限は工事をストップできるが、県自然環境保全条例では何らの規制もできない。許可権限さえなくなれば、県がいくら反対しようが、JR東海は「強行着工」が可能になるのだ。 「法定受託事務」としての河川管理と権限  1級河川の大井川は、河口から中下流域約40㌔までを国交省、そこから上流域、源流部までの約130㌔を県が管理している。リニア建設予定地の大井川最上流部は県の管理区間となる。県が管理している約130㌔区間は、本来ならば国が管理するところだが、「法定受託事務」(機関委任事務の廃止に伴い、新設された事務区分)として県が管理する。全国63の1級河川は、「法定受託事務」として都道府県の管理区間を持つ。  本来は、国が直轄管理することになっているのだから、県知事の許可権限を召し上げることが難しいはずはない。今回のようにリニア問題でもめている場合でも、法的に可能なのか?  河川法は、「1級河川の管理は国交大臣が行うが、国交大臣が指定する区間(指定区間)を都道府県知事が管理を行うことができるとしている。指定区間を指定しようとするときは、あらかじめ関係都道府県知事の意見を聞かなければならない、これを変更し、又は廃止しようとするのも同様とする」などと定めている。  つまり、赤羽一嘉国交大臣が川勝知事の意見を聞いた上で、大井川の指定区間(県管理の区域)を国管理に変更すればいいだけである。知事の同意を必要としないから、いくら川勝知事が反対意見を述べようが、手続きさえ踏めば、河川法の許可権限を召し上げることができる。  第4回有識者会議で、長島ダムが果たす下流域約62万人への「水道用水の供給」役割に注目が集まった。1989年着工され、2002年に完成した長島ダムは、国が直轄で管理している。89年以前には、県の管理区間だったが、長島ダム建設に伴い、国から「法定受託事務」として管理を任されていた区間が県知事の意見を聞いた上で国の管理に戻ったのである。  河川法施行規則で、ダムなどの施設がある場合は都道府県の指定区間とならないと定められているから、長島ダムが県から国に移管されたのは、非常にわかりやすい事例である。  リニアトンネルの静岡工区に関わる河川区域では、どのような理由を挙げられるだろうか? 「貴重な自然環境保全」を理由に国の直轄に  河川法施行規則に「水系における貴重な自然環境、優れた景観等その整備又は保全を行うことが特に必要と認められる河川環境が存する区間」は国が直轄で行うとしている。  県生物多様性部会は、南アルプスエコパークの自然環境保全が重要なテーマ。つまり、「水系における貴重な自然環境」を有している地域であり、その保全を国が行うことが特に必要と認められる、と理由を挙げることができる。  国の有識者会議では「中下流域の地下水への影響はない」という結論が出るだろう。工事期間中、長野、山梨両県への湧水流出問題もJR東海側に立って解決が図られることは予測できる。有識者会議で最も難しい議論は、この「貴重な自然環境の保全」である。いくら議論しても、解決できるはずがないからだ。人による開発が入れば、自然環境が損なわれることを避けることはできない。全長約25㌔にも及ぶリニア南アルプストンネルを建設して、自然環境保全対策が十分と考える研究者は一人もいない。どれだけ、ダメージを抑えられるかだけである。つまり、リニア(開発による経済効果)を取るか、自然環境の保全を取るかは、選択でしかない。  自然環境の保全を理由に、国は南アルプスエコパークの区域内(静岡市、川根本町)に限って、指定区間の変更を求めることができる。しかし、実際には、南アルプスエコパークを保全する役割を国交省は持たないから、そのような理由では変更できないかもしれない。  環境省は国立公園区域内のみ保全を担当する。エコパーク内の自然環境の保全の役割を担うのは静岡市である。静岡市が大井川の河川管理をすることができるのか? 静岡市の実力を見せるチャンスだ  2003年、静岡市の政令指定都市移行で県の権限移譲の調整が進められている最中に、1級河川の管理を県から市へ移譲する議論が激しく交わされた。当時の石川嘉延知事は県議会等で「財源、人的支援も惜しまないので全国のモデルケースとなるよう1級河川の管理を行うことを勧める」と静岡市へ権限移譲する姿勢を示した。ただし、これは大井川ではなく、安倍川を念頭にした発言だった。結局、流木処理費用などの財政負担がネックとなり、静岡市は首を縦に振らなかった。  大井川(南アルプス地域は静岡市葵区)ならばどうか?  河川法では「政令指定都市の区域内にある指定区間について、国交大臣は、都道府県知事が行うものとされている管理について、河川法の規定に関わらず、1級河川の部分の存する指定都市の長が行うこととする」と定めている。つまり、静岡市は源流部から井川地区までの大井川の管理を行うことができるのだ。  河川法施行令では、国が定める整備基本方針を変更することで可能だから、静岡市が手を挙げれば、大井川の河川管理が移譲され、河川法の許可権限も静岡市長に移ることになる。流木問題は、畑薙、井川などのダム湖で処理されているから、静岡市の財政負担は非常に少ないだろう。  河川管理は流木処理だけでなく、災害復旧、維持管理、草刈りなどが主な仕事であり、静岡市が手を挙げるかどうかは田辺信宏市長の判断に任せられる。川勝知事は田辺市政に厳しい批判を繰り返してきただけに、静岡市の実力を見せるのにはよい機会かもしれない。  2年以上にわたって、「リニア騒動の静岡問題」を取材してきたが、県とJR東海の膠着状態はますますねじれ、県の”攻撃的”対応で国交省の思惑はすべて外されている。  国は、県の権限を召し上げるという「伝家の宝刀」を抜くときが来たのか?鉄道局が有識者会議をまとめているが、いまのところ、河川担当部局と何らかの話し合いを持っているとは思えない。旧建設省、旧運輸省の寄り合い世帯の国交省が一枚岩ではないことも確かであり、「伝家の宝刀」を抜くのも容易ではないかもしれない。  もし、国交省が強硬策に出れば、「やられたら、やり返せ」のゲーム理論が展開されるはずだ。コロナ禍でますますリニアの必要性が色褪せつつある中、何とかしなければならないことだけは確かである。 ※タイトル写真は、静岡県庁を訪れた国交省事務方トップの藤田耕三事務次官。7月に退任したが、リニア問題では何の成果も上げられなかった。次回は、国交大臣が乗り出すのか?

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リニア騒動の真相51川勝知事「反リニア」へ転向?

「リニア大推進論者」は過去の話だった   12日から14日までの3日間、朝日新聞静岡版に寄せた川勝平太知事のリニアに関する「手記」が大きな反響を呼んでいる。第1回は、リニア新幹線整備に政府側の委員として賛同してきた経緯、特に、国土審議会委員を約20年間務め、リニアが開く「スーパー・メガリージョン(京浜・中京・阪神の7千万人巨大都市圏)」構想をうたう「国土形成計画」の策定に加わった。リニアを「空飛ぶ新幹線」と呼んで宣伝、2011年静岡県も通過するリニアルートが発表され、南アルプス視察に赴いたときまでは「リニア大推進論者」だったという。その後、大井川の「命の水」の重要性を知ったことで、「水・南アルプス・地域住民」の三者を守ることに専心している。  第2回は、現在行われているJR東海の水環境議論で有識者会議の中立性などに疑問を地元が持っていると指摘、有識者会議のまとめる「方向性」を尊重するが、県専門部会で再確認し、流域住民の理解を得る段取りを紹介した。  結論の第3回は、新型コロナを経験している現実を踏まえ、リニアに対する6つの疑問を書いた。  (1)コロナ禍問題は「東京問題」であり、東京一極集中からICT(情報通信技術)を活用する地方への多極分散が望ましく、いまや「スーパー・メガリージョン」は必要ないのでは?  (2)リニアのトンネル工事は南アルプスの自然環境破壊であり、リニアを取るのか、エコパーク「南アルプス」を取るのかならば、「南アルプス」を守るべき?  (3)リニアの電力源は原発を前提にしているが、福島第一原発事故などで原発依存モデルは崩壊した。リニアが消費する莫大な電力源確保はできるのか?  (4)「南アルプストンネル」避難路は直線3㌔を登り、出口は南アルプス山中であり、非常に危険ではないか?  (5)超電導コイルに必要な希少金属は世界中で取り合いであり、超電導磁石の原料は確保できるのか?  (6)リニア計画の審議会答申前に行われたパブリックコメントでは73%が否定的だった。コロナ禍の中でリニア計画の根本的見直しの声が各界から上がっている今こそ、政府はリニア計画の中間評価・見直しを行うべきではないか?  (1)から(6)までの疑問を読んでいて、現在の川勝知事が「リニア大推進論者」と考える人はいないだろう。「スーパーメガリージョン」構想の策定委員だった知事がすでに時代遅れと言うならば、同構想を推進するためのリニア計画は不要となる。「手記」を読めば、川勝知事は立派な「反リニア論者」である。 「井川ー大唐松山断層が妥当」に疑問?  さらに、13日、難波喬司副知事はJR東海が国の有識者会議に提出した資料批判をした意見書を国交省の上原淳鉄道局長宛に送った。月内にも開かれる第5回有識者会議が中下流域の地下水への影響はほとんどないという「方向性」がまとめられるのに対して、議論の基礎となっているJR東海提出の「水収支解析」データへの厳しい批判や注文を投げ掛けた。  疑問が多い。まず、県地質構造・水資源専門部会で一度も名前が上がったことのない「井川ー大唐松山断層」が登場することだ。県意見書は「JR東海は、南側にある畑薙山断層を北側に延長し、山梨県境付近も畑薙山断層としているが、井川ー大唐松山断層の一部であると考えるのが妥当」と指摘した。JR東海が「畑薙山断層」を挙げたのは、”活断層の教科書”「日本の活断層」(活断層研究会、1991年)からだが、同書には県意見書の”大断層”「井川ー大唐松山断層」は姿かたちもない。1980年に初版、91年に新編が登場して以来、約30年間、「日本の活断層」は改訂されていないから、新たな断層として認定されているかもしれないが、JR東海と一度も議論したことのない「井川ー大唐松山断層が妥当」との結論はあまりに一方的だ。この意見を基に、県は「ボーリングを行い、データを得るなど、さらに十分な調査・検討が必要である」と注文をつけている。  「井川ー大唐松山断層」は産業技術総合研究所活断層データベースが出典とある。同データベースに何度も当たったが、どういうわけか「井川-大唐松山断層」はヒットしなかった。7月31日付静岡新聞で狩野謙一静岡大防災総合センター客員教授が「現地調査を踏まえると南北方向の井川ー大唐松山断層と推定される」と述べた記事で、初めて「井川ー大唐松山断層」の存在が明らかになった。新聞報道による地元研究者による「推定」を、「妥当」と結論してしまうのは恣意的だと疑われても仕方ない。「井川ー大唐松山断層」は存在するだろうが、一般的でないことは確かだ。  南アルプスはどこに断層があってもおかしくない。県意見書の図に、中央構造線のように、非常に長い「井川ー大唐松山断層」が描かれるが、もし、そんなに”有名な断層”だとしたら、なぜ、いままで議論の対象にならなかったのか不思議で仕方がない。新しく認定される断層、認定を取り消される断層は数多い。また、科学者によって、断層の調査方法、認定の仕方も違う。一般の人が理解、納得できる説明を県はJR東海に求めている。  今回の県によるJR東海への批判を見ると、川勝知事だけでなく、静岡県全体がまるで「反リニア論者」のように見えてくる。 「反リニア」市民団体が行政訴訟へ  川勝知事「手記」や難波副知事の記者会見報道でも、リニア工事を認めるのは地域住民の理解が大前提となっている。そのためか、大井川の利水者たちの「反リニア」活動も大義名分を得たように勢いづいている。  6月26日金子慎JR東海社長、7月10日国交省の藤田耕三事務次官が川勝知事との対談に訪れた際、静岡県庁本館玄関前で「大井川の水を守れ」「南アルプスに穴を開けるな」を訴えた「リニア新幹線を考える静岡県民ネットワーク」「南アルプスとリニアを考える市民ネットワーク静岡」など市民団体、地域住民が「静岡県リニア工事差し止め訴訟の会」を結成する。9月末を目途に、リニア工事認可の取り消しを求める行政訴訟を起こす準備を進めている。共産、社民など革新系政党が支援する。9月初め、静岡市でも勉強会を開き、出来るだけ多くの訴訟委任状を集めたいようだ。  2016年、品川から名古屋までのリニア中央新幹線沿線の「反リニア」住民ら約8百人が「ストップ・リニア」を訴え、リニア差止訴訟を起こした。今回は、大井川広域水道を享受する島田、焼津、掛川、藤枝、御前崎、菊川、牧之原の7市の住民らを中心に大井川の水環境を損なう生活被害、南アルプスの自然環境を破壊するとしてリニア工事差し止めを国に求める。行政訴訟の場合、原告適格性が問題となるが、川勝知事が問題にする「命の水」につながる大井川の利水者、また、南アルプスを享受する登山者らの権利侵害として訴訟提起するようだ。  現在、国の有識者会議、県環境保全連絡会議で行っている議論がそのまま、裁判の争点となる。大井川の中下流域への地下水への影響、南アルプスの自然環境への影響など司法の場で結論を出すのか興味深い。市民団体にとって、何よりも、訴訟提起が大きな意味を持つのだろう。それが、川勝知事の求める「リニア見直し」につながるのかどうか? 川勝知事「リニアに反対していません」  「私はリニアに反対していません」。川勝知事は、朝日新聞連載の第3回「手記」最後で、わざわざ「反リニアではない」と断っている。  第3回「手記」では、「政府はリニア計画の見直しを行うべき」としたあと、話題を転換して、山梨県にとってのリニアの有効性、身延線「世界で最も遅い特急」を使い、静岡駅で新幹線に乗り換えて首都圏に戻る「鉄道旅」を提案している。最初に疑問を呈した「東京問題」はどこかに置き忘れたようだ。さらに、”知事独自”の松本空港を結ぶ「ルート変更」を説明した上で、「南アルプス・大井川・地域住民の抱えている問題が解決できないのであれば、リニアのルートを変えることも1つの解決策」と締め括っている。  「なんなんだ、これ」。多くの人は疑問を抱くだろう。9日付『リニア騒動50川勝知事”Dルート”提案か?』で書いた通り、ほとんどの長野県民は現在のルートで早期開業を望んでいるから、川勝知事の唐突な提案に耳を貸すはずもない。延伸すればするほどリニア工事がもたらす自然環境への影響は大きくなるから、問題を他の地域に持っていくだけである。「リニアに反対しない」川勝知事の真の意図は何かだ。  哲学者ニーチェは著作『反キリスト者』で、イエス・キリストの死後、イエスの弟子たちがイエスの教えをねじまげ、キリスト教をでっち上げたとして、「キリスト教」を否定した。その一方で、イエスを「超人」の手本したからあまりに複雑である。リニアをイエスに、JR東海をイエスの弟子たちに置き換えて、知事はニーチェのような”哲学的戦術(レトリック)”を使っているのもかもしれない。  経済優先で水を含めた自然環境を顧みないでリニア計画を推進しようとする「JR東海」を強く批判する。「リニア」は将来の日本に必要であるのに、その生かし方を「JR東海」は分かっていないとでも言いたいのだろうか。長い間、政府委員などを務め、権力の側にいたから、「JR東海」が簡単に方向転換ができないことも承知している。   「反リニア」のポーズも”川勝戦略”だろうが、JR東海や国交省を批判、罵倒することで静岡県民に何をもたらそうとしているのか、それが何よりも一番、重要である。 ※タイトル写真は、6月26日、金子社長の来静に合わせてリニア反対運動を展開した市民団体

