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リニア騒動の真相83「BAD BLOOD」な関係?

「リニア」外しの意外な選挙戦略とは?   6月3日告示の県知事選(20日投開票)で、「リニア」を争点から外すという元国交副大臣の岩井茂樹氏(自民党推薦)の姿勢は、25日の公開討論会ではっきりとした。川勝平太知事から「(大井川流域住民の理解を得るために)厳しい姿勢で臨む選択肢」を問われた岩井氏は「場合によれば、ルート変更、工事の中止も含めて毅然と対応したい」などと切り返した。流域住民が理解しない限り、国の有識者会議による(下流域への影響はほとんどないと結論づけている)中間報告案を認めない立場を強調したかっこうだ。  川勝氏は「ルート変更」や「工事の中止」と言った岩井氏の発言を予期していなかっただろう。「リニア」推進の立場を取る国や自民党をバックにしているから、まさか、川勝氏の得意技である「ルート変更」や「工事一時凍結」というお株を奪い、さらに踏み込んだ「工事の中止」にまで岩井氏が言及するなど思いもしなかったはずだ。  川勝氏が「(自民党推薦であり)自民党全体の責任で話しているのか」と追及すると、岩井氏は「その時の状況を踏まえて選択肢の中で(工事の中止も)ありえる」とかわした。  討論会会場の約150人、テレビ、新聞報道を見た県民が岩井氏の発言を額面通りに受け取ったのだろうか?当然、「ルート変更」も「工事の中止」も、「場合によっては」という前提があり、数ある「選択肢」のひとつに過ぎない。これが「リニア」の争点外しの選挙戦略であり、岩井氏が当選すれば、「リニア」推進に舵を切ることはほとんどの関係者が了解済みだ。反「リニア」の川勝氏に対して、「リニア」推進の岩井氏という構図を一番承知しているのは、リニア工事中止を求めた日本山岳会など反「リニア」の団体である。  さて、本当に「リニア」推進を訴えることが選挙戦でマイナスになるのか?川勝氏が「リニア」凍結を求めるのは、リニア工事が「命の水」と「南アルプスの自然環境」をおびやかすから、と訴える。”環境保全派”の川勝氏が岩井氏との違いを出す戦略だろう。と言っても、川勝氏は表面上、「リニア」には賛成の立場を取ってきた。それが、コロナ禍の中、「リニア」の必要性を見直すときに来ていると発言、反「リニア」色をさらに強める。川勝県政が継続すれば、今後4年間、静岡県内のリニア工事の着工は見送られるのは確実である。それでいいのか?  いまの日本に、リニアが必要であることをシリコンバレーで起きた事件を基に紹介したい。「BAD BLOOD」は、その事件を追ったドキュメンタリーのタイトル。ちなみに、「BAD BLOOD」とは、「悪い血」のダイレクトな意味だけでなく、悪感情とか反目とかでも使う。まさに、川勝、岩井両氏の関係も表わす。 美女エリザベス・ホームズを支えた大物たち  「BAD BLOOD Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup」は2018年5月、米国で出版された。著者はウオール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の調査報道記者ジョン・カレイロウー。血液一滴で200種類の病気を判別する革新的な血液検査装置を開発したというスタートアップ企業、セラノスの創業者エリザベス・ホームズの真実を追う物語であり、2015年10月15日付WSJ1面トップ記事「もてはやされたスタートアップの行き詰まり」(見出し)を世に出すことで、セラノスの秘密と嘘を暴いていくドキュメンタリーでもある。  エリザベス・ホームズ=タイトル写真=は見栄えがよく、フォトジェニック(写真うつりのよいこと)が大きな特徴だ。ブロンドヘアの白人、大きな青い瞳、落ち着いたバリトン・ボイス、スティーヴ・ジョブスをまねた黒いタートルネックのセーターなどのイメージ戦略がシリコンバレーの女王を創り上げている。取締役会の高名なベンチャーキャピタリスト、ドン・L・ルーカス、ラリー・エリソンやスタンフォード大学の花形教授チャニング・ロバートソン、元国務長官ジョージ・シュルツらはセラノスの秘密や嘘が暴露された後でも、WSJの記事や内部通報者ではなく、エリザベスをとことん信用する。大物政治家らは、彼女の若い魅力的な才能に惹かれ、絶対的な庇護者となってしまった。  彼女はスタンフォード大学化学工学部に進学したが、19歳で中退、2003年22歳の時、セラノスを設立、彼女らの発明したとされる「痛くない血液キット」によって、アメリカの大手薬局チェーンと業務提携するなど急速に拡大した。10年間で医療費が約2千億ドル節約できると予想され、世界中の注目を集め、セラノスの企業価値は9000億円を超え、弱冠31歳で資産50億ドルを稼ぎ出し、雑誌フォーブスは「自力でビリオネアになった史上最年少の女性起業家」ともてはやした。ホワイトハウス、米商務省などが協力して国際的起業を支援する機構メンバーにも選ばれ、オバマや現大統領のバイデン(当時、副大統領)らもエリザベスを絶賛した。  ことし2月になって、『シリコンバレー最大の捏造スキャンダル全真相 BAD BLOOD』(集英社)という邦題で日本語版が出版された。2006年11月の革新的な血液検査装置をスイスの製薬会社への売り込んだ成功の瞬間から2018年3月の証券取引委員会(SEC)の詐欺罪提訴までが詳しく描かれている。第1章「意義ある人生」から第18章「ヒポクラテスの誓い」まで、セラノスの不正に満ちた内部で何が起きているかを追っている。第19章「特ダネ」から第24章「裸の女王様」までの後半4分の1で、WSJのジョン・カレイロウー記者とセラノスとの対決が描かれる。米国弁護士の役割や秘匿特権などだけでなく、とにかく、登場人物が多く、仕事、家族や友人などの関係も複雑多岐にわたり、カタカナの分かりにくい名前ばかりだから、人間関係を理解するだけでも日本人にはひと苦労かもしれない。WSJへ通報したジョージ・シュルツの孫タイラー・シュルツは弁護士費用を40万ドルも支払った。社会正義遂行のために破産する可能性さえあったのだ。日本とは全く違うのである。  静岡経済新聞は2018年10月28日付「取材ノート エリザベス・ホームズの正体を暴いたのは?」で一度、紹介しているので、こちらを読んでほしい。 GAFAMも大風呂敷のスタートアップだった  なぜ、リニアが日本には必要なのか?その理由は、日本には「セラノス」が誕生しないからである。  GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)など、現在、世界を支配するIT企業も最初はスタートアップだった。Fake it, until you make it!(そうなるまでは、そうであるふりをしろ)。1980年代につくられた造語、Vapor-ware(ベイパーウエア)とは、制作中と発表しながら、なかなか実用にならないソフトウエアやハードウエアを指す。つまり前宣伝だけは華々しいが何年たっても実現しない霞や幻のようなソフトウエアやハードウエアで、大風呂敷を広げるだけ広げてあとは成り行き任せにするIT業界の傾向を指す。  マイクロソフト、アップル、オラクルもかつてはそんな大風呂敷を広げた。シリコンバレーのテクノロジー業界では大風呂敷はお家芸であり、資金調達の手段として許容されているという。  GAFAMに追い付こうとするスタートアップの一つがセラノスだった。スタンフォード大学教授のロバートソンはエリザベスに対して「第二のビル・ゲイツかスティーヴ・ジョブスの瞳をのぞき込んでいることに、わたしは気づき始めた」と言っている。エリザベスをはじめ、多くの若者たちがシリコンバレーを中心に数多くいて、大風呂敷を広げているのだ。  同書は、『2013年の秋までには、シリコンバレーの生態系に凄まじい勢いで資金が流れ込み、ここから生み出された新種のスタートアップを表わす造語「ユニコーン」ができた。ユニコーンとは、評価額が10億ドルを超える巨大スタートアップを指す言葉だ』とあり、当時、その数は100社を超えたのだ。  ユニコーンの代表格が、配車アプリのウーバーであり、当時35億ドルの評価額で3億6100万ドルを調達した。音楽配信サービスのスポティファイは40億ドルの評価額をもとに2億5000万ドルを調達していた。セラノスはこれらのスタートアップの評価額を一足飛びに追い越し、60億ドルと評価され、その差を広げていた。2014年には評価額90億ドルに達し、エリザベスの個人資産は50億ドルに膨れ上がった。とにかく、大風呂敷を広げることで資金を集めまくるのがスタートアップということだ。  大風呂敷を広げたままのセラノスが許されなかったのは、その製品が単なるソフトウエアではなく、人々の血液を一滴で分析、検査する医療器具だったからだ。医師は臨床検査の結果に基づいて治療方針を決める。臨床検査室の機能がちゃんと果たされていなければ、誤診を招き、多くの患者の死を招く恐れがあった。多くの人の生命を危険にさらすと承知して、エリザベスは自社技術がすでに完成しているように嘘をつき、大風呂敷をさらに広げようとした。  著者のジョン・カレイロウーはエリザベスを「稀代の売り込み屋(大風呂敷に酔う者)」と呼んでいる。工学用語も検査室用語も難なく自在に操り、新生児治療室の赤ちゃんが採血されずに済みますように涙ながらに訴えかけることで信頼を勝ち取り、あっという間に人々に魔法を掛けてしまう。  ちょうど、セラノスが事件化され、WSJで大きく報道されていた2018年4月から7月までアメリカの各地(ニューヨーク、シアトル、サンフランシスコなど)を回った。そこで実感したことの一つが、ウーバー(配車プラットフォーム)がなければ、アメリカでは生活できないことだった。GPSがなければ、自分自身の立っている場所がどこか分からないのだ。ホテルだけでなく、エアビーアンドビー(民泊プラットフォーム)も使った。ホストファミリーはアレクサ(アマゾンの音声サービス)を使い、スマホがなければ、生活ができないのだ。アメリカではスマホがなければ旅行(生活)できないから、わたしもスマホの契約をした。  日本に帰国して、すぐにスマホを解約して、ガラケイに戻した。便利で親切な国、日本ではスマホの必要性がないと実感したからである。PCがあれば、スマホがなくても何の不便もない。政府がこぞって高齢者らにスマホを持つように呼び掛けるが、必要性が薄いのだから、契約してもスマホの機能を使いこなせない高齢者が多い。スマホに道案内を頼むよりも、誰かに聞いたほうがずっと楽しい。アメリカと違い、日本はそういう国であり、公共交通、タクシーなど整備され、ウーバーを必要としない。(※法的にも縛られている)  日本の個人生活で、ITのお世話になることは最小限で済む。そんな国で、シリコンバレーのスタートアップが生まれる可能性は非常に小さい。  セラノスも日本のような国民皆保険の国では必要ない。つまり、成長分野が望めるIT産業は日本ではなかなか誕生できない。 リニアをインバウンドに生かすために  一体、日本の成長産業分野で何が残っているのか?コロナ禍が終息すれば、インバウンド需要が再び伸びて、観光産業がけん引していかなければ、他に目ぼしい産業はないだろう。4000万人以上のインバウンドに期待するしかない。  トヨタが30年後にいまのままであるのかどうかわからない。もしかしたら、潰れているかもしれない。トヨタは水素自動車に賭けているが、シリコンバレーを含めて世界では電気自動車にすべてターゲットを合わせている。エジソンのつくったGEやワトソン・シニアがつくったIBMがそうだったように、アップルもグーグルも現在の形を変えているだろう。  日本は中国と違い、GAFAMにすべてを頼っている。このプラットフォーム分野ではすべてアメリカの専売特許に任せている。だから、日本を売るしかないのだ。青函トンネル、本州四国連絡橋、東京湾横断道路などムダな公共事業かもしれないが、日本でしか体験できない。リニアも全く同じである。南アルプスの地下約4百㍍を貫通するリニアは日本に来なければ体験できない装置となるだろう。  約80年前、太平洋戦争で230万人の戦死者と80万人の一般市民が亡くなった。日本全土が焼土と化した。敗戦後、日本の復興が始まった。高度成長期が続いたが、バブル崩壊後、長い停滞期が続き、2011年の東日本大震災で約2万人の人命が失われると、また、日本の復興が始まった。日本人は不幸と幸福の狭間の中で生きている。コロナ禍という不幸が終えたあと、日本の復興にリニアはどうしても必要となるだろう。それが予測できるだけに、いまの若い人たちの未来にリニアは必要となると断言できる。  リニアについては、さらに詳しく書く機会があるだろうから、そのときに詳述する。今回、「BAD BLOOD」という優れたドキュメンタリーでシリコンバレーの現実を垣間見たことで、いまの日本に何が必要なのかをリニアに結び付けて、簡単に紹介した。  月刊WiLL7月号(ワック)が『リニアの夢を砕く 川勝平太静岡県知事はズブズブ親中派』(白川司)という論文を掲載していた。”ズブズブ親中派”かどうかの証拠には欠けるようだが、川勝氏が反「リニア」であることは間違いない。6月20日投開票の知事選では川勝氏が圧倒的に有利であり、工事凍結どころか、リニアはこのまま宙に浮いてしまう可能性さえある。本当にそれでいいのか、有権者が判断する。

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リニア騒動の真相82「命運」決まる選挙戦だ!

