ニュースの真相

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「コロナ」危機1生活困窮者を支援する財源は?

一律10万円給付の財源は真っ赤な国債  17日朝、日本銀行静岡支店の前を通りかかり、そうだ、徳川家康ならば、ちゃんと教えてくれるかもしれない。家康は小判1両を基準とする定位貨幣をつくり、金銀銭3貨の貨幣制度を考案、亡くなったあと、「お金の神様」と呼ばれた。家康の貨幣制度が約270年にも及ぶ、江戸幕府の安定政権を支えた。その原点が駿府の金座である。目の前の日本銀行静岡支店が金座跡。駿府の金座は江戸に一本化され、江戸金座跡に日本銀行本店が建つ。そもそもの日本の金融制度の始まりはここにある。日銀静岡支店の建物を眺めていて、「お金の神様」家康ならば、どのように現在の状況を見るのか、きっといい知恵を出してくれるだろう。そんなふうに考えた。  16日夜、全国民に一人当たり「10万円」を支給、全国すべての都道府県に「緊急事態宣言」を適用すると安倍晋三首相が発表した。「新型コロナ」で所得が半減した困窮世帯へ「30万円」給付の撤回を公明党が求めた。それにこたえ、「30万円」をやめて一律「10万円」配布に安倍首相は舵を切り替えた。17日の日経平均株価は607円も値を上げ、2万円回復も間近の高値で終えた。マーケットも「10万円」配布を大歓迎のようだった。(実際は日銀や年金運用機構が演出した”官製相場”かもしれない?)  今月7日、まず、安倍首相はコロナ緊急経済対策として108兆円規模の事業支出、39兆円の財政支出を打ち出した。その舌の乾かぬうちに、今回の一律10万円配布で、政府が国民すべてにおカネをバラまく初めての”ヘリコプターマネー”を決めた。必要なおカネは、約12兆5千億円。東京都はじめ各道府県、市町村でもコロナ対策のバラまきが目立つ。毎日毎日、首相や知事らが登場した政治ショーが繰り広げられ、おカネが飛び交うのを目の当たりにする。  働かなくてもおカネがもらえる。こんないいことはない。コロナが長引けば、多くの国民はもっともっとおカネをくれと言いだすだろう。  「打ち出の小槌」などないから、すべて赤字国債発行で賄うしかない。逆に考えれば、赤字国債発行は「打ち出の小槌」であり、いくらでもおカネを生み出すことができる。事業破綻や大量の失業など目の前にある実体経済に関わらず、値上がりする強気の株価を見ていると、金融緩和や赤字国債がバブル再来さえ演出できると錯覚する。  1980年代後半、株は永遠に上がり続け、地価が上昇し続けると思われた時代。世の中は好景気が当たり前で、投資すれば必ず儲かるから多くの人が株に手を出した。そんな世の中がずっと続けば、こんな楽なことはない。幻想に酔っていたのだ。大量の赤字国債を何度も発行でき、そのたびに一律10万円配布されれば、国民は大喜びだ。しかし、そんなうまい話があるのか。バブルはいつかはじける。バブル崩壊後、20年以上もの暗い時代が続いた。赤字国債の大量発行は本当に大丈夫か。  危険な綱渡りなのか、真相はさっぱり見えない。さてさて、この難所に直面した家康ならば、どんな知恵を授けてくれるのだろう。 家康が質素でけちだった理由とは?  家康は関ヶ原の戦いに勝利した翌年(1601年)、日本最初の銀座を伏見に設置した。1603年征夷大将軍に任じられ、江戸幕府を開くよりも前に、貨幣制度の確立に乗り出した。各大名ごとに私鋳銭が横行していては、天下統一はできないからだ。将軍職を秀忠に譲り、駿府を大御所の拠点にすると、金座、銀座、銭座の中心をここに移した。  家康は駿府に移った1607年、伏見城に蓄えていた金銀すべてを駿府城に移した。金銀の重さで駿府城の床が抜けたという記録が残る。その年暮れ、駿府城が焼けてしまったため、金銀を久能城(現在の久能山東照宮)に移した。いまも久能山に125万両の埋蔵金伝説が残る。秀吉、家康の時代、佐渡金山、伊豆金山、多田銀山、生野銀山など全国で数多くの金銀鉱山が発見され、日本はまさしくジパング(黄金の国)だったのだ。  家康の最大功績は、安定した政権を維持するため、すべての鉱山を幕府直轄として金銀を支配したこと。「日本人とユダヤ人」の著者山本七平は、家康が質素でけちだった理由について、第1に『幕府が通貨の一元的な発行権を握り、幕府に金の地金蓄積、いわゆる「金準備」が必要だったため』と指摘した。第2に『当時の主な輸入品は火薬、生糸、綿であり、この決済に金銀が必要だった』、第3に『財政が破綻すれば政権は維持できないと知っていた』という。歴史をおカネから覗けば、見方が変わる。  豊臣家滅亡もおカネのためだった。1615年大坂の夏陣のあと、家康は駿府の金座長官、後藤光次を大坂城に派遣、家康を上回る大金持ち、秀吉が残した金銀すべてを没収した。聚楽第、金の茶室など秀吉は金銀を湯水のように使ったが、家康は派手を好まず、食べるものを含めて質素、倹約に徹した。江戸時代を通じて、武士のモットーは質素、倹約となり、それが幕府の安定につながった。  それでも、さまざまな天災などで財政はひっ迫し、江戸幕府は何度か貨幣品位を落とす改鋳という「打ち出の小槌」を使い、財政基盤を強化した。金の産出量が大幅に減った佐渡金山を立て直したあと、勘定奉行となった荻原重秀の金銀改鋳が特に有名で、1・5倍の改鋳で得た利益が元禄文化の隆盛を演出した。  ペリー来航後に開国と続き、その結果、貨幣制度が破綻、幕府は崩壊した。  小判一両(金貨)と一分銀(銀貨)の金銀比価は1対5で、金1gに対して銀5gが同じ価値だったが、当時の国際金銀比価は1対16、金1gに対して銀16gだった。開港した横浜では銀5gで金1gが購入できたから、外国商人らは3倍以上の儲けを手にできた。初代駐日公使ハリスらは多額の金銀両替を求め、膨大な金が海外流出した。この事実に驚いた幕府は金流出を避けるため、対銀の金価格を3・75倍に引き上げた。これで一分銀の価値が3・75分の1に下がり、一分銀の下落に反映して、物価は瞬く間に3・75倍に向かって上昇した。  驚くべき物価高騰(ハイパーインフレ)が始まり、困窮疲弊した武士らは尊王攘夷に走り、開国した幕府の無能ぶりを責めた。狂乱物価は江戸、大坂、京都などで大混乱をもたらし、家康が確立した貨幣制度は機能不全に陥った。  今回の赤字国債の行方はいずれ、ハイパーインフレをもたらし、幕末と同じ大混乱を招くのだろうか? 大量の赤字国債発行を容認する「経済理論」  「コロナ」危機に直面したとき、政府の指導理論は「生きている人を守る」である。ウイルスとの闘いだけでなく、不況が人々の生活を困難にしているならば、何もしないで眺めているわけにいかない。108兆円もの緊急経済対策などだ。赤字国債によるおカネのバラまきでインフレの進行と通貨価値の下落が起きるリスクに対して、竹内淳・前日銀静岡支店長は「デフレ圧力があるので、インフレにはならない」と分析した。  世界中が新型コロナの「緊急事態」にあり、おカネをバラまいているのは日本だけではない。だから、有事の際の円は強く、円高基調を堅持、国債の暴落による金利の上昇など全く起きる気配はない。円安、インフレの心配もなく、赤字国債発行にためらうこともないのだろう。  「経済学」の科学的革命と呼ぶ、MMT(現代貨幣理論)は、日本の場合、年率2%のインフレターゲットになるまで赤字国債発行に問題はなく、赤字国債は永久債化して回収しなくていいのだとびっくりするようなうまい話をする。現在のインフレ率は1%前後だから、日本の赤字国債発行に問題なしとなる。  と言っても、多くの正統な経済学者はMMTは単に突飛な雑な思いつきで、数字に裏付けられた経済理論ではないと批判する。まあ大体の経済理論は当てにならないし、赤字国債発行の現状を見れば、日本の政治家の多くはMMTに信頼を置いているのかもしれない。  ただ、政治家は目先の利益で動くから、大きな落とし穴に気づかない。大量の赤字国債の高いリスクに警戒は必要なのだろう。 「令和天皇」即位の記念金貨発行を!  赤字国債は政府が(日銀発行の)紙幣を得るためのものだが、政府はダイレクトに貨幣を発行できる。5百円までの硬貨(補助貨幣)だが、それでは大きな収益を得ることはできない。そうか、硬貨であれば、金貨も発行できるのだ。  1986年、政府は天皇在位60周年記念の10万円金貨を発行した。金(20g含有)は10万円の40%程度で、鋳造費用を加え、6万円弱が発行益となった。1千万枚発行したから、額面では1兆円、約6千億円が発行益となった。10万円金貨は一般に流通していないから、各家庭などに退蔵された。金価格の高騰で、天皇在位60周年金貨は10万円以上の価値を持つ。  さて、提案するのは、この未曽有の事態を踏まえた令和天皇即位の記念金貨の発行である。失業者の増加が顕著になる「コロナ」後を想定する。頃合いを見計らって、20万円、10万円金貨をそれぞれ1千万枚発行する。額面で3兆円、天皇在位60周年金貨に比べて、金の含有量は少なくていい。その発行益で生活困窮者らに10万円支給できる。  昨年12月時点で日本の個人金融資産は1900兆円という。前回も書いたが、日本でも格差は広がり、100万ドル(1億1千万円)以上のミリオネアは何と約3百万人。令和天皇ご夫妻もコロナの影響について心を痛められている。国民の天皇家への愛慕の念は非常に強い。令和天皇即位金貨を購入する人は多いだろう。  いまから25年ほど前、絶滅の危機に瀕する野生生物を守る運動に取り組む世界自然保護基金日本委員会(WWFJ)総裁を務める秋篠宮ご夫妻を静岡市へ招き、WWFJへの寄付を募るパーティーを開いた。一人当たり20万円もの寄付が集まり、多額の浄財を元外務大臣の大来佐武郎WWFJ会長に手渡すことができた。多くの困っている人がいる一方、富裕層と言われる人々も多く、おカネの使い道に迷っていることがわかった。秋篠宮皇嗣ご夫妻の即位記念金貨も発行したほうがいいだろう。  赤字国債でおカネをバラまくことは簡単だが、みんなが納得できる捻出法として、天皇ご夫妻、皇嗣ご夫妻の金貨発行を薦めたい。家康が残したという久能山埋蔵金を見つけられれば、それを使ったほうが早いかもしれない。家康はこんな危機を見込んで、「埋蔵金」をどこかに残してくれたのだろう。 人口100万人当たりコロナ死者数(4月19日現在)  先週(12日)に続いて、「worldometers」(4月19日午前10時の統計)で調べた「各国の人口100万人当たり死者数」を紹介する。死者数は大幅に増えているが、100万人当たり死者数の各国順位は先週と同じだった。ニューヨーク州の死者数は異常に多い。日本の死者数はいまだ非常に少なく、東京もひと桁である。(カッコ内は実際の死者数)  1、スペイン355人(2万6606人)、2、イタリア324人(2万3227人)、3、フランス296人(1万9323人)、4、英国228人(1万5464人)、5、スイス159人(1368人)、6、スウエーデン149人(1511人)、7、米国118人(3万9014人)、8、ドイツ54人(4538人)、9、カナダ39人(1470人)、10、韓国4・53人(232人)、11、中国3・22人(4632人)、12、シンガポール1・89人(11人)、13、日本1・88人(236人)、14、香港0・53人(4人)、15、台湾0・25人(6人)など。  ニューヨーク2162人(1万7671人)、東京8・16人(68人)

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「コロナ」に負けない「お茶パワー」を!