ニュースの真相

リニア騒動の真相50川勝知事”Dルート”提案か?

なぜ、決まったCルート(南アルプスルート)?  6日から始まった中日新聞1面「考えるリニア着工 なぜ決まったCルート」の3回にわたる連載企画に本当に驚かされた。「2027年開業は風前のともしびになっているリニア中央新幹線。大井川の水資源問題をはじめ、今日まで解決の糸口が見えない数々の問題を抱えるCルート(南アルプスルート)は、なぜ、どう決まったのか」(前文)が企画意図。6、7日の2回連載はCルート決定までのプロセスを紹介、8日の最終回では、はっきりと「リニア計画の再検討」を求めているのだ。「問題の原点」とは何だったのか?  リニア計画が本格化した1980年代には、長野県駅を諏訪市、茅野市、岡谷市など6市町村の「諏訪広域連合」地域に設置するBルート(伊那谷ルート)が最有力だった。2008年になって、突然、南アルプスを貫通する直線のCルートが浮上、結局、う回ルートとも呼ばれた「伊那谷ルート」は外されてしまう。その経緯について長野県民ならいざ知らず、静岡県民は全く知らない。第1回「諏訪地域はしご外され」(6日付)写真(2011年6月)は、国の有識者会議、県リニア環境保全連絡会議でなじみの深い宇野護JR東海副社長が「もう決まったことですから」と、当時の諏訪市長らを前に神妙な面持ちで対面している。一方、諏訪市長らの「約束が違うじゃないのか」と激しい剣幕の様子も伝わってくる。(タイトル写真は6日付中日新聞1面連載記事から)  「JRはわれわれをあおっておいて、連絡はなく、はしごを外した。人が代わっても、われわれは覚えている」。この怒りはただ事ではない。JRの「誠意不足」をいまだに憤る元諏訪市長の談話で、第1回は終わっている。この連載は静岡版のみであり、長野県で読むことはできない。長野県庁の担当課に連絡すると、すでに中日連載を承知していて、第1回をネットで読んだとのことだった。  中日は、静岡県民に過去の出来事からJR東海の「誠意不足」を警告したかったのだろうか? リニアは「陸のコンコルド」か?  第2回「結論ありき審議足りず」(7日付)は国の交通政策審議会が環境への影響をほとんど顧みることなく、JR東海の思惑通りにCルートを決めた状況を明らかにした。第3回「単体の収支見通しなく」(8日付)では、3兆円の財投を決めた財政制度等審議会への批判やリニア反対論者の橋山禮次郎アラバマ大学名誉教授のインタビューで構成、過去の労力や投資を惜しんで、事業を進めると損失は拡大することを訴えた。  日経ビジネス2018年8月20日号の大特集『リニア新幹線 夢か、悪夢か』を彷彿させる連載企画だった。その特集にも橋山教授は登場、リニアを「陸のコンコルド(スピードばかり追求したが、赤字続きで事故を起こして失敗)」にたとえた。中日インタビューでは、コロナ禍での新幹線需要落ち込み、財政指標の悪化を踏まえ、やはり「このまま進めばリニアは陸のコンコルドになる」と語る。2027年開業延期必至のいまこそ、計画再検討を求めているのだ。  リニア計画再検討を求める連載の背景には、水環境問題で議論が続く静岡県との交渉の長期化が避けられないことがある。国の有識者会議で議論が続く水環境問題に加え、生物多様性の議論が始まれば、地下水位の低下などが大きな問題となり、いつまで続くのか見通せない。そのような状況の中で、JR東海に解決策がないならば、長野県全体で推進していたBルート(伊那谷ルート)のほうが良かったのではないかという意図が中日連載に見えてくる。静岡県では「ルート変更」が過去のことではないからだ。  川勝平太知事は7月10日、国交省の藤田耕三事務次官との対談で、鈴木敏夫川根本町長「流域市町でもルート変更を1つの案としてはどうかとの意見もある」発言や県議会くらし・環境委員会で自民所属県議の「これだけもめるのならばルート変更したらどうか」発言を紹介した。当然、藤田次官はCルート決定までの長い議論を踏まえ、「ルート変更」は問題外であることを知事との対談で説明、その後の記者会見では語気強く、「ルート変更」を否定した。  果たして、「ルート変更」は本当にできないのか? 経済優先で選ばれたCルート(南アルプス貫通ルート)  1979年、9都府県で設立したリニア中央新幹線建設促進期成同盟会設立当時は、糸魚川静岡構造線、中央構造線が通る”世界最大級の断層地帯”南アルプスを通過するルートは技術的に困難とされた。このため「伊那谷(Bルート)」か「木曽谷(Aルート)」のどちらかが本命視された。1989年、長野県知事は「伊那谷ルート」誘致を正式に表明した。沿線9都府県「期成同盟会」も伊那谷ルートを採択すると、諏訪地域はリニア誘致がほぼ決まりと考え、20年近くさまざまなリニア誘致への取り組みを展開した。2006年まではJR東海のパンフレットでも伊那谷ルートのみが示されていたという。  ところが、JR東海は2008年10月、1990年から行ってきたとされる「地形・地質調査」報告で、「南アルプスにおける土被り(地表からトンネルまでの深さ)の大きい長大トンネルの施工について、ボーリングなどの調査結果とトンネル専門家による委員会の見解を踏まえ、可能であると判断した」と公表、この報告を受けて、南アルプスを貫通する直線の「Cルート」が新たに加えられた。  2010年2月、交通政策審議会が諮問を受けて、ルート選考の議論に入り、翌年の2011年5月Cルートを選択、国交相に答申した。JR東海の試算で、CルートはBルートに比べ、7分短縮され、建設費6300億円減、毎年の維持運営費190億円減、設備更新費100億円減、年間の収入では9千億円増という「費用対効果」で圧倒的な優位に立ち、判断材料となった。長野県では「20年以上リニア応援団としてのこれまでの努力は何か」「時間差はわずか7分ではないか」「工事費などの積算根拠が分からない」など不満が続出したが、最後は山梨県駅とのアクセス道路を充実することなどを条件に矛を収めるしかなかった。  中日連載第1回で紹介されたように、諏訪地域にJR東海への不満が残っていることは確かだが、現在でも長野県で「ルート変更」を望む声が大きいのか? 「長野県がルート変更を求めることはない」  長野県は、リニア工事の進み具合を概略図などで公表している。7月現在、長野県内52・9㌔のうち、86・8%に当たる45・9㌔区間の工事契約が済んでいる。静岡工区とつながる南アルプス長野工区8・4㌔は鹿島、飛島、フジタのJVによって、2017年4月から工事に入り、昨年8月からは先進坑の掘削も始まっている。飯田市に設置される長野県駅など未着工区間もあり、7月豪雨による土砂崩れや大鹿村だけでも約300万㎥と言われる膨大な残土処理など未解決の問題は山積のようだがー。  7月16日には、リニア中央新幹線建設促進長野県協議会(会長・長野県知事)が開かれ、「長野県内の工区においては、当初の計画通りに着実に進めていくこと」を決議した。静岡県内で「ルート変更」議論が出ていることに対して、「長野県がルート変更を求めることはない」と担当者は否定した。  いまだにJR東海の「誠意不足」を忘れない6市町村で構成する諏訪広域連合。事務局を務める諏訪市担当者は「いまさら、こちらからルート変更を求めることはない。この地域の期成同盟会も長野県協議会に参加しており、現在のルートで2027年開業を求めている」と話した。山梨県駅とのアクセス道路計画も進んでいる。もし、ルート変更となれば、さらに開業が10年近く延びることになる。リニア開業が長野県全体に大きな恩恵をもたらすとされるだけに、諏訪地域でも1日でも早い開業を望む声が大きいようだ。  川勝知事は、伊那谷でも木曽谷でもなく、諏訪よりももっと北に位置する松本空港まで延伸する”独自”の「ルート変更」を口にしていた。長野県駅が設置される飯田市の関係者は「川勝知事は、”Dルート”を考えているのかもしれない」と教えてくれた。  えっ、”Dルート”とは? ”Dルート”ならばすべての問題は解決する?  ”Dルート”とは、山梨県駅から南下して、静岡県に入り、新東名付近の内陸部を通過、長野、岐阜県を飛ばして、名古屋に至るルートである。静岡県駅は、静岡市北部あるいは川根本町に設置されれば、最難関工事となる南アルプスの断層地帯を通過することはなくなる。当然、大井川は鉄橋で越えるから、水環境に影響を及ぼすこともない。南アルプスエコパークを通過しないから、現在、国の有識者会議、県の専門部会で議論している問題すべてが関係なくなる。新東名に近ければ、新たなアクセスポイントになり、また、南海トラフ地震の影響も非常に少なく、新幹線のバイパス機能を果たすことは間違いない。  長野県が「ルート変更」を求めていないのだから、鈴木川根本町長が「流域市町でもルート変更が1つの案」とした発言にも納得がいく。”Dルート”ならば、大井川の水環境に全く影響もなく、地域振興が図れるのである。当然、流域10市町はこぞって大賛成だろう。  そうか、川勝知事が沿線9都府県「期成同盟会」への入会を求めているのも、静岡県のリニア新駅設置を目指そうとしているのか?いつもながら、”川勝戦略”には驚かされる。  前回の『リニア騒動の真相49「科学者たちの無責任」?』で書いたが、1979年のリニア「期成同盟会」設置当時は、いつ起きてもおかしくないとされた「東海地震」説で静岡県は大揺れだった。リニア計画に参加できる状況ではなかったのだ。冷静に考えれば、環境問題だけでなく、”Dルート”のほうが、JR東海の経済的負担も少なくて済むだろう。しかし、いくら最善策だとしても、これだけ事業が進んでいるとき、”Dルート”提案にやすやすと乗ることはできないだろう。  「事業の継続が損失の拡大につながると気付いても、過去の労力や投資、時間を惜しんで立ち止まれない状態を(中略)コンコルド効果と呼ぶ」(8日中日連載の結論)。  中日の主張通りならば、”Dルート”選択はいまからでも遅くない。

