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ニュースの真相

リニア騒動の真相99「悲しき鉄道員」の思い?

さて今年はどうなるのか?  先日NHKのFMラジオで、70年代に活躍したオランダ出身のロックバンド、ショッキング・ブルーの日本でのヒット曲「悲しき鉄道員」が流れた。50年も前の曲だから、ほとんどの人は知らないから、1956年のイタリア映画「鉄道員」の物悲しいサウンドトラックを思い出すかもしれない。それとも、高倉健主演の映画「鉄道員(ぽっぽや)」の雪深い駅のシーンが頭に浮かぶかもしれない。  「悲しき鉄道員」と聞いただけで、そのイメージは大きく膨らむだろう。まずは、懐かしき70年代のサウンドを耳にしてください。  悲しき鉄道員/ショッキング・ブルー Never Marry A Railroad Man/Shocking Blue  (Japanese Single Edit) – YouTube  番組でDJが「悲しき鉄道員」の邦題に触れて、原題は「鉄道員と結婚してはいけない」だという。びっくりしてしまった。原題を調べると、やはり「Never Marry A Railroad Man」だった。イタリア映画や「ぽっぽや」のイメージを売る「悲しき鉄道員」は、日本に売り込むためのものかもしれない。最初から、邦題が「鉄道員と結婚するな」では、日本でヒットしなかったかもしれない。  英語曲の歌詞の意味内容を正確に理解して、曲に惹かれることはない。リズムや曲調、乗りである。日本語の歌詞ならば、曲調だけでなく、歌詞の意味も大きな要素である。題名は歌詞に連動するから、本当に重要である。  英語曲の場合、耳で聞いただけで歌詞は全くわからない。曲を聞いてみて、ああいいなとレコードを買うことが多かった。だから、ジャケットの日本語訳の歌詞を見て、がっかりする場合もあった。歌詞の意味は個人的な感想だったり、日本人の心情では理解できない内容だったりするからだ。英語曲は、曲調と邦題によるイメージが大きな意味を持つ。歌詞の本当の意味はわからないから、仕方ないのだ。  「悲しき鉄道員」つくるイメージと曲調が合っていた。いま聞いてもなかなかよい曲である。英語耳を持つ最近の若い人たちは曲調だけでなく、英語歌詞を正確に理解して、ファンになったりするのだろうか?  なぜ、こんな話から始まったかと言えば、今回の国のリニア有識者会議の中間報告の静岡県での受け止め方に似ているからである。12月19日に開かれる第13回有識者会議の前から、静岡新聞が企画特集を何度も組み、有識者会議の結論や国交省の姿勢に徹底的にイチャモンをつけていた。20日付新聞各紙は、静岡新聞だけでなく、それまでの静岡新聞の論調に乗ったような、「全量戻し」の批判が目立った。さらに、12月22日の知事会見で、川勝平太知事は「全量戻し」は約束違反なので、中間報告の結論を「受け入れられない」と否定した。23日付静岡新聞は『「着工判断委ねられた」 国交省専門家会議 中間報告受け知事』という大見出しになっていた。これには首をかしげるしかない。知事と静岡新聞がつくったイメージをほとんどすべての静岡県民が受け入れざるを得ない。  12月30日付静岡新聞1面に『国交省中間報告 会議内の議論複数反映せず 解釈の違いで混乱の恐れ』と何を言いたいのかわからない記事が大きく掲載された。見出しによるイメージの押し売りである。  ことし1月1日付静岡新聞1面には『知事「着工受け入れ厳しい」 湧水全量戻しに課題』とこれまでの経過をまとめたような記事が掲載された。知事インタビューも暮れの知事会見をなぞっているだけで、新しい視点も意見もなかった。しかし、これでリニア計画に対する厳しい否定的なイメージだけは植えつけられた。  1月5日公開された東洋経済オンラインの記事を読めば、「悲しき鉄道員」と同じ思いになるだろう。静岡リニア「トンネル湧水全量戻し」本当の問題点 | 新幹線 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)  静岡新聞が正しいのか、東洋経済オンラインのわたしの記事が正しいのか?事実を取捨選択することで、真実がどこにあるのかわからないのでは、読者は不幸である。静岡県知事の”暴走”が他に及ぼす影響を考えてみるべきである。静岡県知事は県民の幸福を考えているのかを疑ってしまう。盲目的に川勝知事の主張を信じている県民も多く、ちゃんとした「聞く耳」はないのかもしれない。  さて、しばらく、「リニア騒動の真相」とは何だったのか、整理して、考えてみたい。このままで本当にいいのか?何か手立てはないのかを含めて冷静に考えてみる時なのかもしれない。 ※タイトル写真は、2021年を象徴する漢字の1字を「厳」とした川勝知事。「厳」しいのは、自分へではなく、国交省やJR東海に対するように思えた。