息子2人を感染症で失った家康  1607年3月11日徳川家康は駿府城築城を指揮するために、江戸から駿府に戻る。江戸滞在中の2月18日家康は4男で清洲城主忠吉と面会した。忠吉の顔は鼻、くちびるが崩れ、顔面が特にひどい症状で紫の布で顔を覆い、病状もあって、今生の別れは短時間で終えた。その後、忠吉は清洲に戻ろうとしたが、3月になり江戸で亡くなってしまう。享年29歳。その1カ月後、4月には家康の2男、越前城主結城秀康が忠吉と同じ病気で亡くなる。享年34歳。8月には家康側近、紀州和歌山城主浅野幸長も同じく亡くなった。享年37歳。いずれも関ヶ原の戦場で生き永らえたのにあっけなく生命を落としてしまった。  家康は2人の子供のために当代随一の医者を派遣したが、その病気を治療することはできなかった。病名は、性的接触により感染する「梅毒」。1910年ドイツのコッホ研究所でエールリヒと秦佐八郎が特効薬サルバルサンを発見するまで、世界中で流行、数百万人の生命を奪った。その3百年前、家康は梅毒に効果的な薬はないのか、一生懸命に調べている。久能山東照宮には、家康が赤線を入れた「朝鮮版和剤局法」(国重要文化財)難病の部に梅毒治療薬として生薬「山帰来」が登場する。当時の梅毒は死に至るまでの期間が短く、感染しやすく、死亡率も高い病気だった。  家康の側近となった英国人ウイリアム・アダムス(三浦按針)の乗船してきたオランダ船リーフデ号に飾られた「海の守護神」エラスムスの木像。アダムスが尊敬した、科学的な思考の持ち主エラスムスは、「梅毒はあらゆる病気の中で最も恐れるべきものであり、これほどまでに全身に広がり、すべての医術を退け、患者を残酷までに苦しめる伝染病は他にない」と警告した。家康はアダムスから梅毒の恐ろしさを十分に聞いていたのだろう。1616年4月、74歳で亡くなるまで、水泳などで心身を鍛え、大好きなお茶を飲んで免疫力を高めることを第一に考えた。  さて、新型コロナウイルスである。世界中にまん延、死者数が10万人を突破(10日現在)、安倍首相は東京都など7都府県に緊急事態宣言を行い、愛知、岐阜、三重知事らも独自の「宣言」をした。コロナ関連であれば、どんな話題でもメディアが大きく取り上げる。メディア報道は毎日の感染者数速報を大々的に伝え、逆に不安を煽っていると批判する声も多い。  静岡人はメディア報道に踊らされることなく、家康流に冷静に「コロナ」を見てみることにしよう。  死者数を比較すれば各国の状況が分かる  海外報道は日本ではPCR検査を意図的に行っていないので感染者数が極端に少ないと伝え、メディアはそれに乗って安倍首相批判の恰好な材料にする。どう考えても、「感染者数」と「死者数」は全く違う。「生きている人を守っているのかどうか」はどちらなのか?最も良い指標は国民の生命を守ることを比べる「各国の人口100万人当たり死者数」。リアルタイムに世界中の人口、コロナ患者数などさまざまな統計数字を出す「worldometers」(4月12日午前10時の統計)を使って、静岡経済新聞が独自に調べた。  人口100万人当たりで最も死者の多いのは、スペイン(人口4670万人、死者1万6606人:以下同じ順序)355・58人、次いでイタリア(6千万人、1万9468人)324・46人。  感染者、死者数が世界で一番多い国となった米国(3億3千万人、2万555人)62・28人、カナダ(3770万人、653人)17・32人。死者の7割を占めるヨーロッパで死者数が少なく、メルケル首相の評価が高いドイツ(8370万人、2871人)34・30人、フランス(6520万人、1万3832人)230・53人、英国(6780万人、9875人)145・64人、スイス(860万人、1036人)120・46人、スウエーデン(1010万人、887人)87・82人など。  最初に新型コロナを発症、武漢封鎖を行った中国(14億3800万人、3336人)2・3人、韓国(5120万人、208人)4・12人などであり、最も死者数が少ないのはSARSを経験した台湾(2380万人、6人)0・25人、香港(750万人、4人)0・5人、シンガポール(580万人、7人)も1・2人と非常に低い数字が続く。  さて、緊急事態宣言や経済対策など安倍首相へ風当りの強い日本(1億2650万人、144人:ダイヤモンドプリンセス号の死者数含む)は、何と1・13人だった。何かと批判も多いが、この数字はいま流行りの「すごいぞ ニッポン!」と賞賛してもいいのではないか。  「臨時休業」や「自粛」などでメディアが大騒ぎの日本。毎日、新型コロナの感染者は増えているが、現在のところ、死者数は世界各国と比べて圧倒的に少ないのがまぎれもない事実である。 経済格差が莫大な死者数を生んだ?  ニューヨーク(817万人、8627人)ではアメリカの中でも飛び抜けて多く、100万人当たりの死者数は何と1055・93人。ほぼ同じ人口規模の都市、東京(833万人、40人)4・80人と比べれば分かるように、あまりに異常な数字である。なぜ、ニューヨークの死者が莫大なのだろうか?  2018年4月8日から21日まで、ニューヨークの隣町にホームステイして約50分のバス旅行で大学へ通った。ホームステイ先はコロンビアからの60代移民男性宅であり、熱烈な共和党のトランプ支持者だった。周辺は移民たちの貧しい地区で道路にはゴミが散乱していた。  毎朝通う中型バスの中で、一番驚いたのは、肥満体の若い男女たちがひしめき合うラッシュの様子だった。夕方の帰りのバスに目立つのは貧しい白人の高齢者たちだった。日本のバスの中では、めったに見ることのできない大きなお尻が座席を占領していた。バス停は1キロごとくらいにあり、次のバス停で停車希望者は必ず大きな声で「Next Stop」と運転手に指示しなければならなかったが、この地域のバス料金は非常に安かった。  いまと同じ季節のニューヨークは非常に寒く、数多くのホームレスや乞食が目立った。新型コロナによって亡くなっているのは、そのような貧しい人々なのだろう。日本とは全く事情が違うのだ。新型コロナで亡くなる人が日本で少なく、ニューヨークで多い理由について、英国の研究者が明らかにしている。  リチャード・ウィルキンソン、ケイト・ビケット著「平等社会」(酒井泰介訳、東洋経済新報社、2010年4月)。経済格差が健康状態に及ぼす影響を分析した。格差の少ない平等社会ほど、不健康や社会問題の発生頻度が低く、格差が広がるほど健康、社会問題に影響しているのだという。日本は世界の中で最も格差が少なく、健康、社会問題が少ない位置にあり、逆にアメリカは最も格差が大きく、貧しい人たちの健康、社会問題は最悪だと指摘する。  また格差の大きいほど成人の肥満率が高いことも明らかにして、日本人はアメリカ人の肥満率の12分の1以下であるという。毎日ペプシの3㍑ボトルを飲み干す若い黒人女性やヒスパニックの男性が3食ともファーストフード店で済ます例が挙げられていた。肥満は高血圧、糖尿病、心臓疾患、胆のう病のリスクが増すのだから、ニューヨークの新型コロナ患者たちが持病を持つことを容易に想像できる。  4月7日雑誌フォーブスは恒例の「世界長者番付」を発表、3年連続トップはアマゾン創業者ジェフ・ベゾス1130憶ドル(約12兆3千万円)、2位ビル・ゲイツ980憶ドルなどでアメリカの格差はますます広がった。1千万ドル以上の金融資産を有するビリオネア2095人のうち、日本からはユニクロの柳井正(197億ドル)ら26人が入っていた。SARS後に中国のアリババが極端に伸びたように、「新型コロナ」の影響で、ネットフリックスやズームなどシリコンバレーや中国企業が売り上げを伸ばし続けているから、新たなビリオネアが誕生するだろう。  金融資産100万ドル(約1億1千万円)世帯はアメリカでは10%、日本では5%程度だから、格差社会は日本もアメリカに近づきつつある。  残り95%のおカネを持たない平均的な日本人がなぜ、健康で「新型コロナ」の猛威に持ちこたえているのだろうか? 「強い免疫力」は弱毒性ウイルスを恐れない!  3月12日の記者会見で川勝平太知事は、静岡県民はお茶を飲んでいるから免疫力が高く、新型コロナに感染しても打ち勝つことができると述べていた。そうだ、お茶の力が大きいのだ。  新型コロナウイルスは弱毒性で自覚症状がないからまん延するのであり、一度抗体ができれば重症化リスクは低いとされる。ウイルスに感染しても異物を発見して駆除する抗体をつくり、ウイルスを排除していく。ウイルスとの闘いに勝つためには免疫機能がちゃんと働くことが重要。ふだんから家康のように水泳、武道に励み、お茶を飲み、十分な栄養を摂ることに心掛ければいい。新型コロナは鳥インフルエンザのような強毒性ウイルスではないから、免疫力の高い日本人の死亡者が少ないのだろう。  いまはマスク、手洗い、消毒が必要だが、実際は、ふだんの十分な睡眠、運動、栄養、ストレスのない生活こそが重要、それで免疫力は高まる。アメリカに行ったとき、ホテルのスタバで緑茶を注文したら、たっぷり砂糖の入った甘い緑茶が出された。アメリカ人の味覚は砂糖を好み、肥満につながることに目をつむる。過度の砂糖は免疫力を失わさせる。幸福なことに日本人は砂糖なしのお茶を飲む習慣を持っている。  タイトル写真にあるように新茶を祝う八十八夜イベントで川勝知事と踊った「お茶がえるクン」はいま、「新型コロナに負けないゾ音頭」をつくっている。「ちゃ、ちゃ、ちゃ、お茶のパワーでコロナに勝つぞ♪…」。川勝知事と一緒に踊る日を待ちわびる。さあ、静岡県発で元気が出るお茶パワーを発揮しよう。  古代ギリシアの悲劇詩人エウリピデスは「私が富に関心を持つのは、病んだ人に健康を取り戻させるため。富は日々の小さな喜びを与えるにすぎない。ひもじさが満たされれば、富者も貧者も同じである」と述べた。  「コロナ後の格差社会」は日本に必ず到来する。だから、静岡人はお茶をがぶがぶ飲んで、踊ったり、歌ったりして楽しい生活を送れば、健康でいられる。「格差社会」到来の大波の中で、安倍首相でも小池知事でもなく、また、リニア問題で考えを異にする大村愛知県知事、鈴木三重県知事でもなく、静岡県をお茶パワーで引っ張る川勝知事が手腕の見せ所だ。 ※タイトル写真は、八十八夜イベントでお茶がえるクンと踊る川勝知事たち。ことしも八十八夜はやってくるが、どうなることやら?

