ニュースの真相

ニュースの真相

「本人訴訟」入門④静岡簡裁への疑問

調停は申立人に都合のよい制度?  静岡簡易裁判所から3月17日、3階の新所有者Kが管理組合を相手取って「68万円の債務(3階の旧所有者、廣田育英会の滞納金の支払い)を負っていないことの確認」を求める「調停期日呼出状」が届いた。  調停申立書では、廣田育英会が「専門家の意見も取り入れた上で請求自体が無効で債務がない」と言っているのに、管理組合からは何度も「支払え」と請求されるから、「公平な立場で裁判所の意見を聞きたい」と結んでいる。実際は、簡易裁判所の裁判官や調停委員から「廣田育英会(T弁護士)の主張をちゃんと権威づけ」してもらい、「Kには債務がないことを管理組合に納得させる」よう求めているのだ。  ところが、Kが簡裁に提出した証拠は、わたしがKに送ったメール5通だけである。「請求自体が無効(法的な根拠がない)」とする専門家の具体的な意見がわかる”証拠”はどこにもない。  Kには、2019年3月の管理組合総会の議決事項をはじめ、管理組合と廣田育英会とのこれまでの関係がわかる資料を手渡し、詳しく説明している。それでも、Kは、「廣田育英会(弁護士先生)」の言い分が正しくて、管理組合の説明が間違っていると判断した。Kは廣田育英会からの資料等は全くなしでも調停申立をすれば、68万円を支払わなくてもよいと考えたようだ。  静岡簡裁から寄越した説明文『調停について』は、「双方の言い分を十分に聞き、事情をよく調査して、もめごとの原因をはっきりとさせた上、双方の話し合いと譲り合いによって、実情に即した解決を図ろうとする手続き」と書いてある。「調停で問題を解決しようとしているので、あなたにも調停期日に出席していただきたい」。これでは、調停申立人のペースで問題を解決する制度となってしまう。  翌日(18日)、Kの調停に対する「照会書(回答書)」を作成、静岡簡易裁判所に持参した。  甲第5号証は、わたしの送ったメール(「滞納金はKと廣田育英会のどちらかが管理組合に支払うのであり、Kが支払ったあと、廣田育英会に請求するしかない」などと書いた)とともに、Kからわたしに送ってきたメールもついている。そのメールで、Kは「債務の話は聞いていたが、法的に存在しないから無効と聞いている」「債務関係は廣田育英会が対応する」「Kは支払ってはならない」という「契約」を交わしているから、「債務を支払えない」と書いている。  いくら何でも調停を求めるならば、滞納金の支払いを拒否する根拠、Kと廣田育英会との「契約」写しを管理組合に提出してほしい、と「照会書(回答書)」に書いて求めた。当然、”口約束”とは考えにくく、「契約」と書いてあるのだから、日付、当事者の署名があるのだろう。  さらに、甲第7号証、8号証は、わたしが廣田育英会(譲渡人)の代理となった不動産会社代表に送ったメールであり、どういう経緯か分からないが、個人情報取扱業者の不動産会社からKにわたしのメールが渡っている。不動産会社代表からわたしに個人情報開示の受諾の要請はなく、いくら内容に問題がないとしても、勝手にわたしのメールを渡すのは個人情報保護法を逸脱する。手続きに不備のある証拠の却下を求めた。  「照会書(回答書)」を提出するとともに、なるべく早く「本人訴訟」を起こすので、調停は「不調」にしてほしい、と伝えた。  調停期日呼出状には「正当な理由なく出頭しない場合は、5万円以下の過料に処せられることがある」と書いてあった。静岡簡裁に起こす「本人訴訟」は、「正当な理由」に当たらないということか。 「訴訟」を起こすのに、「調停」が必要か?  調停呼出期日は4月28日午後1時半。わたしは、3月22日、静岡簡裁の同じ書記官に「本人訴訟」の書類を提出、受理された。調停まで1カ月以上もある。書記官から「調停」と「訴訟」とも同じ簡裁判事と伝えられた。当然、簡裁判事は照会書(回答書)と訴状を読んでいるはずなのに、一切、連絡はなかった。  3月22日に「本人訴訟」を起こした際にも、わたしは書記官に調停不調を求めたが、書記官は出席を要請した。本人訴訟を起こしたのだから、調停は「不調」となることは明らかなのに、調停を行う理由が分からなかった。  4月28日、調停の席で「不調」を確認されただけで、何らかのコメントはなかった。せっかく、出席したから、M簡裁判事(男性)に「照会書(回答書)」はどうなったのか尋ねた。  M簡裁判事の反応は全くなかった。わたしが不動会社代表に送ったメールについて尋ねると、「裁判の証拠であるならば、個人情報保護法違反には当たらない」とM簡裁判事は答えた。個人情報保護法はそんな緩い法律なのか?   男女2人の調停委員(何の専門家なのか説明がなかった)は何らの質問もなく、ただにこやかに座っているだけだった。当然、報酬は支払われているのだろうから、これは”税金”のムダである。わたしにとっては、時間のムダだった。 「訴状」は問題なく受理されたがー  前後するが、3月17日に調停申立を受けると、すぐにでもKを被告とする68万円の滞納金請求訴訟を起こすことを決めた。140万円以下の訴訟を担当する簡易裁判所を訪ね、手続きについて聞いた。  簡易裁判所では、記載例に沿って、手書きで「訴状」を簡単に作成できるようなテンプレート(定型書式)を用意していた。空欄に必要事項を記入していく方式。手書きだけに、一度、失敗するとすべて使えなくなる恐れがある。特に「紛争の要点(請求の原因)」を、わかりやすく説明するためには、何度も書き直す必要がありそうだ。空欄もそれほどのスペースはなく、長くなっても構わないとのことで、裁判所作成のひな型を基に、パソコンで「訴状」をつくることで問題なかった。  記載例は「看板の取り外しで業者が看板を落としてしまい、原告の盆栽が台無しになった。弁償するよう求めたが、請求に対して支払いをしていないので、被告に8万円の損害賠償を請求する」という単純な事件だった。  このような単純な事件でないことは確かであり、なるべくわかりやすく書いて、ちゃんと説明しなければ理解してもらえないだろう。「紛争の要点(請求の原因)」だけで3ページを要した。  申立手数料は、10万円まで1000円、20万円まで2000円と10万円ごとに1000円ずつ増えていく。68万円は、70万円までだから7000円の印紙、被告へ送る切手代5330円の計1万2330円を用意した。  訴状は、裁判所と被告の2部必要であり、これまでの主張をそのまま書いた。マンション管理組合は法人格を持たないので、2021年3月の管理組合総会で訴訟を行うことを決めた議決事項を証拠とすれば、わたしが管理組合理事長であることが分かるから、総会議決の提出が必要と、と説明を受けた。  わたしから不動産会社を通じて、被告に68万円の滞納金を告知したメール、「非居住者の住民活動協力金」について法的根拠が示されていない廣田育英会からの2通の「通知」、「非居住者の住民活動協力金」に関わる管理規約の改正部分などの写しを証拠として提出した。  この訴訟の第1回口頭弁論は5月11日午前11時半から静岡地裁第101号法廷と決まった。(4月28日の調停期日までにKにも到着していたはずだ。それなのに、調停を行うのはやはり、おかしい) なぜ、静岡地裁へ「移送申立」なのか?  4月28日、調停で簡裁に出向くと、Kの被告訴訟代理人T弁護士(廣田育英会常務理事)による「移送申立書」を書記官から手渡された。これには、びっくりした。  T弁護士は4月22日付で静岡簡裁から静岡地裁へ移送するよう求めていた。ここで初めてT弁護士がこの裁判に参入したことを知った。「移送申立」の理由は、「管理規約で静岡地方裁判所を第一審管轄裁判所としているから、本件訴訟の管轄は静岡簡易裁判所ではない」としている。単に裁判を長引かせることがT弁護士の狙いと見て、この申立書に対して、反対意見書を4月30日、静岡簡裁に提出した。  結局、M簡裁判事は5月7日、「本件を静岡地方裁判所に移送する」という決定を下した。T弁護士の移送を求める理由ではなく、事案が複雑であるなど内容によっては、適正・公平な解決を図るために、事件を簡易裁判所から地方裁判所に裁量移送できると民事訴訟法18条で定めている。M簡裁判事は民事訴訟法18条を適用した。  そうなると、「本人訴訟」の内容をM簡裁判事はちゃんと読んでいたはずなのに、そのまま調停を行ったのは、おかしいということになる。M簡裁判事には、4月28日の調停期日の1カ月以上も前に、わたしの訴状が届いたはずだ。それほど複雑な事案ならば、調停になじまないとその時点で判断すべきでないのか。  『「本人訴訟」入門③法的根拠はあるのか?』の冒頭に書いた通り、「ものすごく単純な裁判」と考えていたが、M簡裁判事の見立てはそうではないことが分かった。背景には、「弁護士先生」がお出ましになった要因が大きい。こちらがいくら「ものすごく単純な裁判」と考えても、「弁護士先生」が相手となると「複雑な事案」となるのが、M簡裁判事の見立てらしい。  民事裁判に限らず裁判は、裁判官の心証で決まる。だから、判決の認定が必ずしも真実でない場合もある。M簡裁判事は、T弁護士の移送申立のあと、民訴法18条の「複雑な事案」であると、さも、法律家らしい脚色を加えて裁量移送の「決定」を下した。  結果的に、T弁護士の主張がそのまま通ったことになる。『「本人訴訟」入門②「弁護士」肩書の威力』通り、専門家(「弁護士先生」)に素人(管理組合理事長)が立ち向かうのは、民事裁判の上では、大いに不利ということがはっきりとした。簡裁判事らへの疑問がその思いを強くした。 静岡地裁へ移送して良かったのだ  6月7日付で、静岡地裁民事第1部書記官から「事務連絡」が到着した。静岡簡裁への疑問が大きかっただけに、この「事務連絡」もT弁護士の画策によるもの、と頭から思い込んでしまった。  「事務連絡」には以下のことが記してあった。  1、「資格証明」、①代表者である理事長が選任された総会議案書及び総会議事録又は理事会議事録を提出してください。②理事長の資格証明書(理事長以外の理事2名の連署により、現在も理事長とされているのものが代表者であることを証明するという内容の文書)。なお、他に理事が存在しない場合には、他の区分所有者2名の連署による同種文書。  2、「証拠説明書」、甲第1号証ないし甲第7号証の証拠説明書2通(正本、副本)提出してください。  3、「証拠の提出」、甲第7号証で引用する2019年3月30日総会の総会議案書及び総会議事録の証拠化を検討してください。  静岡簡裁では、こんなことをひと言も言ってなかった。T弁護士の要請で、静岡地裁が新たな面倒をわたしに押し付けてきたのでは、と不信感を抱いた。静岡地裁民事部書記官(女性)に電話を入れてから、地裁を訪れた。  まず、何よりも、この「事務連絡」がT弁護士とは全く関係のないことが分かった。ほっとひと安心だ。  「資格証明書」は民事裁判では必要であり、静岡簡裁書記官が言っていた総会の議事録では不十分とのことだった。「証拠説明書」も裁判ではふつうの書類であり、静岡簡裁では何も言わなかっただけだ。最後の「証拠の提出」も言われてみれば、何よりも必要な証拠が抜けていた。2019年3月30日総会の議案書及び総会議事録は、廣田育英会(T弁護士も登場する)との対立がどんなものであり、「非居住者の住民活動協力金」議決の経緯がはっきりとわかるからだ。  「事務連絡」を受けてから、3つの書類を提出した。それがどれだけ、大きな意味を持つのか、T弁護士の答弁書が送られてきてから、はっきりとわかった。  そもそも、静岡簡裁へ相談しに行った時点で、書記官はM判事に相談した上で、「この事件は簡裁で受理するのは無理だ」と言うべきではなかったのか?その後の調停手続きへの不信、M簡裁判事への疑問などが続いた。静岡地裁書記官と話をしていて、静岡簡裁から静岡地裁へ移送して良かったことがはっきりと分かった。

ニュースの真相

「本人訴訟」入門③法的根拠はあるのか?