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リニア騒動の真相49「科学者たちの無責任」?

「データ不足」指摘が繰り返される  7月31日、静岡県庁で開かれた県中央新幹線環境保全連絡会議「地質構造・水資源専門部会」「生物多様性専門部会」合同会議で、第4回有識者会議(16日、国交省で開催)に提出されたJR東海の新資料などに対する各委員の疑問や意見を聞いていて、デジャビュ(既視感)ではないが、同じ場面を見ているような錯覚に襲われた。  今回、蔵治光一郎・東京大学大学院教授(森林水文学)が新たにウェブ参加、表流水、地下水の水源となる降水量について、JR東海の取り扱い方が許容範囲を超えているとして、「データ不足」を指摘した。過去の県専門部会でも、「データ不足」指摘がJR東海側に雨霰(あられ)のように降り注いでいた。蔵治教授同様に、別の専門家が加われば、その研究分野の知見からJR東海の資料は十分ではなくなり、新たなデータを求めるのが必然となる。同じ分野の科学者でも専門範囲は細分化され、その専門分野を追求すれば別の新たな疑問が生まれる。科学の追求は際限がない。  「リニア騒動の真相49」のタイトルを『科学者たちの無責任?』としたのは、合同会議に出席している科学者たちが「無責任」だと言っているのではない。ある委員の「リニア工事によって動植物は絶滅する」とびっくりするような発言を聞いていて、ずいぶん昔に書いた月刊文藝春秋『東海地震 科学者たちの無責任』(2001年10月号)の記事を思い出したからである。当時といまがそれほど違っているわけではない。  「東海地震」を知らない人はいないはずだったが、いつの間にか、東海地震は「南海トラフ地震」に吸収され、いまや公文書から「東海地震」の名称が消えた。若い人たちの間では、東海地震と言っても分からない人がいる。リニア南アルプストンネル建設地(静岡、長野、山梨約25㌔)が糸魚川静岡構造線、中央構造線が通る”世界最大級の断層地帯”にあるだけに、「水環境問題」「自然環境問題」だけでなく、リニアトンネル建設が活断層を刺激することで、大地震を誘発する恐れを指摘する声さえある。また、東海地震説の根拠となった、3百年以上前の宝永東海地震では、安倍川源流部の大谷崩など南アルプス地域の大崩壊をもたらした。もし、南海トラフ地震が起きれば、新たな大崩壊を誘発し、リニアそのものにも影響があることも否定はできない。地震と崩れは日本列島の宿命である。  『科学者たちの無責任』を書いたのは2001年9月。2021年は、2020東京オリンピック開催予定であり、ちょうど20年目を迎える。またぞろ、最近、大地震発生の”臭い”が報道されている。なぜ、当時、『科学者たちの無責任』と批判したのか? 「東海地震」説は否定されたのか?  2001年4月3日深夜、静岡市で震度5強を記録するM(マグニチュード)5・1の地震が発生した。その後、M4以上の地震が4回続いたため、気象庁は「東海地震とは無関係」の見解を示し、東海地震の兆候を否定した。  1854年11月4日、M8・4の安政東海地震が東海沖で発生、翌日には、南海沖でも同じM8・4の巨大地震が起きた。東海地震はプレートのひずみにたまったエネルギーが100年から150年の周期で跳ね上がるという「プレートテクトニクス理論」が根拠とされた。これまでの東海地震の間隔は、107年、102年、147年ごとに起こり、2001年は安政東海地震からちょうど147年目を迎えていた。1976年の東海地震説発表から25年も経過、いつ起きてもおかしくないとされた巨大地震への不安は高まっていた。  静岡県を中心に地震防災対策強化地域とされ、静岡県内では海底地震計など367カ所の地震観測体制が敷かれ、巨額な対策費用が投じられた。観測データに異常が見られると、気象庁は科学者による「判定会」を招集、内閣総理大臣を通じて警戒宣言が出される段取りだった。「判定会」模擬訓練は毎年9月1日の防災の日に大々的に報道されたが、実際の「判定会」が招集されることはなかった。  2001年9月当時、学会や研究会で東海地震の発生について、数多くの科学者が具体的な予測を発表していた。「2001年11月頃」(富山大学K教授)、「2002年暮れから2004年」(防災科学技術研究所M室長)、「2004・3年±0・8年」(東大大学院I助教授)などであり、東海地震説を唱えた石橋克彦氏は相模トラフによる小田原地震が起きたあと、東海地震発生のシナリオを主張していた。ご存じのように、いまに至っても東海地震の発生はない。  1905年東大地震学教室の今村明恒・助教授が、東京は50年以内に大地震に襲われると予測、早期に地震対策を取ることを主張した。その18年後に関東大震災が発生、死者約10万人という史上最悪の災害となった。「プレートテクトニクス理論」が確立されていなかった1928年、今村氏は、過去の地震活動を基に将来の地震活動もほぼ同じ場所で、ほぼ同じ周期で起きるとして、東海・南海の大地震活動を予測した。現在の南海トラフ地震説は今村氏の研究が出発点にある。  最近の報道は、南海トラフ地震の発生ではなく、関東大地震の震源となった相模トラフ地震が近いうちに起きるのではと騒がれている。死者約10万人という巨大地震が近いうちに繰り返されるのか? 原因不明の「異臭」が続く三浦半島地域  6月4日、三浦半島の横須賀市などで「ゴムが焼けるようなにおいがする」などの異臭騒ぎが起こり、約5百件もの苦情が消防署などに寄せられた。警察、消防で原因を調べたが、現在も不明のままで、7月17日にも同じような異臭騒ぎが起きた。この異臭騒ぎと相模トラフを結び付けたのは、立命館大学の高橋学教授(災害史、環境考古学)。高橋教授は「三浦半島周辺は活断層が非常に多く、活断層が動いたことで『異臭波』がつくられた可能性がある」と指摘、1995年の阪神淡路大震災でも少なくとも1カ月前から同様の異臭が複数回確認されたという。  2011年3月の東日本大震災以降、日本列島では地震が頻発、活動期に入っている。このため、今回の異臭騒ぎが大地震の前兆だとする科学者も高橋教授だけではない。ただし、2001年『科学者たちの無責任』で批判したように、もし、大地震を予測するのであれば、科学者はその良心に従って、即刻、2021東京オリンピックの中止を求めるべきである。世界中からアスリート、観光客が集まっている最中に大地震に見舞われれば、コロナ禍どころではなくなる。  2001年当時、5百万人以上の人出を予想した「しずおか国際園芸博覧会」が浜名湖の広大な埋め立て地で開催準備が進んでいた。大地震が起きれば、浜名湖周辺を大津波が襲い、園芸博を訪れるほとんどの人は亡くなる可能性が高かった。もし、科学者たちが自信を持って東海地震予測をするならば、園芸博中止を求めるべきだと書いた。  結局、科学者たちの予測はすべて外れた。つまり、予測には科学的根拠が欠けていただようだ。さて、リニア建設に対する科学者たちの予測はどれだけ信頼できるのか? 県との「対話」はいつまでも終わらない?  県は7月16日JR東海提出の水収支解析についての疑問点を詳細にまとめ、専門部会委員に対して、「事務局」提案をした。  1、「水収支解析によれば、中下流域の地下水は変化しない」という説明は適切ではない。2、トンネル湧水量の推定精度は検証が必要である。3、トンネル掘削による付近の河川流量への影響について、より詳細なデータ開示を求める。4、地下水位の大幅低下による生態系への影響を評価するためのデータを開示を求める、としている。  この提案は、16日の第4回有識者会議で、水文学の専門家らが「大井川の渇水時に取水制限したとしても中下流域の地下水は減っていない」「大井川下流域扇状地の地下水はそのほとんどは降水で涵養されている」などとして、JR東海提出のデータを基に、「中下流域の地下水への影響はない」という方向が会議でも大勢を占めたことに対するアンチテーゼ(反対の主張)と言える。  JR東海は環境影響評価(環境アセスメント)の手続きを行ってきた。環境アセスメントは出来るだけ影響を小さくするための手続きであり、一般的にはその手続きは通り一遍であり、すべてを網羅することはできない。  県は、「今後の進め方」として国の有識者会議と県の専門部会との関係を図で示した。有識者会議は「方向性」を提示し、国交省はJR東海に「方向性」を指導する。その指導を受けたJR東海はあらためて県専門部会で説明を行い、すべての疑問が解消された上で、環境アセス調査結果を踏まえた具体的な「施工計画」「環境保全の計画」「発生土置き場の管理計画」を提出する。続いて、県自然環境保全条例に基づく協定を結び、さらに、河川法に基づき県知事がトンネル工事を許可していくという段取りである。事務局「提案」を見れば分かるが、県リニア会議専門部会は国の有識者会議の「方向性」さえ容認していない。国交省はこの「方向性」でJR東海を指導できないわけだ。これでは、生物多様性の議論までにどれほどの時間が掛かるのか、全く見えてこない。  7月26日付『リニア騒動の真相48「ドーダの人、川勝平太」』を紹介した。川勝知事が「ドーダ、参ったか!」と、JR東海、国交省、自民党議員団らを前に静岡県の主張を堂々とするためには、中下流域市町の団結だけではなく、県専門部会の科学的な主張は欠かせない。  国有識者会議の科学者は解決のための「方向性」の議論を求められているが、県専門部会の目的はそうではないから、科学者たちの疑問点はさらに増えていくだろう。国の有識者会議の設置目的、県専門部会との関係が、県の作成した図式の通りであるならば、たとえ、リニア開業を2030年に延長したとしても、その実現が難しいことくらい関係者ならば誰でも分かるだろう。この議論は1年や2年で終わるはずもないからだ。  昨年10月の台風19号、ことし7月の豪雨の影響で準備工事さえ完全にストップしている。それにコロナ禍が追い打ちを掛け、リニアの必要性に疑問を投げ掛ける意見も多くなっている。そこに、巨大地震でも起きれば、東京オリンピックだけでなく、リニアにも決定的な打撃となる。「東海地震」同様に「科学者たちの無責任」を祈ったほうがいいのかどうか。