現場へ行く

北海道で伊豆の”依田勉三”に出会う

「開墾のはじめは豚とひとつ鍋」とは?  12月5日から9日まで4泊5日で北海道を旅した。2004年6月、作家立松和平(2010年、62歳没)が総代を務めた知床毘沙門堂(斜里町)の建立10周年を祝う法要に訪れて以来、2度目の北海道訪問である。きっかけはフジドリームエアラインズ(FDA)が、静岡ー新千歳間の片道5千円の格安チケットを売り出したニュースだった。ウエブ検索すると、行き5千円、帰り6500円のチケットを入手できた。空港使用料等を合計しても1万3240円で、静岡ー京都間の新幹線チケットよりも安いのだから驚きである。  FDAの新千歳路線は毎日1便のみで、11時10分出発に合わせて静岡空港に到着した。ターミナルビル近くの駐車場は有料(1日5百円)となったため、一番遠い無料駐車場に車を止めた。無料駐車場はほぼ満杯の状態なのに、ターミナルビル前の有料駐車場はがらがらだった。当初、約2千台の駐車場のすべてを無料とうたっていたが、赤字続きでそうもいかなくなったようだ。ただ、こんなにがらがらでは見込み外れである。  静岡県は遅れていた静岡空港建設をほぼ終え、2009年3月開港を最後の「公約」として示した。ところが、航空法違反の立ち木問題を解決できず、開港の約束は反故となる。このため、2008年12月6日号週刊ダイヤモンドに、当時の知事の責任を追及する特集記事を寄稿した。立ち木の地主は知事の辞職を譲らず、5期目を目指していた知事は責任を取って突然、辞職する。出直し知事選は、民主党への風が吹く中で川勝平太氏が初当選した。その後、川勝氏はしばしば、立き木問題について自らが地主と面会して解決したなどと述べている。  静岡空港計画時の最大の売りは、空港直下に新幹線駅を開設することであり、静岡県は地域の自治体らと期成同盟会を設置、空港地下駅建設の働き掛けを行ってきた。川勝知事は親しいJR幹部との面会を求めたが、JR東海は空港地下駅に「聞く耳」を持たず、知事面会も拒否した。もともと計画に無理があった静岡空港は赤字が膨らんだ。2019年4月、空港運営権を民間にたった10億円で売却、駐車場の有料化を含めて民間ならではのさまざまな経営改善に乗り出している。FDA機のタラップを踏みながら、開港前、滑走路の向こうに立ち木が見えたことも思い出した。  12時55分新千歳空港着。空港ターミナル内で味噌ラーメンを食べた後、14時半発の高速バス・ミルキーライナーで帯広市に向かった。トマム付近でスキーリゾートの高層ホテルを見た以外は、ほぼ人家などはなかった。16時にほぼ暗くなり、16時半には真っ暗闇の夜となった。北海道の冬の第一印象は、こんなに夜が早いのか、と驚いたことである。周囲に明かりが全くないので、車窓には広大な真の闇の世界が広がっていた。  17時過ぎに、帯広駅に到着。駅ビル内のぶたはげで夕飯に豚丼の持ち帰りを購入した。豚2枚入り、4枚入り、6枚入りで値段が上がり、4枚入りは1060円だった。店の看板に「開墾のはじめは豚とひとつ鍋」と大書されていた。  「開墾のはじめは豚とひとつ鍋」?豚と一緒に食事をした?十勝名物の豚丼の由来なのだろうが、意味は分からなかった。 サウナで「ととのう」とは?  今回の旅の目的は2つあった。1つ目は、北海道のサウナを楽しむことである。静岡市には、全国から若者らが訪れる人気のサウナしきじ(駿河区敷地)をはじめ、松乃湯、柚木の郷、おふろカフェ美肌湯などがあり、週に2、3度、朝サウナ(6時~9時)を楽しんでいる。静岡市の自慢は、安倍川の伏流水がそのまま水道水となっていることだ。硬度80程度で南アルプスの湧水とほぼ同じ成分であり、塩素さえ抜けば、市販のナチュラルミネラルウオーターと変わらない。  30年以上前からサウナ、水ぶろに交互に入ることの爽快感を知り、ほぼ習慣となった。日本全国、他の地域を訪れれば、必ずサウナのあるホテルを選んで泊っている。宮崎市のサウナで鹿児島大学医学部発祥による「和温療法」を初めて知った。心不全の患者に室温60度程度のサウナ療法で血流促進を図り、心不全の改善の効果を実証、現在、全国で行われている。(※残念ながら、静岡県内には和温療法を行う病院はない)  当然、激しい運動で汗をかくこととサウナで手軽に汗をかくことは違っている。ただ、熱さを我慢して、我慢して、1分でも長くサウナに入り、水ぶろに浸かったときの爽快感を知れば、サウナのとりこになるだろう。サウナしきじに行くと、若者たちがグループでサウナ、水ぶろに交互に入り、「ととのう」を味わっている。日本の風呂文化の新たな魅力とトレンドである。(※従来の親父サウナとの違いである)  北大医学部出身の加藤容崇著『医者が教えるサウナの教科書』(ダイヤモンド社)で、何人かが帯広市にある北海道ホテルのサウナを推薦していた。加藤氏はサウナ初心者であり、朝サウナはサウナ5分→水ぶろ10秒→水よりぬるいシャワーを浴びて終了、夜サウナはサウナ7分→水ぶろ1分→外気浴5~10分を2~3回とある。わたしのお薦めは、朝サウナ12分~15分→水ぶろ5分→休憩(15分~20分)を3回程度である。これで、夜のお酒がおいしく飲める。加藤氏の教科書にはいろいろな医学的なうんちくが書かれているが、エビデンスを疑う記述もある。  十勝・帯広は工夫を凝らしたサウナがあり、日本一水道水がおいしいとうたい、十勝「サ国(サウナ共和国)」プロジェクトを行っている。その代表である北海道ホテルに2泊する。エレベーター前に2019年6月に十勝初のセルフロウリュ可能なサウナを宣伝する看板が設置されていた。期待が高まった。まず第1回目のサウナに入り、その後、名物の豚丼を食べた。おいしかった。 帯広市街には多くの彫刻が飾られていた  翌朝2度目のサウナを楽しんだ。温泉は素晴らしいが、サウナそのものは期待外れだった。加藤氏のサウナの教科書で、林克彦社長が自ら北海道ホテルのサウナを自慢していた。北海道ホテルは露天風呂をはじめ温泉としての施設が最初からあり、最近、人気のサウナを充実させたのかもしれないが、欠点はまず、狭すぎるのである。定員7人となっていたが、4人入れば、一杯であり、写真では大きさがわからない。室内が狭いとサウナの熱が回り切らず、息苦しささえ感じさせる。  北海道ホテルは、赤ちゃん、小さな子供を含めた家族連れが数多く訪れ、家族で温泉を楽しむ施設である。サウナ施設としての救いは、大きな露天風呂。朝サウナ、水ぶろを経た後、露天に出て冬の外気に触れた。帯広のどこまでも青い空と冷気で体がひきしまっていく。「ととのう」というサウナ用語で言えば、水ぶろの水滴をちゃんと拭いて、冷えた外気に触れれば、室内とは全く違う「ととのう」を味わえる。(※雪はまだ降っておらず、1月半ば頃から本格的な冬が到来すると聞いた。その頃の外気浴はフィンランド同様に格別かもしれない)  ホテルから10時半発の帯広駅行きバスに乗る。図書館が休館のため、市役所に出向いた。玄関に友好都市、松崎町から贈られた依田勉三像のエスキス(実物制作のための小さな像)が展示してあった。観光課に聞いたが、ここには開拓の歴史などの資料はないのだという。依田勉三像のある中島公園までの道のりを記した地図をもらい、帯広神社隣の中島公園を目指した。(※中島公園は、岐阜出身で北海道に渡り、帯広商工会議所会頭、帯広市会議員などを務めた中島武市にちなんでいる。武市は依田勉三像建立の発起人代表。ちなみに武市の長男の第一子がシンガーソングライターの中島みゆきである。つまり、武市は中島みゆきの祖父)  さて、伊豆・松崎町出身で、十勝開拓の英雄と呼ばれる依田勉三はどんな人物だったのか? 六花亭のマルセイバターサンドと依田勉三  依田勉三は、ペリーの黒船が来航した嘉永6年(1853年)伊豆国大沢村(現在の松崎町)の依田家に生まれた。幕末の伊豆は、二宮尊徳の農本思想と開拓精神の影響が色濃かったのだという。21歳のとき、慶応義塾に入り、北海道開拓使が招いた米国人の報告書を読んだことで、北海道開拓に目覚めたという。  28歳の時、単身で人跡未踏の十勝平野を探査、翌年十勝開拓のための晩成社(大器晩成にちなんだ)を結成、1883年1月、晩成社開拓団27名が伊豆から出発、十勝川上流で開拓事業をスタートさせた。開拓事業は困難を極め、穀物、イグサ、リンゴの栽培、製綿、でんぷん、缶詰、植林、牛馬の牧場などさまざまな事業に乗り出したが、軌道に乗るものはなかった。40年にも及ぶ依田勉三の事業は成功を果たせず、1925年72歳で没したが、帯広の発展の礎につながった。  開拓初期は生活が極端に苦しく、傍から見れば、豚の餌と勘違いされるほど粗末な食事しかありつけなかった。晩成社の1人が、「おちぶれた極度か豚とひとつ鍋」(豚と同じ鍋の食事をする)とうたったのに対して、勉三が「開墾のはじめは豚とひとつ鍋」と詠んだのだという。晩成社が豚4頭を連れて入植したのが、帯広での養豚の始まりなのだという。現在のおいしい豚丼は勉三らの努力の上にあり、豚丼を食べながら、当時の苦労を思い出すことができる。(※「豚とひとつ鍋」とは、豚と同じものを食べていたという意味らしい)  北海道銘菓として物産展などで欠かせない六花亭製菓のマルセイバターサンド。マルセイ(マルの中に成がある)とは、晩成社(依田牧場)が1905年北海道で初めて商品化したバターのラベルであり、お菓子はそのデザインを復刻した、包装を使っている。当然、帯広市の六花亭本店に寄って、マルセイバターサンドを購入した。  帯広市役所から中島公園まで約30分ほど掛かったが、当時の依田勉三らの苦労をしのぶには大した距離ではない。帯広を訪れた際、広々とした道路を楽しみながら、中島公園まで散策したい。ぜひ、帯広市は中島みゆきに祖父ゆかりの中島公園の歌をつくってもらえるよう頼んでほしい。多分、その日、訪れたのはわたし一人だったかもしれないが、中島みゆきの歌で観光の名所になれば、多くの人が依田勉三の像に出会うだろう。  翌日、札幌に移り、8日に北海道神宮を訪れた。地下鉄丸山公園駅を出て、今回の旅行で一番の寒さを感じながら、北海道神宮の敷地に入り、ほんのしばらく行くと目的の開拓神社に到着した。1954年、間宮林蔵、伊能忠敬、松浦武四郎らとともに開拓の祖として依田勉三が祭神となっている。北海道神宮そのものも立派だが、開拓神社も非常に大きな社であり、多くの若い人たちが訪れていた。(※依田勉三についての紹介は、松崎町HPを参照した)  今回、帰途で昼食があまりおいしくて、FDAの飛行機に乗り遅れることになってしまった。格安チケットのはずだったが、うっかりとしたことで逆に高いものについてしまった。ただ、FDAを初めて使い、びっくりするような経験をした。いずれ機会があれば、こちらも書いてみたい。