「リニア推進」vs「反リニア」の戦い  自民対全野党の激突となる静岡県知事選(6月3日告示、20日投開票)の前哨戦がスタートした(公明は自主投票となる見込み)。「リニア」を争点にする川勝平太知事に対して、前国土交通副大臣の岩井茂樹・前参議院議員はJR東海を指導する国の有識者会議を重視する姿勢を示している。その上で、流域住民の理解と協力を得ることが最大の解決策として、県の姿勢と大きな違いのないことを強調した。つまり、「リニア」を争点から外したのだ。  川勝氏は4月28日の出馬表明の会見で、岩井氏を“国交省の顔”になぞらえ、「リニア」を知事選の最大の争点に挙げていた。「国交省に堂々と正論を吐かないといけない」「県民が水問題に関する見解を表明する良い機会になる」などと発言、リニア工事による大井川の下流域の水問題について政策論争する構えで岩井氏を挑発した。  ところが、岩井氏は「国交副大臣というが、確かに鉄道も担当だったが、水の担当者でもあった。水をどうやって有効的に使っていくのかが仕事だったので、国交省だからと言ってリニア推進派ではない」などと述べ、大井川流域の理解と協力を最優先する姿勢は知事と同じだと「リニア」論争から逃げた。  「リニア」論争から逃げる岩井氏の気持ちも理解できる。リニア問題については、「湧水の全量戻し」のひとつを取っても、一般の人たちが理解できるように説明するのは非常に難しいからだ。  2013年9月、JR東海は環境影響評価書の中で大井川の流量が毎秒2㎥減るという予測を示し、2年後に、毎秒1・3㎥を戻し、残りの0・7㎥は必要に応じて戻す案を示した。これに対して、静岡県は「全量戻せ」と主張した。結局、JR東海が「湧水全量(毎秒2・63㎡)戻し」を約束したことに対して、今度は、知事は「全量戻しであるならば、工事中の水一滴を含むすべて」と切り返した。いつの間にか、工事期間中の山梨県、長野県への流出分すべてを戻せ、という議論にすり替わってしまった。  JR東海は「作業員の人命安全」を最優先して、山梨県外、長野県外への流出はやむを得ないとしている。その背景には、たとえ、流出したとしても、湧水全量戻しによって、大井川の流域への影響はほぼないからと説明する。これに対して、県は山梨県外、長野県外に流出することで、静岡県全体の地下水へ影響が及ぶとしている。一般の人たちはこの議論についてこられるのか?(※この「リニア騒動の真相」で何度も詳しく紹介しているので、時間のある方はご覧になって、ちゃんと理解してほしい)  岩井氏は、リニア問題の争点を説明するのではなく、分かりやすく、大井川流域の理解と協力を最優先すると表明した。ただ、これは単なる選挙戦略である。岩井、川勝の両氏が「リニア」に同じ姿勢で臨むなど関係者の誰ひとりとして夢にも思わないだろう。  結局のところは、岩井氏が当選すれば、「リニア」推進であり、川勝氏であれば、「リニア」凍結であると承知している。つまり、岩井氏が当選しなければ、リニア着工の道は開けないのである。 菅首相から手渡された「自民党推薦」証の威力は?  コロナ禍の中、外出自粛などを要請されているから、ふだんの選挙戦とは事情が大きく違う。投票率を読むことができない。だからと言って、選挙戦略が変わってくるわけではない。岩井氏は静岡、浜松、沼津に後援会事務所を開設、川勝氏も事務所を静岡に設けた。どんな選挙であっても、1票でも相手側より多く取れば、勝ちとなるから、政策論争よりも、どのようにしたら、相手側よりも票を1票でも上積みできるかのほうが重要である。  岩井氏は14日、静岡市七間町通りに開いた選挙事務所で出馬表明を行った。田辺信宏・静岡市長が2019年4月の市長選挙で使った同じ場所であり、それまで2年間もシャッターが閉まっていた。 事務所入り口には、岩井氏の写真が掲示され、上川陽子法相(前県連会長)と並んだポスターも掲示されていた。ポスターを見ると、知事選が終わったあと、上川法相が来る衆院選挙で、この事務所を使うことがわかる。上川法相の時局講演会が知事選の投開票日の翌日、6月21日午後4時から、この事務所で開催されるという告知が記されているのだ。入管法、少年法改正など喫緊の法務行政で忙しい上川法相としては、知事選で多くの人が訪れる認知度の高い場所だから、選挙事務所にするのは都合がいいのだろう。ただ、「二兎を追う者は一兎をも得ず」のたとえにならなければいいのだが、本当に大丈夫か?  と言うのも、14日の岩井氏の出馬会見を仕切った自民県連は、県政記者クラブ以外の記者を締め出してしまった。わざわざ、東京から取材に訪れたフリーの記者はかんかんに怒っていた。選挙とはイメージを大切にするものであり、気に入らない人間を排除する戦略では、岩井氏に好意を持つ他のメディアも離れてしまう可能性がある。  出馬会見の翌日(15日)、事務所を訪れ、菅義偉首相から岩井氏に手渡された自民党の「推薦書」を見せてほしい、と頼んだ。事務所によると、記者会見前には飾ってあったが、公職選挙法の関係もあって、報道陣の要請ですべての掲示物を外してしまったのだ、という。菅首相、二階俊博幹事長の「必勝」の色紙を含めて、再び、掲示されたのは16日になってからだった。(タイトル写真は「自民党推薦」の証書など)  事務所正面の神棚の下に「自民党推薦」が仰々しく飾られていた。今回の知事選で、「自民党推薦」はどのくらいの威力があるのか、聞いた。誰も納得できる回答をしてくれなかった。18日付静岡新聞が公明党が自主投票とする方向で、党本部に上申するとあったから、党本部の力では公明党を動かすことはできないようだ。  前回の参院選挙で、広島選挙区の河井案里氏に1億5千万円の選挙資金が送られた経緯が問題になっていた。今回の知事選では岩井氏側にいくらくらいの選挙資金が回されるのか、そんなおカネの話題が飛び交えば、知事選にはマイナスになってしまうかもしれない。  自民党推薦を得るために、上川法相は何度も党本部を訪れていた。県連推薦ではなく、党本部推薦に格上げされることで、どのくらい、知事選挙で有利に働くのか、わかりやすく教えてほしい。自民党が一丸となるとどのくらい強力なパワーが発揮されるのか?果たして、自民党推薦によって、岩井氏の当選は確実なのか? 川勝氏事務所は選挙事務所には見えない  一方、川勝氏の選挙事務所は16日に事務所開きを行った。ふじのくに県民クラブの県議、連合静岡代表らが集まった。一番、びっくりしたのは、外からは何の事務所か分からなかったことだ。「東京時代から静岡時代へ! 世界に輝くSDGsモデル県を共に創ろう!」という何だかわからないスローガンの書かれた看板があった。事務所に数多くのテレビカメラが集まっていたから、通行人たちは興味深げに室内をのぞいていたが、川勝氏の選挙事務所だとは誰も気がつかなかったようだ。  この空き店舗は、もともとは婦人服のブティックがあった場所という。事務所に入ると、大きな鏡があって、しゃれたつくりであり、奥には岩井氏の事務所と同様に神棚があった。川勝氏の写真がついたチラシや名刺などが置かれていた。川勝氏「レインボーマニフェスト」の一番最初にやはり、赤字で「リニア問題」とあった。「令和時代に求められている環境と経済の両立を図ることで、本県をSDGsのモデル県にします!」と小さな字で説明があった。SDGsがリニア問題とどのようにつながるのか理解するのは難しい。  さて、双方の陣営が目標得票数を、前回知事選で川勝氏が獲得した83万票台に設定しているのだ、という。そんな低い得票数で本当に当選が可能なのか? 83万票台が当選ラインは間違い?  川勝氏は2013年の知事選で知事選史上最多の108万票を獲得している。前回知事選では、自民党は対立候補を擁立することができず、自民静岡市支部などは元県教育委員会委員の女性候補支援に回ったが、大きな争点もなく、それでも83万票を川勝氏は獲得している。  今回選は「リニア」を争点に、岩井氏に自民党推薦を出しているのだから、自民県連は各支部に号令を掛けて大車輪で票の上積みを図っているだろう。自民県連は、2017年衆院選で県内8選挙区の自民党候補が獲得した合計得票85万3千票をにらんで、当選ラインを83万票台としたようだが、今回選で85万票を岩井氏が獲得したとしても、川勝氏の得票には及ばないだろう。  「リニア」を争点に大きな掛け声で「命の水」と「自然環境」を訴える現職の川勝氏へ支援の輪は広がっているからだ。108万票を超える勢いである。外向きには、両方の陣営は当選ラインを「83万票台」としているが、実際のところは分からない。コロナ禍の中、投票率は大きく落ち込む恐れもあるが、川勝氏の100万票超えはまず、間違いはないだろう。  いずれにしても、「リニア」の命運を握ることになる。もし、川勝県政の継続となれば、4年間は「リニア」着工は遠のくことははっきりとしている。それがたった1カ月間で決まる。「自民党推薦」がどれだけの威力を持つのか、どのような大物政治家が静岡を訪れるのか、虚々実々の戦いとなる1カ月弱の選挙戦がスタートしている。  JR東海にとってこそ、さまざまな意味で「命運」の決まる選挙となるだろう。

ニュースの真相

静岡新聞とスルガ銀行の”不可解な絵画取引”?