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リニア騒動の真相48『ドーダの人、川勝平太』

『私はリニア大推進論者だ』を理解するには?  今回の標題『ドーダの人』を少しだけ説明する。『ドーダ、ドーダ、わたしのいま言っていることはすごいことだ。ドーダ、参ったか!』。22日にウェブで開かれた自民党リニア特別委員会で、静岡県の川勝平太知事が、20年以上も前、小渕内閣時代、リニア計画に携わったキャリアを詳しく説明した上で、『私は一貫してリニア大推進論者だ』と大見えを切ったのだ。6月26日の金子慎JR東海社長、今月10日の国交省の藤田耕三事務次官との「対談」内容を見れば、川勝知事が『リニア大推進論者』と額面通りに受け取る人はいないだろう。「リニアには賛成」を何度も聞いたが、『リニア大推進論者』は初めてだった。これに対して、自民の国会議員たち誰ひとり、面と向かって「嘘つき」とも何とも言えなかった。つまり、川勝『ドーダすごいだろう』を論破できるはずもなく、内心では「参ってしまった」のかもしれない。  『ドーダ』を世の中に知らしめたのは、漫画家、東海林さだおとフランス文学者の鹿島茂である。2人のエッセーのファンであれば、『ドーダ』になじみがあるかもしれないが、一般的にはあまり知られていない。東海林が『もっとコロッケな日本語を』(文春文庫)で、『流行作家が銀座のクラブに行って、疲れ切った風に「おれ寝ていないんだ」とひと言、口にする。それが「ドーダすごいだろう」であり、その意味は、「おれ様は寝る時間もないくらいの超売れっ子だ。当然、おカネをいっぱい持っている」。「ドーダ」オーラを理解した上で、「大歓待しろ」となる。また、「ドーダ」自慢が仕事の源にもなる』などと紹介した。  東海林さだおの使った『ドーダ』を理論的に完成させたのが、鹿島茂。『ドーダの人、小林秀雄』『ドーダの人、森鴎外』(いずれも朝日新聞社出版)、『ドーダの人、西郷隆盛』(中公文庫)などで歴史上の有名人が、どのような『ドーダ』心を持ち、その仕事を成功に導いたのかを分析した。鹿島は『ドーダ』の1点を抑えておけば、コミュニケーションや表現行為のあらゆる意味は容易に解けてしまうと説明。『ドーダ』はまさに万能の心理分析のキーワードである。  『ドーダの人、小林秀雄』の副題は「わからなさの理由を求めて」。『ドーダ』という万能の心理分析を使えば、そのわからなさが少しだけ見えてくるという。  21日、川勝知事はJR東海が工事を求めている3つのヤード(西俣、千石、椹島の宿舎を備えた作業場)へ続く静岡市東俣林道が7月豪雨による通行止めとなった被災現場を視察した。その翌日には自民党のリニア特別委員会にウェブ参加して、国会議員からの事情聴取にのぞんだ。  21日の現地視察の囲み取材を聞けば、22日自民党会合後の川勝発言『リニア大推進論者だ』があまりにおかしいことが分かる。川勝知事の理解不能な表現行為を万能の心理分析『ドーダ』で見ていきたい。  7月豪雨災害の被災地に立って”宣言”した?  昨年10月の台風19号の被災によって、東俣林道沼平ゲートから約3・8㌔、4・1㌔の地点で林道が2カ所、崩れ落ちてしまい、大井川河原に約1・4㌔区間の河川内仮設道路が設けられた。金子社長との面会をする前、6月11日川勝知事は仮設道路から崩れ落ちた林道を視察した。リニア工事現場がいかに脆弱な地盤の場所かを記者らに説明した。それから1カ月もたたないうちに、河川内仮設道路が7月豪雨によって、冠水、流されてしまった。  7月豪雨の被害は、流された仮設道路だけでなく、そこから1時間以上も進んだ林道の一部が崩落、その被害が最も大きかった(※詳しくは『リニア騒動の真相47「解決」するのは誰か?』で紹介)。21日の知事視察は河川内仮設道路が流出した地点まででしか行くことはできない。当然、静岡市HPに写真がUPされているから、被災状況は十分に把握できた。ところが、急きょ、川勝知事は現地視察を決めたのだ。22日の自民党国会議員の聴取にそなえ、静岡県がヤード整備を認めない云々を問うのではなく、自然災害によって、JR東海の作業員すべてが避難して、工事どころの話ではないことを現地から強く訴えるのが目的だと思われた。  2027年リニア開業のためには6月中のヤード工事を求めた金子社長、その交渉が不調に終わると、今月10日、藤田次官は7月中にヤード工事を認めるよう国交省提案をした。国の事務方トップ提案を蹴った川勝知事は、被災現場で「JR東海の作業員すべてがヘリで救出された。現場を見てもらえれば工事ができるかどうかは一目瞭然。そんな状況の中でヤード工事を認めろは現実離れした机上の空論」などと訴えた。ここまではシナリオ通りだった。これで目的は十分果たしたと考えた。  ところが違っていた。この日は、許可の必要な林道視察への集合場所となった白樺荘で、川勝知事は県リニア環境保全連絡会議地質構造・水資源専門部会の森下祐一部会長(静岡大客員教授)と合流、昼食をともにした。地元大西屋のやまめのパピヨットや野生鹿肉の生姜焼きなど井川産の食材による特製弁当に舌鼓を打ちながら、森下部会長も参加する国の有識者会議の話題で盛り上がったようだ。  昼食後、河川内仮設道路が流された被災現場の前に立った川勝知事は突然、「リニアトンネル周辺の地下水位は3百m以上も低下する。有識者会議で明らかになった重大事であるから、南アルプスで工事をしてはならない」と宣言した。自然災害による工事用道路の被災状況ではなく、この日の現地確認とは全く無関係の話である。 生物多様性問題でリニア工事「ノー」とは?  「地下水位が3百m以上も低下する?」  知事の”爆弾発言”に一瞬、その意味を理解するのが不可能だった。16日に開かれた第4回有識者会議の議論は、中下流域の地下水への影響について、ほとんどの委員は「影響はほとんどない」とJR東海の主張に沿った合意が図られた。リニアトンネル周辺の地下水位の低下については、委員らの議論にはなかった。そもそも「地下水位の低下」は県生物多様性部会での議論であり、JR東海は、静岡市の南アルプス環境調査による解析結果を提示していた。地下水位の低下によって、沢枯れが起こり、水生生物などに大きな影響を与える可能性が指摘され、JR東海は専門委員の提言などを受けて、「代償措置」を行うなどという回答のまま、生物多様性専門部会は再開されていない。当時は地下水位50mのはずだった。  それが「3百mもの低下」となれば、トンネル建設地周辺の水生生物への影響は甚大である。しかし、だからと言って、「南アルプスの工事はしてはならない」という結論では、『リニア反対』となってしまうだろう。どんなトンネル工事でも、地下水位の低下を避けることはできない。だから、事業者はさまざまな方策を取るのがふつうであり、JR東海もそのような主張を続けてきた。「62万人の生命の問題」という中下流域の「利水」ではなく、南アルプスエコパークの「生物多様性」が失われるかどうかの問題である。南アルプスエコパークを管理する静岡市と連携して、対応しなければならない。そのような疑問をそのまま知事に投げ掛けたが、「生物多様性」問題で肝心の静岡市と連携するという答えは知事の頭にないようだ。  生物多様性についての議論は有識者会議でも行われる。水環境問題の方向性が決まったあと、メンバーが入れ替わるはずだ。その上で議論が始まるだろうが、川勝知事は「南アルプスのトンネル工事を行うべきではない」と発言した。翌日の毎日新聞は「生態系に大きな影響」という見出しで知事発言を大きく取り扱った。この記事を読めば、『リニア反対』と考えるのがふつうである。ところが、単に川勝『ドーダ』発言と考えれば、『リニア反対』ではない。翌日の『リニア大推進論者』発言と同様である。  視察後、第4回有識者会議資料を確認すると、JR東海が実施した水収支解析の中に、「地下水位(計算上)予測値の低下量」があり、「トンネル周辺の山の尾根部であり、局所的に300m以上低下する結果となっている」という初めての予測値を示していた。静岡市の予測値と違うのは、解析モデルが違うためらしいが、「局所」とはどの辺りを指し、どのような影響が考えられるか、JR東海から説明を受けなければ、この低下量がどのような意味を持つのか理解できない。  21日の知事”爆弾発言”「3百m以上の地下水位低下だから工事をしてはならない」が、翌日の自民党リニア特別委員会に提起されるかどうか、『リニア反対』派から大きな注目を集めてしまった。 リニア反対派も大喜びの知事”爆弾発言”  21日の現地視察では、県のバスがJR静岡駅に用意された。12人乗りのマイクロバスには、県職員2人、メディア4人が乗り込んだ。東京からフリーのY記者、名古屋から赤旗記者(もう1人は不知)の2人は『リニア反対』派である。赤旗記者の大きなトランクとパソコン、カメラなどの入った2つの手荷物だけでも2人掛けの座席を占領した。大きなトランクにはヘルメット、長靴などの重装備が入っているとのこと、『リニア反対』派にとって、知事視察がいかに重要な取材かが分かるのだ。  初めての知事視察同行で、”爆弾発言”も飛び出したから、『リニア反対』派には大収穫だったかもしれない。Y記者は知事視察だけでなく、一泊して22日の知事会見にも出席した。「コロナによる社会状況の変化でリニアの必要性が過去とは違う」「3百m以上の地下水位低下によって生態系に大影響を及ぼす。南アルプスでの工事を行うべきではない」の2点を自民会合で発言したかどうかストレートに投げ掛けた。当然、『リニア大推進論者』の『ドーダ』発言をした川勝知事が、「コロナ後の変化」や「3百mの地下水位低下」など余分な話をするはずもなく、Y記者に「鋭い良い質問だ」とお褒め『ドーダ』で返した。  「国の有識者会議の結論に従いたい」という川勝知事発言について、自民リニア特別委員会委員長の古谷圭司議員(岐阜5区選出)は、「知事発言の意義は非常に大きい」と高く評価したが、単に川勝『ドーダ』を理解していなかっただけである。すべては川勝『ドーダ』の世界である。  川勝『ドーダ』のもう一つの特徴は『環南アルプスエメラルドネックレス構想』、『文化力の拠点』など新たなネーミングで周囲を煙に巻くことである。また『万機公論に決すべし』は大体、どんなときでも使っている。『ドーダ』を使い、川勝知事はリニア問題をどのような解決に導くのか?川勝『ドーダ』はメディア戦略も兼ねるが、果たして、仕事の成功に結び付くのか、いまのところ、全く見えない。 ※タイトル写真は、川勝『ドーダ』が炸裂した東俣林道下の河川内道路被災現場での知事会見

