ニュースの真相

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リニア騒動の真相68またまた『不都合な真実』だ!

「クエンチ」で超電導と常電導の違いが分かる  JR東海リニア中央新幹線のリスクや課題を紹介する『超電導リニアの不都合な真実』(川辺謙一著、草思社)が昨年12月に発行された。第1章「複雑な超電導の仕組み」、第2章「なぜ超電導リニアが開発されたのか」や第4章「なぜ中央新幹線を造るのか」などの補足的な説明をした上で、標題の『不都合な真実』は、第3章「超電導リニアは技術的課題が多い」が中心となっている。電磁波の影響や大井川の水、南アルプスの環境問題ではなく、リニア走行の技術的課題を取り上げている。その意味では、これまでの『不都合な真実』とは一線を画すだけに、購入時には興味深いと感じた。  同書が最も大きな問題と指摘したのは、「クエンチの発生」と「ヘリウムの供給不足」の2つである。  まず、「クエンチ」とは何か?クエンチは超電導状態から常電導状態に遷移してしまう現象を指す。超電導と常電導の大きな違いは、電磁石の種類の違いであり、強力な電磁石を使う超電導は常電導よりも非常に強い磁界を発生させることができる。この強力な磁界で、浮上する高さに違いが生まれる。  常電導リニアが約1㌢浮上するのに対して、超電導リニアは約10㌢も浮上させることができる。この力で、常電導リニアは時速300㎞走行は可能だが、時速500㎞になると超電導リニアのような安全性を確保できない、この結果、JR東海は世界初となる超電導を選択したのだ、という。  しかし、超電導では、超電導磁石が強い磁界を発生できなくなり、常電導状態に転移してしまうクエンチが起きるのは避けられない。ウィキペディアでは「クエンチに続いて全面的な常電導化が一気に進むので、電気的、磁気的、熱的、機械的に大きな変化が同時に起こる」と説明する。同書では、クエンチが起きると、電気抵抗が生じることでコイルが急激に発熱し、コイルを冷却していたヘリウムが液体から気体になり、体積が約700倍に膨れ上がる危険な状態になってしまうと説明する。  一般になじみがある、脳腫瘍、脳血管障害の検査に威力を発揮する断層画像撮影装置「MRI」も超電導磁石を使っている。MRIでもクエンチ事故(気化したヘリウムが充満して、煙がもうもうと出る。場合によっては内部にいる人が窒息する恐れもあるが、日本では人身事故の発表はない)が起きる。それでも、MRIの場合、ヘリウムガスを外に出す排気設備を設けるとともに、冷媒となるヘリウムなどの補充で事故に対応できるようだ。  一方、リニアの場合、屋外で超高速で走行する輸送機関だから、MRIのような対応はできず、クエンチを完全に回避するのは不可能だと言うのだ。もし、リニアでクエンチが起きれば、従来の鉄道では起こり得ない悲惨なトラブルが起こる可能性があると筆者は警告する。  1997年山梨実験線に移る前、宮崎実験線では4年間で14件のクエンチ事故が発生している。その後、JR東海は改良を重ね、山梨実験線で「クエンチは一度も起きていない」と説明、2010年のリニア小委員会で国交省担当者が「クエンチ現象は発生していない。技術的に解決したと考える」と太鼓判を押している。つまり、JR東海はクエンチを克服したのだ。  ところが、1999年9月の山梨日日新聞にクエンチが起きたと伝えているから、筆者は「山梨実験線でクエンチが少なくとも1回起きたことを前提に、超電導リニアの評価を見直し、導入することも改めて検討すべきだ」と主張する。  ただ、筆者が紹介している山梨日日新聞の見出しは「クエンチで車両停止」となっているが、記事をよく見ると「液体ヘリウムを供給するステンレス製の管の接合部に長さ約1㌢の亀裂が入っていた」とあるから、この亀裂の結果として、クエンチ現象は起きたが、これはクエンチではなく、何らかの他の原因による亀裂の発生がクエンチを招いてしまったと考えるべきだろう。その後、実際の原因が何かは報道されていない。  筆者は、1999年の事故がクエンチだと思い込んでいるから、JR東海は実際にはいまもクエンチを克服できていない、と判断している。ふつうに考えれば、「亀裂」とクエンチは別のものである。もっと突っ込んで取材をした上で、結論を出すべきだったのではないか。  同書では、JR東海がクエンチを克服できていない証拠が20年も前の新聞記事のみである。これでは首をかしげてしまう。 「ヘリウム供給」ができなくなる日?  もう1つの問題は「ヘリウム」の供給不足である。  超電導状態を維持するためには、コイルをマイナス269℃の極低温に冷却する必要があり、液体ヘリウムと液体窒素を冷媒として使用している。そのヘリウムについて、世界的に価格が高騰し、供給が不安定になり、入手が困難だと筆者は指摘する。全世界のヘリウム生産量はアメリカ約6割、カタールが約3割で、日本は100%輸入に頼っている。もし、ヘリウム不足によって供給できなくなれば、超電導リニアの走行ができなくなる恐れが高いという。  ところが、インターネットで「ヘリウム不足 超電導磁石」を調べると、ヘリウムを使用しない「高温超電導磁石」開発が日本で盛んに行われている記事が多く出てくる。「高温超電導磁石」では、コイルの素材を変えることで、液体ヘリウムではなく、電動の冷凍機によって冷却(マイナス255℃)を可能にする。この技術が実用化されれば、クエンチの発生についても対策を取る必要がなくなってしまうのだ。  JR東海、鉄道技術研究所はリニア用高温超電導磁石の開発を進め、リニアでもすでに一部の試験車両に搭載され、走行試験が行われている。現在、長期耐久性能を確認している最中なのだという。しかし、同書にはそのような記述は全くない。  JR東海によると、リニアに使うヘリウムは何度も使い回しができるから、ヘリウム使用量は年間に国内輸入の1%に過ぎないという。いまの段階でも、リニアにとって、ヘリウムの供給不足は考えられない、というのがJR東海の回答のようだ。『不都合な真実』筆者はJR東海への取材をしていないようだから、逆に、その点が「不都合な真実」となる恐れがある。  同書にはクエンチ、ヘリウムが何度も登場し、その結果、「リニア計画の中止」が結論となっていくのだが、全体的に見て、クエンチ、ヘリウムについての取材不足は否めない。  南アルプスの環境問題やコストやエネルギー消費量など、他の反リニア評論家らも指摘している問題に紙面を割くのをやめて、「クエンチ」「ヘリウム」だけに焦点を絞って、さらに詳しい取材をするべきだった。わたしのような素人の疑問に答えることで、本当にリニアにとって『不都合な真実』だったのかどうかが明らかになったかもしれない。  同書が指摘する技術的な課題は『不都合な真実』と言えるほどのものではない。ただ、JR東海がクエンチやヘリウムについて非常に労力を使っていることだけは理解できた。 川勝知事『不都合な真実』は言行不一致  同書では、2020年はJR東海はコロナの影響で「東海道新幹線の利用者急減」と静岡県などの反対で「中央新幹線の開業延期」のダブルパンチを受け、リニアに対して懐疑的な意見をメディアが報道されるようになり、ネットでも同様の意見が散見されることになったことで、筆者は「リニア計画の中止」を提案している。  コロナ禍の中にいると、コロナ後のことは全く見えてこない。コロナ前、インバウンド(訪日外国人)が日本の観光をけん引していたが、コロナ後にそういうこともなくなるのかどうか。もし、インバウンド需要がないとすると、静岡空港はじめ日本経済の行方は真っ暗である。  さて、『不都合な真実』を読んでいて、昨年8月に朝日新聞地方版に3回にわたって掲載された川勝平太静岡県知事の手記を思い出した。知事もクエンチやヘリウムのことを書いているのだろうか?当然、そのような記述はない。近いのは、超電導コイルに必要な希少金属(ニオブ、チタン、タンタル、ジルコニウム等)は世界中で取り合いであり、原料を確保できるのかと疑問を呈している。次回は、クエンチやヘリウムも取り上げてみてほしい。ただ、反リニアの評論等に書いてあるものを鵜呑みにしないでちゃんと調べてほしい。  各新聞社は新年紙面で知事インタビューを掲載している。朝日以外はすべての新聞が知事にリニア問題を聞いていた。  1月1日付の中日編集局長インタビュー記事に『今動けば県民に迷惑』という大きな見出しがあった。今夏の知事選で、4期目の意欲を問われると、知事は「今の危機はリニアとコロナだ。リニアで水が失われかねない、人類共有財産のエコパークが傷つけられるかねない。コロナも今は第三波の真っただ中。選挙運動はできない。県民のために働くのが知事。県民に迷惑をかけてはならない。ここで選挙のことを言うのは不適切だと思っている」。  4日の産経新聞などが川勝知事が年末に「不要不急の帰省は我慢して」と県民に呼び掛けておきながら、26日から1月3日まで長野県軽井沢の自宅に”帰省”していたのは不謹慎だと批判していた。暮れのインタビューで「今の危機はリニアとコロナだ」と言いながら、実際は、知事自身がそれほどコロナに対して危機感を持っていないことが明らかになった。ことしも川勝知事の「言行不一致」が始まったのである。  2020年に一番感じたのは、川勝知事の「言行不一致」である。菅首相批判をすると思えば、暮れには菅首相宛に飴のおまけをつけた手紙を送ったようだ。その中身は、「リニア工事凍結」だと言うが、手紙の中身は明らかにされていない。もし、菅首相が知事の手紙を公開すれば、またまた『不都合な真実』が見えてくるかもしれない。12月31日に自分で投函したことも明らかにしているから、「軽井沢からの手紙」は公的なものではなく、私信であり、年賀状のようなあいさつなのかもしれない。どうも、私的な部分と「リニア工事凍結」という公的な部分がはっきりとしない。  今夏の知事選まで、政治家として言行不一致の『不都合な真実』が続くかもしれない。4期目出馬の回答も同じだが、これは次回紹介したい。

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リニア騒動の真相67JR東海に欠けているもの?