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リニア騒動の真相37「コロナ」と「リニア」の間に

ウイルスも「生物多様性」に含むのか?  2020東京オリンピックの来年7月への延期を受けて、静岡県庁本館正面でオリンピックムードを盛り上げていた大看板の掲示が入れ替わっていた。  突然の延期であり次回の計画も決まっていなかったせいか、閉会間際にも関わらず、ふじのくに地球環境史ミュージアム(静岡市駿河区)の企画展「大絶滅 地球環境の変遷と生物の栄枯盛衰」(4月5日まで)を急きょ採用したようだ。同展は、気候変動や隕石落下によって滅びたティラノサウルス、スピノサウルス、トリケラトプスなど子供たちに大人気の恐竜の歴史などを追っている。「大絶滅」と記されたタイトルの右横にあるキャッチフレーズに目が釘付けとなった。  『いま私たちは、その(絶滅の)境界に立っている』  WHO(世界保健機関)がパンデミック(世界的流行)を宣言、「COVID-19」と名付けられた新型コロナウイルスは世界中にまん延、5日現在120万人以上が感染、6万4千人以上が亡くなるなど猛威を振るい続けている。いまや、人類全体を「絶滅の境界」に追い込もうとしている。静岡県庁本館前の看板キャッチフレーズは、まさに、新型コロナウイルスの影響を受けるわたしたちの世界を物語っていた。  隕石落下や気候変動ではなく、新型ウイルスの脅威が襲った世界を見ていると、新型ウイルスがリニア問題に深く関係していることに気づいた。  細菌など目に見えない生物を微生物と規定する。細菌よりさらに微小なウイルスは果たして、生物なのかどうかという議論と関係しているのだ。ウイルスを生物とするか無生物とするかは長年、論争の的だった。その論争はまさに生命とは何かに答えることであり、リニア議論のテーマ「生物多様性」とつながるのだ。  静岡県の「生物多様性」専門部会では、リニア工事による大井川の沢涸れ、河川流量の減少による希少種を含む生態系への影響を議論する。JR東海が作成した食物連鎖図では、大井川上流部の絶滅危惧種を象徴する「ヤマトイワナ」を頂点に餌となるカメムシ、コウチュウ、ハエ、ハチ類の流下昆虫、その餌となるカゲロウ、トビケラ類や流下昆虫などを支える藻類、微細粒状有機物、さらにミズナラ、コメツガ、カラマツなどの豊かな森林、植物など複雑な連鎖が続いている。  頂点のヤマトイワナだけではなく、その生存に関わるすべてを守ることが「生物多様性」ならば、JR東海作成の食物連鎖図は不十分であり、数えきれない微生物にまで及ばなければならない。どこまで調べるのかという問題であり、そもそも「生物多様性」とは何かという疑問につながる。 「病原体」は生物ではない?   コロナウイルス自体はありふれたウイルスで、典型的な風邪などの疾患を引き起こす。2002年に問題となったSARS(重症急性呼吸器症候群)のような特殊な新型コロナウイルスは「特定病原体」と呼ばれ、人々の生命を脅かす存在に分類される。実際、香港、中国などで多くの生命を奪ったため、WHOは感染拡大の防止を世界中の医師らに呼び掛けた。SARSの日本上陸は阻止された。  SARSは中国広東省のキクガシラコウモリが感染源となった可能性を指摘されたが、流行が始まった地域で捕獲されたハクビシンからSARSと似たウイルスが発見されたことで、中国政府は1万頭以上のハクビシン、アナグマ、タヌキを処分した。2018年サウジアラビアで現れたMERS(中東呼吸器症候群)はSARSに似た病気だったが、致死率は40%にも達した。MERSはヒトコブラクダからの感染が疑われ、コウモリの持っていたウイルスがラクダに広がった可能性が指摘される。  「COVID-19」新型コロナウイルスも食用のコウモリが感染源と疑われるが、キクガシラコウモリなのか、他の種類なのかいまのところ明らかにされていない。ただ、ウイルスを最初に媒介するのは小動物であることに間違いない。  COVID-19と同様に世界に惨禍をもたらしたペストは従来ネズミが運んだと考えられていたが、現在ではネズミなどのげっ歯類の動物からノミ、シラミがペスト菌を運んだ可能性が高いとされる。「黒死病」と恐れられたペストは世界全体で7500万人から2億人の生命を奪ったとされる。北里柴三郎らがペストの病原体となる細菌を発見し、感染経路をつきとめ、ヨーロッパで大流行したネズミが関与するペストは終息していった。  ペストなどの細菌に比べ、ウイルスはその何十分の一から何百分の一という小さな存在で、1930年代以降に登場する電子顕微鏡が使われるまで世界はウイルスという存在そのものを知らなかった。  千円札に描かれる野口英世(1876~1928)は、黄熱病研究のためにガーナのアクラに滞在していたが、病原体を突き止めたとされる黄熱病で亡くなった。狂犬病や黄熱病など数々の病原体の正体を突き止めたという野口の論文は、いまではほとんどすべて間違ったものとされている。1915年まで3度にわたってノーベル賞候補とされ、日本では紙幣に登場するほど高い評価のままだが、欧米では彼の業績を完全に否定、ノーベル賞を授与しなかったことが逆に、評価されている。野口の研究成果が単なる錯誤だったかねつ造だったかは分からないが、当時、野口の使っていた光学顕微鏡では微小すぎるウイルスの存在を確かめることができなかった。  黄熱は黄熱ウイルスを持った生息環境の異なる2種類の蚊に刺されて発病する。黄疸のために皮膚が黄色くなり、ひどい苦しみをともなうため、黄熱におかされた野口はパニック状態となり、助手に「私にはわからない」と告げて亡くなったという。野口は自分の生命を奪うことになったウイルスの存在を「わからない」ままこの世を去った。  全く目に見えないウイルスは生物だろうか?  黄熱ウイルス、ジカウイルス、SARSやCOVID-19新型コロナウイルスなどに直面したとき、「人間の生命を守る」が大原則となる。たとえウイルスが生物だとしても、人間が守るべき「生物多様性」の一部分と見なさない。危険ウイルスを媒介する小動物を徹底的に駆除することにもつながる。食物連鎖の最上位にヒトがいるからなのだろう。  2月に開かれた静岡県主催の「ふじのくに生物多様性地域戦略」シンポジウムでも、結局、『「生物多様性」とは非常に分かりにくい概念』が結論だった。  リニア議論でもまず、「生物多様性」とは何であるのかはっきりとさせたほうがいいのではないか?大井川の象徴ヤマトイワナを守ることだけが決まっているが、なぜ、それほどまでに重要なのかは説明されていない。 多額の費用を掛けて守るものとは?  大井川の支流西俣川のさらに奥深い支流、人々が踏み入ることさえない場所でモニタリング調査をすることが決まっている。この調査で「生物多様性」の名の下に何を守ろうとしているのか、理解できない。  リニアトンネル工事の基地となる西俣ヤードを過ぎて、さらに奥に踏み入っていくと蛇抜沢、新蛇抜沢、小西俣沢、上岳沢、瀬戸沢、魚無沢、内無沢などへつながっている。タイトル写真は西俣ヤードを過ぎたばかりの場所だが、すでに林道は消えてなくなってしまい、人が踏み入れることはない魚無沢や内無沢などそのずっと先にある。とうの昔に林業はすたれてしまったから、昔のカーブミラーもいつか朽ち果てるだろう。当然、禁漁区であり、イワナを狙った渓流釣りの人たちが入ってくることはできない。そんな場所にJR東海は監視カメラを設置、それぞれの沢の流量を計測するのである。  大井川上流部は夏になれば毎日夕立ちがあり、一挙に水嵩は増える。昨年10月の台風19号のように沢自体が激変する可能性もある。リニアトンネル工事期間中の影響と自然環境の変化で起こることをどこまで区別できるのだろうか?  そして、そこまでの費用を掛けて守るものとは何だろうか?もし、それほどまでに重要なものであるのならば、なぜ、静岡県、静岡市はこれまで手をこまねいてきたのだろうか?「生物多様性」議論を聞いていて、一体、何を守ろうとしているのかさっぱり見えてこない。  豊かな生態系がなければ人間の存在が脅かされるから「生物多様性」を守らなければならないと言うが、初めから、そこに人々は住んではいない。南アルプスのニホンジカやキツネ類は害獣として駆除されている。長い間、人間の都合で多くの野生動物を追いやって来た。どこまで何を守るのか、最初に議論すべきである。 デジタル革命が加速、リニアの役割に変わりはないのか  新型コロナウイルスの影響を受けて、3日に行われた静岡県と国交省鉄道局との「事前協議」はオンラインを使うネット会議に変わった。2月6日以来何度も、東京、静岡を往復する面倒な移動はあっさりと省かれた。書類のやり取りをした上で不明な点があれば、画面を見て質疑応答をすればいいのだ。直接対面するのではなく、バーチャルなネット会議に移行、コスト節約の効果は非常に大きい。新型コロナがさらなるデジタル革命を加速させるはずだ。皮肉なことに、テレワークが進むことでリニアへの期待は小さくなる。鉄道局は新型コロナ収束後の世界をいまから検証すべきである。  さて、10日までに静岡県は公募の委員候補を絞り込んだ上で、鉄道局に委員候補リストを送るのだという。鉄道局は静岡県が忌避する委員を検討した上で何らかの回答を寄せるのだろう。その後に静岡県の候補リストを検討しなければならない。そのやりとりを含めて、4月中旬の第1回有識者会議開催は絶望的だ。この先もだらだらと「事前協議」が続くのだろう。  鉄道局はあらためてちゃんと「戦略」を立て直したほうがいい。新型コロナ収束後の世界では、リニア議論にもドラスティックな変化が起きるだろう。そこで、肝に銘じなければならないのは、人間のごう慢さについてである。「生物多様性」議論からはそれがはっきりと見えるのだ。ぜひ、わたしたち市民にも理解できるような説明をお願いしたい。

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リニア騒動の真相36「苦闘」鉄道局の打開策は?

ワニが教える「地球温暖化」論議  浜松市HPに『6万年から12万年前、浜名湖湾岸に広がる低湿地ではナウマンゾウが草を食べ、水辺には体長3mのワニが生息していた』とある。本当に熱帯に生息するワニが浜名湖にもいたのか?  20年ほどまえ、浜名湖湾岸にワニが生息していた証拠の化石を発見した長谷川善和・群馬県立自然史博物館長(現・名誉館長)のもとを訪れた。長谷川さんは1968年浜名湖の北部引佐地区の採石場でワニ20頭などの化石を発掘、骨格からマレー半島などの沼や川にすむ口がとがったマライガビアルワニの種類に近いと教えてくれた。群馬県博物館に保管していたワニ化石を倉庫から出してくれた。20頭のワニ化石をつなぎ合わせてもらい、現在、生息するワニの白い頭骨を置くと何とか1頭のワニに見えた。(※タイトル写真)  当時の浜名湖周辺はインドネシアと同じくらいの熱帯性気候だった。だから、現在よりも温度は4、5度高かった。その後、非常に暑かった間氷期が自然変動で終わり、ワニたちは滅びていく。  小氷河期のあと間氷期となり、日本はワニのいない温帯性の四季に恵まれた気候の中で過ごしている。ところが、CO2(二酸化炭素)増加に伴う地球温暖化が進むと、4、5度の気温上昇で再び、ワニのいる時代に逆戻りだという。そんな気候変動を抑えるため、CO2削減は全世界的なテーマとなっている。  スウエーデンの少女グレタ・ツゥーンベリ(17歳)は昨年9月の国連地球温暖化対策サミットで、大幅なCO2削減を求め、「もしあなたたち(大人たち)がわたしたち(次世代の若者)を裏切ること(人為的なCO2増加)を選ぶならば、あなたたちを絶対許さない」と訴えた。「地球を救える時間はあと数年」と叫ぶグレタは若者を中心に世界中の共感を得ている。  来年以降にならないと詳細は分からないが、ことしの地球は過去20年間でCO2排出量は最低の状態を記録するはずだ。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)によって、日本を含め、CO2を大量排出する先進国が機能不全に陥った。ニューヨーク、パリなど世界中で実質的な”都市封鎖”状態だ。グレタはCO2大量排出の航空機移動を拒否したが、世界中の航空便がほぼ全面的にストップしてしまったから、航空会社の多くが倒産するかもしれない。  さて、これでCO2排出量が極端に少なくなり、温暖化が進む地球を救える、とグレタは大喜びだろうか?  温暖化は「人為的CO2排出」か「自然変動」か?  地球温暖化進行と言うが、30年前と比べて実際には気温は0・3度程度しか上昇していない。わたしたちは生涯に30トンもの有害汚染物質?CO2を吐いているが、世界中でCO2削減は大テーマ。静岡市でも、地球温暖化をテーマに、NPO法人に「協働パイロット事業」の提案募集を行っている。『脱炭素化社会の実現に向けた市民・事業者の取り組み』である。(4月6日まで)  「世界共通の喫緊課題として地球温暖化が挙げられており、2050年までに脱炭素化社会を実現すべく、多くの自治体でCO2排出ゼロを宣言している。市民・事業者のライフスタイルを見直すための意識変革が必要である。地球温暖化を身近な問題と捉え、多くの人が意識変革できる、実効性のある提案を募集する」。大幅なCO2削減につながる実効性の高い「意識変革」とは何だろうか?  CO2排出の影響を告発した映画「不都合な真実」で有名な元アメリカ副大統領アル・ゴアらは、地球温暖化問題の「意識変革」を促すために、2016年、「ママもパパも聞いてよ、僕たちが大きくなるうちに温暖化がひどくなるんだ。そんなふうにしたのは大人たちだ!」と子供が親を追及するCMをつくっている。まさに、”グレタ・ツゥーンベリ”を全米各地に誕生させる試みだった。  静岡でもグレタにならって「地球を救える時間はあとわずか(2050年を目標とするとあと30年)」活動に子供たちを「温暖化防止大使」に起用するのが一番いいのかもしれない。   ところで、人間たちがCO2を排出していなかった10万年前は大気中のCO2濃度はいまよりずっと濃かった。浜名湖でワニが生息できるほどのCO2濃度はいつ実現するのかわからない。30年間でたった0・3度の気温上昇が人為的なCO2排出が原因かどうかさえわかっていない。  米国の環境保護庁(EPA)は、温暖化対策をしても世界のCO2排出量はほとんど減らず、気温もほとんど変わらないと発表した。パリ協定にアメリカ、中国など未加盟国が加わったとしても地球の気温は変わらないことも認めている。オバマ時代に参加したパリ協定に、トランプは大統領就任直後に離脱、石油資源豊富なアメリカではCO2削減に対して民主、共和両党の間で真っ向から意見衝突する。まさに科学的な知見も激しく対立するから、CO2削減でどちらが正しいかわからない。  ところが、静岡市だけでなく、日本全体で年5兆円以上の「温暖化対策費」が飛び交うのは、グレタやゴアらスーパーヒーローの存在があるからだ。CO2削減が正しいかどうかは別にして、「意識変革」とはどちらかの側につける工作なのだろう。 鉄道局の嘆き「新有識者会議」開催めどたたず  3月27日国交省鉄道局から静岡県に提出された「有識者会議について」の文書では、「鉄道局がリニア問題に関与して昨年8月から7カ月以上、有識者会議提案から2カ月が経過したが、会議開催のめどがたっていない」と嘆いていた。  23日静岡県は「有識者会議」メンバーについての疑問やJR東海の立場が不明などという文書を提出した。27日の鉄道局文書はそれに回答したものだが、鉄道局の嘆き通り、「新有識者会議」が開催されるかの見通しは暗い。鉄道局は「トンネル湧水の全量戻し」「大井川中下流域の地下水影響」を2大テーマとしてまず、何とか課題解決に持っていく方針なのだが、そうは問屋が卸さなかった。  そもそも13日に突然、川勝平太知事は記者会見で「新有識者会議」メンバーを公募すると発表、「驚きだ」(水嶋智局長)、「理解できない」(金子慎JR東海社長)などとメディアを含めてびっくり仰天した。  県の公募理由を求めたため、難波喬司副知事は5項目の理由及び意見を水嶋局長宛に提出した。それが今回の「このままでは会議のめどが立たない」という鉄道局の嘆きとなる。川勝知事の突然の公募発表からでさえ2週間も経過した。こんな状況を見て、28日付静岡新聞は「新有識者会議の開催見通せない」と伝えた。  まてよ、2月7日付中日新聞は「事前協議」の長期化の可能性を指摘、いつになったら「新有識者会議」が発足するか見通せない状況であると1カ月以上前に予測していた。中日「リニア着工までの流れ」図によると、「事前協議」が終わると、「トンネル湧水の全量戻し」「大井川下流域の地下水への影響」を評価する「国の新有識者会議」が方向性を見つける。その後、国、県、JR東海の「3者協議」で着地点を見つける取り組みを行うことで、静岡県の「有識者会議」が納得するような結論が得られるようだが、「事前協議」段階がまだ終わりそうにない。  鉄道局は4月中旬に第1回有識者会議開催を提案したが、新型コロナの影響が大きくなる一方の中で、やはり見通しは真っ暗である。 「生物多様性」議論は「こんにゃく問答」になる  川勝知事「戦略」では、「水循環」「委員公募」と来て、とうとう「生物多様性」まで「新有識者会議」に加えてしまった。「中立性」にこだわる鉄道局は川勝知事「戦略」に負けてしまったのだ。  「生物多様性について議論する場合の委員構成を明らかにせよ」という静岡県の主張に対して、27日付文書で鉄道局は「現時点で委員の選定を行うのは難しい。有識者会議で議論を行う段階でメンバーを検討する」と拍子抜けの回答をした。つまり、全く考えていないことを明らかにしたが、この回答で新有識者会議でも「生物多様性」について議論することを表明したのだ。  「生物多様性」まで加わったら、リニア問題が本当に解決できるのか、鉄道局は「大混乱」の行く末を分かっているのだろうか?立ち位置の違う鉄道局に自然環境保全はあまりに荷が重いはずだ。  「リニア騒動の真相」では、これまで何度も鉄道局「戦略」を見直したほうがいいと書いてきた。JR東海、川勝知事の「闘い」に鉄道局は参入したが、「地球温暖化」議論を見れば分かる通り、環境問題の科学的議論ではどちらが正しいという決着はつかない。お互いにとんちんかんの「こんにゃく問答」になるのが落ちである。  静岡人はイルカを食べるし、伊東ではイルカ漁も行ってきた。日本人がクジラ、イルカを食べることを欧米人には許せない。しかし、日本の食文化である。静岡県の生物多様性専門部会で「イワナ」が大きなテーマである。ヤマトイワナ、外来種のニッコウイワナ、その交雑種が大井川上流部には生息する。専門部会ではヤマトイワナを守ることが至上命題らしい。5年ほど前、静岡市調査で西俣川支流でヤマトイワナは確認されているが、絶滅危惧種に指定されるから、JR東海調査では発見されていない。  西俣川支流に生息するヤマトイワナのDNAを守ることが生物多様性だというが、これは非常に難しい。一般には全く理解できない。釣り人たちに試しに聞いてみたが、ヤマトイワナとニッコウイワナの味に違いはないのだという。イワナを食べるのではなく、守るのは誰だろうか?本来は静岡県、静岡市の役割だが、今回はJR東海に任せたいらしい。  川勝知事は品川ー名古屋間2027年リニア開業にこだわらず、品川ー大阪間の開通を一挙に目指したほうがいい、と発言してきた。スケジュールの遅れ具合から、鉄道局も川勝知事の考えに賛同して後押ししているのかと疑ってしまう。このままでは全く見通しが立たない。  鉄道局に「打開策」はあるのか?川勝知事「戦略」に対抗するならば、グレタ・ツゥーンベリ、アル・ゴアばりのスーパーヒーローを招へいして、市民を味方につける「意識変革」を始めたほうが早い。ほとんど何だか分からない「生物多様性」をちゃんと教えたほうがいい。