ニュースの真相

リニア騒動の真相47「解決」図るのは誰か?

「地下水に影響なし」ー地元は認めるか?  JR東海はこれまで、県環境保全連絡会議地質構造・水資源専門部会で「地下約4百㍍に建設される南アルプストンネル(約8・9キロ)は、約100キロも離れた中下流域の地下水に影響を及ぼす恐れはない」と何度も説明してきた。大規模な土木事業は数多くあるが、100キロも離れた地下水への影響が問題になったことは一度もない。それでも、JR東海の主張に対して、県専門部会では反論、紛糾し、議論は進まなかった。  本サイトでも、3月22日付リニア騒動の真相35『「ブラックスワン」が起きる』、6月7日付リニア騒動の真相41『「県益」考えた対応を!』などで、客観的に見れば、JR東海の主張が正しいことを繰り返し伝えた。約100キロ離れた河川上流部の水の変化が中下流域の地下水にどのような影響を及ぼすのかは、科学的な常識を超えた疑問であり、水循環に携わる水文学専門家の研究対象にはならない。  第4回有識者会議が16日、国交省で開かれ、沖大幹東大教授(水文学)、徳永朋祥東大教授(地下水学)、大東憲二大同大教授(環境地盤工学)から「中下流域の地下水影響はほとんどない」などの意見が出された。「大井川の渇水時に取水制限したとしても中下流域の地下水は減っていない」「大井川下流域扇状地の地下水はそのほとんどは降水で涵養されている」など、JR東海提出のデータを科学者の知見が裏付け、会議でも大勢を占めた。県専門部会委員の丸井敦尚・産業技術総合研究所プロジェクトリーダー(地下水学)も今回はJR東海の主張を認めたが、森下祐一・静大客員教授(地球環境科学)は、トンネル掘削による上流域と中下流域の河川表流水と地下水の関係性を示す指標データを出すようにあらためて求めた。JR東海は指標データの分析、調査を行い、いずれ会議に提出する、という。これで、有識者会議の結論「中下流域の地下水への影響はない」が合意され、JR東海としてはこれまでの主張が科学的に担保されることでひと安心だろう。  ただし、科学的な議論がどこまで尽くされたとしても、『ブラックスワン』(東日本大震災による福島第一原発事故など自然災害で極端に確率が低い予想外のことが起こり、それが大きな波及効果をもたらす現象)が起きる可能性まで否定できない。もし万が一、予期せぬ何かが起きたらどうなのか?それが流域10市町の不安でもあり、だからこそ、県は有識者会議がまとめる結論をすんなりとは認めないだろう。 「ヤード工事認めない」見解を市町も共有  16日の有識者会議後、福岡捷二座長(中央大学研究開発機構教授)、江口秀二審議官の記者会見で、JR東海が求めている「ヤード(椹島、千石、西俣の宿舎を含む作業場)工事」について記者の質問が続いた。「ヤード工事」については、県と国の間で一応の結論が出ている。もし、疑問があるとしたら、自然環境保全条例の運用、解釈を変えた県に質問するしかない。国の”力”で県の姿勢を変えることができるかのような勘違いが見られ、「ヤード工事」の是非を有識者会議のテーマにしたらどうかなど突飛な意見が出ていた。  6月26日金子慎JR東海社長の「対談」、7月10日国交省の藤田耕三事務次官の「対談」とも、川勝知事に「ヤード工事」を認めてもらうのが目的だった。条例を根拠に「ヤード工事」を認めないという県に対して、JR東海は条例の根拠を2度、照会、結局、県の回答に納得できないJR東海に代わって、国交省事務方トップの藤田次官が知事との”談判”にのぞんだ。「流域市町の理解が得られない」など川勝知事が拒否すると、藤田次官は「直接、流域市町に説明したい」と切り返した。国が流域市町を説得、県の姿勢を変える取り組みをしたいかのような発言に聞こえた。  県は17日、流域10市町長すべてが国の個別訪問を受け入れる意向を発表した。同時に、「ヤード工事」に関する国の提案に対して、提案を退けた「県の見解」を県中央新幹線対策本部長(難波喬司副知事)名でまとめた。「具体的にどういう懸念があるのか、未来永劫変えられないのか」など藤田次官の疑問について、詳細に回答している。県条例の新たな運用、解釈について、藤田次官自身が自治体の裁量として認めているのだから、県の考えがそのまま10市町の共有する「見解」になるのだろう。  今後、江口審議官が各市町を訪問しても、「ヤード整備」に対する市町の姿勢を変えることはできない。結果的に「中下流域の地下水への影響はほとんどない」という有識者会議での”中間結果”を説明して、江口審議官は水環境問題への理解を求めるくらいが関の山だろう。  藤田次官との「対談」後、14日の記者会見で川勝知事は「事務次官に頭を下げる必要はない。ヤード整備についての話は2分で済んだが、30分以上掛け、条例の適用変更について述べた。(次官の姿勢は)変更しろという命令。一種独特の体質を感じた」など国に反発する厳しい意見を述べ、「(国の主導する)有識者会議での解決は難しい」と県の姿勢を明確に示した。  「リニア問題解決を川勝知事に一任」で10市町長は一致しているから、「水問題の重要性をJR東海は理解すべき」「利水者の声をJR東海に伝えてほしい」など前回同様の意見が各首長から出されるだろう。 「被災現場」視察する知事の狙いは?  川勝知事は21日、七月豪雨で大きな被害を受けた東俣林道を視察する。視察と言っても、スケジュールでは沼平ゲートから約3・8キロの地点まで行ったところで、昨年10月の台風19号被害で一部欠損、崩落した約1・4キロ区間の「東俣林道河川内道路」入り口が目的地。今回の豪雨で「河川内道路」は水没したままであり、その先に進むことはできないからだ。そこで午後12時50分から10分間、被災状況の説明を受ける予定。   最も大きな被害に遭ったのは、ゲートから約18・2キロ先の崩落した道路(※タイトル写真=静岡市提供)であり、市担当者が現地調査に向かうのは、「河川内道路」の水が引き、使えるようになってからで、7月いっぱいは無理だろう。現地調査を終えたあと、災害復旧計画を立て、予算査定などに入り、実際の工事に入るまでに4カ月以上掛かる可能性がある。知事の視察現場と違い、今回の崩落道路に「河川内道路」はつくれない。応急工事でどこまで通行可能となるのか、JR東海にとっては厳しい状態が続く。  そんな状態の中で、知事視察の狙いはどこにあるのか?  金子社長は「ヤード整備」について、6月中に認めてもらえなければ、2027年リニア開業は困難という見解を示した。その後、県庁を訪れた藤田次官は7月中に認めてもらえるよう要請した。しかし、7月豪雨の影響で林道がずたずたとなり、復旧の見通しもつかない中で、「ヤード工事をやらせてほしいは机上の空論に等しい」(川勝知事)。南アルプスの極めて過酷な工事現場を多くの人に知ってもらうのによい機会なのだろう。県の対応に批判的な自民党超電導リニア特別委員会、中部経済連合会宛に今回の視察案内を送った。  第4回有識者会議でJR東海は大井川流域の基本的理解を深める目的で「大井川流域の現状(素案)」を委員に示した。江口審議官は「大井川の現況が一体どうなっているのか、非常にわかりやすい資料」と述べた。ただ、文字や写真で現況を確認するのと実際の大井川上流部の自然の過酷さを肌で感じるのとは「大違い」である。  今回の有識者会議はウエブではなく、初めて委員全員が一堂に会して、議論した。福岡座長は「顔と顔を突き合わせて、意見交換することでお互いに理解が深まった」などと話した。その「違い」と似ているだろう。 昨年より「糸のもつれ」はひどくなった  昨年10月の台風19号の被害、今回の7月豪雨による被害などを経験、昨年からことしに掛けてどれだけリニア工事が進捗したのか、気になるところだ。ちょうど昨年のいまごろ、「リニア2027年開業に暗雲 工事認めない静岡県の狙い」(週刊東洋経済7月6日号)、「リニア中央新幹線トンネル工事にストップをかける静岡県」(週刊新潮7月18日号)、「リニア建設を阻む静岡県ー川勝知事の『禅問答』がもたらす、これだけの弊害」(ITmediaビジネス、7月23日)など、週刊誌、ネットメディアで南アルプストンネル着工に「待った」を掛ける川勝知事への批判が続いた。  週刊東洋経済7月6日号(1日発行)は、『「JR東海に媚びを売る必要はない」「(工事の遅れを)静岡県のせいにするのは失礼千万だ」―。6月11日に行われた静岡県の定例会見で、川勝平太知事はJR東海への厳しい批判を繰り返した』で始まる。出だしを読んだけでも、1年前の記事とは思えないほど、いま現在の状況と似ている。  『リニアの建設工事に合意する見返りとして、JR東海に空港の新駅建設をのませようとしていると考えれば、川勝知事の発言にも合点がいく』『沿線の静岡市や浜松市は(「ひかり」の)停車本数の増加を強く訴えており、県としては、こうした声を無視できない』など、静岡県が見返りを求めているのだと指摘した。果たしてそうなのかどうかは分からないが、県民の多くがJR東海に不満を持っていることは確かだ。  『今の膠着状態が続くと、JR東海が進めるリニアプロジェクトの2027年開業は難しくなる。(中略)最終的にはお互いが歩み寄り、決着を図るしかない。しかし、その糸口はまだ見えていない』と締め括っていた。  『お互いに歩み寄る』どころか、JR東海が国を前面に立てて、自分の主張をすれば、県は新たな問題を提起して、ハードルを高くしてくる。「中下流域の地下水の影響」議論が浮上したのは、昨年10月静岡県が問題提起したからだ。「ヤード整備」について認めないという姿勢も、県が最近、条例の運用、解釈を変えた。つまり、「解決の糸口」どころか、「糸のもつれ」はひどくなる一方である。被災現場の知事視察も、別の狙いがあるのかもしれない。  県が何らかの異論を唱えるパターンが繰り返され、解決の糸口は全く見えない。解決を図りたいならば、JR東海は歩み寄る姿勢を見せなければならない。「糸のもつれ」をこれ以上、ひどくしては、手がつけられなくなる。1年前の「暗雲」どころかいまや、「豪雨」に見舞われ、リニアの必要性まで問われる。1年後の記事はどうなっているのか?