「ZAITEN」最新号に掲載された記事  10日付日本経済新聞朝刊に月刊誌ZAITEN6月号(5月1日発売、発行・財界展望社)広告が掲載された。何と『静岡新聞「スルガ銀行」との不可解な絵画取引』の見出しとともに、大石剛前社長の写真を見つけて、びっくりした。早速、丸善ジュンク堂書店で「ZAITEN」を購入した。メーン特集『NHK「公共放送」の大嘘』のほか、『テレビ朝日「報道ステ」CMが炎上した理由』などマスメディアに対して厳しい批判記事が掲載されていた。「W不倫」発覚時に「俺、田舎の人間だぞ!田舎の人間追っかけて何が楽しいんだよ」(写真週刊誌フライデー3月5日発売から)という”迷セリフ”で一躍、全国の注目を浴びた大石社長(当時)。またもや”田舎新聞”なのに全国誌から追っかけられたのだ。今度の記事には、一体、何が書いてあるのか?  ことし1月、大石社長(当時)の静岡新聞社がスルガ銀行からフランスの画家ベルナール・ビュフェの作品632点を購入したのだという。スルガ銀行の元頭取岡野喜一郎氏(故人)が創設したビュフェ美術館を巡っては、絵画寄付に不法行為があったとして、岡野一族に約32億円の損害賠償請求訴訟が起こされている。このため、同美術館を管理、運営する財団法人理事長を岡野光喜前会長が退任、前会長と関係の深い大石社長が引き継いだ。シェアハウス問題で苦境にあるスルガ銀行を救済するつもりなのか、大石社長は巨額の絵画取引まで主導したようだ。ただ、これがふつうの取引ではないのだ。  静岡新聞社が絵画を購入しても、絵画はそのままビュフェ美術館から移動することなく、管理、展示は同財団に任せ、他への転売もできない契約なのだという。多額のおカネを払っても、静岡新聞社にはメリットがないようだ。ビュフェ美術館を巡る取引では、岡野一族に資金が還流されていたのだが、今回はどうなのか?また、ビュフェ絵画の譲渡を伝える静岡新聞の記事写真に掲載された『キリストの受難 復活』(銀座・日動画廊の4億円相当の評価だという=タイトル写真)は、スルガ銀行が過去に同財団に寄付したものだという。すでに寄付した絵画を静岡新聞社に売却したことになる。売買に不正があったのかどうか分からないが、この取引には”不可解”なことばかりのようだ。  詳しくは、ZAITEN6月号を読んでもらったほうがいい。  記事の中で気になったのは、『静岡新聞社はこんな不可解な事実を承知の上、譲渡契約を結んだ可能性も否定できない。当然、取締役会を経たが、「大石の独断専行を止められる役員は誰もいなかった」(別の関係者)という。同社は本誌の取材に対し、具体的な譲渡額については「答えかねる」。また、取締役会決議の詳細についても「答えかねる」とした』など、静岡新聞社が経緯を明らかにせず、一切の回答を避けていることだ。  リニア問題では、JR東海や国交省を厳しく追及する静岡新聞社の姿勢とは真逆である。都合の悪いことはシャットアウトでは、新聞の信頼は失われるだろう。同社のリニア問題担当記者は、自社の姿勢こそ厳しく問うべきである。 警察の見立てを報道しても問題ない?  最近の静岡新聞は、フライデーのW不倫報道だけでなく、今回のZAITEN、また8日付の新聞各紙が同紙の報道姿勢を伝えるなど、社会的な話題をメディアに提供する側に回っている。  8日付朝刊では、朝日新聞地方版トップ記事『容疑者住所巡る訴訟 静岡新聞社に賠償命令 「地番秘匿の必要性高い」、原告「最後まで戦う」』、中日社会面記事『容疑者の地番掲載 違法 地裁判決 静岡新聞に賠償命令 「人生台無しに」原告男性 控訴意向 無罪推定が大原則 本紙見解』など同業他社が非常に大きな紙面を割いて、静岡新聞社の報道姿勢を問い質した。  静岡新聞は、2018年7月、静岡県警によって県内在住のブラジル人夫婦が覚醒剤取締法違反などの疑いで逮捕された事件で、夫婦の住所の地番を掲載した記事を掲載した。さらに翌日の紙面では、「夫婦が薬物密売グループのリーダー格」などとする同社だけの独自ネタによる大きな記事も掲載している。ただし、どこの新聞社等も追い掛けていない。  夫婦は逮捕、取り調べを受けたが、嫌疑不十分(検察庁が裁判で容疑を立証するための証拠が不十分として起訴を見送る。限りなく無実に近い)で不起訴となった。夫婦は嫌疑不十分となった逮捕事実(地番を含めた)だけでなく、「薬物密売グループのリーダー格」という警察の一方的な見立てを基にした報道によって、仕事や家族らに深刻な被害を受けた。このため、プライバシー侵害、名誉棄損など訴え、総額約690万円の損害賠償請求と謝罪広告の掲載を求めたのだ。  静岡地裁は「地番まで掲載する必要性が高いとは言い難い」など、夫婦それぞれに33万円(合計66万円)の支払いを静岡新聞社に命じた。  ところが、「薬物密売グループのリーダー格」という警察の見立てによるスクープ記事は、おとがめなしとされた。裁判官は、静岡新聞は警察の見立てをそのまま掲載したのであり、その時点では「新聞記事を掲載する合理的な嫌疑が存在した」などいう理由で夫婦の訴えを退けてしまった。実際には、「薬物密売グループのリーダー格」は何ら確証のない、言うなれば、警察の飛ばしを静岡新聞は報道してしまったのだ。  それでも静岡新聞社は、警察の見立てを鵜呑みにしただけなのだから、責任は問われないことになった。夫婦の代理人弁護士は「警察の見立てを書くのならば、新聞社が独自にそれが正しいのかちゃんと調べるべきである。最高裁判例でもそうなっている」として、夫婦は東京高裁に控訴する方針だ。警察からの情報を基にスクープ報道したのだから、静岡新聞社は記事に責任を持つべきだと主張している。静岡新聞社は、警察の捜査資料を確認した上で報道したのかどうかさえ疑わしい。  静岡新聞社は『当社の主張が一部認められず、遺憾です。判決内容を精査した上で対応を検討します』と他人事のようなコメントしている。中日は、『被告は「静岡新聞には警察の見立てを報じる際に、それが事実か、最後まで確認してほしい」と訴えた』とある。被告夫婦の悔しさが伝わってくる。  地番を掲載しなかった中日は「無罪推定が大原則」の見出しで、同紙はどんな事件、事故でも地番までは伝えないと書いている。それでは、警察の見立ては逮捕事実でもなく、単に警察による憶測に近いのだから、そんな報道をすること自体、適切ではないことになる。  判決後の静岡新聞コメントを読んでいて、報道に責任を持つ姿勢など全くないことがはっきりとした。東京高裁で、被告夫婦の無念を晴らすことができるように期待したい。 「マスコミをやめる」を実行したほうがいい  一体、静岡新聞社に何が起きているのだろうか?  ことし1月11日の同紙は、4面にわたって自社広告を掲載した。『静岡新聞SBSは、マスコミをやめる。』というびっくりするような見出しが目に飛び込んだ。「かつてマスと呼ばれ一括りにされた大衆はもういない。その大衆に向けて一方的な情報を送り続けたコミュニケーションはもはや通用しない。  静岡新聞SBSは、マスコミュニケーションをやめる。静岡の一人ひとりに、静岡新聞SBS一人ひとりで向かい合うことから、もう一度はじめようと思う。必要とされている情報はなにか。その届け方はどうあるべきか。読者を読み、視聴者を見て、リスナーを聞き、自分で考え、自分で働く。正解はひとつじゃない。静岡県民361万人の数だけある。私たちの新しい価値は、きっとそこから生まれるはずだ」など「ユーザーファスト」というわけの分からない記事が掲載された。次のページを開くと、全2面にわたって全社員の決意が極めて小さな赤字で書かれていた。  その決意の中で、大石剛社長(当時)は「創立以来の危機をチャンスに変える!元々オールドメディアの足元が揺らいでいたところに、COVIDー19が発生し、創立以来の危機に見舞われている。これは逆に大きくrebirth、新生、甦生する好機を得たということだ」と書いた。新聞社社長の文章としては情けないほど幼稚である。「ユーザーファースト」は口先であり、自分たちのことしか考えられないことが「マスコミをやめる」ことらしい。  「創立以来の危機」と大石社長が言うのは、経営の状態であり、広告や部数が減ったことだけを指している。マスコミにとって最も必要な適正な報道をする姿勢とは関係ない。報道機関としての使命が何か全く分かっていない。  ”W不倫”騒動で、静岡新聞、静岡放送社長を辞任したが、顧問代表取締役という肩書で引き続き、大石前社長が実権を握っているという。  ところで、”W不倫”は戦後すぐまで、立派な犯罪だった。大石顧問にそのような自覚があったのだろうか?  1947年削除された刑法183条「夫のあるの女性が、姦通したときは2年以下の懲役に処す」という姦通罪によって、”W不倫”は厳しく罰せられた。約75年前までは、もし、”W不倫”が発覚すれば、まず、女性側の夫が配偶者の妻と相手の男性に姦通罪を訴えることで、姦通罪が成立したのだ。今回の”W不倫”も事実かどうか、警察が調べることになったのだろう。  ただ、刑法183条がなくなったからと言っても、警察の捜査がなくなっただけで、民法上の責任を免れることはできない。つまり、女性の夫は損害賠償請求をすることができる。民法709条「故意または過失により他人の権利を侵害したる者は、これによりて生じた損害を賠償する責任がある」から、”不倫”が事実だと夫側が信じれば、弁護士を通じて慰謝料の請求を行うことができる。  大石顧問は、”W不倫”については最後まで否定していたが、本当にそうなのか?犯罪事実でなくても、メディアに実名で報道されることの痛みを実感したのだろうか?  『「静岡新聞SBSはマスコミをやめる」はただのビッグマウスか、革命者になるか。静岡のみなさん。どうか厳しい目で見守ってください』と自社広告の最後にあった。ブラジル人夫婦は、報道機関としての使命を見失った静岡新聞社は早いうちに、さっぱりとマスコミをやめてほしいと願っているだろう。

お金の学校

マンション理事長へろへろ日記1裁判を起こす

マンション管理士に気をつけろ  4月29日付毎日新聞朝刊に『マンション管理のトリセツ』(幻冬舎から自費出版)を紹介する半5段広告が掲載されていた。部数の急激な落ち込みが伝えられる毎日新聞とはいえ、全国版広告だから、掲載費は決して安くないだろう。「好評につき重版でき」とうたっているから、売れているようだ。「マンション管理」に関心を持つ人が数多くいるらしい。  「管理会社と設計事務所の財布にならないために」、「悩める管理組合理事・役員 必読の一冊」というキャッチコピーも目を引いた。上半身の大きな写真つきの著者肩書には、NPO法人近畿マンション管理者協会会長、マンション管理士となっていた。ネットで調べると、「近畿マンション管理者協会」ではなく、「マンション管理者協会」が正式名称のようだ。HPでは、大規模修繕工事のコンサルタントやリプレース、理事長代行業務等の各種業務を行い、管理組合からの報酬を得ていると書かれていた。近畿地区にはマンションがたくさんあり、商売繁盛のようである。ただ、マンション管理士という肩書だけで信用するのは危険であり、マンション管理組合理事、役員は気をつけたほうがいい。  静岡経済新聞「お金の学校」の2019年7月1日付『謎の「マンション管理士」に気をつけろ!』で、マンション管理士とは何なのかを書いた。わたしのマンションをキャバクラ寮に貸し出したH育英会とのやり取りの中で、H育英会が相談したというマンション管理士と面会し、その不思議な活動を紹介した。H育英会側に立って便宜を図るような活動したマンション管理士は、そのために平然と真っ赤な嘘をついていたのである。  マンション管理士という国家資格を持つ専門家が嘘をついていたことが分かったから、すべての事情をマンション管理士の全国組織・日本マンション管理士会連合会に質問状を送った。同連合会が当マンション管理士からも事情を聞いたあと、わたし宛に謝罪とともに、当マンション管理士に対する処分の文書を送ってきた。当マンション管理士は、H育英会に便宜を図るために非弁活動を行った可能性が高い。管理会社には、数多くのマンション管理士の資格を持つ社員が働く。もしかしたら、マンション管理士が管理会社の意を汲んで活動しているかもしれないのだ。  「NPO法人近畿マンション管理者協会の会長が本音で語る一流のマンション・マネジメント」というキャッチコピー通りであれば、『マンション管理のトリセツ』は参考になるのかもしれないが、十分に注意をしたほうがいい。  もうひとつ、「国土交通省が勧めた理事・役員の輪番制は廃止すべき」と内容の一部も紹介してあった。それはその通りである。つまり、マンション管理士を信用、そのことばを鵜呑みにしないためには、理事・役員は必要最低限の知識とともに経験が必要であり、輪番制では単なるお飾りになってしまう可能性が高いからだ。つまり、管理会社に任せきりとなってしまう。  わたしのマンションは管理会社へ委託せず、自主管理を行い、わたしが25年以上、理事長としてさまざまなトラブルに当たってきた。『マンション管理のトリセツ』は何かの役に立つのかもしれないが、わたしのマンションでは少なくとも「管理会社」や「設計事務所」の財布になることはなかった。  わたしのマンションは8階一棟建てマンション(1階が駐車場)だから、7区画、7世帯しか住んでいない。管理会社に委託したくても、7世帯の管理費等では財政的な余裕はないから、管理会社に費用を払って委託するのは合理的ではない。管理会社の「財布」にならないのは、それだけお金が潤沢ではないからだ。  大規模マンションであれば、多額の収入があり、潤沢なお金の中で、”腐敗”の生まれる可能性もあり、国交省は理事・役員を定期的に交替するように勧めている。しかし、わたしのマンションのように7世帯しかない場合、どのようにしたら、将来の大規模修繕のために積立金を増やしていくのか頭の痛い問題であり、毎年の管理費等をいかに少なく済ますのか必死にならざるを得ない。  さて、そろそろ本題に入る。25年間も理事長をやっていると、さまざまなトラブルに直面する。今回のトラブルは裁判に発展してしまった。 マンションをキャバクラ寮に貸し出した育英会  どんな素晴らしい住宅でも購入後、そこで生活してみると、さまざまな問題が生じる。わたしの住むマンションでも、びっくりするようなトラブルが次から次へと起きてきた。その度に、理事長一人で対処しなければならない。トラブルに当たるのは嫌いではないが、今回のトラブルはちょっと面倒で大変である。いまも解決に至っていない。  それで、今回のトラブルの対応について、経過報告をしながら、マンションに住む人たちにマンション管理について関心を持ってもらいたい。少しでも”生きた教科書”になれば、幸いである。  わたしは、1993年にJR静岡駅から徒歩約15分~20分の繁華街にマンションを購入した。91年新築、約91㎡の専有面積でエレベーターが開くと、そのまま玄関という、当時としてはグレードの高いマンションだった。映画館やデパート、スーパーマーケットなど至近距離にある。バブル時代に計画したから、バブル崩壊で売れ残り、大幅値引きが始まった。ようやく3区画売れ、わたしは新築2年後にさらに値引きすると言う営業担当者の勧めに乗ってしまった。わたしが入居した段階では、3区画は売れ残っていた。その後、何年も掛かって、買い手がついた。その間に、マンション価格はわたしの購入したときから大幅に下げた。長期の住宅ローンを支払いながら、資産価値の下がるのを横目で見ていた。  93年に購入したあと、分譲した不動産会社とのトラブルに当たった。不動産会社が売れ残り区画の管理費等をちゃんと支払っていなかったからだ。このときには、静岡地裁で調停を行った。何とか、不動産会社から請求額の半分をもらい、その功績が認められた。95年に理事長に就いてから、ずっと理事長としてマンション管理の現場に立ってきた。  今回のトラブルの発端は、2019年7月1日付『謎の「マンション管理士」に気をつけろ!』でも書いた、7世帯のうち、唯一、賃貸に出しているH育英会所有の1区画をキャバクラ寮にしてしまった問題である。  2017年9月末、突然、H育英会から新入居の電話連絡が入った。当然、どのような入居者か聞いたが、プライバシー侵害に当たるので職業さえ言うことができないと説明された。翌日、入居あいさつに来た若い男に聞くと、”キャバクラ従業員”と名乗った。前日提出された届け出書類にある氏名、電話番号は若い男とは違い、それがキャバクラ会社の社長のものだった。そこで、キャバクラ寮としてH育英会が賃貸に出したことがわかった。  その後、何度も何度も、H育英会にはキャバクラ寮契約の解除を求めたが、H育英会は拒否し続けた。2019年3月の通常総会で、H育英会に制裁的な管理費等の値上げで対抗した。H育英会は値上げ分の支払いを拒否した。こちらは管理規約の改正とともに、滞納金請求を続けることで、キャバクラ寮の契約解除を求めていた。  昨年のコロナ禍の中、H育英会は全く連絡もなく、突然、マンションを売却した。売却を担当した不動産会社は、新たな買主に重要事項の告知を行う義務がある。わたしは、重要事項としてH育英会の管理費等滞納金68万円がある旨を知らせた。  新しくマンションを購入した女性Kは、H育英会から管理組合から滞納金と言われているが、法的根拠はないので支払う理由はないと説明を受けたのだという。H育英会の事務局員Tとその父親のT常務理事(弁護士)から説明を受けたようだ。もともとはこのマンションを購入、ここで亡くなったHさんの遺言承継人、弁護士がTであるが、面識は全くない。Kは、H育英会(亡くなったHさんの遺産の一部でつくったから、H育英会と称している)と支払う義務のない契約をしたから、管理組合には滞納金を支払わないと通告してきた。  理事長として、そのまま滞納金未払いを黙って見過ごすわけにはいかない。 静岡簡裁から静岡地裁へ「移送申立」反対  キャバクラ寮の契約解除のためにさまざまな苦労を味わされた。このまま滞納金を未払いで済ますわけにはいかない。けじめをつけなければならない。結局、管理組合が原告となり、Kを被告として、68万円の滞納金請求訴訟を静岡簡易裁判所に起こした。  3月の通常総会で議題として取り上げ、Kにも訴訟提起を説明した。友人の弁護士に会って、68万円の滞納金請求訴訟を受けてもらえるのか聞くと、面倒な手間は同じだから、100万円程度の弁護士費用となってしまう、という。少額訴訟の裁判を低価格で受ける弁護士は非常に少ないとのことだった。それで、本人訴訟と決め、訴状をつくり、立証のための詳しい証拠をつけて、3月22日、静岡簡裁に提出、無事に受理された。  4月28日になって、Kの訴訟代理人にH育英会のT弁護士が就いた、と知らされた。それだけでなく、Tは静岡簡裁から静岡地裁への移送申立書を提出してきた。なぜ、静岡地裁へ移送するのか、さっぱり理由がわからない。それで、この訴訟について、相談した友人の弁護士に連絡すると、簡裁裁判官のほうが”優しい”と曖昧なことを言っていた。  30日午後、「移送申立に反対する意見書」を静岡簡裁に提出した。  T弁護士は管理規約で「静岡地方裁判所をもって、第1審管轄裁判所とする」とあり、民事訴訟法第11条に基づく「専属的合意」による管轄の定めとしている、と移送の理由を書いていた。  これに対して、1)当マンション管理規約は「専属的合意裁判所とする」とまでは定めていない。管理規約制定時、当マンションの所在地から最も至近距離にある裁判所を選択して、静岡地裁としたのであり、静岡簡易裁判所であってもその条件は全く同じである(静岡簡易裁判所は1階にあり、2階から静岡地方裁判所になっている)。2)簡易裁判所と地方裁判所の審理に何ら変わりはないから、管理規約に反することにならない。3)3月13日開催の管理組合総会で、被告Kに対して、訴訟を起こす旨を説明した。68万円という少額であり、簡易裁判所に提訴することも説明、Kから異論、反論は出なかった。4)2003年公布の「裁判の迅速化に関する法律」では、裁判所、弁護士、当事者は裁判の迅速化を推進する責務を負う。移送すれば、5月11日の第1回口頭弁論の期日が変わり、裁判の遅延は確実である。この4つが移送反対の理由だった。  5月7日、静岡簡易裁判所書記官から電話があり、「裁判官は静岡地裁への移送を決定した」と告げられた。決定及び理由の書面到着から1週間以内、即時抗告ができる旨も告げられた。  本人訴訟としたが、相手が弁護士となれば、今回の移送申立同様に裁判テクニックは不可欠なのかもしれない。友人の弁護士に電話で、相談業務のみ乗ってもらえるよう依頼、了解してもらった。近く、弁護士と面会して、費用等についてちゃんと確認する。  民泊の場合同様に、キャバクラ寮としての貸し出しを規制できるのか、また、管理費等を制裁的に値上げしたことが法的に問題ないのかどうか、この裁判で争うことになるはずである。 ※「マンション(管理組合)理事長へろへろ日記」は、今回の裁判にへこたれないよう、その経過を報告して、みなさんの支援を得ていくのがこの連載の目的です。『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』(岩瀬達哉著、講談社)によると、簡易裁判所の裁判官年収は約1500万円らしい。なぜ、わたしの反対意見書が採用されなかった理由がちゃんと書かれているのだろうか?