国交省異例の「人事異動」とは?  静岡県リニア環境保全連絡会議生物多様性専門部会が12月25日、開かれた。1年3カ月ぶりの会合だったが、JR東海から目新しい資料等の提出はなく、各委員もこれまでの意見を繰り返すだけだった。県が年末になって、今回の会合を開いたのは、「水環境」だけでなく、「生物多様性」問題も忘れているわけではない、今後、必ずテーブルに載せる方針をJR東海に確認させる意味のほうが強かったのだろう。国の有識者会議で、「水環境」についての結論が見えてきただけに、迷路に入るのに等しい「生物多様性」をちゃんと県民らに向けて見せたかったようだ。  ただ、今回、まず紹介したいのは、当日、国交省から驚くべきニュースが飛び込んできたことからだ。  赤羽一嘉国交相は25日の閣議後会見で、来年1月6日付で鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)副理事長に水嶋智官房長を充てる人事異動を発表した。元鉄道局長の水嶋氏は昨年10月、ことし7月の2回、当時の藤田耕三事務次官とともに川勝平太静岡県知事に面会するなど、リニア静岡問題の打開を図ろうとしていただけに静岡県でもなじみが深い。2度目の知事面会直後に、水嶋氏は鉄道局長から官房長へ移った。官房長に就いて、たった半年を過ぎたばかりでの今回の異動はあまりにも異例である。  なぜ、今回の人事が行われたのか?北陸新幹線金沢―敦賀間の建設工事遅延で開業が23年春から1年遅れ、追加工費2658億円が必要となるなど地元からの厳しい批判を受けて、国は22日に同機構へ業務改善命令を出した。その直後、電光石火の人事異動によって理事長、副理事長更迭を発表、新しい理事長が決まらないまま、実質的な責任者となる副理事長に水嶋氏を充てたのだ。2003年に同機構が設立されて以来、初めてとなる現役職員というのは、国交省の危機感を現わしているのだろう。  鉄道畑の水嶋氏には、官房長に就いたあとも、膠着したリニア静岡問題の解決を図ることは大きな使命であり、宿題でもあった。国のリニア有識者会議責任者だった水嶋氏に対して、川勝知事は「(水嶋氏は)会議の運営が拙劣である。マネジメントの不誠実さが現れている」「水嶋局長は筋を曲げている。約束を守らない、やる気がない」「あきれ果てる運営で、恥を知れ」など言いたい放題の罵詈雑言を浴びせたから、水嶋氏は何としてもリニア静岡問題を解決したかっただろう。  タフな水嶋氏の対応を厳しく批判することで、知事は赤羽大臣が(水嶋氏の更迭などを含めて)動くものと期待していたようだ。ところが、逆に、赤羽大臣は「県民を代表する知事職にある方が、公開の場で自身の部下でない者を名指しで非難されたことは、これまでなかったのではないか」と断固とした姿勢を示した。  この発言前まで、知事は赤羽大臣に是非にも面会したいと言っていたが、いつの間にか、その発言をどこかに仕舞ってしまった。逆に言えば、今回の人事を含めて、タフな水嶋氏に対する期待が赤羽大臣らには大きいようだ。 「成田空港」に地域連携を学べ!   同機構は山梨リニア実験線の整備に携わり、山梨県、長野県、岐阜県など45㌔区間の工事を請け負っているから、水嶋氏とリニアとの関係が切れるわけではない。ただ、水嶋氏が赤羽大臣に期待されているのは数多くの問題を抱える北陸や九州などの国の整備新幹線建設工事だろう。その地域に入ってみないとわからない事情や深刻な問題を抱えているから、水嶋氏の手法に期待が掛かるのだ。  昨年12月、水嶋氏はJR東海幹部らを呼び、「成田空港勉強会」を開いた。勉強会は非公開だったため、その内容が分からず、成田と言えば、どうしても「成田闘争」のイメージが強かっただけに、昨年の12月15日「リニア騒動の真相26」で『「成田」ではなく、「流木」に学べ!』と地域とのつながりを重視するよう求めた。あとで聞いてみると、「成田空港勉強会」もわたしの関係してきた安倍川、大井川の流木イベントと同様に地域との信頼関係をどのように築いていくのかが大きなテーマだったようだ。  水嶋氏は長年、成田空港問題に携わり、その解決に当たって、大規模な交通インフラ整備には事業者が地域としっかりと信頼関係を築くことが不可欠だという信念を持っている。お祭りやイベントなど日常的なつきあいを重ねて、地域とコミュニケーションを取るために成田空港株式会社は担当セクションを設けた。リニア静岡問題でも成田空港問題で培ってきた経験とノウハウをJR東海に理解してもらい、具体的に生かしてもらいたいという意図が強かった。  今回のタイトルは、水嶋氏の人事異動というニュースに触れたからではなく、県生物多様性部会を傍聴していて「JR東海に欠けているもの?」と付けた。県生物多様性部会で一体、何があったのか? 増澤委員の不在が意味するものは?  今回の生物多様性専門部会で、板井隆彦部会長(静岡淡水魚研究会会長)は会合が始まってから、何度も、増澤武弘委員(静岡大学客員教授)の不在について事務局に問い合わせた。午後3時の定刻になっても増澤氏の姿が見えないことで、板井氏は事務局にどうなっているのか尋ねた。事務局は「増澤氏は少し遅れているが、会議を始めてください」と促した。増澤氏は交通など何らかの理由で到着が少し遅れるだけなのだろう、と推測された。まさか、増澤氏がそのまま欠席するとは、そのときには板井氏は考えもしなかっただろう。  JR東海に対する4人の質疑が終わると、あらためて増澤氏はどうなっているのか、板井氏は尋ねた。事務局の回答はあまりに曖昧なものだった。各委員は都合2回ずつ、質疑を行った。板井氏は最後のまとめ前にも増澤氏の不在について、事務局に聞いたが、曖昧な回答しかなかった。  増澤氏は大学教員として南アルプスの植物研究に取り組んできた。専門部会の植物研究者は増澤氏ひとりであり、他の委員は動物を専門にする。県の他委員選考には疑問が残るが、植物と言えば、増澤氏ほどふさわしい人材は見当たらない。11月27日の県リニア環境保全連絡会議の全体会議に出席、増澤氏は塩坂邦雄委員がJRの資料に「大きな矛盾点がある」と発言したのに対して、地質構造・水資源専門部会全体の意見なのかどうかを聞いていた。つまり、増澤氏は発言が科学者の視点に立っているのかを大切にするのだ。だから、板井氏は増澤氏の意見を尊重する姿勢を持ち、今回の重要な専門部会を欠席するなどとは思えず、都合4度も増澤氏の不在について会議中に関わらず、事務局に聞いたのだ。  そして、会合は終えてしまった。事務局からは増澤氏の不在について何ら説明はなかった。多分、分からなかったのだろう。  もしかしたら、県にとって、増澤氏の不在はそれほど大きな問題ではなかったのかもしれない。23日会見で、川勝知事はJR東海に静岡工区の工事凍結を求めた。その理由のひとつが、南アルプスの重要性であり、今回はその重要性を訴えるための会合だった。だから、県は内部で何度も打ち合わせを行ってきた。その主な調整事項は会合の運営についてだった。  一体、どのような運営だったのか? 県が最も優先したのは何か?  まず、時間配分である。午後3時から4時半までが会合、その後5時半過ぎまでの1時間以上が囲み取材である。会合の中身よりも、メディアがどのように報道してくれるのか、それが県にとって一番重要な問題だったのだろう。つまり、副知事の囲み取材こそが最も重要なイベントだったのだ。副知事の主導によって、記者たちは会合の内容を理解するからである。  それが分かるのは、報道席である。県担当者、市町などの関係者があって、その後ろだから、はるかに遠い位置に設定された。それぞれがマイクを使っているのに、マスク着用もあってか、肝心の委員の質問は何を言っているのか聞こえてこないのだ。事務局はそんなことに頓着していなかった。そのため、記者たちのほとんどが報道席を離れてしまい、テレビカメラと同様に立っているか、窓際の近くに椅子を持ってきて座っていた。そんな状況で会議内容を理解するのは非常に難しい。だから、会議を終えたあとの副知事説明を記者たちは期待したのだ。  また、地元の報道陣のほとんどの顔触れが変わり、東京からのフリー記者も生物多様性部会は初めてのようだった。囲み取材で、質問内容は当日の会議とはかけ離れ、基本的な問題が多かった。ある記者がJR東海に対して、「なぜ、生物多様性部会の開催が1年3カ月も離れたのか」と聞いた。傍らで聞いていた板井氏が「県の主導でやっているのだから、そんな質問をJRに聞くべきではない」と言っているのが、聞こえた。  とにかく重要なのは、副知事の囲み取材だった。だから、副知事の囲み取材が真っ先に行われた。その際中に、小声で板井氏と話していると、事務局の自然保護課長が厳しく注意をしてきた。廊下に出たのだが、それでも何かまずい雰囲気でドアの前に立っていた。ところが、午後5時半近く、板井氏の囲み取材になった途端、リニア担当理事が会議室の電話を使い、何やら大きな声で話していた。それも2度に渡ってである。部長職の理事に課長含めて誰も注意をする者はいなかった。県職員にとって、何が重要で優先しているのかがはっきりとしている。  シナリオ通りに会議は終えた。どんな開発であれ、それなりの自然環境への負荷が出て、深刻な影響を与えるのは県の事業も同じである。ユネスコエコパークの南アルプスがそれほど重要ならば、世界文化遺産の富士山の自然環境を守るために、スバルライン、スカイラインの閉鎖などを話し合うべきである。富士山の保全措置を見る限り、JR東海に求めているような厳しい対策を講じてはいない。  JR東海は、県に会議方法を学ぶべきである。内容はともあれ、知事のように自分のことばを選ぶことも重要であり、県民らに訴える力は非常に大きいのだ。自分たちで記者会見を開くべきであるが、いまのままでは訴える力はゼロに等しい。批判の集中砲火を浴びるだけだ。  JR東海は理屈のみで説明しようとするが、それでは説得力に欠ける。県は会議の組み立てから職員総出で予習を行い、どのように目的を達成できるのかを検討している。今回の会議でも、JR東海が説明すれば、するほどボロが出ていた。専門家ばかりの席で、理屈や論理のみで応酬するのであれば、JR東海は間違っていないが、会議に出席しているのは、南アルプスの特性も環境問題もほとんど知らない記者たちである。副知事は彼らに向けてしゃべっているが、JR東海は目の前の専門家さえ分かればいいと思っているようだ。だから、囲み取材でもボロが出てしまう。  昨年12月、水嶋氏の主導で「成田空港勉強会」を開いたが、JR東海には何ら響かなかったようだ。水嶋氏が今後、民間の立場でJR東海を指導できるのか、分からないが、何よりもJR東海は自発的な取り組みをしなければならない。  29日アップの予定で、東洋経済オンライン『JR東海が見習うべき地域連携の姿』という記事を書いた。いま一度、リニア静岡問題にどのように取り組むべきか、JR東海は考えてほしいのだ。金子慎JR東海社長も読んだほうがいいだろう。

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リニア騒動の真相66「捏造」指示の狙いは?

何をもって「捏造」と言うのか?  23日、東洋経済オンラインで『驚きの事実、静岡県リニア文書に「捏造」あった 議事録に記載ないのに委員意見として文書作成』の見出し、記事をUPしてもらった。東洋経済では何と「捏造」の見出しをつけた。県が送ってきた文書を会議に参加していない国交省に、まるで会議で合意を得た意見と錯覚させるような作為もあったから、このでたらめな文書を「捏造」と考えたのだろう。東洋経済の記事は一般読者に向けて、担当者がわたしの原稿をわかりやすく直してくれた。ただ、紙面の関係もあり、工法等に関する細かい部分を省略しているため、正確に伝わらない点も多い。  今回の問題は「(JR東海の資料に)大変な矛盾点がある」と指摘した塩坂邦雄委員の意見は「仮定」を積み重ねていき、ありえない結論をつくり、その文書を国に送ったことだが、国交省に塩坂氏の意見が「仮定」だとは気がつかないくらいに、県の送った文書は巧妙にできている。なぜ、そんなことをしたのか?それを説明していきたい。  まず、わたしの最初の驚きは、12月8日、国交省で開かれた第7回有識者会議後の記者会見である。江口秀二審議官の囲み取材で、静岡新聞記者が「静岡県が送った(塩坂氏の指摘を含む)リニア環境保全連絡会議の意見書についてどう対応するのか」と疑問を投げ掛けたことだ。その疑問を聞くまで、そのような文書があること自体、全く知らなかった。すぐに、静岡県HPで、この意見書を探したが、見当たらないのだ。なぜ、静岡新聞記者だけ県が意見書を送ったことについて知っていたのか?  わたしは11月27日の県リニア環境保全連絡会議後の森下祐一部会長の囲み取材で、「塩坂氏の指摘を県専門部会で問題にして議論するのか」と尋ねた。もし、塩坂氏の「大変な矛盾点」を問題にするのであれば、県専門部会の席だろうと考えた。その後、県リニア担当理事にも尋ねた。  ところが、県はいつの間にか塩坂氏の意見を国交省に送り、有識者会議に諮るよう求めていたのだ。その事実を静岡新聞のみに伝え、わたしを含めてそれ以外の記者を無視した。静岡新聞が県の「御用新聞」だからと言えば、それで済む問題と県は考えたのだろうか。川勝平太静岡県知事がリニア問題についてはすべて公開を唱えているのだから、このような”特別扱い”は許されるはずもない。  翌日の9日に、県リニア担当理事に説明を求めると、「12月3日に事務連絡として送ったが、内容は問題にならないようなものだから、HPでも発表しなかった」と回答した。「静岡新聞記者が聞きに来たから、教えた」などととぼけていたが、「内容は問題にならない」事務連絡の文書と当該意見の議事録をもらった。 森下、安井両氏が塩坂氏に「異論」「反論」  事務連絡は、やはり、塩坂氏の「大変な矛盾点」を会議の意見にしていたから、塩坂氏の発言議事録を森下部会長に送り、「大変な矛盾点」についての見解を聞いた。  県が国に送った塩坂氏の意見は2つある。最初の意見が、その「大変な矛盾点」に当たる。資料38(図25)について「ボーリング調査の結果、(大井川支流の西俣川直下の断層)690mから700mにかけて、(JR作成の資料写真で)コアの採取率が50%であることから、当該地域に約10mの破砕帯が存在しているといえるが、その場所には湧水がない結果(図25の赤丸で示された掘削時の湧水増加区間となっていない)となっており、矛盾があるので、検証が必要である」と書いてあった。  塩坂氏の「矛盾点」指摘については、『リニア騒動の真相64JR東海批判の「無責任報道」』で詳しく書いているが、やはり、一般読者には非常にわかりにくいのだろう。  塩坂氏の指摘に対して、森下氏は「矛盾はない。(JRは)湧水したかどうかの計測値を記入したのであり、(湧水がなかったのは)JRの勝手な解釈ではない。湧水がなかったことで、逸水があったかもしれない。断層=湧水ではない」などとコメントしてくれた。これで、塩坂氏の指摘が正しいと言えないことが分かった。  もし、県が森下氏に意見を聞いていれば、塩坂氏の意見に異論、反論があることが明らかだった。ふつう、そんな異論、反論のある意見を県は一方的に「重要」とは考えない。検証しなければならないからだ。この点だけでも、今回の県の姿勢に疑問を抱くはずである。  塩坂氏の2番目の意見は、資料46ページ(図26)について、「ボーリング時の口元湧水量について、約600mのセメンチングを行った後も湧水量が上がっている。つまり、大量の出水が予測される690ー700m間の約10mにおいて、薬液注入による止水ができないと思われるので、その議論が必要である」(2番目の塩坂氏の意見は、12月9日にわたしがもらった文書をそのまま書いている。実際には、会議で議論しなかった意見に文書を「捏造」してしまった。その「捏造」については東洋経済オンラインの記事でも紹介している)  「ボーリングのセメンチング(セメントを塗るなどで固める)と実際のトンネル施工ではセメンチングの方法も違い、薬液注入等で湧水があっても止水できる」と同会議の席で、トンネル工学の専門家、安井成豊・施工技術研究所部長が述べている。そもそも、「大量の出水」について、森下氏が否定し、さらに、出水があったとしても、止水ができるとそれぞれの専門家が異論、反論を述べているのだ。塩坂氏の意見は、他の専門家から見れば、ずさんなぼろぼろの意見だと言われたのに等しい。  会議の席での安井氏の意見を無視して、県はなぜ、塩坂氏の意見が正しく、重要と考えたのだろうか?2人の異論、反論を見れば、塩坂氏の意見が正しくも、重要でもないと、静岡経済新聞の記事を読む読者には分かるが、静岡新聞だけを読んでいれば、全く、理解できないだろう。 「山梨県側へ流水する」は可能性ゼロ  そして、最大の問題は「薬液注入による止水ができなく、結果的に先進坑で水を抜くことになり、山梨県側に流水してしまうことになる」という塩坂氏個人の意見を県が会議での意見として「捏造」したことである。  安井氏は「止水ができる」と主張した。それなのに、この文書では「止水ができなく」となっている。さらに、結果的に「水を抜くことになり」とは、水没してしまう状態なのだろう。  JRは下り勾配でトンネル掘削を行う予定であり、もし、万が一、トンネル内の10m区間のみが水没するような湧水に見舞われても、排水作業を行い、薬液等で対応できると説明してきた。水没しても大丈夫と言っているのに、塩坂氏は水没してにっちもさっちいかない状態を「仮定」している。もし、そんな「仮定」をするならば、塩坂氏は、JRの主張に問題があることを科学的な根拠をもって示さなければならない。  最も大きな問題は、下り勾配の掘削では「山梨県側へ流水する」可能性はゼロであることだ。ここで、タイトル写真を見てほしい。現在、議論しているのは、西俣川直下の断層である。図には赤字で「脆い区間は延べ約200mで確認(短いスパンで繰り返し出現)」という注意書きのある場所で、この区間は下り勾配で工事をすることになっている。水は止まってしまうから、たとえ、大量湧水があったとしても山梨県側へ流水することは絶対にありえないのだ。  塩坂氏の意見は、大量湧水によってにっちもさっちもいかなくなり、下り勾配では工事ができなくなった緊急事態を「仮定」している。その結果、静岡県で下り勾配の工事から、山梨県側から上り勾配での工事に工区変更を行うことを「仮定」している。だから、「山梨県側へ流水してしまう」という結論が導き出されるが、これでは、とんでもなく飛躍していることがわかるだろう。  次回の有識者会議で議論になるのは、タイトル写真の山梨県境付近にある畑薙山断層帯の800m区間についてである。赤字で「脆い区間を約800mの区間で確認」とあるから、南アルプストンネル工事の最難関区間であり、この区間は静岡工区ではなく、山梨工区として、上り勾配で掘削していくことになっている。だから、「山梨県側に流水してしまう」のである。その流水に対して、川勝知事は「水一滴たりとも山梨県側への流出は許可できない」としているから、有識者会議でどのような結論となるのか注目される。  ところが、県の文書は、この800m区間ではなく、約10m区間の西俣川断層について塩坂氏の大きな問題があるとの指摘を取り上げたのだ。県は塩坂氏の「仮定」が重要であるとしたが、その科学的な根拠は全く持ち合わせていない。これは、振り返って考えると、「中下流域の地下水への影響」問題と非常に似ているのだ。  当初、知事は湧水全量戻しについて、山梨県側への流出のみを問題にしていた。いつの間にか、県リニア環境保全連絡会議で、ふつうではありえない約100㌔離れた中下流域の地下水への影響を問題にするようになった。わたしは、「リニア問題の真相」で何度もそんな事態は、「ブラックスワン(金融危機や自然災害で極端に確率が低い予想外のことが起こり、それが大きな波及効果をもたらす現象)」と同じだと書いてきた。たとえ、「ブラックスワン」であったとしても、JRは科学的な根拠を示さなければならなくなってしまった。  西俣川直下の断層についても、静岡新聞は塩坂氏の指摘に合わせて、何度も報道している。実際には「仮定」に基づく可能性を指摘しているだけなのだ。今回のように森下部会長や安井委員らが異論、反論をしてくれているから、塩坂氏の指摘がとんでもないことだとわかるが、県や静岡新聞が何度も言えば、中下流域の住民らは大きな不安を抱くだろう。いつの間にか、住民の不安解消のために、JRは西俣川直下の断層に大量湧水が発生しないことを科学的な根拠で示せ、ということになっていただろう。  こんな議論は、為にする議論でしかないが、「中下流域の地下水への影響」についても証明するのに有識者会議は非常に苦労しているから、もし、そのまま塩坂氏の意見がまかり通っていれば、「地下水への影響」の二の舞になっていたかもしれない。  23日の知事会見を聞いていても、リニア問題について、川勝知事の発言に進歩は見られない。有識者会議での議論を聞いて、正確に理解しているわけではない。とにかく、説明責任はJR東海にあるの一点張りだ。挙句の果てに、静岡工区のリニア工事凍結を求める発言まで飛び出した。とにかく、JRに対して、何らかの問題を提起することが知事の役割のように思っているのだろう。こんな政治的な動きではなく、ちゃんと科学的に理解して、この問題の真相が何かを見極める目をより多くの人たちが持つべきであり、そのためには、JR東海もちゃんとやるべき説明をしていかなければ、今回のように新たな問題を突き付けられることになるだろう。

