ニュースの真相

ニュースの真相

静岡県「社会健康医学大学院大学」のなぞ2

県民はマグロを大好きだが…  静岡県HPを見ていて、2016年から2018年の3年間連続でマグロ購入量、支出額とも全国1位、それも2位、3位を引き離し、全国平均の2倍以上を上回るダントツの日本一であると自慢していた。冷凍マグロ、冷凍ビンナガマグロなど全国約90%の輸入量を誇り、こちらも当然、圧倒的な全国1位だ。この数字を見れば、”日本一のマグロ自慢”はしばらく続くだろう。さらにHPで「マグロは生で食べても、調理して食べてもおいしく栄養満点で、頭に良いと言われるDHA(ドコサヘキサエン酸)を多く含む健康食品」と説明している。  それで納得した。静岡県の子供たちは、頭脳明晰になるためにおいしいマグロを食べるのが大好きなのだ。  ところで、冷や水を差すようで悪いが、マグロを多く食べる地域の人たちは、タイやヒラメなどをよく食べる関西や九州の人たちに比べて体内の水銀量がぐんと高くなっていることをご存じだろうか?  和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を批判的に描いたアカデミー賞映画「コーヴ(入り江)」(2009年)でもイルカ肉の水銀値が非常に高いことを問題にしていた(こちらのニュースは「IWC脱退 食と文化の未来」でご覧ください)。  熊本県の水俣病の原因物質はメチル水銀だった。たんぱく質と相性がよく、メチル水銀は生物の体内に取り込まれやすい。海水から栄養素を吸収するプランクトンがメチル水銀をため込み、プランクトンを餌にする小さな魚へ、小さな魚を餌にする大きな魚へ取りこまれていく。食物連鎖の上位にあるイルカやマグロなど大型で寿命の長い生物ほど体内の水銀濃度は高くなる。水俣湾では、多くの魚が弱って浮かび、それを食べた人間、猫、カラスなどが水銀中毒になった。  水銀含有量の多い魚はマグロだけでなく、キンメダイ、メカジキなども含まれる。よりによって、静岡県民はキンメダイもメカジキも大好物だ。  本当に、そんなに危険な魚をたくさん食べて大丈夫なのか? メチル化水銀の健康被害は?  水銀に敏感な人には神経症状が出現するとして、WHO(世界保健機構)は人体含有量50ppmを危険域の下限値として定めている。水俣病では手足のしびれや震え、熱さなどを感じにくくなる感覚障害、思うように身体が動かない運動失調、見える範囲が狭くなる視野狭窄などの神経症状を訴える人が相次いで見つかり、その後激しい痙攣や錯乱状態に襲われるなどの重篤な症状で亡くなった人も出ている。50ppm超の人に水俣病の初期症状が出るのだろう。  メチル水銀は妊娠中の場合、胎盤を通して胎児に吸収され、脳性小児マヒに似た症状を引き起こすとされる。精神発達の遅れ、筋肉の異常な緊張、言語障害などとして出現する。  本当にマグロをたくさん食べて大丈夫なのか?実際にはマグロを食べても、メチル水銀は健康への影響はないのかもしれない。だから、静岡県はHPで自慢しているのか?次から次へと疑問が浮かんでいく。当然、こんな重大な問題を静岡県が放っておくはずがない。  マグロをよく食べる人たちの水銀含有量は毛髪によって調べることができる。静岡県民の場合、どうなっているのだろうか? 「健康寿命」とマグロの関係  先日「大学院大学」設置推進委員会で、設置目的を「県民の健康寿命延伸」であると何度も聞いた。そのために、県内約2万2千人の高齢者の生活実態調査を行ったそうだ。全国で、どこよりもマグロ好きな県民が感覚障害や運動失調などの神経症状を訴えるようなことはなかったのか。当然、マグロと「健康寿命」には深い関係があるはずだ。生活実態調査でも、明らかにされているかもしれない。  県は「緑茶を多く飲むと死亡率が低下する」から5年間も掛けて2百人に緑茶パウダーを飲ませて血圧、血管、心機能改善効果の研究を行う、と発表。エビデンスのはっきりしない「緑茶効果」について「その科学的な要因分析」を大学院大学で行う必要性が高いのだ、と基本構想に書いている。マグロは緑茶という嗜好品ではなく、子供から大人まで食べる静岡県民の大好物であり、産業にも大きくかかわっている。そうか、マグロについてはすでに研究は尽くされているのかもしれない。  早速、県民の毛髪水銀調査とマグロの健康影響について、静岡県健康福祉部の社会健康医学推進担当に聞いてみた。残念ながら、担当者は、良質なたんぱく源であるマグロと水銀の関係などいままで考えたこともなかったようで、「これから考えていきたい」と回答した。  なぜこんな緊急性の高いテーマに取り組まないのか。不思議な話だ。 「セレン化水銀」研究の重要性  ところで、わたしの知り合いに毎日マグロばかり食べる人がいる。しかし、その人は手足のしびれや震えを訴えてはいない。そもそもマグロは水銀値が高いのに、なぜ、あんなに元気に泳ぎ回ることができるのだろうか?  いろいろ探していて、そんな疑問に答える最新の論文を見つけた。国立水俣病研究センター(熊本県)の疫学研究部長らが、水銀値の高い歯クジラの健康状態にメチル水銀がどのような影響をもたらしているのか調べた。2015年11月国際的な専門誌に発表。その結論は次の通りだ。  「歯クジラ筋肉中に含まれる高濃度の水銀は、一定濃度(3~8ppm)のメチル水銀と残りは無機化された毒性がないセレン化水銀であることが明らかになった」  メチル水銀は低い濃度で体内に残り、筋肉組織にある高濃度のセレン(肉や植物に含まれる必須栄養素)が毒物の防御システムとして働き、残りのメチル水銀と1対1で結合するため、ほとんどのメチル水銀は無害化されているという説だ。無害化された水銀を「セレン化水銀」と呼び、人間がセレン化水銀を大量に含むマグロやイルカをどんなに食べても水俣病のような症状を引き起こさないというわけだ。  残念ながら、この研究成果が魚類の水銀含有量との関係にパラダイムシフト(その分野で支配的だった考え方に対する劇的な変化)をもたらしてはいない。厚労省HPを見ると、マグロ、キンメダイ、メカジキなどは1回80gとして週1回限りで食べることを推奨しているからだ。厚労省HPはセレン化水銀について言及していない。多分、定説にはなっていないのだろう。  だからこそ、この研究でのさらなる取り組みが必要となる。  静岡県は水銀含有量の多いマグロを食べても安全なのかどうかを早く調べて県民に知らせるべきだ。本当に「社会健康医学」大学院大学の設置が緊急性、優先度の高い施策なのか疑問は大きい。 ※グラフ、マグロ市場、刺身写真とも静岡県HPの写真です。