ニュースの真相

リニア騒動の真相81知事選の前哨戦スタート!

自民岩井茂樹氏の出馬はどうなった?  18日付『リニア騒動の真相80自民候補はどうなった?』で、自民党の岩井茂樹参院議員が21日にも出馬表明すると予測した。結局、自民静岡支部や浜松支部など岩井氏出馬を求める署名提出など表面的な政治手続きのみで、岩井氏本人の立候補会見につながらなかった。派閥など水面下での調整が続き、ようやく週末までに党内でストップを掛ける動きはなくなったようだ。週明け早々、29日から始まるゴールデンウイーク前までに岩井氏が出馬表明する観測が流れている。  それぞれの思惑とは別に、与野党一騎打ちの知事選(6月3日告示、20日投開票)前哨戦はすでにスタートしている。  JR東海を相手取って、大井川流域の住民107人がリニア工事の差止を求める訴訟の第2回口頭弁論が23日、静岡地裁で開かれた=タイトル写真、地裁構内では写真撮影禁止=。「静岡県リニア工事差止訴訟の会」に、大井川の水とリニアを考える藤枝市民の会、大井川の水を守る62万人運動を推進する会、南アルプスとリニアを考える市民ネットワーク静岡、リニア新幹線を考える静岡県民ネットワークなど実態のよく分からない団体がリニア工事差止訴訟に加わっている。これだけ見ても、地域の住民運動というよりも、政治的な色彩が非常に強いことがわかる。  もうひとつの見方をすれば、リニア問題で国、JR東海と「闘う」川勝平太静岡県知事を支える「政治運動」といっても過言ではない。23日午後の口頭弁論に先立って、支援者らは2時間以上も前から、20人以上の一団が静岡市繁華街で工事差止訴訟に参加するようチラシを配り、署名を求める活動を行っていた。その勢いで、静岡地裁へ数多くの支援者が詰め掛け、気勢を上げた。知事選が始まれば、署名をした人たちに働き掛け、川勝支援の輪を広げる狙いもあるのだろう。  昨年9月静岡市で開かれた訴訟準備会では、「住民側を貫く川勝平太静岡県知事」という資料が配布され、参加者らは現職の知事支援を旗幟鮮明にした。  23日の静岡地裁周辺で異様だったのは、遠くから公安と思われる警察関係者が支援者らの動きをチェックしていたことだ。著名な政治活動家が加わっているのかもしれない。「リニア問題」は、まさに、政権与党に厳しい批判の刃を突き付けるかっこうの材料となっている。与野党激突となれば、急進的な勢力が「闘い」の象徴・川勝当選に向けて積極的な支援活動を展開するだろう。  反原発、反リニアを声高に叫ぶ川勝知事を中心に、すべての野党がまとまるのだろう。川勝県政も、差止訴訟の第2回口頭弁論に合わせたように、「リニア問題」にさらなる火をつける動きを行った。 全く意味のない県意見書の真意とは?  難波喬司副知事は23日、国交省の上原淳鉄道局長にリニア有識者会議へ疑問を述べる意見書を送付した。翌日の静岡新聞は煽情的な見出しで国の有識者会議の中間報告(案)に大きな欠陥があるよう指摘した。  静岡新聞見出し『科学的正確性欠く』があまりにも印象的だった。実際の意見書では、『科学的・工学的な議論が深まり、大井川水系の水循環の全体構造がだんだんと明らかになった』、『科学的・工学的に深い議論が行われていると認識しているが、このような形で「中間報告」が取りまとめられることを憂慮する』など有識者会議の議論が『科学的・工学的』であることを大筋では認めている。ある一部分を除いて、有識者会議が『科学的・工学的正確性欠く』という静岡新聞見出しにはつながらない。  意見書の中身を見れば、『20年間に22回、水不足の状態が発生、慢性的な水不足に悩まされている』とあり、『大井川の水利用の実態を理解していない』と言及している。しかし、静岡県内では、四国や九州、関東地域のような水不足に悩まされた経験は非常に少ない。過去に、大井川流域の深刻な水問題があったのは、利用者の過剰利用によるものだった。  有識者会議の中間報告(案)は『中下流域の河川流量は上流域のダムにより利水の安定供給のためにコントロールされ、扇状地内の地下水は、取水制限が実施された年を含めて扇状地内全体として安定した状態が続いている』と、利水者の非常に恵まれている状況を指摘している。ことしの計画的な取水制限でも、『水不足状態』があった場合に、利水者からの要請によって、水供給を行うのが多目的ダム・長島ダムの役割なのだが、その出番はなかった。まさに扇状地内全体は安定した状態にあるのだ。  県は、有識者会議の指摘に反論できるような大井川流域の『水不足状態』を明らかにしていない。それなのに、有識者会議が「大井川の水利用の実態を踏まえていない」という不満を述べているが、その理由は明らかではない。  静岡新聞が見出しに採った『科学的正確性欠く』のは、どの点なのか?『トンネル掘削完了後の恒常時には、トンネルがないときには下流に地下水として流れ地表流出していた地下水の全量を、トンネル湧水として上流の地中深くで集め、それをポンプアップして導水路で大井川に流すため、導水路トンネル出口(椹島)では河川流量は工事前よりも少し増える。その下流では、地下水の地表流出が少し減少し、河川流量の増分が相殺される』という現象を重要視していないから、『科学的・工学的に正確性を欠く』と指摘した。  しかし、一体、誰がこの複雑怪奇な記述を理解できるのだろうか?一般読者は何が書いてあるのかさっぱり分からないだろう。  『地下水の地表流出が少し減少する』下流域とはどの地点を指すのか、また、どのくらい量であり、椹島下流のどこまで影響を及ぼすかなど何ひとつ明記されていない。また、そのような現象が見られる『科学的・工学的』根拠も示されていない。たとえそのような現象があったとしても、井川ダム下流の中下流域への影響はないと、県も認めている。それなのに、わざわざ「地下水の地表流出が少し減少」という曖昧な現象を取り上げ、疑問点として挙げたのだ。  有識者会議の議論を聞いていない読者らには、静岡新聞見出し『科学的正確性欠く』のみがダイレクトに伝わり、それを鵜呑みにしてしまう。一方的な内容の意見書は、知事選を想定した地元対策ではないか。それならば、意図は十分に理解できる。  まさに愚民政策を地でいくようなものである。しかし、それだけ川勝知事の危機感が強いのだろう。 「72歳」という年齢に危機感を抱く  今回の知事選で、川勝知事が危機感を抱く大きな理由は「年齢」である。ことし8月で知事は73歳となる。2年後には後期高齢者に突入する。4期目の終了で、満77歳となるのだ。  昨年12月、井戸敏三・兵庫県知事は75歳を区切りに次期出馬を取りやめることを表明、引退する。ことし2月、小川洋・福岡県前知事はがん治療を理由に71歳で辞職した。それぞれの健康状態は違うから、何とも言えないが、70歳(古稀)を過ぎたところで、ふつうは老年期に入る。  72歳の川勝知事は、違った意見を持っている。県独自の「ふじのくに型人生区分」をつくり、56歳~65歳を壮年盛期、66歳~76歳を壮年熟期にして、老年期ではない、と主張する。知事は「壮年熟期」の後半にいるから、まだまだ社会で元気に活躍する世代であり、知事職を担う年齢にふさわしいようだ。ただ、この「ふじのくに型人生区分」は健康寿命延伸のための目標であり、現在、静岡県の健康寿命では男性71・68歳、女性75・32歳と記されている。  平均の健康寿命から見れば、川勝知事の健康寿命は終えている。ちなみに、知事選出馬を予定する岩井氏は52歳で「壮年初期」としている。  毎日、1159段の階段を登って出勤する久能山東照宮の神職たちの定年は65歳、権宮司は70歳、宮司は75歳である。百歳まで現役の宮司や寺院住職もいるかもしれない。しかし、神職や学者らと違い、激務の知事職はなかなかそういうわけには行かない。どんな人間であれ「年齢」には勝てない。知事の不安のひとつが、「年齢」にあることは間違いない。  田辺信宏静岡市長が23日の会見で「(岩井氏は)若いのでよりよい県政を目指すという胆力で訴えてもらいたい」と述べ、川勝知事の「年齢」に暗に触れて、自民候補への支援を鮮明にしたことが印象的だった。  前回の2017年知事選では、静岡市を廃止する「静岡県都構想」をぶち上げて、川勝知事は田辺市政を批判した。今回のリニア問題でも折に触れて、田辺市長を批判、やり玉に挙げている。 「井川地区はほったらかしだ」を忘れていない  「年齢」を含めて、川勝知事は13日の出馬表明会見で、自身の健康状態などにひと言も触れなかった。知事は「オリンピックパラリンピックの成功」「コロナを機に医療産業を育てていく」「リニア問題を見据えて命と環境の世紀にふさわしい地域づくり」など「オリパラ」「コロナ」「リニア」の3つを公約に挙げていた。  知事選公約で忘れてはならないのは、静岡市を廃止、特別区を設置する川勝独自の「静岡県都構想」である。前回の2017年知事選では、知事は「静岡市は政令指定都市としては失敗事例。人口は70万人を切った。葵区は広く、(田辺市長は)南アルプスの裾野にある井川地区はほったらかしだ」などと痛烈に批判した。現在でも、川勝知事と田辺市長との関係は最悪状態だ。その最も大きな理由は、リニア問題に対する姿勢である。  田辺市長は2018年6月、リニアトンネル建設に全面的に連携・協力、JR東海は地域振興のために約140億円の県道トンネル建設を進めるなどとした基本合意書を金子慎JR東海社長と結んだ。田辺市長が知事への報告を無視したため、「寝耳に水」の川勝知事は激怒、田辺市長を”悪者”扱いをして、徹底的に批判した。リニア問題を議論する流域自治体から地元の静岡市を外してしまう。  ただ、考えれば分かるように、もし、田辺市長が知事に相談を持ち掛ければ、JR東海との基本合意を結ぶことはできなかっただろう。前年度の知事選で、川勝知事が「井川地区はほったらかしだ」と批判したことに反発、JR東海から過疎地域の振興を勝ち取ったから、井川地区の住民らは田辺市政を大歓迎した。  昨年11月27日、県リニア環境保全連絡会議が開かれ、地元の井川地区自治会、観光協会、漁協、山岳会の4団体代表が出席、意見を述べている。「田代ダムから山梨県に行く水問題もあり、ダムを使うなど知恵を使って解決してほしい」「JR東海が悪という報道は偏っている。過疎高齢化が急速に進んでいるので何とかしてほしい」「いまの技術ならば解決できるのではないか」「ダムによって、下流域の人たちは灌漑用水を受けている」などの意見が出ている。いまのところ、県は井川地区の意見をすべて無視したかっこうだ。  そもそも知事の「静岡県都構想」は掛け声だけで、「二重行政の解消」に取り組むと言うが、実際、全く何もやっていない。「井川地区はほったらかしだ」と言うならば、知事は、一体、何をすべきなのか?  井川地区では過疎高齢化が進む。そこに住む人たちが何を望んでいるのか?72歳で選挙戦にのぞむならば、知事は同じ高齢者の意見に耳を傾けてみてはいかがか。

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リニア騒動の真相80自民候補はどうなった?

