静岡新聞とスルガ銀行の”不可解な絵画取引”?

「ZAITEN」最新号に掲載された記事

10日付日経新聞朝刊の広告

 10日付日本経済新聞朝刊に月刊誌ZAITEN6月号(5月1日発売、発行・財界展望社)広告が掲載された。何と『静岡新聞「スルガ銀行」との不可解な絵画取引』の見出しとともに、大石剛前社長の写真を見つけて、びっくりした。早速、丸善ジュンク堂書店で「ZAITEN」を購入した。メーン特集『NHK「公共放送」の大嘘』のほか、『テレビ朝日「報道ステ」CMが炎上した理由』などマスメディアに対して厳しい批判記事が掲載されていた。「W不倫」発覚時に「俺、田舎の人間だぞ!田舎の人間追っかけて何が楽しいんだよ」(写真週刊誌フライデー3月5日発売から)という”迷セリフ”で一躍、全国の注目を浴びた大石社長(当時)。またもや”田舎新聞”なのに全国誌から追っかけられたのだ。今度の記事には、一体、何が書いてあるのか?

 ことし1月、大石社長(当時)の静岡新聞社がスルガ銀行からフランスの画家ベルナール・ビュフェの作品632点を購入したのだという。スルガ銀行の元頭取岡野喜一郎氏(故人)が創設したビュフェ美術館を巡っては、絵画寄付に不法行為があったとして、岡野一族に約32億円の損害賠償請求訴訟が起こされている。このため、同美術館を管理、運営する財団法人理事長を岡野光喜前会長が退任、前会長と関係の深い大石社長が引き継いだ。シェアハウス問題で苦境にあるスルガ銀行を救済するつもりなのか、大石社長は巨額の絵画取引まで主導したようだ。ただ、これがふつうの取引ではないのだ。

ZAITEN6月号表紙

 静岡新聞社が絵画を購入しても、絵画はそのままビュフェ美術館から移動することなく、管理、展示は同財団に任せ、他への転売もできない契約なのだという。多額のおカネを払っても、静岡新聞社にはメリットがないようだ。ビュフェ美術館を巡る取引では、岡野一族に資金が還流されていたのだが、今回はどうなのか?また、ビュフェ絵画の譲渡を伝える静岡新聞の記事写真に掲載された『キリストの受難 復活』(銀座・日動画廊の4億円相当の評価だという=タイトル写真)は、スルガ銀行が過去に同財団に寄付したものだという。すでに寄付した絵画を静岡新聞社に売却したことになる。売買に不正があったのかどうか分からないが、この取引には”不可解”なことばかりのようだ。

 詳しくは、ZAITEN6月号を読んでもらったほうがいい。

 記事の中で気になったのは、『静岡新聞社はこんな不可解な事実を承知の上、譲渡契約を結んだ可能性も否定できない。当然、取締役会を経たが、「大石の独断専行を止められる役員は誰もいなかった」(別の関係者)という。同社は本誌の取材に対し、具体的な譲渡額については「答えかねる」。また、取締役会決議の詳細についても「答えかねる」とした』など、静岡新聞社が経緯を明らかにせず、一切の回答を避けていることだ。

 リニア問題では、JR東海や国交省を厳しく追及する静岡新聞社の姿勢とは真逆である。都合の悪いことはシャットアウトでは、新聞の信頼は失われるだろう。同社のリニア問題担当記者は、自社の姿勢こそ厳しく問うべきである。

警察の見立てを報道しても問題ない?

 最近の静岡新聞は、フライデーのW不倫報道だけでなく、今回のZAITEN、また8日付の新聞各紙が同紙の報道姿勢を伝えるなど、社会的な話題をメディアに提供する側に回っている。

2021年5月8日付朝日新聞

 8日付朝刊では、朝日新聞地方版トップ記事『容疑者住所巡る訴訟 静岡新聞社に賠償命令 「地番秘匿の必要性高い」、原告「最後まで戦う」』、中日社会面記事『容疑者の地番掲載 違法 地裁判決 静岡新聞に賠償命令 「人生台無しに」原告男性 控訴意向 無罪推定が大原則 本紙見解』など同業他社が非常に大きな紙面を割いて、静岡新聞社の報道姿勢を問い質した。

 静岡新聞は、2018年7月、静岡県警によって県内在住のブラジル人夫婦が覚醒剤取締法違反などの疑いで逮捕された事件で、夫婦の住所の地番を掲載した記事を掲載した。さらに翌日の紙面では、「夫婦が薬物密売グループのリーダー格」などとする同社だけの独自ネタによる大きな記事も掲載している。ただし、どこの新聞社等も追い掛けていない。

 夫婦は逮捕、取り調べを受けたが、嫌疑不十分(検察庁が裁判で容疑を立証するための証拠が不十分として起訴を見送る。限りなく無実に近い)で不起訴となった。夫婦は嫌疑不十分となった逮捕事実(地番を含めた)だけでなく、「薬物密売グループのリーダー格」という警察の一方的な見立てを基にした報道によって、仕事や家族らに深刻な被害を受けた。このため、プライバシー侵害、名誉棄損など訴え、総額約690万円の損害賠償請求と謝罪広告の掲載を求めたのだ。