ものすごく単純な裁判のはずだった!  「本人訴訟」を決めた理由は、ものすごく単純な裁判だと考えたからだ。60万円以下の「少額訴訟」は1日で審理を終えて、審理終了後、判決が言い渡される。今回は「少額訴訟」ではないが、事実関係ははっきりとしており、68万円の請求訴訟でもあり、簡易裁判所ですぐに判決をもらえると期待した。  新所有者のKは、旧所有者(廣田育英会)の滞納金があることを承知してマンション3階を購入した。区分所有法第8条で、新所有者は旧所有者の滞納金を支払う義務がある。Kは、管理組合と滞納金を発生させた廣田育英会の問題であると勘違いしていたが、何度もKに滞納金を請求したところ、廣田育英会の主張「債務(滞納金)は法的に存在していない」が、唯一、Kの不払い理由となった。となれば、「滞納金が法的に存在するのかどうか」だけが裁判の争点となる。  2019年3月の管理組合総会で、廣田育英会に対する「非居住者の住民活動協力金」を議決した。これまでの経緯を見れば、常務理事のT弁護士が『「非居住者の住民活動協力金」は法的根拠に欠ける』などを記した「通知」を、わたし宛に送ってくるのが廣田育英会の常套手段である。弁護士の威信にかけて、廣田育英会は、管理組合の”横暴”をたたくはずだ。T弁護士名の内容証明郵便が届くのではないかと、毎日、どきどきしながら待ち構えた。  1カ月近くがたち、2019年4月26日付で廣田育英会は「通知」を簡易書留で送付してきた。T弁護士ではなく、息子のHによる紙切れ1枚で、内容も非常に簡単なものだった。とりあえず、弁護士からでないことにほっとひと安心した。  「当方(廣田育英会)はマンション管理士に相談したところ、このような根拠がなく、また一区分所有者だけの負担が増えるなどの、平等性のない管理費の実質的な値上げ要求には応じられない」ので、「従来通りの管理費を支払う」などと、一方的な主張が書かれていた。  「平等性」云々では、管理組合総会の議決は無効にならないはずだ。T弁護士ならば、何らかの法律条項を踏まえ、「このような議決をするのは言語道断」「法的に全く誤っている」などと攻撃する。ところが、今回の通知で、Hは「マンション管理士」に相談、「根拠がない」と言っているだけだった。これでは何の説得力もないことは、法律に詳しいH自身がよくわかっているだろう。  3月の総会で管理組合から”奇襲攻撃”を受けて、ふだんと違って、何も言えないまま、Hは「非居住者の住民活動協力金」の議決を受けざるを得なかった。その後、法律の専門家である父親のT弁護士に相談したはずだ。「マンション管理士に相談した」と書いてきたのは、T弁護士は病気にでもなったのか。これでは、管理組合総会の議決を有効と認めたことになる。Hの主張だけでは、滞納金は法的に存在していることになる。  本当に、マンション管理士に相談したのか?それも口から出まかせか?もし、相談したのが事実でも、マンション管理士が「根拠がない」などとアドバイスするのか?いくら何でも、Hから一方的な説明を受けたから、マンション管理士も適当に話を合わせただけだろう。本当に、マンション管理士に相談したのかどうか、確認すべきだろう。マンション管理士とはだれかを廣田育英会に問い合わせた。  拍子抜けの「通知」をもらい、甘く考え、油断があったのだ。 弁護士一家が「マンション管理士」に相談?  「マンション管理士」と言っても、どのような職業か知る人は非常に少ない。2001年創設された国交省主管の国家資格。マンション管理組合の依頼を受けて、大規模修繕などの助言や指導をするのが主な仕事である。区分所有法やマンション管理適正化法に詳しくても、「弁護士」のように「訴訟代理人」となる権限を持たないから、今回のような複雑な問題に一方的に「根拠がない」など言える専門家ではない。  一般的に「マンション管理士」の肩書は、管理会社社員が名刺に付け加える程度のものである。多くのマンション管理組合は管理会社に任せきりだから、管理会社社員がマンション管理組合の信用を得るための資格とも言える。「弁護士」のように独立して、個人事務所を構えるマンション管理士はほとんどいない。マンション管理士の資格だけではお金にならないのだ。なぜ、Hがマンション管理士に相談したと書いてきたのか、不思議でならなかった。  2019年5月16日、静岡駅近くで、廣田育英会が知らせてきたマンション管理士「田原」の都合に合わせて、時間、場所を設定した。初対面のあいさつで、こちらは名刺を出したが、名刺を切らしたと言い、静岡県主催の「マンション管理士によるマンション管理セミナー&相談会」の1枚チラシを取り出して、講師名にある「田原忠裕」が自分である名乗った。ここで、変だと思うべきだった。  わたしは、マンション管理組合と廣田育英会とのトラブルや対応等を詳しく説明した上で、「田原」がHの文書にあるように「非居住者の住民活動協力金」が本当に「根拠がないと言ったのか」ただした。  「田原」は最高裁判例(数千円)に比べて高いが、「非居住者の住民活動協力金」請求に違法性等はないなどと話した。約2時間半にもわたる、わたしとの会合の結果を「田原」は廣田育英会に伝えると話していた。わたしは、マンション管理士「田原」が管理組合側のトラブルについて理解してもらった旨を組合員にメールで知らせた。これで「田原」との関係は終わりのはずだった。  ところが、1週間後の5月23日朝、7階所有者Xに、廣田育英会から「田原」との面会を要請するメールが来たことを伝えられた。当然、わたしは「田原」との面談の結果をメールで伝えている。Xは「どうすればいいのか」と聞いてきたのだ。  この時点では、どういう事情なのか、さっぱり分からなかった。2時間半もの面談で、「田原」は管理組合の主張を十分、理解してくれたものとばかり思っていた。  それなのに、「田原」が別の組合員の意見を聞きたいと、廣田育英会は言ってきている。「田原」に名刺を渡したのだから、何か疑問があるならば、わたしに聞けばよいのだ。わたしの頭越しにそんな対応をすることに、強い不信感を抱いた。  「廣田育英会Hには、わたしと同じ意見であり、『田原』に会う必要はないとメールしてください」と連絡し、「田原」に直接、なぜ、Xに会いたいと、言ってきたのか聞いてみることにした。廣田育会は管理組合の切り崩しに掛かっているのかもしれない。 廣田育英会サイドのマンション管理士とは?  「田原」に連絡を入れた。わたしからの電話に、「田原」は驚いた様子だった。  「田原」は「問題を解決したいが、あなたでは妥協点がなく、別の組合員と話をして妥協点を探るのだ」などと高飛車に出て、1週間前の雰囲気と全く違っていた。「あなたみたいに強情では、何の解決にもならない」と言うのだ。  「なぜ、当マンション管理組合のトラブルに、理事長ではなく、別の組合員にまで会って事情を聞くなどの対応するのか」と尋ねると、「田原」は「相談業務を受けている静岡市に報告義務があるからだ」と答えた。「報告実績をつくることで、現在、県マンション管理士会が無償でやっている相談業務を有償にさせる資料とする」などと説明した。  さらに、3月の管理組合総会で「3階キャバクラ寮の契約解除」問題を棚上げにさせるため、廣田育英会のHは唐突に収支決算の疑問点を投げ掛けた。わたしの単純な計算ミスと、8階所有者の滞納分が続いていて、収入があった時点で修繕積立金に入れる金額を落としていたのだ。総会後、廣田育英会には「会計担当理事が通帳を照合の上、単なる計算ミスであり、次回理事会、総会でその結果を報告する」などと送った。  ところが、「田原」は「1年も先の総会ではまずい、ダメだ、お金のことは99%が賛成していても、1%が反対ならばダメだ。1円でも計算ミスがあってはならない」などと述べ、「ダメだ」を何度も繰り返した。何かこちらに大きなミスがあるような口調で、「田原」の「ダメだ」が真実のように聞こえてきた。  さらに、「非居住者の住民活動協力金」について、廣田育英会に示した金額が最高裁判例に比べて高いことを指摘して、「違法と思われる」とまで言った。わたしがどこが「違法なのか」尋ねると、「『違法』であると断定しているわけではない。違法と思われると言っただけだ」と「田原」はかわした。  「田原」が、廣田育英会の立場を代弁していることがはっきりとわかった。3月の総会でもHは収支計算の間違いに難癖をつけ、「お金のことは1円でも間違ってはならない」と強く言い、「すぐに訂正した上で、廣田育英会のチェックを受けるべきだ」と強硬な姿勢を見せた。「田原」はまるで、廣田育英会Hと同じ口調だった。  専門職のマンション管理士が自信たっぷりに「非居住者の住民活動協力金は違法と思われる」などと言えば、7階Xは「違法」と頭から信じてしまうかもしれない。「田原」との会合はあまりに危険性を伴う。 マンション管理士の真っ赤な嘘が明らかになった  マンション管理組合のトラブルを静岡市に報告すれば、マンション名などが特定される恐れがあり、「田原」の話にいくつか疑問を抱いた。  その日の午後、静岡市に電話で確認した。「相談会のあと、マンション管理士に管理組合内のトラブルなどを報告する義務は一切ない」と担当者が答えた。マンション管理士への有償の話も一切、出ていない。これで「田原」が真っ赤な嘘をついていることが明らかになった。  静岡県に出向き、3月9日「田原忠裕」が講師になったマンション管理士セミナーについて教えてもらった。講師は静岡県マンション管理士会からの派遣であり、「田原」個人に依頼したものではなかった。公的な仕事をする「専門家」をアピールするにはもってこいだが、名刺を出さなかったことに何らかの意図があったのだろう。  「田原」に再び、電話を入れて、「静岡市担当者は報告義務などないと言っている」と追及すると、「田原」は嘘であることを認め、発言を撤回、「静岡県マンション管理士会へ報告をするためだ」などと述べた。  どうも、これもうそ臭いので、日本マンション管理士連合会(東京・千代田区)に連絡を入れて、事情を説明すると、担当者は「もし、お話が事実とすれば、当該のマンション管理士は非弁活動の疑いがある」などと話した。非弁活動?弁護士の資格を持たない者が弁護士活動によって報酬を得る行為を指し、違反者は2年以下の懲役または300万円以下の罰金という罰則まで設けている。  わたしは一連の経緯と「田原」に対する疑問点をまとめて日本マンション管理士連合会に送った。2カ月近くたってから、日本マンション管理士連合会から「田原」問題の釈明などともに、今後、「田原」は行政相談会の相談員から外す、静岡県マンション管理士会から直接の説明と謝罪を行う、などとあった。  静岡県マンション管理士会長が連絡を寄越し、お詫びの報告に訪れた。「田原」の非弁活動の疑いに一切の説明はなかった。ただ、廣田育英会が「田原」を使って、管理組合のトラブルに介入させようとしたことは間違いなかった。  「非居住者の住民活動協力金」の督促通知を廣田育英会に送り、その中で「田原」の非弁活動の疑いについても指摘した。2020年2月27日付で広田育英会Hからは、速達で「通知」が送られてきた。  『法の場以外では「3階キャバクラ寮の契約」は解除しない、「非居住者の住民活動協力金」は今後とも支払いは拒否する、管理組合が正当性があると思われるのならば、裁判所の判断を仰げばよい』などと書かれていた。時効をにらんで、「非居住者の住民活動協力金」の滞納分がたまった時点で、滞納金請求訴訟を起こすことを決めていた。  廣田育英会がマンション管理士「田原」に非弁活動を疑わせる行為をさせたことで、「非居住者の住民活動協力金」の法的根拠に疑問の余地がなくなった。「3階キャバクラ寮の契約」解除に向けて「非居住者の住民活動協力金」が有効に機能していることを確信した。  しかし、なぜ、「非居住者の住民活動協力金」は法的根拠に欠けると指摘しなかったT弁護士が、Kを相手取った68万円の滞納金請求訴訟で被告代理人となったのか?「本人訴訟」を行ったあと、まさか、T弁護士が被告代理人で出てくるとは思わなかった。

