ニュースの真相

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リニア騒動の真相92難波副知事「ダブスタ疑惑」2

静岡新聞の素晴らしい記事とは?  7月29日付静岡新聞で長野県大鹿村を取材した『大井川とリニア 県外残土の現場から』のワッペンが付いた連載企画が始まり、『豪雨災害の懸念拭えず』という大きな見出しがついた。記事内容は相変わらず、都合のいいように会話の断片を取捨選択していた。「川沿いに盛り土を造って大雨の時に崩れないのか」「崩壊地の末端に盛土工をするのは本来は良くない」「地滑りの危険と隣り合わせの地域。安全対策と住民への説明を徹底してほしい」など、静岡新聞読者にリニア工事の不安を煽ることが目的のようだ。(写真説明には、「豪雨災害を経験した住民の中には工事に慎重な人もいる」とあるから、実際、村人のほとんどが地域の生活改善につながるリニア関連工事を望んでいることがはっきりとわかる)  今回の熱海土砂災害で、豪雨災害の危険が予測される地域に住んでいた人たちに責任の一端があると批判する記事と同じである。一度、幸田文『崩れ』(講談社文庫)を読むべきである。「なんと日本中には、崩壊山地が多いことか。あっちにも、こっちにも崩れだらけ」「唖然というか、呆然というか、それは確かに日本という国は、せまく細長いからだへ背骨のような山並がつらなっていて、だから川は急流が多い」「こんなに崩れが多いとは、途方もないことだと思った。ひどい国なのだなあ」(『日本三大崩れ』の安倍川源流部の大谷崩れを見たあと、幸田文の素直な感想が書かれている)。そんなひどい場所にわたしたちは住んでいる。大なり小なりの危険地域に住むのは日本人すべての宿命であり、険しい山間地に住む人でも文化的で、幸福な生活を望んでいる。静岡新聞記事は、自分たちは安心、安全な都会からやってきて、「ここはひどい場所だなあ」と高みの見物を決め込むようなものである。  がっかりして、紙面を閉じようとして、ふと、その隣の面を見ると、びっくりするような素晴らしい記事(事実をありのままに書くこと)が掲載されていた。読者の投書欄である。磐田市の文筆家伊藤寿克さんがリニア問題について、静岡新聞記者とは全く違う視点で”事実”を見極めていた。  『(前略)リニアは、静岡県に利点がないというけれど、リニア沿線を見ると、山梨県駅(甲府市)へは富士駅からJR身延線でたどり着ける。長野県駅(飯田市)には北遠地域が沿線のJR飯田線で行くことができる。静岡県民もリニアの利用は可能なのである。  リニアが開業すれば東部や伊豆地域、浜松市天竜区は移住を希望する人が増えてくる可能性もある。若い世代が減少し過疎化が進む地域の活性化に、リニアは起爆剤として必要な交通手段だ。県当局に方針転換を求めたい。  国土交通省は専門家会議を設置し、水問題の解消へ死力を尽くしている。掘削工事の技術は日進月歩で向上している。県はJRを信じてほしい。日本の経済成長のために、リニア沿線自治体と共同歩調を取ってほしい。県民を肩身がせまい思いから解放してほしい。』  熱海の土砂災害で山梨、長野の両県だけでなく、リニア沿線各県からさまざまな支援を受けている。いまこそ、リニア沿線自治体の声をちゃんと聞くべきである。静岡新聞は、読者の投書記事に救われた。 山梨の人たちは富士山を「貧乏山」と呼んだ  山梨、静岡の違いを紹介する。   山梨、静岡の両県の富士山麓に生活する人たちにとって、富士山の環境保全は共通の認識である。ただ、その「保全」の意味は全く違う。1993年当時、世界で最も傷ついた「国立公園」富士山を世界遺産として保全、富士山の環境問題解決を推進する活動に取り組んだ。そこで、山梨、静岡の人たちの考えがいかに違うのかを何度も目の当たりにした。  2001年6月に出版された『富士を眺める山歩き』(山村正光著、毎日新聞社発行)を読んで、ああそういうことか、と納得させられた。  著者は、富士山を「貧乏山」と呼び、広大な富士山の裾野で暮らす山梨の人たちに、富士山は何のメリットもなく、どんな思いで富士山と接していたのかを紹介している。  『あの山の反対側は、静岡の人たちは、南側で太陽をいっぱい浴びて、海では魚がとれ、作物も樹木も豊かだ。それに比べ、こちらの北側は何ともあわれだ。土地はやせ、作物はとれない。水も不便だ。日陰で寒くてかなわない。あの山は厄山だ。あの山のおかげで、オレたちは貧乏している。何が霊峰だ。三国一だ。あんな貧乏山は噴火でふっとんでしまえと、怨嗟の声の日々であった』(『富士を眺める山歩き』前文)  その後、交通の便がよくなって、観光で山梨県の富士五湖はじめの富士裾野に多くの都会の人たちがやってきた。富士山は「貧乏山」から「金儲け山」に変わった。5合目の観光施設、頂上まで続く数多くの山小屋、湖上に屋形船、ボートを浮かべ、食い物屋、お土産屋、旅館、ホテル、別荘と無計画に際限のない商売が始まった。いままでの「貧乏」をすべて取り返す勢いだった。  だから、世界遺産指定は商売の邪魔になる。観光業者だけでなく行政も反対に回った。その後、「環境保全」が時代のすう勢となり、世界「文化」遺産ならば、非常に緩い規制で「称号」を得ることができる、我慢してくれ、と説得される。当然、世界遺産にふさわしい規制強化は絶対反対である(一番分かりやすいのはオーバーユースを抑える「入山規制」)。山梨に住む人たちの生活から、自分たちとは全く違うことを実感した。  リニア計画でも山梨、長野の人たちは早期の実現を望んでいる。そんな思いにどのようにこたえるのか、東海道新幹線の便利さを享受してきた静岡県民はそろそろ考えたほうがいいと、伊藤さんは「日本の経済成長のために、リニア沿線自治体と共同歩調を取ってほしい」と書いた。実際は、「貧乏山」の山梨、長野、岐阜など沿線各県はリニアによる経済成長に期待する。  静岡新聞記者はわざわざ山梨、長野などへ行くのならば、そのような声にちゃんと耳を傾けるべきだった。 熱海土砂災害の議会答弁に立たなかったのは?  30日の県議会一般質問に土砂災害に遭った熱海市の藤曲敬宏県議が立った。質問の(1)行方不明者の捜索と被災地域の安全・安心の確保については、県警本部長が答えた。(2)伊豆山地区の二次災害の発生防止と社会インフラの復旧には川勝平太知事、(3)避難所から仮設住宅への早期移転には出野勉副知事が回答。(4)被災地熱海の行政サービス継続に向けた人的支援には、危機管理部長、(5)熱海観光地の復興に向けた取り組みは、スポーツ・文化観光部長がそれぞれ答えた。川勝知事はじめ、それぞれ簡潔だが、的確に答えていた。質疑、5人の回答などすべて合わせて約30分だった。  はて、今回の熱海土砂災害対応の中心となった難波喬司副知事は現地に緊急に赴いて、議会を欠席したのか?そんなことはなかった。当局の一番前に座っていた。なぜ、難波氏が答弁に立たなかったのか?  7日(2時間半)、8日(30分)、4日(2時間20分)、13日(2時間20分)、14日(3時間20分)、15日(1時間10分)に記者会見を行った。カッコ内は、難波氏の会見時間であり、周囲には難波氏ひとりが熱海土砂災害の対応に当たっている印象を与えた。難波氏は、「盛り土」崩壊のメカニズムがほぼ分かったとして、2次災害の発生防止、風評被害の防止を主眼として説明を行い、記者の質問に詳しく答えた。ところが、大胆な「仮定」に基づく、推論あるいは推定であり、「断定」は少なかった。これでは記事にならないから、記者たちの評判は悪かった。ただ、何時間も掛けて会見をやっているから、遠く離れた東京のメディアによる難波氏の評価は上がった。  内容の点で唯一、評価できたのは、県リニア会議の塩坂邦雄専門部会委員のプレス発表が、「誤り」であり、「不適切」と「断定」したことだった。ところが、その後、塩坂氏の名誉を傷つけたとして難波氏は”珍妙”な謝罪をした。塩坂氏のプレス発表が風評被害を招くと「断定」したのに、名誉を傷つけた謝罪の理由はいまだ不可解である。  連日にわたる長時間の会見について、難波氏は「担当部長が会見すべきかもしれないが、土木技術者であり、わたしの専門分野である」などと述べ、なぜ、副知事が会見を担当するのかを明らかにした。ところが、そうなると、県議会で答弁に立たなかった理由はおかしくなる。知事よりも難波氏は専門家であるのだから、二次災害発生防止等について、わかりやく議員に説明すべきだった。  崩壊メカニズムの推論は、メディアに任せて、行政はすべての行方不明者の捜索が終えたあと、「断定」のための調査に入ればいいのだ。さらに重要なのは、県内の不適切な「盛り土」をチェックして、再発防止に当たるべきだろう。  今回の知事らの答弁を聞いていて、十分、分かりやすかった。「仮定」に基づいた推論を行うことよりも、県民(記者)が求めていたのは、県議会で行った担当部長らの答弁だろう。  難波氏の記者会見と知事らの県議会答弁にも、難波氏による「ダブルスタンダード」が見えてくる。 「科学的根拠が分かっていない」のは?  難波氏は26日の「大井川の清流を守る研究協議会」(流域10市町の首長と議長で構成)の会合(非公開)に出席、会合後の囲み取材の様子が静岡、中日の2紙に報道された。  静岡新聞の報道では『難波副知事が問題視したのは、JR東海の金子慎社長が記者会見でトンネル湧水が県外に流出しても中下流域の水利用に支障がないなどと発言した点。「(同社の)トップが科学的根拠を分かっていないのに『影響がない』と言い切っている」と批判した。  社長の発言の根源には同社の企業体質があるとの見方も示し、「組織文化が変わらない限り対話は進まない。説明を変えないといつまでたっても解決しない」と断言した。』。ここでは「推論」ではなく、「断言」したようだ。  金子社長は単に、国の有識者会議の中間報告案を述べたにすぎない。国の有識者会議の結論は、「トンネル湧水が県外に流出しても中下流域の水利用に支障がない」となるはずだ。難波発言は中下流域の首長らに向けての発言かもしれないが、『科学的根拠を分かっていない』のは難波氏ということになってしまう。なぜ、JR東海の企業体質、組織文化批判になるのか、これは為にする発言でしかない。  実際の落としどころをどこにするかなど政治的な問題は、川勝知事が決めればいい。難波氏がこのような発言をしてしまえば、科学的、工学的に議論する国の有識者会議をないがしろにすることであり、熱海土砂災害対応で「専門家」と称すること自体が疑わしくなる。  いずれにしても、難波氏の発言を聞くと、熱海土砂災害とリニアの「ダブルスタンダード」対応がはっきりとわかる。『県民を肩身がせまい思いから解放してほしい』という声にちゃんと向き合うべきだ。  ※タイトル写真は、熱海土砂災害対応で答弁する川勝知事

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リニア騒動の真相91難波副知事「ダブスタ」疑惑?