川勝知事は4期目の知事選出馬を表明  川勝平太知事は13日の定例会見で4期目の知事選(6月5日告示、20日投開票)出馬を明らかにした。報道各社に出馬表明を予告していたから、通常は代表のテレビカメラなど2台のみだが、テレビ各社は独自取材のためにカメラを用意、また新聞各社は、複数の記者とは別にカメラマンを配置したから、会見場は大にぎわいの状態だった=タイトル写真=。  知事はコロナ、リニア問題は6月以降も長期的な対応が必要であり、各界各層からリニア問題に関して応援のメッセージが届き、6日には1千通余の署名を持って女性ファンたちの出馬要請があったのだという。また、県内各地あちこちで早く出馬表明をしてほしい、という声を聞いたことなど『リニア問題でそう簡単にわたしに代わる人がいないのであれば、自分がやるべき』として、出馬を決意したと説明している。  さらに、きょう(13日)届いた女性の手紙を紹介した。『川勝平太様、リニア問題などでさまざまな意見がある中で6月に行われる県知事選の前に、どうしても知事に伝えておきたいと思い、お手紙を書かせていただきました。国とJRだけのためのリニア中央新幹線。静岡の環境の未来のために川勝知事の今の強い姿勢をとり続けてほしいです。中途半端で不明確で利益しか考えていないJRに負けないでください。実はわたしは10年前に川勝知事に何度かお会いしたことがあります。そのころから県や国の政治について興味を持つようになりました。  18歳になった今、わたしは選挙権があります。まことに僭越ながら、知事は6月の県知事選に出馬してほしいと願っております。静岡を守るのは川勝知事しかいないと思っております』などと紹介した。  公職選挙法では「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的とし、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為をしてはならない」と定めている。もし、他の候補者が名乗り出る可能性を知っていれば、いくら何でも、このようなあからさまな自己宣伝はできなかっただろう。  会見に出席しているほとんどすべての記者はこの時点(13日)で他の立候補の動きをつかんでいないから、知事の自己宣伝に何ら疑念を抱かなかったのだろう。その証拠に、川勝知事の4期目はほぼ決まりと考えた記者の一人は「もし、このまま立候補がなければ県政史上初めての無投票の可能性がある。それについてどのように考えるのか」とまで質問したのだ。  知事は『静岡県の抱えている問題は日本の全体の問題に関わる。被選挙権、被候補者になる人が、政策論争をしているときではない、(他の立候補がないのは)そう考えているのでは』と回答した。このあと、1期目の2009年知事選で、7月5日投票の1カ月前の6月5日に出馬表明をしたことを紹介した上で、『これからやっていくために夢を持っている人がいることを知っている。わたしはうまくバトンタッチできればいいなと思っている』など(すでに4期目以降の)新たな知事への期待にまで話が行ってしまった。  ところが、翌日(14日)静岡新聞1面トップ記事が、自民の候補者擁立の動きがあり、「与野党激突の構図」を伝えたことで一変した。  自民県連が、国交省副大臣、岩井茂樹参院議員の擁立へ向けて最終調整を行っているのだという。前日のあまりに平和な知事会見を見ていたから、その驚きは人一倍、大きかった。 20日に岩井茂樹氏は立候補表明?  14日付静岡新聞の抜きネタを各社とも一斉に追い、15日付新聞各紙は『自民、岩井氏擁立へ 国交副大臣 現職と一騎打ちか 県幹部「勝算ある」』(朝日)、『リニア争点 与野党対決へ 岩井氏擁立、自民県連で急浮上』(産経)など1日遅れで報道した。取材に応じた岩井氏は「現段階ではコメントできない」など出馬の意向を避けた。  一方、15日付静岡は『知事選2021出馬の舞台裏』(下)で、上川陽子自民県連会長と中沢公彦幹事長が10日、岩井茂樹国交副大臣を擁立することで話し合いを行い、12日に本人に打診、13日に党本部に報告したという時間的な推移の舞台裏を明らかにしている。つまり、急転直下の擁立だったというのだが、「(自民県連は)不戦敗を含め川勝知事に3連敗中の自民はすでに臨戦モード」に入ったようだ。  前回の2017年知事選で、自民静岡支部などが支援に回った元五輪銀メダリストの溝口紀子氏が56万票だったのに対して、川勝氏は83万票だった。岩井氏は前回参院選で74万票の得票だから、勝機は十分などとの自民県連の”皮算用”まで紹介していた。15日に自民県議会議員全員、その夜には自民国会議員全員も岩井氏擁立を支持を決めて、岩井氏本人の立候補表明への準備は着々と進んでいた。  ところが、その動きはピタリと止まってしまった。18日になっても、岩井氏の立候補表明は行われていない。一体、何があったのか?  一部報道で派閥(竹下派)に反対の動きがあるのだというが、実際は、15日から訪米した菅義偉首相の帰国(18日)を待っているのだろう。自民党総裁でもある菅首相に裁可を仰ぎ、県連だけでなく、自民一丸で知事選に臨む体制をつくるのが筋である。自民が現職知事に負けられない選挙戦と位置づけるのならば、表明するのは、遅くとも、投開票日の2カ月前となる20日(大安)となるだろう。  静岡新聞では『リニア絡み官邸の影』という大きな見出しで、官邸が川勝知事のリニア対応に不満を募らせていると伝えたが、昨年10月17日の会見で、川勝知事が日本学術会議問題をきっかけに痛烈に首相批判したことを本人だけでなく、菅首相の周辺は決して忘れていないだろう。そちらの影響が大きいことは間違いない。  つまり、『官邸の影』があるとすれば、まずは『菅義偉という人物の教養レベルが図らずも露見した』『夜学に通い、単に単位を取るために大学を出た。学問をされた人ではない』などという、侮辱発言に対する個人的な恨みをどう晴らすのか、その返り討ちを岩井氏に託すのが、これまた政治家としての筋なのだろう。 知事交代がない限り、リニア問題は進展しない  リニア問題を取材していれば、今回の知事選が大きな転換点になる可能性を持つことがはっきりわかる。  昨年暮れ、川勝知事はリニアトンネル静岡工区で「工事凍結」宣言を表明するようJR東海に迫った。昨年6月にはJR東海社長、7月に国交省事務次官が県庁を訪れ、トンネル本体工事とは無関係の準備工事再開を要望したが、知事はトンネル工事の一部とみなして拒否した。知事がトンネル設置のために必要な河川法の占用許可権限を有しているから、彼らは知事に要望した。しかし、中下流域の「利水上の支障」を盾に認めない姿勢を崩さないから、手も足も出なかった。  その後、有識者会議が繰り返され、中下流域の表流水や地下水への影響はほぼないとの結論を出しても、県専門部会に諮り、地元の理解を得ることを知事は求める。水問題が決着しても、南アルプスの自然環境に問題ないことをすべて示せと要求する。中下流域への水の影響はほぼないと分かっていても、水一滴でも県外流出はまかりならぬという主張をメディアがこぞって報道すれば、有識者会議の結論などどこかに飛んでしまう。  川勝知事は、甲府までの部分開業や長野県への迂回を求める。  つまり、知事の座が変わらない限り、リニア問題の進展はないだろう。県職員たちは知事の意向に従っているだけに過ぎない。 「リニア工事」が選挙の争点か?  17日の国の有識者会議を傍聴していて、川勝県政であれば、今後、さらに4年間、有識者会議そのものが続いていくのも間違いないとわかる。  第11回有識者会議は「トンネル掘削に伴う大井川表流水への影響」がJR東海の想定するトンネル湧水量であれば、中下流域での河川流量は問題なく維持される、「トンネル掘削に伴う地下水への影響」は河川流量が維持されれば、中下流域の地下水への影響は、河川流量の季節変動や年変動に比べて極めて小さい。国交省作成の中間報告案に委員から異論、反論等は出なかった。今後も細部の修正のみが行われるのだろうが、大筋は変わらないはずだ。  今回の一番の山場は、静岡県地質構造・水資源専門部会長を務める森下祐一委員が、有識者会議の議論に異論を唱えたことだ。森下氏は上流域の水収支解析を行ったように、中下流域でもシミュレーションをつくり、同様の解析モデルをつくるべきではないか、と投げ掛けた。これに対して、他の委員からは、有識者会議の議論が中下流域への影響を問題にしているのであり、そこに悪影響が出ないと判断されたのだから、さらなるパラメーターを与える面倒な作業を伴う、新たな評価システムをつくる必要性はないなどと退けられた。  県専門部会であれば、森下氏の意見がそのまま通るのだろうが、地下水や水文学のトップレベルの専門家らによる有識者会議では、科学的、工学的な見地から森下氏の提案は完全に否定された。県委員でもある丸井敦尚氏も大勢についたから、森下氏以外はすべて徳永朋祥東大教授の意見に従ったことになる。ことばを変えれば、科学的、工学的な議論と言っても、専門家によっては意見は大きく違うのであり、客観的な物差しはトップレベルの学者たちがつくるのだ。だから、有識者会議の結論を県専門部会に諮るというのは順序から言っても、全くおかしいことになる。  有識者会議の議論は、その目的に沿って健全な意見が交わされていることがわかる。ただ、知事の十八番である「命の水」とされる中下流域の水環境への影響について、問題がないと有識者会議の結論が出たとしても、川勝県政は別のいちゃもんをつけることはすでに書いた。  県政記者クラブだからか、知事意見を鵜呑みにする記者も多い。有識者会議後の記者ブリーフィングでは、あまりにも恣意的な質問が飛び交い、有識者会議の議論とは遠く離れてしまい、質疑応答の時間も非常に長い。有識者会議で問題にならなかった異論、反論が続くのだから、翌日(18日)の新聞各紙は有識者会議の結論とは全く違い、国及びJR東海への批判一色に染まっている。  その根底に、JR東海のリニアトンネル工事は自然環境にとって「悪」という記者たちの思い込みがあるようだ。  『JR東海は約束だった湧水全量戻しを反故にした』、『リニアトンネル工事は大井川の水環境に影響を与え、南アルプスの自然環境破壊につながる』、『JR東海は利益だけのために工事を進めようとしている』、『公共工事(国家的プロジェクト、財政投融資3兆円を投入)はコロナ禍の中、ムダな事業となる』などJR東海は「悪」という思い込みで記事が作成されている。  自然環境に影響を与えない開発事業などありえない。だから、開発する側は「悪」とみなされる場合も多い。その利便性を享受して生活しているのも批判に立つ同じ人間たちである。ただ、今回のリニア工事の場合、静岡県への利便性は全くない。  川勝県政がこれだけ批判を繰り返す「リニア工事」が選挙の争点となって、もし、岩井氏が立候補するとしても、その対応は難しいことになる。政治家ならば、有権者の感情にどのように訴えるのか心得ているのだろうが、開発事業の推進者と見なされれば、女性たちからは強く反発を受けるだけだ。  政治とは科学的、工学的な議論をする場ではなく、県民の感情に訴える場である。岩井氏がどのような政治家なのか、大いに期待したい。