ニュースの真相

知事”舌禍”事件ー「無責任」静岡県政の象徴

「言行不一致」川勝知事は辞職しない!  11月14日付『川勝知事「舌禍事件」ー大山鳴動”鼠”一匹』を振り返る。10月の参院静岡補選の応援演説に浜松に出向いた川勝平太知事は、自民候補の若林洋平・元御殿場市長の好物を念頭に御殿場には「コシヒカリ」しかないなどの差別発言した。選挙後に「コシヒカリ」発言に批判が沸き起こり、当初、「誤解」と言い訳していた知事だが、世論の理解を得られず、最後には11月12日の会見で20秒間、県民に向けて頭を下げた。この謝罪で騒動の収拾を図った。  そこに新たな”舌禍”が明らかになる。12月1日付中日新聞が、6月の知事選最中に、女性蔑視、建設作業員への差別と受け取られる発言を暴露した。知事は2日の会見で再び、発言を撤回、謝罪した。タイトル写真では、頭を下げる知事を記者たちのカメラが狙ったように見える。実際は、知事がテレビ、新聞のカメラの前で頭を下げることもなかった。  知事は「何を言っているのか分からない恥ずかしい発言だった。確かに不適切で撤回して、おわびする」などと述べたに過ぎない。「何を言っているのかわからない」ならば、「確かに不適切」にはならないはず。会見では、知事の”得意技”「何を言っているのかわからない」発言を繰り返し、記者たちを煙に巻いて、切り抜けた。その程度の話だった。  6日から県議会の代表質問、一般質問が始まる。自民県議団が知事の不適切発言へ何らかの追及はあるだろう。まあ、それが何であろうとも、これで一件落着である。今回の女性蔑視、建設作業員への差別発言が明らかになっても、自民県議団があらためて不信任決議案を提出できないからだ。県議会では「追及」と「謝罪」の茶番が繰り返されるだけである。知事は、表面的な「謝罪」とは裏腹に、どこかで不満を爆発させているだろう。そのとばっちりを受ける職員はかわいそうだが、知事自身は何らの痛痒もなく、今回の「舌禍事件」も”鼠”一匹で、幕引きとなる。それはなぜか?  ことし3月30日付静岡新聞コラムがその理由もちゃんと教えてくれている。  『「座長は御用学者にちかい」「(JR東海と有識者会議、鉄道局は)臭い関係。腐臭を放っている」。川勝平太知事は(3月)23日の記者会見で、県内のリニア工事を巡り、強い言葉でJR東海や国土交通省を批判した。  あえて刺激的な言葉を発して論争を巻き起こし、事態の転換を図るのは川勝知事の政治手法。悲しいことに、長く取材するうち、こちらも少々の発言では驚かない耐性ができてしまっている。ともあれ、よくまあ、物騒な言葉が次から次へと出てくるものだ。  舌禍を繰り返しながらも、選挙で圧勝を重ねて3期12年。「なぜ川勝知事は選挙に強いのか」とよく聞かれる。正直、よく分からない。自民党がだらしないから、と答えることにしている。(政治部・宮嶋尚顕)』  見出し『なぜ選挙に強いのか』は、6月の知事選の前であり、4期目も川勝圧勝でその通りの結果となった。圧倒的な支持率の高さで選挙に強い理由を宮嶋記者は「自民党がだらしないから」と見抜いていた。今回の舌禍事件で、知事が無事、切り抜けられたのも同じく「自民党がだらしないから」なのだろう。  会見で、川勝知事は辞職しない理由を新たなオミクロン株出現によるコロナ対応を挙げた。記者たちは忘れてしまったかもしれないが、昨年末、知事は「現在の危機はコロナの第三波の真っ最中であり、年末の不要不急の帰省は我慢するように」と呼び掛けながら、自身は12月26日から1月3日まで自宅の長野県軽井沢町の自宅へ”帰省”していた。「帰省は我慢してください」の口先が乾かぬうちに、さっさと”帰省”できるのは、知事がそれほどコロナに対して危機感を持っていないのであり(※その証拠に知事はコロナワクチンを受けていない)、また、知事不在であっても担当部局でコロナ対応ができることも明らかになった。  そのような知事の”言行不一致”にさえ、厳しい意見を言える者は誰もいない。だから、自民県議団に期待するが、肝心の自民県議団もちゃんと知事の責任を糾弾できない。さて、どうするのか? 「御用学者」を平気で使う静岡県  今回の会見で、テレビ静岡記者が「コシヒカリ」発言に対して、公選法違反の可能性を厳しく追及した(※新聞、テレビではどこもやっていない)。若林氏が公選法違反で知事を告発すれば、まさしく”舌禍”事件となる可能性はある。自民党はちゃんとした弁護士をつけて、若林氏を応援すべきだ。若林氏が政治生命を賭して、知事と対峙すれば、知事の”化けの皮”がはがされる可能性が高い。そのくらいでなければ、知事に向かい合えない。これまで”舌禍”がいくらあっても、その場、その場を切り抜けてきたからだ。そして、すぐに忘れてしまうのだ。  静岡新聞・宮嶋記者のコラムに”舌禍”として登場する「座長は御用学者」は、国のリニア有識者会議座長の福岡捷二氏を指す。知事は、福岡氏に対しては、度々非難の刃を向けていた。これも過去の遠い記憶となってしまった。  4月に宮嶋記者も転勤となり、他社も12月の異動があり、知事会見には新顔の記者たちが多くなった。となると、過去の川勝”舌禍”事件を記憶していないだろう。川勝”舌禍”で有名なのは、自民県議団を念頭にした「やくざ」「ごろつき」などの暴言、菅義偉首相(当時)に対する「教養のレベルが図らずも露見した」「夜学に通い、単に単位を取るために大学を出た。学問をされた人ではない」などの差別発言。川勝”舌禍”について、もう一度、事件簿として紹介していきたい。  まずは、福岡氏への暴言である。  知事は福岡氏の「座長コメント」を度々、批判してきた。宮嶋記者コラムの3月23日以前、2月9日の会見で「コメントと言うにはあまりにもずさん。蛇足であり、要らない」「座長コメントの撤廃を求める」と宣言。「座長コメントは明らかに事務官が書いている。だから、座長コメントはなしにする。座長コメントはやめなさい。事務官奴隷になるような座長というのは、福岡さん、今までの学業は泣きますよと申し上げたい」。官僚に対する格好よい批判とも取れる。  問題なのは、知事が本当に福岡氏の座長コメントを読んで、理解しているのかどうかである。この場合、「山梨県側へ流出しても、椹島よりも下流では河川流量は維持される」という座長コメントを批判したのだが、福岡氏は有識者会議での議論をまとめたに過ぎない。それなのに、福岡氏への一方的な批判に終始していた。  また、宮嶋記者コラムにある「御用学者」発言も、「トンネル湧水が山梨県側に流出した場合においても、静岡工区で発生するトンネル湧水を戻すことで下流域の河川流量は維持される」という座長コメントに対するものだった。有識者会議の結論はその通りであり、次回の有識者会議で結論が出される。それに対する不満なのだろうが、2人の県委員も参加する、2年近くの科学的・工学的な議論の結果である。川勝知事のお得意のフレーズ「万機公論に決すべし」から言っても、有識者会議の結論に従うべきである。この期に及んで、意味のない文句を言い続ければ、度量の狭い政治家に見られるだけである。  「御用学者」とは、静岡県リニア環境保全連絡会議専門部会委員の、県費を支払う県事業のコンサルタントのことである。誰が考えても「御用学者」を県担当者が平気で使っているのだ。当該コンサルタントは、対外的な肩書に「静岡県専門部会委員」を使っている。「御用学者」とはそのような者たちを指すのである。 「嘘つきは泥棒」は川勝知事のことだった  『三重県知事をうそつきと非難 静岡知事、リニア駅発言で』。2019年11月19日川勝知事の会見を伝える「共同通信」配信が全国の地方紙、スポーツ紙、ロイターなどに掲載された。記事内容は以下の通り。  『静岡県の川勝平太知事は19日の記者会見で、リニア中央新幹線の三重県内の駅に関する自身の発言に「事実無根」と抗議した三重県の鈴木英敬知事に対し、発言内容は事実だとして「うそつきは泥棒の始まり」と非難した。  川勝知事は6日、公表されていない三重県内の駅設置場所について「(鈴木知事が)90%亀山市に決まったと言っていた」と述べ、8日に三重県から抗議を受けた。川勝知事は会見で、先月31日に催された天皇の即位を祝う「饗宴の儀」の際に鈴木知事から直接聞いたと強調した。』  三重県知事の言い分は、「極めてセンシティブな話を何らプロセスを経ず軽々しく言われた」「饗宴の儀で歩きながら立ち話をしたことなので、正確な言い回しとか、言った言わないを申し上げるつもりはない」「了解なく、立ち話のような場でのことを定例会見でおっしゃるのはどうか」などである。相互の主張はともかく、知事職に就く公人に対して、公人である知事がふつう『嘘つき』呼ばわりするのは常識外れとしか言いようがない。  その後、自民県議団に対して「やくざ」「ごろつき」発言問題が発覚するのだが、川勝知事は当初、「そんなことは言っていない」と逃げていた。このため、当該の音声媒体が自民県議団に提供され、知事の『嘘』が明らかになった。つまり、『嘘つきは泥棒の始まり』はまさに、川勝知事のことだった。知事は自身のことを『嘘つき』だと言ったのかどうか? 「仏の川勝になる」という意味不明の発言  「あきれ果てる運営で、恥を知れ、と言いたい」。川勝知事は、意に染まないことがあると、担当者を痛烈に批判する。2020年5月27日の会見では、国の有識者会議の「全面公開」「運営」について、当時の国交省鉄道局長の水嶋智氏を名指しで罵倒した。  「folly(愚か者)、(水嶋局長は)猛省しなければならない」「(水嶋局長は)会議の運営が拙劣である。マネジメントの不誠実さが現れている」「(JR東海の)金子(慎)社長を(有識者)会議に呼んだのだから、責任を取るのは会議を指揮した水嶋局長ではないか」「金子社長の発言を許したのは水嶋局長、金子社長を(有識者会議に)呼んで謝罪、撤回させるのが筋だ」「(水嶋局長は)金子社長にすべて責任転嫁させている。水嶋局長は要するに筋を曲げている、約束を守らない、やる気がない」などなど。  もし、県行政の運営で、知事の意に染まない意見を述べる職員がいたとしたら、知事は当該職員を面と向かって罵倒し続けるだろう。  「仏の川勝になる」。6月の知事選出馬前の会見では、『「仏の川勝」、その時に決めまして、翌年、翌々年と、どこかで色紙を書かされてですね。「続仏の川勝」「続々 仏の川勝」としてですね。3年、「石の上にも三年」ということで、仏になろうということで、最近は仏教もしっかり勉強しておりまして、文字どおり、鍛えております。仏にはなりませんが』など意味不明の発言を繰り返していた。まさに「裸の王様」である。  「ことばがものすごくきれいで誰からも批判を受けないけど、全く仕事のできない政治家」。橋下徹・元大阪府知事による川勝評である。まさしくその通りである。

ニュースの真相

リニア騒動の真相98川勝知事に「勧告」すべきは?