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リニア騒動の真相46国交省「情報戦」に完敗

昨年と同じパターンの藤田事務次官訪問  10日午後5時2分前、静岡県庁5階の知事室前に国交省の藤田耕三事務次官、水嶋智鉄道局長らが到着した。昨年10月24日以来、藤田次官は川勝平太知事と2度目の対談にのぞむために来静した。定刻で対談を始めるのにピッタリの到着だった。その後の「対談」の中身とともに、藤田次官らのあまりにも律儀な到着時間などを見ていて、まてよ、昨年と全く同じパターンではないか、と気がついた。  まず1点目は「官邸の指示」である。昨年10月、藤田次官訪問の数日前に葛西敬之JR東海名誉会長は安倍晋三首相と面会、「リニア工事の静岡県での早期着工に向けて政府の積極的な関与」などを求めたという。その要請にこたえ、事務方トップの藤田次官が乗り出したというわけだ。結局、藤田次官の積極的な関与は奏効しなかったが、今回も1週間前、葛西会長は東京・赤坂で安倍首相と約2時間、会食、そこで静岡県のリニア問題がテーマになったのは間違いない。県自然環境保全条例を根拠にストップを掛けるヤード(宿舎を含む作業場)工事について、藤田次官が川勝知事に”談判”して、何とかしろというのが官邸の指示ではなかったか。  6月26日、金子慎JR東海社長が川勝知事に面会して、ヤード工事についてトンネル本体工事と切り離して認めるよう”懇願”した。川勝知事の県条例、保全協定の説明が言葉足らずで、金子社長に一縷(る)の期待を抱かせ、JR東海はあらためて文書で照会した。この照会について難波喬司副知事が3日、県条例の解釈、運用でヤード整備はトンネル本体の一部であると回答した。JR東海は昨年5月県担当者から受けた説明と違うため納得できないなど、その夜、再度確認を求める文書を提出した。  葛西会長は静岡県の姿勢が変わらないと見て、安倍首相に応援を求めたのだろう。まずは、担当の国交省が対応するのが筋であり、藤田次官の再度の出番となった。しかし、藤田次官の”談判”も金子社長の”懇願”同様に川勝知事に軽くいなされ、静岡県の厚い壁に跳ね返されてしまった。  7月中の「次官退任」の話題が出てしまえば、”談判”も迫力に欠ける。今回も官邸の期待にこたえられなかった。 「要らぬ手間」ばかり増やす国交省  昨年の同じパターン2点目は、国交省は「要らぬ手間を増やしたこと」である。  昨年10月の訪問で、膠着状態の打開を目指した藤田次官は、国が主導する静岡県、JR東海との「新たな三者協議の場」設立を提案した。この提案を了承する代わりに、川勝知事は、口頭で「国は静岡県の中間意見書、JR東海からの回答に対する見解を文書で示してほしい」と要請。このあと、10月31日の三者会議で協議されるはずだった国交省作成の合意文書案が、前日夜、地元テレビにスクープされた。31日の会議は公文書管理で紛糾、国交省から県担当者が厳しく批判されたことで知事は硬化してしまう。  川勝知事は12月末、国交省主導の「三者協議の場」に「環境省など関係省庁すべての参画」と「静岡県とJR東海との対話の内容について評価」の2点を文書で要請した。その結果、国交省はことし1月、静岡県の2つの要請を拒否するかわりに、水環境などの専門家による「新たな有識者会議」設置を提案した。その有識者会議設立でもごたごたは続いたが、その後6月までにようやく「有識者会議」は3度開催された。議論は始まったばかりで、結論を得るまでに遠い道のりだけが見える。また、次官提案の「三者協議の場」がどうなってしまったのか明らかでない。  今回のヤード整備について、国交省提案は「JR東海はトンネル本体工事に着手しないので県は認めてほしい」だった。新たな内容を全く含んでおらず、「ヤード工事をさせてほしい」金子社長の”懇願”を国交省が整理、担保しただけのものだった。「流域市町の理解が得られない」など川勝知事が提案を拒否すると、藤田次官は「直接、流域市町に説明したい」などと述べた。また「要らぬ手間」が増えただけである。  昨年の藤田次官訪問のあと、江口秀二審議官が大井川流域の10市町長と静岡市長に面会して、今後、リニア問題に国が関与していくことで理解を求めた。川勝知事は江口審議官の面会について「地元の理解と協力を確実に得ることを国が初めて実践している」など褒め称えた。この面会ではっきりとしたのは、「リニア問題解決を川勝知事に一任」だった。今後、ヤード整備について国が各市町長に理解を求めたとしても、当然、結果は同じだろう。また同じことを繰り返すのか?  昨年10月の次官訪問後、一見、国交省はさまざまな取り組みを行い、静岡県のリニア問題解決に苦労しているように見えるが、あまりに無駄が多く、膠着状態打開につながっていない。 「対談」に川勝知事は十分な準備をした  昨年の訪問と同じパターン3点目は「対談に対して全く準備をしていない」ことである。  昨年10月24日の藤田次官訪問の際、静岡県は10月12日から13日の台風19号による東俣林道や西俣ヤードの大きな被害について、写真等で詳しく説明した。現地がいかに困難な場所か藤田次官らはうなづくしかなかった。今回の訪問前、6月30日から続く大雨で被害が出ていた。知事の机には付箋のついた新聞が積まれ、一番上に「豪雨で作業用道路崩落」の大見出しのついた10日付静岡新聞朝刊があった。川勝知事は「崩土や冠水など4カ所の被害を確認し、そのうち1カ所は路肩が崩落して復旧に数カ月間かかる」「千石ヤードの作業員用宿舎の水道施設が使えない」を読み上げて、その被害の深刻さを説明した。  静岡市が10日、被害状況を発表した。大雨が続き、担当者が現地調査できるのは来週の13日以降であり、静岡新聞記事の「路肩が崩落して復旧に数カ月かかる」には、「路肩欠損により幅員減少、規模及び復旧の見込みは調査ができないため不明」と発表した。まだわからないのだ。今回の大雨ではいまのところ、台風19号のような「路肩崩落」もなく、静岡新聞記事は台風19号被害と今回の大雨をごちゃまぜに書いたようだ。大雨被害が安全確保の観点で最も重要な話題の一つだった。藤田次官は同日午前に金子社長と面会しているのだから、新聞情報以上の詳しい情報を頭に入れて、”談判”にのぞむべきだった。  今回の「対談」で、川勝知事は「県自然環境保全条例では委員会を設けて、専門部会で許可する。条例について金子社長はご存じなかった」などと述べた。知事の勘違いは、金子社長との対談でも同じだったが、藤田次官はこの点についてそのまま聞き流した。県条例では、委員会を設けることも専門部会で許可することもない。  静岡県は最近になって、自然環境保全条例の解釈、運用を変えてしまったから、川勝知事が勘違いする原因となったのだろう。藤田次官は静岡県の解釈、運用に問題なしとしたが、知事の勘違いを追及することで、政治家の知事から何らかの言質を取ることはできたのかもしれない。ヤード整備を認めさせるためにエリート事務官僚ができるのは法的根拠を追及するくらいしかない。金子社長「対談」のとき同様に、知事が勘違い発言をした場合、どのように対応すべきか準備しなかったのだろうか。 「ルート変更」を話題にした意図は?  今回の「対談」で、川勝知事は県議会委員会で「ルート変更」の議論が出たことなどを紹介、「リニアが他の公益を阻害するならば、う回したらどうか?」とまで話した。藤田次官の心中は穏やかではなかっただろう。  6日に開かれた県議会くらし・環境委員会はメンバー変更に伴い、新たに委員となった県議が質問に立ち、「JR東海にルート変更してもらったらどうか」などと述べるなど、これまでリニア問題に全く関心の薄かったことをうかがわせた。昨年9月5日、川勝知事が吉田町で開かれた会合などでJR東海にルート変更をうながすような発言をしたため、20日に開かれた県議会本会議の代表質問で「ルート変更」について知事の姿勢が問われた。川勝知事は「JR東海と対話を続けている最中にルート変更を働き掛ける考えはない」とはっきりと述べている。その後の記者会見でも、「ルート変更」について否定した上で、「ちゃんと議論してほしい、急がば回れ」の意味などとしている。  その他の県議が「金子社長はリニアは新幹線のバイパス機能を持ち、災害リスク上重要だと述べたが、南アルプスは年間4ミリ、10年間で4センチも隆起する非常に危険な地域であり、大問題ではないか」「JR東海は静岡県内で垂直ボーリングを行っておらず、危険な断層の調査が不十分ではないか」などの質問が出ている。  県議たちが正確な情報を得ていないのは、JR東海が情報提供の努力をしていないからなのだろう。3日難波副知事は回答に際して、約1時間半も掛けて詳しい説明を記者たちに行った。同日夜、JR東海からの再質問に対して、県は7日、再回答した。時間を掛けて記者会見を行い、担当理事は「県民に理解できる形で対話を進めることが一番の近道」と述べた。JR東海は、県が昨年5月の説明と違い、今回突然に条例の運用、解釈を変えたという肝となる主張について、単に文書が出されただけである。県が何度も記者会見を行い、詳しく説明するのと大違いである。  「多くの県民に情報を伝える」県議、記者たちがちゃんとJR東海から説明を受けていれば、今回の条例の運用、解釈、ヤード工事の是非の判断も違っていたのかもしれない。  7日の記者会見で浜松商工会議所会頭は「JR東海は具体的な地元貢献策を示さないで、自分たちの都合ばかりを言う」「リニア開業に間に合わないのは(静岡県に)関係ない」などと苦言を呈した。また、12日付毎日新聞社説は「リニア開業延期見通し 計画ありきの姿勢脱皮を」もまさに同じ意見を述べるとともに、藤田次官の知事訪問、提案について拙速な対応と批判した。つまり、「県民に理解できる」提案ではなかったのだ。  対談後の次官会見で、いまだに静岡県が求める有識者会議「全面公開」について記者から質問が出た。国交省の説明がわかりにくいからだろう。それで川勝知事は「約束を守らない」「詭弁を使う」などと批判、その映像を多くの人たちが見て納得してしまう。川勝知事は金子社長の対談でも使った「万機公論に決すべし(国家の政治は世論に従って決定せよ)」を藤田次官にも投げ掛けた。世論を味方につけるために、国交省、JR東海は何をすべきか? ※タイトル写真は、今回の大雨で冠水した赤崩前の東俣林道(東海フォレスト提供)