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芸術家・藤枝静男を知ってもらうために

藤枝静男が墨書した平野謙の愛唱詩「冷やかに」  昭和60年(1985)7月だった。『冷やかに水を湛へてかくあればひとは知らじな火を噴きし山のあととも』。藤枝静男さん自身が墨をすり、何度か新聞紙に試し書きをしたあと、わたしの持参したマット紙にさっと書き上げた。「詠 亡友平野謙愛唱詩」と添え書きした。自刻した印で落款を済ませれば完成だ。同じ詩を特製の原稿用紙に愛用の万年筆で何度か書いてもらっていた。墨書をお願いすると、何らためらうことなく受けてくれた。藤枝さんにとって、書くことも芸術創作のひとつだった。旧制高校時代からの親友、評論家平野謙の病床へ見舞った話もそれまでに何度も話題になった。  当時、藤枝さんは78歳で、わたしは30歳が目の前だった。まだ若く未熟であり、酒を飲んでは、大声を出して、けんかをしたり、毎日が『火を噴いている』状態だった。まさに自分にふさわしいことばであり、すっかり気に入ってしまった。おカネでは買えないわたしの宝物のひとつとなった。  詩の作者は生田長江という初めて聞く名前であり、翻訳、評論、小説などで明治、大正、昭和期に活躍、平塚雷鳥ら女性たちの支援者だったという。  7月初め、浜松支社から沼津支社への転勤内示(8月1日異動)を受けてから、ほぼ毎日、仕事の合間をぬって、藤枝静男さんの自宅を訪ねていた。表通りの眼科医院の裏側で、藤枝さんは奥様が亡くなられてからは、母屋にただひとりで住んでいた。玄関で大きな声で訪問を告げてから、2階に上ると、いつでも「ああ、君か、また来たのか?きょうは何の話だったかな?」が決まり文句だった。時どき、お手伝いの女性が現れて、お茶を出してくれたりしたが、ほとんどは藤枝さんと2人だけの時間が流れていた。  それまでの人生の中で、他人の話を聞くのが、こんなに楽しいと思えたことはなかった。こんなに素晴らしい経験と教養にあふれる人が世の中にいるんだなあといつも感心していた。  奈良の志賀直哉宅をはるばる訪れ、書画骨董好きの志賀さんのために購入したばかりの玉舟和尚の書を持参した話は文化欄の記事にした。せっかくの書を志賀さんからけちょんけちょんにけなされてしまい、差し上げるつもりだったのに、仕方なく、情けなく、浜松に持ち帰ったのだ。浜松在住の俳人、相生垣瓜人さんに上げたら、瓜人さんは大喜びされたのだという。記事では瓜人さんが玉舟のお礼に何かを贈ったことを書いたはずだったが、それが何だったのか、すっかり忘れてしまった。  当時、藤枝さんが書いていた原稿の題名に『今、ここ』とあった。『今、ここ』とは、時間を止めることはできない、どんなに大切な時間でも限りがある。出会いのときめきもあるが、必ず、別れのときが来ることをテーマにしていた。  平野謙愛唱詩も同じで、『火を噴いた』過去があり、いずれ、冷たい水をたたえる『今、ここ』の境地にいる。そして、この年になって気がついたのは、そのすべてが泡のように消えてしまうことだ。 「近代文学」の仲間たちとサワガニ  もうひとつ、とにかく、藤枝さんは気前がよかった。  その年の6月、舞阪町の弁天島で開かれた「近代文学」の仲間たちの会を取材した。長編小説「死霊」の埴谷雄高さんも出席していて、難解な思想小説の作者をイメージしていたから、とても怖い人かと思ったら、そんなことはなく、まだまだ『火を噴いている』最中のエネルギーに満ちた酔っ払いだった。藤枝さんより2歳若かったから、仲間たちの中でも人一倍元気だったのかもしれない。弁天島での年1回の仲間たちの会もすべて藤枝さんが提供していた。  その年限りで、弁天島の旅館が閉めてしまうから、会を休止すると藤枝さんは言っていた。ただ、休止する本当の理由は、藤枝さんの健康状態だった。「すぐにいろいろなことを忘れてしまう」と藤枝さんは正直に話していた。写真では、埴谷雄高の後ろで、藤枝さんは旧友の本多秋五と話しているが、友人らとの会話で古い記憶は確かでも、最近のことになると危なげだった。ぼけてしまい何もかもわからなくなることを一番、恐れていた。  藤枝さんはそれから、8年後に神奈川県の療養所で亡くなった。亡くなってから3年後に毎週1回、『浜名湖の恵み』という連載特集を担当、そのとき、再び、「近代文学」仲間の会と引佐町伊平地区のサワガニを紹介した。藤枝さんは「近代文学」の仲間たちと、伊平辺りまでドライブをして、たくさんのサワガニを捕まえ、空揚げにしてビールを飲んだことを随筆にした。藤枝さんが再び、10年後に訪れて、探してみたが、サワガニは見つからなかった。  当時(1996年)、いまから25年前、少なくなったと言ってもサワガニは捕獲されて、東京の料亭などにたくさん送られていた。わたしの写真でも、いっぱいのサワガニが映っている。現在、若い人たちで、サワガニを食べたことがある人はほとんどいなくなった。『浜名湖の恵み』では、ドウマンガニ(大きな泥ガニ)、ズガニ(上海ガニの一種)も紹介したが、サワガニは食べておいしいわけではなく、鮮やかな甲羅の赤を彩りとして楽しむものだったから、すっかりと消えてなくなっても話題にならないようだ。  多分、時間がたつとはそういうことで、周囲の自然も変わってしまっている。サワガニはまだ見ることはできても、食べる文化は忘れられるのも仕方ないことだ。  わたしたちが承知している自然環境の常識が若い世代には全く分からない場合も増えている。逆に、情報機器の急激な進歩にわたしたちはついていけない。だから、新しい世代によることばの意味がわからない文学作品が次から次へと生まれている。果たして、いまの学生たちが藤枝さんたちの「近代文学」を読んで理解できるのだろうか。 日本近代文学館に資料を寄贈  藤枝さんの書『冷やかに』と「近代文学の会」の写真などを公益財団法人日本近代文学館(東京・駒場)に寄贈した。渋谷駅から井の頭線で駒場東大前駅を降りて、住宅街に沿って5、6分歩くと、駒場公園があり、その一角に近代文学館があった。  近代文学館はその名の通り、明治以来の「近代文学」を収蔵しているそうだ。パンフレットを読むと、「収集・整理・保存」を業務に挙げ、「展覧会、講座・講演会」を開催している。  2018年開催した没後10年「小川国夫展」の立派な図録をもらった。そう言えば、静岡市の会社に入社したばかりのとき、小川さんの謡曲講座に通っていた。歌舞伎と違って、謡曲はちゃんと筋立てがわかっていないと見ていても何が何だかわからない。謡曲の舞台よりも、小川さんの話はとてもわかりやすく楽しかった。最後に小川さんを取材したのは、富士山世界遺産特集でインタビューしたときだった。小川さんの『新富嶽百景』(岩波書店)を読んで、初めて、若山牧水「富士よゆるせ今宵は何の故もなう涙はてなし汝(なれ)を仰ぎて」を知った。酔っ払って、ただ富士山を仰ぎ見ているだけで泣けてくる牧水がそこにいて、それが日本人の心情だと小川さんは教えてくれた。富士山を見ていて、突然、泣けてくるのが、日本人であり、だから富士山は、世界遺産などという他人様の称号がなくても、日本の象徴であり、霊山なのだ。小川さんにとって、富士山とは親しみであり、おーい、お富士さんと呼び掛ける存在だとも話してくれた。  小川さんの写真を探していたら、1996年、裾野・総在寺が創建されたとき、お祝いに訪れた立松和平さんの写真が出てきた。小説「遠雷」の自筆抜粋が刻まれた石碑の前に立っている立松さんを撮影した。最後に立松さんに会ったのは、2004年6月で、立松さんが堂主を務めた北海道の知床毘沙門堂建立10周年を祝う法要だった。  総在寺を建立した浦辺諦善さん(沼津・光長寺南之坊)、歌人の福島泰樹さんとの交流の中で、立松さんにもしばしば会う機会があったが、2010年、62歳で亡くなってしまった。法隆寺で修行中だったと浦辺さんから聞いたが、真偽のほどはわからない。  なぜ、こんな話に飛んでしまったかと言えば、浦辺さんが熱心な法華経信者だった宮沢賢治の資料を収集していたからだ。総在寺境内には「遠雷」文学碑とともに「雨ニモマケズ」詩碑が建立されている。  文学者の展覧会には人があまり入らないだろうが、宮沢賢治だけは違うようだ。「宮沢賢治展」には数多くの人が訪れる。 藤枝静男展を期待しています  2005年4月に、浦辺さんが手に入れた丸善特製の原稿用紙に書かれた賢治の手紙とはがきを賢治全集の編纂に携わる大学教授2人が沼津の光長寺で鑑定した。当然、肉筆に間違いなかった。   新発見の手紙は、盛岡中学の5年先輩から送られた手紙に対する賢治の返事だった。昭和3年(1928)に先輩は新興宗教の行者を気取って、賢治にいろいろアドバイスをしたようだ。手紙の最後には4行詩が書かれていた。『暑曇連日 稲熱続発 諸君激昂 迂生強奔』。やはり賢治を研究してきた大平宏龍・法華宗専門学校教授によると、「仏典などからの引用ではなく、賢治の創作の可能性が高い。毎日暑い日が続き、稲はイモチ病にかかり、農民らは怒り、(私は)農業指導のために走り回っている」と教えてくれた。  もうひとつの新発見のはがきは東京の詩人大木実に宛てたもので、やはり、昭和3年に起きた三陸沖地震への見舞いに対する返礼で、病床にあった賢治は地震の惨状も伝えている。  浦辺さんは高校を卒業すると、大阪で法華宗僧侶の修行に入るとともに、古書店で宮沢賢治の『グースコブドリの伝記』初版本を購入したのを皮切りに、『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』などの初版本を集め、自筆書簡まで4千点余もの資料を集めている。  「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」。浦辺さんは賢治のことば通りの思想を広めるために「賢治文庫」を開設した。ただ、「賢治文庫」は一般に公開されていない。文学資料を公開して、多くの人に見てもらうのはなかなか大変なことなのだろう。  昨年6月から9月、熊本市現代美術館で「谷川俊太郎展」が開催、そのパンフレットが送られてきた。文学を展覧会として鑑賞させようという試みで、パンフレットを見る限りではおもしろく思えたが、コロナ禍の中、どれだけの人たちが鑑賞したのか、心配だった。文学を読むのではなく、楽しんで見せるのは非常に難しい。  小川国夫展に続いて、いつの日か藤枝静男展が開催されるのを期待したい。ぜひ、日本近代文学館を訪れて、藤枝さんの『冷やかに』を鑑賞していただければ幸いである。 ※タイトル写真は日本近代文学文学館事務局に寄贈した藤枝静男関係の資料など。電話03(3468)4181です。