難波副知事”謝罪”の意味は?  7月22日付東洋経済オンラインに難波喬司副知事が、7月9日付静岡新聞夕刊1面トップ記事に激怒した記事をリニア問題との関連で紹介した。静岡県、リニアと熱海土砂災害で「ダブスタ」疑惑 | 新幹線 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)  難波氏が激怒した理由は、県リニア会議地質構造・水資源専門部会委員で株式会社サイエンス技師長の塩坂邦雄氏が9日午前、静岡県庁で記者会見を行い、熱海土砂災害で人為的な開発による「河川争奪」があったとする独自の見解を示したことだ。難波氏は同日夕方、静岡新聞夕刊を読んで、塩坂氏のプレス発表内容が「誤り」であり、プレス発表を事前に静岡県に報告しなかったことは「不適切」などと批判した。  後日談とも言えるが、難波氏があれだけ「誤り」「不適切」と批判したのに、毎日新聞が翌日(10日)朝刊地方版トップで塩坂氏の記者発表をそのまま記事にしたのには、ずっこけてしまった。塩坂氏のプレス発表を盲目的に信用しての報道かもしれないが、難波批判をひと言も取り上げない記事では、記者の資質に疑問符がつくだろう。メディアはどこも、塩坂氏への難波批判から、この関係の記事を取り上げなかった。となると、塩坂氏は静岡新聞、毎日新聞の大きな記事を見ただけであり、難波批判など全く知らなかっただろう。  記憶にある限り、難波氏が塩坂氏を批判するのは初めてのことである。県のリニア会議に関連して、塩坂氏の「不適切」な発言や行動が繰り返されているが、難波氏は黙認している。今回の「熱海土砂災害」がリニア問題にも影響を及ぼす可能性があると関係者は予測していた。そんなときに、塩坂氏への難波批判が飛び出したのだ。  東洋経済新報社の大坂直樹記者がわたしの原稿を手直しをして、『静岡県、リニアと熱海土砂災害で「ダブスタ」疑惑』という見出しをつけてくれた。「ダブスタ」?、ネットでは〇〇〇疑惑がキーワードになっているだけに、何だろうか?とつい、難波氏の会見写真=タイトル写真=をじっと見てしまった。  難波氏による『ダブルスタンダード(二重基準。熱海土砂災害と違い、リニアでは塩坂氏の”お騒がせ発言”に難波氏が目をつむっていることを指す)』疑惑であり、大坂記者は、ちょっと長いので「ダブスタ」疑惑と略したのだ。何だ、そうだったのか。  また、県政記者が「難波氏が15日になって、塩坂氏の名誉のために謝罪したのも、今後のリニア会議のことがあるから」と指摘した。前回の『リニア騒動の真相90大丈夫ですか?難波さん』とは全く違う見方があるものだとやはり、感心させられた。  写真ひとつとっても、”真実”を見分けるのは非常に難しいようだ。 「新しいデータ出せ」を迫る県専門部会委員たち  塩坂氏の「地下ダム」発言が登場した、2019年9月12日の県地質構造・水資源専門部会はあまりに異様だった記憶がある。  「リニア騒動の真相」では、9月16日付『「筋違い」議論の行方』という題名で取り上げている。「ダブスタ疑惑」記事では、塩坂氏の「地下ダム」発言を批判した。  2年前の『「筋違い」議論の行方』でも、「地下ダム」を取り上げた。『「地球温暖化で将来、降水量が12~13%増えると予測されている。この予測に沿った大井川の将来像を示せ」、「水環境のために西俣川に地下ダムを何カ所かつくればいい」などさまざまな専門家の要請』とあるから、塩坂氏らは、リニアとは関係の薄い無謀な要請をしている。  「熱海土砂災害」報道で難波氏の塩坂批判があってから、議事録で「地下ダム」を確認すると、塩坂氏は「目先の代償措置では生態系を守れない。地下水枯渇の代償措置として地下ダムの説明をした」などと述べ、「地下ダムを考えるのか、そうでない場合は代替案を示すべき」とJR東海に迫っていた。まあ、いま考えれば”珍妙”以外の何ものでもない。  ただ、2019年9月12日の会議は、塩坂氏の「地下ダム」発言が目立たないほど、県地質構造・水資源専門部会委員らの発言すべてが、常軌を逸していたから「筋違い」と指摘したのだ。  12日付静岡新聞夕刊1面トップ記事は『リニア水問題 「JRの地質調査不十分」県連絡会議専門家ら見解』の見出し、翌日の13日付静岡新聞朝刊1面トップ記事も『リニア水問題 県とJR協議継続 連絡会議 データ、資料不足』の見出しであり、JR東海が提出した県の中間意見書に対する委員からの不満続出を伝えた。  静岡経済新聞では、『12日の会議では「基本的なデータはすべて既存のものであり、新しいものではない」「畑薙山断層での鉛直ボーリング調査をやるべき」(塩坂邦雄委員)、「畑薙山断層西側でも3百メートルの断層がある。そこでも鉛直ボーリングをやるべきだ」「鉛直ボーリングを何本かやれ」(丸井敦尚委員)、「データを取る前に既存データの解析が行われていない」「新しいデータを出せ」(大石哲委員)など委員すべてが、「新たなデータ」を求める議論に終始した』と伝えている。「新しいデータ」がない限り、専門部会委員は議論はできないと言っているようなものだ。  『JR東海は南アルプストンネル近くの西俣非常口ヤード付近で鉛直ボーリングを行うことを明らかにしている。しかし、通常、鉛直ボーリングを行い、データをそろえるためには半年以上掛かる。となると、当然、委員らが求める科学的議論の場は新しいデータを得た上で行うことになる。この点を専門部会の会議をまとめる森下祐一部会長に尋ねると、「専門部会としては鉛直ボーリングの結果が分からなくても許可を出さないわけではない」。その答えに愕然とした。あれだけ「新しいデータを出せ!」と言っておいて、必ずしも新しいデータを必要としないというのである。「狐につままれた」とはこのようなことだろう。』  こうなると、専門部会委員の役割は、とにかく、「新しいデータを出せ」とJR東海に迫ることに尽きる。会議を運営しているのが、難波氏だった。 「その発言は看過できない」の発言者は?  この会議のほぼ1カ月前、2019年8月20日に、同部会長の森下祐一静岡大学教授(当時)とJR東海との意見交換会が行われた。  この意見交換会では、オブザーバーであり、意見を言うべき立場にない難波氏が、JR東海が山梨側からのトンネル工事中に湧水が流出することに触れたのに対して、「全量戻せないと言ったが、認めるわけにはいかない。利水者は納得できない。その発言は看過できない」など厳しく反発、紛糾した。ああ、やっぱり、難波氏が会議の方向性を決めていた。  会議の後の囲み取材で、難波氏は「湧水全量が返せないことが明らかになった」などと述べた。翌日、21日付中日新聞、静岡新聞ともそろって1面トップで『JR「湧水全量は戻せず」 副知事反発』(中日)、『「湧水全回復一定期間困難』JR認識、県は反発』(静岡)などメディアは「湧水全量戻せず」のほぼ同じ内容の記事を大々的に報じた。  かくて、難波発言によって、「水一滴」議論がスタートした。  新聞報道から2日後の23日定例会見で、川勝平太静岡県知事は「湧水全量戻すことを技術的に解決しなければ掘ることはできない。全量戻すのがJR東海の約束だ」など「(静岡県の)水一滴」でも県外へ流れ出すことを容認できない方針を示した。当然、新聞、テレビは知事の「水一滴」発言を大きく取り上げた。  実際には、JR東海がそのような約束をしたわけではないことは静岡経済新聞の2019年8月26日『リニア騒動の真相13「水一滴」も流出させない』で伝えている。詳しいことを知りたい読者は、この記事をご覧ください。  シェークスピア『ヴェニスの商人』に登場する「血の一滴」にも等しい無理難題を言い出したのは、難波氏だったのだ。 2019年10月4日の異様な会議を演出したのは?  そして、この2つの会議を経て、2019年10月4日の県地質構造・水資源専門部会の「トンネル湧水全量戻し」を議論する会議が開催された。  会議は、静岡工区のトンネル掘削は山梨、長野両県とも上り勾配で施工するため、先進坑が貫通するまでの間、山梨県側へ最大で約0・15㎥/秒(平均0・08㎥/秒)、長野県側へ最大で約0・007㎥/秒(平均0・004㎥/秒)流出することがトンネル工法上、やむを得ないのかを議論するのが目的だった。10カ月間で山梨県側2百万㎥、7カ月間で長野県側10万㎥の合計210万㎥流出することになる。流出を止めるためには、静岡県側から下り勾配で掘削するしかない。JR東海は作業員の安全のために下り勾配の掘削はできない、と主張してきた。本当に下り勾配の掘削ができないのか、もし、上り勾配の工法しかないならば、湧水流出をおさえる代替工法の検討をしたのかどうかの説明をJR東海に求めた。  このために、静岡県はトンネル工学の専門家、安井成豊・施工技術総合研究所部長を招請した。ところが、会議では安井氏の存在はほとんど無視されてしまった。安井氏が発言を続けようとしても、さえぎられてしまう場面さえあったのだ。  それよりも何よりも、会議が始まるや否や、突然、県の事務方が『トンネル湧水の処理等における静岡県等の疑問・懸念事項』という一枚紙を出席者全員に配った。  「9月13日の意見交換会において、JR東海がトンネル工事中の表流水は減少しないといった内容の説明をしていましたが、私たちが問題にしているのは、トンネル近傍河川の表流水だけでなく、地下水を含めた大井川水系全体の少量です」と記されていた。何だ、これとの印象を持った。せっかくの会議をぶち壊すのが目的以外の何ものでもない。  会議後の囲み取材で、難波氏は「JR東海はまともに対話する資質があるのか問いたい」などと批判のボルテージを上げた。県作成の一枚紙「地下水を含めた大井川水系全体の少量という水環境問題」の認識をJR東海は共有していなかった。実際には、認識を共有する必要性は乏しいはずなのだが、県は矛先を変えて、JR東海を批判した。  いま考えれば、すべて難波氏の戦略だったのだろう。  県専門部会の位置づけとは何かを知る上では、2019年8、9、10月の会議をじっくりと検証したほうがいい。専門部会委員の”乱暴な発言”がはっきりとわかる。  熱海土砂災害「崩壊メカニズム」を説明するという目的で、2021年7月7、8、9、13、14、15日に連続で行われた難波氏の記者会見を検証することにも通じる。難波会見に対する県政記者たちの批判は大きいからだ。  まあ、それでも、収穫なのは、難波氏による「誤り」「不適切」の塩坂批判を取り消すことはできないことだ。これから、リニア会議での塩坂発言の「誤り」「不適切」をちゃんと把握した上で、国交省は県の利害関係人である塩坂氏の県専門部会員辞任を求める動きにつなげたほうがいい。  そうしなければ、国の有識者会議で、沖大幹東大教授ら専門家が丁寧に議論して、中間報告にまとめる結論でさえ、県の専門家?による、”珍妙”ないちゃもんですべてこなごなにされてしまう可能性が高いのだ。

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リニア騒動の真相90大丈夫ですか?難波さん

難波副知事が塩坂氏に謝罪した?  7月4日に発生した熱海土砂災害のあと、難波喬司副知事の会見が7日から連日のように始まった。会見時間が異様に長いのが特徴だ。7日(2時間半)、8日(30分)、9日(2時間20分)、13日(2時間20分)、14日(3時間半)、15日(1時間10分)で、2時間超の日が多く、これだけでも難波氏の頑張りが伝わる。  ただ、内容は非常に分かりにくい。「不安の軽減と風評被害の軽減のために、確定又は確度の高い情報なのか、推定情報なのかを行政の責任において判断し、積極的に情報発信(行政の動きが分からないこと、多くの不確定情報が飛び交うことが不安を増大させる)」という基本を踏まえ、『崩壊のメカニズム』について、大胆な「仮定」に基づく「推定」あるいは「推論」を行っているからだ。前日と当日の会見内容が違っていたり、複雑な内容に記者の理解が追いついていない。記者の同じような質問に、難波氏は的確に答えず、言質を取られないよう曖昧な表現に終始する。だから、時間が掛かる。会見は県庁HPから外部サイトにリンクして、ユーチューブで見ることができる。  13、14の両日の記者会見に参加した。9日の難波氏の発言内容を確認するためだった。『リニア騒動の真相89静岡新聞1面記事の”誤報” https://shizuokakeizaishimbun.com/2021/07/11/rinia89/』を伝えた。県のリニア会議地質構造・水資源専門部会の塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)の発表内容が「誤り」である、という難波氏の指摘の通りであれば、塩坂発言は”お騒がせ”以外の何ものでもない。塩坂発言に疑いを持たず、そのまま掲載した新聞報道の在り方にも疑問を投げ掛けた。  難波氏がいまでも9日と同じ考えなのか確認したかったのだ。  14日の会見で質問した。難波氏は「その(塩坂氏の)指摘が正しければ、(「盛り土」付近の崩落個所がある)裏山が落ちるかどうか警戒しなければならない。チェックしたが、裏山がごっそり落ちることはない。捜索活動への2次災害防止のための緊急対応が重要であり、原因解明はいまやるべきことではない。報道を見た人は不安になる。発信するのは(しっかりと)解明してからにしてください」などと述べ、9日の発言とほぼ、同じであることを確認した。  塩坂氏の独自見解である人為的な開発による「河川争奪」は、難波氏らが現地調査を行った結果、そういう事実はなかったと断言した。つまり、逢初(あいぞめ)川の「流域(集水域)」拡大の事実は現時点ではありえないとのことだ。  ところが、16日静岡新聞朝刊を読んで驚いた。『地質専門家の塩坂邦雄氏の主張を批判したことについては(難波氏は)「情報の重要性を適切に評価していなかった。塩坂氏の名誉を傷つけた」として謝罪した』とあった。15日の会見には参加していなかったため、”難波氏の謝罪”を全く知らなかった。  その後、何か重大な事実でも見つかったのか? 地下水の動きを指摘したわけではない  15日午後4時半から始まった約1時間10分の「難波会見」をユーチューブで確認した。会見開始後すぐに、難波氏は『7月4日、塩坂邦雄氏が独自調査で解析、現在の流域とされている上部にある標高の高い部分を考慮すべき、有力な情報を直接、もらった。記者会見で塩坂氏の有力な情報を評価せず、結果として、塩坂氏の名誉を傷つけた、ということを心からおわびする』と述べ、その上、記者たちとユーチューブのカメラを前に丁寧に頭を下げた。  「地下水の動きは分からない。あとで重要な情報であるとわかった」と言う。『地下水の動き』が新しい事実のようだ。ただ、どうもそれだけでは意味がよく伝わらない。  15日の会見では、建設コンサルタント会社の東日(本社・沼津市)など民間による無償の協力などに感謝のことばを述べるなど、ふだんの内容とは違っていた。その一環の中で、塩坂氏の調査にも感謝していると述べたかったのか。ただ、それだけではないようだ。  まず、9日の会見を振り返ってみる。  9日の会見では、難波氏は逢初川の流域図を示して、その中の赤く塗られ、ひし形の崩落した逢初川流域図の上部地域を示して、『この辺りの水が入っているという話が(4日、塩坂氏から)あった。「そうですか、それは大変ですね。その状況が確認できたら、私に教えてください」と申し上げた。それは我々はここの安全性に対して責任を持っているからだ。しかし、それを我々に説明することなく、県に説明することなく、ここに6倍の水が入っている話を(記者会見)するなんて非常に不適切だ。それははっきりと申し上げておきたい』などと”激怒”していた。  ところが、15日の会見では、この会話部分に「重要な情報があった」としているのだ。  新聞報道によると、塩坂氏の指摘は、逢初川北側の鳴沢川に流れ込むはずの雨水が「河川争奪」によって、逢初川に流れ込んだ。つまり、逢初川の流域が4万㎡から25万㎡に拡大したと説明した。だから、難波氏は「はっきりと申し上げて、”誤り”」と断言した。ここに地下水の話はどこにも出てこない。  そもそも、「河川争奪」をしたとされる鳴沢川の流域が21万㎡かどうか、全く分からないのだ。2級河川の逢初川は県管理だから、流域図を作っているが、普通河川の鳴沢川は熱海市管理であり、県担当課に問い合わせたが、「流域図はない」との回答だった。つまり、流域図さえ定かでない鳴沢川に関する調査であり、「河川争奪」がないことを確認したならば、原因解明はあとからやればいい、と難波氏は主張、塩坂氏の発表を批判したのではなかったのか?  何かおかしい。 難波氏の謝罪は儀礼的なもの?  15日の難波会見をすべて確認した。「塩坂氏の指摘は表流水が鳴沢川へ行っているか、逢初川へ行っているかという指摘だった。それは、ここの現象だけをとらえれば、そんなことはない。表流水だけを見れば、熱海土木事務所が行って確認した。ところが、よく考えてみると、地下水がどうなっているのか分からないので、ひよっとすると、微妙な、(崩落部分より)上部地域の地下水がここに入ってきている可能性はある。  塩坂氏はここに(上部地域)注目したほうがいいですよ、という情報提供だと理解すれば、私がそこをよく分かっていなかった。そこはしっかり訂正して、おわびを申し上げたい」  塩坂氏の指摘は間違っているが、塩坂氏が指し示した場所は注目するのに値するという。何とも不思議な説明である。  塩坂氏は造成で尾根を平らにしたことで、「河川争奪」が起きたと説明していた。難波氏は「(造成などの)開発行為は関係ない。風評被害の恐れがあるのでしっかりと対応しなければならない」とも答え、塩坂氏の”人災”の指摘に、風評被害を招くから「不適切」と批判もしている。  「(9日に)不適切だとあれだけ言っておいて、いまさら、お詫びですか」という記者の鋭い質問に、難波氏は「誤った対応があるのでお詫びしたが、ただ」と始まった。「塩坂氏のことを言うと、また、名誉を傷つけることになるので、いい加減にしないといけないが、昨日まで私が問題にしていたのはプレス発表をしたことだ。最初の鳴沢川の水が逢初川に入っているという(「河川争奪」の)情報を確認したが、正しくはなかった。(それをそのままプレス発表したことで)鳴沢川流域の人たちに不安をもたらし、宅地造成していた人たちの責任を問題にした。不確定の段階で情報を出すと風評被害をつくる可能性がある」と、やはり、塩坂氏のプレス発表を批判したのだ。  そのあと、難波氏は「塩坂氏はここ(上流部)を見ないとダメだという情報だった。その情報の大事さを見過ごしていた」と謝罪の意味をあらためて説明した。これは単なるこじつけであり、記者たちに不思議な印象だけを残した。  塩坂氏は地下水の専門家ではない。塩坂氏が「ここを見なくてはダメだ」と言ったのも、難波氏が否定した「河川争奪」の指摘をしたかったからではないか。  だから、「不適切」だとする難波氏の主張はいまも変わらない。そうなると、難波氏の謝罪は本心からではなく、記者会見で塩坂氏を批判したことに対する儀礼的なものに過ぎない。なぜ、そんなことをしなければならなかったのか? 一体、なぜ、難波氏は不思議な謝罪をしたのか?  難波氏は、地下水が影響していると言いながら、いまのところ、その量などは全く分からない、と答えていた。  9日の会見で、難波氏は、今回の崩壊の原因のひとつに、「長雨蓄積型」の降雨を挙げていた。2019年の台風は、約300ミリの降雨があり、狩野川の決壊をもたらしたが、熱海の「盛り土」付近は崩壊しなかった。7月1日から3日までの降雨は総雨量約500ミリに達して、崩壊を招いた。当然、どちらの場合にも逢初川の流域には、上部から地下水が流入していただろう。となると、地下水の影響が今回の崩壊を招いた直接の原因ではないことになり、大きな要因と言えないかもしれない。  当然、地下水の専門家でもない塩坂氏は「流域」上部を指し示して、その辺りの地下水が崩落を起こした「盛り土」付近に流入していると話したわけではない。難波氏によれば、単に「ここを見ないとダメ」と言っただけである。  考えれば分かるが、いくら地山が堅固だとしても、土石流の起点となったのは岩戸山(標高734m)の中腹、標高約400m付近の斜面(「盛り土」付近)に、地下水の流れが全くないと考えるほうが理解に苦しむ。地下水については、原因解明の段階に入ってから、ボーリング、水脈、測量などの調査を行うと決めていたのだろう。地下水量がどのくらいか山肌を見て大雑把には理解していて、2次災害に備えていたはずだ。いくら何でも、塩坂氏に言われるまで、専門家の難波氏が地下水を問題外にしていたとは信じられない。  さて、そうなると、なぜ、難波氏は不思議な謝罪をしたのか?  「情報を出すのは個人の勝手だ」(難波氏)と言いながら、塩坂氏が県に何の報告もなく、プレス発表したことに難波氏は激怒してしまった。  週刊誌情報では、熱海の土砂災害では、産廃の混じった不適切な「盛り土」を行った前地権者は同和関係者であり、10年前にその土地を購入した人物は島田市の住職のいない寺院代表責任者となり、熱海市に別院をつくっているという。すべて県の手続きが関係する。  塩坂氏がどのような人物かは知らないが、内容の誤った不適切なプレス発表を批判した副知事に、頭を下げさせるほどの謝罪を求める何らかの”強い力”を持つようだ。大丈夫ですか?難波さん ※タイトル写真は、14日に会見した難波副知事