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リニア騒動の真相35「ブラックスワン」が起きる?

アスティ静岡は14店舗が閉店した  「新型コロナウイルスの影響でJR静岡駅アスティ西館にある多くの店舗が閉めってしまった」。びっくりするような話を聞き、行ってみると、アスティ西館の飲食店などが板囲いに覆われていた。14店舗があった白い壁面に「閉店」あいさつが掲示されていた。ついこの間まで各店舗とも客でにぎわっていた様子だったのに、何らかの理由で契約を解除したのだ。「閉店」は本当に新型コロナの影響なのか?  アスティ静岡に聞いてみると、「新型コロナ影響」は単なる噂で、全く関係ないようだ。2月13日に今回の閉店を発表した。新型コロナの深刻な影響が出る前である。担当課によると、古くなった空調設備などを含めた15年ぶりの大改装を以前から予定、各店舗の契約終了が2月末からであり、新型コロナの影響が大きくなった時期と重なったという。  新店舗のラインアップは5月中旬に発表され、8割の店舗が7月頃、残り2割が秋頃までにリニューアルオープン予定という。新型コロナに不安を抱く市民が事情を知らずに、勘違いしたようだ。これまでは「閉店」の貼り紙だけだったが、担当課は「新しいフードテラスの様子を飾ってリニューアルを強調したい」と話していた。静岡駅でもインバウンド需要がなくなったから、この時期、改装工事に当たったのは僥倖(ぎょうこう)だったかもしれない。  世界保健機関(WHO)が3月11日、パンデミック(世界的流行)を宣言、欧米へ感染が拡大すると、新型コロナへの不安は急速に高まった。特にひどいのは、株価である。NY市場のダウ平均は2月初めに3万ドル寸前だったのが、一気に1万9千ドルと30%以上も値を下げた。東京市場も日経平均が2万4千円から1万6千円台にまで下落している(3月19日現在)。  経済に対する市場の危機感や将来の動向を表すのが恐怖指数(VIX指数)。リーマンショック後に起きた世界金融危機時には89・53という最高値を付けた。現在は80前後。日本の株式市場で恐怖指数を表す日経VIは世界金融危機時に92、現在、60前後まで高まっている。今回の恐怖指数がこのままおさまるはずもなく、世界中で金融危機が起きる兆しから、恐怖指数はさらに高くなるはずだ。  新型コロナウイルス感染のパンデミックによって、「ブラックスワン」が起きてしまった。 「大不況」に襲われるのが確実となった  17世紀末オーストラリアでブラックスワンが発見されるまで、スワンは「白い鳥=白鳥」とヨーロッパの人々は信じて疑わなかった。英国からのオーストラリア入植者が「黒いスワン(白鳥)」が存在することを伝えると大騒ぎになった。スワンは白鳥という常識が覆されたのだ。たった1羽のブラックスワンが世界の常識(姿)を大きく変えてしまった。オーストラリアと言えばコアラやカンガルーが有名だが、西オーストラリアの州都パースを訪ねる機会があれば、ぜひ、ブラックスワン見学に行かれることをお薦めする。(※タイトル写真もモンガー湖のブラックスワン)  西洋社会の常識を変えた「ブラックスワン」は、金融危機や自然災害で極端に確率が低い予想外のことが起こり、それが大きな波及効果をもたらす現象に使われるようになった。2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災などがそれに当たる。  日本の原発は五重の安全策が施され、絶対にメルトダウンのような重大な事故は起こらないと信じられてきた。東日本大震災によって、福島第一原発事故という未曽有の大災害が起きた。3機の原子炉がメルトダウンを起こし、使用済み核燃料を保管していたプールが崩壊して大量の放射性物質が飛散、東日本全域が高濃度の放射能に汚染される深刻な事態に発展した。原発は「絶対安全」ということばは使われなくなり、すべての原発は一時停止に追い込まれた。放射能に汚染されたがれき処理や土壌の除染費用などは巨額に上り、いくら費用を掛けても事故前の住環境を取り戻すことは不可能である。  そしていま現在、新型コロナウイルス感染によって、世界中を巻き込んだ「ブラックスワン」(常識を覆す大きな変化)が起きているのだ。  歴史の授業で習った「The Crash of ’29(1929年の大暴落)」以上の「The Crash of ‘2020(2020年の大暴落)」が将来、名前を残すはずだ。1929年の大暴落は世界大恐慌の引き金になり、多くの企業倒産、失業者があふれ出した。今回の「ブラックスワン」に世界が協調して対応するはずだが、財政破綻などで「国家破産」が起きる可能性を否定できない。世界全体が大不況になるのは間違いないが、実際にはどうなるのか、「ブラックスワン」が始まったばかりで予測がつかない。  100キロ離れた「地下水」の影響はない?  新型コロナウイルス感染の起きる前から静岡県とJR東海のリニア問題の「対話」を聞いていて、何度も「ブラックスワン」が頭をよぎった。  リニア中央新幹線南アルプストンネル静岡工区から約100キロも離れた大井川中下流域の地下水への影響についての議論である。静岡県は、トンネル工事によって地下水の流れを切断、または流れを変える可能性、重金属等の有害物質が地下水に流出する可能性を指摘してきた。  JR東海は「中下流域の地下水は掘削される南アルプストンネルから約100キロ離れており、影響は全く生じない」と説明する。当然、これまでの大規模な土木事業で100キロも離れた地下水の影響について議論されたことは一度もない。そんなことが起こるとは誰も考えたことがなかったからだ。  大井川は間ノ岳(3189㍍)を源流に駿河湾まで約168キロの長さ、流域面積1280キロ平方㍍の大河川だ。間ノ岳だけでなく、大井川の水源には日本第2位の白根北岳(3192メートル)、荒川岳、赤石岳、聖岳など3千メートル級の南アルプス13座の山々が連なる。北アルプスに比べて降水量も多く、リニアトンネル建設地の下流域に数多くの支流があり、豊富な水が本流に流れ込み、下流域の利水の役割を果たす長島ダムに水を供給している。  さらに、大井川地域の地中に蓄えられている地下水賦存(ふぞん)量は58・4億㎥、そのうち地下水障害を発生・拡大させることなく利用できる地下水量は3・4億㎥と莫大な量を有する。約430の事業所が地下水を利用している。静岡県は中下流域の15本程度の井戸によって、地下水の経年変化を調べている。現在まで大井川地域の地下水に大きな異常は見られない。そもそも地下水量に大きな影響を及ぼすのは、ほとんどはその地域に降る雨量や取水量である。  約百㌔離れた河川上流部の水の変化が中下流域の地下水にどのような影響を及ぼすのかという研究は行われたことはなく、水循環に携わる水文学専門家の研究対象ではない。JR東海の説明通り、「中下流域の地下水への影響はない」と判断するのがふつうの考え方だろう。  地下約4百㍍に建設される南アルプストンネル(約8・9キロ)が100キロ以上離れた地域の地下水に影響を与えてしまうのか?科学的な常識を超えたばかげた疑問のようにさえ思える。 流域の首長も「公募」を望んでいた  17日国交省の「新有識者会議」人選を巡り、水嶋智鉄道局長は静岡県が勝手に公募を始めたことに不信感を示した。国交省の「新有識者会議」にいちゃもんを付けたのだから当然である。それに対して、難波喬司副知事は「公募をやめるつもりはない」と明言した。今週中にも静岡県は公募に踏み切った理由などを国交省へ説明しなければならない。公募の目的に「水循環の科学的知見を持つ人」を挙げたが、国交省は水循環研究の第一人者を提示したと反発した。  1月20日の川勝平太知事と大井川流域10市町首長とのリニア関連意見交換会は非公開だったため、事務局の島田市に議事録を情報公開したところ、3月18日になってようやく文書開示が行われた。この中で、「鉄道局はリニア推進の立場であり、公平・公正な調整役ではない。第三者委員会(国の新しい有識者会議)のメンバーを公平・公正にするために、県からメンバーを入れる必要がある」という意見があった。流域の首長も静岡県の公募を望んでいたのだ。  そうか、やはり静岡県は「ブラックスワン」が起きることを心配しているのか。『リニア騒動の真相32川勝知事「戦略」の”源”は?』で水循環研究者でも中下流域の地下水の影響を判断できない、と書いた。それだけ難しい問題である。  2014年の水循環基本法成立後に設置された、フォローアップ委員会座長を務める沖大幹・東大教授(水文学、水資源学)は国交省が太鼓判を押す水循環研究の第一人者であることに間違いはない。静岡県の専門家会議に水循環研究者は見当たらない。  「ブラックスワン」が起きてしまえば、波及する影響は甚大であり、川勝知事の指摘通り62万人の生命に危機が及ぶだろう。「新有識者会議」は過去に一度も議論されなかった100キロも離れた中下流域の地下水影響が重大なテーマとなる。だからこそ、静岡県は「国の新有識者会議」に、公募までして水循環の専門家を入れたいのだろう。沖教授だけでなく、南アルプスをフィールドにし、大井川の個性などについてよく知る水循環の専門家が必要なのだ。  「全量回復と水質保全を大前提とした上で、JR東海の責任において、不測の事態に対し恒久的な対策を行う確約がない限り、基本協定の締結は認められない」、「想定外の事態(地下水の枯渇)に対し、誰も責任を取り続けることができない。JR東海は100年、200年、300年、400年と責任を取り続けてくれない」(流域首長の意見)  国の「新有識者会議」が静岡県民の不安をすべて取り除くことができるよう期待したい。 ※ブラックスワンは優雅な白鳥と違い、ドナルドダックみたいにコミカルである。人間を恐れる様子もなく、「何か餌を寄越せ」とばかり、大きな赤いくちばしで突っついてくる。原生自然保護地域を中心とした南アルプスエコパークにも常識を覆すようなブラックスワンが生息するかもしれない。生物多様性についてはこれから調査すべきことが多い。