知事不信任案を提出できなかった自民  11月14日付『川勝平太知事「舌禍事件」ー大山鳴動”鼠”一匹』タイトル記事で、『県議会最大会派の自民県議団が、公明県議団などを巻き込んで知事の不信任案提出への動きを強めていると、新聞、テレビは、「コシヒカリ」発言に大きな”第2波”が起きると伝えた。全県議67人のうち、4分の3以上に当たる51人が賛成に回れば、不信任案が可決されるなどと大きく報じている。メディアがどんな報道するのも自由だが、実際には、これは、単なる表面的な駆け引きに過ぎないから、新聞、テレビ報道だけでは県民は理解できない。つまり、自民県議団が知事の不信任案決議提出など出来るはずもないし、するつもりもないからである。』と伝えた。  記事公開の直後に、「自民県議団に”秘策”があり、不信任案決議案を提出するのはほぼ、間違いない」と関係者から伝えられた。それを裏付けるように、22日まで、新聞、テレビは連日のように知事不信任案提出が確定的な動きであるかのような報道が続いた。普通に考えれば、否決の可能性が高いのだが、不信任案提出が行われるよう錯覚させた。もしかしたら、とんでもない”秘策”が隠されているのだろうと期待もした。ところが、臨時県議会前日の23日になって、不信任案提出の雲行きがおかしくなり、結局、その日のうちに、自民県議団の不信任案提出がないことがはっきりとした。こうなると、”不信任案提出”を声高に叫ぶことで、川勝知事へ何らかのプレッシャーを掛けるのが目的でしかない。しかし、それは一体、何のためなのか?  辞職勧告決議案は議長を除く、出席議員66人のうち、自民、公明県議ら47人が賛成、知事与党のふじのくに県民クラブの県議19人が反対に回り、可決された。不信任案の可決は、出席議員の4分の3、52人の賛成が必要だから、5人も不足していた。もし、不信任案を提出していたら、反知事勢力は大恥をかいたわけだ。  ただ、川勝知事は、常日頃、五箇条の御誓文第一条「万機公論に決すべし」を規範としていると口にする。もし、それが知事の本心ならば、議会の決定に従うのが筋である。知事辞職勧告は、県議会全体の意思であり、まさに「万機公論が決された」ことになる。ところが、今回、知事は「万機公論」を「いろいろな人の意見を聞く」の意味にとどめてしまい、「会議の結論に従う」を無視した。さらに「公務を果たしながら県民のための県政に全力を投じたい。県民に負託された任期を全うしたい」など、辞職を完全に否定したから、辞職勧告決議は何の意味も持たなくなった。  表面的には、知事は反省の弁を述べているが、「辞職勧告」に馬耳東風であり、何らかの深刻な影響も与えないことも分かる。知事答弁はすべて政治的な思惑でしかない。  川勝知事は12日の会見で、20秒間頭を下げて、新聞、テレビのカメラの前で謝罪した。今回の「辞職勧告」可決によって、12月1カ月分の給料と期末手当(冬のボーナス)を返上すると述べ、謝罪の具体的な内容を示した。頭を下げるだけよりはましだが、ただ、それくらいのダメージ(お金の問題)は、知事にとって、いかばかりの痛みにもならない。  6月の知事選に続いて、不信任案決議案で大騒ぎを演出した自民県議らの大敗北に終わった。『大山鳴動』を起こしたが、”鼠”の姿があまりにも小さすぎる。 あまりに軽いリニア問題での知事発言  2018年12月、雑誌静岡人vol4『JR東海リニア南アルプストンネル計画 なぜ、川勝知事は闘うのか?』を発刊した。これまで国の政策に異を唱える静岡県知事はいなかった。複雑怪奇な部分があるリニア問題をわかりやすく紹介することで、川勝知事の応援をしたいと考えた。これまでの静岡県政とは一風違う、川勝県政に大いに期待したからだ。「7つの謎を巡る旅」特集の「川勝平太の謎」で、まず、知事インタビューを行った。7つの謎表紙2  『2017年10月10日の記者会見。突然、川勝知事はリニア新幹線の南アルプストンネル工事での水減量問題に触れ、「湧水全量戻し」を前提にJR東海に「誠意」を示すよう求めた。その後、2年間にわたり何度も議論を重ねたが、膠着状態は続き、いまのところ、解決の道筋は見えてこない。「(解決には)誠意を示すことが大事」。知事の発言に込められた真意は何か?』が前文であり、反リニアを唱える知事の真意を探り出すことが目的だった。  インタビューは1時間ほど行ったが、リニア問題に対する「知事の真意」に迫ることもできず、知事から「解決への糸道」を示す発言さえ得ることはできなかった。当時は、単に慎重な姿勢を示していると思えた。  結局、3年が経過して、さまざまな知事の発言を見ていくと、2017年当時の発言と全く変わっていないことが分かる。「静岡県の6人に1人が塗炭の苦しみを味わうことになる。それを黙って見過ごすわけにはいかない」「全量を戻してもらう。これは県民の生死に関わること」「もうルートを変えた方がいい。生態系の問題だから。水が止まったら、もう戻せません。そうなったら、おとなしい静岡の人たちがリニア新幹線の線路に座り込みますよ」などなど。知事のリニア問題に対する考えは3年以上の前の時点で止まったままである。  3年間、ほぼすべての県リニア環境保全連絡会議専門部会、国の有識者会議に出席してきた。11月23日公開された静岡リニア問題、「印象操作」だった県の反対理由 | 新幹線 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)のタイトル記事を公開した通り、国の有識者会議の結論は中下流域の水環境に影響はないのであり、それに異論を唱える県のやり方はあまりにも姑息である。だから、正確な情報が県民に伝わらない。  4年前に止まってしまった”知事時間”への迎合をリニア問題の担当課が行っている。今回のコシヒカリ発言と同様に、知事発言はあまりにも軽いのだ。 静岡空港建設の残土は熱海土石流の400倍超  雑誌静岡人の「川勝平太の謎」では、知事の「真意」は分からないまま「静岡空港新駅が解決の糸口になる」と提案した。もともとの静岡空港計画では、新幹線新駅を静岡空港ターミナル直下に建設、新幹線と結び付けて、どこにもない利便性の高さを訴えていた。東京、大阪などどことも結ぶことのない静岡空港の唯一の特色が、「新幹線新駅」だった。  ところが、JR東海は「これ以上、新駅をつくれば新幹線のスピードを出せなくなる。あり得ない」と拒否した。静岡県の提案は、こだま駅の静岡ー掛川間に「空港新駅」の設置を求めたところに無理があった。だから、雑誌では、東京ー名古屋間ののぞみ号を想定した「空港新駅」設置を提案した。  リニア問題以前に、川勝知事が「空港新駅」で働き掛けを行ったが、JR東海は聞く耳を持たなかった。リニア問題が大きくクローズアップされ、反リニアを唱えることで、空港新駅計画でJR東海に聞く耳を持たせることができる。そう考えた。どう考えても、静岡空港新駅の存在価値はそこにしかない。ところが、この4年間、知事は何らの働き掛けを行っていなかった。  水環境問題への批判から始まり、熱海の土石流災害が起きてからはリニア工事で排出される360万立方mの建設残土を問題視して、盛り土の批判を繰り返している。知事は10月6日の会見で「トンネルを掘ったら残土も出る。残土、どこに置くのか。今はもう、盛り土も厳しいでしょう。その盛り土も360万立方m出て、しかも、それを大井川の河原に積み上げる。熱海土石流は5・5万立方mだから、67倍ですから」などと発言した。  それこそ、静岡空港建設で、約2700万立法mの残土を盛り土高75mに埋め立てる工事を行った。静岡空港工事の建設残土は、リニア工事の7倍近い残土である。つまり、静岡空港建設で、熱海土石流の400倍以上の残土が出ている。すべて環境配慮型の造成工事を行ったのであり、JR東海による360万立法mの残土計画を知事が正確に理解していないことがはっきりと分かる。少なくとも、計画上、JR東海の360万立方mの残土処理に問題は見られない。  川勝知事は、今回の「コシヒカリ発言」同様に対立をあおる手法を取ることには長けている。3年間、リニア問題を追い掛けていて、知事の姿勢を見ていると、リニア問題を煽ることはできても、政治家として、どのように決着させるかの手腕には疑問が大きい。川勝県政では前に進むことはないのだろう。  となれば、自民県議団は12月定例会で知事に「公務」と「政務」をちゃんと説明すべきだ。  川勝知事は、21日にオンラインで全国知事会議に出席、26日には官邸で開かれた全国知事会議に出席している。これは「公務」である。知事は21日、医療産業が集積する県東部地域、温泉観光施設が多くある伊豆地域に「リゾート医療福祉研究スーパー特区」設置を提案した。岸田首相が公約で掲げる「デジタル田園都市国家構想」を実現させるためのものだという。そのスーパー特区がどのような財源や規制緩和を求めるものか、さっぱり分からないが、知事は学者ではなく、政治家なのだから、具体的に何が必要で、どのような手続きを踏むのかを含めて、提案について官邸との会合を持ち、スーパー特区を実現させなければならない。これが「政務」である。全国知事会議で「スーパー特区」提案するのが、「公務」であれば、その実現を水面下を含めてさまざまに行うのが「政務」である。永田町、霞が関に何度も出掛けて、何度もお願いを繰り返さなければならない。言い放しだけならば、学者の仕事である。  21日の知事会議では、首都機能の移転を要望した。これも同様である。川勝知事の「公務」は知事会議に出席することであるが、そこで発言したことを実現するためにさまざまな取り組みを行うのが「政務」である。まさか、国政の選挙応援を「政務」だと勘違いしている知事だから、「政務」がいかに大切であり、その実現のハードルがいかに高いのかを踏まえて、発言することを求めなければならない。  知事はこれまで何度も暴言、失言を繰り返してきた。今回の辞職勧告決議を受けて、「来年は生まれ変わった人間となると富士山に誓った」という。「県政に全力で当たる」のであれば、ぜひ、「政務」に汗をかくべきである。県庁組織のトップとして知事が、県政発展のために何をすべきかを自民県議団らは県議会12月定例会で強制力のある「勧告」をすべきである。

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川勝知事「舌禍事件」ー大山鳴動”鼠”一匹?