ニュースの真相

「本人訴訟」入門②「弁護士」肩書の威力

滞納金68万円の内訳とは?  廣田育英会常務理事に、「弁護士」の肩書をわざわざ入れた2通の「通知」がTから送られてきた。速達、書留による弁護士からの「通知」とあれば、重大用件である。こんな手紙をもらえば、法曹界の人間でもない限り、緊張しない人はいないだろう。こちらが重大な間違いをしているのではとびびってしまい、速達、書留を開封することさえためらわせる。  弁護士の「権威」をかさに着るTだけでなく、息子のHも法律家のように専門用語を使い、もっともらしい理屈の問題に置き換えて、入居者の無断駐車をわたしが許可したなど一方的な主張を内容証明や書留で送ってきている。こうなると、穏便な解決の道は遠くなってしまう。紛争事をなるべく避けて、お互いの妥協点を探るのが社会の常識である。一方的な主張にも関わらず、相手側はこちらの理屈に従うべきだというのがT弁護士、Hの強引な手法だ。それがいままで通用してきたのかもしれない。  廣田育英会には社会の常識が通じるメンバーはいないのか?Hには何度も代表者たる理事長Sとの面会を要請したが、回答は全くない。「T弁護士の娘も廣田育英会職員だ」と、元の不動産会社担当者が教えてくれた。  一度、理事長Sの自宅に電話すると、Sは「すべて事務局(H)に任せている」と話していた。それでは困るのだ。廣田さんの莫大な財産を有する財団法人を、T弁護士とその息子、娘の家族総出で運営に携わっている。HPはあるが、毎年度の収支報告や事業報告を開示していない。すべて「弁護士」ならではの特権なのか。  今回の問題は、「弁護士」とは何かを考えさせるきっかけとなった。 「非居住者の住民協力金」議決される  「3階キャバクラ寮の契約解除」を主要議題とする2019年3月30日の管理組合総会を前に、あらためて廣田育英会理事長Sに出席を求めた。直接、Sの自宅及び財団法人事務所に書留で総会へ出席するよう依頼の手紙を送った。  結局、総会に出席したのはS理事長ではなく、事務局員のHだった。Hは何かの議題がある度に、「廣田育英会は個人ではなく、法人であり、持ち帰って理事会に諮って回答する」などと述べてきた。このため、Hがこのまま総会に出席するのならば、「廣田育英会を代表する責任者である」と自書するよう求めた。Hは求めに応じた。  総会では、3階キャバクラ寮の契約解除が進まないことを見極めた上で、7階所有者が「すでに半年以上、管理組合の要請であるルールを守らない。現行の管理費17000円に、3階には親族でない者が少なくとも3人が居住しているから、2人分の34000円を加え、51000円とする値上げ」を提案した。Hからは3階に2人居住の報告があったが、普段の生活実態から3人が居住しているのは確実だった。  わたしから、3階に「管理費ではなく、非居住者の住民活動協力金」を徴収することを提案した。3階キャバクラ寮の状態が続く限り、「住民活動協力金」34000円を廣田育英会に負担してもらうことを、廣田育英会を代表する責任者Hを除く、全会一致で議決した。  その後は、廣田育英会理事長のS宛、3階キャバクラ寮の契約解除とともに滞納金の支払いを求めることになった。「住民活動協力金」が奏功したのか、廣田育英会は3階を売却したのである。その結果、2019年4月分から2020年12月分までの「住民活動協力金」68万円の滞納金が未払いとなった。  区分所有法第8条では、管理組合は新しい所有者(譲受人)に対して滞納金の請求ができる。新しい所有者は旧所有者(譲渡人)の滞納分といえども支払わなければならない。この滞納金をどちらが負担するかは、譲受人と譲渡人の当事者間の約定で決まり、管理組合の請求権とは関係ないはずだ。  ところが、12月に新たな区分所有者となったKは、廣田育英会から「債務は法的に存在していないから無効」という説明を真に受けて、管理組合への支払いを拒否した。  Kはあくまでも、滞納金は管理組合と廣田育英会との問題であると主張していた。新たな所有者であるKには、全く関係のない問題と勘違いしていた。だから、わたしは何度もKに対して、滞納金の請求を行った。  2月16日にKからもらったメールには、廣田育英会に相談に行ったところ、「債務(滞納金)は法的に存在していないから無効」と主張する「弁護士先生」が2度、登場する。このメールを読んでから、電話で「弁護士先生」とは誰かと尋ねたが、Kは弁護士の名前さえ言えず、当然、名刺ももらっていなかった。  「弁護士先生」はTである。名前はちゃんと知らなくても、弁護士はKには、とてもエライ、恐れ多い「肩書」であり、「弁護士先生」と呼ぶべき存在なのだ。これが社会一般の見方なのだろう。 「権威=弁護士」に従いやすい人間の心理状況  3月2日のメールで、Kは「訴訟という手荒な選択をしたくなく、まずは公平な立場である裁判所に意見を伺うために調停申し立てをした」「問題解決のために時間をいただきたいので理解してほしい」などと書いてきたから、当然、K(譲受者)は廣田育英会(譲渡者)を相手取って、調停を行ったものとばかり思ってしまった。  3月13日の管理組合総会の席で、Kはわたし(管理組合代表)を相手取って調停を起こしたことを明らかにした。これまでの経緯をよく理解せず、また、新たに管理組合の一員として、マンション管理規約や管理組合総会の議決を遵守しなければならない立場なのに、Kは「弁護士先生」(廣田育英会)を頭から信用してしまい、管理組合を相手取って調停を申し立てたのだ。  米国の心理学者スタンリー・ミリグラムによる有名な「ミルグラムの実験」から、権威者の指示に従いやすい人間の心理状況が実験で明らかにされている。権威への服従という人間の性向は誰でも心の中に潜んでいるようだ。T弁護士から届いた速達、書留の「通知」を開けるのを躊躇させるのも、「権威」への恐れがあるからだ。また、Kのように盲目的にT弁護士を信用することにも通じる。  法律はいわば一般の人にとって見れば「権威」であり、弁護士はその権威の代弁人である。Kは、わたしがいくら説明しても「聞く耳」を持たない。それは、「弁護士先生」のことばすべてが真実であり、それだけで、管理組合が請求する68万円が間違っている理由になるからだ。  だから、恐れ多い「弁護士先生」が後ろ盾なのに、まさか、法律とは全く無関係の管理組合が、Kを被告として「本人訴訟」を起こすとは思ってもみなかったのかもしれない。 静岡簡易裁判所のびっくりする対応  ただ、社会はKと同じような性向にあることを思い知らされる。  まず、静岡簡裁に電話を掛けて、1998年に導入された「少額訴訟」について教えてもらった。そもそも請求額が60万円以下でもあり、また少額訴訟で対応できるような事件ではないとの判断を聞いた。それで、静岡簡裁に出向き、「本人訴訟」の手続きを聞くことにした。簡易裁判所への訴状は、裁判所の用意したテンプレートを参考に作成すればいいらしい。証拠書類についてもちゃんと聞いておかなければならない。  訴訟の相談に行くと、びっくりするような経験を味わうことになった。ひと通り、わたしが訴訟の内容を説明したところ、担当者は「新たな所有者に請求する根拠となる法律はあるのか、それがなければ訴訟を起こせないよ」などと言ったのだ。まさかの問い掛けに、わたしは首をかしげてしまった。  裁判所に入ったところで、「素人のお前はちゃんと法律を分かっているのか」と言われたようなものだった。「権威」である弁護士でなく、マンション管理組合理事長だから、裁判所を初めて訪ねて、何か聞けば、そのような対応をするのがふつうなのかもしれない。  わたしは「裁判所が競売物件に出している熱海などのマンション価格が1万円だったりしている。そんなに安いのは、滞納した管理費等が莫大な金額になっているからではないか。莫大な管理費等を支払うのは物件を購入した新しい所有者のはずだが―」とただした。区分所有法第8条ではなく、熱海のマンションなどの競売物件でおなじみの問題だから、裁判所職員はそのくらいのことは承知していると考えた。  この経験は、「本人訴訟」のハードルが非常に高い印象を与えた。”素人”に対する裁判所の姿勢が見えたからだ。これでは、T弁護士に散々な目に遭わされるかもしれない。 弁護士業もビジネスでしかない  すぐに弁護士事務所に電話を入れた。これまで「3階キャバクラ寮の契約解除」について、何人もの弁護士に相談していた。「法律は社会常識を基にしている」「キャバクラは反社的な存在だから、出て行ってもらうのが筋だ」などのアドバイスを得たが、矢面に立って相手側に交渉を申し出る弁護士はいなかった。損害賠償請求のようにお金が絡んでいる問題ではないから、弁護士に依頼する場合、いくら支払うのか非常に難しいからだろうと考えていた。今回の場合、68万円が請求額である。  名刺を探して、「キャバクラは反社的な存在だ」と断言した弁護士に面会を求めて事務所に電話を入れた。女性事務員に問われるまま、68万円の滞納金請求訴訟について簡潔に話をした。夕方になって、事務員から「現在、忙しいので会うことはできない」と断ってきた。  旧知の弁護士を訪ねて、正直に話してもらった。68万円であっても、最終的に80万円から100万円を支払ってもらわなければ、面倒な作業量などから見て、割りに合わないのだという。相談を受け、アドバイスをするから、「本人訴訟」でやるよう勧められた。相談料は10万円だという。  2年ほど前、著作権法違反事件で静岡県知事宛に「申入書」を提出した。申入書を作成したあと、最終的には弁護士名で知事に提出した。これも弁護士という「権威」を重く見た結果だ。弁護士には、名義料として「5万円」を支払った。その後、記者会見、裁判等を行うのであれば、50万円から100万円の費用を請求すると言われた。街中に事務所を構え、2人の弁護士、数人の事務員を雇っているから、わたしと個人的な付き合いがあってもボランティア仕事はできないのは理解できた。  もし、弁護士費用80万円支払って、滞納金68万円を勝ち取ったとしても、管理組合員たちから文句が出ることは言うまでもない。ある組合員は「とりあえず、キャバクラ寮の状態は解消されたのだから、それでいいとすれば」とまで話していた。わたしは「Kが68万円を少しまけてほしい、と言ってくるならば、それに応じるのは構わない。ただ、滞納金は法的に存在しないをそのまま受け入れるわけにはいかない。管理組合総会で議決したことを守ってもらう。ちゃんとけじめをつけなければ、同じことが必ず起きてしまう」と説得した。  68万円の滞納金請求は、「本人訴訟」でやるしかない。もし、本当にT弁護士が出てくるならば、この複雑な事情を最もよく知っているのはわたし以外にはいない。法的手続きについては、弁護士からアドバイスを受ければいいのだ。  3月22日、静岡簡裁に管理費等滞納金請求事件の訴状を提出した。 ※タイトル写真は静岡県法律会館(通称が静岡県弁護士会館らしい)。T弁護士は東京第一弁護士会所属であり、静岡県弁護士会所属ではない

ニュースの真相

「本人訴訟」入門①民事紛争の発端から?

25年以上、マンション管理組合理事長を務める  わたしが1995年4月からマンション管理組合の理事長を務めるマンションは、8階建て鉄骨鉄筋コンクリート建物1階が駐車場、エレベーターを降りると、そのまま玄関で2階から8階が住居、7世帯が暮らすという非常に小規模なものである。1991年4月に完成した。  わたしは1993年7月に、その1室を購入した。これで、4室は売れたが、3室は不動産会社が賃貸に出していた。賃貸物件の1室に、マンションを分譲した不動産会社社長も入居していた。入居した当時、管理組合は結成されていなかった。さまざまなトラブルがあり、不動産会社関連の管理会社に、早急に管理組合発足の総会開催を求めた。12月になって、管理組合設立総会が開催された。不動産会社社長が理事長、管理者を務め、わたしは監査役に就いた。  不動産会社は1991年4月時点から売れ残りマンションの管理費、修繕積立金を支払う義務があるのだが、収支決算を見ると、デタラメだった。不動産会社は未払いの管理費等の支払いに応じず、わたしは静岡地裁に調停を申し立てた。不動産会社側は管理委託費をもらっていない、社員の行った清掃費未計上などと抗弁した。この調停に、不動産会社は弁護士を立ててきた。結局、未払金の半分を貰うことで手を打ち、今後は自主管理を行っていく道を選んだ。7世帯のみの管理費等で管理会社に委託すれば、将来的に収支がマイナスになるのは目に見えていた。(マンション購入時は住宅ローン返済で頭がいっぱいで、マンション管理の問題など全く考えられなかった)  1995年3月の総会で理事長に就き、毎月の会計管理、マンション全体の維持、修繕、公共機関などとの交渉を引き受けるのが仕事となった。管理規約では「役員の任期は、毎年4月1日から翌年3月31日とする」と決まっているが、「再任をさまたげない」とも定めているから、わたしの都合のつく限り、なるべく長く理事長を続けてほしいとの要望を受けた。毎年の総会で理事長選任の手続きは省かれた。就任当初は無報酬だった。のちに月5千円の報酬。トラブルが続き、2年前から月1万円となった。  「本人訴訟」を行うトラブルの舞台となる3階には、故廣田さん(面識はない)の介護人だった今吉さんが住んでいた。入居後、亡くなった廣田さんは風俗関係の事業で大儲けしたが、身寄りが全くなく、莫大な財産は育英会をつくって子供の教育に使ってほしい、という遺言を残したのだという。遺言執行者をT弁護士(東京第一弁護士会)に依頼したのだが、公正証書遺言ではなかったようで、廣田さんの姉(実姉ではない)の息子を名乗る人物が現れたり、遺産相続を巡る争いが起きたことなどを今吉さんが詳しく話してくれた。事情に詳しい今吉さんは数年後、T弁護士に追い立てをくらった。  廣田さんの名前を冠した廣田育英会が設立されたのは、亡くなってから10年以上もたってからである。T弁護士は廣田育英会常務理事に就いた。その後は、廣田育英会が3階の所有者となった。2018年から始まった廣田育英会との面倒なトラブルが、今回の「本人訴訟」に関連するので、のちほど詳しく説明する。  その面倒なトラブルが続いているさ中、広田育英会は2020年12月に3階を売却した。 滞納金68万円は支払わなくていい?  2020年10月22日、廣田育英会から売却の仲介を任された不動産会社代表ら2人から、3階売却の準備を進めていることを聞いた。また、すでに購入を希望する相手がいるようだった。不動産会社には、廣田育英会に滞納金があり、何度も督促をしている事実を告げた。  マンション売買は「重要事項」を告知する義務が不動産会社にある。今回の売却交渉に当たって、購入希望者には廣田育英会との間にトラブルがあり、滞納金がある旨を「重要事項」として説明するよう求めた。不動産会社は購入を仲介する別の不動産会社から購入希望者に伝える、と応じた。  11月になって、売却がほぼ、決まったという話を受けて、11月22日に廣田育英会の滞納金は11月までで68万円となり、ちゃんと清算するようメールで求めた。  12月10日のマンション購入時、3階を購入したK(独身女性)、売買を仲介した2つの不動産会社代表と面会した際にも滞納金68万円を支払うよう求めた。その後も引っ越しの終わるまでに、滞納金を清算するようKに電話及びメールで要請した。  Kは2月16日のメールで「債務は存在していない(引き継ぐ必要がない)」「引き継いでいないから、Kに支払い義務がない」「もし、Kが独断で支払いをしたら、今後一切、協力しない」と廣田育英会が言っている、マンション購入契約時に「債務の話は聞いていたが、債務は法的に存在しないから無効」「債務関係は廣田育英会が対応してくれる」「廣田育英会が対応する代わりに、支払いをしてはならない」という契約を廣田育英会と結んでいるので、Kは支払いはできないのだ、という。  T弁護士が「Kと話してもらちが明かない」「話し合いの場を設けるのならば話をしてやってもいい」とメールに記されていた。つまり、Kはこのトラブルについて、廣田育英会、T弁護士の主張を全面的に信じて、支払う義務はないと言ってきたのだ。 廣田育英会が「キャバクラ寮」にしてしまう  2016年頃から、廣田育英会の事務局員(理事)にT弁護士の息子Hが就き、それまで管理を担当していた不動産会社を切り、直接、3階の管理に当たるようになった。8月に3階台所天井の大規模な水漏れが発覚、大騒ぎとなった。その修理などを経て、2017年9月29日、Hから3階に新入居者があることを電話で告げられた。どのような人物であるか聞いたが、個人情報だから告げられないと回答。翌日(30日)、Hと不動産会社代表が「第三者に関する届け出事項」(日付は9月29日)を持参した。  賃借人には「太田雅仁」とあり、呉服町2丁目の住所が記されていた。「太田雅仁」が301号室を使用するにあたり、規約・使用細則等を遵守することを誓約していた。10月1日、若い男性がインタホンを鳴らしたので、出て行くと、「3階に入居する者である」と言った。名前を聞くと、「太田」ではなく、「榑林」と名乗った。昨日貰った「第三者に関する届」の名前と全く違っていた。「何をやっているのか」と聞くと、「キャバクラの店長だ」と答えた。「太田雅仁」はキャバクラ経営者だという。その午後に、駐車場にゴミ袋が置いてあったので、中身を調べると、「榑林」名の水道料金の督促状が混ざっていたから、廣田育英会に連絡した。  すぐに不動産会社代表が現れ、「若い者なので許してやってほしい。大目に見てほしい」などと謝罪した。  11月になって、「榑林」からインタホンで「大家さん、駐車場が空いているならば、借りたい」などと言うから、わたしは「大家」ではないと断った上で、「もし、駐車場を借りたいのであれば、廣田育英会に言ってください。ただ、現在は空いていない」と答えた。「榑林」は6階が借りている駐車場区画がいつも空いているので、それを借りたいのだと理解できた。事情があって、6階はふだんは車を止めていないが、駐車料金を支払っていた。  12月になってから、6階区画に灰色の車が駐車されるようになった。6階の車だろうと気軽に考えていた。3月になって、6階からのメールで駐車場の車が全く別人の物であることが発覚、すぐに陸運局で調べてもらい、車が「太田雅仁」所有であることが判明した。  つまり、3階「榑林」が無断で不法駐車をしていたのだ。「榑林」以外に別の者も3階に居住しているらしいが、分からなかった。  廣田育英会のHを呼んで、不法駐車の件を話すと、3階「榑林」はすぐにインタホンで謝罪を求めてきた。この件は、区分所有者で3階を管理する廣田育英会との話なので、「榑林」の謝罪は棚上げとした。廣田育英会のHには、不法駐車していた4カ月分をまず、3階「榑林」に支払わせ、廣田育英会から管理組合に支払うよう求めた。過去にも、他の入居者が無断駐車していたことで、管理組合総会で「不法駐車は1日1万円」というルールを決めていた。6階が1日1万円ルールを主張する可能性もあるから、ここは4カ月分の駐車料金を支払ったほうがよいと話した。  3月の総会でも、同じ話をしたが、Hは聞き入れなかった。総会後、3階「榑林」はインタホンで、「大家さんが止めてもいいと言っていた」とこれまでの主張を変えた。3階「榑林」にとって、わたしはいつまでも「大家」であり、マンションの区分所有について理解できないようだった。  マンション近隣の住人が「早朝5時過ぎに若い人たちが大挙して、ここに来ていて、あなたのマンションの雰囲気が変わった。異様だ」などと話した。その話などで、3階がキャバクラの社員寮になっていることがようやく判明した。  何かもっと大きなトラブルが起きる可能性もあり、早急に対応しなければならない。理事長として早急に対応すべき問題となった。 キャバクラ寮の契約解除を求める  2018年9月に管理組合臨時総会を開催した。当日の議事録及び結果事項を示す。  『昨年12月から3月まで無断駐車していた入居者は、3月の組合総会後に理事長と面会を要請、入居者は「理事長の許可を得て駐車した」と説明。理事長は「無料で駐車できるスペースはどこにもない」と言ったところ、「お金は払うつもりだった」と答えた。ところが、現在においても管理組合への支払いを行っていない。  問題を穏便に解決するために、組合としては4カ月分の駐車料金を支払い、その間の6階の駐車料金を免除する方針であるが、その解決策に区分所有者の廣田育英会Hが異論を持ち、Hは駐車場を借りている6階との問題であり、6階と話し合って解決するので、管理組合との問題ではないと主張している。  現在の3階入居者は「キャバクラを業とする会社(会社名等不知)の従業員寮」という状態であり、これまで管理組合ではそのような使用を認めないと決定しており、Hから理事長に届け出た内容は虚偽であり、管理組合として、そのような使用はできない旨を申し伝え、早急に3階入居者との契約を解除するようHに伝えた。  また、6階駐車スペースへの3カ月余にわたる無断駐車(3階入居者は理事長の許可を得ていると主張しているが、現在に至っても駐車場料金は支払っていない)など一般的な常識に欠いている部分が多いことも契約解除を求める要件である。  7階入居者から、「3階入居者との契約は期限を区切っているであろうから、その期限更新の際に契約解除するのが合理的ではないか」との意見が出された。Hに期限はどうなっているのか問い合わせたが、「財団に戻らないと分からない」と回答した。  組合としては現在の寮としての使用できない旨をHに伝え、早急に対応するよう要請した。Hは、契約期限等について理事長に報告すると答えた』  その後、廣田育英会から「3階キャバクラ寮の契約解除」について、自動更新であり、未来永劫、「太田雅仁」との契約は続く旨の報告を受けた。その後、何度も契約解除を求める手紙等を廣田育英会理事長宛に送った。 廣田育英会から内容証明郵便が届く  広田育英会の理事長印があるが、氏名が記されていない内容証明郵便が11月になって送られてきた。当然、Hが書いたことは分かった。  『当該駐車場の専用権は6階が有し、駐車場の使用に関する当事者適格は6階にあるものと思料され、当財団と管理組合の問題ではない』などと書かれ、T弁護士の息子Hも法律を学んだことをうかがわせる。ただ、たった8万円の駐車場料金なのに、話を複雑にしているようだった。  また、3階キャバクラ寮の契約解除については、『当財団はコンプライアンスを重視しており、法的根拠を旨とした検討の結果、3階の賃借人との賃貸借契約については、3階の賃借人の住居使用状況、駐車場使用の件などを検討しても、賃借人に債務不履行も借地借家法第28条の更新拒絶の正当事由も見当たらないのであって、到底法的に契約解除や契約更新の拒絶を求められるところではない』などこちらも法律用語満載で書いてきている。  つまり、廣田育英会と「太田雅仁」との契約において、いくら管理組合が求めても、契約解除ができないと言っている。そもそも、キャバクラ寮とするなどこちらは聞いていないのだから、その説明をしなかった廣田育英会に問題があることをHは無視していた。  その後、さらに2通の「通知」がHから内容証明郵便などで送られてきたあと、Hの父親であり、廣田育英会常務理事のT弁護士が2つの通知を送ってきた。さらに法律用語満載で、また、Hからの情報を基にT弁護士が文書を作成していることがわかった。  今回の「本人訴訟」では、わたしは管理組合代表として原告となったが、被告の訴訟代理人はT弁護士である。68万円という少額の滞納金請求事件でT弁護士がお出ましなのは、Kとの契約からなのだろうか? (きょうはここまでとします。近日中に「本人訴訟」入門②をお送りします)