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リニア騒動の真相79静岡工区差止訴訟への疑問

裁判所は「本人訴訟」を丁寧に教える  マンション管理組合理事長として、原告となり新たな管理組合員に対する管理費等の滞納金支払い請求訴訟を静岡簡裁に起こした。68万円という少額(ただし民事訴訟で「少額訴訟」と言えば、60万円以下の金銭の支払いを争う裁判を指す)のため、最初、訴訟代理人(弁護士)を依頼したほうがいいのか、知り合いの弁護士に相談してみた。弁護士は「いくら少額の訴訟であっても、手間などは同じであり、もし、依頼を受ければ、費用は68万円を超える」と言われた。他の弁護士にも聞いてみたが、100万円以下の訴訟について、よほどのことがない限り、弁護士は引き受けないようだ。  このため、弁護士に依頼しない本人訴訟を考えた。初めての裁判となるため、何度か裁判所に足を運び、訴訟の手続きについて教えてもらった。  請求額140万円以下ならば、簡易裁判所に訴えを起こすことができ、簡易裁判所では、訴訟代理人の弁護士に依頼しないことを想定しているのか、懇切丁寧に本人訴訟のやり方を教えていた。訴状の作り方を教える3枚複写の用紙(裁判所、被告、原告に同じものが必要)が用意され、そこにどのように記載していくのか、別紙で事例に沿って詳しく、説明されている。それぞれの項目に、注意事項も丁寧に記されていた。ただ、これだと、ボールペンで書くことになり、もし、間違ったりする場合には、もう一度、最初から書き直さなければならなくなる。また、紛争の要点(請求の原因)や添付書類を説明する欄も非常に狭かった。  手書きによる訴状ではなく、パソコンを使うことができ、ちゃんと納得いくまで確認した上で、体裁さえ、見本の訴状と同じになれば、問題なかった。紛争の要点についても、裁判官が理解できるようわかりやすく説明すると長くなるから、訴状全体では5枚程度になったが、こちらも、全く問題なかった。訴状に書かれていることが事実であることを示す証拠書類の写しなどを用意して、3月22日に静岡簡裁窓口に訴状を提出した。すぐに裁判期日が決まった。  これで、被告から答弁書をもらい、5月の第1回の口頭弁論を待つだけになった。実際に裁判を起こしてみてから、大井川流域の住民ら107人がJR東海を相手取った「リニア中央新幹線静岡県内工事差止請求訴訟」(民事訴訟)の訴状を読み返していたら、いくつかの疑問を抱いた。本人訴訟を起こしたことで、初めて気がついた点があり、工事差止請求訴訟に関する疑問を追及したい。 「訴訟物の価額160万円(算定不能)」とは?  昨年10月30日に住民らから提起された「リニア静岡県内工事差止請求訴訟」については、11月5日付の東洋経済オンライン『JR東海と県の対立あおる「静岡新聞への疑問」』、また、静岡経済新聞11月14日付『リニア騒動の真相62JRが”重大事実”を隠ぺい?』で記事にしている。2度の記事で、訴状に書かれたいい加減な内容について追及した。ただ、今回、本人訴訟を起こすまで、裁判について全く知らなかったことがあった。  10月30日、リニア訴訟提起後に原告団は記者会見を行い、参加者に訴状を配布している。また、当日、わたしは原告団の弁護士から同じ訴状をもらっていた。2つの訴状を見返してみると、そこに違っている部分があることに、いまになって気づいたのだ。  記者会見で配った訴状では、『訴訟物の価額160万円(算定不能) 貼用印紙類 ※空欄だった』であり、弁護士が提供した訴状では『訴訟物の価額1億7120万円 貼用印紙類53万6000円』となっていて、金額があまりにも違うのだ。  わたしの裁判では、請求額68万円が訴訟物の価額となり、貼用印紙類7000円だった。予納郵便切手5330円とともに用意して裁判所に提出した。貼用印紙類とは、裁判所に支払う申立手数料である。  100万円までは1万円であり、68万円は70万円までであり、7000円となる。これは非常にわかりやすい。ところが、リニア訴訟の場合、(算定不能)として160万円となっていた。  最高裁判所のHPでは、「財産上の請求であっても算定が極めて困難なものに係る訴えについては、訴訟の目的の価額は160万円とみなす」とある。リニア差止請求訴訟の訴状にある(算定不能)の160万円はこれを指すのだろう。それでは、弁護士が提供した訴状の1億7120万円は、どのように計算したのだろうか?  弁護士提供の訴状には、原告団すべての名前等が記されており、その人数は107人だった。人数分107人×(算定不能)160万円で、1億7120万円となる。これで計算すると、申立手数料53万6000円となるわけだ。1人当たり約5000円であり、これでは、わたしの裁判の7000円より安くなってしまう。  いくら何でも、静岡県内のリニア工事価額が1億7120万円であるはずもない。まず入り口のところで、裁判所はちゃんと、この訴訟が正しいのかどうか確認したのだろうか? 最低でも1億5000万円の申立手数料となる  訴状では、『被告は、静岡県内トンネルの約83パーセントの工事区間8・9キロを「静岡工区」とし、それよりも東側の工区を「山梨工区」、西側の工区を「長野工区」とする。しかし、被告が「山梨工区」及び「長野工区」とするものうちの一部は静岡県内における工事が含まれる。そこで、この「山梨工区」及び「長野工区」でありながら静岡県内である工区を含め、静岡県内で行われる中央新幹線工区を「静岡県内工区」とする(図1)』とあり、静岡工区8・9キロに山梨、長野工区の静岡県分を足した10・7キロを工事差止請求の対象としている。  また、「鉄道施設工事のうちの路線を構成する橋梁やトンネル、軌道など(通称「土木構造関係物」)に関する工事計画、電気設備や運行管理システムの電気設備を中心とする工事実施計画に基づいた静岡県内における全ての工事」を対象としている。  JR東海は、電気設備などの工事を抜いた線路延長285・6キロの工事費を4兆158億円を見込んでいる。これを単純に割ってみれば、1キロ当たり140・6億円が算出される。静岡県内工区10・7キロを掛けてみれば、約1504億円と計算される。電気工事設備は入っていないし、当然、リニア工事の最難関とされる南アルプスを貫通する工事なのだから、さらに多額の費用が掛かることは明らかである。「1504億円」は最低限の費用の目安と言える。  また、JR東海はゼネコンの大成建設に静岡工区8・9キロを発注しているのだから、裁判所の職権で静岡工区の請負工事額がいくらか調べることはできるだろう。まさか、1504億円などという少額ではないはずだ。工事用道路として使うためにJR東海の費用負担で整備している県道三峰落合トンネル工事は約140億円、市道東俣林道整備約80億円である。それだけの費用を本体工事とは別の準備工事に使うのだから、訴額の1億7120万円がいかに少額かはっきりと分かる。  原告団としては、支払う手数料が安く済むほうがよいから、山梨工区、長野工区の静岡県内工事を含めてしまえば、正確な算定できないと考えたのかもしれない。しかし、ある程度までの費用ならば算定可能である。裁判の入り口となる訴額なのだから、ちゃんと調べるべきではないか。  最低限の1504億円を訴額と仮定すれば、申立手数料は1億5642万円となる。原告団107人は一人当たり約146万円を支払うことになる。1人当たり5000円で起こした裁判と146万円を支払う裁判では重みも違ってくる。  「財産上の請求であっても算定が極めて困難なもの」かどうかと言えば、それほど算定が困難とは思えない。JR東海に資料を提出させれば、概算の数字は出るはずだ。  なぜ、裁判所は最も重要な訴額について調べた上で、訴状を受理しなかったのか?当然、いまからでも遅くないのではないか? 立証責任は原告にあるのでは?  もうひとつの疑問は、わたしの起こした訴訟では立証責任はこちらにあり、訴状にある事実を立証するための証拠書類の写しを裁判所に提出するところから始まった。リニア差止請求訴訟では、いまのところ、原告団が調べて明らかにした証拠書類等は提出されていない。  今回の訴状では「本件工事によって被るおそれのある原告らの不利益は広範かつ深刻なものである」として、「大井川の水量が大幅に減るおそれがあり、これによって大井川の水を生活用水や農業用水等として利用し生活してきた原告ら大井川流域の住民の生活に多大なる不利益が生じるおそれがある」などとしている。この他、南アルプスの普遍的な価値を毀損するから、自然を享受する利益が失われる、一方、リニアによって得られる利益はわずかな利便性であり、原告らに不利益を強いてまで進めるほどの公益はない、などしている。  不思議なことに、原告団から訴状を立証する証拠書類等は全く提出されていないのだ。南アルプスの地下400mを貫通するトンネル工事であり、住民側が不利益となる原因を立証することが困難を極めるのはわかる。そこでJR東海に不利益がないことを立証するよう求めているのかもしれない。  裁判とは別に、国の有識者会議、県の専門部会ではJR東海に中下流域への水の影響がないことなどの資料等を提出、説明させている。疑問点等を洗い出し、それぞれの分野の専門家で議論している。国の有識者会議でも中下流域への水への影響はほとんどないとしているが、それに対して、県は意見書を提出して、説明がわかりにくいなど反論している。そこには、訴状に書かれている事実がすでに過去のものとなり、新たな知見等が加えられている。  裁判所という司法の場でリニア問題の是非を判断してもらうならば、まずは、訴額の1億7120万円が適正なのか、そこから始めるべきではないか。実際の工事費とはかけ離れているのは、誰の目にもはっきりとわかるからだ。  リニア事業の是非までを、いくら優秀だとしても、わずか3人の裁判官がこれだけの訴状で判断するのはあまりにも難しい。多分、不可能だろう。原告団は本当に不利益を被ると考えるならば、少なくとも、申立手数料2億円程度を支払い、裁判所としてできる限りの調査を行い、判断をしてもらったほうがいいのではないか。 (※タイトル写真は静岡地裁、静岡簡裁の入り口)

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リニア騒動の真相78国交省の解決策は?

「全量戻しできない」JR東海は信用できない?   一体、これほどかみ合わない議論の原因はどこにあるのか?  国の第10回有識者会議が22日、開かれた。トンネル湧水がリニア工事期間中(約10カ月間)山梨県側に流出した場合でも、下流域の河川流量は維持されるなどの「中間報告(素案)」が提示され、静岡県専門部会の2委員を含めて、委員たちは報告案の大筋を認めた。ところが、翌日の新聞各紙の論調は全く違っていた。  23日付朝刊各紙は、『国有識者会議 湧水全量戻しならず JR代替案「10年~20年かけ」』(毎日)、『国交省専門家会議中間報告巡りJR 副社長「全量戻しできず」 副知事は反発』(静岡)などと伝えた。  報告案では「JR東海の施工計画では、工事の安全確保等の観点から、県境付近の断層帯を山梨県側から掘削するため、掘削工事の一定期間中は山梨県側へトンネル湧水が流出し全量戻しとはならない」と明記され、確かに「全量戻しできず」となっている。しかし、そのあとに「トンネル湧水が山梨県側に流出した場合においても、静岡工区で発生するトンネル湧水を戻すことで下流域の河川流量は維持される」と続く。つまり、『全量戻せなくても、下流域への影響はほとんどない』が報告案の趣旨なのだが、記者たちはそう考えなかった。  会議後の質疑でも、「全量戻しできるかどうか」が再び、焦点となり、宇野護JR東海副社長に確認していた。宇野氏は「元の位置に戻すのはでき得ない話。全量戻すという考えはない」などと述べた。  『国有識者会議 湧水全量戻しならず JR代替案「10年~20年かけ」』の大きな見出しをつけた毎日は『(中間報告案に)工事中の一定期間、山梨県側にトンネル湧水が流出することから「湧水全量戻しにならない」と記載した』と書いた。『JR副社長「全量戻しできず」 副知事は反発』の1面トップ記事の静岡は「全量戻しできない」JR東海の責任を追及した。  翌日23日の知事会見で、毎日記者は「リニア静岡工区の最大の問題は影響が大きいとか小さいとか、わかりやすい説明の以前に、山梨から戻す期間の説明に見られるように不都合な真実を積極的に明らかにしない事業主体のJR東海に対する不信感が最大の問題だ。そんな事業主体に影響がないとか、大丈夫だと言われても、一体だれが信じるのか?(川勝平太静岡県)知事はJRを信用できますか?」と質問した。毎日記者は、JR東海は”不信の塊”であることを公言して、知事の同意を求めているのだ。  さすがに川勝知事でさえ「記者が言われたような不信感を抱かせるような状態になっているのは、JR東海にとって残念なこと」などと逃げていた。(JR東海は信用できないという)予断を持てば、記事がどうなるかは推して知るべしだ。  「全量戻し」とは何だったのか?それをちゃんと理解していないのだろう。予断を持って取材に当たるのが毎日新聞社の方針としたら、あまりにも残念である。 「全量戻し」と「影響回避」のどちらが重要か?  2018年8月2日に静岡県中央新幹線対策本部長名で県が出した資料には『大井川水系の水は大井川水系に全量戻すこと。仮にJR東海が「社会的に理解可能で、県・流域市町・利水者が納得できる内容で、河川流量等への影響を特定でき、かつその影響を回避できる方策を提示できる」のであれば、協議会としてはその方策を認める』と書かれている。つまり、原則は「全量戻す」ことを求めるが、河川流量等への影響がなければ、認めるというのが県の姿勢だった。  「全量戻し」要求に対して、最初、JR東海は県外に流出する毎秒2㎥のうち、「1・3㎥を導水路トンネルから自然流下で大井川に戻し、0・7㎥は必要に応じてポンプアップして導水路トンネル等から流す」提案をしていたが、県は強く反発した。  両者の協議が進む中で、2019年7月3日の県資料は、2018年10月17日に『JR東海は「原則としてトンネル湧水の全量を大井川に流す措置を実施する」ことを表明した』と書いている。その資料を読む限りでは、この時点での「全量戻し」とは、トンネル湧水2・67㎥の全量を戻すことを指していた。つまり、工事後、湧水全量戻しをすることで、問題解決のはずだった。  ところが、工事中の県外流出が問題として浮上した。  JR東海は、工事中の県外流出はやむを得ないことを県は承知していたと述べているが、県は、環境影響評価書の知事意見にある『トンネルにおいて本県境界に発生した湧水は、工事中及び供用後において、水質及び水温等に問題が無いことを確認した上で、全て現位置付近に戻すこと』を遵守するよう求めているだけだ、という。ただ、誰が考えても「工事中に発生した湧水を全て現位置付近に戻すこと」などできるはずもない。そもそもが無理無体な主張だった。  金子慎JR東海社長は25日の会見で、県が要求する「全量戻し」と大井川下流域の水利用への影響は全く別の問題であることを詳しく説明した。(10年から20年掛かる)県外流出の対応策案を示したのは、県が工事中の県外流出分の全量の水を戻すことを求めているからであり、最も重要なのは大井川の中下流域に影響を与えないことだ、と強調した。  だからこそ、第10回有識者会議の報告案に示された方策は、県が当初求めた社会的に理解可能で、ふつうであれば、納得できる内容と見るべきである。 有識者会議の中間報告に県は異常なほど反発  ところが、県にはそんなつもりは毛頭ないようだ。  23日の知事会見の中で、織部康宏県リニア担当理事は檀上で「JR東海は県外に流出しても、河川流量に影響がないと言っている。確かに工事中は、その時点で影響がないと思われるが、将来的に、地下水は県外に出る分は減るのだから、中下流域の表流水に影響が出てくると県は考えている」と珍妙な理屈で、有識者会議の中間報告に異論を述べた。  織部理事に確認すると、『2月22日に難波副知事名で国交省に提出した「提案」別紙に、県外流出による地下水の減少で、将来、中下流域への影響が説明されている』というのだ。   別紙には、静岡県の評価として『「導水路トンネル出口(椹島)では河川流量は工事前より少し増える。その下流では、地下水の地表流出量が少し減少し、河川流量の増分が相殺される」という現象が発生する影響があると思われる。それにもかかわらず、この現象を無視して「(トンネル湧水を山梨県側に流出させても、解析結果によれば)大井川の流量は増える」との説明には、同意できない』としている。  これが、「将来的な中下流域の表流水の影響とつながる」のか、さっぱりわからない。県の地下水の動きの評価は、15km下流の畑薙第一ダム下流まで及ばないとしているのに、織部理事はどのような根拠で中下流域まで影響が及ぶとしているのか?  また、JR東海資料では、静岡工区内のトンネル湧水は、河川流量の減少量よりも約2~3割程度多くなると予測している。有識者会議の報告案でも、静岡工区に発生するトンネル湧水によって、河川流量の減少が補われていることに留意が必要などと書いている。だから、中下流域の表流水が増えるのだろう。  会見で織部理事らの意見を聞いたあと、知事は有識者会議の中間報告案に強く反発した。とうとう福岡捷二座長を悪しざまに『御用学者』とまで批判した。約1時間半の会見時間の半分以上が、JR東海への批判一色に染まっていた。  翌日の24日朝刊では、読売のみが『知事「福岡氏は御用学者」 リニア有識者会議座長 交代にも言及』と伝えた。他紙は、『知事「工事に黄信号」 湧水全量戻し困難で』(静岡)、『工事自体極めて厳しい。黄信号 知事 湧水戻し案批判』(中日)などと知事の主張をそのままに報道していた。 いくら理屈で正しくても解決しない  山梨県外への流出分を500万㎥と想定して、JR東海が10年から20年掛けて戻す代替案はどうか?難波喬司副知事は3月9日の県議会委員会で「山梨県側は大量湧水が想定される(静岡県側の)県境付近と比べて湧水があまり出ない区間」と指摘していた。もし、静岡県に水を戻すとすれば、長期のスパンとなることを副知事は承知していたはずだ。初めて聞いて驚いているのは理解不足の記者たちだけである。  リニア山梨工区の工事の実績として、副知事の指摘通り湧水がそれほど出ていないことをJR東海は有識者会議で説明している。だから、計算上は10年から20年掛かってしまうと正直に話したのだ。毎日記者の言うように「不都合な真実を明らかにしない」というならば、わざわざ記者たちに説明することもしなかっただろう。単なる計算式による答えだから、不確実性を伴うが、記者の求めに応じてJR東海は丁寧に説明した。  22日の有識者会議、23日の知事会見、25日のJR東海社長会見と続き、その議論(囲み取材)が本質から遠く離れてしまい、虚しさがただよっていた。これではいつまでも無駄な議論が続くだろう。何か解決方法はないものか?  ああ、そうだ。最近、読んだ2冊の新書が大きなヒントを与えてくれた。『「年収1400万円は低所得」の真実』を訴える『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(中藤玲著、日経プレミア新書)、片や、コロナ恐慌下での節約生活を伝授する『年収200万円でもたのしく暮らせます』(森永卓郎著、PHPビジネス新書)。  『安いニッポン』では、デフレで物価や給料が上がらず、世界で一番安い日本経済は停滞し、人材流出、高まるリスクの中で成長や発展が望めない日本を憂える。一方、『年収200万円』では、長期のデフレが続くから、お金を使わない生活が可能となり、100円ショップや回転ずしなどで十分幸せと大喜びだ。  一体、どちらが正しいのか、それは単に立ち位置や見方によって変わってくるだけである。日経新聞の購読者層は、上級国民や経営者らであり、成長を続ける世界の中で日本だけが置き去りにされ、大変なことになると不安でいっぱいだ。一方、大多数の下級国民たちは、いくら給料が少しばかり上がっても物価ははね上がり、生活物価がバカ高いサンフランシスコ並みになってしまうよりもいまの日本がずっといいに決まっている。  さて、リニア静岡問題はどうか?有識者会議の議論が続けば、中下流域に影響を与えない結論が示されるだろう。しかし、水問題の”主役”中下流域の人たちは、リニアができても、何のメリットも見えないから、理屈ではなく、万が一を想定して、織部理事のように反対を主張するだろう。  国交省がJR東海を指導してほしいのは、中下流域に影響がないという理屈の説明だけではなく、リニア工事再開を認めることによって、中下流域の人たちに何か素晴らしいメリットが生まれるという夢を与える話ではないか。  つまり、理屈ではいくら正しくても、全く別の立場から見れば、その理屈が違ってしまう。だから、理屈だけでは解決にはならないのだ。リニア静岡問題を一度、そういう視点から国交省は考えるべきではないか。