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リニア騒動の真相45「闘い」は正々堂々とやるべき

難波発言の信ぴょう性を疑う  「昨年6月13日の現地視察によって、(川勝平太)知事は(5㌶以上の静岡県自然環境保全条例に基づく自然環境保全協定締結が必要な)ヤード(宿舎を含む作業基地)工事が本体工事であることを確認した」。静岡県は3日午前、川勝知事、金子社長との対談内容に疑問を抱いたJR東海からの照会に対して、「(椹島、千石、西俣の3)ヤード整備はトンネル本体工事の一部であり、認められない」という回答書を提出した。同日午後、難波喬司副知事は記者会見を行い、昨年6月時点で「JR東海が求めている3ヤードの準備工事はトンネル掘削工事の一部」と川勝知事は認識、今回の対談で唐突に県自然環境保全協定を持ち出したわけではないことを明らかにした。  県担当理事によると、昨年5月31日大井川水利調整協議会が県庁で開かれ、「なし崩しにトンネル工事に入ることがないように釘を刺された」ことで、川勝知事は現地視察でヤード工事の現地を見るのが大きな目的の一つとなったという。  本当にそうだったのか?  昨年の現地視察2日前、6月11日の会見で川勝知事は2011年5月以来、8年ぶり2度目の現地視察について、①現場で安全に工事がなされているのか、②自然生態系に対する破壊が進んでいないか、③JR東海が整備している林道や建築物が将来の観光に生かせるのかの3点を視察の目的に挙げた。  13日現地視察では、椹島ヤード、千石非常口トンネル予定地に続いて、千石ヤードの宿舎建設予定地で囲み取材を行った。その前後で、川勝知事は今回問題になっている沈砂池、濁水処理設備、工事用道路トンネル坑口などの準備工事予定地を見学してはいない。囲み取材を終えるとすぐに、知事一行のみが報道陣とは別に西俣ヤードを視察するため慌てて出発した。千石ヤードでは今回、JR東海が申請する準備工事予定地を川勝知事は現地で確認しなかった。難波発言は額面通りに正しいとは言えない。  その後28日の会見で、川勝知事は現地視察を振り返って強く印象に残った2点を挙げて、①所有者の特種東海が全く手に負えない「赤崩れ」の山地崩壊のすざまじさ、②県公用車がパンクしたことを踏まえ、作業の安全に関わる林道整備の重要性などを詳しく述べた。作業の安全確保に関係して、JR東海による市道閑蔵線トンネル整備の必要性にも言及した。しかし、昨年視察後の会見で、「大きな目的だった」県自然環境保全条例に関わるヤード整備についてひと言も触れなかった。ことし6月11日の知事視察後の囲み取材でも昨年印象に残った①、②に触れたが、県自然環境保全条例について全く触れていない。川勝知事が県条例を口にしたのは金子社長との「対談」が初めてである。  これで果たして、川勝知事は昨年6月の時点で県自然環境保全条例の協定締結を念頭に現地視察をしたと言えるのか? 「なし崩し」を拒否できる県の許可権限  昨年7月24日、金子社長は「5月20日に申請をした静岡県の許可が非常に遅れている。これでは準備工事に入れない」などと発言した。この席で、準備工事には地権者の同意が必要であることを明らかにした。当時、金子社長が問題にした準備工事とは、千石ヤード宿舎整備を指している。  JR東海は千石ヤード整備に入るに当たって、大井川左岸から右岸を飛び越えて電線を引く必要があり、静岡県から河川法の占用許可を得なければならなかった。このため、5月20日にJR東海は占用許可申請を提出したのだが、標準審査期間の28日を過ぎ、2カ月以上たっても許可が下りていないことに金子社長が不満を述べた。その2日後、26日の知事会見で中日記者が、その件を問いただした。担当局長は、JR東海の申請が準備工事か本体工事なのかを慎重に精査している旨を述べた。それから3週間後の8月13日、県はJR東海から申請のあった河川占用を許可した。  県は、千石ヤードと西俣ヤードを結ぶ約4㌔の工事用トンネルをトンネル本体工事の一部に位置付け、掘削を認めない方針をJR東海に告げた。この結果、千石ヤード工事で必要な957kW供給できる電線架設を認めたが、工事用トンネル掘削で必要な1400kWの電線架設は認めなかった。水環境問題をテーマとする県中央新幹線環境保全連絡会議での協議を行い、「施工計画」「環境保全計画書」などを了解した上で本体工事に必要な許可を出すことになった。つまり、JR東海は「なし崩し」でトンネル本体工事へ一歩も進めないのだ。  昨年5月31日に開かれた大井川水利調整協議会は、20日にJR東海から河川法の申請があったため、それに関する意見を聞くことが目的だったのだろう。「なし崩し」云々は出たかもしれないが、県は河川法の許可権限でトンネル本体工事をストップできることを説明したに違いない。県自然環境保全条例で利水者の意見聴取をする必要性は全くないのだ。  昨年7月26日の会見で、ヤード整備について特種東海の同意が必要であることに関して、中日記者は知事の見解を求めた。結局、川勝知事は質問をはぐらかせて答えなかった。今回、県自然環境保全協定を結ぶのに当たって、当然、地権者の特種東海の同意は必要だが、利水者でもある特種東海は県の承認をJR東海が得ることを求めている。この経緯については、『リニア騒動の真相42雨中の「こんにゃく問答」対決』『リニア騒動の真相43「正直」こそ最善の戦略』を参照ください。  河川法の許可権限で「なし崩し」など到底できないことが分かっていて、さらに県が自然環境保全条例でヤード整備をストップする理由は全くわからない。 県の行政判断はあまりに一方的だ   6月26日金子社長との「対談」で、川勝知事は「県自然環境保全条例で5㌶以上であれば、自動的に委員会にかけて許可、不許可が決まる。県の権限はこれだけである」、その後の囲み取材でも「ヤード工事は明確にトンネル工事ではない。(県自然環境保全)条例を締結すれば、問題ない。条例に基づいてやっているので、協定を結べば、活動拠点を整備するのであればそれはよろしいと思う」などと述べている。  これらの知事発言を聞いて、金子社長だけでなく、JR東海関係者はヤード整備で川勝知事の了解が得られたと受け止めた。しかし、その後、事務方の説明を経て、2度目の囲み取材で、川勝知事ははっきりと準備工事は本体工事の一部であり認められないと断言した。JR東海は29日、「対談で知事は5㌶以上であれば協定締結の可否によって判断すると述べた。速やかに協定締結の準備を整え、ヤード整備に入りたい。もし、それが困難であること及びその理由についてうかがう」旨の書面を難波副知事宛に提出した。  難波副知事の回答は、「ヤード工事はトンネル掘削工事の一部である」という行政判断をしたという一方的な解釈を示した。このため、JR東海は3日、「条例の目的に照らして正当なものではなく、これまで担当課から説明を受けて準備を進めていたこととは違う」と不満を述べた上で、「変更した経緯と理由について明らかにしてほしい」旨を可能な限り早期で回答するよう求めた。  JR東海は県からすでに条例に基づいた「協定書案」まで示されていた。今回の新たな対応に、JR東海は文書に「戸惑っている」と書く通り、県は従来の姿勢を大きく変えたのだ。わたしの認識もJR東海と同じであり、もう一度、昨年来担当している自然保護課職員に取材しようとしたが、”多忙だ”と断られた。市川敏之くらし・環境部長は「いまになって考えを変えたわけではない。昨年と同じ」と回答した。難波副知事は、一つの開発行為を分割して順次認めた場合、「条例の趣旨が崩壊する」とまで述べたが、そもそも県条例はヤード整備に限定していたはずである。  果たして、どちらの主張が正しいのだろうか? お隣の山梨県自然環境保全条例は?  環境省所管の原生自然環境保全地域、自然環境保全地域に準ずる地域として、各都道府県は自然環境保全条例の地域指定している。地種区分では開発の可能な地域。静岡県条例の第1条で「生物の多様性の確保その他の自然環境の適正な保全を総合的に推進する」を目的とし、地域内の動植物の保全などを求めている。お隣の山梨県自然環境保全条例でも、「生物の多様性の確保その他の良好な自然環境の保全」が目的で、開発に対して動植物の保全措置を取ることなどを条件に協定書を結ぶなど同じである。  昨年5月、JR東海に示した「協定書案」では、トンネル坑口、濁水処理施設などの1・75㌶内のレッドデータブックに記載された動植物の保全措置を取ることでヤード整備は問題ないとするのが従来の県の姿勢だった。  ところが、今回の「対談」後に、県はトンネル掘削による河川への影響を議論している県リニア環境保全連絡会議生物多様性専門部会の結論を得ることまで求めている。  県リニア連絡会議設置は、国のリニア環境影響評価書に基づく知事意見で、大井川の河川環境に重大な影響を与えることを危惧するための対応であり、トンネル本体工事、導水路トンネル、輸送用トンネルなど水環境に影響を及ぼす恐れのある工事に対して利水者らの不安解消をJR東海に求めている。生物多様性専門部会で主に議論になっているのは、絶滅危惧種ヤマトイワナなど水生生物をテーマにしているのはこのためである。  自然環境保全条例の範囲が、県が従来の考えを変えてトンネル掘削工事すべてを含めることが適当か、少なくとも同じリニア工事を抱える山梨県あるいは環境省の意見を聞くべきではないか。いくら自治体に裁量があるとは言え、案件によって対応を変えるのはいかがなものか。  山梨県議会は3日、静岡県との対立でリニア整備の遅れについて「国が前面に立って課題解決に取り組むべきだ」という意見書を可決した。開業遅れが山梨県へ与える影響が大きいとしている。  南アルプスは本州に分布するコウモリのほとんどが生息する、コウモリ類多様性の高い地域。ヒメホオヒゲコウモリ、ニホンウサギコウモリ、キクガシラコウモリ(SARSの媒介動物とされる)、モモジロウコウモリなど準絶滅危惧種が生息しているが、その分布は正確にはわかっていない。南アルプスエコパーク保全が重要となれば、それらコウモリ類について正確に調べなければならない。生物多様性をとことんやれば果てしない。「環境」を優先すれば、「リニア」はあきらめるしかなくなるだろう。  「対談」とその後の知事会見を見れば、川勝知事が県自然環境保全条例を正確に理解していたとは言えない。そのために言い訳を糊塗するような「嘘」が出てきてしまう。川勝知事は『「嘘つきは泥棒の始まり」であり、公務員は絶対に嘘をついてはいけない」と何度も述べてきた。「闘い」は正々堂々とやるべきであり、なぜ、こんなところにこだわるのかさっぱり分からない。  ※タイトル写真は3日の副知事会見。記者たちは肝心のJR東海の疑問について理解していなかったようだ