ニュースの真相

リニア騒動の真相92難波副知事「ダブスタ疑惑」2

静岡新聞の素晴らしい記事とは?  7月29日付静岡新聞で長野県大鹿村を取材した『大井川とリニア 県外残土の現場から』のワッペンが付いた連載企画が始まり、『豪雨災害の懸念拭えず』という大きな見出しがついた。記事内容は相変わらず、都合のいいように会話の断片を取捨選択していた。「川沿いに盛り土を造って大雨の時に崩れないのか」「崩壊地の末端に盛土工をするのは本来は良くない」「地滑りの危険と隣り合わせの地域。安全対策と住民への説明を徹底してほしい」など、静岡新聞読者にリニア工事の不安を煽ることが目的のようだ。(写真説明には、「豪雨災害を経験した住民の中には工事に慎重な人もいる」とあるから、実際、村人のほとんどが地域の生活改善につながるリニア関連工事を望んでいることがはっきりとわかる)  今回の熱海土砂災害で、豪雨災害の危険が予測される地域に住んでいた人たちに責任の一端があると批判する記事と同じである。一度、幸田文『崩れ』(講談社文庫)を読むべきである。「なんと日本中には、崩壊山地が多いことか。あっちにも、こっちにも崩れだらけ」「唖然というか、呆然というか、それは確かに日本という国は、せまく細長いからだへ背骨のような山並がつらなっていて、だから川は急流が多い」「こんなに崩れが多いとは、途方もないことだと思った。ひどい国なのだなあ」(『日本三大崩れ』の安倍川源流部の大谷崩れを見たあと、幸田文の素直な感想が書かれている)。そんなひどい場所にわたしたちは住んでいる。大なり小なりの危険地域に住むのは日本人すべての宿命であり、険しい山間地に住む人でも文化的で、幸福な生活を望んでいる。静岡新聞記事は、自分たちは安心、安全な都会からやってきて、「ここはひどい場所だなあ」と高みの見物を決め込むようなものである。  がっかりして、紙面を閉じようとして、ふと、その隣の面を見ると、びっくりするような素晴らしい記事(事実をありのままに書くこと)が掲載されていた。読者の投書欄である。磐田市の文筆家伊藤寿克さんがリニア問題について、静岡新聞記者とは全く違う視点で”事実”を見極めていた。  『(前略)リニアは、静岡県に利点がないというけれど、リニア沿線を見ると、山梨県駅(甲府市)へは富士駅からJR身延線でたどり着ける。長野県駅(飯田市)には北遠地域が沿線のJR飯田線で行くことができる。静岡県民もリニアの利用は可能なのである。  リニアが開業すれば東部や伊豆地域、浜松市天竜区は移住を希望する人が増えてくる可能性もある。若い世代が減少し過疎化が進む地域の活性化に、リニアは起爆剤として必要な交通手段だ。県当局に方針転換を求めたい。  国土交通省は専門家会議を設置し、水問題の解消へ死力を尽くしている。掘削工事の技術は日進月歩で向上している。県はJRを信じてほしい。日本の経済成長のために、リニア沿線自治体と共同歩調を取ってほしい。県民を肩身がせまい思いから解放してほしい。』  熱海の土砂災害で山梨、長野の両県だけでなく、リニア沿線各県からさまざまな支援を受けている。いまこそ、リニア沿線自治体の声をちゃんと聞くべきである。静岡新聞は、読者の投書記事に救われた。 山梨の人たちは富士山を「貧乏山」と呼んだ  山梨、静岡の違いを紹介する。   山梨、静岡の両県の富士山麓に生活する人たちにとって、富士山の環境保全は共通の認識である。ただ、その「保全」の意味は全く違う。1993年当時、世界で最も傷ついた「国立公園」富士山を世界遺産として保全、富士山の環境問題解決を推進する活動に取り組んだ。そこで、山梨、静岡の人たちの考えがいかに違うのかを何度も目の当たりにした。  2001年6月に出版された『富士を眺める山歩き』(山村正光著、毎日新聞社発行)を読んで、ああそういうことか、と納得させられた。  著者は、富士山を「貧乏山」と呼び、広大な富士山の裾野で暮らす山梨の人たちに、富士山は何のメリットもなく、どんな思いで富士山と接していたのかを紹介している。  『あの山の反対側は、静岡の人たちは、南側で太陽をいっぱい浴びて、海では魚がとれ、作物も樹木も豊かだ。それに比べ、こちらの北側は何ともあわれだ。土地はやせ、作物はとれない。水も不便だ。日陰で寒くてかなわない。あの山は厄山だ。あの山のおかげで、オレたちは貧乏している。何が霊峰だ。三国一だ。あんな貧乏山は噴火でふっとんでしまえと、怨嗟の声の日々であった』(『富士を眺める山歩き』前文)  その後、交通の便がよくなって、観光で山梨県の富士五湖はじめの富士裾野に多くの都会の人たちがやってきた。富士山は「貧乏山」から「金儲け山」に変わった。5合目の観光施設、頂上まで続く数多くの山小屋、湖上に屋形船、ボートを浮かべ、食い物屋、お土産屋、旅館、ホテル、別荘と無計画に際限のない商売が始まった。いままでの「貧乏」をすべて取り返す勢いだった。  だから、世界遺産指定は商売の邪魔になる。観光業者だけでなく行政も反対に回った。その後、「環境保全」が時代のすう勢となり、世界「文化」遺産ならば、非常に緩い規制で「称号」を得ることができる、我慢してくれ、と説得される。当然、世界遺産にふさわしい規制強化は絶対反対である(一番分かりやすいのはオーバーユースを抑える「入山規制」)。山梨に住む人たちの生活から、自分たちとは全く違うことを実感した。  リニア計画でも山梨、長野の人たちは早期の実現を望んでいる。そんな思いにどのようにこたえるのか、東海道新幹線の便利さを享受してきた静岡県民はそろそろ考えたほうがいいと、伊藤さんは「日本の経済成長のために、リニア沿線自治体と共同歩調を取ってほしい」と書いた。実際は、「貧乏山」の山梨、長野、岐阜など沿線各県はリニアによる経済成長に期待する。  静岡新聞記者はわざわざ山梨、長野などへ行くのならば、そのような声にちゃんと耳を傾けるべきだった。 熱海土砂災害の議会答弁に立たなかったのは?  30日の県議会一般質問に土砂災害に遭った熱海市の藤曲敬宏県議が立った。質問の(1)行方不明者の捜索と被災地域の安全・安心の確保については、県警本部長が答えた。(2)伊豆山地区の二次災害の発生防止と社会インフラの復旧には川勝平太知事、(3)避難所から仮設住宅への早期移転には出野勉副知事が回答。(4)被災地熱海の行政サービス継続に向けた人的支援には、危機管理部長、(5)熱海観光地の復興に向けた取り組みは、スポーツ・文化観光部長がそれぞれ答えた。川勝知事はじめ、それぞれ簡潔だが、的確に答えていた。質疑、5人の回答などすべて合わせて約30分だった。  はて、今回の熱海土砂災害対応の中心となった難波喬司副知事は現地に緊急に赴いて、議会を欠席したのか?そんなことはなかった。当局の一番前に座っていた。なぜ、難波氏が答弁に立たなかったのか?  7日(2時間半)、8日(30分)、4日(2時間20分)、13日(2時間20分)、14日(3時間20分)、15日(1時間10分)に記者会見を行った。カッコ内は、難波氏の会見時間であり、周囲には難波氏ひとりが熱海土砂災害の対応に当たっている印象を与えた。難波氏は、「盛り土」崩壊のメカニズムがほぼ分かったとして、2次災害の発生防止、風評被害の防止を主眼として説明を行い、記者の質問に詳しく答えた。ところが、大胆な「仮定」に基づく、推論あるいは推定であり、「断定」は少なかった。これでは記事にならないから、記者たちの評判は悪かった。ただ、何時間も掛けて会見をやっているから、遠く離れた東京のメディアによる難波氏の評価は上がった。  内容の点で唯一、評価できたのは、県リニア会議の塩坂邦雄専門部会委員のプレス発表が、「誤り」であり、「不適切」と「断定」したことだった。ところが、その後、塩坂氏の名誉を傷つけたとして難波氏は”珍妙”な謝罪をした。塩坂氏のプレス発表が風評被害を招くと「断定」したのに、名誉を傷つけた謝罪の理由はいまだ不可解である。  連日にわたる長時間の会見について、難波氏は「担当部長が会見すべきかもしれないが、土木技術者であり、わたしの専門分野である」などと述べ、なぜ、副知事が会見を担当するのかを明らかにした。ところが、そうなると、県議会で答弁に立たなかった理由はおかしくなる。知事よりも難波氏は専門家であるのだから、二次災害発生防止等について、わかりやく議員に説明すべきだった。  崩壊メカニズムの推論は、メディアに任せて、行政はすべての行方不明者の捜索が終えたあと、「断定」のための調査に入ればいいのだ。さらに重要なのは、県内の不適切な「盛り土」をチェックして、再発防止に当たるべきだろう。  今回の知事らの答弁を聞いていて、十分、分かりやすかった。「仮定」に基づいた推論を行うことよりも、県民(記者)が求めていたのは、県議会で行った担当部長らの答弁だろう。  難波氏の記者会見と知事らの県議会答弁にも、難波氏による「ダブルスタンダード」が見えてくる。 「科学的根拠が分かっていない」のは?  難波氏は26日の「大井川の清流を守る研究協議会」(流域10市町の首長と議長で構成)の会合(非公開)に出席、会合後の囲み取材の様子が静岡、中日の2紙に報道された。  静岡新聞の報道では『難波副知事が問題視したのは、JR東海の金子慎社長が記者会見でトンネル湧水が県外に流出しても中下流域の水利用に支障がないなどと発言した点。「(同社の)トップが科学的根拠を分かっていないのに『影響がない』と言い切っている」と批判した。  社長の発言の根源には同社の企業体質があるとの見方も示し、「組織文化が変わらない限り対話は進まない。説明を変えないといつまでたっても解決しない」と断言した。』。ここでは「推論」ではなく、「断言」したようだ。  金子社長は単に、国の有識者会議の中間報告案を述べたにすぎない。国の有識者会議の結論は、「トンネル湧水が県外に流出しても中下流域の水利用に支障がない」となるはずだ。難波発言は中下流域の首長らに向けての発言かもしれないが、『科学的根拠を分かっていない』のは難波氏ということになってしまう。なぜ、JR東海の企業体質、組織文化批判になるのか、これは為にする発言でしかない。  実際の落としどころをどこにするかなど政治的な問題は、川勝知事が決めればいい。難波氏がこのような発言をしてしまえば、科学的、工学的に議論する国の有識者会議をないがしろにすることであり、熱海土砂災害対応で「専門家」と称すること自体が疑わしくなる。  いずれにしても、難波氏の発言を聞くと、熱海土砂災害とリニアの「ダブルスタンダード」対応がはっきりとわかる。『県民を肩身がせまい思いから解放してほしい』という声にちゃんと向き合うべきだ。  ※タイトル写真は、熱海土砂災害対応で答弁する川勝知事