20秒間頭を下げて、それで終わりか?  「大山鳴動して鼠一匹」(前触れの騒ぎばかりが大きくて、実際の結果の小さいことのたとえ=三省堂、スーパー大辞林)。これは表面的なことで水面下で何が起きているのかは、メディアが紹介していないから、当然、県民は承知していない。  参院静岡補選で野党候補の山崎真之輔氏の地元浜松市へ、応援演説に駆け付けた川勝平太静岡県知事は10月23日、自民公認候補の若林洋平・元御殿場市長の好物を念頭に「御殿場にはコシヒカリしなかない」など発言した。  人口80万人の浜松と8万人の御殿場を比較したことで、産業、経済などすべての面で浜松(山崎候補)が御殿場(若林候補)に勝っているという訳の分からない”差別発言”に終始した。特に、若林候補の好物だという御殿場コシヒカリをやり玉に挙げ、選挙後になってから「御殿場にはコシヒカリしかない」発言にネットの批判に火がつき、御殿場市民らの怒りを買ってしまう。自民、公明県議団は抗議文を提出したから、新聞、テレビは連日、大騒ぎをした。  火に油を注いだのは、知事が9日に行った会見で、「選挙中の論戦であり、若林・元御殿場市長に向けた難詰だった。演説が切り取られ、誤解を生んだ。誤解を解いておきたい。誤解を生んだ私に責任がある」などの言い訳に終始、ひと言も明確な謝罪の言葉を述べなかったことだ。間が悪いことに、当選した山崎氏の不倫問題を写真週刊誌フライデーに暴露され、知事に不倫報道の質問が出ると、「(山崎氏の)不祥事は残念至極。もう応援することはない」と述べる場面もあった。  応援演説で、コロナワクチンの接種率に触れて、若林市長時代には、浜松市に比べてが接種率が極端に低いと批判した上で、現在の御殿場市長は、わたしが厳しく言ったので(接種率が)上がってきたなど「上から目線」満載の知事発言もあった。御殿場市長が知事会見に不快感を示すのは当然であり、「謝罪の言葉がないのは残念」などと述べた。  川勝氏はすぐに御殿場市へ駆け付け、直接、市長らに謝罪を述べたあと、12日の会見で頭を20秒ほど下げ続けて、県民に向けて深く謝罪をした。=タイトル写真=(※プライドの高い知事の腹の中までは分からないが、これまで通り、新聞、テレビのカメラに対して頭を下げているだけで「謝罪」の気持ちなどさらさらないだろう。頭を下げるのは、知事職を続けていくための「通過儀礼」と思っているに違いない)。知事の思惑通り、「通過儀礼」による謝罪で幕引きとなり、メディア報道を通して、大揺れに揺れた「コシヒカリ」発言の騒動は表面的には終わりとなるだろう。  県議会最大会派の自民県議団が、公明県議団などを巻き込んで知事の不信任案提出への動きを強めていると、新聞、テレビは、「コシヒカリ」発言に大きな”第2波”が起きると伝えた。全県議67人のうち、4分の3以上に当たる51人が賛成に回れば、不信任案が可決されるなどと大きく報じている。メディアがどんな報道するのも自由だが、実際には、これは、単なる表面的な駆け引きに過ぎないから、新聞、テレビ報道だけでは県民は理解できない。つまり、自民県議団が知事の不信任案決議提出など出来るはずもないし、するつもりもないからである。  何よりも、このことを一番承知しているのは、記者会見で頭を下げた川勝知事である。 自民県議団の政治的な”勝利”とは?  「大山鳴動”鼠”一匹」は、過去の事例を見れば、すぐに分かる。  2019年12月に、知事肝煎りの「文化力の拠点」事業に強硬に反対する自民県議団を念頭に「事業を反対する人は県議の資格はない」「やくざの集団」「ごろつき」などと他会派の議員を前で暴言を吐いた。  この騒動は、同年12月20日付静岡新聞『「文化力の拠点」巡り 知事「ごろつき」自民念頭に批判』の1段見出しの小さな記事から始まった。だから、知事は当初、大騒動にならないと考えていたのも、今回と同じである。  記事全文は『川勝平太知事は19日、来年度の予算要望に訪れた公明党県議団と共産党県議との面談で、県がJR東静岡駅南口の県有地に整備する「文化力の拠点」を巡り、県議会最大会派自民改革会議が計画見直しを求めていることについて「反対する理由は川勝が嫌いだというだけ」と述べ、強く批判した。  知事は「やくざの集団、ごろつき」などと自民を念頭に強い言葉で非難し、公明に「(自民と)一線を画してやってほしい」と求めた。「(県立中央図書館に)いろいろ(機能を)付けて財政が膨らむのは再考すべき」と求めた共産の鈴木節子氏(静岡市葵区)には「県議会はなぜ足を引っ張るのか。反対する人は県議の資格はない」と述べた。  文化力の拠点を巡っては、第2会派のふじのくに県民クラブも中央図書館以外の機能が「不明確」だとして導入機能の見直しに取り組む方針を示している。』  川勝知事は当初、ごろつき、やくざなどそんな発言はしていない、と白(しら)を切った。このため、静岡新聞は当日の録音を関係者に提供することを知事了解を取り、自民県議団、メディアに提供した。この後も知事は「誤解」などと述べたため、騒動は1カ月以上も続くことになった。自民県議団は辞職勧告、不信任決議案を視野に入れた上で、『「やくざの集団」「ごろつき」とは誰を指すのか』『「やくざの集団」「ごろつき」発言をいまだ撤回しないのはなぜか』など、4項目について知事に回答を求めた。  「誤解だ」などと言い訳に終始していた川勝知事は1月30日になって、「不適切な発言」があったことを認め、すべての発言を撤回した上で総括的に謝罪した。本サイトの2020年2月2日『川勝知事「謝罪」ー「文化力の拠点」断念決める』に詳しく書いてある。(※1年ちょっと前の出来事である)  川勝知事の回答では、『「やくざの集団」「ごろつき」は「流域住民の命の水と環境を守る決議案」を「危機管理くらし環境委員会」が否決したことに対する義憤から出た不適切な発言』などと、「水を守る」意見書否決が原因となっている。これが「誤解」らしいが、実際は「文化力の拠点」事業に県議会全会派の反対に遭い、強い不満が募っていたことが理由であるのは静岡新聞が正確に伝えていた。  「ごろつき」「やくざ」「県議の資格はない」と名指しされた自民県議団は、知事の不信任案等を提出しなかった。自民県議団は、不信任案をチラつかせただけである。これも、今回の「コシヒカリ」発言と同じである。実際は、水面下で、政治的な交渉を県財政サイドと行っていた。  最終的に、自民県議団は川勝知事との予算復活折衝に臨んだ。メディアは「謝罪」の回答文書について棚上げした冒頭のみ取材を許可されただけで、記者全員が退去させられた。だから、知事と自民県議団がどんなやり取りがあったのか、県民には分からない。そこで「政治」的な交渉が行われたことだけは確かである。政治家同士の交渉だから、これをふつう「政務」と呼んでいる。(「政務」はしないと誰かが言っていたが?)  結局、自民県議団は、自民県議らの地元の河川や道路整備について、「県土強靭化対策」として約30億円の単独公共事業を分捕った。これで自民県議団は、政治的な”勝利”を得たのである。  今回の場合、当然、いまのところ、不信任案をチラつかせているだけだが、前回と同じ決着の仕方となるのはまず、間違いない。だから、水面下で何が起きているのか、新聞、テレビは取材すべきであり、当然、知事はそのことを十分に承知している。特に「御殿場市・小山町」選出の自民県議は、御殿場市民向けにちゃんとわかるかたちで知事の「謝罪」を求めるだろう。来年度予算について各会派との予算折衝はこれからだが、知事は、最終的に上がってくる「単独公共事業」を承認することで、問題は丸く収まると見ている。  今回の騒動も「大山鳴動”鼠”一匹」で幕を閉じる。(※どんな”鼠”かはあとで分かるだろう) 「政務」の意味をご存じない川勝知事  2018年10月から始めたニュースサイト「静岡経済新聞」で、川勝知事の度重なる「暴言」「差別発言」に対する「謝罪」を報道してきた。共同通信で全国配信された2019年11月、鈴木英敬・三重県知事に対して「嘘つき(は泥棒の始まり)」と非難した際も、知事は「誤解だ」と述べていた。  2020年10月には、リニア問題関連で、日本学術会議の会員任命について問われると、知事は「菅義偉という人物の教養のレベルが図らずしも露見した。菅さんは秋田に生まれて小学校、中学校、高校を出られた。東京に行って働いたけれど、勉強せんといかんということで、夜学に通い、学位を取られ、その後政治の道に入った。言い換えると学問をされたわけではない、学位を取るために大学を出られたということだ」などと痛烈な批判をした。県民から1千件以上の苦情が寄せられると、「誤解があった」などと逃げ回っていた。いつもパターンは同じである。  自民党総裁をバカにされたのだから、当然、自民県議団の怒りもおさまらなかった。その怒りをかたちにするのは、政治家ならば、選挙で相手を倒すことである。その絶好の機会を、半年後に迎えた。そう、ことし6月の知事選である。  ご存知のように、6月の知事選では最後の最後になって、ようやく候補が決まった。今回の参院補選につながった岩井茂樹元参院議員が出馬した。自民県議団は一丸となり、官邸の応援もあったのだろうが、35万票という大差で敗れたのである。自民という組織の力では、川勝知事には勝てないのは明らかである。いかに実力が伴わないのか、知事に見透かされているのだ。  今回、もし、川勝知事が「すみません。コシヒカリ発言の責任を取り、知事を辞職して、県民の信を問いたい」となった場合、本当に困るのは自民県議団である。  「コシヒカリ」発言に反発する自民県議団は、知事候補の当てがあって、不信任決議案をちらつかせているわけではない。現在のところ、川勝知事に勝てるふさわしい候補者の当てなど全くいないのである。  川勝知事は、今回の「コシヒカリ」発言の謝罪で、今後は「公務」のみをやり、「政務」に携わらないと明言した。多くの人が首を傾げたはずである。もし、今後、自民県議団と交渉を行い、知事の権限で、バラマキをすることを一般に「政務」と呼ぶ。「政務」を選挙応援などと言う知事の見識のなさをメディアは追及すべきだった。  県と市町村の関係は、国と都道府県の関係と同じである。県の財源は限られた地方税や交付税などであり、国の権限で規制される事業も多いから国の予算と許認可が重要となる。「政務」とは、永田町(自民党本部)、霞が関(官庁街)などとの強いパイプを持ち、国の力を借りて、都道府県の発展のために尽力することであり、各都道府県知事の大きな役割のひとつである。  川勝知事は「政務」をしないのではなくて、出来ないのである。知事にとって肝心の「政務」をできないから、「リニア反対で国論を巻き起こす」ことはできても、リニア問題を良い方向で決着させることは視野に入っていない。  10月26日の知事会見で、医科系大学院大学を設置する準備をスタートすることを表明した。医師確保が目的だと言うが、実際には、研究職の医師養成に臨床の医師確保にはつながらない。会見で、川勝知事は「医大誘致をできないから」と理由を挙げた。つまり、医大誘致をできるだけの「政務」が知事にはできないからだ。「政務」に励まなければ、医科大学の誘致はとうていできない。「政務」を国政選挙の応援などと言う知事では、県民は裏切られたことになる。いまからでも遅くない。「政務」に汗を流し、医大誘致を目指すくらいのことはやってもらいたい。今回のコロナ対応で静岡県の最大の不幸が、医科大学が1つしかないことが証明された。(※知事は口をつぐんでいるだけであり、費用対効果のない医科系大学院大学でお茶を濁そうとしている)