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リニア騒動の真相44 川勝×金子対談の「裏側」

キツネにつままれた「対談」成果  静岡県庁にこれほどの数のマスコミが集まるのは本当に珍しい。本館玄関前に到着する金子慎JR東海社長を川勝平太知事が出迎えた。撮影等の場所を規制するなどメディア対応に県は職員を総動員していた。先週16日の大井川流域10市町とのウエブ会議で県の結論は決まっていたはずだが、金子社長は26日、一縷(る)の望みを掛けて「ヤード整備」への了解を求めて対談にのぞんだ。県庁2階まで階段を上ると、川勝知事に促されて、金子社長は立ち止まり、しばらく何か上のほうを見ていた(※タイトル写真)。この間に県職員が規制線の位置を変えると、2人はカメラのほうに振り返った。まぶしいカメラの放列が続いたあと、「対談」の幕は開いた。  マスコミの数の多さはこの「対談」の持つ意味の大きさなのか、それともメディア向けの単なる”茶番劇”なのか?テレビ、新聞で報道されなかった「対談の裏側」を見ることで、その真相が見えてくるはずだ。  午後1時半から川勝、金子対談は始まり、予定の1時間を20分ほど過ぎて終了した。午後3時前から10分ほど金子社長の囲み取材を経て、その後、川勝知事の囲み取材が行われた。金子社長は「ヤード整備について川勝知事には前向きな話をしてもらった。(「条例をクリアすればよい」という)川勝知事の真意がつかめず心残りだ」と、何度か「心残り」を繰り返した。  「対談」最終盤に入り、金子社長が「ヤードの件は水環境問題ではない。それ以前の問題だと理解してもらいたい」と述べると、川勝知事は「県自然環境保全条例では5㌶以上であれば、協定を結ぶ。県の権限はこれだけである」などと答えた。川勝知事がヤード整備で県条例を口にしたのは初めてであり、これまで東俣林道の安全確保を最優先にするなどといった対応とは全く違った。本当に、県自然環境保全条例をクリアすれば、ヤード整備に問題ないのか?  県自然環境保全条例は川勝知事が何度も繰り返す南アルプスエコパークの動植物保全などを担保する法的根拠だが、強制力を持たない。この条例では、業者が協定締結を怠った場合、業者名を公表する程度の罰則規定しかない。県が求める自然環境保全協定締結のハードルは非常に低い。念のため、「対談」直後に担当する自然保護課に連絡を入れて、県自然環境保全条例についての認識をもう一度、確認した。その結果、先週の市町との結論を覆し、”川勝知事はヤード整備を認めた”と理解するしかなかった。  金子社長退出のあと、川勝知事は囲み取材で「ヤード工事は明確にトンネル工事ではない。5㌶以上の開発であれば、(県自然環境保全)条例を締結すれば、問題ない。条例に基づいてやっているので、協定を結べばよい。活動拠点を整備するのであればそれはよろしいと思う」などとはっきりと述べた。条例が求める協定について担当部局から説明させるとも付け加えた。  「協定を結べばよい」と言う川勝発言からは、事務手続きさえ進めれば、問題はないと受け取るのがふつう。”ヤード整備を認めた”という判断を誰もがするはずだ。しかし、そうではなかった。  キツネにつままれたとはこんなことを言うのだろうか? 静岡県の”ダブルスタンダード”対応とは?  「対談」後、両者の囲み取材を終えて1時間以上経過した午後4時50分になってから、川勝知事は報道拠点となった県庁4階特別会議室に姿を現した。再び、記者らの囲み取材に応じたのだ。2度目の囲み取材には、ヤード工事対応の責任者である県中央新幹線対策本部長の難波喬司副知事や担当部長ら県幹部が報道陣の後ろで川勝発言に慎重に耳を傾けていた。その結果、県自然環境保全条例そのものがいままでとは違う色彩を持つことになった。つまり、「県自然環境保全条例を根拠にヤード整備を認めない」を明らかにしたのだ。  翌日の新聞紙面は『知事 ヤード整備認めず JRリニア延期表明へ 初のトップ会談物別れ』(27日付中日1面トップ)、『リニア27年開業延期へ 静岡知事、着工認めず 「JR東海の環境対策不十分」』(同読売1面トップ)、『リニア27年開業延期へ JR東海社長と静岡県知事 会談で平行線』(同日経1面準トップ)など。2度目の知事囲み取材を経て、金子社長が「心残り」と何度も述べた川勝知事の「真意」がはっきりとメディアにも伝わり、各紙の見出しを飾った。  中日「会談後の一問一答」では川勝知事と金子社長の談話の食い違いがはっきりと見えた。知事発言に期待を寄せた金子発言に対して、1度目ではなく、2度目の知事発言が記事に反映されたからである。  「条例をクリアすればOKとのことで、クリアの仕方は詰め切れなかった」(金子社長)に対して、「本体工事と一体であり、(ヤード整備を)認められない」(川勝知事)となっている。知事発言は1度目の囲み取材であれば、「条例をクリアすればヤード整備はOK」のはずだった。2度目の囲み取材で、川勝知事はJR東海の一縷の望みを見事に打ち砕いてしまった。  担当部局の説明に、「なぜ、JR東海だけ県自然環境保全条例による協定のハードルが高いのか?」を聞いた。担当理事によれば、これはアセス(環境影響評価)の続きであり、環境影響評価書の国交大臣意見にある地元の理解を得ることが必要となる、現在、議論をしている県環境保全連絡会議生物多様性専門部会の結論が前提になる、JR東海もそれを承知しているのだという。  現在認められている宿舎整備などのヤード整備に加え、トンネル坑口周辺の樹木伐採、斜面補強や濁水処理施設、沈砂池などが加わると、トンネル工事全体としての保全協定締結が必要になり、そのための手続きに生物多様性専門部会で納得できる説明を求めるというのだ。もし、そんなことを承知しているのであれば、そもそもJR東海はヤード整備の了解を求めるはずもないだろう。  これは行政のダブルスタンダード(二重基準)ではないのか? 「戦略」通りに進めた静岡県  21日付『リニア騒動の真相43「正直」こそ最善の戦略!』で、16日に開かれた流域10市町との意見交換会をシナリオに沿った”茶番劇”と批判した。静岡県が権限を有する河川法許可の審査基準に、「治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない」とあり、本体工事について中下流域9市町の意見を聞くのは理解できるが、今回の「ヤード整備」については河川法の「対象外」と難波副知事は明言した。水環境問題について各市町長はさまざまな意見を述べたが、ヤード整備とはかけ離れ、的外れそのものだった。  ヤード整備工事の可否を決めるのに、水環境ではなく、県は条例に基づく「自然環境保全協定」締結に求めることはできる。その結果が”ダブルスタンダード”になろうが、JR東海へのハードルを上げて、要望を拒否する方向に転換したのだろう。1971年の条例制定以来、このような運用は初めてである。当然、担当の自然保護課を超える高度な意思決定が行われたのだろう。こんな無理なことを強行すれば、いずれ静岡県行政への批判につながる恐れさえある。  今回の「対談」で、県でもJR東海と水環境問題の議論を行う意図はなかった。単に本体工事へ入るためのヤード整備をテーマにしただけである。それでも、マスコミ報道が水環境問題とヤード整備をごちゃまぜにしているから、中下流域の市町長らの出番となってしまったのだろう。  「利水者の声を聞け」。中下流域の自治体、団体はJR東海に求めるものはその一言に尽きるが、今回の「対談」の趣旨とは遠くかけ離れている。県条例の自然環境保全協定は利水者とは無縁の問題である。静岡県はようやく、県の権限に沿ったかたちで対応する戦略を立てたが、リニア担当の難波副知事らの思惑と川勝知事の理解はかみ合わず、「対談」の席で金子社長を十分に納得させることができなかった。  「ヤード整備」さえ認めない静岡県の立ち位置はどこにあるのか? 静岡県「リニア反対」の証拠とは?  金子社長訪問の1時間以上前から、びっくりするような横断幕が県庁玄関前に現れた。「リニア反対」を連呼する市議や運動家らがマイクを握って、金子社長の到着を待った。メディア対応に県職員は当たっていたが、このような派手な横断幕や「リニア反対」連呼にどうして対応しなかったのか?県庁敷地を管理する担当課長に聞くと、大々的に報道されていたので、「リニア反対」の人々が来る恐れはあったが、度を越えなければ問題ないと考えていた、と回答。警備員による注意等もなかった。派手な横断幕はまさに、静岡県が「リニア反対」を許容しているかのように映った。  「対談」の中で、川勝知事は「仮に水が戻せない場合、どうするのか?」「もしダメならばリーダーとしてどうするのか?」などリニア計画の変更または中止する事態を想定して、金子社長の対応を求めた。  さらに、3人の大学教授の名前を挙げて、リニアそのものが不要である識者意見を述べた。川勝知事が「水野和夫法政大学教授」を挙げたのは、23日付中日新聞を読んだからだろうか?『経済成長見込めず不要』『「より速く」は時代遅れ』の大見出しで、水野氏は『川勝平太知事がせっかく止めてくれている。ここで突っ走れば、後世になって誰も乗らないものを造ったということになるだろう』と予言していた。  リニア中央新幹線建設促進期成同盟会(沿線9都府県)は1979年に設立されたから、すでに40年超を経過、時代は大きく変わってしまった。今回の「対談」だけでなく、さまざまな席で川勝知事が必ず口にする「万機公論に決すべし」(「五箇条の御誓文」、国家の政治は世論に従って決定すべしの意味)からすれば、いまや「世論」はリニアに対して味方とは言えない。「鉄道大国」「技術大国」日本の威信が掛かっているのだろうが、それこそ時代遅れかもしれない。  今回の「対談」で明らかになったのは、金子社長が調整型の人物であり、川勝知事の圧倒的な迫力に押されていたことである。金子社長周辺に川勝知事、沿線の市町や大井川に詳しいブレーンが存在しないからだろう。そもそも静岡県は御しやすいとなめていた結果だが、JR東海はすべて受け身で何らの”戦略”も見られなかった。  これでは何度、「対談」を行っても結果は同じになる。「リニア反対」に屈するのかどうかは、すべて”戦略”に掛かっている。