ニュースの真相

リニア騒動の真相34 JR東海「いばら道」へ第一歩

JR東海株、昨年4月から1万円以上の急落  昨年(2019年)4月1日に2万6255円の最高値を付けたJR東海株は、その後2万2、3千円前後で推移、2月17日に2万円を割ると、3月13日終値1万5180円と1万円以上も値を下げてしまった。  3月10日、金子慎社長は東海道新幹線の利用半減(3月1~9日)という厳しい状況を伝えた。11日になってWHO(世界保健機関)がパンデミック(世界的な大流行)を宣言、新型コロナウイルスの勢いはおさまりそうにない。今後もJR東海に逆風が吹き荒れる可能性が高く、どこまで影響が出るのかの見通せない状況だ。  静岡県との「対話」が続くリニア計画から見れば、2018年10月、JR東海の「原則的に静岡県外に流出する湧水全量を戻す」表明は、JR東海株が好感される材料の一つとなった。昨年1月30日の県有識者会議で、JR東海は「湧水の全量を戻すことで中下流域の不安を解消できた。”不確実性”の高い議論ではなく、工事着手をして何かあれば対応したい」と自信のほどを示していた。  株価が最高値をつけた4月初めは、5月1日の令和天皇即位にともない「10連休」という祝日が組まれ、令和新時代誕生に向けて観光旅行への期待が高まり、JR東海へ追い風が吹いていた。一方、リニア工事着工に異議を唱える川勝知事に対して、週刊誌、ネットメディアなどが厳しい批判を続け、中日新聞リニア特集は「国交相、沿線知事らの静岡包囲網はできつつある」とまで書き、川勝知事に対して四面楚歌の様相を呈していた。  ところが、8月に入り、JR東海が「工事期間中の湧水全量を戻すことはできない」と湧水の一部は山梨、長野に流出することをはっきり認めると、潮目が変わる。それまでの川勝知事への逆風はぴたりと消えた。  そして、10月12日から13日に掛けての台風19号の影響でリニアトンネル建設の工事道路となる静岡市東俣林道が崩落、西俣ヤードまでの特種東海の私道もずたずたになってしまい、準備段階の工事計画は大きく狂い始める。  そんな厳しい状況の中で、官邸の指示を受けた国交省鉄道局はJR東海と静岡県との間に積極的に調整に入ってきた。 国交省「新有識者会議」は打開策にならない  『リニア騒動の真相20「暗闘」が始まった』(11月4日)、『リニア騒動の真相21正々堂々の「ちゃぶ台返し」』(11月11日)、『リニア騒動の真相22早期着工の「視界」ゼロ』(11月18日)を読んでもらえれば分かる通り、川勝知事は国交省との「闘い」を始めたことがわかる。  昨年12月25日、国交省が提案した新たな枠組み「三者協議」設置に向けて、川勝知事は「環境省など他省庁の参画」「これまでの対話の評価」を求める2つの要請をした。「2つの要請」をうやむやにするかたちで、国交省は1月17日、新たな「国の有識者会議」設置を提案してきた。  トンネル工学や水文学の専門家で構成、県有識者会議の議論を検証する「新有識者会議」について、静岡経済新聞は『川勝平太知事がただ黙って、それを受け入れるはずもないだろう、たとえ、「新有識者会議」が設立されたとしても、屋上屋を重ねるムダな時間をさらに費やし、国交省が望む「解決策」に至るのにほど遠いことははっきりとしている。なぜ、国交省がそんな”奇策”(愚策?)に出たのか分からない』(1月20日『リニア騒動の真相30「北風」作戦は失敗』)と疑問を投げ掛けた。  『これ(新有識者会議)では、川勝知事の術策にはまって、土壺にはまった現実に変わりない。”奇策”は打開策にはならない』。新有識者会議の行方まで予測した。 再び、川勝知事の「ちゃぶ台返し」  まず、静岡県は、5条件(①会議の全面公開②議題は県の求める47項目③会議の目的はJR東海への指導④委員は中立公正を旨として、県の専門家部会長らも参加すること⑤会議の長は中立性を確認できる者)を提示、国交省の”思惑”をはずそうとした。2月6日難波喬司副知事らが国交省に出向き、「事前協議」という腹の探り合いが行われた。「事前協議」が繰り返されることで、「新有識者会議」設置は不透明になっていく。  そんな状況を打破したい国交省はやむを得ず5条件を飲むこととし、今月6日「新有識者会議」人選案を示した。この協議でも、難波副知事は人選案を検討して、回答するとしただけで結論めいたことを避けた。一方、何が何でも「新有識者会議」発足にたどり着きたい国交省は、静岡県の了解なしに人選案を決定事項のように報道各社に配布してしまう。  9日には、宇野護副社長が昨年9月に約束した西俣ヤードでの鉛直ボーリングについて、工事開始の見通しがつかない状況を明らかにした。東俣林道終点から西俣ヤードへの道路まで台風19号の影響でずたずたになり、その修復工事に時間が掛かっているのだという。なるべく早く着工したい希望だが、見通しは立っていない状況を説明した。  昨年12月初め、JR東海は東俣林道沼平ゲート近くの約1・5キロ間で舗装改良工事を始めたが、それさえもいまだに完了していない。冬季に西俣ヤードで工事に入ることなどできるはずもなかった。  翌日の10日、金子社長は南アルプストンネル静岡工区の2019年度着工を断念すると発表した。どう考えても、昨年10月の時点でトンネル本体工事はおろか準備工事にさえ入れないことは明らかだった。年度ぎりぎりになって本体工事の「着工断念」を宣言した。今後の見通しが不透明な中で、「新有識者会議」を唯一の打開策として「期待したい」と述べた。  その3日後、13日に川勝知事は金子社長の「期待」をこなごなに打ち砕いてしまった。  川勝知事は、記者会見で「有識者会議」人選案を否定、さらに、静岡県による「新有識者会議」委員公募まで発表した。国交省に事前連絡を行わない川勝知事の”独断専行”である。その掟破りが何を意味するのか?「新有識者会議」人選案を決定事項のように報道各社に配布したしっぺ返しだが、これによって川勝知事”独断専行”に国交省は文句をつけられなくなってしまった。  再び、川勝知事の見事な「ちゃぶ台返し」が行われたのだ。 静岡県「新有識者会議」委員候補の公募?   「新有識者会議」人選案に、「リニア新幹線を推進する人物が入っていることで中立性が疑われる」「土木系に偏っている」などと県の有識者会議委員が意見を寄せたことを説明。ただし、大成建設社外監査役以外の他の委員候補を了解したのかなど全く明らかにしていない。国交省の人選案を大問題にしているというシグナルには十分だった。  2月の定例会見で川勝知事は「新有識者会議」座長は、水循環基本法に携わった専門家であることが望ましい、と述べた。川勝知事は水循環基本法に関わった中川秀直・元自民党幹事長に面会、「新有識者会議」委員候補に高橋裕東大名誉教授(河川工学)、稲場紀久雄阪大名誉教授(環境文化史)、蔵治光一郎東大教授(森林水文学、森と水と人との関係)の3人を推薦してもらった。国交省はこの推薦候補を無視できないだろう。面倒な作業と手間が課せられることになった。  そして、もっと面倒なのは、寝耳に水の静岡県による委員候補公募が始まったことだ。3月末までを締め切りとして、候補者が出そろったところで県有識者会議委員が「委員」候補にふさわしいのかどうかを選定するのだという。それから、国交省に提案するらしい。川勝知事は「国民全体に論点を広げて、科学的技術的知見を持つ人が科学的エビデンスに基づいて問題を解決しようとしなければならない」と述べた。静岡県が推薦する「委員」候補が出そろったところで、その後に難波副知事らとの「事前協議」が開かれるのだろう。これでは「新有識者会議」発足はいつになるのか見えてこない。水嶋智鉄道局長は川勝知事の術策にはまってしまったのだ。  国交省はこのまま身動きできないだろう。めちゃくちゃにひっかき回された「新有識者会議」が発足したとしても、その存在理由に官邸などから疑問の声が上がるのは言うまでもない。  『「新有識者会議」という”奇策”は打開策にはならない』。予測した通りの結果になった。 JR東海「借金」5兆円に迫るがー  「東大教授の場合には国の施策を支援するのは重要な役割」(沖大幹著「東大教授」新潮新書)と書いてある通り、国交省が設置する以上、国交省の意向を受けた委員会構成になるのが当然である。静岡県の有識者会議メンバーを「当事者」と鉄道局審議官が口を滑らせたというが、事実、全くその通りである。「謝金」を払う側の意向を忖度するのが世の常である。  静岡県の求めた5条件の1つ「会議の目的はJR東海への指導」を遵守するのならば、「中立性」は無用であり、JR東海の事情をよく知っていたほうがいいに決まっている。トンネル工事を請け負った大成建設社外監査役こそぴったりの人選である。「新有識者会議」の真の目的、静岡県のこれまでの議論にいちゃもんを付けることが丸見えなのだろう。「川勝戦略」で見事にこなごなにされてしまったがー。  沖・東大教授は「(東大教授は)年度初めには一年間のスケジュールがほぼ埋まってしまう」と書いている。これから手間暇かけて候補を決めたあと、正式に委員委嘱できても会議開催は早くても夏以降だろう。その上、どんなに時間を掛けても国の思惑通りに「新有識者会議」は進行しないのも確かだ。『大きなお世話かもしれないが、鉄道局は「川勝戦略」の”源”をちゃんと押さえた上で、対抗できる「戦略」を考えたほうがいい。いまのままでは、川勝知事の術中にはまり込んだまま身動きできなくなる』(『リニア騒動の真相32川勝知事「戦略」の”源”は?』)。ぜひ、記事を読み返してから「戦略」を立ててほしい。  最初にJR東海の株価を示したのは、約6千億円の経常利益を稼ぎ出す東海道新幹線が、新型コロナでがたがたになっている事実をちゃんと押さえておいたほうがいいからである。大黒柱の新幹線に危機が及ぶ事態は初めてだろう。リニア工事が始まり、JR東海の借金は5兆円近くに膨らんでいる。もし、リニア開業が1年延びれば、数千億円単位で総工費はかさむ。2019年度静岡工区着工は断念したが、「新有識者会議」混乱の3月時点で、2020年度着工の危険性まではっきりと見える。  いずれ、新型コロナの「非常事態」は収束し、株価も上昇に転じるかもしれない。しかし、経済的損失も半端ではないことが分かるだろう。数字の力は絶対である。JR東海は「いばらの道」へ第一歩を踏み出す可能性が高い。 ※タイトル写真は、3月2日朝、静岡駅に到着した新幹線こだま号。新幹線に繁忙期料金はあるが、閑散期料金は設定されていない。「閑散期」など想定しない東海道新幹線でさえ危機に見舞われているのだ

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川勝知事、「文化力の拠点」どうしますか?