ニュースの真相

静岡県「社会健康医学系大学院大学」のなぞ1

「健康寿命の延伸」が目的?  静岡県が計画を進める「社会健康医学系大学院大学(仮称)」設置について県の説明を聞いたが、信じられないほど不可解だった。「社会健康医学系」と言えば、京都大学大学院にある同じ名前の専攻を想定し、その責任者をはじめとする京大関係者が静岡県の基本計画策定委員に委嘱されている。京大の同専攻は遺伝子カウンセラー、臨床統計家、ゲノム情報処理者をはじめ最先端の専門家養成が目的である。  静岡県の「社会健康医学系」は名前だけは同じだが、そのような専門家を養成するのか全く未定であり、目的も違う。そのまま、数十億円もの費用を掛けて「大学院大学」を設置すれば、県民の混乱を招くだけでなく、厳しい批判を呼ぶだろう。  静岡県は、同大学院大学設置を「県民の健康寿命のさらなる延伸を図る」のが目的と説明。「健康寿命を延伸」とは、静岡県の男性72・15歳、女性75・43歳の健康寿命について、さらに約10年長い平均寿命の差を縮めたいのだ、という。担当者は、県民の「健康寿命」を延ばすことだから、静岡県が率先して取り組むべきテーマにふさわしいと胸を張った。  「健康寿命」と言えば、静岡県立大学が古くから、健康長寿社会の実現に向けた最先端研究と人材育成に取り組んでいる。同大学院HPに「疾病があったとしてもその進行を食い止め、寿命に至るまで生活の質を維持する『健康寿命』をいかに実現するかが重要課題」とある。まさに、静岡県が胸を張った目的「健康寿命の延伸」について長年、研究を行い、論文発表等の蓄積がある。県立大学だけでなく、県内の各自治体もさまざまな取り組みを行っている。  県の目的が「健康寿命の延伸」ならば静岡県立大学などに任せればいいのではないか。多額の費用を掛けて「大学院大学」設置の必要はない。 京大の目的には「健康寿命の延伸」はない  「健康寿命」の定義も難しい。歯科分野では古くから、「8020」運動を唱え、80歳で20本の丈夫な歯を持つことが「健康寿命」につながると訴えてきた。その他、脳科学者、大腸カテーテルの第一人者、運動療法士らが「健康寿命」延伸についてさまざまな知見を発表している。  不思議なのは、京大HPを調べても「社会健康医学」研究に「健康寿命の延伸」は登場しないことだ。  2000年「社会健康医学」専攻は京都大学に誕生した。米国ジョンホプキンス大学などで古くからある「Public Health」(日本語では当然、「公衆衛生」と訳す)講座だが、アジア地域では欧米流の学問領域が遅れていた。臨床や基礎研究に「疫学」「臨床統計」「遺伝子」「ゲノム」などの研究成果を踏まえて、論文発表をすることで内容の幅を広げるなど価値を高めるのが狙い。静岡県の目的「健康増進」との関係は非常に薄い。  また、京大では遺伝子治療診療科、ゲノム医学センターなどとの連携が密接だ。学生の発表はすべて英語論文を想定している(入試試験もTOEFL、TOEIC得点が必要)。ビッグデータを駆使した臨床統計家、疫学研究者養成などを目指している。静岡県の言う「健康寿命」延伸はどこを探しても見つからない。大学院卒業者の就職先が厚労省や東大、京大などの大学教員が多いことを見れば、県の説明にある現在の職場で働きながら取得できるほどそれぞれが簡単な資格ではない。 緑茶パウダー疫学調査への疑問  「社会健康医学」研究として、2月から島田俊夫県立総合病院臨床研究部長が5年間にわたって川根本町で緑茶パウダーを使った健康効果の疫学調査を行う。同様の調査はすでに県立大学が何度も行い、川根本町だけでなく全県にわたって調査、緑茶の効能についての成果を発表している。  2002年7月の県民公開講座で小國伊太郎教授(当時)は「がんやピロリ菌に対する緑茶効果」について、静岡県のがん死亡分布図を作成、緑茶生産地区と非生産地区を調査、緑茶生産地区の男女の胃がん発生率が著しく低いことを突き止め、川根三町の疫学調査を実施した成果などを説明した。  三井農林食品総合研究所(藤枝市)は茶カテキンの生理活性機能を研究、茶カテキンから抽出したポリフェノンEを発見、主成分として開発した新薬が米国FDAで認可された。さらに、肺や前立腺がんなどの予防薬・治療薬開発を米国がん研究所(NCI)と共同で臨床研究を行っている。当然、使用されるカテキン(渋味成分)はアミノ酸が多く渋味の少ない静岡茶ではなく、アフリカやベトナムなどの緑茶抽出物を使用しているようだ。  島田部長の調査は、どこの緑茶を使うのかなど不明であり、その他の嗜好品、運動やストレスなどの要因を考慮に入れるかなど研究内容が見えていないが、過去の知見を超えるものが期待できるのか疑問は多い 先端医療棟に「大学院大学」設置の意向  「大学院大学」とは、学部を伴わない大学院。医療系の大学院大学は滋慶医療科学大学院大学が大阪市にあり、そこは看護師、理学療法士など全国的な医療・福祉系専門学校が基盤。静岡県が計画する大学院大学の中核組織は何か。浜松医科大学の公衆衛生学講座をランクアップするならば、大学院専攻科をつくるだけだが、そうではないらしい。  静岡県は県立総合病院先端医療棟5階の「リサーチサポーセンター」に大学院大学を設置する意向だ。同センターは2017年9月に開設されたばかりで実績はほとんどない。「社会健康医学」の指導組織としての実態もない。宮地良樹センター長は「京大の大学院レベルをつくるのではない、あくまでも、静岡県の健康寿命延伸が目的だ。臨床医の研究をバックアップするためのもの」と話した。  基本構想委員会の委員長、本庶佑氏は「県内の中核病院で研修したいという若い医師が増え、中長期的に長年の課題である医師不足解消につながる」と述べた。なぜ、そうなるのか不思議だったが、宮地センター長の話で納得した。  県立総合病院は主に京大医局からの派遣病院であり、もし、そのような研究施設があれば、若手医師らがぜひ、県立総合へ赴任したいというインセンティブにはなるのだろう。しかし、若手医師らは2、3年で変わり、研究成果が蓄積されるのかどうか疑問は多い。  医師不足の根本的な理由は医科大学が県内に一つしかないことだ。隣接の愛知、神奈川県とも4医科大学、人口規模が5分の1に満たない山梨県と医大の数は同じであり、本当に大学院大学設置が医師不足につながるのか疑問は大きい。  1、目的が「健康寿命」延伸であるならば、静岡県立大学の研究成果を生かすことで十分。本来の「社会健康医学」研究の目的は地域の「健康寿命」延伸にはない。  2、京都大学「社会健康医学」専攻のような先進的な研究環境を静岡県立総合病院は持っていない。  3、喫緊かつ、長年の課題は医師確保であり、社会健康医学大学院大学はその使命を果たすのか疑問が大きい。  以上の3点から、県立総合病院に「社会健康医学」大学院大学ありきではなく、もう一度、目的を含めて県民に説明できるようにしたほうがいいだろう。「健康寿命の延伸」ではなく、目的が「医師確保」であれば、川勝知事の公約だった「医科大学」設立をもう一度正々堂々と取り組むべきだ。リニア環境問題で県民の生命を問題にした気概と覚悟があれば、国の方針を変えることもできるのではないか。 ※タイトル写真は静岡県立総合病院先端医療棟。県は5階に「社会健康医学」大学院大学を設置する方針だ

ニュースの真相

認知症のなぞ2 効かない”薬”を処方する医師

薬で認知症は治らない  「認知症は薬で治らないの?」「治らない。認知症を治す薬は世界中、どこをさがしたってない」(「老乱」久坂部羊著、朝日新聞出版、2016年11月)  阪大医学部出身の久坂部氏は高齢者を対象とした在宅訪問診療などに従事するとともに、「廃用身」「破裂」など事実に基づく医療情報を踏まえて小説を発表。「老乱」でも、登場人物の認知症専門クリニック医師が認知症は病名ではなく、状態を指すことばであり、原因となる病気は70ほどある、さらに、記憶障害、見当識障害、判断障害などの「中核症状」を一般に認知症と呼んでいると説明する。  「認知症を薬で治すのは今のところはむずかしい状況です。脳の活性化とか刺激療法など、いずれも有効と言い難いのが実情です」  本サイト「認知症のなぞ1」で記したように、母の主治医は母を「アルツハイマー型認知症」と診断した。判断能力が著しく失われ、成年後見を受けなければならないほどの心神喪失状態という診断書を静岡家庭裁判所に提出、母は静岡市内の神経内科医から別の診断書をもらって争っていた。  当時、高齢(87歳)の母は時々、物忘れ症状を見せた。加齢に伴う物忘れは誰にでもあることで、それを認知症と区別するのは非常に難しい。母は介護度認定を受けておらず、介護保険用の主治医意見書を必要としていたため、主治医が処方する睡眠導入剤とともに、最も軽い認知症治療薬アリセプトに不満を述べなかった。主治医は母にアリセプト(塩酸ドネペジル)3mgを処方していた。 専門医はアリセプトを使わない  10年前、認知症を専門にした富士山麓にある御殿場高原病院を取材した。1979年4月に開院しているから、ことし40年目を迎える。当時、30年間の治療効果について、清水允煕(のぶひろ)院長が語ってくれた。「認知症の進行を抑えるとされるアリセプトを使うことがあっても、症状が改善されることはまずありません。わたしの経験では数百例のうちで、効果が認められたのは1例程度に過ぎません」と、清水院長はアリセプトがはっきりと効果の期待できない薬だと断言した。医師が薬の効能がない、と言うのだ。本当にびっくりした。それではどうするのか?  「老化に伴う高血圧、高脂血症、痛風などの症状に合わせた薬は別として、ここでは認知症の薬をなるべく使わず治療する方針を貫いています。それで症状が改善でき、経過が良い場合は退院させることも多いのです」その言葉にさらに驚いた。そんなことが可能なのか?  清水院長は具体的な治療法について、「75歳女性、夫の過去の浮気が許せない」「『嫁がお金を盗った』という77歳女性」「自分の家に居るのに『帰る』という74歳女性」「外出(徘徊)を止めようとすると暴力を振るう77歳男性」などそれぞれのケースに沿って説明してくれた。治療、看護、介護について、家族を含めて周囲がどのように対応するかが重要なのだ、という。  「老乱」でも、日付とか前の晩のおかずとか幼稚園の子供に聞くような質問をすることが高齢者の精神状態を悪化させる、尊厳のある一個人として認めることが重要であり、逆にほめたり、感謝することで認知症の人は自分が周囲からどう受け止められているのか敏感に感じ取って、厄介者ではなく、存在を大切にされているといい気分だけが残る、と書かれていた。  御殿場高原病院はまさに、その方法を実践し、「尊敬と感謝」を注ぐことで症状を改善させていると説明した。もし、母を認知症と診断したならば、主治医はどうして、そのような治療法を選択できないのか? グラマリールという危険な薬  「①お年はいくつですか? ②きょうは何年、何月、何日、何曜日ですか? ③わたしたちがいまいるのはどこですか?」など、長谷川式知能評価スケールを母に受けてもらったが、それさえ、母の尊厳を傷つけていたのかもしれない。静岡県立こころの医療センターでもう一度、同じことをやるのを断った母の気持ちを一番理解したのは同センターの担当医だったかもしれない。  ところで、母の場合、アリセプト3mgだけでなく、グラマリール25mgを処方されていたため、わたしはグラマリールをやめてもらえるよう話した。調べると、グラマリールは脳梗塞後遺症の攻撃的行為や精神興奮を抑える薬だとわかったからだ。そもそも脳梗塞を発症していないのに、その後遺症のための薬を処方する理由は何だったのか。その時点で、主治医に対する信頼は失われていた。 医者をしっかりと選ぶべきだ  その後母は心不全と診断されて、2週間ほど入院した。それから3カ月後、静岡家庭裁判所は姉の成年後見開始申立を却下した。理由を見ると、「難聴があるため意思疎通困難であるが、大声でしゃべれば通じる。自己の財産を単独で管理・処分することができる」というわたしと一緒に受診した医師の診断書が大きな意味を持っていることが分かった。  「この診断はK医師の行った診断であり、他の医師が検査等を行って別の診断をされることは当然ありうる」というのが、主治医の弁護士による回答だったが、もし、いい加減なK医師のみの診断書しかなかったならば、母は認知症とされ、成年後見制度の適用となっていたはずである。  もう一度、主治医宛に「どのような問診を行ったのか」など質問した。やはり、同じ弁護士事務所から、「前回の回答通り」との回答を受け取った。今後、母の主治医がこのようないい加減な診断書を出さないように自重してくれればいいのだが、逆に言えば、患者及び家族は医者をしっかりと選ぶべきなのだろう。  難聴と認知症の関係を考えるべきだった。難聴を放置すると、認知症の発症率は高くなるだろうし、医師は難聴なのに認知症と診断するかもしれない。母は何度も補聴器を試したが、すぐに手放してしまっていた。  「難聴で音の入力が少なくなると、脳の中で音をつかさどる部分の萎縮が進んでしまい、思考や記憶の働きにも影響してくる」。眼鏡と違い、聴力に合った快適な補聴器をどう探すのか、静岡市内の認定補聴器専門店を取材してみた。デジタル補聴器は必要な音だけを瞬間的に区別できるようになっていて、補聴器の改善は急速に進んでいるとのこと。いずれにしても、自分自身で試してみるしかない。  最後に、タイトル写真に使った「プラセプラス」。皮肉のような話だが、”危険な医師”からの”危険な薬”ではなく、本物のプラセボ(偽薬)として安心して患者に奨められる。最初から薬効成分を含まないのだから、副作用もない。当然、プラセボ効果(薬を飲んでいるという自覚で精神的な安心感を得る)は期待でき、自己免疫作用で病気を治す場合がある。  「自分も認知症になると思う? はい75% いいえ25%」(朝日新聞2016年1月16日付)。物忘れなのか、認知症なのか、はたまた医師を受診して認知症治療薬を処方されても、その効果を期待してはいけない。変な話である。