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リニア騒動の真相89静岡新聞1面記事の”誤報”

リニア専門家の見解を1面トップ記事にした静岡新聞  静岡新聞は9日の夕刊で、リニア問題を議論する静岡県中央新幹線環境保全連絡会議地質構造・水資源専門部会の塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)が発表した熱海の大規模土石流の起点地域で大崩壊に至ったメカニズムを伝えた。記事では「逢初(あいぞめ)川上流部の盛り土について、付近に造成された道路から雨水が断続的に流れ込み、大量の水を含んで崩壊に至った可能性がある」ことが塩坂氏の調査で明らかとなり、「人為的な流域変更で、盛り土周辺に向けて雨水が集まる面積は約6倍に広がっていたとみられる」と塩坂氏の新見解を前文で伝えた。  本文では、塩坂氏が4、6日に現地調査を行い、開発行為によって、人為的な盛り土があった約4万㎡の集水域だけでなく、雨量が一定以上になった際は盛り土のあった北側の尾根を越えた斜面約21万㎡も集水域であることを確認したという。合計約25万㎡もの集水域から大量の水が盛り土付近に流入したため、大規模な土石流を起こしたのだという。  『塩坂氏は「本来の集水面積から、これほどの大災害になるのか疑問があった」とした上で、「結果的に分水嶺を超えて造成が行われており、人為的な河川争奪(河川の流域の一部分を別の川が奪うこと)が起こった。あってはならないことだ」と述べた。』という塩坂談話を掲載した。  通常、メディアが専門家の新見解などを記事にする場合、専門分野の権威者の評価を求める。この記事では『今回の土石流をめぐっては複数の専門家が「盛り土を含めた周辺の開発行為に伴う複合的要因で引き起こされた」と推定している』とあるだけで、塩坂氏の見解に対する、権威者の評価などを求めていない。少なくとも、国、県など現在、調査を行っている行政機関のコメントを求めるのだが、それも一切なかった。  「熱海土石流 道路影響 集水面積6倍か 雨水、分水嶺を超え盛り土に 地質学者・塩坂氏が見解」の見出し、増えた集水域を含めた土砂崩壊の起点となった周辺の大きな写真とともに、塩坂氏の顔写真も掲載されていた。また、塩坂氏の見解を分かりやすく示した大きな図が付いていた。権威者や国、県などのコメントを求めず、静岡新聞記者は塩坂氏の調査を全面的に信頼したから、夕刊1面の大きなトップ記事としたのだろう。他の新聞は報道していないから、静岡新聞の特ダネだと思った読者が多いだろう。  しかし、その日のうちに特ダネ記事の評価は地に落ちる。 難波副知事が静岡新聞”誤報”を指摘した  難波喬司副知事は9日夕方の会見の席で、この記事を厳しく批判したのだ。  難波氏は「ある新聞(静岡新聞)を見て、驚愕した。不確定な情報で危険性を指摘するのは非常に不適切だ」など厳しい口調で、塩坂氏の新見解を問題にした上で、「流域面積に6倍もの水が入っているのは、はっきりと申し上げるが、誤りである」と強い口調で否定した。  つまり、塩坂見解は間違いであり、それを伝えた静岡新聞記事の”誤報”を難波副知事が明らかにしたのだ。難波氏が指摘したあと、原稿を書いた記者が何らかの疑問を投げ掛け、塩坂氏の正当性を訴えることはなかった。  難波氏の会見は、9日午後5時45分から始まり、「崩落のメカニズムがほぼ分かった」として、崩落の起点となった盛り土付近の状況、すぐ近くにある太陽光発電施設が今回の土石流に関係ないこと、また同施設が何らかの影響を与えないことなどを説明していった。約1時間20分の詳しい説明が続いたあと、静岡新聞夕刊に掲載された塩坂氏の見解を厳しく批判した。  「わたしはそこ(約4万㎡の集水域となる崩落の起点など)に行って、(現地の状況から)水がどう流れているのかを確認した。6倍とか7倍とかの流域面積の水がここに集まっているとは思わない。2倍の水が集まっているとも思わない。排水が適切でなくて(同所に)来ている量は、せいぜい1割を超えることはない。6倍の面積の水がここに来ているのではなく、1・1倍の水が来ている可能性はある」  「もし、6倍の水が来ているとしたら、令和元年の台風(約300ミリの雨量があった)でここは崩壊していた。令和3年の雨(7月1日から3日までで約500ミリの雨量)で壊れたのは、その雨量に耐えられなかったからだ。(だから)よそから来ている水はほとんどない。(約500ミリの雨量で)盛り土付近(約4万㎡)の総雨量を計算すると2万㎥となるが、6倍の水を集めたら、(総雨量は)12万㎥となる。そんな水がここに入っていたら、ここが保(も)つはずがない。もし、そうであるならば、崩壊する前に大水害となっている。6倍もの水が入っているのは、はっきり申し上げるが、誤りである」  「(数日前)塩坂氏からこの辺り(盛り土付近より上流域)の水が入っているという話があった。『そうですか、それは大変ですね。その状況が確認できたら、わたしに教えてください』と申し上げた。それは、我々は(捜索活動などに対する)ここの安全性に対して責任を持っているからだ。我々、県に説明することなく、ここに6倍の水が入っている話を記者にするなんて非常に不適切だと、はっきりと申し上げたい」  「調査をしてもらうのは大いに結構だが、不確定な情報で危険性を指摘するのは、不適切だ」  難波氏から丁寧な説明を聞いた記者たちは、静岡新聞の”誤報”をはっきりと認識したのだろう。会見では、記者たちはいくつかの質問をしたが、塩坂氏の見解や静岡新聞記事については、原稿を書いた静岡新聞記者を含めて誰ひとり確認の質問さえしなかった。 静岡新聞はメディアの責任を果たしたか?  難波氏の説明、質疑応答が2時間半近くに及んだあと、最後に産経新聞記者が「仮定」に基づいた「推定」なのか「断定」なのか曖昧な部分があることをただした。「先ほど、昼間の専門家(塩坂氏)の話を基にした記事の件があったが、我々の記事がミスリードすることにならないように」と釘を刺した。  「ミスリード」とは、新聞では、見出しと記事の内容が著しく異なっていることを指すが、産経記者は、「専門家の間違った説明で記者が誤った方向に読者を導くこと」で使っている。つまり、記者がそのまま言われた通りに記事を書いても、結果的に”誤報”にならないよう”事実”のみをしゃべってほしい、と要望したかったようだ。  新聞記者の仕事は、相手の話を疑うことだから、さまざまな確認を行う。さらに、新聞社には記者の原稿をチェックするデスク(役職)などを置いているが、その能力には自ずと限界がある。  ただ、今回のように記事の真偽を明らかにして、”誤報”との指摘を真摯に受け止めるならば、静岡新聞社はメディアとしての責任を果たすために、ちゃんと対応しなければならない。  ところが、翌日の10日付静岡新聞朝刊を見て、愕然とした。”誤報”を伝えた9日付夕刊紙面については「土砂成分分析 原因究明へ 県、行政手続きも調査」という見出しをつけた地味な記事の中で、小さく扱ったに過ぎなかったからだ。  記事では、難波会見の内容などに触れたあと、塩坂氏の新見解を否定したことを伝えた。  『また、地質専門家の塩坂邦雄氏が主張する、逢初川と別の流域から雨水が流れ込んで盛り土上流側の集水面積が約6倍になったとする可能性について(難波副知事が)「6倍の水が流れるような状況ではない」と指摘。「不確定な情報で不安をあおっている」と批判した。』と、前日の夕刊1面トップの特ダネ記事とは全く関係ない他人事の扱いだ。夕刊記事の訂正がどこにも載っていないから、たった12行のベタ記事で訂正に替えたのかもしれない。  前日の夕刊1面記事を読んだ人がこの記事を読んでも、何が何だか分からないだろう。静岡新聞社はメディアの責任を果たしたと言えない。 毎日新聞記者は居眠りしていたのか?  ところが、10日付毎日新聞朝刊を開いて、静岡新聞の件はぶっ飛んでしまった。目を疑ったが、地方版トップ記事に塩坂氏の発表がそのままに掲載されていたのだ。他紙の記者たちも塩坂氏の会見を取材したはずだが、当然、各紙は1行も触れていない。難波氏の厳しい批判を聞いていたからだろう。だから、一番、びっくり仰天したのは難波氏本人だったかもしれない。  静岡新聞夕刊が”誤報”であることは、難波氏の会見を聞いた記者は理解できる。だから、塩坂氏の”ミスリード”を各紙の記者たちは十分承知していた。ただ、難波氏の指摘を知らなければ、デスクや編集委員が何人いても、黙って原稿を通してしまう。いまでも、毎日新聞社内では、塩坂氏を巡る記事が問題になっていないだろう。  『熱海土石流 造成で尾根削られ 盛り土側に雨水流入 地質学者「人災だ」』という見出しに、記者会見のために作成した現地のパネルを説明する塩坂氏の大きな写真が使われていた。「小さな流域(4万平方㍍)で、なぜ土砂が滑り落ちたのかと思った。4万平方㍍に降った雨で滑り落ちるわけがない」と塩坂氏の談話を紹介した上で、「逢初川の集水域よりさらに北部にある、鳴沢川の集水域約20万平方㍍に降った雨も、盛り土側に流れ込んだと分析している」など静岡新聞夕刊”誤報”とほぼ同じ内容の記事が掲載された。  ひとつ大きく違うのは、毎日新聞は、塩坂氏の『人災だ』という主張に重きを置いたことだ。川勝平太知事はいまのところは、「天災」との見方をしている。前日の会見で、難波氏は「天候要因に人的要因が加わって大災害が起きてしまった」との見解を示した。ところが、毎日新聞は「人災だ」という塩坂氏の主張をそのままに掲載、読者はこれで「人災」がはっきりとしたという思いを強くするだろう。ただし、「人災」主張の根拠が間違いならば、これも虚偽となってしまう。  原稿を書いた毎日新聞記者は、前日夕方、難波氏の2時間半にも及ぶ会見を取材していた。難波氏から、塩坂氏への批判や静岡新聞”誤報”を聞いていたはずである。それとも、ちょうど、静岡新聞”誤報”を説明した時間に、居眠りでもしていたのか?  ただ、居眠りであれば、それでも罪は軽いかもしれない。もし、難波氏の指摘等を十分、承知した上で、塩坂氏の発表を記事にしたとしたら、これこそ”人災”である。毎日新聞記者は、塩坂見解を信用して、難波批判を退けたことになり、その理由をちゃんと説明しなければならない。もし、それができないならば、”記者失格”である。  なぜ、今回の「熱海土石流災害」の記事が「リニア騒動の真相」かと言えば、静岡新聞、毎日新聞の記者は、リニア問題の担当記者でもあるからだ。リニアの議論でも、塩坂氏のいい加減な”飛ばし”をそのまま記事にしている。これまでは県にとって、そのほうが都合がよかったのだろう。  塩坂氏が馬脚を露したことで、難波氏が面と向かって批判する側に回った。「熱海土石流災害」をきっかけに、さまざまな面でリニア問題の議論が大きく変わるかもしれない。  ※タイトル写真は9日付静岡新聞夕刊トップ記事から