宮沢賢治と清水三保海岸の関係は?  2月27日の静岡県議会代表質問では、自民党県議団の野崎正蔵氏が「文化力の拠点」事業を巡り、他会派の予算要望で川勝平太知事が「ごろつき」「やくざ」「反対する人がいたら県議の資格はない」などと発言したことを看過できないとして追及した。  野崎氏は冒頭、『「遊ぼう」っていうと 「遊ぼう」っていう。「馬鹿」っていうと 「馬鹿」っていう。(略)「ごめんね」っていうと 「ごめんね」っていう。 こだまでしょうか いいえ、誰でも』など感情を込めて、金子みすゞの詩「こだまでしょうか?」を朗読した。  三重県の鈴木英敬知事へ、川勝知事の「嘘つきは泥棒の始まり」発言があったことを踏まえ、「ごろつき」「やくざ」発言が川勝知事への”ブーメラン”となり、こだましたのか?野崎県議はその詩を読んだあと、約10分間にわたり舌鋒鋭く批判を続け、最後に「自らの言動をどのように総括して、身を処するのか、見解を示せ」などと締めくくった。  川勝知事は金子みすゞとともに、なぜか宮沢賢治にも触れたあと、自身の発言を深く反省、心からお詫びするとしてひと言「ごめんなさい」と述べた。  その謝罪発言を聞いていて、ああ、そうか、川勝知事は「文化力の拠点」を忘れていないのだ。頭の片隅のどこかにちゃんと残っているのかと驚いた。  金子みすゞは26歳で自死した。宮沢賢治は37歳のとき、肋膜炎が原因で亡くなっている。二人とも若くして亡くなったとともに、生きている間に作品の評価は受けず、無名のまま亡くなっている。「私と小鳥と鈴と」「大漁」など金子みすゞの詩は35年ほど前、ある児童文学者の再評価によって瞬く間に多くの人たちの心をつかみ、いまも愛され続けている。  宮沢賢治も生前、詩集「春の修羅」、童話集「注文の多い料理店」のみが自費出版された。亡くなったあと、弟の宮沢清六らが「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ…」などが記された手帳を発見、その精神性の高さを哲学者、谷川徹三(詩人谷川俊太郎の父親)らが高く評価、すべての日本人が一度は口ずさむであろう最も有名な詩となった。だから、賢治存命中には、その詩の存在を誰も知らなかった。  賢治が静岡県を訪れたことも知られていない。26歳のとき、清水の三保海岸を訪れたのである。 「はごろも海岸」という美しい名前  賢治は、宗教家、田中智学の興した法華宗を信仰する在野の仏教団体、国柱会に入会した。大正時代、国柱会の本部・最勝閣は清水にあり、国柱会HPには、「大正11年(1922)11月に亡くなった妹トシの遺骨は三保最勝閣へ賢治が持参した」と簡単に記されている。  調べていくと、岩手・花巻で行われたトシ(享年24歳)の葬儀には宗旨(実家は浄土真宗)が違うため出席しなかった賢治が火葬場に現れ、遺体が焼かれている間、法華経を読み続けたという。分骨された遺骨を、丸い小さな缶に大切に入れて、翌年、御殿場回りの東海道線を利用、納骨のために清水を訪れた。ただ一度の静岡への旅行である。  その年、賢治は北海道・青森を旅行、トシの早逝を深く悼み、長編詩「オホーツク挽歌」「青森挽歌」を書いている。三保海岸を訪れた際の詩や随筆、手紙は散逸し、未発見のままである。賢治は常に鉛筆と手帳を携えており、行く先々でメモを書いた。鉄道の便が悪い当時、清水までの長い時間、多くのことを記したはずである。賢治自身で手帳の多くが破棄されてしまった。  26歳の賢治が目にした美しい三保海岸はその後変わっていく。田中智学は清水地域の工業化を嫌い、国柱会本部を東京へ移転した。最勝閣などの建物の痕跡は一つも残っておらず、トシの埋葬場所など賢治が訪れたことを示す記憶は清水には何もない。  そしてもう一つ。賢治が訪れた当時、清水三保海岸は「はごろも海岸」と呼ばれていた。いまや、だれもその記憶はない。 文化力とは地域の発する地域のイメージ  「はごろも」は、2014年9月8日に開かれた第1回静岡東駅地区の整備に関する有識者会議で話題の一つになった。当時、静岡県立美術館館長を務めていた芳賀徹先生がさまざまな議論のあと、あえて「はごろも」を使った。  『三保松原のはごろもの伝説、美しいですね。富士山のいろいろな信仰の対象、芸術の対象、聖徳太子あるいは日本武尊を中心とした一種の神話の力がどこかで宿されている。それをまとめて「はごろも地域」ですか?』。2007年から県立美術館長を務め、この地域を愛した芳賀先生らしい意見を述べた。  東静岡駅周辺から日本平を経て、清水三保海岸を結ぶ広い地域をどのように整備していくのかが議題だった。そもそも、そこで初めて「文化力」について議論されたのだ。芳賀先生が『「文化力」とは何ですか?「文化の拠点」と違うのですか?文化と文化力の違いがわかりません』と尋ねると、川勝知事は「軍事と軍事力、経済と経済力と言った意味です」と答え、芳賀先生が「学問と学力が違うのと同じですね」と確認した。  会議に出席した田辺信宏静岡市長が、JR東静岡駅の名前を「日本平久能山東照宮駅」に変更したいという提案に対して、川勝知事は「日本で一番長い駅名だけでも、そのイメージに発信力があります」などと述べ、「文化力」とはその地域が発する場の力やイメージ力であり、三保海岸の別名「はごろも海岸」はまさに、「文化力」を表していたのだろう。議論では、静岡が東京、京都、大阪などの地域に埋没して、個性を発揮できていない背景があると指摘していた。  遠山敦子トヨタ財団理事長(当時)は『「文化力」という形で、(この地域の)明確な特色を出すべき』と進言した。6年以上も前のことである。  東静岡駅地域の「文化力の拠点」事業は、今回の”川勝知事発言”を機に、一気に中止に追い込まれた。また、「文化力の拠点」にさまざまな意見を述べていた芳賀先生が2月20日、88歳で亡くなられた。そのまま、「文化力の拠点」事業も消えてなくなってしまうのか? 家康の眠る久能山東照宮も「文化力の拠点」  芳賀先生は県立美術館長を辞したあと、2017年9月、「文明としての徳川日本」(筑摩書房)を出版されている。「春の海終日(ひねもす)のたりのたりかな」「菜の花や月は東に日は西に」などで知られる与謝蕪村について詳しく書いている。「この海は昨日も一昨日も、そして今日一日もこうだった。おそらく明日も明後日もさらには来年も再来年もこうなのだろう」と「平和の退屈」さを「春の海」の句で説明している。徳川250年の平和な時代は終わり、幕末、動乱の予感が押し寄せていた。  パックストクガワーナ(Pax Tokugawana 徳川の平和)は、芳賀先生による造語であり、2015年6月、家康没後4百年を記念するシンポジウムでは基調講演を行った。  家康は1613年、駿府で幕府直轄地のキリスト教禁令を行った。翌年には全国に発布する。『当時カトリック勢力のポルトガル、スペインは中南米で残酷な略奪、殺人を平気で行い、伝統的な文化を破壊してしまう。カトリック勢力の真の狙いを知らずに、九州の大名らはキリシタンにどんどん改宗していく、当時のカトリック勢力は非常に危険だった。  家康のキリスト教禁令はまさにふさわしい賢明な対応だった。家康が外交顧問に重用したウイリアム・アダムスのもたらした情報が重要だったのだろうが、アダムスが経験豊富で実践的な航海士であったことが幸いした。また、大胆で勇敢なサムライだったからこそ、家康と信頼関係を築くことができた。家康外交によって、平和な徳川時代を築くことができた』。古文書を中心に読みこなす歴史学者では海外との交渉を行った家康外交の真実には言及できず、まさに芳賀先生の独壇場だった。  家康の眠る久能山東照宮も「はごろも地域」の一角。「はごろも」はまさに、平和をイメージできる。 「おとなしい」静岡人は場のイメージでもある  JR東海との「対話」が続くリニア問題で明らかになったのは静岡人の県民性であろう。「おとなしい」静岡人というイメージはそのまま、平和な静岡という土地のイメージそのものである。JR東海はまさか、静岡県で「反対」運動にも似た「闘い」に巻き込まれるなどとは思ってもみなかったのだろう。  JR東海は「おとなしい」静岡人を見込んで、計画の当初から大井川中下流域の8市2町への説明等はなおざりにした。川勝知事は「おとなしい」静岡人の代弁者となり、「静岡県の6人に1人が塗炭の苦しみを味わうことになる。それを黙って見過ごすわけにはいかない」などと決然と立ち上がった。  静岡県は恵まれすぎている。富士山、駿河湾、浜名湖、お茶、みかん、鰻、山葵、まぐろなど日本一がいくらでもある。宮崎県出身の久能山東照宮の落合偉洲宮司は「宮崎県人ならば久能山東照宮をもっともっと自慢している」と言った。家康没後4百年記念事業を機会に、久能山東照宮を日光東照宮に肩を並べるくらいの魅力を発信したい、とさまざまな事業に取り組んだ。静岡人は人は良いが、自慢嫌いの恥ずかしがり屋なのだ。川勝知事のような「おとなしくない」静岡人だからこそ、リニア問題では「闘える」のである。  「ごろつき」「やくざ」発言はあったが、「文化力の拠点」事業について予算規模や中身がわからないという疑問を投げ掛けていた県議たちが事業そのものに反対というわけではない。金子みすゞを引用した野崎県議の質問も「文化力」にあふれていたのだ。だからこそ、川勝知事は誠意を持って「ごめんなさい」と謝罪したのである。  芳賀先生の提唱したパックストクガワーナが始まった場所が駿府である。「トポス(ギリシア語の場所、そこから特定の連想を喚起する)の探求」を続けることを芳賀先生は願っていた。  ことしはウイリアム・アダムスが亡くなって、ちょうど4百年。静岡にはあまりに、多くの「文化力」があるため、どこから発信していいのか分からない。ただ、せっかくの「文化力の拠点」をそのままやめてしまうのは残念でならない。  川勝知事、「文化力の拠点」をどうしますか? ※亡くなる2年前、東京から帰郷する列車の中で書き綴った「雨ニモマケズ」を記した手帳は、復刻版として1300部限定で作成された。亡くなったあと、賢治のトランク蓋裏から、清六が発見していなかったならば、「雨ニモマケズ」の詩は世に出なかった。 ※タイトル写真は、「はごろも海岸」越しの富士山を眺める