ニュースの真相

「嘘つきは、戦争の始まり。」の嘘

宝島社のメッセージ広告  1月7日(月曜日)付朝日新聞朝刊の中面を見て、本当にびっくりした。16、17面の2面にわたる全ページ。強烈なインパクトを持つ紙面だった。「嘘つきは、戦争の始まり。」。大きな白抜きの見出し、左ページの中央に油まみれの鳥の大きな写真があった。見出しに比べてあまりに小さな白抜き文字の記事を読んだ。 「イラクが油田の油を海に流した」 その証拠とされ、湾岸戦争本格化のきっかけとなった一枚の写真。 しかしその真偽はいまだ定かではない。ポーランド侵攻もトンキン湾事件も、嘘から始まったと言われている。 陰謀も隠蔽も暗殺も、つまりは、嘘。 そして今、多くの指導者たちが平然と嘘をついている。 この負の連鎖はきっと私たちをとんでもない場所へ連れてゆく。 今、人類が戦うべき相手は、原発よりウィルスより温暖化より、嘘である。 嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。  大きな紙面の右下隅に「宝島社」。これが広告だとわかった。なぜ、広告なのに自社の広告ではなく、印象的なメッセージを読者に投げ掛けるのか。  「嘘に慣れるな、嘘を止めろ、今年、嘘をやっつけろ。」そのために何をどうすればいいのか?まず、この紙面を疑うことから始めよう。「嘘つきは戦争の始まり。」は本当なのか? 「イラクが油田の油を海に流した」の真偽 「イラクが油田の油を海に流した」 その証拠とされ、湾岸戦争本格化のきっかけとなった一枚の写真。 しかしその真偽はいまだ定かではない。  いままでそんな疑惑があったことを知らなかった。もしそうならば、「嘘つき」は誰なのか?米軍を中心とした多国籍軍か?それとも本格的な湾岸戦争を望んだ別の誰かなのか?  1990年8月2日イラクはオイル利権をめぐる意見の衝突をきっかけにクウェートに侵攻、全土を占領して併合してしまう。世界中の非難が続く中、イラクはクウェート国内の日本人を含む外国人を監禁、「人間の盾」という非人道的な行為を続けるなど国際社会のさらなる反発を呼んだ。1991年1月17日国際連合が米軍を中心とした多国籍軍を派遣、イラクへの空爆で湾岸戦争が始まった。「砂漠の嵐」作戦などさまざまな戦いが繰り広げられた結果、3月には「クウェートへの賠償」「大量破壊兵器の廃棄」などをイラクが受け入れ、停戦協定が結ばれた。  湾岸戦争の原油汚染はイラク軍がクウェートからの撤退に際して、アメリカ海兵部隊の沿岸上陸を阻むためにクウェート停泊中のタンカー3隻、原油ターミナルを破壊したことで6百万バーレル以上の原油がアラビア湾に流出した、とされる。多国籍軍によるイラクのタンカー攻撃でも数十万バーレルの原油がアラビア湾に流れ出たことも知られている。  イラク軍、多国籍軍が戦争のさなかに原油をアラビア湾に流出させた事実に疑問があるのだろうか? 28年前の「アラビア湾岸環境復元調査団」  湾岸戦争直後の1991年3月日本政府の調査団がサウジアラビアを訪れ、湾岸戦争の原油汚染を調査した。翌月の4月21日から、静岡大学教授を団長とした「アラビア湾岸環境復元調査団」に同行した。朝日、読売、共同通信社、NHKの記者も一緒だった。WWF(世界自然保護基金)による情報で、原油流出で約2万羽の野鳥が被害に遭い、野生生物レスキューセンターに搬送された野鳥のうち、約3百羽が救済された、と聞いていた。  当時のスクラップ記事を取り出してきた。特集記事「自然からの警告 進む地球汚染」を断続的に連載した。サウジアラビアで撮影した油まみれのペルシャウの印象的な写真から始まった。クウェート国境のカフジまでセスナ機で訪れ、アラビア湾の汚染を確認している。野生生物レスキューセンターでは環境庁のレンジャー、ボランティアの獣医師ら3人が2カ月間の予定で油まみれの野鳥を洗い、治療などを行っていた。記者たちの関心はそれぞれに違い、NHK記者は大気汚染の深刻さを追い、共同通信記者は入国困難だったクウェートへひそかに入り、取材を続けたようだ。  当時、多くの読者からの反響をいただいた。「フセイン大統領のやったことが許せません」(13歳女性)、「美しい自然環境を残すには戦争は絶対にしてはならない」(55歳女性)、「戦争に反対し、平和であればよいとかの議論は過ぎ去り、地球をどう救済するかが問われている」(60歳男性)などの率直な怒りの声をそのままに、紙面に掲載した。当時、そこに嘘があることなど誰も疑っていなかった。 「メディアの主張」が大げさなのか?  サウジ気象環境保護庁副長官らによる論文「1991年湾岸戦争による油流出時の国際協力」の中で「破局的な事象を未来の破滅として取り上げたメディアの主張が大げさだと判明した。戦時のプロパガンダの一環として環境破壊が誇張された」と記されている。続いて、「その結果、一般の関心は急速に薄れ、アラビア湾は破壊された環境を取り戻すための重要な味方を失った」とも書いている。  そこに「嘘つき」の正体が示唆されていた。「メディアの大げさな主張」こそが、油まみれの野鳥をつくりあげたのではないか。  朝日新聞の全国版一段広告約326万円×30段で、約9800万円。カラー料金は1段135万円×30段=405万円。それにデザイン、コピーなどの値段も入る。ふつうに計算すれば、ゆうに1億円を超える。いまの時代、大幅な値引きは当然だとしても、半端な額ではない。  同じ日に読売新聞にも30段広告を掲載している。2社の広告料だけで約2億円。「敵は、嘘。」言わんとしていることは同じだろうが、「嘘つきは、戦争の始まり。」と違い、こちらは単なるメッセージであり、アラビア湾の油まみれの野鳥は登場していない。「メディアの大げさな主張」に読者がまどわされなければいいが、「大げさな紙面」を見て、歴史事実を誤る恐れは大きい。  昨年12月19日「リニア騒動の真相 ヤマトイワナを救え」を本サイトにUPした。リニア南アルプストンネルは高速鉄道プロジェクトの開発であるとともに、自然環境の破壊につながることは間違いない。開発による環境破壊をどこまで許容できるか。ことし1月25日第9回静岡県中央新幹線環境保全会議が開かれる。静岡県、JR東海のそれぞれが科学的な根拠に基づき主張しても、事実関係は対立する場合がある。  果たして、どちらが真実なのか、記者たちはどこまで判断できるのか。「嘘つき」が誰かを見極めることではなく、どちらの立場に立って主張するかだが、渦中にいるときは判断に苦しむことが多い。28年前のことを振り返って真偽をただすのさえ非常に難しいのだから、いま現在の「ヤマトイワナを救え」という記者の主張は正しいのか、会議の行方に注目しなければならない。