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リニア騒動の真相88「責任者出てこい!」

川勝圧勝は”自民党がだらしないから”  当初の予想通り、川勝平太氏が自民党推薦候補に約33万票の大差をつけて当選、川勝県政の4期目は5日、スタートする。  6月30日に始まった県議会6月定例会で川勝氏は「(リニア問題を議論する国の有識者会議が下流域へ工事の影響がほぼないとする中間報告を出す見通しについて)JR東海が約束した湧水の全量戻しを守らないでトンネルを掘削することになる。到底納得できない」などこれまでと同じ姿勢を崩さない。「コロナ禍の中、従来の国土づくりの発想は見直されている。リニアの進め方についても一度、立ち止まって見直すべきときだ」。当選によって、今後、4年間リニア工事”凍結”となる見通しが非常に強くなった。それどころから、95万票余の民意を背景にリニア計画全体の見直しを迫っているのだ。  今回の知事選がリニアの運命を決めることくらい、国、JR東海は先刻、承知していた。ただ、こんな大差での川勝圧勝を予想もしなかったのだろう。一体全体、川勝氏がこれほどまでに選挙に強い理由はどこにあるのか?  そんな疑問に答えてくれる「コラム」が知事選のはるか前、ことし3月30日付静岡新聞に掲載されていた。  『「座長は御用学者にちかい」「(JR東海と有識者会議、鉄道局は)臭い関係。腐臭を放っている」。川勝平太知事は(3月)23日の記者会見で、県内のリニア工事を巡り、強い言葉でJR東海や国土交通省を批判した。  あえて刺激的な言葉を発して論争を巻き起こし、事態の転換を図るのは川勝知事の政治手法。悲しいことに、長く取材するうち、こちらも少々の発言では驚かない耐性ができてしまっている。ともあれ、よくまあ、物騒な言葉が次から次へと出てくるものだ。  舌禍を繰り返しながらも、選挙で圧勝を重ねて3期12年。「なぜ川勝知事は選挙に強いのか」とよく聞かれる。正直、よく分からない。自民党がだらしないから、と答えることにしている。(政治部・宮嶋尚顕)』  まさに今回、川勝氏が圧勝した理由は、静岡新聞の政治部記者コラムの通りだろう。『自民党がだらしがないから』と、炯(けい)眼の記者は鋭く指摘した。知事選の2カ月以上前、自民党はそこまで貶(おとし)められた。なぜ、奮起できなかったのか? 自民党に具体的な「公約」がなかった  川勝氏はこれまでの3回の選挙をどう戦ったのか?  2009年7月に行われた知事選は、自民推薦の石川嘉延知事の後継を決める選挙だった。当時、石川氏は68歳で5期目出馬に意欲的だった。ところが、静岡空港の立木問題で政治責任を問われ、任期を待たずに辞職した。後継候補として石川県政で副知事を務め、三島市出身、元中央官僚の坂本由紀子氏が立候補した。自民、公明の推薦を得ただけでなく、地元出身のエリートで、初の女性知事への期待などから、坂本氏が優勢だと見られた。  一方、川勝氏は民主、社民、国民新の推薦を得て、”民主旋風”の追い風に乗っていた。保守王国とされる静岡県でも自民への逆風が強かった。また、川勝氏の天性の雄弁家ぶりは県内各地で大きな評価を得た。1万5千票余の僅差ながら、川勝氏は激しい選挙戦を制した。戦いらしい戦いはその1期目の選挙だけだった。  2期目は問題にならなかった。64歳の川勝知事の対抗馬は、57歳で元電通マンの広瀬一郎氏。何と75万票もの大差がついた。自民県連が広瀬氏の推薦を求めたが、党本部は難色を示し、すったもんだの末、結局、「支持」にとどまった。自民は最後まで一枚岩とならず、選挙戦の大差につながった。自民というメッキがはがされ、烏合(うごう)の衆であることがはっきりとした。強い指導力を発揮できる議員が県内にはいないことがわかった。  3期目も、最後まで、自民は候補擁立でもめ、結局、自民候補を断念した。そんな騒ぎを横目にオリンピック柔道銀メダリスト溝口紀子氏が出馬、自民静岡市支部などいくつかの支部の推薦を得た。徒手空拳ながら、静岡市などでは川勝氏に迫る勢いを見せて、溝口氏は健闘した。  さあ、3期までの知事選を振り返って、自民党のだらしなさを静岡新聞記者は指摘した。どうすれば勝てるのかの示唆もしていた。つまり、十分に準備を重ねて、川勝氏に勝てる候補を出せばよかったのだ。  ところが、4期目の今回は自民候補不在の3期目よりもひどい結果となってしまった。前参院議員で、国交副大臣を務めた岩井茂樹氏が出馬を決めたのは投票日の約2カ月前、そこから、自民党推薦を得るまで党内部でごたごたが続いた。  勝てる候補としての魅力に乏しい岩井氏の出遅れとともに、選挙戦中に何度も書いた通り、自民党は有権者を引きつける具体的な選挙戦略をひとつも打ち出せなかった。ただ、世代交代を訴え、抽象的なお題目を唱えるだけで、リニアからも逃げた岩井氏を推す有権者は少なかった。消去法から、おのずと川勝氏しかいなかったのだ。  自民党は当選ラインを75万票に設定したが、岩井氏の得票数は目標に10万票以上も届かなかった。得票数から見てもこの惨敗は、”自民党がだらしない”結果でしかなかった。  惨敗の理由がだらしない自民党ならば、誰かが責任を取らなければならない。いまのところ、自民県連は誰も責任を取っていない。と言うよりも、曖昧な言い訳をするだけで、うやむやに済ませようとしている。これでは惨敗を重ねるのはやむを得ないだろう。  「この惨敗の責任者は一体、誰なのか?」。そんな声が聞こえてくる。 川勝5期目に自民は対抗できるか?  惨敗の責任を明確にした上で、自民党は4年後を見据えて、いまから「闘い」を始めなければ、5期目選挙でも川勝氏に勝てないだろう。そのために、いま、一体、何をすべきか?  川勝氏は2014年春、JR東海の環境影響評価書について「トンネル湧水の全量戻し」を知事意見に記している。ただ、この「トンネル湧水の全量戻し」は、毎秒2㎥減少に対して、JR東海は1・3㎥を戻し、必要に応じて0・7㎥は戻す、としたことに「全量戻せ」と主張したことに始まる。つまり、工事終了後の「全量戻し」を指していた。いまや工事期間中の「全量戻し」を求める静岡県に対して、JR東海は作業員の生命の安全を優先して、工事期間中の山梨県外への流出を譲っていない。  実際に、工事期間中の「全量戻し」が問題になったのは、2019年秋になってからである。ところが、川勝氏の「全量戻し」を県民は信じ込まされている。自民党はまず、リニア問題について正確な情報と知識を得るべきである。その上で、川勝氏との討論を行わなければ、川勝氏の主張に屈し、岩井氏のようにリニア問題から逃げるしかなくなってしまう。  さて、リニア問題を通じて、過去の記録を見ているとさまざまなことが明らかになる。  3期目の当選直後に開会した県議会6月定例会で、川勝氏はリニア問題について一切、触れていなかった。川勝氏がリニア問題を俎上に載せたのは、2017年秋頃である。リニア問題の先に、4期目の知事選をにらんでいたことは確かだ。そして、その時々に、リニア、リニアを連呼しながら、大きく発言を変えるとともに、『刺激的な言葉を発して論争を巻き起こし、事態の転換を図る政治手法』が発揮されたのだ。  6月22日の定例会見で「選挙期間中に何回か、この4期目が最後で後進に道を譲ると言ったが?」と問われと、川勝氏は「最初のときから1期4年でやる、と言った。2期目のときは、前編と後編、3期目のときはホップ、ステップ、ジャンプで、ジャンプした後は海に落ちるしかなかった。4期目は起承転結である。現在も新陳代謝を望んでいる」と曖昧に答えた。つまり、4年先はどうなるか分からないという意味である。  4年後には76歳となるが、静岡県の人生区分では「壮年熟期」であり、「経験を積み、さまざまなことに挑戦し、社会で元気に活躍する世代(働き盛り世代)」としているから、目ぼしい後進が見当たらなければ、5期目に挑むことを意味する。(あるいは川勝指名の後継候補)。  自民党が5期目を阻止したいならば、いま、まず今回の選挙の総括を行い、惨敗の責任を問うべきである。曖昧にしたまま、4年間が過ぎてしまったから、今回の結果を生んだと言える。4年後も、同じ轍を踏むことになるだろう。 「話さなければ、らちが明かない」最高責任者  「最高責任者に出てきてほしい」。川勝氏は22日の定例会見の席で、その胸のうちを明かした。  こちらは自民党ではなく、JR東海への呼び掛けだ。『リニア問題について、JR東海の意思決定者は誰か、通常は社長だが、本当はJR東海創設の立て役者である葛西敬之名誉会長である』とまず、川勝氏は葛西氏を名指しにした。リニア工事の責任者である宇野護JR東海副社長から、『葛西さんがリニアを進めていると聞いている』として、『その方(葛西氏)と話さなければ、らちが明かない』と対談を求める宣言をしたのだ。  『JR東海の場合には、明確に(最高責任者は金子慎代表取締役社長ではなく、取締役からも外れた名誉会長の)葛西さんであることを確信している』などと述べた。つまり、最高責任者の葛西氏と対談しなければ、らちが明かないというのだ。  記者から、「知事から葛西名誉会長と対談を求めるのか」と問われると、川勝氏は『相手(葛西氏)が望まれるならばいつでも』と回答した。これは知事選で圧勝した川勝氏の余裕なのだろう。相手に解決の糸口を示したのである。  さらに、川勝氏は『葛西さんとは25年以上のつき合いがあり、葛西氏から個人的な厚意を得ていて、”ツーカー”であり、初めて会う方ではない』などと述べた。『葛西さんがJR東海の本当の立て役者であり、国士ふうの立派な見識を持った方、それなりの筋の通った方である』などと葛西氏を立てた上で、メディアを通して、葛西氏との面談を要請した。  川勝氏の”ラブコール”が葛西氏に伝わったのは間違いないが、葛西氏が応じるのかどうかは不明である。切羽詰まった状況に追い込まれれば、屈辱的と思われても、解決策を求めるだろう。  「闘い」に勝つためには、最高責任者の戦略が大きな意味を持つ。自民党、JR東海ともいまのところ、最高責任者が出てきていない。『刺激的な言葉を発して論争を巻き起こし、事態の転換を図る川勝知事の政治手法』が分かっているのに、手も足も出ないままでは勝てるはずがない。  『責任者出てこい!』。そう言う多くの人の声が聞こえる。 ※タイトル写真は6月22日の当選後、初めての会見に臨んだ川勝知事

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リニア騒動の真相87「う回ルート」どこにある?