ニュースの真相

リニア騒動の真相91難波副知事「ダブスタ」疑惑?

難波副知事”謝罪”の意味は?  7月22日付東洋経済オンラインに難波喬司副知事が、7月9日付静岡新聞夕刊1面トップ記事に激怒した記事をリニア問題との関連で紹介した。静岡県、リニアと熱海土砂災害で「ダブスタ」疑惑 | 新幹線 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)  難波氏が激怒した理由は、県リニア会議地質構造・水資源専門部会委員で株式会社サイエンス技師長の塩坂邦雄氏が9日午前、静岡県庁で記者会見を行い、熱海土砂災害で人為的な開発による「河川争奪」があったとする独自の見解を示したことだ。難波氏は同日夕方、静岡新聞夕刊を読んで、塩坂氏のプレス発表内容が「誤り」であり、プレス発表を事前に静岡県に報告しなかったことは「不適切」などと批判した。  後日談とも言えるが、難波氏があれだけ「誤り」「不適切」と批判したのに、毎日新聞が翌日(10日)朝刊地方版トップで塩坂氏の記者発表をそのまま記事にしたのには、ずっこけてしまった。塩坂氏のプレス発表を盲目的に信用しての報道かもしれないが、難波批判をひと言も取り上げない記事では、記者の資質に疑問符がつくだろう。メディアはどこも、塩坂氏への難波批判から、この関係の記事を取り上げなかった。となると、塩坂氏は静岡新聞、毎日新聞の大きな記事を見ただけであり、難波批判など全く知らなかっただろう。  記憶にある限り、難波氏が塩坂氏を批判するのは初めてのことである。県のリニア会議に関連して、塩坂氏の「不適切」な発言や行動が繰り返されているが、難波氏は黙認している。今回の「熱海土砂災害」がリニア問題にも影響を及ぼす可能性があると関係者は予測していた。そんなときに、塩坂氏への難波批判が飛び出したのだ。  東洋経済新報社の大坂直樹記者がわたしの原稿を手直しをして、『静岡県、リニアと熱海土砂災害で「ダブスタ」疑惑』という見出しをつけてくれた。「ダブスタ」?、ネットでは〇〇〇疑惑がキーワードになっているだけに、何だろうか?とつい、難波氏の会見写真=タイトル写真=をじっと見てしまった。  難波氏による『ダブルスタンダード(二重基準。熱海土砂災害と違い、リニアでは塩坂氏の”お騒がせ発言”に難波氏が目をつむっていることを指す)』疑惑であり、大坂記者は、ちょっと長いので「ダブスタ」疑惑と略したのだ。何だ、そうだったのか。  また、県政記者が「難波氏が15日になって、塩坂氏の名誉のために謝罪したのも、今後のリニア会議のことがあるから」と指摘した。前回の『リニア騒動の真相90大丈夫ですか?難波さん』とは全く違う見方があるものだとやはり、感心させられた。  写真ひとつとっても、”真実”を見分けるのは非常に難しいようだ。 「新しいデータ出せ」を迫る県専門部会委員たち  塩坂氏の「地下ダム」発言が登場した、2019年9月12日の県地質構造・水資源専門部会はあまりに異様だった記憶がある。  「リニア騒動の真相」では、9月16日付『「筋違い」議論の行方』という題名で取り上げている。「ダブスタ疑惑」記事では、塩坂氏の「地下ダム」発言を批判した。  2年前の『「筋違い」議論の行方』でも、「地下ダム」を取り上げた。『「地球温暖化で将来、降水量が12~13%増えると予測されている。この予測に沿った大井川の将来像を示せ」、「水環境のために西俣川に地下ダムを何カ所かつくればいい」などさまざまな専門家の要請』とあるから、塩坂氏らは、リニアとは関係の薄い無謀な要請をしている。  「熱海土砂災害」報道で難波氏の塩坂批判があってから、議事録で「地下ダム」を確認すると、塩坂氏は「目先の代償措置では生態系を守れない。地下水枯渇の代償措置として地下ダムの説明をした」などと述べ、「地下ダムを考えるのか、そうでない場合は代替案を示すべき」とJR東海に迫っていた。まあ、いま考えれば”珍妙”以外の何ものでもない。  ただ、2019年9月12日の会議は、塩坂氏の「地下ダム」発言が目立たないほど、県地質構造・水資源専門部会委員らの発言すべてが、常軌を逸していたから「筋違い」と指摘したのだ。  12日付静岡新聞夕刊1面トップ記事は『リニア水問題 「JRの地質調査不十分」県連絡会議専門家ら見解』の見出し、翌日の13日付静岡新聞朝刊1面トップ記事も『リニア水問題 県とJR協議継続 連絡会議 データ、資料不足』の見出しであり、JR東海が提出した県の中間意見書に対する委員からの不満続出を伝えた。  静岡経済新聞では、『12日の会議では「基本的なデータはすべて既存のものであり、新しいものではない」「畑薙山断層での鉛直ボーリング調査をやるべき」(塩坂邦雄委員)、「畑薙山断層西側でも3百メートルの断層がある。そこでも鉛直ボーリングをやるべきだ」「鉛直ボーリングを何本かやれ」(丸井敦尚委員)、「データを取る前に既存データの解析が行われていない」「新しいデータを出せ」(大石哲委員)など委員すべてが、「新たなデータ」を求める議論に終始した』と伝えている。「新しいデータ」がない限り、専門部会委員は議論はできないと言っているようなものだ。  『JR東海は南アルプストンネル近くの西俣非常口ヤード付近で鉛直ボーリングを行うことを明らかにしている。しかし、通常、鉛直ボーリングを行い、データをそろえるためには半年以上掛かる。となると、当然、委員らが求める科学的議論の場は新しいデータを得た上で行うことになる。この点を専門部会の会議をまとめる森下祐一部会長に尋ねると、「専門部会としては鉛直ボーリングの結果が分からなくても許可を出さないわけではない」。その答えに愕然とした。あれだけ「新しいデータを出せ!」と言っておいて、必ずしも新しいデータを必要としないというのである。「狐につままれた」とはこのようなことだろう。』  こうなると、専門部会委員の役割は、とにかく、「新しいデータを出せ」とJR東海に迫ることに尽きる。会議を運営しているのが、難波氏だった。 「その発言は看過できない」の発言者は?  この会議のほぼ1カ月前、2019年8月20日に、同部会長の森下祐一静岡大学教授(当時)とJR東海との意見交換会が行われた。  この意見交換会では、オブザーバーであり、意見を言うべき立場にない難波氏が、JR東海が山梨側からのトンネル工事中に湧水が流出することに触れたのに対して、「全量戻せないと言ったが、認めるわけにはいかない。利水者は納得できない。その発言は看過できない」など厳しく反発、紛糾した。ああ、やっぱり、難波氏が会議の方向性を決めていた。  会議の後の囲み取材で、難波氏は「湧水全量が返せないことが明らかになった」などと述べた。翌日、21日付中日新聞、静岡新聞ともそろって1面トップで『JR「湧水全量は戻せず」 副知事反発』(中日)、『「湧水全回復一定期間困難』JR認識、県は反発』(静岡)などメディアは「湧水全量戻せず」のほぼ同じ内容の記事を大々的に報じた。  かくて、難波発言によって、「水一滴」議論がスタートした。  新聞報道から2日後の23日定例会見で、川勝平太静岡県知事は「湧水全量戻すことを技術的に解決しなければ掘ることはできない。全量戻すのがJR東海の約束だ」など「(静岡県の)水一滴」でも県外へ流れ出すことを容認できない方針を示した。当然、新聞、テレビは知事の「水一滴」発言を大きく取り上げた。  実際には、JR東海がそのような約束をしたわけではないことは静岡経済新聞の2019年8月26日『リニア騒動の真相13「水一滴」も流出させない』で伝えている。詳しいことを知りたい読者は、この記事をご覧ください。  シェークスピア『ヴェニスの商人』に登場する「血の一滴」にも等しい無理難題を言い出したのは、難波氏だったのだ。 2019年10月4日の異様な会議を演出したのは?  そして、この2つの会議を経て、2019年10月4日の県地質構造・水資源専門部会の「トンネル湧水全量戻し」を議論する会議が開催された。  会議は、静岡工区のトンネル掘削は山梨、長野両県とも上り勾配で施工するため、先進坑が貫通するまでの間、山梨県側へ最大で約0・15㎥/秒(平均0・08㎥/秒)、長野県側へ最大で約0・007㎥/秒(平均0・004㎥/秒)流出することがトンネル工法上、やむを得ないのかを議論するのが目的だった。10カ月間で山梨県側2百万㎥、7カ月間で長野県側10万㎥の合計210万㎥流出することになる。流出を止めるためには、静岡県側から下り勾配で掘削するしかない。JR東海は作業員の安全のために下り勾配の掘削はできない、と主張してきた。本当に下り勾配の掘削ができないのか、もし、上り勾配の工法しかないならば、湧水流出をおさえる代替工法の検討をしたのかどうかの説明をJR東海に求めた。  このために、静岡県はトンネル工学の専門家、安井成豊・施工技術総合研究所部長を招請した。ところが、会議では安井氏の存在はほとんど無視されてしまった。安井氏が発言を続けようとしても、さえぎられてしまう場面さえあったのだ。  それよりも何よりも、会議が始まるや否や、突然、県の事務方が『トンネル湧水の処理等における静岡県等の疑問・懸念事項』という一枚紙を出席者全員に配った。  「9月13日の意見交換会において、JR東海がトンネル工事中の表流水は減少しないといった内容の説明をしていましたが、私たちが問題にしているのは、トンネル近傍河川の表流水だけでなく、地下水を含めた大井川水系全体の少量です」と記されていた。何だ、これとの印象を持った。せっかくの会議をぶち壊すのが目的以外の何ものでもない。  会議後の囲み取材で、難波氏は「JR東海はまともに対話する資質があるのか問いたい」などと批判のボルテージを上げた。県作成の一枚紙「地下水を含めた大井川水系全体の少量という水環境問題」の認識をJR東海は共有していなかった。実際には、認識を共有する必要性は乏しいはずなのだが、県は矛先を変えて、JR東海を批判した。  いま考えれば、すべて難波氏の戦略だったのだろう。  県専門部会の位置づけとは何かを知る上では、2019年8、9、10月の会議をじっくりと検証したほうがいい。専門部会委員の”乱暴な発言”がはっきりとわかる。  熱海土砂災害「崩壊メカニズム」を説明するという目的で、2021年7月7、8、9、13、14、15日に連続で行われた難波氏の記者会見を検証することにも通じる。難波会見に対する県政記者たちの批判は大きいからだ。  まあ、それでも、収穫なのは、難波氏による「誤り」「不適切」の塩坂批判を取り消すことはできないことだ。これから、リニア会議での塩坂発言の「誤り」「不適切」をちゃんと把握した上で、国交省は県の利害関係人である塩坂氏の県専門部会員辞任を求める動きにつなげたほうがいい。  そうしなければ、国の有識者会議で、沖大幹東大教授ら専門家が丁寧に議論して、中間報告にまとめる結論でさえ、県の専門家?による、”珍妙”ないちゃもんですべてこなごなにされてしまう可能性が高いのだ。