ニュースの真相

認知症のなぞ1 家庭裁判所の「診断書」

成年後見開始のための「診断書」  26日朝、NHKニュースで2025年認知症患者が約7百万人になるのを受けて、地域でどのように患者に対応していくかを紹介していた。「7百万人」は厚労省の推計だが、その数字は果たして、正しいのか?  認知症と認定するのはだれか?医者なのか、それとも家庭裁判所なのか。難聴の高齢者を認知症患者にしてしまったわたしの母の事例を紹介する。  3年前、母は90歳で亡くなった。そのほぼ2年前、静岡家庭裁判所から「後見開始申立書」を受け取った。5歳離れた姉の代理人弁護士が、母の成年後見を開始する審判を家庭裁判所に求めたのだ。申し立て理由は「認知症」にチェックがしてあった。「本人の希望として、自らの財産を弁護士等の専門職に管理を委ねたい」と特記事項に書かれていた。  何よりも驚いたのは、母の主治医(脳神経外科医、睡眠導入剤の処方で何度も付き添った)が母を「認知症」と診断していることだった。申立書添付の家庭裁判所「診断書」(成年後見用)には「アルツハイマー型認知症」とあった。所見では「物忘れ症状、会話が成立しない症状あり当院受診となり加療を行っている」。  判断能力判定について「自己の財産を管理・処分することができない」(後見相当)とされ、判定の根拠として(1)見当識 日時は(回答できない)、場所は(回答できる)、近親者の識別は(できない) (2)意思疎通(できないときが多い) (3)社会的手続きや公共施設の利用(銀行取引など)は(できないときが多い) (4)記憶力(問題が顕著) (5)計算力(計算は全くできない) (6)理解力(理解力、判断力が極めて障害されている) (各種検査)HDS-R(19点)  さらに、「制度や申し立ての意味を理解して意見を述べることは不可能」にチェックが入っていた。「成年後見」という響きはいいが、実際には母を旧民法の禁治産者、心神喪失者と考えたのだ。それがどれだけひどいことか姉は承知していたのか?  わたしの意思を伝える「照会書」はたった1枚紙。「ご本人に代わって財産の管理や契約等の法律行為を行う援助者(これを後見人と言います)を選任することによってご本人を法律的に支援する制度」などと書いてあった。必要、不要のどちらかにチェックするようになっていて、もし、「不要」にチェックする場合、その理由を記せ、とある。しかし、たった1行分のスペースしかないことを見れば、ほとんどは「必要」にチェックを入れるのだろう。すぐに家庭裁判所に出掛けた。 「診断書」が重要な判断資料  書記官に面会、審判を始めるならば、「成年後見制度の手引き」に書かれている裁判所の調査員を派遣して、母に面会して状態を調査すべきだと伝えた。母には十分な判断力があり、「認知症」に当てはまらないことを調査員が確認すれば、この申立書の根拠は失われる、と説明。しかし、書記官は「不要」の理由を別紙に記述して提出するように言うだけで、調査員の派遣などの説明はなかった。  「自分自身で財産管理をしたい」。母の意思を確認した上で、自筆の財産管理を望むと希望する書面、それを母が書いている写真、車いすの生活で、重度の難聴のため本当に大きな声を出せば意思疎通に問題はないが、もし、母の状況を知らずに会話しようとすれば会話が成立しない理由、また母がふだん新聞や雑誌の購読を楽しみにしていることなどを写真とともにまとめて記した。  その書面、写真などを裁判所に持参した。担当書記官は不在だったが、別の書記官が親切に書面等を見てくれたうえで、「別の医師の診断書を提出したほうがいい」とアドバイスした。医師という専門家の診断書は、母の自筆文書よりも評価価値が高いようだ。そのときもらった最高裁判所の「成年後見制度における診断書作成の手引き」に、「診断書を判断資料とすることが原則」と記されている。つまり、主治医の診断書に対抗できるのは、認知症専門医の診断書しかないというわけだ。 全く逆転した「診断書」  知り合いの医師に「認知症の専門医」を紹介してもらい、静岡市内の神経内科医を訪れた。この医師に記入してもらった家庭裁判所の「診断書」には「物忘れ症状に対して神経クリニックでアルツハイマー型認知症の診断を受けた。難聴があるため意思疎通困難があるが、大声でしゃべれば通じる」という所見が記された。   判断能力判定について「自己の財産を単独で管理・処分できる」。判定の根拠として、(1)見当識 日時(回答できる) 場所(回答できる) 近親者の識別(できる) (2)意思疎通(できないときもある) (4)社会的手続きや公共施設の利用(銀行取引など) (できないときもある)(3)記憶力(問題はあるが程度は軽い) (5)計算力(可能) (6)理解力(ある) (7)各種検査 HDS-R(25点) (9)その他特記事項 本人は財産管理可能としている。再度能力の鑑定を要す  全く逆転した「診断書」が出来上がった。主治医のHDS-Rの点数は19点、神経内科医は25点。これは一体どういうことか? 認知症の診断は難しい  認知症とは何か?かかりつけ医・非専門医などの医者を対象とした「事例で解決!もう迷わない認知症診断」(愛知県認知症疾患医療センター長、川畑信也著、南山堂、2013年7月発刊)を購入。この本によると、認知症を専門にしない医者たちは「自分には認知症を診断する自信がない」「不安を感じる」などと考えている場合が多いらしい。それだけ認知症診断は難しいと書かれている。  その中でHDS-Rは、改訂長谷川式簡易知能評価スケールのことで、患者の経時的な変化を評価する際に信頼の高い検査方法とされる。30点満点で20点以下は認知症が疑われるが、総得点のみで認知症の有無を判断してはならない、軽度の認知症の段階で21点以上を獲得する患者も多いからだという。  母の場合、主治医の脳神経外科医が19点、神経内科医が25点だった。これをどのように評価するのか? 母の状態を確認しない裁判所  HDS-R検査はどんなものか。  ①お年はいくつですか? ②きょうは何年、何月、何日、何曜日ですか? ③わたしたちがいまいるのはどこですか? ④これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。(例 桜、猫、電車、梅など) ⑤100から7を順番に引いてください。(100引く7は?それからまた7を引くと?) ⑥わたしがこれから言う数字を逆に言ってください。(6‐8‐2、3⁻5‐2‐9など) ⑦先ほど覚えてもらった言葉(桜、猫など)をもう一度言ってください。 ⑧これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったのか言ってください。(鍵、ペン、硬貨、時計など) ⑨知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください(約10秒間待っても出ない場合はそこで打ち切る)  さあ、あなたは何点を獲得でき、認知症の疑いを払拭できましたか?物忘れがときどきある母が「25点」である。どう考えても認知症を疑うことがおかしいだろう。再び、家庭裁判所へ神経内科医の「診断書」を含めて1件書類を持参した。担当書記官が母の元を訪れて、自分自身の目で確認すれば、母が「認知症」でないことがはっきりとするはずだ。 無責任な主治医の診断  しばらくしてから、書記官から電話をもらった。書記官や調査官が母の元を訪問するのではなく、より高度な神経心理検査、脳画像検査が必要であり、静岡県立こころの医療センターを受診してほしいというのだ。その年の夏は猛暑で、母はなるべく外出を避けて施設でゆっくりと過ごしていた。同センターの担当医師から連絡をもらい、その旨を母に話すと、「同じ検査に行くのはもういやだ」と首を横に振った。それはその通りだろう。何かの治療ではなく、「重度の認知症」かどうかを診断するためだけの検査である。担当医師に話すと、母の心情をよく理解してくれて、そのまま家庭裁判所に連絡してくれた。  わたしは、母の主治医に内容証明郵便で「別の医師の診断とは全く違う。母を心神喪失状態とした診断の医学的根拠を回答ください」という手紙を送った。10日後に4人の弁護士名を連記した回答が送られてきた。その回答には「心神喪失状態などとは診断していない」、さらに「この診断はK医師の行った診断であり、他の医師が検査等を行って別の診断をされることは当然ありうる」と書かれていた。  あまりに無責任な回答である。「アルツハイマー型認知症」と診断されることで、母の名声、信用その他、人格的価値について社会的評価が失墜する可能性が非常に高いのだ。  もう一度、後見申立開始書の主治医「診断書」を見ていて、別紙に「鑑定に関する事項」があった。そこには、「今後、家庭裁判所から精神鑑定の依頼があった場合(鑑定医は精神科医師でなくても結構です)の問いに「鑑定を担当できる」にチェックが入れられ、鑑定費用(5万円程度でお願いしています)には自筆で「10万円で引き受ける」とあった。  認知症の診断にはくれぐれもご注意を!医者の裁量で「認知症」患者がつくられる。主治医のさじ加減ひとつで、母は立派な「認知症」患者となってしまう。果たして、家庭裁判所は2つの診断書を見て、母を「アルツハイマー型認知症」と認定できたのか、どうか。 (審判申立事件の結果等は「認知症のなぞ2」で紹介します)

ニュースの真相

リニア騒動の真相6 ヤマトイワナを救え!