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リニア騒動の真相65「御用新聞」では生き残れない

「完全な御用新聞」と批判した週刊ダイヤモンド  国交省の第7回有識者会議が8日開かれた。座長コメントは「想定されている湧水量であれば、トンネル掘削完了後にトンネル湧水量の全量を大井川に戻すことが可能な計画となっていることを有識者会議として確認した」などの結論が出された。JR東海はトンネル掘削によって、大井川流量2㎥/秒が減少すると予測、工事後は導水路トンネルを設置して、ポンプアップなどを併用してトンネル湧水量の全量を大井川に戻す措置を立てた。この計画を有識者会議が支持したわけだ。  今後は、トンネル工事中について、川勝平太静岡県知事の「”命の水”は一滴たりとも県外流出は許可できない」発言に対する議論が行われることになる。これまでの県専門部会の議論で、JR東海は、先進坑が開通するまで、工事中の作業員らの安全上、山梨県側に10カ月間0・08㎥/秒、長野県側に7カ月間0・004㎥/秒の流出があることを明らかにしている。第8回有識者会議からは「湧水の県外流出」が議論の俎上に載せられる。  これまでの有識者会議の議論で「中下流域の地下水への影響等はほとんどない」とする結論が得られ、問題解決へ一歩前進した。今後、知事の「水一滴でも流出は許可できない」発言に対しては、委員らがどのような意見を持つのか?果たして、JR東海が知事発言に対応した対策を打ち出すのか?大きな注目が集まる。  有識者会議の議論は順調に進んでいるが、その議論とは別にさまざまな”場外乱闘”が繰り広げられている。県と共闘して”場外乱闘”のタネをつくってきた静岡新聞だが、今回の有識者会議でも問題のタネをまいた。  会議後の記者会見で、静岡新聞記者が江口秀二審議官に最初に投げ掛けた質問はまさに”場外乱闘”のタネだった。11月27日に第9回県リニア環境保全連絡会議が開かれ、その席で塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)がJR東海の資料に「大変な矛盾点、欠陥があった」と指摘した。静岡新聞記者は「静岡県が送った(塩坂氏指摘を含む)意見書にどのように答えるのか」と尋ねたのだ。  県が国交省に「意見書」を送ったことを静岡新聞記者の質問で初めて知らされた。リニアに関係する資料はすべて公開すると、県は主張してきたから、わたしが静岡県HPを見落としただけだったのかもしれないと最初は思った。  すぐに、静岡県HPを何度も探したが、そのような「意見書」を見つけることができなかった。県の環境保全連絡会議後、森下祐一県地質構造・水資源専門部会長の囲み取材で、塩坂氏の意見について、県専門部会で問題にして議論するのかを尋ねた。さらに、県リニア担当理事にも同じ質問を投げ掛けた。  それなのに、県担当者は静岡新聞記者だけに、県の作成した「意見書」を渡し、国交省へ送付したことを伝えたのだ。わたしを含めて誰も、その「意見書」を読んでないから、静岡新聞記者が何を言いたいのかさっぱりわからなかった。あまりにも不公平である。  「これでは、県の言い分を垂れ流す完全な御用新聞ですよ」(週刊ダイヤモンド2020年10月10日)。先日、リニア問題にからんだ静岡新聞を批判した記事が掲載された特集(「ジャーナリズムとは程遠い?地方紙”トンデモ”列伝」)を教えてもらったばかりだった。まさに、ダイヤモンドの記事の通りだった。  静岡県の「御用新聞」記者が、県の主張をそのままに質問したのだ!川勝知事は記者会見等で、この「御用新聞」記者を特別扱いするのは周知の事実である。県政記者クラブで問題にしないのは不思議で仕方ないが、今回のような”特別扱い”が許されるものではない。 新聞発行以外の分野に乗り出す静岡新聞  この記者による、9月10日付静岡新聞1面トップ記事『大井川直下「大量湧水の懸念」 JR非公表資料に明記 想定超える県外流出』についての問題点を何度も批判した。東洋経済オンラインの10月2日『静岡リニア「JR非公表資料」リークしたのは誰だ』、11月5日『JR東海と県の対立をあおる「静岡新聞」への疑問』、「リニア騒動の真相」連載では10月2日『県と新聞社マッチポンプ?』、10月11日『新聞記事にご注意を!』などで詳しく報じている。  県リニア環境保全連絡会議の翌日、11月28日付静岡新聞は『大量湧水止める工法限界 県有識者会議指摘 支流直下 掘削時 区割り影響、水量減も』という大きな見出しで、塩坂氏が「大変な矛盾点、欠陥があった」と指摘した意見をそのまま記事にしている。まさに「御用新聞」の本領発揮と言ったところか。この記事を受けて、県は「意見書」を作成、国交省に送ったことになる。  塩坂氏の意見等についての反証は、11月29日『リニア騒動の真相64JR東海批判の「無責任報道」』として報じた。また、静岡新聞については『政治部記者として、流域住民の不安を煽ることだけが記事の目的なのだろうか。いくら紙幅の制限があるとしても、事実を正確に読者に伝えようとする科学記者の視点に欠ける。24日の記事内容も塩坂氏の指摘だろうが、どういうわけか、記事に塩坂氏の名前は登場していない。(素人の)政治部記者の視点だけで記事が構成されている。静岡新聞では、科学的な議論についてのチェック機能が全く働いていないようだ』と書いた。最近の静岡新聞の質の低下を多くの読者らが指摘している。  12月2日付静岡新聞経済面に『新事業創出・育成へ 「未来創造工房」新設』の3段見出し記事を見つけた。「来年1月1日、静岡新聞社・静岡放送は新聞発行や番組製作など従来のメディア事業と異なる分野で新しい事業に挑戦し、育成する専門部署フューチャー・クリエーション・スタジオ(未来創造工房)を新設する」とあり、すぐ下に2人の社員が同部署に異動することになっていた。やはり、静岡新聞自体が危機感を抱いているのだ。  新聞でも放送でもない、新たな分野とは?一体、何をするのか? 静岡新聞の「イノベーションリポート」とは?  フューチャー・クリエーション・スタジオをネットで調べると、大石剛社長が12月1日、社員に送ったメッセージが見つかった。  「(コロナ禍の中)この未曽有の状況で昔のように家族的な温かさでは社を存続させていくこと、ここで働くみなさんを守っていくことはできない。この危機を乗り越えるには企業変革であり、新たな事業の創出である。志を一緒にできない方、知恵も汗も出せない方には泥舟に乗っていただく」などと述べていた。「志」とは「ユーザーにとって価値あることを提供しつづけること」であり、ユーザーのことを一番に考える「自分ごと化」をしてもらう、ともあった。  メッセージの中で「自分ごと化」や「オープンイノベーション」「ジョブ・ディスクリプション」などといった単語は初めて聞き、具体的には理解できなかった。  調べていくと、静岡新聞社がことし8月に発表した「イノベーションリポート」が全国の地元紙の注目を集めていた。昭和の終わり頃を舞台に、日経新聞と時事通信社の生き残りを賭けた記者らの姿を追ったノンフィクション「勝負の分かれ目」の著者、下山進氏が大石社長をインタビューした記事を見つけた(2020年9月20日サンデー毎日の記事「NYTと静岡新聞のイノベーションリポートは何が違うのか」)。  NYタイムズが「イノベーションリポート」によって、デジタル化を進め、デジタルの収入が紙の収入を上回るまでになったように、「静岡新聞版イノベーションリポート」に下山氏は期待を寄せたようだが、実際は、「ずっこけた」などと書いている。締めくくりに『静岡新聞の最新の部数は51万部まで落ち込んでいる。特にこの2年半、10万部以上の部数を失った。決算は直近二期連続の赤字決算。「イノベーション」は確かにまったなしに見える。リポートは議論の出発点となるか』とあるから、大石社長の危機感に共感しているようだ。ただ、下山氏は中身があまりにも具体的ではない、とも指摘している。  いずれ紙媒体は凋落してしまう。そんな中で、静岡新聞は生き残りを賭けて何をするのか? リニアに日本型「イノベーション」の可能性  Fake it til you make it(できるまではでっちあげろ、成功するまでは成功しているふりをしろ)。2018年6月、初めてシリコンバレーを訪れ、「シリコンバレーの信条」を知った。スタートアップ文化とも呼ばれ、シリコンバレーには一攫千金を狙うベンチャーが数多くいて、その多くが、VC(ベンチャーキャピタル)などに嘘や都合のいい話ばかりをしているようだ。  わずか一滴の血液で200種類以上の病気の診断法を開発したベンチャー企業「セラノス」を立ち上げて、弱冠31歳で資産45憶ドルを築いた女性起業家エリザベス・ホームズをサンフランシスコ滞在中に知り、シリコンバレーを訪ねた。エリザベスを詐欺容疑で起訴する記事をウオールストリートジャーナル(WSJ)で読んだからだ。「一滴の血液」診断はまさに「でっちあげ」だったのだ。  エリザベスの”嘘”をあばくために調査報道を続けたWSJのジョン・カレイロウ記者の著書「BAD BLOOD Secrets and Lies in a Silicon Valley startup」は、捜査当局が入るまでの一連の調査過程を描いている。ハリウッドで映画化も予定されている。シリコンバレーは光の世界だけでなく、数多くの闇の世界が渦巻いている。  シリコンバレーで、スタンフォード大学のインターンとして研修する化学者の卵や日産研究所の自動運転の研究者らと話をすることができたが、実際には、シリコンバレーのコミュニティへの参加は非常に難しい。エリザベス・ホームズのような事件は大小とりまぜて数多くあるが、日本にはそんな情報は全く入ってこない。  静岡新聞の目指すところを、シリコンバレーのスタートアップ文化から学んでいるならば、リニアについてもちゃんと理解すべきだ。日本では、「GAFA」「GAFAM」といったプラットフォーマーは創造できない。米国を受け入れるだけで、中国のように自国でつくることはできないからだ。新たなイノベーションによる大変革を何に求めるのか非常に難しい。  近い将来、電気自動車が従来のガソリン車を駆逐するように、テクノロジーはビジネスモデルを変える。現在、リニアは時速500㌔と言っているが、開業段階に時速600㌔を目指し、東京ー大阪間を約50分で結ぶ。すでに次世代交通システムは、電気自動車のテスラ創業者イーロン・マスクがぶち上げた「ハイパーループ」(空気抵抗をなくして真空状態をつくる)を目指している。時速1200㌔で、東京ー大阪間は25分に短縮される。韓国では17分の1モデルが時速1019㌔を実現、米国ではバージン・ハイパーループがたった500mだが、有人走行に成功している。まだ、多くの課題が山積している。  トヨタのハイブリッドカーが一時代をつくったが、近い将来、電気自動車がとって代わる。リニアは「ハイパーループ」の時代が来る前の新交通システムとなりうる可能性を持つ。時速600㌔のリニアの時代はすぐ目の前にあるからだ。日本の革新技術が早急に実現しなければ、中国、韓国などが追い抜いていくだろう。  大石社長が目指すところが、日本の「イノベーション」であるならば、リニアを理解できない「御用記者」による”場外乱闘”ばかりでは正しい方向を導くことはできない。個々の会社が存亡の危機にあるように、日本の国そのものに強い危機感を抱くべきである。