ニュースの真相

リニア騒動の真相90大丈夫ですか?難波さん

難波副知事が塩坂氏に謝罪した?  7月4日に発生した熱海土砂災害のあと、難波喬司副知事の会見が7日から連日のように始まった。会見時間が異様に長いのが特徴だ。7日(2時間半)、8日(30分)、9日(2時間20分)、13日(2時間20分)、14日(3時間半)、15日(1時間10分)で、2時間超の日が多く、これだけでも難波氏の頑張りが伝わる。  ただ、内容は非常に分かりにくい。「不安の軽減と風評被害の軽減のために、確定又は確度の高い情報なのか、推定情報なのかを行政の責任において判断し、積極的に情報発信(行政の動きが分からないこと、多くの不確定情報が飛び交うことが不安を増大させる)」という基本を踏まえ、『崩壊のメカニズム』について、大胆な「仮定」に基づく「推定」あるいは「推論」を行っているからだ。前日と当日の会見内容が違っていたり、複雑な内容に記者の理解が追いついていない。記者の同じような質問に、難波氏は的確に答えず、言質を取られないよう曖昧な表現に終始する。だから、時間が掛かる。会見は県庁HPから外部サイトにリンクして、ユーチューブで見ることができる。  13、14の両日の記者会見に参加した。9日の難波氏の発言内容を確認するためだった。『リニア騒動の真相89静岡新聞1面記事の”誤報” https://shizuokakeizaishimbun.com/2021/07/11/rinia89/』を伝えた。県のリニア会議地質構造・水資源専門部会の塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)の発表内容が「誤り」である、という難波氏の指摘の通りであれば、塩坂発言は”お騒がせ”以外の何ものでもない。塩坂発言に疑いを持たず、そのまま掲載した新聞報道の在り方にも疑問を投げ掛けた。  難波氏がいまでも9日と同じ考えなのか確認したかったのだ。  14日の会見で質問した。難波氏は「その(塩坂氏の)指摘が正しければ、(「盛り土」付近の崩落個所がある)裏山が落ちるかどうか警戒しなければならない。チェックしたが、裏山がごっそり落ちることはない。捜索活動への2次災害防止のための緊急対応が重要であり、原因解明はいまやるべきことではない。報道を見た人は不安になる。発信するのは(しっかりと)解明してからにしてください」などと述べ、9日の発言とほぼ、同じであることを確認した。  塩坂氏の独自見解である人為的な開発による「河川争奪」は、難波氏らが現地調査を行った結果、そういう事実はなかったと断言した。つまり、逢初(あいぞめ)川の「流域(集水域)」拡大の事実は現時点ではありえないとのことだ。  ところが、16日静岡新聞朝刊を読んで驚いた。『地質専門家の塩坂邦雄氏の主張を批判したことについては(難波氏は)「情報の重要性を適切に評価していなかった。塩坂氏の名誉を傷つけた」として謝罪した』とあった。15日の会見には参加していなかったため、”難波氏の謝罪”を全く知らなかった。  その後、何か重大な事実でも見つかったのか? 地下水の動きを指摘したわけではない  15日午後4時半から始まった約1時間10分の「難波会見」をユーチューブで確認した。会見開始後すぐに、難波氏は『7月4日、塩坂邦雄氏が独自調査で解析、現在の流域とされている上部にある標高の高い部分を考慮すべき、有力な情報を直接、もらった。記者会見で塩坂氏の有力な情報を評価せず、結果として、塩坂氏の名誉を傷つけた、ということを心からおわびする』と述べ、その上、記者たちとユーチューブのカメラを前に丁寧に頭を下げた。  「地下水の動きは分からない。あとで重要な情報であるとわかった」と言う。『地下水の動き』が新しい事実のようだ。ただ、どうもそれだけでは意味がよく伝わらない。  15日の会見では、建設コンサルタント会社の東日(本社・沼津市)など民間による無償の協力などに感謝のことばを述べるなど、ふだんの内容とは違っていた。その一環の中で、塩坂氏の調査にも感謝していると述べたかったのか。ただ、それだけではないようだ。  まず、9日の会見を振り返ってみる。  9日の会見では、難波氏は逢初川の流域図を示して、その中の赤く塗られ、ひし形の崩落した逢初川流域図の上部地域を示して、『この辺りの水が入っているという話が(4日、塩坂氏から)あった。「そうですか、それは大変ですね。その状況が確認できたら、私に教えてください」と申し上げた。それは我々はここの安全性に対して責任を持っているからだ。しかし、それを我々に説明することなく、県に説明することなく、ここに6倍の水が入っている話を(記者会見)するなんて非常に不適切だ。それははっきりと申し上げておきたい』などと”激怒”していた。  ところが、15日の会見では、この会話部分に「重要な情報があった」としているのだ。  新聞報道によると、塩坂氏の指摘は、逢初川北側の鳴沢川に流れ込むはずの雨水が「河川争奪」によって、逢初川に流れ込んだ。つまり、逢初川の流域が4万㎡から25万㎡に拡大したと説明した。だから、難波氏は「はっきりと申し上げて、”誤り”」と断言した。ここに地下水の話はどこにも出てこない。  そもそも、「河川争奪」をしたとされる鳴沢川の流域が21万㎡かどうか、全く分からないのだ。2級河川の逢初川は県管理だから、流域図を作っているが、普通河川の鳴沢川は熱海市管理であり、県担当課に問い合わせたが、「流域図はない」との回答だった。つまり、流域図さえ定かでない鳴沢川に関する調査であり、「河川争奪」がないことを確認したならば、原因解明はあとからやればいい、と難波氏は主張、塩坂氏の発表を批判したのではなかったのか?  何かおかしい。 難波氏の謝罪は儀礼的なもの?  15日の難波会見をすべて確認した。「塩坂氏の指摘は表流水が鳴沢川へ行っているか、逢初川へ行っているかという指摘だった。それは、ここの現象だけをとらえれば、そんなことはない。表流水だけを見れば、熱海土木事務所が行って確認した。ところが、よく考えてみると、地下水がどうなっているのか分からないので、ひよっとすると、微妙な、(崩落部分より)上部地域の地下水がここに入ってきている可能性はある。  塩坂氏はここに(上部地域)注目したほうがいいですよ、という情報提供だと理解すれば、私がそこをよく分かっていなかった。そこはしっかり訂正して、おわびを申し上げたい」  塩坂氏の指摘は間違っているが、塩坂氏が指し示した場所は注目するのに値するという。何とも不思議な説明である。  塩坂氏は造成で尾根を平らにしたことで、「河川争奪」が起きたと説明していた。難波氏は「(造成などの)開発行為は関係ない。風評被害の恐れがあるのでしっかりと対応しなければならない」とも答え、塩坂氏の”人災”の指摘に、風評被害を招くから「不適切」と批判もしている。  「(9日に)不適切だとあれだけ言っておいて、いまさら、お詫びですか」という記者の鋭い質問に、難波氏は「誤った対応があるのでお詫びしたが、ただ」と始まった。「塩坂氏のことを言うと、また、名誉を傷つけることになるので、いい加減にしないといけないが、昨日まで私が問題にしていたのはプレス発表をしたことだ。最初の鳴沢川の水が逢初川に入っているという(「河川争奪」の)情報を確認したが、正しくはなかった。(それをそのままプレス発表したことで)鳴沢川流域の人たちに不安をもたらし、宅地造成していた人たちの責任を問題にした。不確定の段階で情報を出すと風評被害をつくる可能性がある」と、やはり、塩坂氏のプレス発表を批判したのだ。  そのあと、難波氏は「塩坂氏はここ(上流部)を見ないとダメだという情報だった。その情報の大事さを見過ごしていた」と謝罪の意味をあらためて説明した。これは単なるこじつけであり、記者たちに不思議な印象だけを残した。  塩坂氏は地下水の専門家ではない。塩坂氏が「ここを見なくてはダメだ」と言ったのも、難波氏が否定した「河川争奪」の指摘をしたかったからではないか。  だから、「不適切」だとする難波氏の主張はいまも変わらない。そうなると、難波氏の謝罪は本心からではなく、記者会見で塩坂氏を批判したことに対する儀礼的なものに過ぎない。なぜ、そんなことをしなければならなかったのか? 一体、なぜ、難波氏は不思議な謝罪をしたのか?  難波氏は、地下水が影響していると言いながら、いまのところ、その量などは全く分からない、と答えていた。  9日の会見で、難波氏は、今回の崩壊の原因のひとつに、「長雨蓄積型」の降雨を挙げていた。2019年の台風は、約300ミリの降雨があり、狩野川の決壊をもたらしたが、熱海の「盛り土」付近は崩壊しなかった。7月1日から3日までの降雨は総雨量約500ミリに達して、崩壊を招いた。当然、どちらの場合にも逢初川の流域には、上部から地下水が流入していただろう。となると、地下水の影響が今回の崩壊を招いた直接の原因ではないことになり、大きな要因と言えないかもしれない。  当然、地下水の専門家でもない塩坂氏は「流域」上部を指し示して、その辺りの地下水が崩落を起こした「盛り土」付近に流入していると話したわけではない。難波氏によれば、単に「ここを見ないとダメ」と言っただけである。  考えれば分かるが、いくら地山が堅固だとしても、土石流の起点となったのは岩戸山(標高734m)の中腹、標高約400m付近の斜面(「盛り土」付近)に、地下水の流れが全くないと考えるほうが理解に苦しむ。地下水については、原因解明の段階に入ってから、ボーリング、水脈、測量などの調査を行うと決めていたのだろう。地下水量がどのくらいか山肌を見て大雑把には理解していて、2次災害に備えていたはずだ。いくら何でも、塩坂氏に言われるまで、専門家の難波氏が地下水を問題外にしていたとは信じられない。  さて、そうなると、なぜ、難波氏は不思議な謝罪をしたのか?  「情報を出すのは個人の勝手だ」(難波氏)と言いながら、塩坂氏が県に何の報告もなく、プレス発表したことに難波氏は激怒してしまった。  週刊誌情報では、熱海の土砂災害では、産廃の混じった不適切な「盛り土」を行った前地権者は同和関係者であり、10年前にその土地を購入した人物は島田市の住職のいない寺院代表責任者となり、熱海市に別院をつくっているという。すべて県の手続きが関係する。  塩坂氏がどのような人物かは知らないが、内容の誤った不適切なプレス発表を批判した副知事に、頭を下げさせるほどの謝罪を求める何らかの”強い力”を持つようだ。大丈夫ですか?難波さん ※タイトル写真は、14日に会見した難波副知事

ニュースの真相

リニア騒動の真相89静岡新聞1面記事の”誤報”