生物多様性を守るエコパーク   「ヤマトイワナを絶滅の危機から救え!」  大井川の漁協、魚類研究者、釣り人、南アルプスを愛する人々の切実な声が聞こえる。タイトル写真は「ヤマトイワナとニッコウイワナ」(静岡県内水面漁協の川嶋尚正専務理事提供)。大井川最上流域にレッドデータブック絶滅危惧種のヤマトイワナが生息する。リニア南アルプストンネルがヤマトイワナに深刻な影響を与えるのは避けられない、と魚類研究者は指摘する。   2014年6月、南アルプスはユネスコエコパークに登録。このエコパークは「南アルプス生物圏保存地域」が正式名称。その理念を基に、大切な自然環境を守る「核心地域」、環境教育や観光などで利用する「緩衝地域」、人々が暮らしを営む「移行地域」の3つの地域に区分。地域区分を決める最大の目的は「生物多様性の保全」と「持続可能な利活用の調和」。  「生物多様性の保全」を掲げる南アルプスのシンボルが「ライチョウ」ならば、大井川のシンボルは「ヤマトイワナ」だ。この2つの貴重な種を守れなければ、エコパークの看板を外したほうがいい。  「ヤマトイワナを救え」。待ったなしの緊急課題にどう対応するのか。 発電所と「維持流量」の関係  JR東海のリニア南アルプストンネル計画地を流れる西俣川と大井川本流(合流地点までを「東俣川」と呼ぶ)の合流地点に、1995年中部電力は二軒小屋発電所を設置。同発電所の最大使用量毎秒11トン、発電出力2万6千キロワットで、西俣えん堤(高さ15メートル以下のダムが「堰堤(えんてい)」)と東俣えん堤から取水して、ポンプを使って発電所まで結んでいる。  JR東海はリニアトンネル建設によって、大井川の表流水が毎秒2トン減少するとして、西俣川から導水路トンネル11・4キロを設置、椹島とつなぐ計画を示している。この結果、西俣川、東俣川の表流水は、椹島までの区間、大幅に減水するのは確実である。  水力発電は、河川の「維持流量」を上回った水量のみ使用できる。表流水が減少すれば、当然、発電量は減ることになる。大井川の表流水減少で、もろに影響を受けるのは、二軒小屋発電所、その直下にある田代ダムを水源とする東京電力の田代川発電所。2つの電力会社はJR東海と発電への影響について話し合いを始めているかもしれない。   発電所の「維持流量」は水利権更新ごとに決められ、電力会社が示す維持流量を国土交通省は判断して許可する。「大きな環境変化」がない限り、前回の維持流量が継続されるのが大半だ。  「大きな環境変化」。地球温暖化などによる気候変動が激しい現代で「環境変化」とはどんな状況を指すのか? 県自然環境保護条例の協定目指すJR東海  西俣川の維持流量は毎秒0・12トン、東俣川は0・11トン。もし、通常、この程度の水量しかないとすれば、そこに生息する魚類、水生昆虫などは最低限の生活環境しか与えられない。  現在懸念されるのは、リニア南アルプストンネル建設によって、予測できない水量の減少が起きることだ。長年ヤマトイワナの研究に取り組んできた川嶋専務は「川勝知事の心配するように地下の湧水が山梨県に流れてしまえば、底が抜ける現象が起きて西俣川、東俣川上流は涸れてしまう可能性がある」と指摘。もし、そのような状況であれば、ヤマトイワナは確実に絶滅する。  その危機感を共有して、JR東海は静岡県自然環境保全条例に基づいて、県と協定を結ぶ調整を進めている。JR東海が湧水全量を戻すと表明したのは中下流域への利水の影響を考慮してのこと。減水区間についての対応は県自然環境保全条例にどれだけ寄り添うことができるかに掛かる。利水者という目に見える人々ではないだけに、非常に難しい問題でもある。 20年前の維持流量は本当に適正か?  いまから13年前、2005年夏、田代川第2発電所の水利権更新を機に田代ダムの河川水量回復を目指して、大井川下流域の住民たちが「水を返せ」の大きな声を挙げた。話し合いは難航したが、ついに東京電力は地元の強い姿勢を受け、「維持流量」の放流と大井川への流水還元を行った。  そう、来年3月、二軒小屋発電所が水利権更新を迎える。中部電力が水利権更新を国交省静岡河川事務所に申請した際、静岡県の意見を聞くことになる。いまのところ、担当課の静岡県河川企画課は何ら意見を予定していない、という。  当然、「環境変化」がない限り、中部電力は20年前と同じ維持流量を提示するだろう。維持流量に必要な要素の中にイワナの生息環境も含まれるが、国交省は同じ維持流量で問題ないと判断する可能性は高い。  中部電力、国交省ともリニア南アルプストンネル建設での水生生物への影響は考慮の対象外である。今後、静岡県の環境保全連絡会議では水生生物への影響がテーマになるはずだが、その議論の行方は来年3月末の水利権更新に反映されないだろう。 静岡県、静岡市の連携が必要  静岡県、静岡市は早急に意見交換を行い、相互に連携して維持流量の改善を中部電力に求めるべきではないか。ヤマトイワナにとって、毎秒0・1トン程度の維持流量が適正か?他の水生生物はどうか?リニア南アルプストンネルの影響は?エコパークにかかわる人々の意見を広く聞くべきだ。  20年前の維持流量は現在も適正か?そこが問題の出発点だ。  維持流量の考え方は、河川の適正な利用や河川の正常な機能を維持するため必要な流量として、1988年国交省(当時は建設省、通産省)がガイドラインを決めた。その当時、環境に対する配慮は含まれていなかった。  91年環境庁が初のレッドデータブックを発刊。その後、97年国交省はようやく河川法を改正して地域環境への配慮を盛り込んでいる。環境アセス法が成立したのも同じ、97年である。  二軒小屋発電所は95年7月に運転を開始している。当時は、「生物多様性の保全」に対する姿勢は希薄だった。97年にアセス法が施行されたが、生物環境をめぐる事後調査を行ってはいない。このような社会情勢の変化も「環境変化」ととらえるべきではないか。 いちばん困るのはJR東海  県、市は最近の資料を集め、国交省へ意見を提出すべきだ。ことし3月、静岡市の調査報告でヤマトイワナの生息を確認した。ところが、JR東海のアセス調査ではヤマトイワナは文献のみで、生息を確認していない。  今回のタイトル写真を再掲する。魚体に斑点があるのが移植されたニッコウイワナ。昨年の日本魚類学会で川嶋専務は「斑点のあるのが通常ニッコウイワナだが、斑点のあるヤマトイワナを遺伝子レベルで発見している」と発表。大井川ではニッコウイワナ、ヤマトイワナの混雑種も当然現れているが、純粋のヤマトイワナは西俣川、東俣川上流に確実に生息する、と静岡市の調査員が証言してくれた。  現在作成中の改訂レッドデータブックで大井川のヤマトイワナは、さらに危険度の高い「絶滅危惧1A類(ごく近い将来に絶滅する)」に分類される。ヤマトイワナの生息範囲はますます狭まっている。差し迫った「絶滅の危機」も「環境変化」ではないか。  魚類研究者らは「今回のリニアトンネル建設を機に中電からもっと水を出してもらわなければ、ヤマトイワナは確実に絶滅する」と訴える。  中部電力の「維持流量」がそのままに水利権更新され、ごく近い将来の「ヤマトイワナの絶滅」にゴーサインをだしたとき、いちばん困るのは「ヤマトイワナ」は生息していないとアセス報告を出したJR東海ではないか。リニアトンネルの影響という新たな「環境変化」に対応できるの唯一の方法は「維持流量」の改善しかないと考えるが、違うのだろうか?

ニュースの真相

三島市長選の真相 「品格」を見抜く責任は?