ニュースの真相

リニア騒動の真相97”事実”歪めた担当者の思惑

「丹那トンネル」踏まえた「リニア」の懸念?  川勝平太知事は10月26日の会見でリニア問題に触れ、「重要な情報がある。丹那トンネル工事で実際に起こった地下水等への影響について資料を篠原(清志・県知事戦略監)君が中心になって見つけてくれた。丹那トンネルの実例を踏まえた南アルプス工事への懸念について文献調査を行った」などと述べた後、各記者に配布された資料を基に、実際に調査に当たった県くらし・環境部の渡邉光喜参事(南アルプス担当)が説明した。(タイトル写真は、知事会見。隣が篠原知事戦略監)  雑誌静岡人vol4「JR東海リニア南アルプストンネル計画 なぜ、川勝知事は闘うのか?」の特集「7つの謎を巡る旅」の中で、『丹那盆地の謎忘れられた「渇水の記憶」』を取り上げた。その取材で現地を訪れ、さまざまな資料にも当たった。今回、文献調査したとされる『鉄道省熱海建設事務所編「丹那隧道工事誌渇水編」も参考にしたが、最後に、渡邉参事が参考として挙げた丹那トンネル開通・函南駅開業50周年記念「丹那トンネルー偉業と歴史ー」は全く知らなかった。  丹那トンネルの湧水枯渇、地下水位の低下、突発湧水の発生などから、教訓の「失われた水は戻らない」として、『南アルプストンネル工事で「湧水の全量戻し」は当然。代償、モニタリングではなく、まずは影響回避・低減が必要』という結論を導きだしている。  さらに、参考資料から、渡邉参事は『昭和59年10月に函南町長が丹那トンネルの開通50周年記念誌で「多くの人は水は再び復すると期待していた。失った水は戻らない。お金で解決せず、(トンネル)湧水をポンプアップして丹那に戻す方法を講ずべきだったと思います」と述べております。50年後の県民が後悔しないようJR東海としっかりと対話を尽くしてまいりたいと考えております』など、丹那盆地と丹那トンネルの西口、東海道線函南駅を行政範囲とする函南町長のことばを取り上げた。  まるで、その町長の言葉は、現在のリニア問題への懸念をそのまま表現したようである。ただ、記念誌のタイトルが「丹那トンネルー偉業と歴史ー」となっているのに、50年後の函南町長が「トンネル工事中の湧水流出」で、それほど後悔の念が強かったのか疑問を抱いた。当時、熱海市立図書館などを回ったが、函南町の記念誌は収蔵されていなかった。  県立中央図書館がこの記念誌を収蔵していることが分かった。そして、読んでみると、函南町長の言葉は、渡邉参事が使ったのとは、全く、違う意味で使われていることも明らかになった。当時の函南町長及び企画課の職員らがどのような思いで、この冊子を作成したのかを紹介することで、”事実”をねじ曲げた渡邉参事の思惑が何なのか明らかにしたい。  川勝知事は、函南町長らの伝えようとした本当の思いをちゃんと理解しているのだろうか? 「失った水」とは、熱海側へ流れ出ている水?  記念誌の「はじめに」で、当時の中村博夫町長が「多くの方々の熱意と努力、そして犠牲によって丹那トンネルが開通して今年50年を迎えた。丹那トンネルは当初、工期7年間、工費770万円の予定で開始した。トンネル掘削技術も幼稚であった当時としては当然のことながら、丹那盆地の土質調査もせず大正7年に着工された。しかし、着工後、全く予想していなかった丹那大断層、湧水による事故、更に北伊豆地震などに遭遇してしまった。この対策として高圧によるセメント注入、水抜きトンネルの掘削など苦心の末、16年の歳月をかけて完成した」と始まり、丹那トンネルの開通によって、東海道線沼津ー国府津間が開通し、同時に昭和9年12月1日函南駅も開業され、函南町の発展に貢献したなどと述べている。  渡邉参事が会見で述べた「多くの人は水は再び復すると期待していた。失った水は戻らない。お金で解決せず、(トンネル)湧水をポンプアップして丹那に戻す方法を講ずべきだったと思います」は、中村町長名のある「はじめに」のどこにもない。  ひと言、「このトンネル工事によって、丹那盆地はその豊富な水を永久に失うことになってしまった」とあるだけである。  渡辺参事はどの部分を引用したのだろうか?  探していくと、「丹那トンネルと渇水問題」という章に「ー永久に水を失った丹那ー」という小見出しがあった。  ここに「お金で解決せず、西口からの湧水をポンプアップして丹那に戻すという方法を講ずべきだったと思います。」と書いてあった。この引用しか他には見当たらない。  原文とどこが違うかと言えば、原文には「西口からの」が入っていることだった。どうもおかしい。  「お金で解決せず~講ずべきだったと思います」の前をちゃんと読めば、中村町長の本当の思いが伝わる。ちょっと長いが紹介する。  『トンネル工事前は豊かな水に恵まれていた丹那盆地は渇水してしまったが、多くの人はトンネルをコンクリートでまけば、水は再び旧に復するのではないかと期待した。50年を経過した今でも依然として、毎日熱海へ4万トン、西口へ6万トンの水が出ている。この水は本来なら豊かな丹那盆地の水でもあったはずだ。「覆水盆に返らず」というように失った水は永久にもどらないだろう。しかも工事前は地表に湧き出た水は柿沢川を通って田方平野に流れていたものが、トンネルの開設により、その40%、約4万トンが熱海側に流れていってしまっている。  117万円という、当時として巨額の補償金で処理されたが、お金で解決せず、西口からの湧水をポンプアップして丹那にもどすという方法を講ずべきだったと思う』(※「ですます調」を「である調」に変えてあります)  「西口」とは、丹那トンネルの西側の出入口の地域であり、冷川の下流にある田方平野、特に水不足で悩んだ八ツ溝堰の辺りだという。この工事で、水不足が解消され、いままで絶えずあった水争いも解消したのだという。  それでは、中村町長の「永久に水を失った」後悔の念とは一体、何だったのか? 函南町長は工事後に流出する水を問題にした  中村町長が、丹那盆地の「永久に失った水」として問題にしたのは、トンネル工事後のことである。50年後の当時でも、トンネル内に出ていた湧水10万トンのことを「永久に失った水」と表現したのである。渡邉参事が説明したような、トンネル工事中の話ではない。  読めば分かる通り、中村町長は、当時でも、熱海側へ流れ出ていた4万トンの水を大きな問題にしている。しかし、行政範囲が違い、熱海側へ流れ出ている水をポンプアップで戻すことはできないことを町長は承知していた。  このため、函南町内の丹那トンネル「西口」の田方平野へ流れ出ている6万トンをポンプアップして、丹那盆地の枯渇した「奥の沢」「大久保沢」「いの木沢」へと戻すという方策もあった、と考えたようだ。  渡邉参事が教訓として挙げた『「トンネル湧水の全量戻し」は当然』は、中村町長の言葉の意味とは全く違う。静岡県が問題にしているのは、工事期間中、県境付近の掘削で山梨県側へ流出する3百万トンから5百万トンを想定している。だから、渡邉参事は、工事中に想定外の最大毎秒2㎥の突発湧水があり、トンネルから流れ出た水の総量は約6億㎥、芦ノ湖の3杯分などを問題にした。  中村町長が問題にしたのは、工事中の水のことではなく、工事後のトンネル内の湧水である。それでは、リニア南アルプストンネルの場合はどうか?  JR東海は、トンネル工事後、トンネル内のすべての湧水をポンプアップして、導水路トンネルを使って大井川に戻すという方策を示している。この方策で、中下流域の表流水にはほぼ影響はない、と国の有識者会議は結論づけている。つまり、中村町長が後悔したようなことが起こらないよう、JR東海は対応すると言っているのだ。  ところが、川勝知事は、工事期間中であれ、湧水の全量戻しが約束だと譲らない。渡邉参事は、知事の方針に沿って、丹那トンネルの文献を調査して、函南町長の言葉を、工事中の湧水流出に対応するような結論として使ってしまった。だから、「50年後の県民が後悔しないようJR東海としっかりと対話を尽くしてまいりたい」などと述べたのである。  静岡県は希望する団体や学校を対象に、大井川の水問題とともに丹那トンネル工事の渇水状況を題材として活用していくという。  JR東海は工事完了後、すべての湧水を戻すと言っているのだ。静岡県はトンネル工事後の渇水状況を正確に説明するつもりはあるのだろうか? 特殊な地質が湧水大量流出の原因  函南町の記念誌には、当時の地質調査、地質学の現状も記されている。工事着工当時(大正7年)の土木技術者は地質に関心を持っていなかったが、当時の東京帝大の横山又二郎博士に地質調査を依頼したとある。横山博士は「丹那盆地は火山爆裂口の跡であるとして、盆地の下部は安山岩のような硬い岩で満たされていて工事に気に掛けることはない。普通、地下の温度は約30mにつき1度ぐらい上昇するのでトンネルの一番深いところは60度近く、最低35度位になるであろう」と予測した。  さらに、三菱の鈴木敏博士は浸食作用と、横山博士の爆裂口説を唱えたとともに、盆地下に岩脈の存在を予想し「地質構造上危険な恐れなし」と断じた、などとある。  芦ノ湖3杯分の水が流出した主な原因は、温泉と粘土の混じった温泉余土を取り除いたことである。温泉余土は、粘土の一種なので水を通さない。盆地東側の滝知山(649m)周辺に温泉余土が広がり、山の西側が豊富な湧水に恵まれた丹那盆地だった。  温泉余土がその地下水を遮る役割をしていたが、熱海側からトンネルを掘り抜くことで、巨大な貯水池に横穴を開けてしまい、大量の湧水が流れ出た。当時の地質調査では、活断層も温泉余土という特殊な地質についても明らかにできなかった。最先端のトンネル工法は、ほとんど手作業で、経験と勘だけが頼りだったのだ。当時の地質学は何も教えることができなかった。  丹那トンネル工事では3度の大事故が起きて、67人が犠牲者になっている。人命の安全確保を優先して、工事期間中の山梨県への水流出をやむを得ないとするJR東海に対して、山梨県側からの工法を容認しないのが静岡県である。一人でも犠牲者が出る場合があるのに、静岡県は山梨県側からの掘削をあくまでも認めないのが正しいのか。  会見で、川勝知事は「丹那トンネルから流出した水は永久に戻ってこない。水田やわさび田はもう戻ってこない」などと述べた。現在の丹那盆地を見ないで、勘違いしていることがわかる。丹那盆地へ行けば、見事な水田が広がっているのだ。  少なくとも、川勝知事は、工事後の現状からの函南町長の言葉を正確に理解した上で、リニア工事と丹那トンネル工事を比較すべきである。