いまさら「ルート変更」と言えるのか?  戦い済んで、日が暮れて、勝者が敗者に償いを求めるのは世の習いか。自民党推薦、前参院議員岩井茂樹氏は「国交副大臣を務めたが、リニア推進派ではなく、ルート変更、工事中止も選択肢だ。まず流域住民の理解を得るのは(川勝平太氏と)同じスタンス」などと述べ、立候補予定者公開討論会でリニアの争点外しを図った。そこで「ルート変更」「工事中止」と言ってみせたから、川勝氏も驚きの表情を隠せなかった。内心では、いずれ、落とし前をつけると決め、この発言を胸に刻んだのかもしれない。  だから、川勝氏が当選後の会見で、「ルート変更」「工事中止」を自民党の認めた”公約”だったと繰り返し、流域住民らの民意が明らかになれば、自民党と連携して、JR東海へ「ルート変更」「工事中止」を求めるという絶対ありえない提案まで口にしたのも想定の範囲だった。そのありえない提案が翌日(23日)の新聞各紙を飾った。メディアは、勝者の川勝発言をそのままに取り上げたのだ。  「ルート変更」発言は、新聞報道と同じ日に開催されたJR東海の株主総会にひと騒ぎを起こした。リニア工事責任者の宇野護副社長は「ルート変更などありえない」と火消しに追われることになった。  宇野氏と言えば、ルート選定を前に地元対応に当たった責任者である。いまや静岡県のリニア問題に欠くことのできない重要人物だが、10年以上前、その立場は全く違っていた。  リニア計画が本格化した1980年代には、長野県へう回する木曽谷ルート(Aルート)と伊那谷ルート(Bルート)のどちらかしか選択肢がなかった。諏訪、茅野、岡谷の3市など6市町村の「諏訪広域連合」地域に長野県駅を設置するBルートが有力となり、89年に長野県知事はBルート誘致を正式に表明した。当時、宇野氏はBルート沿線の地権者らの理解を得るために奔走していた。  ところが、2008年になって、突然、静岡県の南アルプスを貫通する直線のCルートが浮上する。2011年5月、JR東海はBルートではなく、Cルートを選択した。6月に入り、Bルートを外した経緯を諏訪広域連合へ説明したのが、宇野氏だった。納得できない長野県民の怒りがいかに大きかったか、諏訪広域連合HPの写真から伝わってくる。宇野氏らJR東海側は、当時の諏訪市長らと向かい合い、神妙な面持ちで頭を下げている。諏訪市長らは「約束が違うじゃないか」などと激しい剣幕で怒りをぶつけた。宇野氏らは「もう決まったことですから」としか言えなかった。  それから、ちょうど10年がたつ。いまさら、宇野氏が再び、諏訪市を訪れ、「静岡県を説得できなくなったので、Cルートをやめて、Bルートを採用したい」など口が裂けても言えるはずがない。 長野県ではほぼすべて工事契約完了  CルートはBルートより、どこが優れていたのだろうか?  長野県知事の表明に続いて、東京、神奈川、山梨、長野、岐阜、愛知、三重、奈良、大阪の沿線9都府県のリニア建設促進期成同盟会は伊那谷ルートのBルートを採択した。諏訪地域では、リニア誘致がほぼ決まりと考え、それから20年近くさまざまなリニア誘致への取り組みを展開した。2006年まではJR東海のパンフレットでもBルートのみが示されていた。  JR東海は、2008年10月になって、1990年から行ってきた「地形・地質調査」報告を行った。「南アルプスにおける土被り(地表からトンネルまでの深さ)の大きい長大トンネルの施工について、ボーリングなどの調査結果とトンネル専門家による委員会の見解を踏まえ、南アルプスの掘削が可能であると判断した」と公表した。この調査報告を受けて、南アルプスを貫通する直線の「Cルート」が新たに加えられたのだ。  交通政策審議会は2010年2月、ルート選考の諮問を受けて、委員らの議論に入った。翌年の2011年5月、審議会はCルートを選択、国交相に答申した。  JR東海の試算によると、CルートはBルートに比べ、東京ー名古屋間で7分短縮され、建設費は6300億円減となった。毎年の維持運営費190億円減、設備更新費100億円減、年間の収入では9千億円増という圧倒的に優位な「費用対効果」が示された。水環境などへのダメージなどでもCルートに軍配を上げた。これだけの材料を示されれば、審議会がCルートを選ばない理由が見当たらない。  この答申に長野県は裏切られた思いを抱いた。「20年以上リニア応援団としてのこれまでの努力は何だったか」、「時間差はわずか7分ではないか。それほどの差ではない」、「工事費などの積算根拠が分からない」など疑問、不満が渦巻いた。最終的に、”決まったこと”であり、諏訪地域と山梨県駅とのアクセス道路を充実することなどを条件に矛を収めるしかなかった。  過去にうらみはあっても、いまや遠い昔の話でしかない。  長野県は、リニア工事の進み具合を概略図で公表している。202104_jigyoushinchoku (1)。ことし4月現在、長野県内52・9㌔のうち、2橋梁、高架橋の3カ所などを除き、すべての工事契約が済んでいる。静岡工区とつながる南アルプス長野工区8・4㌔は、鹿島、飛島、フジタのJVによって、2017年4月からすでに工事に入っている。  リニア中央新幹線建設促進長野県協議会(会長・長野県知事)は「長野県内の工区では、当初の計画通りに着実に進めていくこと」を決議していて、「長野県がルート変更を求めることはない」。諏訪広域連合事務局を務める諏訪市担当者は「いまさら、こちらからルート変更を求めることはない。この地域の期成同盟会も長野県協議会に参加、現在のルートで2027年開業を求めている」。  長野県内で、県協議会に参加しないで、過去の経緯を納得できない団体、個人が「ルート変更」を求めているわけでもない。長野県での「う回ルート」議論は、いまさらの声にかき消されるのが落ちである。 「ルート変更」を求めるのは静岡県のみ  ところが、静岡県では「ルート変更」は選択肢のひとつである。選挙戦での岩井氏の十八番ではなく、川勝氏が何度も口にしてきたからだ。昨年7月、国交省の藤田耕三事務次官(当時)が静岡県庁を訪れた際、準備工事を認めないついでに、川勝氏はあえて「ルート変更」を話題にした。  鈴木敏夫・川根本町長が「流域市町でもルート変更を1つの案としてはどうかとの意見もある」と発言したことや県議会くらし・環境委員会で自民所属の杉山盛雄県議が「これだけもめるのならばルート変更したらどうか」などと発言したことを川勝氏が紹介したのだ。  藤田次官はCルート決定までの長い議論を踏まえ、ルート変更は問題外であることを説明した。その後の記者会見でも語気強く、ルート変更を否定した。つまり、国交省にとっても「いまさら」、ルート変更に手を付けることはできないのだ。  当選後の22日の記者会見で、「ルート変更」「工事中止」を問われた川勝氏は「昨年11月号の中央公論に書いたものがわたしの考えです」と回答した。  中央公論には「う回ルート」について、リニア車両基地を予定する中津川(岐阜県)の北に松本空港(長野県)があり、そこまでリニアを延伸すれば空港と連結できる。日本には新幹線と空港とを連結させているところはどこにもない、松本空港はリニアと連結できる唯一の候補地などとしている。つまり、A、Bルートではなく、さらに北まで延伸させる「松本空港ルート」が川勝氏の独自ルート案である。  こうなると、最初からリニア計画は練り直さなければならない。つまり、川勝ルート変更案は「白紙にしろ」と言っているに等しい。 静岡県内通過のDルートならば問題解決だ!  川勝氏の松本空港ルート案を、長野県が求めているわけではないから、実現の可能性はほぼゼロに等しい。静岡県内だけが「ルート変更」を求めているとしたら、他県に迷惑の掛からない「う回ルート」を提案しなければならない。  そこで登場するのが、「Dルート」である(タイトル写真に掲げた地図の緑色で線を引いたルート)。山梨県駅から南下して、静岡県に入り、新東名付近の内陸部を通過、長野、岐阜の両県を飛ばして、愛知県を通過、名古屋に至るルートである。静岡県駅は、静岡市北部あるいは川根本町に設置されれば、最難関工事とされる南アルプスの断層地帯を貫通することもなくなる。  当然、大井川は鉄橋で越えるから、下流域の水環境に影響を及ぼすこともない。南アルプスエコパークを通過しないのだから、現在、国の有識者会議、県の専門部会で議論している環境問題すべてが関係なくなる。  新東名のインターに近ければ、新たなアクセスポイントになり、また、南海トラフ地震の影響も非常に少なく、新幹線のバイパス機能を果たすことは間違いないなどすべてに都合のよいルートとなる。  長野県が「ルート変更」を求めていないのだから、鈴木川根本町長が「流域市町でもルート変更が1つの案」とした発言との整合性もつく。Dルートならば、大井川流域の水環境問題に全く影響もなく、地域振興も図れる。当然、流域10市町はこぞって大賛成だろう。これで流域市町はまとまるだろう。ただ、静岡県にとって、大いにハッピーであっても、これまでリニアの現計画を進めてきた長野県、岐阜県の人たちは怒り心頭となることも間違いない。(※長野、岐阜両県の反リニアの人たちは大喜びかもしれない)  また、もし、万が一、Dルートが採用されたとしても、リニア開業は大幅に遅れることは間違いない。コロナ禍の中で、テレワークの推進、国内出張の抑制、国内観光旅行者の減少、インバウンド(訪日旅行客)の消失などで新幹線需要がますます失われている。時間がたてばたつほど、すべての事情が変わり、リニア計画は時代の変化や要請に追いつけなくなる可能性が高い。  事業の継続が損失の拡大につながると気づいても、過去の労力や投資、時間を惜しんで立ち止まれない状態をイギリスとフランスが共同開発して失敗した超音速ジェット旅客機にちなんで「コンコルド効果」と呼んでいる。JR東海は現行の建設費5・5兆円に、1・5兆円の追加を発表した。リニア静岡問題が長引けば、新たな損失拡大を生むだろう。  現実を踏まえれば、「ルート変更」ではなく、「工事計画の中止」を求める声がさらに大きくなりそうだ。

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リニア騒動の真相86”毎日新聞”終焉の行方?