高さ変更「歓迎」の記事  「中止をするなら私を殺して」。7月23日、三島市役所で三島駅前再開発事業に反対する市民団体を前に豊岡武士市長が突如、靴を脱いで、部屋の壁を前にして座り込み、「はい、どうぞ殺してください」と目をつむり、両手を合わせて首を下げた。打ち首を待つようなパフォーマンスは全国ニュースに流れ、大きな話題を提供した。市長はその後の記者会見で「再開発事業に対して不退転の決意を示した」と述べた。  4日の知事会見で、読売新聞記者が「三島市長は知事の考えを踏まえて高層タワーマンションの高さを下げると表明した。これについての知事の受け止め方は?」と質問。川勝平太知事は「歓迎する。一方、コンペで負けたグループの計画は勝ったグループより高さは低かった。そちらとの調整をしなければならないのでは」と疑問を呈した。  5日付中日新聞朝刊は『三島再開発 高さ変更「歓迎」』の見出しで知事会見を記事にした。その記事によると、事業計画では、高さ99・5メートル、24階建ての高層マンション建設に対して、知事は「三島駅の玄関口にふさわしくない」と反対、豊岡市長は11月22日の記者会見で「高さを下げる必要がある」と表明し、知事や計画に反対する一部住民に配慮する姿勢を見せた、という。  もし、知事発言のように高さを下げるならば、コンペで負けたグループは黙っていないだろう。本当に大丈夫なのか? 「高さ下げる」表明は記者の誤解?  三島市を取材すると、担当者は「市長は高さを下げるとは表明していない」と驚くような発言をした。もし不審があるならば当日の記者会見資料がHPにあるので読んでくれ、という。  豊岡市長の発言は「高さを下げる必要があると感じておりますので、準備組合や事業協力者に相談するよう、職員に指示をしております」とある。担当者に聞くと、市長は単に「必要を感じている」だけにすぎず、これは”検討する”というたぐいの話らしい。いまだ、市長の指示に従って、高さをどうするかという話し合いは持たれていない。通常、行政の”検討”とは”やらない”に等しい。「高さを下げると表明」は記者たちが誤解しているというのだ。地権者、事業協力者と”検討”して、三島市はマンション計画を変えない可能性がはっきりした。当然、高さは99・5メートルのままだ。  何かおかしい。 選挙の争点から外す戦略  8日三島市に出掛けた。9日告示、16日投票という市長選の掲示板がいたるところにあった。  そうか、選挙前だったのか。7月の”首切り”パフォーマンスに続く、豊岡市長の「不退転の決意」を示す、したたかな選挙戦略だと分かった。知事らに配慮して「高さを下げる必要があると感じている」と”リップサービス”をすれば、選挙の争点から「高層マンションの高さ」は外れてしまう。新聞、テレビが市長発言を誤解してくれれば、まさに市長の思うツボである。  選挙選が終わり、しばらくたってから、3者協議したが、相手側の了承が得られないので、高さは計画通りにすると再表明すればいい。豊岡市長は最後まで「高さを下げる必要」を感じていたが、結果、そうならなかったとしても、市長の責任ではない。当初の計画通りに進めることが3者にとって都合がいいだろう。ただ、選挙前、高さに反対していた市民は「下げる」ものと誤解して、現職候補を支持するかもしれない。  市民(選挙民)はマスコミ報道を信じる。なぜ、記者たちは市長発言を誤解したのか? 「知事の品格」が問われた選挙戦略  2001年7月の静岡県知事選挙。当時、2006年開港予定の静岡空港へ即時中止を求める動きが活発だった。新聞、テレビがむだな大規模公共事業の典型として静岡空港特集がしばしば組まれ、厳しい批判が寄せられていた。その動きの中で、現職知事への対立候補として、元西武百貨店社長が出馬表明、石原慎太郎東京都知事、田中康夫長野県知事、石原軍団と呼ばれる芸能人ら多数が支持を表明、激しい選挙戦が予想されていた。  ところが、空港推進を訴えた3期目の現職が圧勝した。選挙のほぼ2カ月前、現職は空港反対勢力が求める住民投票条例案に賛成して、空港建設は「住民投票の結果に従う」と表明、住民投票案を採決する議会は知事選後に行われることになった。それで、「空港建設の是非」は選挙戦の争点からかき消されてしまった。  現職知事の当選だけで空港建設推進という結論を持つ者はいなかった。空港反対の県民だけでなく、一般の多くの県民が初の住民投票を望み、空港建設の是非を問うことに期待した。予定通りだったのか、過半数を占める自民党県議らが条例案を否決した。住民投票案に賛成した知事が、空港建設が県民をいかに幸せにするのか問いたいと、議会に強く訴えることもなかった。  住民投票条例案賛成は単に姑息な選挙戦略だった。政治家としての器の小ささにがっかりした者が多かった。2009年3月、4期目の知事は空港開港前に建設地の立ち木問題の責任を取り、失職した。県知事選当時、空港利用者150~160万人という予測は半分以下に下回り、毎年赤字を出し続けている。「知事の品格」を見抜けなかった選挙民の責任かもしれない。 ”ミスリード”は現職に有利  三島市の豊岡市長は巧妙な発言を行っていた。記者会見でどの程度低くするかの問いに「技術、経済効果、採算性など多角的に事業者が最終判断する」(静岡新聞)と、高さを下げることを前提にした答弁をした。そのような答弁に記者たちは”検討”ではなく”実施”と誤解したのだろう。  29日の市議会で、三枝邦昭計画まちづくり部長は「知事の考えを踏まえ、高さを下げる」と答弁したと静岡新聞が報道。三島市に確認すると、あくまで市長発言を繰り返しただけで「高さを下げる」とまで明言していない、という。ほぼすべての記者が頭から市長発言を誤解しているようだ。  マスメディアの”ミスリード”は市長選で現職に大いに有利に働くのだろう。「市長の品格」を見抜けないツケはどんなかたちで回ってくるだろうか?