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リニア騒動の真相96”大混乱”生物多様性専門部会

「ハコネサンショウウオ」専門家は?  ハコネサンショウウオ議論を理解できた者はいるのか?  リニアトンネル静岡工区の工事に関係する環境アセスメントの問題を議論するJR東海と県の生物多様性専門部会委員による会議が22日、県庁で開かれた。トンネル掘削に伴う影響と対応についてJR東海が説明する中で、今回初めて、ハコネサンショウウオを取り上げた。ところが、報道関係者にはハコネサンショウウオに関する資料は「希少種に関する情報が記載されているために非公開」として配布されなかった。ハコネサンショウウオは静岡県のレッドデータブックで絶滅危惧種Ⅱ類に入る。ただでさえ、専門的な議論なのに、資料がなければ、JR東海の説明を聞いていても、何を言っているのか全く理解できないのは当然である。(※なぜ、資料を配布しなかったのかはJR東海ではなく、県の考えらしい。その点については、今後、詳しく調べていく)  大体、県の専門部会委員に両生類に詳しい専門家はいない。だから、いくら、JR東海がハコネサンショウウオの説明をしても、それに対する突っ込んだ質問をすることはできない。ほ乳類を専門にする三宅隆委員(元日本平動物園長)が「7年前のハコネサンショウウオについての生息地資料では、現在がどうなっているのか分からない」などと疑問を呈した。それはその通りである。ただ、環境アセスの調査時点と現状が違うのはハコネサンショウウオに限らない。  南アルプスには絶滅危惧種Ⅱ類のハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオが生息する。毎年の自然環境は一定ではなく、大きな変化を伴うから、調査時点と同じ場所にいる可能性は非常に低い。今回も議論の中心となった絶滅危惧種Ⅰ類のヤマトイワナにしても、2018年、2019年の台風で、その生息環境は大きく変わったとされる。ハコネサンショウウオが全く同じ狭い地域に生息しているのを前提に、メディア関係者のみに資料を提供しない意味が分からない。  サンショウウオで言えば、南アルプスには固有の絶滅危惧種Ⅰ類のアカイシサンショウウオが生息する。当然、JR東海の環境アセス調査では、アカイシサンショウウオは発見されていない。だからと言って、リニアトンネル工事の影響を及ぼす地域に全く生息していないとは言い切れない。  アカイシサンショウウオが新種登録されたのは2004年と、最近である。新種と認められるまでにアカイシサンショウウオの個体はわずかしか見つかっていない。最初に新種発見されてから登録まで約30年も掛かっている。長い間、発見された個体数が非常に少ないからだ。  アカイシサンショウウオの発見は、比較的、足を踏み入れやすい静岡市と本川根町の山間であり、今回のリニアトンネル工事が影響を及ぼす地域とは全く違う。その上、小型のサンショウウオであり、両生類の専門家らが必死で探さなければ発見できない。リニア工事関係地域は調査に入ることが困難であり、両生類の専門家が当該の地域に入って調査したとは聞いていない。ハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオは幼生期に水中に生息するとされるが、アカイシサンショウウオは幼生期も陸生であり、落ち葉などの下に生息しているから、一層、発見するのは難しい。  JR東海の環境アセス調査でヤマトイワナを発見できなかった(ニッコウイワナ、混雑種は発見されている)。アカイシサンショウウオとなれば、さらに長期間の丹念で詳しい調査を行わなければ、生息しているのかどうか判断できない。  アカイシサンショウウオ生息の可能性を議論するのは、県地質構造・水資源専門部会でさらに多くのボーリングを行わなければ、断層の正確なことは分からないとの指摘と似ている。実際には採算性の点から、そこまで必要なのかどうか疑問である。しかし、正確を期すことを優先すれば、徹底した調査が求められるのだろう。  JR東海がわざわざ県専門部会でハコネサンショウウオを取り上げて、どうして議論の対象にしようとしたのか頭をひねってしまう。(※資料がないから何とも言えない) キイロホソゴミムシを知っているか?  今回の会議で、ハコネサンショウウオへの影響について議論ができないのは、専門家がいないから、当然である。JR東海が寝た子を起こすようなことをしたから、県側は待ってましたとばかりに反応した。  板井隆彦部会長(専門は淡水魚類)が両生類、爬虫類、昆虫、植物の専門家を専門部会委員に入れることを要望したのだ。難波喬司副知事は、板井部会長の要望を受け入れる姿勢を示した。新たな専門分野の委員が加われば、生物多様性の議論はさらに複雑かつ”怪奇”(専門的すぎてわからないという意味)になるのだろう。  約30年前、絶滅危惧種の取材していた当時、レッドデータブックで絶滅危惧種に指定されている「キイロホソゴミムシ」の保護・増殖のための生息実態調査をしている千葉県立中央博物館を訪れた。世界中で千葉県木更津市の小櫃川河口付近のみに生息し、オサムシ科に属する小型の甲虫で、ごみに集まるうじなどを食べるため”ゴミムシ”という名前を頂戴したのだという。同博物館の昆虫生態学の専門家は「ゴミムシだから要らないのではない。ゴミムシであっても貴重な種である」との発言を忘れない。多分その通りなのだろう。  キイロホソゴミムシの研究者がいなければ、そのゴミムシの存在は誰も分からない。フィールド調査が難しい南アルプス(リニアトンネル工事地域)で昆虫の専門家がどれだけ存在するのだろうか?  脳学者の養老孟司氏から「ヒゲボゾゾウムシ」について聞いたことがある。翅(はね)があるにもかかわらず、千万年単位の歳月が過ぎているのに、糸魚川ー静岡構造線を越えていない虫だという。ヒゲボゾゾウムシの姿かたちもわからないが、そのような昆虫は数多い。  もし、南アルプスの昆虫類を本格的に調べ始めれば、さまざまな新種が発見され、保護すべき対象は増えるだろう。静岡県、静岡市がこれまで南アルプスの調査をどれだけ行ってきたのか疑問は大きい。南アルプスの昆虫を専門にする研究者が静岡県に何人いるのかさえ知らない。  アカイシサンショウウオの生態でさえまだ分からないことばかりである。もし、そうでなくても、現在のレッドデータブックに掲載された両生類、爬虫類、昆虫などを議論すれば、途方もない時間が掛かるだろう。そもそも環境アセスによるフィールド調査がどこまでの精度を求めているのか分からない。県の生物多様性専門部会の議論を聞いている限りでは、1事業者には手に負えないくらいの過度の要求をしている。  いずれにしても、生物多様性の考えで言えば、本当に小さなキイロホソゴミムシやヒゲボゾゾウムシに匹敵する貴重な昆虫類は数え切れない。そのすべての生物に対して議論を行うべきなのだろうか? 「生物多様性」を定義したほうがいい  今回の議論で、板井部会長は「生物多様性」の考えとは異なった意見を述べた。  会議で板井部会長は「重要種(希少種)だけを残したら保全対策はなされたと言えるのか?」という疑問を呈した。ところが、在来種のヤマトイワナを保全するために、ニッコウイワナ、混雑種を駆逐することが影響を回避、低減させるために重要だとも話している。JR東海が提示したヤマトイワナの生息環境整備の効果のイメージでも、板井部会長の考えが反映されている。  この議論を聞いていて、「生物多様性」専門部会という名称はふさわしくないのではないか、と疑問を抱いた。  生物多様性は米国のBIO・DIVERSITY(バイオ・ダイバーシティ)からの造語である。なぜ、米国でバイオ・ダイバーシティの考えが誕生したのかは、デヴィッド・タカーチ著「生物多様性という名の革命」(日経BP社)に詳しい。23人の生物学者にインタビューして、生物多様性について聞いている。その内容は難しく、それぞれ独自の意見を述べていて、生物多様性のはっきりとした定義が存在しないことは明らかだ。生き物にはさまざまな種があり、さまざまな生態があり、それらが複雑な関係を結んでいる。「生物多様性の革命」翻訳者、岸由二氏の解説では、バイオダイバーシティを、バイオの意味からも<生命多様性>と訳したほうが日本語の空間では、より適切ではないかと指摘している。生命全般となれば、さらに範囲は広がってしまう。それこそ、ふつうに考えれば、腸内細菌などがバイオである。  環境省が2002年、バイオ・ダイバーシティ条約を受けるかたちで「生物多様性国家戦略」の国内計画を作成し、閣議決定している。環境省独自の環境保全策だが、当然、絶滅危惧種を保全することだけにとどまらない。  現在、県生物多様性専門部会で議論の中心となるヤマトイワナを絶滅危惧に追い込んだのは、釣り人であり、漁協である。ニッコウイワナを放流したのは、ヤマトイワナの減少に伴い、釣り人誘致のために地元の漁協が積極的に行った。それ以前に行政による河川改修だけでなく、多数の電力ダムがつくられ、ヤマトイワナの好む自然環境を改変してしまった。人間生活を優先すれば、生物多様性保全は至難の業となる。  JR東海のアセス調査ではヤマトイワナを発見できなかった。ニッコウイワナや混雑種しか発見されていない。(※今回の会議ではイワナ類の生息分布図も報道機関には配布されなかった。その理由をちゃんと説明してもらいたい)  ヤマトイワナをそれぞれの地域で絶滅に追い込んだのは、人間の営む生活であり、今さら、過去の状態に戻すことは不可能である。地元の井川地区によれば、リニアトンネル工事の影響があるのは、小西俣の一部の地域だけであり、その地域のみにヤマトイワナは生息する、と述べている。議論はそこにとどまらず、板井部会長ははじめ委員たちは、JR東海に過度の期待を寄せているとしか思えない。  岸氏によれば、バイオ・ダイバーシティは<生きもののにぎわい>がぴったりだと言う。そこには、ヤマトイワナを保全するためだけに、ニッコウイワナや混雑種を駆逐してしまうと言う考えは生まれない。生きものにはすざまじい多様性があるからだ。  人の影響の入っていない純粋な自然の生態系などは存在しない。そもそも移入種が加わった生態系こそ多様性が増したと考えるべきである(人間の世界では混血種をそう見ている)。自然環境は、人間の目には同じように見えても、日々変わっている。板井部会長はじめ委員たちは「生物多様性(バイオダイバーシティ)」のことばの意味を理解せずに、それぞれの過去の経験に沿って議論している。JR東海は委員の意見に粛々と従って、過去の環境を取り戻すような取り繕いの対応策を提案する。そこに正しい答えがあるはずもない。ダイバーシティとは何かを定義しないで、議論していてもお互いの意見はかみ合わない。  県の生物多様性専門部会に目標や期限はないようだが、これでは10年以上議論しても結論らしきものさえ生まれないだろう。つまり、諸行無常の世界である。(※多分、こちらの寿命が尽きてしまう)