ニュースの真相

コロナ後の世界1「プリンストン大学」へ行こう!

村上春樹訳「グレート・ギャツビーを追え」とは?  30年を区切りに新聞社を辞めてからは、環境と医療の2つのNPO法人、大学病院の広報担当理事、博物館副館長の傍ら、2つの雑誌を発行するなど自由な時間で仕事に向き合ってきた。コロナ禍の中、在宅勤務が推奨され、ようやくわたしのような仕事スタイルが認められるようになった。「コロナ後の世界」はどうなるのか?安定した生活もいいが、ワクワク、ドキドキしながら過ごすのも人生である。発見の始まりは、「旅行」だろう。第1回は、米国「プリンスントン大学」へ行ってみよう。  ことし10月、ジョン・グリシャム著、村上春樹訳「グレート・ギャツビーを追え」(中央公論新社)が刊行された。プリンストン大学図書館地下に厳重に保管されている作家F・スコット・フィッツジェラルド(プリンストン大学中退)の長編小説の5つの生原稿が盗難に遭い、保険会社に雇われて、その行方を若い女性作家マーサー・マンが追うという物語である。アメリカでは有名作家の生原稿にべらぼうな値段がついている。5つの長編小説は2500万ドル(30億円くらいか)だから、文学芸術に対する価値観が日本と全く違う。小説追跡の舞台は、フロリダにあるカミノ島というリゾート地に移る。そこで独立系書店を営み、稀覯本を収集するブルース・ケーブルがもう一人の主人公として登場、カミノ島に住む個性的な作家たちと交流している。交流会にマーサーも招かれ、フィッツジェラルドの生原稿の行方を握るブルースの秘密を探りながら、次第にブルースの魅力にひかれていくという筋立てだ。有名作家の生原稿の価値とともに書店主の生活や地位もあまりに違うようだ。  あとがきで、村上春樹は2年ほど前、ポーランドを旅行している最中にクラクフの書店で、「Camino Island」というタイトルのペーパーバックを手に取り、裏表紙に書かれている筋書きに強くひかれて購入したという。それでようやく、わかった。何だ、「グレート・ギャツビーを追え」は「Camino Island」だったのか、と。  村上の2年ほど前と一致する。わたしは2018年1月頃、ペーパーバック版「Camino Island」をアマゾンで購入した。4月初旬から7月初旬までの3カ月間、アメリカ旅行へ行く前に、アメリカ小説1冊を原著で読んでみようと考えた。「法律事務所」「ペリカン文書」などグリシャムの小説を何冊も読んでいた。こちらは、すべて白石朗訳である。原書を読了するのも英語の勉強と覚悟を決めた。表紙に「針の眼」「大聖堂」などの作家ケン・フォレットが”The best thriller writer alive”(最高の推理小説作家、健在)の賛辞を寄せていた。「グレート・ギャツビーを追え」を購入後、「Camino Island」を引っ張り出してきて、もう一度、村上訳と比較しながら、読んだ。物語の中心が、本当はどこにあるのか表紙を比較するだけでもわかる。日本では、「村上春樹」と「グレート・ギャツビー」を強調しないと本の売れ行きに影響するのだろう。  わたしの場合、批評眼はあっても、肝心の英語力は非常に不足している。ただ、旅するだけならば、何とかなるだろう。そんな軽い気持ちで旅行に出たほうがいい。 「ディベート」を日本人の子供たちも学ぶべき!  「英語耳」ができていないのは、わたしたちの世代の問題か、それとももともとの能力不足なのか。大学卒業後もずっと英語とは全く無縁の世界で生活してきた。何度も英語圏へ旅行しているが、仕事のときは優秀な通訳がついた。自由になって時間が取れることもあり、アメリカ旅行を思い立って、英会話スクールと個人レッスンに参加、英語耳を何とかつくろうと努力した。「Camino Island」を読むのも、その一環だったが、英語耳づくりは全く無理で、グループレッスンでは隣の人が何を言っているのか、さっぱりわからなかった。  英会話の勉強をしながら、アメリカ旅行をすることができないか、いろいろ探して、3カ月の旅行プランを立てた。まずはニューヨークのお隣、ジャージーシティの大学が提供する、午前中は英会話レッスン、午後は、学生が公共交通を使ってニューヨークの名所を案内する2週間のプログラムに参加した。空港への送り迎え、宿泊付きでコロンビア人の60代男性の家にホームステイした。大学までバスで4、50分の隣町にある家主宅は、周辺道路にゴミが散乱する、治安も悪い地区だった。建築業を仕事とする主人は大のトランプ贔屓だった。「トランプ万歳」で友だちつきあいになれた。  わたしが入学する日に、若い日本男性、メキシコ、サウジアラビアからの4人とクラス分けの試験を受けた。英語耳はダメでも、筆記試験の点が良かったのだろう、上、中、下レベルのクラスで「中レベル」に入れられた。他の4人は「下レベル」だった。クラスの同級生はほぼ韓国人で、その他にタイ人などの10代の若者ばかり10人ほどだった。授業の中身はともかく、若い同級生らが話し掛けてこられても何を言っているのか、さっぱり分からなかった。ほぼ、単語で会話していた。  午後のニューヨーク名所見学は、地下鉄を使うのだが、案内の学生が複雑な地下鉄の路線に詳しくなく、スマホを見ながらでも国連本部へ行く道にも迷い、ずいぶん遠回りする始末だった。コロンビア大学のツアーでは、学生の説明はほとんど理解できなかった。まあ、自由の女神像、メトロポリタン美術館、ブルックリン美術館、エンパイアステートビルなどを見て、ああこんなものかと納得した。とにかく、毎日疲れて、危険な地区にあるコロンビア人の家に無事に戻って、ほっと安心、よく眠れた。アメリカの黒人たちが異様に太っていることだけはわかった。  次の目的地は、ニュージャージー州の田舎町。実際は、ニューヨークの近くでホームステイしながら、午前、英会話レッスン、午後は自由時間という3週間プログラムのはずだったが、ニューヨークから高速バスで約2時間は、「ニューヨーク近郊」ということらしい。  最初にスマホを購入して、ウーバーで車を呼ぶ方法を教えてもらった。タクシーなど走っていない地域だから、ウーバーがなければ、どこへも行けない。ウーバーを呼んだり、自分の位置がどこかなどアメリカはスマホがないと生活できない。日本では全く不要だから、戻ってからスマホは使っていない。  英会話とドイツ語教授で生計を立てるシングルマザーのミンディー家には、2人の小学生男児と女子高校生の3人の子供と猫がいた。  下の息子、10歳のナサニエルの小学校に行き、ナサニエルが参加する2対2の「ディベート(賛成と反対の側に立っての討論)」を傍聴した。前日、ナサニエルから、ディベートの概略を書いた資料をもらったから、目の前で何を討論しているのかは分かったが、当然、彼らの会話の詳しい内容までは聞き取ることはできなかった。  ディベートは「自由のための戦い」についてで、アメリカ独立戦争は、多くの犠牲者を出してまで自由のために戦う価値があったのか、どうかがテーマ。大した武器を持たずに戦い、死んでいったのは、無駄死にであり、無謀な戦いではなかったのか、「自由」と「人間の命」のどちらに価値があるのかがテーマである。愛国心を養う授業なのだから、多くの人の死に価値があったのだろうが、教師は口をはさまなかった。  クラスメートやPTAの前で、それぞれの主張をどのように展開するのか、これを10歳のときからやっていれば、日本の子供たちもずいぶん違っているだろう。リニア静岡問題の会議でも、一度、JR東海と静岡県専門部会委員が「ディベート」したほうがいい。将来の日本のためにリニアがいかに必要なのかJR東海が委員や流域住民たちを説得できるのか、どうかである。  先日の知事会見では、幹事社の記者がコロナ後の世界では、リニアは不要とまで言い出している。知事意見に引っ張られることなく、結論を導くには、ディベートが必要だろう。 プリンストン美術館は入場無料、写真撮影自由  ミンディーの車で約30分ほどで、美しいプリンスントン市に到着する。3週間の滞在中に2度、プリンストンを訪れた。「Camino Island」を読んでいたが、まさか、舞台となったプリンストン大学に来るなど思ってもみなかった。ミンディーが毎週土曜日、プリンストンの教会で子供たちにドイツ語を教えていたから、それに便乗させてもらった。  大学が観光客に開放されているのは、プリンストンだけでなく、ニューヨークのコロンビア大学も同じだった。このあと、シアトルのワシントン大学、シリコンバレーのスタンフォード大学に行ったのだが、同じように観光客を迎え入れていた。特に、スタンフォードは中国人、韓国人らが大勢で訪れていた。静岡県立大学は、お隣の県立美術館とともに開放して、学生たちがツアーガイドをやれば、それなりの見どころはありそうだ。  タイトル写真は、プリンストン大学のガイドツアーの光景。2頭のトラはシンボルであり、大学構内でいくつも見られる。  プリンストン大学美術館は入場無料で、そのコレクションは日本の美術館に比較できないほどにすばらしい。「セント・ビクトワール山」などのセザンヌコレクションは特に有名。ボッシュ、ゴッホ、ルオーなどの傑作がさりげなく並んでいた。写真撮影も自由だから、うっとうしい監視員の注意もなく、パンフレットをもらい、十分に理解できた。そして、何よりも日本コーナーがあり、聖徳太子立像だけでなく、白隠禅師の大胆な掛け軸五振りの展示には驚いた。  2度目の訪問時にも美術館を訪れたが、あまりにも見る作品が多く、それにメトロポリタン美術館のように観光客で混雑しているわけでもないから、本当に美術鑑賞をするならば、ぜひ、プリンスントンまで足を延ばすのがお薦めだ。 池田真紀子訳「パチンコ」もことしのお薦め!  「Camino Island」を読んでいて、アメリカでの文学作品の生原稿や有名作家の初版本の価値の違い、作家の書店回りなどに驚いたが、プンリンストン市の図書館に行ってみて、図書館の機能が日本と違うのにもびっくりした。当時の企画テーマ「移民」の文学作品の紹介や講演会、本のレクチャーなど多彩に行われ、独自に制作した「図書館だより」も立派で読ませるところが多かった。  大きな注目を集めていたのは、韓国系米国人の女性作家ミン・ジン・リーの「Pachinko」。韓国から日本への移民がテーマである。この本の紹介やレクチャー講座が3月に開かれ、4月には作者のリーを招請して、講演会が行われた。日本の講演会と違うのは、作者の話は最初の20分弱だけで、あとの1時間以上は参加者とのディスカッションになることだ。日本の場合、参加者の質疑等はほんの5~10分程度と違い、会場の疑問や本の感想等に答えるのが講演会のようだ。  ことし7月、「Pachinko」は、池田真紀子訳「パチンコ上、下」(文藝春秋)で出版された。四世代にわたる在日コリアンの苦闘を描いたとあらすじが紹介されている。まあ、日本人に抵抗感のある難しい話ではなく、肩の凝らない大河小説として読める。  わたしが読んでいたタイミングで、山口県の80代保険外交員が19億円を顧客から不正取得したニュースが流れていた。小説「パチンコ」では、「家計にゆとりのない孤独な主婦に高額な生命保険を販売していた」と「生命保険」と「パチンコ」を比較して、ギャンブル性は全く同じだと指摘している。生命保険販売はパチンコ業と違い、非常に社会的な地位が高いと勘違いしている身内に腹を立てている主人公の思いが吐露される。  「どちらも確率と孤独を利用してお金を儲ける仕事だ。従業員は毎朝、パチンコ台に微妙な調整を加え、それが結果を左右するーゲームに勝つのはほんのひと握りで、ほかの全員が負ける。それでも人はやはりゲームを続ける。自分こそ幸運なひと握りかもしれないと期待する」(小説「パチンコ」から)  生命保険金も同じことで、旦那が亡くなって多額の保険金をもらえるのはほんのひと握りなのに、毎月高い保険料を支払っている。パチンコと同じく、保険もギャンブル性が高いと言いたいのだ。アメリカには「パチンコ」は存在しないが、小説「パチンコ」は百万部以上を売った。  今週はリニア問題の動きはなく、ことし読んだ2冊の本にまつわる旅の話を書いた。ジョン・グリシャムの新作「Camino Winds」はアメリカではベストセラー入りしているようだ。村上春樹はあとがきで中央公論新社から翻訳本が発売されると書いているから、ぜひ、ペーパーバックを読んでから、アメリカ旅行をお薦めする。その2年後くらいに、日本で翻訳本が出るはずだ。「Camino Island」を読み、プリンストンへ。そして、「Camino Winds」を読んで、フロリダへも足を延ばせば、きっと、ワクワク、ドキドキに出会えるだろう。