リニア専門家の見解を1面トップ記事にした静岡新聞  静岡新聞は9日の夕刊で、リニア問題を議論する静岡県中央新幹線環境保全連絡会議地質構造・水資源専門部会の塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)が発表した熱海の大規模土石流の起点地域で大崩壊に至ったメカニズムを伝えた。記事では「逢初(あいぞめ)川上流部の盛り土について、付近に造成された道路から雨水が断続的に流れ込み、大量の水を含んで崩壊に至った可能性がある」ことが塩坂氏の調査で明らかとなり、「人為的な流域変更で、盛り土周辺に向けて雨水が集まる面積は約6倍に広がっていたとみられる」と塩坂氏の新見解を前文で伝えた。  本文では、塩坂氏が4、6日に現地調査を行い、開発行為によって、人為的な盛り土があった約4万㎡の集水域だけでなく、雨量が一定以上になった際は盛り土のあった北側の尾根を越えた斜面約21万㎡も集水域であることを確認したという。合計約25万㎡もの集水域から大量の水が盛り土付近に流入したため、大規模な土石流を起こしたのだという。  『塩坂氏は「本来の集水面積から、これほどの大災害になるのか疑問があった」とした上で、「結果的に分水嶺を超えて造成が行われており、人為的な河川争奪(河川の流域の一部分を別の川が奪うこと)が起こった。あってはならないことだ」と述べた。』という塩坂談話を掲載した。  通常、メディアが専門家の新見解などを記事にする場合、専門分野の権威者の評価を求める。この記事では『今回の土石流をめぐっては複数の専門家が「盛り土を含めた周辺の開発行為に伴う複合的要因で引き起こされた」と推定している』とあるだけで、塩坂氏の見解に対する、権威者の評価などを求めていない。少なくとも、国、県など現在、調査を行っている行政機関のコメントを求めるのだが、それも一切なかった。  「熱海土石流 道路影響 集水面積6倍か 雨水、分水嶺を超え盛り土に 地質学者・塩坂氏が見解」の見出し、増えた集水域を含めた土砂崩壊の起点となった周辺の大きな写真とともに、塩坂氏の顔写真も掲載されていた。また、塩坂氏の見解を分かりやすく示した大きな図が付いていた。権威者や国、県などのコメントを求めず、静岡新聞記者は塩坂氏の調査を全面的に信頼したから、夕刊1面の大きなトップ記事としたのだろう。他の新聞は報道していないから、静岡新聞の特ダネだと思った読者が多いだろう。  しかし、その日のうちに特ダネ記事の評価は地に落ちる。 難波副知事が静岡新聞”誤報”を指摘した  難波喬司副知事は9日夕方の会見の席で、この記事を厳しく批判したのだ。  難波氏は「ある新聞(静岡新聞)を見て、驚愕した。不確定な情報で危険性を指摘するのは非常に不適切だ」など厳しい口調で、塩坂氏の新見解を問題にした上で、「流域面積に6倍もの水が入っているのは、はっきりと申し上げるが、誤りである」と強い口調で否定した。  つまり、塩坂見解は間違いであり、それを伝えた静岡新聞記事の”誤報”を難波副知事が明らかにしたのだ。難波氏が指摘したあと、原稿を書いた記者が何らかの疑問を投げ掛け、塩坂氏の正当性を訴えることはなかった。  難波氏の会見は、9日午後5時45分から始まり、「崩落のメカニズムがほぼ分かった」として、崩落の起点となった盛り土付近の状況、すぐ近くにある太陽光発電施設が今回の土石流に関係ないこと、また同施設が何らかの影響を与えないことなどを説明していった。約1時間20分の詳しい説明が続いたあと、静岡新聞夕刊に掲載された塩坂氏の見解を厳しく批判した。  「わたしはそこ(約4万㎡の集水域となる崩落の起点など)に行って、(現地の状況から)水がどう流れているのかを確認した。6倍とか7倍とかの流域面積の水がここに集まっているとは思わない。2倍の水が集まっているとも思わない。排水が適切でなくて(同所に)来ている量は、せいぜい1割を超えることはない。6倍の面積の水がここに来ているのではなく、1・1倍の水が来ている可能性はある」  「もし、6倍の水が来ているとしたら、令和元年の台風(約300ミリの雨量があった)でここは崩壊していた。令和3年の雨(7月1日から3日までで約500ミリの雨量)で壊れたのは、その雨量に耐えられなかったからだ。(だから)よそから来ている水はほとんどない。(約500ミリの雨量で)盛り土付近(約4万㎡)の総雨量を計算すると2万㎥となるが、6倍の水を集めたら、(総雨量は)12万㎥となる。そんな水がここに入っていたら、ここが保(も)つはずがない。もし、そうであるならば、崩壊する前に大水害となっている。6倍もの水が入っているのは、はっきり申し上げるが、誤りである」  「(数日前)塩坂氏からこの辺り(盛り土付近より上流域)の水が入っているという話があった。『そうですか、それは大変ですね。その状況が確認できたら、わたしに教えてください』と申し上げた。それは、我々は(捜索活動などに対する)ここの安全性に対して責任を持っているからだ。我々、県に説明することなく、ここに6倍の水が入っている話を記者にするなんて非常に不適切だと、はっきりと申し上げたい」  「調査をしてもらうのは大いに結構だが、不確定な情報で危険性を指摘するのは、不適切だ」  難波氏から丁寧な説明を聞いた記者たちは、静岡新聞の”誤報”をはっきりと認識したのだろう。会見では、記者たちはいくつかの質問をしたが、塩坂氏の見解や静岡新聞記事については、原稿を書いた静岡新聞記者を含めて誰ひとり確認の質問さえしなかった。 静岡新聞はメディアの責任を果たしたか?  難波氏の説明、質疑応答が2時間半近くに及んだあと、最後に産経新聞記者が「仮定」に基づいた「推定」なのか「断定」なのか曖昧な部分があることをただした。「先ほど、昼間の専門家(塩坂氏)の話を基にした記事の件があったが、我々の記事がミスリードすることにならないように」と釘を刺した。  「ミスリード」とは、新聞では、見出しと記事の内容が著しく異なっていることを指すが、産経記者は、「専門家の間違った説明で記者が誤った方向に読者を導くこと」で使っている。つまり、記者がそのまま言われた通りに記事を書いても、結果的に”誤報”にならないよう”事実”のみをしゃべってほしい、と要望したかったようだ。  新聞記者の仕事は、相手の話を疑うことだから、さまざまな確認を行う。さらに、新聞社には記者の原稿をチェックするデスク(役職)などを置いているが、その能力には自ずと限界がある。  ただ、今回のように記事の真偽を明らかにして、”誤報”との指摘を真摯に受け止めるならば、静岡新聞社はメディアとしての責任を果たすために、ちゃんと対応しなければならない。  ところが、翌日の10日付静岡新聞朝刊を見て、愕然とした。”誤報”を伝えた9日付夕刊紙面については「土砂成分分析 原因究明へ 県、行政手続きも調査」という見出しをつけた地味な記事の中で、小さく扱ったに過ぎなかったからだ。  記事では、難波会見の内容などに触れたあと、塩坂氏の新見解を否定したことを伝えた。  『また、地質専門家の塩坂邦雄氏が主張する、逢初川と別の流域から雨水が流れ込んで盛り土上流側の集水面積が約6倍になったとする可能性について(難波副知事が)「6倍の水が流れるような状況ではない」と指摘。「不確定な情報で不安をあおっている」と批判した。』と、前日の夕刊1面トップの特ダネ記事とは全く関係ない他人事の扱いだ。夕刊記事の訂正がどこにも載っていないから、たった12行のベタ記事で訂正に替えたのかもしれない。  前日の夕刊1面記事を読んだ人がこの記事を読んでも、何が何だか分からないだろう。静岡新聞社はメディアの責任を果たしたと言えない。 毎日新聞記者は居眠りしていたのか?  ところが、10日付毎日新聞朝刊を開いて、静岡新聞の件はぶっ飛んでしまった。目を疑ったが、地方版トップ記事に塩坂氏の発表がそのままに掲載されていたのだ。他紙の記者たちも塩坂氏の会見を取材したはずだが、当然、各紙は1行も触れていない。難波氏の厳しい批判を聞いていたからだろう。だから、一番、びっくり仰天したのは難波氏本人だったかもしれない。  静岡新聞夕刊が”誤報”であることは、難波氏の会見を聞いた記者は理解できる。だから、塩坂氏の”ミスリード”を各紙の記者たちは十分承知していた。ただ、難波氏の指摘を知らなければ、デスクや編集委員が何人いても、黙って原稿を通してしまう。いまでも、毎日新聞社内では、塩坂氏を巡る記事が問題になっていないだろう。  『熱海土石流 造成で尾根削られ 盛り土側に雨水流入 地質学者「人災だ」』という見出しに、記者会見のために作成した現地のパネルを説明する塩坂氏の大きな写真が使われていた。「小さな流域(4万平方㍍)で、なぜ土砂が滑り落ちたのかと思った。4万平方㍍に降った雨で滑り落ちるわけがない」と塩坂氏の談話を紹介した上で、「逢初川の集水域よりさらに北部にある、鳴沢川の集水域約20万平方㍍に降った雨も、盛り土側に流れ込んだと分析している」など静岡新聞夕刊”誤報”とほぼ同じ内容の記事が掲載された。  ひとつ大きく違うのは、毎日新聞は、塩坂氏の『人災だ』という主張に重きを置いたことだ。川勝平太知事はいまのところは、「天災」との見方をしている。前日の会見で、難波氏は「天候要因に人的要因が加わって大災害が起きてしまった」との見解を示した。ところが、毎日新聞は「人災だ」という塩坂氏の主張をそのままに掲載、読者はこれで「人災」がはっきりとしたという思いを強くするだろう。ただし、「人災」主張の根拠が間違いならば、これも虚偽となってしまう。  原稿を書いた毎日新聞記者は、前日夕方、難波氏の2時間半にも及ぶ会見を取材していた。難波氏から、塩坂氏への批判や静岡新聞”誤報”を聞いていたはずである。それとも、ちょうど、静岡新聞”誤報”を説明した時間に、居眠りでもしていたのか?  ただ、居眠りであれば、それでも罪は軽いかもしれない。もし、難波氏の指摘等を十分、承知した上で、塩坂氏の発表を記事にしたとしたら、これこそ”人災”である。毎日新聞記者は、塩坂見解を信用して、難波批判を退けたことになり、その理由をちゃんと説明しなければならない。もし、それができないならば、”記者失格”である。  なぜ、今回の「熱海土石流災害」の記事が「リニア騒動の真相」かと言えば、静岡新聞、毎日新聞の記者は、リニア問題の担当記者でもあるからだ。リニアの議論でも、塩坂氏のいい加減な”飛ばし”をそのまま記事にしている。これまでは県にとって、そのほうが都合がよかったのだろう。  塩坂氏が馬脚を露したことで、難波氏が面と向かって批判する側に回った。「熱海土石流災害」をきっかけに、さまざまな面でリニア問題の議論が大きく変わるかもしれない。  ※タイトル写真は9日付静岡新聞夕刊トップ記事から

ニュースの真相

リニア騒動の真相88「責任者出てこい!」

川勝圧勝は”自民党がだらしないから”  当初の予想通り、川勝平太氏が自民党推薦候補に約33万票の大差をつけて当選、川勝県政の4期目は5日、スタートする。  6月30日に始まった県議会6月定例会で川勝氏は「(リニア問題を議論する国の有識者会議が下流域へ工事の影響がほぼないとする中間報告を出す見通しについて)JR東海が約束した湧水の全量戻しを守らないでトンネルを掘削することになる。到底納得できない」などこれまでと同じ姿勢を崩さない。「コロナ禍の中、従来の国土づくりの発想は見直されている。リニアの進め方についても一度、立ち止まって見直すべきときだ」。当選によって、今後、4年間リニア工事”凍結”となる見通しが非常に強くなった。それどころから、95万票余の民意を背景にリニア計画全体の見直しを迫っているのだ。  今回の知事選がリニアの運命を決めることくらい、国、JR東海は先刻、承知していた。ただ、こんな大差での川勝圧勝を予想もしなかったのだろう。一体全体、川勝氏がこれほどまでに選挙に強い理由はどこにあるのか?  そんな疑問に答えてくれる「コラム」が知事選のはるか前、ことし3月30日付静岡新聞に掲載されていた。  『「座長は御用学者にちかい」「(JR東海と有識者会議、鉄道局は)臭い関係。腐臭を放っている」。川勝平太知事は(3月)23日の記者会見で、県内のリニア工事を巡り、強い言葉でJR東海や国土交通省を批判した。  あえて刺激的な言葉を発して論争を巻き起こし、事態の転換を図るのは川勝知事の政治手法。悲しいことに、長く取材するうち、こちらも少々の発言では驚かない耐性ができてしまっている。ともあれ、よくまあ、物騒な言葉が次から次へと出てくるものだ。  舌禍を繰り返しながらも、選挙で圧勝を重ねて3期12年。「なぜ川勝知事は選挙に強いのか」とよく聞かれる。正直、よく分からない。自民党がだらしないから、と答えることにしている。(政治部・宮嶋尚顕)』  まさに今回、川勝氏が圧勝した理由は、静岡新聞の政治部記者コラムの通りだろう。『自民党がだらしがないから』と、炯(けい)眼の記者は鋭く指摘した。知事選の2カ月以上前、自民党はそこまで貶(おとし)められた。なぜ、奮起できなかったのか? 自民党に具体的な「公約」がなかった  川勝氏はこれまでの3回の選挙をどう戦ったのか?  2009年7月に行われた知事選は、自民推薦の石川嘉延知事の後継を決める選挙だった。当時、石川氏は68歳で5期目出馬に意欲的だった。ところが、静岡空港の立木問題で政治責任を問われ、任期を待たずに辞職した。後継候補として石川県政で副知事を務め、三島市出身、元中央官僚の坂本由紀子氏が立候補した。自民、公明の推薦を得ただけでなく、地元出身のエリートで、初の女性知事への期待などから、坂本氏が優勢だと見られた。  一方、川勝氏は民主、社民、国民新の推薦を得て、”民主旋風”の追い風に乗っていた。保守王国とされる静岡県でも自民への逆風が強かった。また、川勝氏の天性の雄弁家ぶりは県内各地で大きな評価を得た。1万5千票余の僅差ながら、川勝氏は激しい選挙戦を制した。戦いらしい戦いはその1期目の選挙だけだった。  2期目は問題にならなかった。64歳の川勝知事の対抗馬は、57歳で元電通マンの広瀬一郎氏。何と75万票もの大差がついた。自民県連が広瀬氏の推薦を求めたが、党本部は難色を示し、すったもんだの末、結局、「支持」にとどまった。自民は最後まで一枚岩とならず、選挙戦の大差につながった。自民というメッキがはがされ、烏合(うごう)の衆であることがはっきりとした。強い指導力を発揮できる議員が県内にはいないことがわかった。  3期目も、最後まで、自民は候補擁立でもめ、結局、自民候補を断念した。そんな騒ぎを横目にオリンピック柔道銀メダリスト溝口紀子氏が出馬、自民静岡市支部などいくつかの支部の推薦を得た。徒手空拳ながら、静岡市などでは川勝氏に迫る勢いを見せて、溝口氏は健闘した。  さあ、3期までの知事選を振り返って、自民党のだらしなさを静岡新聞記者は指摘した。どうすれば勝てるのかの示唆もしていた。つまり、十分に準備を重ねて、川勝氏に勝てる候補を出せばよかったのだ。  ところが、4期目の今回は自民候補不在の3期目よりもひどい結果となってしまった。前参院議員で、国交副大臣を務めた岩井茂樹氏が出馬を決めたのは投票日の約2カ月前、そこから、自民党推薦を得るまで党内部でごたごたが続いた。  勝てる候補としての魅力に乏しい岩井氏の出遅れとともに、選挙戦中に何度も書いた通り、自民党は有権者を引きつける具体的な選挙戦略をひとつも打ち出せなかった。ただ、世代交代を訴え、抽象的なお題目を唱えるだけで、リニアからも逃げた岩井氏を推す有権者は少なかった。消去法から、おのずと川勝氏しかいなかったのだ。  自民党は当選ラインを75万票に設定したが、岩井氏の得票数は目標に10万票以上も届かなかった。得票数から見てもこの惨敗は、”自民党がだらしない”結果でしかなかった。  惨敗の理由がだらしない自民党ならば、誰かが責任を取らなければならない。いまのところ、自民県連は誰も責任を取っていない。と言うよりも、曖昧な言い訳をするだけで、うやむやに済ませようとしている。これでは惨敗を重ねるのはやむを得ないだろう。  「この惨敗の責任者は一体、誰なのか?」。そんな声が聞こえてくる。 川勝5期目に自民は対抗できるか?  惨敗の責任を明確にした上で、自民党は4年後を見据えて、いまから「闘い」を始めなければ、5期目選挙でも川勝氏に勝てないだろう。そのために、いま、一体、何をすべきか?  川勝氏は2014年春、JR東海の環境影響評価書について「トンネル湧水の全量戻し」を知事意見に記している。ただ、この「トンネル湧水の全量戻し」は、毎秒2㎥減少に対して、JR東海は1・3㎥を戻し、必要に応じて0・7㎥は戻す、としたことに「全量戻せ」と主張したことに始まる。つまり、工事終了後の「全量戻し」を指していた。いまや工事期間中の「全量戻し」を求める静岡県に対して、JR東海は作業員の生命の安全を優先して、工事期間中の山梨県外への流出を譲っていない。  実際に、工事期間中の「全量戻し」が問題になったのは、2019年秋になってからである。ところが、川勝氏の「全量戻し」を県民は信じ込まされている。自民党はまず、リニア問題について正確な情報と知識を得るべきである。その上で、川勝氏との討論を行わなければ、川勝氏の主張に屈し、岩井氏のようにリニア問題から逃げるしかなくなってしまう。  さて、リニア問題を通じて、過去の記録を見ているとさまざまなことが明らかになる。  3期目の当選直後に開会した県議会6月定例会で、川勝氏はリニア問題について一切、触れていなかった。川勝氏がリニア問題を俎上に載せたのは、2017年秋頃である。リニア問題の先に、4期目の知事選をにらんでいたことは確かだ。そして、その時々に、リニア、リニアを連呼しながら、大きく発言を変えるとともに、『刺激的な言葉を発して論争を巻き起こし、事態の転換を図る政治手法』が発揮されたのだ。  6月22日の定例会見で「選挙期間中に何回か、この4期目が最後で後進に道を譲ると言ったが?」と問われと、川勝氏は「最初のときから1期4年でやる、と言った。2期目のときは、前編と後編、3期目のときはホップ、ステップ、ジャンプで、ジャンプした後は海に落ちるしかなかった。4期目は起承転結である。現在も新陳代謝を望んでいる」と曖昧に答えた。つまり、4年先はどうなるか分からないという意味である。  4年後には76歳となるが、静岡県の人生区分では「壮年熟期」であり、「経験を積み、さまざまなことに挑戦し、社会で元気に活躍する世代(働き盛り世代)」としているから、目ぼしい後進が見当たらなければ、5期目に挑むことを意味する。(あるいは川勝指名の後継候補)。  自民党が5期目を阻止したいならば、いま、まず今回の選挙の総括を行い、惨敗の責任を問うべきである。曖昧にしたまま、4年間が過ぎてしまったから、今回の結果を生んだと言える。4年後も、同じ轍を踏むことになるだろう。 「話さなければ、らちが明かない」最高責任者  「最高責任者に出てきてほしい」。川勝氏は22日の定例会見の席で、その胸のうちを明かした。  こちらは自民党ではなく、JR東海への呼び掛けだ。『リニア問題について、JR東海の意思決定者は誰か、通常は社長だが、本当はJR東海創設の立て役者である葛西敬之名誉会長である』とまず、川勝氏は葛西氏を名指しにした。リニア工事の責任者である宇野護JR東海副社長から、『葛西さんがリニアを進めていると聞いている』として、『その方(葛西氏)と話さなければ、らちが明かない』と対談を求める宣言をしたのだ。  『JR東海の場合には、明確に(最高責任者は金子慎代表取締役社長ではなく、取締役からも外れた名誉会長の)葛西さんであることを確信している』などと述べた。つまり、最高責任者の葛西氏と対談しなければ、らちが明かないというのだ。  記者から、「知事から葛西名誉会長と対談を求めるのか」と問われると、川勝氏は『相手(葛西氏)が望まれるならばいつでも』と回答した。これは知事選で圧勝した川勝氏の余裕なのだろう。相手に解決の糸口を示したのである。  さらに、川勝氏は『葛西さんとは25年以上のつき合いがあり、葛西氏から個人的な厚意を得ていて、”ツーカー”であり、初めて会う方ではない』などと述べた。『葛西さんがJR東海の本当の立て役者であり、国士ふうの立派な見識を持った方、それなりの筋の通った方である』などと葛西氏を立てた上で、メディアを通して、葛西氏との面談を要請した。  川勝氏の”ラブコール”が葛西氏に伝わったのは間違いないが、葛西氏が応じるのかどうかは不明である。切羽詰まった状況に追い込まれれば、屈辱的と思われても、解決策を求めるだろう。  「闘い」に勝つためには、最高責任者の戦略が大きな意味を持つ。自民党、JR東海ともいまのところ、最高責任者が出てきていない。『刺激的な言葉を発して論争を巻き起こし、事態の転換を図る川勝知事の政治手法』が分かっているのに、手も足も出ないままでは勝てるはずがない。  『責任者出てこい!』。そう言う多くの人の声が聞こえる。 ※タイトル写真は6月22日の当選後、初めての会見に臨んだ川勝知事