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リニア騒動の真相33リニア「空気感」が冷たい理由

「無期限に補償」表明は水泡に帰す  街を歩いていて、突然、リニアに対する「空気感」がこれほどまでに冷えている理由が分かった。  2月7日、JR東海の宇野護副社長が静岡県議会の最大会派、自民改革会議の県議団に地下水への影響について「無期限に補償する」と表明した。大井川流域市町の不安解消に一歩踏み込んだJR東海の”譲歩”策だったが、「補償より影響回避」と流域の市町は強く反発している。「無期限の補償」表明は、リニア南アルプストンネル建設の早期着工に向けた打開策にならないことがはっきりとした。  「無期限に補償」表明をした宇野副社長は、その趣旨を「(下流域の地下水に)影響が出ることはまずないが、(地元の)懸念が強いということだったのではっきりと申し上げた」と述べたが、あいまいな物言いだったために、「1年を超える補償申請期限」なのか「30年間を超える補償期間」なのかを巡り、国交省へ呼ばれた。  そもそもは静岡県が「中間意見書」で、JR東海に「地下水の影響」について補償等の見解を求めた。「地下水への影響はない」とするJR東海が補償等に言及すること自体変な話である。それでも、「中間意見書」にこたえ、「無期限に補償」を表明するほうが、地元の理解が得られると方針転換したのだろう。  20日の記者会見で、金子慎社長が30年間を超える補償期間の可能性に言及したが、時すでに遅しだ。何だかわからない物言いだけが地元に伝わり、公共工事の基準を超えて30年を超える補償は文書にまとめられるだけになり、流域市町への説明はなくなった。地元は補償の話など聞きたくないと避けたからだ。  なぜ、リニアに対する「空気感」はこれほどまでに冷え切っているのか?きょう、静岡人になじみ深い歴史の場所に立った。「ああ、そうだ、そういうことだったのだ」と気づいた。 「交渉」とは何かー駿府の山岡、西郷会談  静岡市の江川町交差点近く、伝馬町に1つの大きな石碑が建立されている。いまから152年前、1868年3月9日、東征軍参謀の西郷隆盛と幕府方の山岡鉄太郎との会談が行われた松崎屋伝兵衛宅跡である。  幕末、駿府(静岡市)は歴史の舞台となった。3月6日大総督有栖川宮の東征軍がここに駐留して軍議を開き、3月15日をもって江戸城総攻撃を行う、と決定した。当時、江戸では東征軍の進撃を抑えられず、徳川慶喜から、身辺警護を務める山岡は「朝敵の命が下り、もはやとても生命をまっとうできまい。いかなることも朝命に背かない。二つとない赤心。伝えてくれ」と”(慶喜)助命”の使者役を任された。  それを聞いた勝海舟は、いくら山岡が剣術の達人とはいえ、たった一人で官軍の真っただ中に乗り込めば、即座に殺されるか、捕らえられるに違いない、駿府にたどりつけず、死地に向かうのが関の山だろうと思案していると、そこに山岡とは旧知の薩摩藩士、益満休之助が顔を出した。山岡、益満ともに尊王攘夷の集団「虎尾の会」で、横浜外国人居留地の焼き討ちなどに生命を賭け、「休之助」「鉄太郎さん」と呼び合う同志だった。  益満は難解な薩摩弁を駆使できるから、西郷に会うためにはなくてはならない役回りと勝は判断、益満もそれを受け入れ、山岡に同行することを承知した。不思議な巡り合わせが歴史を変えたのだ。  勝は「無偏無党、王道堂々たり」で始まる有名な書簡を山岡に託した。東征軍が江戸城総攻撃を決めた6日、山岡らは江戸を出発、勝の予想通り、官軍だらけの東海道で鉄砲隊などと遭遇した。身長188㌢という山岡の偉丈夫ぶりと益満の「薩州藩、使いである」の名乗りで死地をくぐり抜けた。  9日駿府に到着するやいなや、山岡は西郷に面会、勝の書簡を渡し、「慶喜恭順」の意が伝えられた。西郷は有栖川宮らに諮り、翌日(10日)江戸城明け渡しなどの「降伏7条件」を山岡に示した。これに従えば、慶喜の命を救い、家名存続を許すというのだ。官軍から7条件を引き出した山岡は大手柄だが、交渉役ではなく、単に勝の使いだった。7条件をそのまま持ち帰るべきところが、山岡は「1つの条件だけは承服できない」と突っぱねた。  それが「慶喜の備前藩お預け」だった。山岡はもし、慶喜ひとりを備前に謹慎させることになれば、徳川恩顧の者たちは江戸城とともに討ち死にする、絶対に承服できないと食い下がった。西郷は「朝命に背く」と大きく首を横に振った。山岡は主君を差し出して、そのままでは済まされないと見えを切った。益満の口添えとともに、西郷は山岡の潔い男ぶりに惚れた。このとき、西郷40歳、山岡33歳、益満28歳である。  「虎穴に入りて虎児を得る」。山岡は降伏7条件を胸に、急ぎ江戸にたどり着く。東征軍も江戸に入り、13日勝、西郷の江戸城無血開城の会談が薩摩藩下屋敷で行われた。山岡、西郷の談判がなかったならば、東征軍はそのまま江戸城へ総攻撃を掛けていたはずだ。慶喜の命も保証されなかっただろう。そのくらい緊迫した中で山岡の「交渉」が行われた。幕末、駿府はそんな歴史の舞台だった。  現在、その同じ舞台に立って、静岡県、JR東海の歴史的な「対話」が行われている。2027年品川ー名古屋間リニア開業が至上命題と言っている割には、JR東海側に「覚悟」や「熱気」が欠けている。歴史をつくる気概がない。  だから、リニアに対する「空気感」に地元は冷たくなっている。 3度の失敗をどう生かすか?  「無期限の補償」表明で、JR東海の地元対策への失敗は3度目となった。  1度目の失敗はJR東海の静岡市との交渉だった。JR東海は「市道閑蔵線」トンネル建設は工事用ルートに必要と説明、トンネル新設費用百億円の半分「50億円」を負担するので、残りの「50億円」は静岡市が負担するよう要請した。地元の厳しい反対を受けて、結局、県道トンネル「140億円」建設で決着する。(※詳しいは経緯は、雑誌静岡人vol4に掲載)  最初から、100億円負担するので「市道閑蔵線」トンネル建設を申し出れば、地元は歓迎しただろう。リニア南アルプストンネル建設には、県道トンネルよりも「市道閑蔵線」トンネルのほうが大きな効果があることくらい誰にでもわかる。「リニアを一日でも早く開業させたい」意気込みに欠けていたとしか思えない。  2度目の失敗は、「湧水の全量戻し」表明だった。2018年10月、JR東海は「原則的に県外に流出する湧水全量を戻す」と表明したから、大井川の水環境問題は一気に解決の方向に向かうと見られた。ところが、1年近くたってから、「工事中は作業員の安全確保などで湧水は他県に流出する」と明らかにした。金子社長は問題を解決させたいための「方策」とまで述べたから、地元は強く反発した。その後、「湧水全量戻し」は議論の中心テーマとなった。  そして、3度目が「無期限の補償」表明。そもそも、初めから30年間を超える「無期限の補償」と分かりやすく表明していれば、地元の好感度は上がっただろう。とにかく、あいまいな説明が続いた。JR東海の”譲歩”は単に、社内手続きであり、地元には何ら関係ない。何か勘違いしているようだ。  リニア中央新幹線が日本の明るい未来を切り開くものだと地元にダイレクトにわかれば、「空気感」は変わる。しかし、それもできないでいる。 「空気感」を変えるために何をすべきか?  なぜ、「空気感」が変わらないのか?2020東京オリンピックと1964東京オリンピックを比較すれば、明らかだろう。約50年前の貧しい日本人すべてがオリンピックの成功に大きな期待を寄せた。  3兆円を使う大イベント、2020オリンピックだが、1964オリンピックのような躍動感もワクワク感も起きていない。新国立競技場の設計変更、マラソン会場の変更、そして新型コロナウイルスだ。是が非でも成功をという意識に欠ける。1964オリンピックのように全国民の悲願とは言えないからか。  リニアも同じだ。9兆円のうち、3兆円もの財政投融資を使う国家的事業なのに、静岡県の「反対」ばかりが目立つ。県民のほとんどは川勝知事の「闘い」を支持する。リニア開業後の未来に明るさは何も見えてこないからだ。  JR東海は対話も情報公開も苦手である。県民にわかりやすく理解してもらう「戦略」に欠けるからだ。3度の失敗を経て、何をすべきかわからなければ、次の失敗は致命的なものになる。 来年度は28回の「対話」を予定?  20日静岡県議会2月定例会が開会した。27日の代表質問から、一般質問と続き、3月18日の閉会日まで予算審議が続く。  リニア関連予算案を調べると、一般会計1兆2792億円の中で、たった2千万円弱と非常に少ない。それでも、本年度に比べて、約2倍の予算を計上した。内訳は、毎回、新聞、テレビが大きく報道する県環境保全連絡会議(全体会)、生物多様性専門部会、地質構造・水源専門部会の開催・運営と現地調査費など。来年度は28回の会議、現地調査40回を想定した。  議会冒頭、川勝平太知事は来年度予算案に関する説明を行った。リニア建設に伴う大井川水系の水資源及び南アルプスの自然環境の保全について、直近の今月10日開催された県地質構造・水資源専門部会を踏まえ「JR東海の見解は本質的に従来と変わっておらず、新たな提案等もなかった。今後も対話を継続して、県民の不安払しょくに全力で取り組む」と述べている。(※タイトル写真)  川勝知事は「対話の継続」を見込み、28回ものリニア会議予算を立てた。4月から毎月2~3回も、JR東海との「対話」会議が開催されることになる。このままでは簡単に着工への道は開けないことをJR東海は理解しなければならない。さて、どうするか? 3月の1か月間で何をすべきか?   県議会2月定例会は3月18日の閉会まで、2月25、26日、3月6、13、16、17日が休会日となる。ここにJR東海表明の「補償」議論、「新有識者会議」設置に向けて国との「事前協議」が入るのだろう。事実上、リニア問題についての「対話」は3月18日まで完全に休止状態であり、3月いっぱい休みの可能性は高い。  新型コロナウイルスでさまざまなイベント中止の動きが続いているが、リニア問題の「対話」も3月中は休止で、4月の新年度から仕切り直しに入る。3月の1カ月間で何をすべきか?  152年前の3月9、10の両日、駿府で行われた山岡鉄舟の「交渉術」を学ぶよい機会だ。久能山東照宮には勝海舟が西郷隆盛との会談に臨んだ際、帯刀したとされる赤鞘の短刀も現存する。2014年正月、新潟市で家康4百年事業記念の久能山東照宮展を開催した折、勝の短刀も出品して、大きな話題を呼んだ。ぜひ東照宮に足を運んでほしい。  3月20日からは静岡東宝会館で、映画「三島由紀夫vs東大全共闘」が封切られる。50年前の伝説的な討論会が「対話」のヒントになる。身一つで敵地に乗り込んだ「気魄」を三島由紀夫に学ぶべきである。  2月16日付『リニア騒動32川勝知事「戦略」の”源”は?』をきっちりと読んだほうがいい。いずれにしても歴史に学ぶことは多い。JR東海は対話「戦略」をちゃんと構築しなければ、来年度1年間も無駄にするだろう。まずは、リニア議論の「空気感」を変えることができるかだ。川勝知事への「闘い」に向かうにはそれしかない。

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リニア騒動の真相32川勝知事「戦略」の”源”は?

今度は「水循環」という難題を突き付けた  今度は「水循環」である。12日の定例記者会見、翌日13日の来年度予算案記者会見でも「水循環」が川勝平太静岡県知事の重要なキーワードとなった。特に、定例会見で川勝知事は「国の新有識者会議」の座長は、水循環基本法に携わった専門家であることが望ましい、と述べた。水循環基本法?記者たちの何人が「水循環基本法」について理解していたのだろうか。  翌日の13日、国交省鉄道局との「事前協議」で、川勝知事発言を踏まえ、難波喬司副知事は新有識者会議の委員構成に「中立性に疑義がある」と表明した上で、「水循環」の専門的な知識を持つ委員を要請、さらに、環境省の専門家を委員に加えるよう求めた。これで「水循環」は避けて通れなくなった。  「水循環基本法」は2014年3月、水行政の縦割りを排除、健全な水循環を保つことで持続可能な社会を築くのが目的。リニア南アルプストンネル工事による下流域の地下水影響については、「地下水は国民共有の財産であり、公共性の高いもの」(同法3条の2)であり、最も重要な位置づけにある。下流域の地下水枯渇に不安を抱く流域市町を念頭に、川勝知事は「水循環」が議論の最大のテーマと述べた。  日本では、上水道は厚労省、農業用水は農水省、工業用水、水力発電や水ビジネスは経産省、河川や水資源、下水道は国交省水管理・国土保全局、地下水や湖沼の水質管理は環境省、雨水は気象庁(国交省外局)、大規模水害対策は内閣府中央防災会議、自治体の水道事業の民間委託は総務省、海外の水問題解決は外務省などが窓口。水循環基本法は水行政を一本化、統合的な水資源管理を目指すものである。  地下水の価値は法律の理念で示されたが、地下水の保全に関わる法律は存在しない。公的管理を担っているのは国ではなく、静岡県などの自治体である。大井川地域も「地下水の採取に関する県条例」で管理される。担当するのは、リニア南アルプストンネル建設での静岡県側窓口となる環境局水利用課。  一方、リニア南アルプストンネル建設を推進するJR東海を指導する立場の国交省鉄道局は「水循環」に何らの関わりを持たない。いくら「水循環」を求められても、所管から大きく外れ、どのように対応するのか、簡単ではないだろう。  昨年11月11日『リニア騒動の真相21正々堂々の「ちゃぶ台返し」』で紹介した通り、川勝知事は「鉄道局だけでは仕事の整理ができない。環境省、農水省などが加わった上で国が関与すべき」と、「3者協議」に国の新たな体制を求めた。その無理な要請をかわすためか、国交省は「新有識者会議」設置を提案した。その提案に、待ってましたとばかり、静岡県は5条件を求めた。  5条件を受け入れるとした国交省の「新有識者会議」設置は遅れに遅れている。そこに新たに「水循環」を持ち出されては、さらなる遅れも生じるはずだ。 川勝戦略は”河勝”にさかのぼる  静岡工区の着工が見通せず、鉄道局は「新有識者会議」設置を事態打開の切り札としたかった。10月に当時の”打開策”だった「3者協議」を提案したが、それも空振りに終わり、すでに3カ月以上が過ぎてしまった。  責任者の水嶋智鉄道局長は、1月23日静岡来訪で川勝知事に面会、さらに今月12日、急きょ静岡を訪れ、川勝知事と面会した。何とかしたい鉄道局の焦りがはっきりと見える。この意見交換の席で、水嶋局長は環境省官房長に働き掛け、オブザーバーで参加するのは問題ないとの回答を得て川勝知事に了解を求めた。  ところが、「事前協議」の難波副知事はオブザーバー参加ではなく、意見を発言できる正式な委員として環境省専門家の参加を要請した。それに加えて「水循環」専門家である。これでは、「事前協議」のままいつまでも終わらないかもしれない。  次から次へと川勝知事は新たな「難題」を国交省に突き付ける。国交省の提案した「3者協議」は宙に浮いたままであり、新たな「有識者会議」設置も「事前協議」段階で難航する。関係者以外で「3者協議」「有識者会議」「事前協議」が実際には何なのか説明できる者はいないだろう。  そこに、宇野護JR東海副社長が静岡県の自民県議団で表明した「無期限の補償」問題も登場した。鉄道局は、宇野副社長を呼び、その内容を確認する。これも簡単な話ではない。  補償申請に期限を設けないとしたが、補償を受けられる期間を30年以上とするのかどうかが焦点となる。もし、JR東海が補償期間を30年以上とした場合、既に枯渇が問題となっている山梨県リニア実験線沿線の河川の補償に影響する。単に、静岡県のトンネル区間だけの問題ではない。  「水循環」が混乱に拍車を掛けるのは間違いない。川勝知事はすべてを了解して、新たな戦略を打ち出しているかのようだ。なぜ、次から次へとリニアに関わる水環境戦略が生まれてくるのか?  もしかしたら、川勝知事のルーツに関係しているのかもしれない。その答えを「秦河勝」に見つけたのだ。 「伏見の闘い」は「リニアの闘い」である  川勝知事の出身は、京都府亀岡市であり、祖父の代には醸造業を営んでいたという。渡来人の秦河勝は酒の醸造を日本へもたらした。河勝一族は酒造の名手で「秦大酒君(はたのおおさけのきみ)」と呼ばれた。当然、川勝知事の一族はその流れをくんでいる。  家康没後4百年事業に向けて、久能山東照宮の落合偉洲宮司とともに川勝知事をインタビューした際、「東照宮の前身となる久能寺を創建したのが、秦一族であり、深い縁を感じる」と話していた。(タイトル写真は、2009年雑誌静岡人vol2に登場してもらった川勝知事)  聖徳太子のブレーンとなった秦河勝は太子の死後、播磨(兵庫県)に流され、その地域で繁栄する。酒造業の富をもとに上水道の敷設などに尽くしたとされる。  今回のリニア南アルプストンネル工事について、大井川の地下水を使う焼津の磯自慢、藤枝の喜久酔など酒造メーカーから訴えられた南アルプスの大切さを川勝知事は、国交省の藤田耕三事務次官らに紹介している。醸造業にとっていかに水が大切かを誰よりも知るからであろう。  そして、京都の酒造家が忘れてはならないことは、酒どころ伏見の「鉄道の地下化反対運動」である。「伏見酒造組合125年史」によると、昭和3年(1928)昭和天皇の即位礼が京都で行われることになり、京都、奈良間に新しい鉄道敷設計画が浮上した。計画では伏見桃山の陸軍練兵場を通過することになったが、陸軍が強硬に反対、鉄道側はその地域を地下鉄にすることにした。  この計画を聞いた伏見酒造組合は「地下鉄による地下水の影響調査」を京都大学に依頼、地下水掘削業者を指揮して、260カ所も試掘して、地下水の流動方向と水質を調査した。その結果、伏見には北東から南西に掛けて伏流水の大水脈があり、地下鉄の敷設工事で、水脈はずたずたになり、酒の醸造用水に深刻な影響が出ると報告された。  伏見酒造組合は当時の京都府知事を先頭に「計画変更」を求めた。生命の水を守る運動は府民全体の運動となり、鉄道の地下鉄計画は阻止される。鉄道は陸軍練兵場を高架式で通過する案に変更された。  伏見酒造組合の勝利は、1、綿密な調査を行ったこと。2、関係機関と根気強い交渉を続けたこと。3、京都府民の世論を味方につけたことなどが挙げられている。  伏見酒造組合の「闘い」はまるで、現在のリニア南アルプストンネル工事計画での川勝知事の「闘い」につながっているように見える。川勝知事は、文句を言わない県民性が挙げられる「おとなしい静岡人」の先頭に立ち、流域の市町を巻き込み、生命の水道水を守るための政治責任を果たそうとしている。川勝知事の戦略を支えるのは、日本に醸造をもたらした祖先の秦河勝であり、歴史事実として伝えられる伏見酒造組合の地下鉄反対運動ではないのか。  川勝知事は一筋縄ではいかないことを鉄道局はそろそろ理解すべきだ。このまま行けば、新たな「水環境戦略」を突き付けるだろう。 「水循環」専門家でも地下水への影響はわからない  7日の自民県議団の勉強会で宇野副社長が「中下流域の地下水は掘削される南アルプストンネルから約百㌔離れており、影響は生じない」と述べた通り、JR東海は一貫して中下流域の地下水への影響は生じない、としてきた。  大井川地域など県中部地域の地中に蓄えられている地下水賦存(ふぞん)量は58・4億㎥、そのうち地下水障害を発生・拡大させることなく利用できる地下水量は3・4億㎥。1960年代後半から焼津、吉田などで盛んに行われた養鰻業によって地下水の減量が顕著になったことから、71年に地下水採取に関する県条例を制定、77年に改正、さらに2018年にも改正されている。  15本程度の井戸によって、地下水の経年変化を調べているが、条例制定後、現在まで大井川地域の地下水に大きな異常は見られない。地下水量に大きな影響を及ぼすのは、雨量や地域の取水量であり、約百㌔離れた河川上流部の水の変化が地下水にどのような影響を及ぼすのかという研究は行われたことはない。  2014年の水循環基本法成立後、フォローアップ委員会が設置され、その座長を務めたのは、静岡市出身の高橋裕東京大学名誉教授(河川工学)。ことし93歳になられるが、高橋先生が「新有識者会議」座長を務められるならば、大井川の「個性」までご存知なだけにふさわしい人選と言えるだろう。ただし、2016年にフォローアップ委員会座長は沖大幹東大教授(水文学、水資源学)に引き継がれている。   中下流域の地下水の影響について、静岡県は何かあったときの不安を強調し、JR東海は全く影響はないと断言する。両者の主張は真っ向から食い違う。しかし、誰もどちらが正しいという結論を下すことはできないでいる。「水循環」を専門にする水文学、水資源学の専門家らに聞いても、リニアトンネルが地下水にどれだけの影響をもたらすのか正確に把握するのは困難ではないかという説明を受けた。  静岡県の有識者会議の議論は「当事者」であり、鉄道局は「新有識者会議」でたたくとした。ところが、逆に新有識者会議の人選で「中立性に疑義」と言われてしまう。鉄道局にトンネルや土木工学の専門家はいても、河川、地下水の「水循環」専門家はいないのは当たり前である。  10日に静岡県とJR東海との議論が再開されたが、JR東海の回答は静岡県の専門家には満足のいくものではなかった。議論すればするほど新たな疑問が生じてくる。これでは、新たな有識者会議を設けても、静岡県が納得することはないだろう。  鉄道局は「新有識者会議」設置よりも、まずは、静岡県が求めているこれまでの議論をちゃんと評価できる専門家を見つけてくるほうが早いのではないか。  大きなお世話かもしれないが、鉄道局は「川勝戦略」の”源”をちゃんと押さえた上で、対抗できる「戦略」を考えたほうがいい。いまのままでは、川勝知事の術中にはまり込んだまま身動きできなくなるだろう。