 静岡地裁は「地番まで掲載する必要性が高いとは言い難い」など、夫婦それぞれに33万円(合計66万円)の支払いを静岡新聞社に命じた。

 ところが、「薬物密売グループのリーダー格」という警察の見立てによるスクープ記事は、おとがめなしとされた。裁判官は、静岡新聞は警察の見立てをそのまま掲載したのであり、その時点では「新聞記事を掲載する合理的な嫌疑が存在した」などいう理由で夫婦の訴えを退けてしまった。実際には、「薬物密売グループのリーダー格」は何ら確証のない、言うなれば、警察の飛ばしを静岡新聞は報道してしまったのだ。

 それでも静岡新聞社は、警察の見立てを鵜呑みにしただけなのだから、責任は問われないことになった。夫婦の代理人弁護士は「警察の見立てを書くのならば、新聞社が独自にそれが正しいのかちゃんと調べるべきである。最高裁判例でもそうなっている」として、夫婦は東京高裁に控訴する方針だ。警察からの情報を基にスクープ報道したのだから、静岡新聞社は記事に責任を持つべきだと主張している。静岡新聞社は、警察の捜査資料を確認した上で報道したのかどうかさえ疑わしい。

 静岡新聞社は『当社の主張が一部認められず、遺憾です。判決内容を精査した上で対応を検討します』と他人事のようなコメントしている。中日は、『被告は「静岡新聞には警察の見立てを報じる際に、それが事実か、最後まで確認してほしい」と訴えた』とある。被告夫婦の悔しさが伝わってくる。

 地番を掲載しなかった中日は「無罪推定が大原則」の見出しで、同紙はどんな事件、事故でも地番までは伝えないと書いている。それでは、警察の見立ては逮捕事実でもなく、単に警察による憶測に近いのだから、そんな報道をすること自体、適切ではないことになる。

 判決後の静岡新聞コメントを読んでいて、報道に責任を持つ姿勢など全くないことがはっきりとした。東京高裁で、被告夫婦の無念を晴らすことができるように期待したい。

「マスコミをやめる」を実行したほうがいい

 一体、静岡新聞社に何が起きているのだろうか?

 ことし1月11日の同紙は、4面にわたって自社広告を掲載した。『静岡新聞SBSは、マスコミをやめる。』というびっくりするような見出しが目に飛び込んだ。「かつてマスと呼ばれ一括りにされた大衆はもういない。その大衆に向けて一方的な情報を送り続けたコミュニケーションはもはや通用しない。

2021年1月11日付静岡新聞

 静岡新聞SBSは、マスコミュニケーションをやめる。静岡の一人ひとりに、静岡新聞SBS一人ひとりで向かい合うことから、もう一度はじめようと思う。必要とされている情報はなにか。その届け方はどうあるべきか。読者を読み、視聴者を見て、リスナーを聞き、自分で考え、自分で働く。正解はひとつじゃない。静岡県民361万人の数だけある。私たちの新しい価値は、きっとそこから生まれるはずだ」など「ユーザーファスト」というわけの分からない記事が掲載された。次のページを開くと、全2面にわたって全社員の決意が極めて小さな赤字で書かれていた。

 その決意の中で、大石剛社長(当時)は「創立以来の危機をチャンスに変える!元々オールドメディアの足元が揺らいでいたところに、COVIDー19が発生し、創立以来の危機に見舞われている。これは逆に大きくrebirth、新生、甦生する好機を得たということだ」と書いた。新聞社社長の文章としては情けないほど幼稚である。「ユーザーファースト」は口先であり、自分たちのことしか考えられないことが「マスコミをやめる」ことらしい。

 「創立以来の危機」と大石社長が言うのは、経営の状態であり、広告や部数が減ったことだけを指している。マスコミにとって最も必要な適正な報道をする姿勢とは関係ない。報道機関としての使命が何か全く分かっていない。

 ”W不倫”騒動で、静岡新聞、静岡放送社長を辞任したが、顧問代表取締役という肩書で引き続き、大石前社長が実権を握っているという。

 ところで、”W不倫”は戦後すぐまで、立派な犯罪だった。大石顧問にそのような自覚があったのだろうか?

 1947年削除された刑法183条「夫のあるの女性が、姦通したときは2年以下の懲役に処す」という姦通罪によって、”W不倫”は厳しく罰せられた。約75年前までは、もし、”W不倫”が発覚すれば、まず、女性側の夫が配偶者の妻と相手の男性に姦通罪を訴えることで、姦通罪が成立したのだ。今回の”W不倫”も事実かどうか、警察が調べることになったのだろう。

 ただ、刑法183条がなくなったからと言っても、警察の捜査がなくなっただけで、民法上の責任を免れることはできない。つまり、女性の夫は損害賠償請求をすることができる。民法709条「故意または過失により他人の権利を侵害したる者は、これによりて生じた損害を賠償する責任がある」から、”不倫”が事実だと夫側が信じれば、弁護士を通じて慰謝料の請求を行うことができる。

 大石顧問は、”W不倫”については最後まで否定していたが、本当にそうなのか?犯罪事実でなくても、メディアに実名で報道されることの痛みを実感したのだろうか?

 『「静岡新聞SBSはマスコミをやめる」はただのビッグマウスか、革命者になるか。静岡のみなさん。どうか厳しい目で見守ってください』と自社広告の最後にあった。ブラジル人夫婦は、報道機関としての使命を見失った静岡新聞社は早いうちに、さっぱりとマスコミをやめてほしいと願っているだろう。

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