「リニア静岡工区の行方」の講演会   東洋経済オンライン6月1日付『静岡県知事選、「リニア」が争点にならない理由』、6日付静岡経済新聞『リニア騒動の真相84これでは川勝圧勝だ!』で、川勝平太氏が圧倒的に有利な情勢を伝えたのに続いて、13日から新聞、テレビ各社は電話やインターネット調査を基に、川勝氏がリードするとの予測を報道した。すべてのメディアが約3割は決めていないという全く同じフレーズで、川勝リードの予測したのにはびっくりした。きょう20日は投票日だが、大勢は決まったのだ。  20日午後8時の開票に合わせて、テレビ(特番を打つ局もある)、新聞社のネット報道は開票の速報を行う。選挙管理委員会の開票を待つのではなく、川勝氏にどれだけ早く、「当確」を打つことができるかに関心が集まっている。県内の主要投票所での「出口調査」の情報を基に、午後8時の開票と同時に「当確」を打つ可能性が高い、という。  自民党推薦の岩井茂樹氏が大きく出遅れ、劣勢を盛り返せなかった理由等は、『これでは川勝圧勝だ!』でも解説したように、岩井氏がリニア問題から逃げたとともに、有権者を是が非でも投票に向かわせようという具体的な”公約”を打ち出すことができなかったからである。(※一部週刊誌が報じた秘書暴行疑惑など岩井氏の暗いイメージが影響しているという意見も多かった)  一方、川勝氏はリニア、リニアを連呼して、「命の水を守る」「南アルプスの自然環境を守る」と訴え、反「リニア」を中心とする環境保全派の有権者たちの圧倒的な支持を得るのに成功した。  川勝氏の4期目に当たっての抱負等は、選挙戦の訴えと変わりないだろう。ただ、リニア、リニアを連呼した川勝県政の「リニア静岡工区の行方」は何よりも気になるところだ。本当に、今後4年間、川勝氏はリニア工事の着工を凍結してしまうのか?  そんな関心を察知したのか、静岡県の毎日新聞販売店会の江崎新聞店は”毎日大学”と銘打った講演会を静岡市で開いた。投票日の前日、19日にまさしく「リニア静岡工区の行方」と題した講演会を開催、講師は、県政担当の毎日新聞静岡支局記者。=タイトル写真はチラシ=  この講演会は毎月1回開催の”毎日大学”の一環で、毎日新聞読者であれば、年間12回の講演会に参加でき、年会費は6000円。一般の参加は1回当たり1000円だから、半額ということだ。主催者によると、「リニア静岡工区の行方」には通常の講演会より聴衆が多く、約50人が詰め掛けた、という。残念ながら、講演会には参加できなかったが、毎日記者がリニア静岡工区の現状について、詳しく説明したのだろう。ただ、現状を説明できても、1年先、2年先の行方まで予測できたのかどうか?自分の会社のことを含めて、1年先の未来を予測するのは難しいからだ。  毎日新聞は、16日付1面で7月1日からの購読料改定(月額4037円→4300円)を発表した。朝日新聞が同じく、7月1日から同4400円への購読料改定を行うので、2018年に同4300円に値上げしていた読売新聞に朝日、毎日が追随、新聞購読料は3紙がほぼ同じ金額となる。  一番最後になった毎日新聞は、せっかく部数を伸ばす機会を得たのに、なぜ大幅な「値下げ」に踏み切らなかったのか、不思議でならない。新聞社以外の各企業は物価を抑え、1円でも安く売ろうという必死である。新聞社だけが、昭和時代に繰り返した”カルテル”を結んで、全社一斉の値上げという同じことをやっているのだ。4300円に値上げしたことで、多くの毎日読者が定期購読をやめる可能性が高い。  スマホの普及などで紙媒体離れが進んでいる。だから、”毎日大学”のような読者参加型のサービスに新聞販売店が努めている。今回の値上げは、毎日新聞の終焉を早めてしまうかもしれない。 約2300万部の新聞部数が消えた  ことし4月の静岡県内の新聞購読部数は、ABCレポートによると、静岡55万部、中日11万1千部、朝日6万3千部、読売5万8千部、日経4万7千部、毎日2万5千部、産経1万3千部、東京3千部(百部以下は切り捨て)だった。ただ、ABCレポートの部数は広告や折込チラシの料金に反映されているが、実数とはかけ離れている、という。  昨年9月20日発行の週刊誌サンデー毎日に、ノンフィクション作家下山進氏が静岡新聞の大石剛社長(当時)をインタビューした記事では、『静岡新聞の最新の部数は51万部まで落ち込んでいる』と書いていた。半年以上も前の話だ。そこで大石社長はインタビューを受けた際、ABCレポートの数字ではない別の部数を答えたようだ。社長が4万部も少ない数字を教えているのだから、ABCレポートがあてにならないことくらい関係者はみな承知している。ただ、広告主や折込チラシの依頼者は、ABCレポートによって、新聞社、販売店から不当に高い料金を請求されている。この事実を知ったら、広告や折込チラシから離れてしまうだろう。  静岡新聞が4万部も誤魔化しているとしたら、他紙も同じことをやっているだろう。  2008年12月6日付週刊ダイヤモンドは『新聞・テレビ複合不況 崖っ縁に立つマスメディアの王者』という特集を組んだ。ちょうど、静岡空港問題が大きな騒ぎになっていたときだったので、『静岡空港開港延期!知事の政治責任は?』特集記事を同誌に寄せた。その記事の中で、地元メディアによる静岡空港推進の世論誘導を問題にした。たまたまABCレポートによる、県内各紙の部数を紹介している。  いまから約13年前、静岡71万5千部、中日14万2千部、朝日10万6千部、読売9万2千部、日経7万3千部、毎日6万部、産経2万3千部だった。大石社長のインタビュー記事の”51万部”が正確ならば、静岡は20万部減少したことになる。  他紙も3、4万程度の部数減となっている。毎日は3万5千部の減少だが、現在2万5千部だから、もし、このまま減少が続けば、いずれ、静岡県内で毎日は消えてなくなってしまう計算だ。それも、部数減少は加速度的に早くなっている。だから、1年、2年先の毎日新聞の行方はどうなっているのか、分からない。地方の限界集落同様に、地方の新聞が消えていく運命にあるようだ。  毎日新聞社の河内孝・元常務取締役(営業・総合メディア担当)は2007年3月、『新聞社 破綻したビジネスモデル』(新潮新書)を発刊した。当時は、読売1千万部、朝日800万部などと喧伝され、新聞の総部数は5256万部を誇っていた。ことし3月時点の総部数は2966万部だから、14年たって2300万部減少した。  河内氏が『破綻したビジネスモデル』と書いた当時、昭和時代に大儲けしたビジネスモデルの破綻を意味しただけで、実際には、当時でも新聞経営は他の業種に比べて、着実な利益を得ることが可能だった。それなのに、2007年だけでなく、翌年の2008年には週刊誌でも『崖っ縁に立つ』危機感をあおっていた。河内氏も書いているが、実際には新聞社の経営の中身は全く外に出ていないから、メディアとはいえ、新聞社の経営状況を分析のしようもなかっただけにすぎない。  新聞部数同様に、新聞社の経営状況もすべて闇の中にある。 新聞社の究極の既得権とは?  『日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社の株式の譲渡の制限等に関する法律』(略して、日刊新聞紙法)が1950年に制定されて以来、新聞社はどこからも買収されない、何があろうとも追及されない、事実上の独占経営ができるように国の権力によって守られている。これが新聞社経営が闇の中にある理由だ。  先日、新型コロナウイルスの感染者数について『さざ波』、日本の緊急事態宣言について『屁みたいなもの』発言(ツイッター投稿)で内閣官房参与を辞職した高橋洋一嘉悦大学教授は、この日刊新聞紙法を「新聞社の究極の既得権」と批判している。『これが世界と日本経済の真実だ』(悟空出版)の中から、日刊新聞紙法を取り上げた週刊現代オンラインの現代ビジネスで、『新聞、テレビが絶対に報道しない「自分たちのスーパー既得権」』と題した記事を公開している。  『まず日刊新聞紙法というのはどういう法律か。すごく変わっている法律で、実は世界にこんな法律は日本にしかない。ポイントは、新聞社は全国紙のすべてが株式会社で、地方紙も株式会社が多いのだが、その「株主が誰か」ということだ。  商法の大原則だが、株式というのは譲渡制限がない。これは株式会社の株式会社たるゆえんと言える。譲渡制限がないからどんな時にもオーナーが代わり得る。この「オーナーが代わり得る」ということが重要だ。  要するにオーナーはのうのうと安住できないということだ。そうすることで会社の緊張感が保たれ、きちんとした経営をするということになる。  しかし新聞社の株式は、日刊新聞紙法によってなんと譲渡制限が設けられているのだ。』  アマゾン創業者ジェフベゾス氏が、ワシントン・ポスト紙を買収したことが大きな話題となった。同紙はその後、デジタルファーストを掲げて、大変革を遂げた。アメリカの多くの地方紙が破綻している中で、買収による生き残りは、新聞業界では日常茶飯である。ところが、日本の場合、どんなことがあっても、他の業界からの買収はできない仕組みなのだという。  『株式が譲渡されない安泰な経営のなかで、オーナーが口出しをすることがないので経営陣にはなんのプレッシャーもかからない。そうして経営トップが大きな顔し続けることになる。  日経新聞などは企業の不祥事を追求する記事で「コーポレートガバナンスが重要」とよく書いているが、自分の会社が一番コーポレートガバナンスが利かないのだ。なぜなら、株式の譲渡制限があるからだ。それではガバナンスなど効きようがない。  新聞社の株式が譲渡されないということは、つまり絶対に買収されない仕組みになっているということだ。さらに、その新聞社がテレビ局の株を持つ。朝日新聞ならテレビ朝日、読売新聞は日本テレビといった具合だ。そうすると、テレビも新聞社と同じようにまったくガバナンスが利かなくなる。  そうして新聞社を頂点として構成されたメディアは、既得権の塊になってしまう。  以上のような仕組みになっているため、一度新聞社の経営陣に加わってしまえば絶対安泰だ。クビになることはまずない。これは、他の業界では絶対にあり得ない既得権を守る規制なのだ。』(※『 』は高橋洋一氏の記事の引用です) リニア問題解決or毎日新聞終焉はどちらが先か?  今回の毎日新聞値上げの記事の中に、『人手不足に伴い新聞輸送・配達コストが増大していることなどから戸別配達網の維持が困難になりかねない事態になっている』などと値上げの理由を挙げている。  新聞販売店の購読料の配分はほぼ50%だと言われる。新聞業界だけが専売店システムを設けて、毎日、読売、朝日のみを配達する。ただ、静岡新聞、日経新聞はそれぞれの専売店に配達してもらうから、こちらは合配と呼ばれる。部数が少なくなっているのだから、すべての新聞を配達するほうがずっと合理的で人件費等も安く済むはずだ。これも昭和時代が続いているのか、あくまでも専売店システムを崩さないようだ。  部数から言えば、江崎新聞店の経営は、毎日新聞ではなく、合配の静岡新聞で成り立っているようだ。静岡新聞社史には、1964年日曜日の夕刊廃止に伴い、他紙が値上げした際、大幅な値下げに踏み切った、と書かれている。そこから、静岡新聞の部数は大幅上昇に転じたのだという。いまから見れば、あまりに常識的な手法だが、当時は業界のルールに背いたことになり、静岡新聞は業界の”嫌われ者”となってしまう。  朝日、毎日、読売を読んでも、静岡県の話題はほぼ同じである。静岡県庁からの発表記事をそのままに書いている場合が多いからだ。これもアメリカの新聞などと全く違う。だから、毎日新聞が消えてなくなっても、静岡県民は誰も困らない。  本当に、『リニア静岡工区の行方』をちゃんと取材できて、紙面に紹介できるのならば、毎日新聞の価値があるかもしれない。残念ながら、いずれ、毎日新聞の一般読者は静岡県内ではゼロになる確率が高い。  大井川流域の自治体首長が、これから2年後までにリニア問題は解決すると予測した。なぜか?さて、誰がどのように解決するのか楽しみである。 ※20日15時半過ぎにアップしました。これから4時間半後に開票が始まります。

ニュースの真相

リニア騒動の真相85”公約”を果たせ!

「日本一住みやすい静岡県」って?  静岡県知事選公報で、岩井茂樹氏は『「日本一住みやすい静岡県!」実現へ。』を訴え、未来をひらく8プランを提案している。具体的に何をどのように取り組むのかの公約ではなく、「女性の笑顔が輝くように!」などすべて曖昧な目標を掲げている。8プランの「安全・安心なまちづくり」の中に、小さな文字で「リニア問題」を取り上げ、命の水を最優先に建設的な対話とのみ記されている。いずれにしても、何らかの具体策を示さないで、「日本一住みやすい静岡県!」を実現できるのか、はなはだ疑わしい。  川勝平太氏は「レインボーマニフェスト」として「リニア問題」を筆頭に7つの項目を掲げているが、こちらも具体的な政策ではない。『「言うべきことは、はっきりと言う!」これが、私の知事就任以来、変わらぬ信念です。』とあるが、「言うだけ」くらいならば、誰でもできる。それを実現できるかどうかだが、川勝氏は言い放しのことが多い。  『静岡県はリニアに反対していません。静岡県のエゴで工事を止めているわけでもありません。時間が掛かっているのはJR東海による環境影響評価が不十分であるためで、現在はそうした状況を打開するために国土交通省が設置した有識者会議で議論が行われている最中です。  大事なのは「工事によってどのような影響が起きる可能性があるのか」「それをできる限り回避または低減するにはどうすればよいのか」といった当たり前のことを、国やJR東海にはっきりと伝えることです』など、それこそ当たり前の主張を繰り返している。  国の有識者会議を取材していればわかるが、専門家たちは、JR東海による環境影響評価の説明について具体的に検証を行い、下流域への地下水等の影響がないことなどに科学的な根拠を与えている。一方、川勝氏は有識者会議が「全面公開」ではないなど議論の本質とは関係のないことにいちゃもんをつけて、国交省の姿勢を厳しく批判、メディア受けを狙う。山梨県、長野県へ一滴の湧水も流出させないことがJR東海の約束だったなど、無理難題を唱え、下流域の影響回避とは全く違う議論に終始する。政治家ならではの駆け引きかもしれないが、いつまでも同じ姿勢となれば、静岡県外からは反対のための反対ーエゴとしか見られない。  一体、有権者は何をもって、選択の基準とすればいいのか迷うだろう。連日のように、県知事選のアンケート調査結果が新聞各紙で報道される。記事を読んでも、選挙公報同様に両候補の主張内容の貧しさだけが目立つ。各紙とも投票率の低下に不安を抱く。有権者の関心の薄さは候補者の責任でもある。  10日付産経新聞は『静岡県は全国的にも医師不足が顕著だが、医療の充実に向けた対策』を両候補に問い掛けていた。  『医師不足』は静岡県にとって、一番、切実な問題である。本当にこの問題を解決できるのならば、静岡県知事にふさわしいはずだ。 静岡県に「早稲田大学医学部」?  川勝氏は2009年7月の知事選挙で、「医師不足」の解決策を掲げて、初当選した。  『2009年夏、さまざまなマニフェスト(公約)を掲げた川勝平太知事が誕生した。新知事として積極的、広範囲に活動、女性たちを中心に圧倒的な人気を誇っている。川勝知事のマニフェストのうち、最も注目が集まるのは「県東部地域に医科大学誘致」である』で始まる記事を、2010年に発刊した雑誌『静岡県の良い病院2010ー2011』(発行:NPO法人Qネット)の巻頭言に掲げた。それだけ、川勝氏への期待が大きかったからだ。川勝氏の写真は非常に若い。と言うのも、2008年、県知事選に出馬前、静岡文化芸術大学学長時代であり、いまから、13年も前である。  川勝氏は民主党公認だったから、2009年10月に、国の事業仕分けにならって「県の事業仕分け」を始めている。2007年から石川嘉延前知事の時代に始まった「県の医師確保対策」事業費4億2400万円も事業仕分けの対象だった。県は「人口比率から全国平均進学率を出せば、静岡県では、250人が医科大学へ進学する計算だが、現実は150人~160人にとどまっている」と説明、浜松医科大学しかない悲惨な結果を数字が裏付けていた。「医学生の偏在は中堅勤務医の偏在に関係する」(武井義雄・元エモリー大学教授)の指摘を根本的に解決するには、医科大学新設しかないのだ。石川知事が医科大学新設に消極的だっただけに、川勝氏への期待は大きく高まった。  『川勝知事は関係の深い、母校の早稲田大学に協力を依頼した。早稲田大学も医学部設置は悲願である。ぜひ、早稲田大学医学部を静岡県東部につくってほしい。  「カネはいくら掛かってもいい」。県民の多くが川勝知事を応援している。頑張れ、頑張れ!川勝知事。』と記事に書いた。  川勝氏は本当に、頑張ったのか?しかし、いまだに医科大学設置の声は聞こえてこない。川勝氏は「早稲田大学から(静岡県の方角が)都の西北ではないので、断られた」など珍回答をした。一体、医科大学新設はどうなったのか、いまでも取り組んでいるのか、川勝氏は説明していない。  今回の産経新聞の「医療の充実に向けた対策」に川勝氏はどう答えたのか? 医科大学新設はどうなった?  『県内における医師偏在が課題。地域の実情に応じ、効果的な配置を図っています。(略)医療従事者は「ふじのくにバーチャルメディカルカレッジ」(本庶佑学長)の展開が奏功し、県内勤務者が平成22年の18人から今年は578人に大幅増加。医系大学の地域枠設置数は全国1位です』など回答している。一般の人たちには、この説明では全く理解できないだろう。  まず、「ふじのくにバーチャルメディカルカレッジ」(本庶佑学長)と大層な名前を使っているが、医科大学とは全く関係のない、有名無実の組織。県の「医学生奨学金」制度を促進するための施策の1つに過ぎない。月額20万円を貸与、医学部6年間で学生は1440万円を受け取り、貸与期間の1・5倍期間(9年間)を静岡県の公的医療機関で勤務すれば、全額返還免除となる石川知事時代に始めた制度である。2007年度から、これまでに1308人に貸与したところ、今年4月1日の時点で、578人が県内の病院に勤務している。10年以上たって、578人の費用対効果については記されていない。  分かるのは、川勝氏は、医科大学新設をあきらめ、いまや石川知事の施策を受け継いで、「医学生奨学金」制度を積極的に推し進めていることだ。  2009年県の事業仕分けで、公募委員(勤務医)は「医学生奨学金」制度について「効果が薄い」などと指摘していた。もともと静岡県で働くことを目指していた学生にはボーナスのような制度であり、また、カネをやるから、卒業したら、静岡県で働け、と若い医師たちに強制することがいいことかどうか。  防衛医科大学校は、医学科・看護科ともに入学金、授業料とも無料であり、月額11万7千円の学生手当、年2回の期末手当が支給される。静岡県の奨学金制度など比較にならないほど優遇されている。医学科の場合、9年間(看護科は6年間)に満たず離職する場合、卒業までの経費を償還しなければならない。それだけの責任を持つのだ。静岡県と一番違うのは、防衛医科大学校の場合、卒後の臨床研修などの指導等でもレベルが非常に高い。  静岡県の場合、返還免除のために指定した病院での臨床研修(2年間)、専門研修(3~5年間)を求めているだけである。卒後研修の内容を保証しているわけではない。  医師は国家試験に合格すれば、医師の資格を得る。そこから研修医制度はスタートする。一人前の医師になるまでに、少なくとも6年間は掛かる。少なくとも、最初の6年間、研修医はあまりに未熟の場合が多い。  10万人当たりの医師数調査では、静岡県は全国で40番目であり、全国平均を大幅に下回る。この統計に使う病院勤務医の約20万8000人のうち、約1万7000人が研修医である。未熟な研修医でも、統計の数字では1人に数えられる。  静岡県では医師の数合わせのために、「医学奨学金」制度を創設したとしか思えない。「医者は3人殺して、一人前になる」。医師であり、作家久坂部羊氏の医療小説「破裂」のキャッチコピーである。久坂部氏だけでなく、数多くの医師が同じ証言をしている。ヒヤリハットだけでなく、表面に現れないが、深刻な医療ミスは数多いのだ。もし、研修医にすべてを委ねることになったら、患者はあまりにも不幸である。 医学生奨学金制度の欠点とは?   他国の医療教育制度を見れば、日本の研修医制度がお粗末なことがわかる。  アメリカでは、生物学専攻の単位を取得することを条件に4年制大学を卒業したあと、MCATと呼ばれる統一試験を受けて、初めて、医科大学へ進学することができる。MCATは一般教養だけでなく、面接が重んじられ、将来、どのような医師を目指すのかを見極め、良き臨床医になる学生を選抜する。  医科大学では実践が重んじられ、ほとんどの時間が臨床教育に費やされる。4年間の医科大学を卒業したあと、医師免許を獲得するために義務付けられた臨床研修(インターンシップ)がスタートする。主要な科目の経験を積んだあと、免許をようやく取得できる。この免許で、一般医(家庭医)として開業できる。  専門医となるためには、さらに3年間の徹底的な臨床研修(レジデンシ)を受ける。臨床研修プログラムは、第三者の審議会が厳しく管理し、症例数、その種類、教官数とそのレベル、サポート状況などすべてをチェックする。医学生たちは最高レベルの臨床研修を目指して、自分の望んだプログラムに必要書類を送って、面接の通知を待つ。東海岸で教育を受け、西海岸で卒後臨床研修を受けるのが人気だが、アメリカの臨床研修は非常に厳しい。  とにかく、アメリカの医学教育は「医療のプロ」をつくることを目指している。それに対して、日本では、6年間の医学教育のあと、筆記だけで医師免許を与えている。何回も書くが、その時点では、まだ、ほとんど使いものにならない。卒後9年間静岡県での病院勤務を求めるが、6年間をどう過ごすのか、研修医にとっては大きな問題である。もし、わたしが患者とだったならば、研修医だけの診察等は避けるだろう。  卒後研修をどのように受けて、プロの臨床医を名乗るのか、あまりにも大きな問題だが、静岡県の医学生奨学金制度はその点を全く考慮していないのだ。 早稲田の田中総長と連携してほしい!  さて、一方の岩井氏は何と回答したのか?  『現在の医師不足は、「医療費亡国論」に基づく国の政策の失敗が原因であり、その方針転換を国に求めたい。また、県内に感染症や災害時の対応を兼ね備えた国と県の連携による医療施設を作りたい。ただ、医師育成には時間が掛かるので、知事がトップセールスで医師確保に動き回ることが、現時点は最も重要と考える』。本当に静岡県の医師不足について理解しているのか、こちらも疑問だらけだ。(「医療費亡国論」とは、1983年医療費の膨大が、国を滅ぼすとして、医療保険制度の改革や都道府県の病床数規制につながった厚生官僚の主張)  リニア騒動の真相84で、今回の知事選は川勝氏がほぼ決まりだと書いた。このままでは、川勝県政がさらに4年間、続くことになる。今回は、川勝氏の公約は反リニアのみである。  医科大学新設を阻んでいるのは、まさに国の岩盤規制である。「言うべきことは、はっきりと言う!」のが川勝氏の信念ならば、リニア問題ではなく、医師不足の対応にちゃんと責任を果たすよう、医科大学新設を求めて、国と真っ向からけんかするくらいの気概ではっきりと主張べきだろう。  ちょうど、早稲田大学の田中愛治総長は、2018年の就任以来、医学部創設を唱えている。まさか、元総長のように「都の西北」など方角のことは言わないだろう。ぜひ、いま一度、初心に帰り、医科大学新設に立ち向かってほしい。