ニュースの真相

リニア騒動の真相87「う回ルート」どこにある?

いまさら「ルート変更」と言えるのか?  戦い済んで、日が暮れて、勝者が敗者に償いを求めるのは世の習いか。自民党推薦、前参院議員岩井茂樹氏は「国交副大臣を務めたが、リニア推進派ではなく、ルート変更、工事中止も選択肢だ。まず流域住民の理解を得るのは(川勝平太氏と)同じスタンス」などと述べ、立候補予定者公開討論会でリニアの争点外しを図った。そこで「ルート変更」「工事中止」と言ってみせたから、川勝氏も驚きの表情を隠せなかった。内心では、いずれ、落とし前をつけると決め、この発言を胸に刻んだのかもしれない。  だから、川勝氏が当選後の会見で、「ルート変更」「工事中止」を自民党の認めた”公約”だったと繰り返し、流域住民らの民意が明らかになれば、自民党と連携して、JR東海へ「ルート変更」「工事中止」を求めるという絶対ありえない提案まで口にしたのも想定の範囲だった。そのありえない提案が翌日(23日)の新聞各紙を飾った。メディアは、勝者の川勝発言をそのままに取り上げたのだ。  「ルート変更」発言は、新聞報道と同じ日に開催されたJR東海の株主総会にひと騒ぎを起こした。リニア工事責任者の宇野護副社長は「ルート変更などありえない」と火消しに追われることになった。  宇野氏と言えば、ルート選定を前に地元対応に当たった責任者である。いまや静岡県のリニア問題に欠くことのできない重要人物だが、10年以上前、その立場は全く違っていた。  リニア計画が本格化した1980年代には、長野県へう回する木曽谷ルート(Aルート)と伊那谷ルート(Bルート)のどちらかしか選択肢がなかった。諏訪、茅野、岡谷の3市など6市町村の「諏訪広域連合」地域に長野県駅を設置するBルートが有力となり、89年に長野県知事はBルート誘致を正式に表明した。当時、宇野氏はBルート沿線の地権者らの理解を得るために奔走していた。  ところが、2008年になって、突然、静岡県の南アルプスを貫通する直線のCルートが浮上する。2011年5月、JR東海はBルートではなく、Cルートを選択した。6月に入り、Bルートを外した経緯を諏訪広域連合へ説明したのが、宇野氏だった。納得できない長野県民の怒りがいかに大きかったか、諏訪広域連合HPの写真から伝わってくる。宇野氏らJR東海側は、当時の諏訪市長らと向かい合い、神妙な面持ちで頭を下げている。諏訪市長らは「約束が違うじゃないか」などと激しい剣幕で怒りをぶつけた。宇野氏らは「もう決まったことですから」としか言えなかった。  それから、ちょうど10年がたつ。いまさら、宇野氏が再び、諏訪市を訪れ、「静岡県を説得できなくなったので、Cルートをやめて、Bルートを採用したい」など口が裂けても言えるはずがない。 長野県ではほぼすべて工事契約完了  CルートはBルートより、どこが優れていたのだろうか?  長野県知事の表明に続いて、東京、神奈川、山梨、長野、岐阜、愛知、三重、奈良、大阪の沿線9都府県のリニア建設促進期成同盟会は伊那谷ルートのBルートを採択した。諏訪地域では、リニア誘致がほぼ決まりと考え、それから20年近くさまざまなリニア誘致への取り組みを展開した。2006年まではJR東海のパンフレットでもBルートのみが示されていた。  JR東海は、2008年10月になって、1990年から行ってきた「地形・地質調査」報告を行った。「南アルプスにおける土被り(地表からトンネルまでの深さ)の大きい長大トンネルの施工について、ボーリングなどの調査結果とトンネル専門家による委員会の見解を踏まえ、南アルプスの掘削が可能であると判断した」と公表した。この調査報告を受けて、南アルプスを貫通する直線の「Cルート」が新たに加えられたのだ。  交通政策審議会は2010年2月、ルート選考の諮問を受けて、委員らの議論に入った。翌年の2011年5月、審議会はCルートを選択、国交相に答申した。  JR東海の試算によると、CルートはBルートに比べ、東京ー名古屋間で7分短縮され、建設費は6300億円減となった。毎年の維持運営費190億円減、設備更新費100億円減、年間の収入では9千億円増という圧倒的に優位な「費用対効果」が示された。水環境などへのダメージなどでもCルートに軍配を上げた。これだけの材料を示されれば、審議会がCルートを選ばない理由が見当たらない。  この答申に長野県は裏切られた思いを抱いた。「20年以上リニア応援団としてのこれまでの努力は何だったか」、「時間差はわずか7分ではないか。それほどの差ではない」、「工事費などの積算根拠が分からない」など疑問、不満が渦巻いた。最終的に、”決まったこと”であり、諏訪地域と山梨県駅とのアクセス道路を充実することなどを条件に矛を収めるしかなかった。  過去にうらみはあっても、いまや遠い昔の話でしかない。  長野県は、リニア工事の進み具合を概略図で公表している。202104_jigyoushinchoku (1)。ことし4月現在、長野県内52・9㌔のうち、2橋梁、高架橋の3カ所などを除き、すべての工事契約が済んでいる。静岡工区とつながる南アルプス長野工区8・4㌔は、鹿島、飛島、フジタのJVによって、2017年4月からすでに工事に入っている。  リニア中央新幹線建設促進長野県協議会(会長・長野県知事)は「長野県内の工区では、当初の計画通りに着実に進めていくこと」を決議していて、「長野県がルート変更を求めることはない」。諏訪広域連合事務局を務める諏訪市担当者は「いまさら、こちらからルート変更を求めることはない。この地域の期成同盟会も長野県協議会に参加、現在のルートで2027年開業を求めている」。  長野県内で、県協議会に参加しないで、過去の経緯を納得できない団体、個人が「ルート変更」を求めているわけでもない。長野県での「う回ルート」議論は、いまさらの声にかき消されるのが落ちである。 「ルート変更」を求めるのは静岡県のみ  ところが、静岡県では「ルート変更」は選択肢のひとつである。選挙戦での岩井氏の十八番ではなく、川勝氏が何度も口にしてきたからだ。昨年7月、国交省の藤田耕三事務次官(当時)が静岡県庁を訪れた際、準備工事を認めないついでに、川勝氏はあえて「ルート変更」を話題にした。  鈴木敏夫・川根本町長が「流域市町でもルート変更を1つの案としてはどうかとの意見もある」と発言したことや県議会くらし・環境委員会で自民所属の杉山盛雄県議が「これだけもめるのならばルート変更したらどうか」などと発言したことを川勝氏が紹介したのだ。  藤田次官はCルート決定までの長い議論を踏まえ、ルート変更は問題外であることを説明した。その後の記者会見でも語気強く、ルート変更を否定した。つまり、国交省にとっても「いまさら」、ルート変更に手を付けることはできないのだ。  当選後の22日の記者会見で、「ルート変更」「工事中止」を問われた川勝氏は「昨年11月号の中央公論に書いたものがわたしの考えです」と回答した。  中央公論には「う回ルート」について、リニア車両基地を予定する中津川(岐阜県)の北に松本空港(長野県)があり、そこまでリニアを延伸すれば空港と連結できる。日本には新幹線と空港とを連結させているところはどこにもない、松本空港はリニアと連結できる唯一の候補地などとしている。つまり、A、Bルートではなく、さらに北まで延伸させる「松本空港ルート」が川勝氏の独自ルート案である。  こうなると、最初からリニア計画は練り直さなければならない。つまり、川勝ルート変更案は「白紙にしろ」と言っているに等しい。 静岡県内通過のDルートならば問題解決だ!  川勝氏の松本空港ルート案を、長野県が求めているわけではないから、実現の可能性はほぼゼロに等しい。静岡県内だけが「ルート変更」を求めているとしたら、他県に迷惑の掛からない「う回ルート」を提案しなければならない。  そこで登場するのが、「Dルート」である(タイトル写真に掲げた地図の緑色で線を引いたルート)。山梨県駅から南下して、静岡県に入り、新東名付近の内陸部を通過、長野、岐阜の両県を飛ばして、愛知県を通過、名古屋に至るルートである。静岡県駅は、静岡市北部あるいは川根本町に設置されれば、最難関工事とされる南アルプスの断層地帯を貫通することもなくなる。  当然、大井川は鉄橋で越えるから、下流域の水環境に影響を及ぼすこともない。南アルプスエコパークを通過しないのだから、現在、国の有識者会議、県の専門部会で議論している環境問題すべてが関係なくなる。  新東名のインターに近ければ、新たなアクセスポイントになり、また、南海トラフ地震の影響も非常に少なく、新幹線のバイパス機能を果たすことは間違いないなどすべてに都合のよいルートとなる。  長野県が「ルート変更」を求めていないのだから、鈴木川根本町長が「流域市町でもルート変更が1つの案」とした発言との整合性もつく。Dルートならば、大井川流域の水環境問題に全く影響もなく、地域振興も図れる。当然、流域10市町はこぞって大賛成だろう。これで流域市町はまとまるだろう。ただ、静岡県にとって、大いにハッピーであっても、これまでリニアの現計画を進めてきた長野県、岐阜県の人たちは怒り心頭となることも間違いない。(※長野、岐阜両県の反リニアの人たちは大喜びかもしれない)  また、もし、万が一、Dルートが採用されたとしても、リニア開業は大幅に遅れることは間違いない。コロナ禍の中で、テレワークの推進、国内出張の抑制、国内観光旅行者の減少、インバウンド(訪日旅行客)の消失などで新幹線需要がますます失われている。時間がたてばたつほど、すべての事情が変わり、リニア計画は時代の変化や要請に追いつけなくなる可能性が高い。  事業の継続が損失の拡大につながると気づいても、過去の労力や投資、時間を惜しんで立ち止まれない状態をイギリスとフランスが共同開発して失敗した超音速ジェット旅客機にちなんで「コンコルド効果」と呼んでいる。JR東海は現行の建設費5・5兆円に、1・5兆円の追加を発表した。リニア静岡問題が長引けば、新たな損失拡大を生むだろう。  現実を踏まえれば、「ルート変更」ではなく、「工事計画の中止」を求める声がさらに大きくなりそうだ。