ニュースの真相

リニア騒動の真相5 「富士山」情報戦スタート

製紙工場の煙突が世界遺産を妨害?  熾烈な企業買収の世界を描き、NHKドラマ化され人気を呼ぶ、経済小説の第一人者、真山仁著「ハゲタカ」シリーズ。最新作「シンドローム」(講談社、2018年8月)は、東日本大震災後の東京電力(小説では「首都電力」)買収をテーマに政府、電力会社、投資会社の抗争を描いている。その中で、主人公鷲津政彦が保守党最高顧問の政治家、東海林莞爾に策を弄して近づく場面が登場する。  山梨選出の東海林の悲願は富士山の世界遺産登録だった。「富士山こそ日本の魂と主張する東海林はあらゆる手を尽くして、世界遺産登録を画策していたが、静岡側の麓にある大量の製紙工場の存在が禍して、成果を出せずにいた」。その情報を得た鷲津はユネスコの承認を得るためにコネを使った。  ”富士山の世界遺産登録に静岡側の製紙工場が禍(わざわい)?”  その印象的な一節が頭の片隅に残ってしまった。小説とは言え、なぜ、真山氏はそんなありもしない事実を持ってきたのか? 真山仁氏の「誤解」と「事実」の境  その直後、真山氏の最新作「アディオス!ジャパン」(毎日新聞出版、2018年10月)を読んで、はっきりとした。こちらは小説ではなく、「外からの視点でニッポンを見つめる」をテーマにしたノンフィクション。エピソード4「ビバ!富士山」で初の富士登山体験を記し、世界遺産登録の意義などを語っている。  『地元はもともと世界自然遺産での登録を狙っていた。日本の象徴的な山である。ある意味当然の申請だったが、自然遺産登録では「絶対に無理だろう」というのが、世界遺産の詳しい人たちの共通意見だった。  絶対と断言するのは、パルプ工場が静岡側の裾野に広がっているからだ。製紙業は、「公害型産業」などと言われる悪名高き産業である。1970年代には、富士山のお膝元の景勝地である田子の浦で、ヘドロ公害が問題になった。(略)東海道新幹線の車窓から富士山を眺める時に、無数の製紙工場が建ち並んでいて興ざめするのはまぎれもない事実だ』  多くのビジネスマンらが手にする週刊ダイヤモンドで「ハゲタカ」シリーズ、「アディオス!ジャパン」は週刊エコノミスト連載だった。今回のカルロス・ゴーン逮捕のあと、真山氏はNHKスペシャルをはじめ、数多くのテレビ、新聞に登場したオピニオン・リーダーでもある。「真山組」と呼ばれるスタッフを抱えて、小説でも東日本大震災など事実に基づいた情報を集め、分析している。当然、富士山の世界遺産登録でもしっかりと情報を集めさせたはずである。  ところが、真山氏は富士山世界遺産登録を書いた短い文章で少なくとも3つの誤解をしている。危険なのは、真山氏の「誤解」がいつの間にか「事実」として喧伝されていくことだ。もしかしたら、そうなることを意図して書いたのか?  ”東海道新幹線の車窓から富士山を眺める時に、無数の製紙工場が建ち並んでいて興ざめするのはまぎれもない事実だ”。この事実を伝えるために、富士山の世界遺産登録を持ってきたのかもしれない。  そうか、すでに「富士山」とリニア中央新幹線をめぐる情報戦がスタートしていたのだ。 富士山と新幹線は切り離せなかった  2015年9月、静岡県主催の富士山と世界遺産のシンポジウムが開かれた。日本美術史を専門にするロンドン大学のタイモン・スクリーチ教授が「富士山について、どんなイメージを持つのか」という問いに、即興的に簡単な絵を描いた。それは「新幹線と富士山」だった。タイモン教授は「日本を紹介するとき、富士山を写したあと、その手前をあっという間に新幹線が通り過ぎる映像をよく見る。ほとんどの外国人は富士山と言えば、新幹線と一緒の映像を頭に浮かべる」と説明した。  大阪万博を記念した切手をはじめ、さまざまな映画、テレビなどでおなじみの場面だ。いままでは、富士山と言えば、東海道新幹線が欠かせなかった。  しかし、リニア新幹線の登場によって、それががらりと変わるのだ。静岡駅構内にJR東海によるリニア説明パネルには、2027年からおなじみになるだろう、印象的なリニアと富士山の写真を展示してある。(タイトル画像)。いずれ、このような写真が世界中で使われるだろう。  リニアと富士山は切っても切り離せない存在となる? 真山仁氏の3つの誤解  真山氏の3つの誤解を説明する。1つ目は「世界遺産登録が絶対無理だったのは、静岡側の大量の製紙工場群」。2つ目は「地元はもともと自然遺産での登録を狙っていた」。2つは密接に関係している。  2013年、文化庁の本中真・主任調査官が月刊文化財「特集 世界遺産富士山」で「20年に及ぶ世界遺産登録記載への道のり」を書いている。  ちょうどその20年前だ、1993年から3年間余、わたしは富士山を世界遺産に登録する最初の運動に取り組んだ。そのきっかけは、過剰利用からIUCN(国際自然保護連合)総会で最も危機に瀕する国立公園と指摘されたからだ。大挙して訪れる観光客によるごみ、し尿問題、富士スバルライン、富士山スカイラインと直結した観光施設群、手入れされない森林の崩壊、オフロード車の横行などさまざまな問題に直面していた。世界遺産と富士山を結びつけることで環境問題解決の糸口を見つけようとした。  世界遺産は国内法での保全措置が求められる。富士山の場合、文化庁の文化財保護法、環境庁(当時)の自然公園法によって保護されているはずだった。ところが、どちらの法律も「ザル法」で、富士山の保全には全く機能していなかった。  「100万人」署名運動をスタート、全国から246万人もの署名が集まり、いくつもの段ボール箱に入った署名を国会に持ち込み、世界遺産登録に向けて国会請願を行った。大量の署名にびっくりした環境庁、文化庁とも「本当に富士山を世界遺産にしたいならば、『文化的景観』という新たなジャンルで文化遺産登録を目指すように」と親切に指導してくれた。 「文化的景観」とは何か   自然遺産の場合、世界で一番高い、広い、大きいとか、その地域に唯一の貴重な動植物とか他との比較が重要だった。保全管理でも文化遺産に比べて、厳しい規制が求められた。富士山のようなコニーデ型火山は世界中に数多くあり、また動植物の存在を含めて、自然遺産にふさわしい特別の存在ではなかった。  世界自然遺産と富士市の製紙工場群は全く無関係であり、また、地元のわたしたちは最初から、文化遺産を念頭に世界遺産登録へアプローチした。   「文化的景観」という新しい基準の取材のために、ニュージーランドのトンガリロ、オーストラリアのウルル(日本では「エアーズロック」と呼んでいた)を訪れた。トンガリロは先住民族マオリ族の神が住む山々、ウルルはオーストラリアの原住民族アボリジニの聖地だった。すでに自然遺産だったが、新たに「文化的景観」として文化遺産にも指定されたのだ。  「文化的景観」とは、自然景観がそこに住む人々の信仰、文化と強い結びつきを持つことが重要だった。「文化的景観」だけで文化遺産に指定された例はなかった。マオリ、アボリジニとも入植したヨーロッパ人たちから長い間、過酷な扱いを受けてきた。「文化的景観」という考えに先住民族の信仰、文化を尊重することで、彼らとの関係を改善しようという意図がはっきりしていた。世界遺産が西洋のヒューマニズムという価値観で生まれたものであることを再認識した。「日本の象徴」「日本の魂」とは違っていた。 富士山・世界遺産と観光振興  約20年前、世界遺産運動に取り組んだ最大の成果は、富士山地域では「ザル法」だった規制を大きく変え、保護・保全地区と利用地区を区別して、特に保護すべき地域には厳しい規制を敷くことができたことだ。それによって、富士山の保護・保全は大きく前進した。  3つめの真山氏の勘違いは「日本は権威に弱い。逆に言えば、世界遺産という金看板があれば、観光客はわんさかやってくると信じている」と書いたことである。本中調査官は「いまでも過剰利用の富士山だが、世界遺産登録をきっかけに、しっかりとした規制が始まるから期待してほしい」と登録の意義を話した。過剰利用で傷つく富士山の環境を守ることが世界遺産登録の最大の目的だった。  それでも、世界遺産登録によって、山梨側が観光産業振興に大きな期待を寄せたことを否定しない。  戦後になって交通の便がよくなるまで、山梨の人々は富士山を「疫病神」「貧乏山」と呼んでいた。南側の静岡は太陽をいっぱい浴びて、海では魚がとれ、作物も樹木も豊かだ。それに比べて北側は土地はやせ、水も不便で、日陰で寒くてかなわない。貧乏なのはあの山のせいだなどと山梨の人々がぼやいていたことをよく知っている。だから、観光地・山梨県の富士山への依存度が静岡県に比べて非常に大きいのは当然だ。  タイモン教授が言うように、富士山と言えば、新幹線がイメージされてきた。そのために、山梨側には、富士山は静岡のものという強い危機意識があった。リニアの登場によって、そのイメージが変わる。山梨側にとっては絶好のチャンス到来だ。 「情報戦」とは何か?  山梨側に残念なことは、リニア車窓から富士山を眺望することはできそうにないことだ。騒音対策のために地上走行区間をコンクリート製防音フードですっぱりと覆うからだ。車窓から富士山を見ることはできないが、それに代わる映像が流されるだろう。ただし、リニア利用による山梨側を入口とした富士山観光客は大幅に増えるだろう。  ところで、正確な情報の価値、事実を重んじる真山氏がなぜ、3つもの「誤解」をしてしまったのか?  「富士山の世界遺産登録」から「東海道新幹線の車窓から無数の製紙工場が建ち並んでいて興ざめする」と結論づけられれば、なるほどと誰もが思うだろう。「真山組」に、間違った情報を吹き込んだ者がいるはずだ。そして間違った情報は次々と拡散していく。それを食い止めなければ、”富士山の世界遺産登録に静岡側の製紙工場が禍(わざわい)していた”が事実としてまかり通ってしまう。  リニア南アルプストンネルをめぐる問題について、静岡県とJR東海はようやく、議論の緒についたばかりだ。議論を聞いていて、間違った情報と客観的な事実を混在させることで、正確な真相を見抜くことを難しくさせる危険な場面に出会う。  リニア南アルプストンネル問題でも「情報戦」が仕掛けられていると見たほうがいい。「情報戦」とは単純な勘違いや偽装(思い込み)と正確な事実を混ざ合わせ、自分たちにとって都合のよい結論を導き出すことだ。  「富士山」情報戦では過去の経験を踏まえ、正確な事実を伝えることができた。「リニア南アルプス」情報戦はさらに複雑怪奇なものになるだろう。「情報戦」が始まっていることを肝に銘じなければならない。