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リニア騒動の真相64JR東海批判の「無責任報道」

井川地区の人たちは早期着工を求めている  県中央新幹線環境保全連絡会議が27日、県庁で開かれた(タイトル写真)。県地質構造・水資源部会、生物多様性部会、生活環境部会のメンバーが一堂に会して、県当局から県の専門部会の対話と現状、国の有識者会議の議論と現状などについて説明を受けたあと、各委員が意見交換した。座長を務めたのは、岩堀恵祐・宮城大学名誉教授(水処理)。  地元から、井川自治連合会、井川観光協会、井川漁協、井川山岳会などの代表が出席、発言した。「報道を通してのみ現状を聞くことが多い。上流域の影響は全くゼロではないが、(水問題は)東電の田代ダムを活用して解決できないのか」、「JRが悪い、県が悪いなどと偏った報道が多く、過疎地域に生活する者としては早期に結論付けてほしい」、「井川ダムなどダムの活用によって水問題は何とかなるのではないか。井川地区としては早期に工事をやってほしい」など上流部で生活する人々のそれぞれの切実な発言が続いた。リニア南アルプストンネル静岡工区工事は南アルプスのふもとに住む人たちの生活に大きな影響を与えるのだ。  上流部と中下流域との経済格差は大きい。大井川の水資源の恩恵を受けて、中下流域の工業、農業、水道等は大きな発展を遂げてきたが、その水資源を守る上流域に生活する人々は公共事業などでつつましい生活を立てている。「南アルプスを守れ!」と声高に叫ぶ人たちは、県最北部の大井川上流から遠く離れた、南アルプスの生活とは無縁の都会に住む人たちが多い。南アルプスのふもとである井川地区の事情をちゃんと理解すべきだ。「南アルプスを守れ!」の最前線では、過疎化が進み、産業は衰退している。観光地はまさに秘境。今回のリニア問題では、中下流域の利水者がJR東海に注文をつけることが多く、井川地区の声を聞くことはめったになかった。  早期のリニア工事着工を期待している井川地区の人たちは多いのだろう。ちょうど、良い機会だったが、メディアは井川地区の声をほとんど紹介しなかった。 JR東海資料に「大きな矛盾点」?  この日、有識者会議の議論について問題を指摘したのは県地質構造・水資源専門部会委員の塩坂邦雄・株式会社サイエンス技師長(地質)。塩坂氏は大井川直下の断層について、背斜構造だから大きな影響を及ぼす恐れがあると何度も指摘していた。10月27日開催された国の有識者会議に提出された資料「県境付近の断層帯におけるトンネルの掘り方・トンネル湧水への対応」で塩坂氏は「大変な矛盾点があった」と問題提起した。  千石斜坑の西俣川付近の断層について調べた図25のボーリング調査結果と写真8のボーリングコア写真(690m~720m)をそれぞれ示して、ボーリングコア写真にある690mから700mでは、コア採取率約50%であり、断層があると見られるのに、図25の断層があるとされる地点には赤丸(掘進時の湧水増加区間)が付いていないのは矛盾している、というのだ。「このような場所では薬液注入で対処するのは無理だ」などと塩坂氏は述べた。  この意見に対して、生物多様性部会の増澤武弘・静大客員教授(生物影響)は「(地質構造・水資源部会の)委員すべてが同じ意見なのか?」と疑問を呈した。有識者会議には、県地質構造・水資源専門部会の森下祐一・静大客員教授(地球環境科学)、丸井敦尚・国立研究開発法人産業技術研究所地質調査総合センタープロジェクトリーダー(地下水学)が委員として参加していたが、2人とも10月27日の有識者会議では、この資料についての発言はなく、会議では異論、反論はなかった。  同部会委員の安井成豊・日本建設機械施工協会施工技術総合研究所部長(トンネル工学)は「690mから700mという深い場所であり、データについて再確認したほうがいい。(薬液等)何かで対応できる。目標をどこに持つかだが、ちゃんと対応できるはず」などと塩坂氏の意見に反論していた。  安井氏は「資料を一般に分かりやすく作成すると、専門家には疑問点が多いものになり、専門家に向けた資料であれば、専門家同士でちゃんと議論できるが、素人には分からない。現在、JRが行っているのは両方に向けて分かる資料を求められているので非常に難しい。専門家を納得させ、得心できる資料ではない」などとも述べた。  この会議の前に、塩坂氏に「大変な矛盾点」について有識者会議では異論、反論が出なかったのではと聞くと、同氏は「森下、丸井両氏はボーリング技術が分かっていないからだ」などと述べた。この日の会議で、丸井氏は「上流域の地下水、中下流域の地下水は水循環でつながっている点について、明日の朝まで話すことができる」などと主張していたが、塩坂氏によれば、ボーリング技術が分からない丸井氏がいくら専門性の高い知見を述べることができても、(実務者の)塩坂氏を納得させられないかもしれない。  つまり、科学的、工学的な議論を行っていると言うが、科学(サイエンス)とは学問であり、それぞれが拠って立つ位置は別のところにあり、それぞれ独自の主張はすれ違い、そのすり合わせは行われていない。毎回、議論のための議論が続き、これではいつまでも結論を得ることはできないだろう。 断層部分に赤丸がついていない?  図25のボーリング調査結果を見てみよう。塩坂氏はほぼ真ん中の右斜めに引かれた断層の上に、赤丸(掘進時の湧水増加区間)になっていないのは、写真8のボーリング写真との比較でおかしい、と指摘したのだ。この図こそ、安井氏が指摘するように、一般にも分かりやすいように単に斜めに線を引いて「断層」としているが、断層は短いセグメント(断片)であり、この図のような真っすぐな線の断層は存在しないかもしれない。塩坂氏の指摘する「断層」部分を赤丸で囲んでいない理由をJR東海はちゃんと説明できるだろうが、今回の会議にJR東海の出席は求められていなかった。  会議後に安井氏に聞くと、「一滴たりとも地下水を流出させないで工事はできない。どのくらいの目標でやるのか、やってみなければ分からない点のほうが多い」と話す。リニア工事の議論では「一滴の水」と言った素人のことばがまかり通ってしまっているのだ。  会議翌日(28日)の静岡新聞を見て、驚いてしまった。「大量湧水止める工法限界」の大見出しで、塩坂氏の疑問をそのまま記事にしていた。一番問題なのは、会議でも議論されていない「大井川中下流域の水量減少につながる恐れ」を指摘し、それがそのまま見出しになっていることだ。  安井氏の発言について『「指摘はもっともだ」と述べ、対策を検討する必要がある』としているが、わたしの原稿を読めばわかるように、安井氏の発言意図は全く違う。安井氏は対応できるとしている。そもそも大変厳しい工事であることはJR東海は認めているが、これをもって、「大井川中下流域の水量減少につながる」と意味もなく飛躍していいはずはない。有識者会議だけでなく、県の専門家会議でも議論はなく、新聞記者がそのような結論を導いてしまえば、ミスリードとなる。「たら」「れば」の仮定の話を見出しにして、事実であると読者は錯覚させたいようだ。新聞記事ではなく、虚構(フィクション)の世界に近いのだ。  また、24日付静岡新聞1面には『大井川直下「大量湧水懸念」』の見出しで、「JR東海の非公表資料」を問題視した大きな記事が掲載された。記事では『資料に記載されていた「大量の地下水の存在」には(JR東海は)触れず。表流水の減少量も示さなかった』が、そのまま見出しにも取られている。これを受けて、『県担当者は、大井川直下部分のJRの調査は「不十分」だとの認識を示している』と書いている。  県リニア担当理事に確認したが、『この記事にあるような、「不十分」という回答をしていない』と述べている。このコメントはねつ造か?  政治部記者として、流域住民の不安を煽ることだけが記事の目的なのだろうか。いくら紙幅の制限があるとしても、事実を正確に読者に伝えようとする科学記者の視点に欠ける。24日の記事内容も塩坂氏の指摘だろうが、どういうわけか、記事に塩坂氏の名前は登場していない。(素人の)政治部記者の視点だけで記事が構成されている。静岡新聞では、科学的な議論についてのチェック機能が全く働いていないようだ。  そもそも塩坂氏は実務者であって、科学者ではない。実務者となれば、それぞれの現場経験がものを言う世界だが、南アルプスの現場は経験していない。塩坂氏はトンネル工学の実務者でもないから、「大量湧水止める工法限界」などとはっきりと言えるのか。トンネル工学の専門家、安井氏のような意見に慎重に耳を傾けなければならない。24、28日の静岡新聞記事は事実とかけ離れている。「無責任報道」の責任をはっきりとさせるようJR東海は新聞社に申し出るべきだ。  ※今回は、最後に宣伝をひとつ。11月26日発行の『月刊Hanada』1月若水号(飛鳥新社)に原稿を書かせてもらいました。「地元記者が暴く 川勝平太静岡県知事の正体」というおどろおどろしい題名がついていますが、中身は「菅義偉という人物の教養レベルが露見した」など知事会見で始まる「川勝劇場(激情)」のいくつかを紹介しました。リニア問題を「静岡経済新聞」で取り上げるきっかけなども書いてありますので、ぜひ、ご覧ください。