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リニア騒動の真相31 「無期限に補償」も”方策”?

水枯れ「無期限に補償」とJR東海が明言?  『「水枯れ発生なら補償」 JR副社長「期限設けず」』(中日)、『リニア工事で水枯れ JR「無期限に補償」』(朝日)、『JR東海「期限設けず補償」リニア工事水資源問題』(日経)と2月8日付朝刊各紙に大きな見出しが並んだ。  JR東海の宇野護副社長がリニア南アルプストンネル工事による大井川の流量減少について水枯れなどが発生した場合、「工事完了から期限を設けずに補償する」と初めて明言したのが各紙の記事内容。「無期限に補償」というJR東海の”大英断”に地元関係者らはびっくりしただろう。  2月7日、宇野副社長は静岡県議会の最大会派、自民改革会議の県議約30人との「非公開」勉強会のあと、記者らに「無期限に補償」表明の趣旨を「(下流域の地下水に)影響が出ることはまずないが、(地元の)懸念が強いということだったのではっきりと申し上げた」と述べた。「初めての表明」を強調したから、川勝平太知事、難波喬司副知事らは全く知らされていなかったはずだ。  中日は「県とJRの協議が前進する可能性がある」と評価したが、果たしてそうなるのかどうか。  それどころか、2018年10月、JR東海の「湧水全量戻し」表明が真っ先に頭に浮かんだ。「湧水全量戻し」表明から1年もたたない2019年8月、『「湧水全量戻し」は工事中はできない』と述べ、利水者らの強い反発を呼び、いまだに、その問題は解決されていない。  今回も同じことの繰り返しになるのではないか? 「期限設けず補償」とは言っていない  中日、朝日、日経以外の他紙はどのように報道したのか?  『リニア工区「補償申請 期限設けず』(毎日)、『水補償 請求期限設けず リニア工事影響でJR』(静岡)、『リニア問題 水量減少補償 JR表明』(読売)。各紙見出しを見ただけでも、記事内容は全く違っているのが分かるはず。中日、朝日、日経が「誤報」とまでは言わないが、他紙を読めば、少なくとも言葉足らずは一目瞭然である。  『補償申請 期限設けず』(毎日)と『期限設けず補償』(日経)の意味は全く違う。JR東海は、流域の地元が「期限を設けない補償申請」を認めたに過ぎない。  それも『従来は「費用請求は工事の完了から1年を経過する日までとした国交省の基準に基づき対応する立場」から、1年以上過ぎたあとにも「補償請求は可能」』と毎日が説明した通りであり、朝日は勉強会で県議が『中下流域の利水者の「数年後に影響が出たらどう補償されるのか」という不安を解消するよう求めた』と書いているから、「1年以上」は単に「数年後」程度を意味しているようだ。  それで、静岡の『補償を受けられる期間は公共事業の基準に沿って30年間に限定するとしていたが、宇野副社長は「今後の話だ」と述べた』を読むと首をかしげるだろう。「数年後」ではなく、「30年間の補償期間」後を担保しなければ、「無期限の補償」とは言えないのに、『リニア工事で水枯れ JR「無期限に補償」』(朝日)は正しいとは言えない。  国交省の「公共事業の水枯渇等損害要領」は30年間を損害補償期間に限定、JR東海も「要領」に従い、31年目からは自治体で水対策を行ってほしいという姿勢だったはず。「申請」期限を「1年以上」にしても、損害補償期間を「無期限」にはしていないようだ。  少なくとも、中日、朝日、日経が書いたように、JR東海は「(水枯れなどの)無期限の補償」を表明をしたわけではない。「期限設けず補償」するならば、30年後に地下水の影響が明らかになっても「申請」可能で、かつ「補償」するはず。宇野副社長は、「1年以上過ぎたあとの申請は可能」としただけで、31年目からの「補償」については「今後の話」という。それでもJR東海にとっては大きな”譲歩”らしい。  流域市町は「遠い将来」(30年後以降)の水枯れを懸念する。宇野副社長表明ではその不安を払拭できない。今後、静岡県の専門家会議で議論のテーマになり、「湧水全量戻し」同様にあいまいな物言いに厳しい注文が入るはずだ。 「3者協議」から「新有識者会議」へ  宇野副社長の「無期限の補償」表明は、「湧水の全量戻し」で、金子慎JR東海社長が「利水者の理解を得たいための方策」と述べたのと変わりないかもしれない。「リニア工事で約百㌔離れた下流域の地下水への影響はない」と断言するJR東海だが、30年後以降の「遠い将来」の補償まで約束したくないのだろう。  議論が停滞して、国交省が本格的に乗り出すきっかけとなった10月4日の静岡県有識者会議に戻ってみよう。あの日から、すでに4カ月以上が過ぎている。「早期着工」を望むJR東海だが、まるで自分で自分の首を締めているようにさえ見える。  10月4日の会議で、JR東海は「工事中にトンネル湧水の一部が流出しても大井川の流量は減らない」と発言した。県側委員が「水が減らないとはどういうことか」と問いただすと、「県境付近の地下水はどちらに流れているのかわからない」と答えた。難波副知事は「リニア工事で大井川水系に影響は絶対に出る。分からないなら調査してください」と厳しく注文を付けた。  この会議の様子を聞いた国交省の藤田耕三事務次官らが静岡県庁を訪問、国主導で、静岡県、JR東海との会議を調整する「3者協議」設置が決まった。  その後、いろいろあって、国交省は今年になって「新有識者会議」を提案した。その提案に対して、静岡県は「新有識者会議」受け入れの前提として、5条件(①会議の全面公開②議題は県の求める47項目③会議の目的はJR東海への指導④委員は中立公正を旨として、県の専門家部会長も参加すること⑤会議の長は中立性を確認できる者)を求めた。 「新有識者会議」から「事前協議」へ  「新有識者会議」について、静岡県が5項目の条件を付けたことに対する「事前協議」が6日、水嶋智鉄道局長と難波副知事らによって「非公開」で行われた。終了後、記者会見が行われ、7日付中日新聞は「事前協議」の長期化の可能性を指摘した。いつになったら「新有識者会議」が発足するか見通せない状況なのである。  7日付中日は、分かりやすいように「リニア着工までの流れ」を図解した。この図によると、「事前協議」が終わると、JR東海と県の専門家による「有識者会議」で最も議論の的になっている「トンネル湧水の全量戻し」「大井川下流域の地下水への影響」を評価する「国交省の新有識者会議」が方向性を見つける。  その後、国、県、JR東海の「3者協議」で着地点を見つける取り組みを行うことで、静岡県の「有識者会議」が納得するような結論が得られるようだ。静岡県は大井川中下流域の市町長らに諮り、合意が得られれば、JR東海と「基本協定」を締結、川勝知事はJR東海から提出される大井川地下約4百㍍のトンネル設置について河川法に基づいた許可を出す段取りだ。これでようやく、JR東海はリニア南アルプストンネル静岡工区の建設に「着工」できる。  「3者協議」がとん挫したままであり、「新有識者会議」は「事前協議」の段階である。  中日は「事前協議も長期化する可能性がある」と書いた。県は14日までに国交省の提案を受け入れるのかどうか回答するが、難波副知事は環境省など他省庁の参加、47項目すべてを議論対象に求め、「ゼロ回答ではない。全然ダメな内容でもなかった」などと述べたから、中日の予測通り「長期化」も考えられる。  「事前協議」が長期化すれば、何のための「新有識者会議」なのか、やはり、屋上屋という批判が出てきそうだ。 「シンプルに問題を考えてほしい」  県、鉄道局の「事前協議」が行われた6日、静岡新聞朝刊は昨年10月の「3者協議枠組み案」での国交省”地元軽視”を取り上げた。「地元の理解を得るのが条件」という文言を「地元の理解を得るのに努める」に変えたことで紛糾した経緯を蒸し返している。  よりよって、「事前協議」の日に国交省が”公平公正”ではない疑問を抱かれることになった「3者協議枠組み案」を話題にしたのである。  「新有識者会議」設置のための「事前協議」もいいが、国交省が設置を求めた「3者協議枠組み」の合意書はどうなってしまったのか?県は「地元の理解を得るのが条件」を決して譲ることはないだろう。合意書案のまま宙に浮いている。国交省はJR東海側で早期のリニア着工へ向けてさまざまな打開策を講じたいのだが、その思惑通りに行っていない。  そんな中で、1月20日、リニア問題に関して川勝知事と10市町長の意見交換会が静岡県庁で開かれた。冒頭のみ「公開」で、川勝知事は①(大井川の)水一滴も失われてはならない、②47項目の論点について公開の場で納得いくまで議論していく、③国交省から提案のあった新有識者会議についてどのように返事をするのか意見を聞きたいなどと話した。その後は「非公開」だったため、各首長のどんな意見が出されたのか知らされていない。  1月28日の知事会見で、川勝知事は牧之原市の杉本基久雄市長、吉田町の田村典彦町長の印象的な話を紹介した。吉田町は地下水にすべて依存しているので、もし、地下水に何かあれば吉田町は全滅するという意見だった。田村町長から直接、聞いた話では、地下水に影響が出てくるのは30年後の可能性もあるという。遠い将来、孫子の世代に笑われないような政治家でありたい、と田村町長は述べていた。地下水の影響は30年後を想定しているのだから、JR東海とはかみ合わないのだろう。  たった2週間のリニア問題を巡る動きを見ても、何が何だか分からない方向で議論が進んでいる。「事前協議」「3者協議」「県の有識者会議」「国の新有識者会議」を追うだけでも大変だ。田村町長は知事との意見交換会で「シンプルに問題を考えてほしい」と注文したという。「もし、水を全量戻すことができないならば、トンネル工事はやるべきではない。う回すればよい」。そう考えれば、何だか分からない「無期限に補償」が出てくる余地はなくなる。 ※タイトル写真は、静岡新聞2月8日付「水補償請求期限設けず」の写真