ニュースの真相

リニア騒動の真相4 川勝知事の「飲水思源」

中国・成都郊外の「飲水思源」碑  「飲水思源」。約2千年前、長江の支流に築かれた都江堰は中国最古、当時最大の灌漑施設だった。その立地、構造に優れた都江堰があったからこそ、成都平原はうるおい、四川省の都・成都が長い間、栄えたのである。「水を飲む者は、その源を思え」。都に住む者たちにとって忘れてはならない大切なことばだった。水は生命の源であり、その水を生み出す遠い、遠い源流の地に思いを馳せよ。成都郊外の都江堰にいまも「飲水思源」碑が建っている。 会議は「ガス抜き」と考えるJR東海  21日に静岡県庁で「静岡県中央新幹線環境保全連絡会議」の議論を聞いていて、川勝平太知事が唱える「飲水思源」の思想はJR東海出席者の耳には届いていないことだけがわかった。多分、この議論を何度繰り返しても、知事の思想をJR東海に理解させることは非常に難しいだろう。  「昨年9月に合意協定寸前まで行ったのに、いまになってなぜ、知事がごねているのか、その理由がわからない」と会議後にJR東海社員の一人が正直に話した。会議は「ガス抜き」と考えているのだ。それは、澤田尚夫JR東海環境保全統括担当部長が会議後、記者の囲み取材で述べたことばではっきりとしている。  「きょう発表した資料に新しいものはひとつもない」。そう言い切ったのである。  これは真っ赤な嘘である。JR東海が当日配布した資料「水収支解析で使用した地質調査」で、鉛直ボーリングを実施したのは計画路線上の3カ所しか記されていない。このため、専門委員が「二軒小屋付近でも鉛直ボーリングを行うべきではないか」とただした。これに対して、待っていましたとばかり、澤田部長は新たなスライドを見せて、二軒小屋付近でも3カ所の鉛直ボーリングを過去に実施した、と説明した。  「澤田部長が使ったスライドは新しい資料ではないか」とわたしが聞くと、「専門委員から鉛直ボーリングをやれ、と言われたから、既にやっていると答えただけだ」と答えた。しかし、そのスライドが「新しい資料」であることをあっさりと認めた。  なぜ、そのスライドが配布資料に含まれていないのか、本当に鉛直ボーリングを行い、どのような結果が出たのかなど肝心な答えはなかった。何か尋ねれば、新しいものが次々と出てくる可能性だけは否定できなくなった。しかし、JR東海はそのような質問自体が瑣末なことで本質的な議論とは別である、と考えている。だから、「きょうの資料に新しいものはない」とまで言い切っているのだ。 「入口」が全く違う静岡県とJR東海  静岡県の河川法の許可権限を背景にした、知事の強硬な発言にこたえ、10月末になって、ようやくJR東海は「原則的に全量を戻す」と表明した。これで問題はすべて解決したと見ている。「大井川の中下流の水資源利用に影響はない」とJR東海は主張し、川勝知事の「静岡県民62万人の生命の問題」という発言に首をかしげている。知事の「飲水思源」という思想がそもそも理解できないのだ。  JR東海は南アルプスリニアトンネルの影響が及ぶ範囲を椹島周辺と考え、知事は大井川の水を利用する中下流域まで影響すると見ている。双方の議論の入口が全く違うのだから、いつまでも平行線で議論は交わらないだろう。  そもそもリニア中央新幹線南アルプスルートを採用したときに、南アルプス地域の影響は議論の対象となったが、静岡県中下流域への影響などだれも頭に浮かべなかった。関係者すべてが、静岡県など取るに足りない存在と見たのだ。  そして、いまJR東海を何とか、その議論の入り口まで引っ張り出した。 リニアは静岡県の経済的な停滞状況をつくる  2005年国交省交通政策審議会新幹線小委員会で南アルプスルート、伊那谷ルートを比較した資料を見ると、東京ー大阪間がリニアで結ばれた場合とリニアが存在しない場合の利用客数を予測していた。  リニアがない場合、東海道新幹線東京ー大阪間の利用客は936万人(70%)、その他30%は航空や車を使うことになる。リニアが開通した場合、1151万人がリニア(70%)、東海道新幹線は226万人(14%)、残りはその他になる。リニアによって、6百億円以上の地域経済に効果があり、山梨、長野の世帯当たり所得が大幅に伸びると説明している。  それでは静岡県はどうなるのか?  JR東海にリニア開通後、東海道新幹線利用客が大幅に減ってしまう静岡県のメリットは何かあるのか、教えてくれるよう何度もたずねた。回答はJR静岡駅構内のリニア説明パネルにある「ひかり、こだま号が増え、便利になる」というものだけだった。他にはいまのところ回答できるものはないらしい。つまり、静岡県の産業、経済は山梨、長野などに比べて、深刻な”停滞”状況に入ると言うことだ。 リニアによって大打撃の静岡県  2010年10月、新幹線小委員会は、南アルプスルートが伊那谷ルートに比べて費用、経済効果とも大幅に上回ると上申した。環境的な理由を含めて、多くの経済的なメリットを挙げた。年間約9百億円もJR東海の利益は上回ると見積もった。当然、その利益の一部を、リニアによって極端に利用客減少が見込まれる東海道新幹線振興策へ回すという議論などなかった。  当時の資料に、伊那谷ルートに53の代表的な湧水があるが、南アルプスルートはゼロであり、湧水をひとつも破壊することのない南アルプスルートが環境的優位性に勝るとしていた。南アルプスエリアのみを近視眼的に見ただけで、中下流域の影響など考慮する資料はひとつもなかった。当時の小委員会メンバーに河川工学や地質工学の専門家は含まれていなかった。  21日の会議で、静岡県中央新幹線対策本部長の難波喬司副知事が「協議方針」の資料を配布した。そこに「リスク(危険度)」と「ハザード(危険の源)」の説明があった。リニア南アルプストンネルが「ハザード」であり、静岡県民の生命が「リスク」である。知事の「飲水思源」の思想であり、JR東海には無縁のことなのだろう。知事、副知事は、リニアトンネル建設だけでなく、リニア開通後の「リスク」も議論されるべきだ、と見ているのではないか。副知事の協議方針に「リスクコミュニケーション」とあった。お互いの「リスク」を理解した上で、互いに歩み寄れば、成果が生まれる。だから、コミュニケーションを求めている。JR東海はリニア開通によって、さまざまな便益を得る予測をしているが、静岡県は水環境を含めてさまざまな損失をこうむる。そのアンバランスをたださなければならないのだ。 人口減少に歯止めがかからなくなる  知事も副知事も「河川法の許可権限」を取引材料にしないと重ねて明言した。これはその通りである。しかし、リニア開通後に最も大きな痛手をこうむるのは、島田、掛川、焼津、藤枝などの地域である。静岡市だけでなく、この地域の人口減少に歯止めが掛からなくなるだろう。そのとき、政治が何をできるのか。そこに知事、副知事の戦略がほの見えてくる。  リニアトンネル建設とともにJR東海にとって東海道新幹線の振興策は大命題だ。JR東海は、静岡県とともに、この問題に汗をかくと表明すればいいのだ。静岡駅構内の説明パネルの「ひかり、こだま号が増え、便利になる」。そんな木で鼻を括ったような回答では、この問題はいつまでも解決しないだろう。 「水の源流を妨げる者たちは、水を生命とする者たちに思いを馳せよ!」

ニュースの真相

川勝VS田辺1 ”歴史博物館”建設は棚上げを!

駿府城跡地が博物館機能を有する  川勝平太静岡県知事は6日の記者会見で、2021年秋以降にオープン予定の静岡市歴史文化施設建設を「いったん棚上げすべき」という意見を述べた。「駿府城跡地自体が博物館機能を有し、旧青葉小学校跡地に博物館を建設すれば二重投資になる」という理由書を静岡市に送っている。それに対して、7日、田辺信宏市長は来年4月の市長選出馬表明とともに、「歴史文化施設建設の見直しはしない」と明言した。  今回の川勝知事と田辺市長との論争では、軍配は知事に上げるべきだ。 「世界の笑い物」になる可能性  知事の「駿府城自体が歴史博物館である」という認識は正鵠を射ている。本サイトでも「大御所石垣公開プロジェクトを目指せ」(https://shizuokakeizaishimbun.com/2018/11/11/oogosho/)という記事をUPしている。それだけではない。この博物館計画を調べていくと、あまりにずさんな内容が明らかとなった。「世界に輝く静岡」5大構想の1つとしているが、このままでは50億円から60億円という多額の事業費が無駄になることは想像に難くない。「世界に存在感を示す」を掲げているが、「世界の笑い物」になる可能性さえある。  将来に禍根を残してはいけない。田辺市長には「説明責任」が生じている。いったん、この大型プロジェクトを中止すべきだ。 展示目玉は本物ではなく「レプリカ」  何よりも、歴史博物館をなぜ、つくるのか、その理由を説明しなければならない。コンセプトが最も重要である。静岡市と静岡県が共同で取り組んだ「日本平夢テラス」は「日本一の富士山眺望」を訪れる観光客に楽しんでもらうコンセプトがあった。本サイトでは「日本平夢テラス ”稼ぐ”ことを意識せよ」という記事をUPした。(https://shizuokakeizaishimbun.com/2018/10/31/n/)  翻って歴史博物館の展示内容を見ればコンセプトが明らかになる。静岡市の説明によると、目玉展示は久能山東照宮所蔵の家康所用「歯朶具足」(国重要文化財、右の写真)、静岡浅間神社所蔵の伝家康着用「紅糸威腹巻」のレプリカだという。この2つのレプリカ制作費用が7千万円という金額にも驚いたが、目玉展示がレプリカで、そのために50億円以上の施設事業費を掛けるのは異常である。これで観光客を博物館に呼び込めるはずもない。 本物展示でも来館者は少ない  久能山東照宮博物館は家康所用の3つの甲冑(歯朶具足、金陀美具足、白檀具足)など国宝、重要文化財78種185点、歴代将軍の63領もの甲冑など2千点もの将軍コレクションを所蔵している。しかし、観光客の多くは14棟の国宝社殿や重要文化財の楼門、神楽殿、家康神廟(墓)などを参拝していくが、博物館への来館者は非常に少ない。もっと悲惨なのは、「紅糸威腹巻」を展示する静岡市文化財資料館(静岡浅間神社内)にふだん、ほとんど来館者の姿がないことだ。たとえ本物を展示していても、博物館を訪れる観光客は少ないということをまず、認識すべきだ。  そのために、久能山東照宮ではスペイン国王から家康に贈られた西洋時計(重要文化財)のレプリカを制作、本物の隣に並べて来館者を増やす努力をしている。大英博物館キュレーターから絶賛された西洋時計は摩耗を防ぐため保存展示して、その代わりに、内部の状態を見せる精巧なレプリカを動態展示している。ロンドンの古時計保存管理士による制作費用は約1千万円。日本を代表する複数の甲冑師に聞いたが、7千万円という甲冑レプリカ費用に首をかしげ、その値段に見合う来館者はないと断言した。 「徳川家康ミュージアム」の失敗  静岡市によると、歴史博物館ではビジュアルに家康の生涯を見ることができることも「売り」だと説明した。  2006年11月にオープンした「徳川家康ミュージアム」(静岡市駿河区古宿)をご存じだろうか?歯朶具足(レプリカ)着用の関ヶ原合戦に向かう馬上の家康をはじめ、家康の生涯をビジュアルに紹介、さまざまに展示の工夫が施された。目玉の一つとして家康の眼鏡、日本最古の鉛筆、コンパスなど精巧なレプリカを展示。さらに、施設隣に久能山東照宮の分社まで設置した。ところが、訪れる観光客はほとんどなく、現在、閉鎖状態である。  歴史博物館は、徳川家康と今川義元をメーンテーマに「観光施設」として多くの観光客が足を運ぶような博物館を目指しているというが、現状や過去の事例などを見れば、オープン前から将来の悲惨な姿が予測できる。  ここは、川勝知事の「いったんガラガラポンにすべき」という意見に従うべきだ。「日本一の天守台跡発見」などによって、駿府城跡地の利活用は今後議論されていくのだから、いったん中止にする理由は十分ではないか。施設設計費などの違約金を支払うのも仕方ないだろう。  わたしは地下に「大御所石垣公開施設」をつくり、地上には来館者が数多く訪れる博物館のアイデアを次回の「ニュースの真相 川勝VS田辺2」で提案したい。