ニュースの真相

リニア騒動の真相63川勝・安倍面談の〝歪曲報道〟

川勝知事「(安倍氏は)あまりご存じない」?  18日の定例会見で川勝平太静岡県知事は、13日の東京での安倍晋三前首相との面会に触れた=タイトル写真=。16日付静岡新聞が川勝・安倍面談を記事にして、知事への取材として「(安倍氏は大井川の水問題について)あまりご存じないようだ」とまず、伝えていた。17日にはNHKが、『川勝知事が「静岡県の事情について東京や全国の人は必ずしもご存じないでしょう。1番知っていただきたいのは、このプロジェクトを推進された安倍元首相です」などと述べた』と報道している。  18日の会見でも「安倍前首相はあまりご存じない、(ご存じ)なかったなって印象を持った」と述べている。一体、何について、安倍氏がよく承知していないのか、これでははっきりとしない発言だったが、この発言は前総理の安倍氏にはあまりに失礼である。ふつう相手を貶めるような発言をするときには誰もが慎重になる。だから、それだけの理由があるのだとみなが思う。本当にそんな理由があったのか?  読売新聞の記者が「安倍氏があまりご存じないと印象を受けたのはどういう発言からか」と問うと、知事は「これから自民党の(リニアについての)会議があるんですねと言ったが、もう、その会議は終わってますから」などと説明した。知事が答えたのは、それだけである。  7月22日、自民党本部でリニア特別委員会(古屋圭司委員長)が開かれた。安倍氏は、この会合が開催されたことを知らなかったと知事は考えたのである。だから、安倍氏は(リニア問題について)あまり承知していないと判断したのである。ちょっと考えればわかるが、自民党のリニア会議がこれから開催されるのかどうか、川勝知事には情報が全くない。今後開く会議と過去の会議を混同したのは知事のほうかもしれない。  18日の会見で、知事は安倍氏と面会した際、7月22日のウエブで参加した自民党リニア会議に触れ、古屋議員との面会を求めたことも明らかにしている。それで、安倍氏が自民の会議について全く知らないと考えるほうがおかしいのではないか?  危険なのは、知事の挙げた理由だけで「安倍氏はあまりご存じない」が”事実”のように報道され、読者は”事実”と思ってしまったことである。安倍氏は静岡リニア問題についてあまり承知していないが”事実”となってしまうのだ。  記者は、取材対象者があいまいな答えをすれば、ちゃんと追及して、その発言が事実かどうかをチェックする。読売記者の質問に対して、知事の回答はあまりに不明瞭である。それを”事実”のように報道すれば、”歪曲報道”となってしまう。ファクトチェックに欠けているからだ。 「迂回ルートあるいは部分開通」を繰り返す川勝知事  今回の訪問は、知事からの働き掛けで、安倍氏が了解して実現した。知事会見では、森喜朗元総理に手紙を書き、安倍氏、森氏と懇意にしている小國神社の内田文博宮司を通じて、安倍氏の面会を求めたのだと明らかにした。内田宮司も川勝知事から依頼があり、安倍氏へ橋渡ししたことを明らかにした。森元総理も内田宮司も川勝知事よりも安倍前首相と懇意な関係であり、当然、リニア問題を解決するための面談と考え、知事からの要請に快く応じたのだろう。  議員会館での約30分にわたる面会で、知事は雑誌中央公論11月の寄稿文「国策リニア中央新幹線プロジェクトにもの申す」の抜き刷りを用意して、「雑誌の論文の要点を示して、静岡県の状況を説明したのだ」と言う。安倍氏はまさか、川勝知事から面会を求められ、リニアに「もの申す(抗議する)」主張を聞くとは思ってもいなかっただろう。もし、そのような面会ならば、安倍氏は断っていたのかもしれない。  雑誌の最後で『”命の水”を戻すことができないのであれば、リニア・ルートのうち南アルプス・トンネル・ルートは潔くあきらめるべきです。具体的には、国の有識者会議と県の専門部会で、南アルプス・大井川・地域住民の抱えている「命の水の問題」が科学的・技術的に解決できないことが判明すれば―その可能性は高いと言わねばなりません―、迂回ルートへの変更なり部分開業なりを考えるのは「国策」をあずかる関係者の責務でしょう』と結論づけている。  雑誌の発行日は10月9日であり、すでに安倍氏は総理総裁の座から退いていたが、当然、いまも「国策」をあずかる有力者の一人であることは間違いない。  知事側から面会を希望して、雑誌の結論に書いたような無理難題を一方的に突き付けたのである。そして、記者会見で述べた面談の内容は、これも知事の一方的な説明のみである。今回の知事会見で、雑誌の抜き刷りを全記者に配布していたから、知事は、安倍氏と面会し、「迂回ルートあるいは部分開通」という持論をとうとうと述べたことは間違いない。  それで、「安倍氏はあまりご存じない印象だった」と記者会見で”事実”のように述べたのである。その理由は何だろうか? 財投を「国税」と間違う知事の不見識  まずは、知事会見での事実関係を確認してみる。  会見では「(リニアに)一番コミットされた首相であり、何しろ3兆円もの国税を財投として、財政投融資として投入された、一番の中心人物であるというふうに思っていた」などと述べた。リニア静岡問題をあまり承知していないとされる安倍氏がリニアに一番コミット(関係)した、と知事は考えているのだ。この発言では、安倍氏がリニアについて非常に詳しいと言うのだから、聞いているほうが混乱するだろう。  知事は、安倍氏に「財政投融資」とは何か、ちゃんと聞いて教えてもらったほうがよかったのではないか?知事発言の「何しろ3兆円もの国税を財投とした」は明らかな間違いである。  財政投融資、財投とは税負担に頼ることなく独立した手続きで、財投債(国債)を発行して資金を調達、大規模・長期プロジェクトに活用される。無担保で30年間も元本返済が猶予されると言っても、平均0・8%の金利は支払っていかなければならない。コロナ禍の中で、3兆円の金利0・8%返済はなかなか厳しいだろう。  いくら何でも、財投を「国税」と勘違いするのは知事としての資格に欠ける。ところが、知事の「国税」発言に記者の誰ひとりとして疑問を呈さないのだ。何がまずいかと言えば、安倍氏が「国税」3兆円をJR東海に使ったような印象を持たれてしまうからだ。知事発言をまねれば、「川勝知事は(財投)についてあまりご存知ない印象である」となるのだ。ただ、この場合はそう書かれても仕方ないだろう。  川勝知事は、以前から品川ー大阪間の早期開業を望んでいると言っていた。だから、3兆円の財投によって、品川ー大阪間の開業が8年前倒しになって、2037年開業を視野に入れている。安倍氏は、この件について、知事が話を持ち出すのかと思ったのかもしれない。しかし、膠着状態が続く静岡区間の問題が解決できないから、品川ー名古屋間の2027年開業も危ぶまれている。  ふつうに考えれば、安倍氏も、静岡問題でリニア開業に赤信号が灯っているのは承知して、心配している。だから、川勝知事の面会に応じたのだろう。  それなのに知事は「迂回ルートへの変更あるいは部分開業」を突き付けたのである。学者としていくら知識があったとしても、菅首相に対する「教養のレベルが露見した」発言同様に、社会人としての「教養」には欠けている。そして、「安倍氏はあまりご存じない印象だった」という発言につながっていくのである。 自民党の会議を知事は安倍氏に伝えている  知事会見でも、7月22日の自民党会議については、安倍氏との面談でも話題になったことを明らかにした。記者から「ウエブ会議で話した古屋議員と面会する予定か」と聞かれると、川勝知事は「何も決まっていない。安倍元総理には、古屋さんは、リニア委員会の委員長をされており、ウエブ会議で話をしたこと」などと説明した上で、「古屋さんに面会するつもりだと言うと、(安倍氏が)連絡しておきますというありがたい言葉をいただいた」と述べている。  こんな話をしていて、安倍氏は自民リニア特別委員会のウエブ会議について承知していなかったことにしてしまい、知事は「安倍前首相は(リニア問題について)あまりご存じないという印象を持った」と言うのである。  そもそも、古屋議員との面会で連絡してもらうのに、ウエブ会議のことを持ち出したのは知事本人である。知事の頭にある「自民党の会議」とは、7月22日の「ウエブ会議」しかありえない。それに対して、安倍氏は、情報の疎い知事に自民党がリニア会議開催を準備していることを教えてくれたのではないか。  こんな曖昧な知事の一方的な発言のみがメディアの記事になってしまうのだ。ファクトチェックは記者の務めである。 ”命の水”の認識はあまりにお粗末  安倍氏に進呈した記事の抜き刷りについても同じことが言える。これまでも、何度も取り上げたが、川勝知事の”命の水”問題の認識は「あまりにもご存じない」レベルで、単に感情的であり、学者としての科学的知識はお粗末である。  雑誌には『専門部会では、リスク管理や”命の水”に対する流域県民の思いに対し、JR東海は認識不足を露呈し、かつデータを出し渋りました。たとえば「涵養された地下水が大量に存在している可能性があり、高圧大量湧水の発生が懸念される」と記されたJR東海の「非公表資料」の存在が分かったのはつい最近(2020年9月)です』と知事は書いた。  これは、9月10日付静岡新聞1面トップ記事『大井川直下「大量湧水の懸念」 JR非公表資料に明記』を指している。  11月14日付『リニア騒動の真相62JRが”重大事実”を隠ぺい?』で、リニア静岡工区差止訴訟の訴状に静岡新聞記事が登場していることについて、「スクープを装った衝撃的な記事が一人歩きして、いろいろなところに大きな影響を及ぼしている。ほとんどの読者は新聞記事を事実と鵜呑みにしてしまう。これほど危険なことはない」と書いた。県のリニア担当者たちが”事実”を正確に知事に伝えていないのか、あるいは、知事は承知していて静岡新聞記事を取り上げたのか、どちらかである。あまりに危険であり、この記事を基にした文章を安倍首相に手渡しているのだ。  知事は、東洋経済オンラインで10月2日付『静岡リニア「JR非公表資料」リークしたのは誰だ』、11月5日付『JR東海と県の対立をあおる「静岡新聞」への疑問』をしっかりと読むべきである。このままでは、静岡県は全国からの信頼を失うだろう。  安倍氏はリニアに一番、コミットしてきた。当然、2027年開業が静岡問題で遅れることを心配している。それで、知事の言う「安倍氏はあまりご存じない」とは一体、何を指すのか?単に、知事の主張については知らないというだけではないか?”命の水”とか「部分開通」とか、あまりにも感情的で荒唐無稽の一方的な主張を知らないだけではないか。  7月22日の自民党リニア特別委員会で、また、雑誌中央公論でも「水問題解決で有識者会議の結論に従う」と知事は述べている。これはちゃんと守ってもらわなければならない。今回のように自分の都合に合わせた発言だけをしていると、世論をすべて敵に回すことになる。

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リニア騒動の真相62JRが”重大事実”を隠ぺい?