ニュースの真相

リニア騒動の真相77国交省はダムの話をすべきだ!

大井川最大の水問題を語ろう!  大井川最大の水問題とは何か?  「生命の水を守れ」ー川根本町、島田市の一部(旧川根町)の人たちの熱い思いを原稿にしたい。そう、ずっと考えていたところ、2019年3月末が期限だった中部電力の川口発電所(最大使用量毎秒90㎥)の国の水利権更新で期限切れから2年経過するのに、いまだ許可が下りていないことがわかった。河川法では更新許可に当たって、知事意見を求めることになっている。国からの書類が県に届いていないから、それ以前の審査がいまのところ続いているようだ。  事業継続は認められているから、これまで同様に発電所は稼働しているが、県は現在のままで「正常流量」にふさわしいのか、ちゃんと調べているのか?リニア問題で流域住民の理解が重要だと言っているのだが、県は、大井川の恩恵を受ける利水団体の下流域ではなく、水源涵養に取り組み、「水返せ」を求める中流域の住民の意見をちゃんと聞いているのか?  いまのところ、県は全く手をつけていない。  80年代、大井川で行われた全国初の「水返せ」運動を知る人たちも少なくなった。大井川には数多くの水力発電所が建設され、各ダムが導水管で結ばれている。当時、塩郷えん堤から川口発電所までの下流域は、年間約210日間も表流水がほとんど流れていない悲惨な”河原砂漠”の状況が全国に伝わり、大きなニュースとなった。流域住民と歴代知事が一緒になって、「水返せ」に取り組み、1989年3月、塩郷えん堤からの河川維持流量毎秒3㎥から5㎥を勝ち取った。それで、少しは改善したかもしれないが、昔の大井川を知る人たちからすれば、豊かな清流が戻ったとは決して言えない。  それから30年はあっという間に過ぎた。ようやく、新たな河川維持流量を議論する川口発電所の水利権更新の時期を迎えたのだ。更新期限となる2019年3月が過ぎてしまったから、住民たちは川勝平太知事は何も動いてくれなかったのか、と半ばあきらめていた。最近になってようやく、住民たちは水利権更新がストップしていることを知らされた。  21日東洋経済オンラインにアップされた『「静岡リニア」川勝知事、ダム取水になぜ、沈黙? 中部電力川口発電所、国の許可得ず稼働続ける』が記事化されたから、流域住民だけでなく、多分、知事も読んでくれただろう。  さあ、これで、「生命の水を守れ」川勝知事の新たな出番となるのか?鈴木敏夫川根本町長をはじめ全町民が知事に期待しているのだ。 導水管で「河川流量」維持は全く問題ない  東洋経済オンラインの記事を読めば、「水返せ」が大井川最大の水問題だとわかってもらえるだろう。それなのに、リニア問題を伝える報道はダム問題に全く触れようとしない。それでは、読者は「河川流量」の本当の意味を理解できないだろう。  21日静岡新聞朝刊1面『中下流域の地下水 表流水維持で「影響小」』という大きな見出しの記事を読んでみれば、それがはっきりとわかる。大井川の表流水のほとんどは、導水管を流れていく。「水返せ」をちゃんと理解していれば、表流水は維持され、下流域の利水に影響ないこともはっきりとわかるはずだ。  記事は、第8回、9回の国の有識者会議で福岡捷二座長が「中下流域の河川流量が維持されれば、中下流域の地下水量への影響は極めて小さいと考えられる」との見解を示したことに触れている。リニア工事との関係で議論されているが、当然、導水管で川口発電所までつながっているから、河川流量は維持され、下流域の利水は担保されている(詳しいことは、東洋経済オンライン記事)。  沖大幹東大教授が一度、長島ダムの役割に触れていた。井川ダムから奥泉ダム、大井川ダム、塩郷えん堤、笹間川ダムを経て川口発電所に導水管で結ばれている。長島ダムで貯水された水は、井川ダムの水位が下がり、大井川広域水道などに影響の可能性があると思われるとき、放水される。導水管で川口発電所まで運ばれ、いざという時、長島ダムが下流域の利水ための役割を果たすのだ。  静岡新聞記事は、ただ単に会議での生の議論をそのまま伝えるだけだから、一般読者にはチンプンカンプンで、一体、何を言いたいのか、さっぱり分からない。これでは、JR東海の工事で河川流量に大きな影響が出るという印象操作をしたいだけなのか、と疑ってしまう。  記事の最後に、『難波喬司副知事が「河川流量が維持されるとの前提条件付きだ。維持されなければ中下流域の地下水がダメージを受けると言っているのと同じ」と指摘した。改めて、トンネル工事に伴う湧水全量戻しの議論が重要になるとの考えを示している』となっていた。副知事は立場上、「山梨県境の湧水全量戻しは重要」と発言するだろうが、下流域の地下水等に影響はほとんどないことを承知している。  そもそも、中下流域の水問題への影響が、リニアトンネル掘削工事で最大0・05億㎥から0・03億㎥(10カ月間の工事期間中)の山梨県外流出と関係するなど有識者会議で一度も議論されていない。川勝知事の「水一滴も県外流出はまかりならぬ」発言に対応するため、JR東海は県外流出対策を有識者会議に提案している。  記事では、JR東海が提出した、1つの水循環図を使っているが、肝心の川口発電所を削除していた。また、井川ダムから長島ダム、大井川ダム、塩郷えん堤、笹間川ダムを経て、川口発電所を導水管で結ぶ、別のわかりやすい2つの水循環図(1つは拡大図)をJR東海は資料として提出している。なぜ、こちらを使わないのか不思議である。  この2つの水循環図を使い、読者に説明すれば、中流域と下流域の水問題が全く違うことを分かってもらえただろう。印象操作とともに、話を複雑化しようとしている。  国交省鉄道局が複雑怪奇にしている  専門性が高く、ある程度、わかりにくいことは仕方ないが、リニア問題をこれだけこじれさせているのは、問題を整理して、シンプルに解決の方向に導く”必殺仕分け人”のような人材に欠けているからだろう。国交省がその役割を果たすはずなのに、もしかしたら、話をさらに複雑怪奇にさせているのは、当の国交省かもしれない。  3月14日、島田市で開かれた国交省と大井川流域10市町の意見交換会(非公開)の後、上原淳国交省鉄道局長、江口秀二審議官が会議の内容を説明した。続いて、島田市、牧之原市、藤枝市、吉田町の4首長が相次いで囲み取材に応じた=タイトル写真=。記者たちの質問を聞いていて、何だか話がおかしい方向に進んでいると強く感じさせた。  会議の趣旨は、第9回有識者会議の福岡座長コメントについて、国交省が分かりやすく説明することだった。今回の会議のために資料を作成、江口審議官らが10首長に中身を詳しく解説した。  ところが、国交省が作成した資料の中で「解説3:工事期間中のトンネル湧水の県外流出に対する対応策」を読んで、首をかしげてしまった。「流出量の全量を大井川に戻す代替措置として、先進坑貫通後に県外流出量と同量の山梨県内のトンネル湧水を時間をかけて大井川に戻す方策」を図に示して、説明している。  「これらの方策の実施に関しては、今後、JR東海が静岡県や流域市町等との間で協議されるものと考える」。これが国交省のコメントである。わざわざ「流域市町等」と書いてある。流域市町とは、当然、意見交換会に参加している10市町を指すのだろう。  有識者会議の議論では、JR東海が想定した「流域市町」とは、山梨県の自治体だったはずだ。それなのに、国交省の資料は「大井川中下流域の10市町」を指していた。「水一滴」問題までJR東海は、大井川流域市町と協議しろということになっている。  流域市町との話は「中下流域の河川水量の減少」「中下流域の地下水量の減少」に限定すべきだ。そのテーマに沿って、ちゃんとわかりやすく説明をして、流域市町にほとんど影響のないことを理解してもらえばいい。山梨県外へ工事中の10カ月間、最大0・05億㎥から0・03億㎥の湧水が流出しても、「中下流域の河川水量の減少」に影響はほとんどない、という有識者会議の結論をちゃんと説明すればいい。  会議後の囲み取材に応じた4首長に「有識者会議では下流域の地下水への影響はほとんどない、という結論の方向だ、みなさんは知事と同じで水一滴の流出も容認できないのか?」と聞いた。染谷絹代島田市長が「そういうことではない」と答えていたが、回答は曖昧であり、さらに「下流域の水問題への影響だけでなく、南アルプスの自然環境も問題」など生物多様性にも触れていた。県と同じスタンスであることを強調したかったのだろう。「水返せ」の川根本町の立場が最もわかりやすいが、各市町とも事情は全く違う。  ダムの導水管問題、水利権許可は利水団体にも関係してくる。鉄道局だけでなく、中部整備局担当者も流域市町との意見交換会に出席してもらうべきである。  単に、有識者会議の議論を説明する意見交換会では前に進まない。国交省はダムの問題をテーマにすべきであり、そうすれば、解決への糸口も見えてくる。 「飲水思源」の思想に立ってみよう  流域10市町長は20日、静岡市で「流域住民の理解と協力を得ることなく、リニア工事着工をしないよう」求める要望書を宇野護JR東海副社長に手渡した。要望書の内容は県と打ち合わせた通りなのだろう。  しかし、これは一体、何なのか。もし、南アルプスの自然環境保全までJR東海に求めるならば、大井川の水の恩恵を受ける下流域の自治体は、水源涵養などで応分の負担もすべきである。  静岡市井川地区の人たちは、早期のリニア工事着工を要望している。上流と下流の経済格差や過疎の貧しさを十分に承知しているのは、中流域の川根本町の人たちかもしれない。JR東海は当然、流域のための地域貢献べきである。ただ、単にリニア工事の説明に訪れても、流域の住民たちは聞く耳を持たないかもしれない。  知事は何度も、川根本町千頭と井川地区を結ぶ市道閑蔵線トンネル建設をJR東海に求める発言をしていた。県、静岡市、JR東海が3分の1ずつの費用を負担して、閑蔵線トンネルを建設することが望ましいが、流域10市町は一体になって、閑蔵線トンネル建設を要望すべきではないか。水の恩恵を受ける人たちは、その源流を守る人たちに感謝しなければならない。「水返せ」を理解することも同じように重要である。  国交省が主体となって、シンプルに解決の方向に話を持っていくべきである。JR東海を指導するとはそういうことではないか。