ニュースの真相

リニア騒動の真相84これでは川勝圧勝だ!

陳腐なキャッチフレーズが並んだ!  静岡県知事選が3日、スタートした。正味17日間で、圧倒的に有利な戦いを進める現職の川勝平太氏に対して、前参院議員の岩井茂樹氏が形勢逆転を演出できるかに掛かっている。立候補者の出陣式が静岡市内で開かれ、第一声を聞いたが、いずれも抽象的なイメージばかりで、有権者が「これだ!」と選択を促す具体的な公約はひとつもなかった。どちらもどちらだが、これは川勝氏の思う壺なのかもしれない。  象徴的なのは、キャッチフレーズにも現れていた。岩井氏の『まっすぐに、力あわせ 静岡県を前進させる』(タイトル写真)に対して、川勝氏は『東京時代から静岡時代へ』。選挙とは一にも二にも、目立つこと。『静岡県を後退させる』であれば、誰もがあっと驚くが、”前進させる”は子供でもつくれるキャッチコピー。『コロナに打ち勝つ 給付金10万円を約束!』とあれば、誰もが「おお!」と大歓声を上げた。岩井陣営は危機的状況に目をつむっているのか、あまりにも楽観的である。  一方の川勝氏も『東京時代』を賛美して、これから『静岡時代』では、これまでの12年間の県政を総括しろ、と言いたくなる。有権者の顔が見えない独りよがりだが、川勝氏はこれでいいのだろう。  翌日(4日)の新聞各紙は、両氏の演説の中身を簡単に紹介していた。川勝氏は、相変わらず「リニア」「リニア」を連呼していたことがよく分かる。『大井川の水源は南アルプス。62万人の命を育む水。命の水を守らなくてはならない』(毎日)、『前国土交通大臣が「ルートの変更」「工事の中止」に言及した。推薦をした自民党は責任を取る立場にある。JR東海は全量戻す約束を反故にした。私は約束を必ず守る』(読売)、『(南アルプスの)希少な水が工事で毎秒2トンなくなると言われたら、許せるはずがありません。ユネスコエコパークに認定されている南アルプスや命の水を守るために、私たちは立ち上がらなければならない』(朝日)など、これまで何度も何度も述べてきたことの焼き直しである。  川勝発言を検証すれば、さまざまなぼろを指摘できるが、国の有識者会議、県の専門家会議を傍聴することのない有権者に、”仮想の敵”JR東海と「闘う」知事を印象付ければいいのだ。川勝選対本部はJR静岡駅への動員を呼び掛けていないが、「リニア」反対のコアな面々が応援に駆け付けた。”確信犯”のコア層が投票行動に迷う有権者に強く働き掛けるのだろう。 陣営発表は「1200人」だが?  岩井氏は「リニア」に何ら触れなかった。これまで川勝氏との対談で、何度も「ルート変更」「工事の中止」発言を行い、とりあえず、「リニア」の争点外しに成功していた。第一声でも『川勝さんは何も分かっていない。ただ、反対だけを連呼すればいいものではない。わたしはリニア問題に真剣にちゃんと向き合う』などと訴えれば、リニア問題に関心を持つ有権者らは岩井氏の姿勢を見直すだろう。  翌日の各紙を見ると、『最優先でやりたいことは(コロナ)ワクチン対策だ。ワクチン接種率はあまり高くない。県が中心となって、国や市町と連携を取ることが重要』(読売)、『この県は自動車産業が命。産業構造が変わっていく中で、国と連携して産業を守ります。トップセールスで県産品を国内や世界に広げ、企業誘致などで、活力を呼び込んでいきます』(朝日)、『静岡の未来のため、今、新しい風を入れないと間に合わない」(毎日)などだが、そのまま川勝氏の演説だと説明されても、何ら違和感がなく、岩井氏独自の政策が全く見えてこなかった。キャッチフレーズでも書いたが、『コロナ支援金10万円を約束』とでも言えばいい。財政の裏付けは、現職知事の肝煎り事業計画を一時中止すればいい。おカネは後からついて来る。  朝日によると、静岡市常磐公園には、「陣営発表で約1200人の支持者らが集まった」とある。現場にいたテレビ局の政治記者に聞くと、せいぜい7、800人だと答えた。まあ、どんなに多く見積もっても1000人以下である。つまり、自民県連は1200人程度の動員を静岡市内の支持者に働き掛けたのだろう。  せっかく動員を掛けて集まったのに、一番、肝心な、新知事となった暁(あかつき)に、静岡県民に具体的などんな奉仕ができるのかはさっぱり伝わらなかった。川勝氏を必死で追い掛ける知名度の低い岩井氏が、特に無党派層に浸透させ、自分自身に投票させるために、一体、何と言うべきだったか? 岩井氏の理想は、石川嘉延前知事?   静岡市での出陣式のあと、岩井氏は沼津市に移り、県東部の首長らを集めた出陣式を行った。『理想は石川嘉延前知事。石川さんは53歳で知事になった。私も昨日(2日)53歳になった。天命を感じる』(静岡新聞)など具体的な名前を挙げたのだという。まさか、石川氏と立候補の年齢が同じだけと言うことだけではないだろう。石川氏を理想とする”天命”とは何を指すのか?  石川氏の県知事選と言えば、2001年7月、3期目選挙の鮮烈な記憶が残る。当時、2006年開港を予定する静岡空港に対して、県内だけでなく、中央のメディアなどが公共事業の「無用の長物」論を唱え、空港計画中止の議論が巻き起こっていた。そんな中、静岡空港反対の機運を知り、いち早く出馬表明したのが、東京在住だが、静岡とゆかりの深い、前参院議員の水野誠一氏。元西武百貨店社長であり、石原慎太郎東京都知事(当時)はじめ石原軍団などさまざまな人脈をバックに持つ水野氏に、静岡空港反対で「嵐」が吹き荒れる予感が起きた。  石川氏は、「嵐」をどう抑えたのか?  石川氏は空港反対勢力が求める住民投票条例案に賛意を示し、「住民投票の結果に従う」と突然、表明したのだ。知事選前の6月、市民グループは空港建設の是非を問う住民投票条例案を27万人の署名とともに直接請求した。石川氏は条例案を受け取ると、「賛成」の付帯意見をつけて県議会に委ねたのだ。県民の多くは、空港の是非を問う住民投票が実施されると期待した。石川県政が積極的に推進してきた事業を否定される可能性が高いのに、住民投票に「賛成」するという離れ業に、少なからぬ県民が拍手を送った。静岡空港問題の争点外しであるが、有権者の目にはそう映らなかった。  石川氏に有利に働いたのは、小泉(純一郎)旋風が吹き荒れ、参院選と同日選挙になったため、知事選への関心は薄れてしまったことだ。マスコミ報道は、選挙と言えば、参院選一色に染まった。結果、石川氏の得票は102万票を超え、水野氏の約57万票を大きく引き離し、3期目を軽々と決めた。水野氏だけでなく、空港反対を唱えた共産など4候補の合計得票数は約78万票で、石川氏の静岡空港の争点外しはまんまと成功した。ただ、新聞各紙は石川氏に投票した相当数に「空港反対」が含まれると分析している。  「住民投票をしたら、静岡空港計画はつぶされる」。自民県議らはそう考えた。それでも、石川氏は住民投票条例案を上程した。空港建設事業費1900億円のうち、すでに約1000億円を投入、2001年度にも167億円を予算化していた。当然、JR東海は静岡空港新駅に聞く耳を持たなかった。それでも、静岡県はまっしぐらに空港計画を進めた。結局、自民県議団は知事提案を否決、住民投票の大騒ぎは終わりを告げた。  したたかな石川戦略から、岩井氏は何を学んだのか? のぞみの静岡駅停車を公約にすべきだ!  しかし、まわりまわって、石川氏を辞職に追い込んだのも、静岡空港問題だった。  4期目の最終盤になって、石川氏は静岡空港開港を妨げる立木問題で辞職を余儀なくされた。5期目に向けて、着々と準備を進めていた矢先だった。石川氏は、立木問題で空港開港のさらなる延期を避けるために、自らの首を差し出すことで、地権者の了解を得たのだ。公共事業として「無用の長物」というだけでなく、環境アセスにも大きな問題があったが、すべて目をつむり、政治家として静岡空港開港を優先した。  2000年当時、マスコミが「静岡空港」開港への批判を繰り広げたのに対して、「静岡県の交通事情に見る―静岡空港への期待」と題して、石川氏が県民向けに訴えたトーク文書が残されている。  『静岡駅ホームにいると、通過する新幹線のぞみ、ひかりは往復14本であり、県庁所在地なのに静岡駅の「ひかり」は1時間に1本しか停止しない』と石川氏は嘆いた。結果、「のぞみ」に対して”通行税”を徴収する提案を行った。また、静岡空港新駅設置をJR東海に要望するのは「身勝手で厚かましい要求」ではなく、JR東海にもプラスだとも述べ、JR東海に何とか悲願の空港新駅設置に聞く耳を持ってほしいと訴えた。それだけ静岡県にとっては、空港新駅が必要と懇願したが、JR東海は無視した。それが、現在のリニア反対につながっているのかもしれない。  石川氏は、空港開港時の利用者は160万から170万人と予測したが、開港当初から予測の半分にも満たない惨憺たる結果となってしまう。現在のコロナ禍の中、静岡空港に明るい先行きは見えてこない。新幹線を見れば、毎日約200本ののぞみが静岡県内を通過していく。その通過ごとに、こだま、ひかりは各駅停車を強いられ、5、6分の待ち時間につきあわされる。  石川氏を理想とする岩井氏は、リニア問題の解決だけでなく、のぞみ、ひかりの停車を何とかすると訴えるべきだ。川勝氏と違い、政治力で解決できるのだ、と訴えてほしい。  リニア問題では、JR東海の環境影響評価は甘く、流域の住民の理解を得ていない、と批判した。その発言を通して、「ルート変更」や「工事の中止」も選択肢のひとつだと述べた。国とのパイプを強調するのならば、ただ単に批判するのではなく、石川氏の悲願を受け継いで、のぞみ停車の道すじをちゃんと示すべきだ。  自民党推薦の最大の強みは政治力なのだろう。川勝氏とは全く違う岩井氏の強みを見せつけることではないか。岩井氏が静岡県内にのぞみを停止させることを”公約”にすれば、当然、有権者はJR東海が素直に従うと見るのがふつうだ。  リニア工事で静岡県へのメリットは何も見えてこない。JR東海はリニア沿線の新駅設置に取り組んでいる。東洋経済オンラインに、静岡県知事選、「リニア」が争点にならない不思議 | 新幹線 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 (toyokeizai.net)を掲載した。  まだ間に合うのかどうか分からないが、県知事選に勝つ”天命”のためには、岩井氏は、静岡県内へののぞみ停車を公約とし、必ず、実行できると自信満々に訴えるべきだ。

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リニア騒動の真相83「BAD BLOOD」な関係?