事実を歪曲したリニア差し止め訴訟   10月30日、大井川流域の市民団体らがJR東海を相手取って、南アルプスリニアトンネルの静岡工区工事の差し止め訴訟を静岡地裁に提起した。請求原因は、8月13日付で難波喬司副知事名で国交省鉄道局長宛に送った、リニア工事によって毎秒2㎥の湧水減少を試算したJR東海への疑問を記した文書を基にほとんど静岡県の主張に沿っている。国の有識者会議での議論は訴状には反映されていない。  驚いたのは、訴状の中で静岡新聞報道を挙げて、JR東海が国の有識者会議にも県専門部会にも報告しないで、ある”重大事実”を隠ぺいしていたなどとと指摘していたことだ。  なぜ、驚いたのか、その部分をそのまま紹介する。「9月10日の静岡新聞(朝刊)によれば、かねて専門家が指摘してきた大井川直下の褶曲地層に大量の水が貯留していることを2013年の段階で知りながら、その事実を(国の)有識者者会議にも(県環境保全)連絡会議にも報告せず、隠ぺいしていたことが明らかになった。このことは、被告(金子慎JR東海社長)の不誠実さをいっそう際立たせるばかりか、静岡県内工区のトンネル工事に伴う湧水量が従前言われてきた量をはかるかに上回ることが確実となることを意味するものである」と記されていたのだ。  何も事情を知らない裁判官が読めば、JR東海が”重大事実”を隠ぺいしたと、そのまま信じてしまうだろう。また、メディアは『訴状によると、JRが”重大事実”を隠ぺいしたことが分かった』と報道してしまうかもしれない。  民事訴訟では、原告側の主張が事実に則さず、偽りだったとしても、そのまま訴状に記されることがあるのだろう。しかし、今回の場合、いくら何でも、担当弁護士の勉強不足だけでは許されない。新聞を読めば、すぐに虚偽だとわかるから、これほど事実を歪曲してしまうと、訴えそのものの信頼性が失われてしまう。  静岡県の主張に沿った請求原因を含め、また、事実の歪曲を見れば、今回の訴状があまりにいい加減につくられたことがはっきりと分かる。  9月10日付静岡新聞1面トップ記事は、『JR東海が”重大事実”を隠ぺいした』ような報道ではないが、スクープを装った衝撃的な記事が一人歩きして、いろいろなところに大きな影響を及ぼしている。ほとんどの読者は新聞記事を事実と鵜呑みにしてしまう。これほど危険なことはない。  静岡新聞記事に対する批判は、東洋経済オンラインで10月2日付『静岡リニア「JR非公表資料」リークしたのは誰だ』、11月5日付『JR東海と県の対立をあおる「静岡新聞」への疑問』で紹介しているから、お読みでない方はこちらを併せてご覧ください。 新聞を読めば「虚偽」だと分かるのだが   もう一度、9月10日付静岡新聞に何が書かれていたか、確認してみよう。  前文で『大井川直下でトンネルを掘削する際の施工上の留意点として「涵養された地下水が大量に存在している可能性があり、高圧大量湧水の発生が懸念される」と記されたJR東海の非公表資料が存在することが、9日までに分かった。JRが委託した地質調査会社が2013年に作成した。資料には事前のボーリング調査で「大量湧水が発生している」との記載もある』とJRの非公表資料を入手して、「大量湧水の懸念」をまるで隠していたと記している。  本文、解説では、「高圧大量湧水の発生の有無は、掘削作業に当たる作業員の安全確保の判断に影響する。資料の記載に基づけば、大井川直下は山梨県側から掘削する必要があり、その場合、大井川の水が山梨の富士川水系に想定以上に流出する懸念がある」、「非公表資料に記された地質状況が大井川直下に存在すると明確になれば、作業員の安全確保の観点から工区が見直される可能性が高い」など仮定の話を続けている。  結論的に「着工前に大井川直下の地質を重点的に調べるボーリングの追加調査は必須と言える」と注文をつけた。  記事のどこを読んでも、訴状にある「かねて専門家が指摘してきた大井川直下の褶曲地層に大量の水が貯留していることを2013年の段階で知りながら、その事実を(国の)有識者者会議にも(県環境保全)連絡会議にも報告せず、隠ぺいしていた」とは書かれていない。  静岡新聞は翌日の9月11日付で「非公表資料」は、2018年10月下旬、「毎秒2トン」減少の根拠を示す資料としてJRが県に貸し出したもので、大量の基礎データ資料の中に含まれている、県の関係者(連絡会議委員ら)のみに閲覧が限られていた、と説明している。これを読めば、県連絡会議に資料を提供していたことが簡単にわかる。  また、難波副知事は、2018年11月21日の会議で、静岡新聞が「非公表」とした断面図のコメントがホワイトボートに掲示され、一般公開されていたと明言している。「有識者会議や連絡会議」どころか、一般の人たちも見ていたのだ。  30日に訴訟を提起する前の27日、国交省で有識者会議が開かれ、「大井川直下の断層」が議論されている。資料もちゃんと委員らに配布、JRが詳しく説明した。27日時点で有識者会議委員たちも資料をちゃんと読んでいた。「有識者会議にも連絡会議にも報告せず、隠ぺいしていた」は全くの虚偽となってしまう。 「大量湧水の懸念」も可能性は小さい  27日の有識者会議で、JR東海は大井川直下の断層についての資料を配布した。その一部が、タイトル写真の断面図である。静岡新聞が「非公表資料」とした報道したものである。ほぼ真ん中に赤のだ円があり、コメントは赤枠で囲んである。この赤枠のコメントのみを写真撮影して、静岡新聞は「非公表資料」と報道、1面トップ記事に仕立ててしまった。  コメントには『ボーリング(B-45)では粘板岩の同一層準で大量湧水が発生している。背後に東俣の流域があり、東俣に沿う断層も分布する。東俣から涵養された地下水が大量に賦存している可能性があり、高圧大量湧水の発生が懸念される』と小さな字で書かれていた。  このコメントにある「大量湧水の懸念」を引用して、静岡新聞は重大な問題として大きく取り上げた。  断面図の「コメント」はタイトル写真にあるだけでも4カ所にあり、実際には断面図はもっとずっと大きく、数多くの「コメント」が注釈としてつけられていた。とりあえず、左隣にあるコメントも読んでみよう。  『畑薙断層とその影響圏。破砕質地山であり、断層付近は粘土混じりの角礫帯が主体をなすと考えられる。全区間にわたって切羽崩壊の発生が懸念される。特に断層主部では塑性地圧の発生する可能性が高い。また大量湧水の発生が懸念される。特に終点側の砂岩粘板岩互層は要注意』  ここにも「大量湧水の発生が懸念」と書いてある。これで分かるのは、地質調査会社は地質図や地形判読、現地踏査などで断層を見て、すべての可能性を指摘していたことだ。それが地質調査会社の仕事であり、その成果物は専門家によって分析・議論が行われていない生の基礎データでしかない。  JRは専門家らの意見を聞いて、分析し、この断層を問題にするのかどうかを秤に掛けている。その結果を有識者会議で説明したのだ。  JRはボーリング調査の結果などを写真で示した上で、幅3m程度の小規模な破砕質な区間を確認したが、湧水量はわずかであり、特にトラブルなく掘削できた、としている。これらの結果から、JRは「大井川直下の断層について大量湧水の可能性は小さい」と判断した。有識者会議委員たちから異論、反論はなく、そのまま結論となった。  実際には掘ってみて判明するのだが、静岡新聞報道「大井川直下の大量湧水の懸念」は「虚偽」となる疑いが強い。そのような記事に踊らされて、リニア工事差止訴訟に使ってしまったのだ。川勝平太静岡県知事は、リニア工事差止訴訟原告団に「一歩もひくな」「しっかりと頑張れ」と言っているが、事実をちゃんと踏まえたほうがいい。 『川勝知事「JRは傲慢」』と報道した毎日新聞  11月10日の知事会見では27日の有識者会議について、川勝知事の見解を求めた。  毎日新聞の11日付朝刊トップ記事は『環境アセス 知事「JRは傲慢」 資料開示不十分と指摘』の大見出しで、「JR東海は環境影響評価がすべて終わっているという非常に傲慢な態度」「国土交通省の有識者会議で資料を要求しないと出てこない状況で、資料が十分に開示されていない」などの批判的な発言を紹介している。この記事からは、知事は有識者会議について、ちゃんと報告を受けていないことが明らかである。知事の批判はいつものパータンで全く同じだから、報告を受けても、理解していないのかもしれない。  もうひとつ。毎日の記者が有識者会議の議論をちゃんと理解できていないのも確かである。前提となる「河川流量は維持されれば」について、『川勝知事は「流量が常に一定ではないことを知っている先生がいる。コメントを出せば、中下流域に影響がないかのごとく受け取られるが、理論的な枠組みでしかないにもかかわらず、影響のないことだけが結論として出てくることに疑問を持っている(委員がいる)との報告を受けている」と反論した。』と知事の主張をそのままに書いている。科学(学問)はあくまでも「理論的な枠組み」であり、それ以上でもそれ以下でもない。出席していた委員はそれぞれの知見に基づいて、すべて理解した上で結論を出している。  11日付静岡新聞は1面準トップ『流域の不安解消 ほど遠く 非公開協議で方向性 運営に問題』の見出し記事で、国交省への不満を述べている。これでは、有識者会議委員への冒とくであり、「流域の不安解消」を妨げているのは、新聞そのものである。  一般の人たちが、タイトル写真の断面図を見ても、全く理解できないだろう。「非公開」が問題ではなく、JRへの批判を続けたいだけである。だから、川勝知事の発言を疑問なくそのままに掲載するのだ。新聞は新聞としての役割を捨ててしまったのだろう。  JRが地質調査会議の生の基礎データを分析、議論して評価していく作業を行うように、新聞記者は「権威」の発言に対して、疑問を抱き、その矛盾を突いていくのが仕事である。川勝知事の発言は、批判のための批判でしかないから、数多くの矛盾点が見られる。  東京在住のフリー記者が知事会見で質問をさせてもらいたいと要望してきたため、わたしも共同で県政記者クラブに申し込んだ。ところが、記者クラブはこの申し込みを拒否した。県庁の中に無料で記者クラブスペースを間借りしているのだが、形の上だけ主催という「知事会見」でクラブ員以外には質問させない理由は何だろうか?

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リニア騒動の真相61「政務」をしない川勝知事!

「政務をしていない」と川勝知事が公言  10月27日の会見で川勝平太静岡県知事は「わたしは知事になって10年間以上、政務をしていない。行政に関わる仕事をしてきた」などと公言した。この発言にびっくりするどころか、悲しくなり、あんたんたる思いにさせられた。県の財源は限られた地方税や交付税などだが、これでは最低限の事業しかできない。また、国の権限で規制される事業も多いから国の許認可は重要だ。「政務」とは、永田町(自民党本部)、霞が関(官庁街)などとの強いパイプを持ち、国の力を借りて、地域の発展のために尽力することであり、各都道府県知事の大きな役割のひとつである。  川勝知事は肝心の「政務」を全くしていないのだという。それでは、「(リニアで)国論を巻き起こす」ことはできても、リニア静岡問題が良い方向で決着するはずもない。それどころか、静岡県が抱えるさまざまな諸課題を放っておく宣言に等しいのだ。  知事発言のきっかけは、”菅首相応援団”とされる「活力ある地方を創る会」代表に鈴木康友浜松市長が就き、沼津市長らも参加していることから知事に参加の誘いがあったのかどうかの質問が出たことだ。ちなみに、各都道府県知事への”菅応援団”参加を呼び掛けるのは、鈴木英敬三重県知事である。(写真は、鈴木知事が菅官房長官当時に「政務」で面会している=三重県HPから)  「誘いがあっても入るべきではない」として、川勝知事は「県民から選ばれ、県民のために仕事をしている。時々の政権のために仕事をするのが私の仕事ではない。地域に密着していく」などと述べていた。  忘れているかもしれないが、川勝知事は昨年11月、鈴木知事に対して、「嘘つき(は泥棒の始まり)」と非難した。この件は、2019年11月25日『リニア騒動の真相23鈴木知事「事実無根」の真実』で紹介している。  鈴木知事だけではない。川勝知事は7日の会見で菅首相本人に対しても「(日本学術会議の会員候補任命拒否問題で)菅義偉という人物のレベルが露見した。学問立国である日本に泥を塗った行為」などと厳しく批判した。こちらは、東洋経済オンライン10月22日『川勝知事が追及しない「日本学術会議」選考の謎』で紹介している。  その後、1千人以上の県民らから苦情や批判が寄せられ、自民県議団が抗議したことに対して、知事は「夜学」は間違いであり、任命拒否についても「事実認識」が不正確だったと謝罪している。  いくら謝罪があったとしても、鈴木知事が”菅応援団”に川勝知事を誘うはずもなく、菅首相本人もやめてくれと懇願するだろう。  ところで、釈明会見で使った川勝知事の「事実認識」が不正確だったとは? 知事釈明で、再び、菅首相の教養レベルが問われる  川勝知事は16日の会見で「任命拒否したのは官房副長官であり、菅首相が6人の学者に否定的意見を下したのではない。任命拒否した者は教養のレベルが問われる。それは菅首相の教養のレベルとは直接、結びつかない」など「事実認識」が違っていたと釈明した。  ところが、菅首相は28、29日の衆参両院本会議で「(日本学術会議任命問題で)民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りが見られることを踏まえ、多様性が大事という前提にわたしが任命権者として判断した。今回の任命について変更することは考えていない」などと、川勝知事の「事実認識」をこなごなにしてしまった。  つまり、菅発言で、任命権者は官房副長官でなくなったから、川勝知事の「事実認識」から言えば、「任命拒否した者は教養のレベルが問われる」のは、やはり菅首相本人となってしまう。そもそも、菅首相がこれほど重要な問題ですべてを官房副長官に任せて、盲判(めくらばん)を押すはずもないだろう。官僚らの意見を十分に聞いた上で、首相が自ら責任を持って判断したのは最初から分かっていた。6人の名前など覚えてもいない。あるいは、見てもいないかもしれない。当然、個々の任命拒否理由は聞いているはずだ。ただ、菅首相は人事に関することを説明するはずもない。  川勝知事はそんなことも分からずに、釈明会見を開いたのだろうか?  16日の釈明会見で知事は「突然聞かれて発言してそれが物議をかもしたことはあるが、いまここにいる職員を含めて、広く会議を興し万機公論に決すというスタイルでやってきた。したがって、わたしの意見は同時に職員の意見でもある」などと述べているが、県職員は知事の「事実認識」があまりに珍妙な理屈だと承知していたに決まっている。しかし、誰も言い出せないのだ。  本当に、知事は広く会議を興し万機公論に決すというスタイルなのか?10月24日付『リニア騒動の真相60県民栄誉賞選考の不可解な謎!』に書いた通り、もし、知事が周囲の意見をちゃんと聞く耳があれば、「県民栄誉賞」の在り方そのものが違っていただろう。  「強い権限、権力を持つ人が間違っていると思ったことは、全身を掛けて、人格を掛けて批判するというスタンスは変わっていない」と釈明会見の終わりでかっこういいことを述べている。知事の「事実認識」に沿えば、「教養のレベルが露見した」のであるから、あらためて菅首相批判をするということになる。本当に、もう一度、菅首相を批判できるのか?  釈明したのではなく、珍妙な「事実認識」で誤魔化したから、問題は終わりではなくなってしまう。これで、菅首相との対決姿勢がはっきりとしてしまった。かっこういいことを言うのと、心から謝罪するのは全く違うのだ。 医師不足対応で何もできていない  27日の会見で「大学院大学」の文科省認可を発表、医師不足への対応にもなるとの発言をした。「政務」をしない知事では、医師不足の対応などできるはずもないのだ。どういうことか?  静岡県はさまざまな問題を抱えるが、最も大きな問題のひとつが医師不足である。静岡県には新設の浜松医大1校しかない。東京には13校、愛知、神奈川両県には4校もある。よく財政規模を比較して、北陸3県と同じと胸を張るが、北陸3県(福井、石川、富山)には4校の医大がある。だから、静岡県の医師不足は深刻な状況であり、根本的な解決は医大新設しか方法はない。  2009年夏、「県東部地域に医大誘致」を公約に掲げて、川勝知事が初当選したとき、わたしは、ある雑誌に『(医大誘致に向けて)頑張れ、頑張れ!川勝知事』という記事を書いた。当時、ある医科大学病院の財団理事をしていたから、実質的にも応援しようとした。  医師が偏在する東京都の人口は1250万人で、13の医科大学があり、1600人の新入生がいる。7千人に1人が医学部の新入生がいる計算である。  北陸3県同様に、医師の数が多いのは山梨県である。川勝知事が最近、連携を強める山梨県は人口70万人で1医科大学、6500人に1人の新入生がいるから、東京都より恵まれている。  対する静岡県は約370万人の人口に浜松医科大学しかない。新入生は3万2千人に1人、全国平均の約3分の1、山梨県の約5分の1である。これだけを見ても、静岡県の医療環境が貧しく、医師不足を招いていることがわかるだろう。  だから、静岡県に少なくとも2つの医科大学があって誰も文句を言う筋合いではない。  この課題こそ、政治家としては当然取り組むべき仕事である。だから、『頑張れ、頑張れ!川勝知事』という記事を書いたのだ。  静岡県が取り組んでいるのは、月額20万円を貸与、貸与期間の1・5倍期間を県の公的医療機関で働けば、返還免除となる奨学金制度のみである。医学生は6年間で1440万円を受け取ることができ、9年間働けば返還免除となる。当初から、奨学金制度の効果について、大学、医療関係者から疑問の声が出ていた。そもそも大学卒業したばかりの研修医など使いものにならない場合が多く、患者からしてみれば、初めての経験を積んでいく研修医に診てもらうことには抵抗感が強い。  川勝知事に大きな期待を寄せた。ところが、知事に就任して10年以上たったが、「医科大学」誘致は全く進んでいない。その理由は何か?  知事は「県民から選ばれ、県民のために仕事をしている」と述べて、大学院大学設置をする。大学院大学設置の基本構想など取材してきたが、中身を見れば、単に京大関係者らのポストをつくるだけのもので、県民の側を向いてはいない。「研究成果を国内外に発信する世界へ羽ばたく、知と人材の集積拠点」など美辞麗句だけを並べているだけの組織である。当然、医師不足に対応できるはずもない。  「政務」に励まなければ、医科大学の誘致はとうていできない。10年間以上、「政務」をしてこなかったというのだから、県民は裏切られたことになる。いまからでも遅くない。ちゃんと「公約」を思い出して、「政務」に汗を流し、医大新設を目指すべきだ。 千石ヤードのボーリング調査さえ認めないとは!  静岡県は23日、JR東海が追加でリニア工事に関わるボーリング調査を行うことを発表した。西俣ヤード、椹島ヤードの2カ所でボーリング工事を実施することを県は認めたが、千石ヤードでボーリング調査を行うことは県自然環境保全条例を盾に拒否した。  県専門部会、国の有識者会議でも畑薙山断層帯での破砕帯を調べるためには、複数の専門家から千石ヤードでのボーリング調査を行う必要性が指摘されていた。西俣ヤード、椹島ヤード同様に、トンネル掘削につながる工事ではない。もっと言えば、静岡県が問題にしている水環境保全のためにも必要がある畑薙山断層帯に関わるボーリング調査を県のほうから拒否したのである。  ことし7月、ヤード準備工事の際には、トンネル掘削につながるとして県自然環境保全条例を盾に3カ所のヤード準備工事を認めなかった。その際、難波喬司副知事名で、宇野護JR東海副社長に宛てた7月3日付文書には、ヤード工事は認めないが、「地質状況をより詳細に把握するための調査に必要な整地などトンネル掘削工事の一部ではないものについては条例上、特に問題はない」などと記している。つまり、ボーリング調査は条例とは関係なく行うことを認めていた。それなのに、千石ヤードでのボーリング調査は条例を盾に拒否したのだ。  担当課長に聞くと、「条例の解釈を拡大した」と話した。自然環境保全条例とは、開発行為などによる動植物の貴重種保全が目的であり、今回の千石ヤードでのボーリング調査地域に貴重種は存在しない。県がもっと数多くボーリング調査をやるべきだと何度も言ってきていたのに拒否したのは、川勝知事の判断だろう。  川勝知事は16日の釈明会見で「基本的に弱いものをいじめないことを原則中の原則としている。しかし、権限を持ったり、権力を持った人に対しては、間違っていると思ったことははっきりと言う」と述べた。最終的には、すべて知事が責任を持って判断することだから、千石ヤードのボーリング調査を認めない判断は、権力の濫用となってしまう。まさに言行不一致である。  このような判断は、リニア工事計画を進めている沿線の都県から厳しい批判を受けるだけだろう。JR東海と議論して、静岡県にとって良い解決方向を見出すのは、知事の責任である。「政務」とは何かをちゃんとわきまえるべきである。

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リニア騒動の真相60県民栄誉賞選考の不可解な謎?

県民だより10月号表紙の写真は異様だった  県民だより10月号表紙を見て、驚いてしまった。ノーベル賞受賞者の吉野彰氏に県民栄誉賞を授与した川勝平太静岡県知事と吉野氏がまるで、文化勲章受章式のような雰囲気で撮影された写真が大々的に使われていたからだ(タイトル写真)。吉野氏が旭化成富士支社に勤務、富士市初の市民栄誉賞を受賞したことはニュースで承知していた。それで今度は県民栄誉賞である。ただ、表紙の写真は表彰等ではなく、どういうわけか、吉野氏よりも知事のほうが目立っていた。  一体、県民栄誉賞とは何だろうか?  そんな疑問を抱いていた折、7日の会見で川勝知事の菅義偉首相批判が飛び出した。日本学術会議について、調べてみようと考えたのも県民だより10月号表紙写真がきっかけだった。最近、リニア問題について、東洋経済オンラインで記事を書かせてもらっていた。今回はリニア問題と離れているが、知事の批判があまりに事実を踏まえていないので、特別に掲載してもらった。もし、こちらを読んでいない方は、ぜひ、ご覧ください。10月22日付東洋経済オンライン『川勝知事が追及しない「日本学術会議」選考の謎』(https://toyokeizai.net/articles/-/383107)。  リニア問題関連で日本学術会議の会員任命について、知事は「菅義偉という人物の教養のレベルが図らずしも露見した。菅さんは秋田に生まれて小学校、中学校、高校を出られた。東京に行って働いたけれど、勉強せんといかんということで、夜学に通い、学位を取られ、その後政治の道に入った。言い換えると学問をされたわけではない、学位を取るために大学を出られたということだ」と痛烈な批判をした。  なぜ、知事はこのような発言をしたのか? 同じ年齢だが、全く違う境遇の菅首相と川勝知事  1948年生まれの菅首相と川勝知事は同じ時代を生きているのだが、それぞれの境遇は全く違う。  菅首相は秋田県雄勝郡秋ノ宮村(現湯沢市)出身。菅氏によれば、中学の同級生120人のうち、半分は中学卒業後東京に集団就職、残った60人のうち、30人が農家の後継ぎで、30人が高校に進学した、その中から大学に行ったのは、菅氏を含めてたった2人である。当時、地方の農村では珍しいことではなかった。  菅氏は高校卒業後、東京・池袋から私鉄で5つ目の駅にある段ボール工場に就職、従業員10人ぐらいの町工場で、毎日段ボールを運ぶ仕事をした。「東京でいちばん思い出したくない青春だった」と語る。10カ月で段ボール工場を辞めて、アルバイトしながら入学金を貯めて、授業料の一番安い法政大学に入学した。大学に行ってからも、アルバイトを続けたが、途中でお金が苦しくなって、学生課で「夜間に移りたい」と相談する。担当者が「2部(夜間)に移らないほうがいい。2部は絶対、やめたほうがいい」と言われ、アルバイトに専念したのだという。ここで、夜間に移っていれば、川勝知事の言った通りになったが、知事の発言からは「夜学」をさげすんでいる印象がはっきりと伝わった。  働くばかりで勉強はどうしていたのか?当時は大学紛争の真っ最中で学校はロックアウトされ、卒業までリポート提出のみだったという。  かたや、川勝知事は京都府で生まれ、京都市で育った。知事によると、祖父は造り酒屋だったという。京都御所近くで育ち、母親の勧めで幼稚園から中学校までバイオリンを習っている。公立中学から中高一貫教育のカトリック系ミッションスクール洛星高校へ編入している。中学校時代、近くの医者に京都大学に入った息子がいて、数学、物理などの家庭教師をしてもらったという。  京都一の進学校、洛星高校から一浪して、早稲田大学政経学部へ進んでいる。早稲田も学園紛争の中にあり、授業は休講、知事はアルバイトではなく、大学図書館に籠って勉強、たくさんの本を読んだという。  大学3年のとき、新聞記者を目指して、新聞社の岡山支局にいた先輩を訪ね、話を聞いたあと、急きょ、学者の道を志し、早稲田の大学院へ進学した。4年間オックスフォード大学へ留学後、早稲田大学で教え、その後、京都の国際日本文化研究センターへ移り、2007年4月静岡文化芸術大学の木村尚三郎学長の死去に伴い、理事長の石川嘉延知事からの要請を受けて、学長に就任、2009年7月の静岡県知事選で知事に就いている。学者として本当に恵まれたエリートコースを歩んだ。  菅氏との一番の違いは、生きるために社会の泥に塗れ、生活のための苦労をしたことが川勝氏には一切ないようだ。1960~70年代の日本人ほとんどが菅氏のように大学へ通うためにアルバイトをするのが当たり前だった。川勝氏のように勉学だけに専念できる境遇は例外中の例外だった。  県民から数多くの批判を受けたあと、発言訂正後の記者会見でも、知事は「私は、権限や権力を持った人が間違っているならはっきりと言う。そのスタンスは変わらない」と述べた。  本当にそうなのか? 京大関係者の天下りポストばかり?  そこで、最初の疑問に戻る。県民栄誉賞とは何だろうか?  昨年の県民栄誉賞をノーベル賞受賞者の本庶佑氏に贈ったというニュースを聞いて、びっくりした。京都大学の本庶氏と静岡県の関係を全く知らなかったからだ。調べてみると、本庶氏は2012年4月から2017年4月まで県公立大学法人理事長に就いていたのだという。選考委員会などはなく、川勝知事の任命である。報酬は週2回、静岡市にある県立大学で職務をするということで月額104万6千円を支払っていた。2014年から、本庶氏から週1回に減らすことで52万3千円としてほしいという提案があったという。週1回と言っても、京都から1泊2日で2回通い、月4回の報酬として52万円余は非常に高い。現在の理事長も京都大学の元学長である。以前は県幹部の天下りポストだったが、いまは京大関係者の天下りポストになったようだ。  その後、本庶氏はふじのくに地域医療支援センター理事長、静岡県「社会健康医学」推進委員会委員長にも就いている。静岡県の医師不足は深刻であり、川勝知事が最初に知事選に出馬したときの公約は「県東部地域への医科大学誘致」だった。京大医学部との関係が深い本庶氏が医師不足に対応する地域医療支援センター理事長に就いて、医師不足が解消されたという話は聞かないし、来年度に設立される大学院大学でも医師不足解消にはつながらない。公約の「医科大学誘致」はどうなったのか?  もうひとつ、多額の報酬等を支払って、県が雇った人に対して、県民栄誉賞を与えるのはなぜ、なのだろうか?  県民栄誉賞を決める選考委員会はなく、単に知事の「権限」で決めるのだという。ノーベル賞を受賞して、文化勲章をはじめさまざまな賞を受けた本庶氏にとって、静岡県民栄誉賞は特別な賞ではないだろう。それほどのありがたみもないかもしれない。そもそも県民のほとんどが本庶氏が県民栄誉賞を受けるほど静岡県と関係が深いなど全く知らない。一体、何をしてくれたのか、さっぱりわからない。  天野浩氏、吉野氏を含めて、知事はノーベル賞受賞者に県民栄誉賞を授与しているが、一番違うのは、本庶氏の場合、県の仕事を知事が頼んで、その上で県民栄誉賞を与えているのである。県公立大学法人理事長に任命したのも、県民栄誉賞を決めたのも川勝知事である。知事の権限がいかに大きいものか、知事は気がついているのだろうか?  菅氏批判と同様に、知事は市井で本当に頑張っている人たちを知らない。静岡県には菅氏同様に非常に苦労しながら、圧倒的なすばらしい仕事をしている人たちが多い。そのような人たちに光を当てるのが政治ではないのか?  学問しかなかった知事にとっては、学問だけをやってきた人以外は評価できないのかもしれない。 小野二郎さんこそ県民栄誉賞にふさわしい  新居町(現湖西市)の山口幸洋氏は浜松商業を卒業すると、実家の燃料店を継ぐために進学をあきらめたが、独学で方言の研究に一生を費やした。リニア問題で揺れる大井川上流部に何度も足を運び、「日本語方言一型アクセントの研究」をまとめている。40年間の研究の末、大井川上流部、北関東、八丈島周辺、沖縄などで使われていた方言が縄文時代の日本で使われていたアクセントであることを突き止めた。文化勲章の服部四郎や金田一春彦らの、弥生時代に中国の複雑なアクセントが到来して京都、奈良アクセントに発展したのが日本語アクセントの始まりという説を覆す研究成果だった。日本語アクセントの発祥が縄文時代であることを証明したのだ。  燃料店の仕事をしながら、全国各地を足で調べた結果であり、新村出賞を受け、学歴も資格もなかったが、静岡大学教授に就任、大阪大学から博士号を贈られている。山口氏は学界の人ではないから、絶対に日本学術会議会員に選ばれなかっただろう。晩年はパーキンソン病や脳梗塞に苦しみ、車いす生活を余儀なくされた。2014年に83歳で亡くなったが、静岡県からの評価は何もなかった。  小野二郎さんは龍山村(現浜松市)出身で、8歳で天竜の旅館に住み込みで奉公に入り、10歳から包丁を握り、16歳で横浜の軍需工場に徴用され、戦後、浜松、東京、大阪で修業を重ね、1965年に40歳で独立、銀座・数寄屋橋交差点のビル地下1階に「すきやばし次郎」を構え、以来、毎日カウンターに立ってきた。  2005年厚労省の「現代の名工」、2007年からはミュシュランガイドの三ツ星を獲得、2014年米国のオバマ大統領は来日した際に、安倍首相とともに二郎さんの寿司を味わった。2019年3月、ミシュラン三ツ星レストランの最高齢料理長としてギネス世界記録に認定されている。94歳である。  二郎さんの築地への買い出しや利き手の左で握る姿を取材させてもらい、静岡県からの客には人一倍のサービスをするという話に耳を傾けた。二郎さんは江戸っ子を気取らず、ふるさとを本当に大切にする人である。最初の頃の弟子は静岡県出身ばかりだった。二郎さんは8歳から拭き掃除を仕込まれた。毎朝早くから夜まで働くのがふつうだった。二郎さんが特別ではなく、貧しい子どもたちは一人前の労働力として扱われたのだ。  「掃除だけは自信がありますよ」と笑って言っていた。教養とはそういうことだろう。  本庶氏のような学歴はないかもしれないが、世の中の荒波にもまれ、現在の地位に就いた、二郎さんのような素晴らしい静岡人を探せばいるのだ。県民栄誉賞とはそのような人たちがふさわしいのではないか?素晴らしい静岡人がいることを全く知らない、知事の独断専行で決めるのでははなく、選考委員会をつくり、公開の上で決めるべきだ。