「リニア」外しの意外な選挙戦略とは?   6月3日告示の県知事選(20日投開票)で、「リニア」を争点から外すという元国交副大臣の岩井茂樹氏(自民党推薦)の姿勢は、25日の公開討論会ではっきりとした。川勝平太知事から「(大井川流域住民の理解を得るために)厳しい姿勢で臨む選択肢」を問われた岩井氏は「場合によれば、ルート変更、工事の中止も含めて毅然と対応したい」などと切り返した。流域住民が理解しない限り、国の有識者会議による(下流域への影響はほとんどないと結論づけている)中間報告案を認めない立場を強調したかっこうだ。  川勝氏は「ルート変更」や「工事の中止」と言った岩井氏の発言を予期していなかっただろう。「リニア」推進の立場を取る国や自民党をバックにしているから、まさか、川勝氏の得意技である「ルート変更」や「工事一時凍結」というお株を奪い、さらに踏み込んだ「工事の中止」にまで岩井氏が言及するなど思いもしなかったはずだ。  川勝氏が「(自民党推薦であり)自民党全体の責任で話しているのか」と追及すると、岩井氏は「その時の状況を踏まえて選択肢の中で(工事の中止も)ありえる」とかわした。  討論会会場の約150人、テレビ、新聞報道を見た県民が岩井氏の発言を額面通りに受け取ったのだろうか?当然、「ルート変更」も「工事の中止」も、「場合によっては」という前提があり、数ある「選択肢」のひとつに過ぎない。これが「リニア」の争点外しの選挙戦略であり、岩井氏が当選すれば、「リニア」推進に舵を切ることはほとんどの関係者が了解済みだ。反「リニア」の川勝氏に対して、「リニア」推進の岩井氏という構図を一番承知しているのは、リニア工事中止を求めた日本山岳会など反「リニア」の団体である。  さて、本当に「リニア」推進を訴えることが選挙戦でマイナスになるのか?川勝氏が「リニア」凍結を求めるのは、リニア工事が「命の水」と「南アルプスの自然環境」をおびやかすから、と訴える。”環境保全派”の川勝氏が岩井氏との違いを出す戦略だろう。と言っても、川勝氏は表面上、「リニア」には賛成の立場を取ってきた。それが、コロナ禍の中、「リニア」の必要性を見直すときに来ていると発言、反「リニア」色をさらに強める。川勝県政が継続すれば、今後4年間、静岡県内のリニア工事の着工は見送られるのは確実である。それでいいのか?  いまの日本に、リニアが必要であることをシリコンバレーで起きた事件を基に紹介したい。「BAD BLOOD」は、その事件を追ったドキュメンタリーのタイトル。ちなみに、「BAD BLOOD」とは、「悪い血」のダイレクトな意味だけでなく、悪感情とか反目とかでも使う。まさに、川勝、岩井両氏の関係も表わす。 美女エリザベス・ホームズを支えた大物たち  「BAD BLOOD Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup」は2018年5月、米国で出版された。著者はウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の調査報道記者ジョン・カレイロウー。血液一滴で200種類の病気を判別する革新的な血液検査装置を開発したというスタートアップ企業、セラノスの創業者エリザベス・ホームズの真実を追う物語であり、2015年10月15日付WSJ1面トップ記事「もてはやされたスタートアップの行き詰まり」(見出し)を世に出すことで、セラノスの秘密と嘘を暴いていくドキュメンタリーでもある。  エリザベス・ホームズ=タイトル写真=は見栄えがよく、フォトジェニック(写真うつりのよいこと)が大きな特徴だ。ブロンドヘアの白人、大きな青い瞳、落ち着いたバリトン・ボイス、スティーヴ・ジョブスをまねた黒いタートルネックのセーターなどのイメージ戦略がシリコンバレーの女王を創り上げている。取締役会の高名なベンチャーキャピタリスト、ドン・L・ルーカス、ラリー・エリソンやスタンフォード大学の花形教授チャニング・ロバートソン、元国務長官ジョージ・シュルツらはセラノスの秘密や嘘が暴露された後でも、WSJの記事や内部通報者ではなく、エリザベスをとことん信用する。大物政治家らは、彼女の若い魅力的な才能に惹かれ、絶対的な庇護者となってしまった。  彼女はスタンフォード大学化学工学部に進学したが、19歳で中退、2003年22歳の時、セラノスを設立、彼女らの発明したとされる「痛くない血液キット」によって、アメリカの大手薬局チェーンと業務提携するなど急速に拡大した。10年間で医療費が約2千億ドル節約できると予想され、世界中の注目を集め、セラノスの企業価値は9000億円を超え、弱冠31歳で資産50億ドルを稼ぎ出し、雑誌フォーブスは「自力でビリオネアになった史上最年少の女性起業家」ともてはやした。ホワイトハウス、米商務省などが協力して国際的起業を支援する機構メンバーにも選ばれ、オバマや現大統領のバイデン(当時、副大統領)らもエリザベスを絶賛した。  ことし2月になって、『シリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相 BAD BLOOD』(集英社)という邦題で日本語版が出版された。2006年11月の革新的な血液検査装置をスイスの製薬会社への売り込んだ成功の瞬間から2018年3月の証券取引委員会(SEC)の詐欺罪提訴までが詳しく描かれている。第1章「意義ある人生」から第18章「ヒポクラテスの誓い」まで、セラノスの不正に満ちた内部で何が起きているかを追っている。第19章「特ダネ」から第24章「裸の女王様」までの後半4分の1で、WSJのジョン・カレイロウー記者とセラノスとの対決が描かれる。米国弁護士の役割や秘匿特権などだけでなく、とにかく、登場人物が多く、仕事、家族や友人などの関係も複雑多岐にわたり、カタカナの分かりにくい名前ばかりだから、人間関係を理解するだけでも日本人にはひと苦労かもしれない。WSJへ通報したジョージ・シュルツの孫タイラー・シュルツは弁護士費用を40万ドルも支払った。社会正義遂行のために破産する可能性さえあったのだ。日本とは全く違うのである。  静岡経済新聞は2018年10月28日付「取材ノート エリザベス・ホームズの正体を暴いたのは?」で一度、紹介しているので、こちらを読んでほしい。 GAFAMも大風呂敷のスタートアップだった  なぜ、リニアが日本には必要なのか?その理由は、日本には「セラノス」が誕生しないからである。  GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)など、現在、世界を支配するIT企業も最初はスタートアップだった。Fake it, until you make it!(そうなるまでは、そうであるふりをしろ)。1980年代につくられた造語、Vapor-ware(ベイパーウエア)とは、制作中と発表しながら、なかなか実用にならないソフトウエアやハードウエアを指す。つまり前宣伝だけは華々しいが何年たっても実現しない霞や幻のようなソフトウエアやハードウエアで、大風呂敷を広げるだけ広げてあとは成り行き任せにするIT業界の傾向を指す。  マイクロソフト、アップル、オラクルもかつてはそんな大風呂敷を広げた。シリコンバレーのテクノロジー業界では大風呂敷はお家芸であり、資金調達の手段として許容されているという。  GAFAMに追い付こうとするスタートアップの一つがセラノスだった。スタンフォード大学教授のロバートソンはエリザベスに対して「第二のビル・ゲイツかスティーヴ・ジョブスの瞳をのぞき込んでいることに、わたしは気づき始めた」と言っている。エリザベスをはじめ、多くの若者たちがシリコンバレーを中心に数多くいて、大風呂敷を広げているのだ。  同書は、『2013年の秋までには、シリコンバレーの生態系に凄まじい勢いで資金が流れ込み、ここから生み出された新種のスタートアップを表わす造語「ユニコーン」ができた。ユニコーンとは、評価額が10億ドルを超える巨大スタートアップを指す言葉だ』とあり、当時、その数は100社を超えたのだ。  ユニコーンの代表格が、配車アプリのウーバーであり、当時35億ドルの評価額で3億6100万ドルを調達した。音楽配信サービスのスポティファイは40億ドルの評価額をもとに2億5000万ドルを調達していた。セラノスはこれらのスタートアップの評価額を一足飛びに追い越し、60億ドルと評価され、その差を広げていた。2014年には評価額90億ドルに達し、エリザベスの個人資産は50億ドルに膨れ上がった。とにかく、大風呂敷を広げることで資金を集めまくるのがスタートアップということだ。  大風呂敷を広げたままのセラノスが許されなかったのは、その製品が単なるソフトウエアではなく、人々の血液を一滴で分析、検査する医療器具だったからだ。医師は臨床検査の結果に基づいて治療方針を決める。臨床検査室の機能がちゃんと果たされていなければ、誤診を招き、多くの患者の死を招く恐れがあった。多くの人の生命を危険にさらすと承知して、エリザベスは自社技術がすでに完成しているように嘘をつき、大風呂敷をさらに広げようとした。  著者のジョン・カレイロウーはエリザベスを「稀代の売り込み屋(大風呂敷に酔う者)」と呼んでいる。工学用語も検査室用語も難なく自在に操り、新生児治療室の赤ちゃんが採血されずに済みますように涙ながらに訴えかけることで信頼を勝ち取り、あっという間に人々に魔法を掛けてしまう。  ちょうど、セラノスが事件化され、WSJで大きく報道されていた2018年4月から7月までアメリカの各地(ニューヨーク、シアトル、サンフランシスコなど)を回った。そこで実感したことの一つが、ウーバー(配車プラットフォーム)がなければ、アメリカでは生活できないことだった。GPSがなければ、自分自身の立っている場所がどこか分からないのだ。ホテルだけでなく、エアビーアンドビー(民泊プラットフォーム)も使った。ホストファミリーはアレクサ(アマゾンの音声サービス)を使い、スマホがなければ、生活ができないのだ。アメリカではスマホがなければ旅行(生活)できないから、わたしもスマホの契約をした。  日本に帰国して、すぐにスマホを解約して、ガラケイに戻した。便利で親切な国、日本ではスマホの必要性がないと実感したからである。PCがあれば、スマホがなくても何の不便もない。政府がこぞって高齢者らにスマホを持つように呼び掛けるが、必要性が薄いのだから、契約してもスマホの機能を使いこなせない高齢者が多い。スマホに道案内を頼むよりも、誰かに聞いたほうがずっと楽しい。アメリカと違い、日本はそういう国であり、公共交通、タクシーなど整備され、ウーバーを必要としない。(※法的にも縛られている)  日本の個人生活で、ITのお世話になることは最小限で済む。そんな国で、シリコンバレーのスタートアップが生まれる可能性は非常に小さい。  セラノスも日本のような国民皆保険の国では必要ない。つまり、成長分野が望めるIT産業は日本ではなかなか誕生できない。 リニアをインバウンドに生かすために  一体、日本の成長産業分野で何が残っているのか?コロナ禍が終息すれば、インバウンド需要が再び伸びて、観光産業がけん引していかなければ、他に目ぼしい産業はないだろう。4000万人以上のインバウンドに期待するしかない。  トヨタが30年後にいまのままであるのかどうかわからない。もしかしたら、潰れているかもしれない。トヨタは水素自動車に賭けているが、シリコンバレーを含めて世界では電気自動車にすべてターゲットを合わせている。エジソンのつくったGEやワトソン・シニアがつくったIBMがそうだったように、アップルもグーグルも現在の形を変えているだろう。  日本は中国と違い、GAFAMにすべてを頼っている。このプラットフォーム分野ではすべてアメリカの専売特許に任せている。だから、日本を売るしかないのだ。青函トンネル、本州四国連絡橋、東京湾横断道路などムダな公共事業かもしれないが、日本でしか体験できない。リニアも全く同じである。南アルプスの地下約4百㍍を貫通するリニアは日本に来なければ体験できない装置となるだろう。  約80年前、太平洋戦争で230万人の戦死者と80万人の一般市民が亡くなった。日本全土が焼土と化した。敗戦後、日本の復興が始まった。高度成長期が続いたが、バブル崩壊後、長い停滞期が続き、2011年の東日本大震災で約2万人の人命が失われると、また、日本の復興が始まった。日本人は不幸と幸福の狭間の中で生きている。コロナ禍という不幸が終えたあと、日本の復興にリニアはどうしても必要となるだろう。それが予測できるだけに、いまの若い人たちの未来にリニアは必要となると断言できる。  リニアについては、さらに詳しく書く機会があるだろうから、そのときに詳述する。今回、「BAD BLOOD」という優れたドキュメンタリーでシリコンバレーの現実を垣間見たことで、いまの日本に何が必要なのかをリニアに結び付けて、簡単に紹介した。  月刊WiLL7月号(ワック)が『リニアの夢を砕く 川勝平太静岡県知事はズブズブ親中派』(白川司)という論文を掲載していた。”ズブズブ親中派”かどうかの証拠には欠けるようだが、川勝氏が反「リニア」であることは間違いない。6月20日投開票の知事選では川勝氏が圧倒的に有利であり、工事凍結どころか、リニアはこのまま宙に浮いてしまう可能性さえある。本当にそれでいいのか、有権者が判断する。