ニュースの真相

リニア騒動の真相95「物申す」から1年

「国家破産」で何が起きるのか?  月刊文藝春秋11月号の『財務次官、モノ申す「このままでは国家財政は破綻する」』の論文が衆院選を前に、大きな波紋を呼んでいる。財務省の矢野康治事務次官が、与野党各党による赤字国債に頼った「ばらまき合戦」のような選挙公約発表を憂えるかたちで、「まるで国庫には、無尽蔵にお金があるような話ばかり」と批判した上で、「今の日本の状況をたとえれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものだ。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けている。(巨大な)債務の山の存在はずいぶん前から気づいている。ただ、霧に包まれているせいで、いつ目の前に現れるのかわからない。そのため衝突を回避しようとする緊張感が緩んでいる」などと述べている。国の長期債務973兆円で地方の債務を合わせると1166兆円に上るのだという。  日本の財政赤字が深刻であることを承知の上で、コロナ禍の中でばらまきに近い借金を繰り返してきた。矢野氏の主張通り、今回の選挙戦の公約を見れば、大盤振る舞いの現金給付策が並び、無限に借金を続けていくように見えてきてしまう。当然、そんなことはできない。このまま行けば、矢野氏が予言する危機(タイタニック号のように氷山に衝突して、日本が沈没するような状態)はいずれ、現実化する可能性もある。日本は「国家破産」するのかもしれないのだ。(※実際にはMMTはじめ、日本の「国家破産」などありえないと主張する勢力は数多い)  矢野氏の論文は、「国家破産」の不吉な未来は分かるが、一体、わたしたちの周囲に何が起きるのかは書いていない。お隣の韓国をはじめ「国家破産」という経済的な混乱は世界中でしばしば起きている。ただ、その混乱を克服して、「国破れて山河在り」のたとえ通りに、国民はたくましく生き抜いている。特に韓国の状態はそう思える(2018年の韓国映画「国家が破産する日」は、1997年のIMF管理下に入った実際の韓国経済を描いている。当時、韓国民は85%以上が中間層と考えていた、という)。さて、日本の「国家破産」でどんな暗い未来が待ち受けているのか?  国が債務超過に陥る財政破綻を憂慮して、財政規律を重視する矢野氏が「モノ申す」のは、政治家に対してなのだろう。と言っても、中央官僚トップの責任は非常に大きく、中央官僚も公務員(パブリック・サーバント)なのだから、天下国家を論じるとともに、国民の生活、個々人の生活への影響、国民がどんな対応をすべきかもちゃんと説明する責任もあるのではないか。  ”説明責任”を考えていたら、「モノ申す」の字面から、そうか、1年前、川勝平太静岡県知事も「モノ申していた」ことを思い出した。昨年10月9日発行の月刊中央公論2020年11月号に『静岡県知事の「部分開業」案 国策リニア中央新幹線プロジェクトにもの申す』が掲載された。  「物申す」とは、文句を言う、抗議するなどの意味がある。川勝知事の「もの申す」は一体、誰に、何を言っていたのか? 「命の水」問題は解決したのか?  雑誌論文で「物申す」相手は、国交省鉄道局のようである。有識者会議の運営に不信感を示した上で、『有識者会議での検討結果は、県の専門部会に持ち帰り、専門部会で「全面公開」のもとに地元住民・利水者に再確認し、流域県民の理解を得るという段取り』が知事の考えのようだ。  最後のひと言として、『”命の水”を戻すことができないのであれば、リニア・ルートのうち南アルプス・トンネル・ルートはあきらめるべきです。具体的には、国の有識者会議と県の専門部会で、南アルプス・大井川・地域住民の抱えている「命の水の問題」が科学的・技術的に解決できないことが判明すれば―その可能性は高いと言わねばなりません―、迂回ルートへの変更なり部分開業なりを考えるのは「国策」をあずかる関係者の責務でしょう』と厳しく締め括っている。  ここで最も気になるのは、迂回ルートや(品川―甲府までの)部分開業などいった突飛な提案を止めるのは、有識者会議によって「命の水の問題」を科学的・技術的に解決できたのかにかかっている、と主張したことだ。  9月26日に開かれた有識者会議では、リニアトンネル工事による「中下流域の表流水への影響 」、「中下流域への地下水への影響」について中間報告案が示された。つまり、知事の言う「命の水の問題」に対する解決策が示された。  『リニア騒動の真相93「地域の理解」を得るとは』で詳しく説明したが、「中下流域の表流水への影響」について、『導水路トンネル出口(椹島地点)よりも上流の河川流量は減少する。一方、導水路トンネル出口(椹島地点)より下流側の河川流量は、山体内に貯留されている地下水が導水路トンネル等により大井川に戻されるため一時的に増加し、トンネル掘削完了後はやがて正常に落ち着くことになるが、いずれの段階においてもトンネル湧水量の全量を大井川に戻すことで中下流域の河川流量は維持される』  また、「中下流域への地下水への影響」は『下流域の地下水位は取水制限が実施された年も含めて安定した状態が続いていることや、中下流域の地下水の主要な涵養源は近傍の降水と中下流域の表流水であり、椹島より上流の深部の地下水が直接供給されているわけではないことなどを考慮すると、大井川中下流域の河川流量が維持されることで、トンネル掘削による中下流域の地下水量への影響は河川流量の季節変動や年―年変動による影響に比べて極めて小さい』(『』内は、いずれも中間答申案)  リニア工事による中下流域への水環境の影響はほぼないというのが、有識者会議の結論である。つまり、「命の水の問題」は科学的・技術的に解決されたのであり、議論は次の段階に入るべきである。  ところが、川勝知事は国の有識者会議のまとめる今回の中間報告案を蹴飛ばしてしまった。 「一滴の湧水」も県外流出してはならぬ?  川勝知事は6日の会見で、「掘ったあとプールにためてそれをポンプアップして20年あるいは30年かけて戻す案を受け入れるかと聞いたら、とうてい受け入れられない、と即座に染谷(絹代)島田市長が言われた」、「トンネルを掘るときの3百万㌧、5百万㌧(水収支解析によって数字に違いがある)は(山梨県へ)流出して戻ってこない。トンネルを掘ったあと、プールにためて、それをポンプアップして、数十年かけて戻す、というのが案なわけです。流域の方たちは、これはとんでもない話だと」、「全量戻しの提案、これは戻せません、はい、わかりました(と有識者会議)、トンネルを掘ってから戻すんですね、はい、わかりました(と有識者会議)、有識者会議の人たちはそれ以外の方法はないんですか、ありませんと。それは我々のいう全量戻しではありませんから、これは受け入れられない」と同じことを何度も繰り返し述べた。  川勝知事は、従来の「水一滴の県外流出も許可できない」姿勢を崩さず、それができないのであれば、約束違反だ、受け入れられないと主張する。JR東海の環境影響評価書への知事意見に、トンネル湧水の全量を大井川に戻すよう記したことなどを根拠にしている。  静岡経済新聞で何度も書いているが、JR東海は作業員の安全確保から、静岡県側からの掘削は行わず、山梨県側から掘削するために静岡県の水3百万㌧あるいは5百万㌧が山梨県側へ流出する。トンネル開通後に山梨県内のトンネルで生じた水3百万㌧あるいは5百万㌧をポンプアップして静岡県側に戻し、計画されている導水路を使い、大井川に戻すことを説明した。  どう考えても、知事意見のトンネル湧水の全量を大井川に戻すことに変わりない。  冒頭の「国家破産」で書いたが、もし、国家破産が起きて、最大の関心事は、わたしたちの生活への影響である。リニア問題も同じで、リニアトンネル工事によって、中下流域にどのような影響があるのかが最も重要である。有識者会議は、1年以上にわたって、中下流域への影響について議論を行い、中下流域の表流水、地下水への影響はほぼない、と結論づけた。沖大幹東大教授は科学の限界について話したが、それはどんな分野でも同じである。現在の科学力は万能ではなく、絶対はない。現在の最高の科学水準で水環境には影響はない、と言っているだけだ。  科学的・技術的に問題は解決されたはずなのに、「一滴の水も静岡県外流出は許可できない」は新たな難題を投げ掛けて、駄々をこねているだけだ。有識者会議の議論は専門的であり、流域住民らには理解できていないから、国、JR東海は、わかりやすいかたちで中下流域への水環境の影響がないことを住民に説明していくしかない。(※JR東海の資料をそのまま見せても、ほとんどの人には理解できない) ”命の水”を取り戻す絶好の機会  ちょうど1年前、10月18日付『リニア騒動の真相59”命の水”守る川勝知事の責任』という記事で「田代ダム」問題を取り上げた。田代ダムから、リニアトンネル工事中の水量減量など問題にならないくらい大量の”命の水”が山梨県へ流れているからだ。それもJR東海と違って、ただ、大量流出するだけで、何年たっても戻ってはこない。  田代ダムは1928年建設された大井川で最も古い発電所用のダム。1955年、従来の毎秒2・92㎥から4・99㎥に取水が増量されると、大井川の「川枯れ」の象徴となった。”命の水”が毎秒2㎥以上も山梨県側へ取水され、大井川の放流量が大幅に減ってしまった。高度成長期に入る首都圏での電力需要を優先したから、流域住民たちは「水返せ」運動を始めた。  1975年12月の水利権更新に当たり、当時の山本敬三郎知事は「4・99㎥のうち、2㎥を大井川に返してほしい」と要求。東電は「オイルショックによるエネルギー危機で水力発電を見直す時代に入った。水利権は半永久的な既得権であり、一滴たりとも渡すわけにはいかない」と蹴る。流域住民の”命の水”なのに、東電の姿勢を変えることができなかった。  その後も「水返せ」運動は続き、静岡県は東電と粘り強く交渉、2005年12月、ようやく、0・43㎥から1・49㎥(季節変動の数値)の”命の水”を勝ち取った。水増量が始まってから50年もの歳月が掛かった。それまで30年間だった水利権更新期限を10年間に短縮、今後の交渉の余地を広げたのも大きな勝利と取られた。  川勝知事『国策リニア中央新幹線プロジェクトにもの申す』に、2014年春、”命の水”を守るために立ち上がったのだと書いてあったが、2015年の田代ダムの水利権更新で知事は何らの働き掛けも行わなかった。そもそも論文に「田代ダム問題」はひと言も触れていない。  “命の水”に色がついているわけではないから、山梨県へ流出する田代ダムの水を取り戻すことは、JR東海との議論とは別に川勝知事の最大の政治課題であるべきだ。  知事の4期目の任期を迎える2025年に田代ダムの水利権更新を迎える。リニア問題で焦点となった”命の水”以上に、流域の住民らの期待は大きく高まるだろう。もうすぐである。  『田代ダム問題に物申す ”命の水”を取り戻す静岡県の使命』。川勝知事の次の論文の題名は決まった。いつから取り掛かるかだけだ。

ニュースの真相

リニア騒動の真相94”宣戦布告”した川勝知事

700対30で自民候補の圧勝?  7日に告示された参院静岡選挙区補欠選挙(24日投開票)は17日間の選挙戦に入った。同選挙は14日解散、19日公示、31日投開票の衆院選挙の前哨戦と位置づけられ、全国的な注目を集めている。  告示日の7日午後1時頃、”時の人”岸田文雄首相がJR静岡駅南口に姿を現し、自民党候補を応援する街頭遊説をした。一方、川勝平太静岡県知事が7日午前9時過ぎ、JR静岡駅北口で立憲民主、国民民主推薦の無所属候補の出陣式に突然、現れ、応援演説を行った。さらに、9日午後6時には、静岡市繁華街で「しんちゃん」「しんちゃん」と候補者の名前を親し気に連呼して、熱い応援弁士を務めた=タイトル写真=。  まず、岸田首相の街頭演説はどうだったのか。当然、VIPであり、多くのSP(要人の身辺警護を務める警察官)を引き連れているだけでなく、静岡県警も大挙して、周辺を固めた。それだけで到着前から、”超大物”の雰囲気が伝わった。駅前大通りを隔てた狭い両歩道には、新聞、テレビのカメラが1時間以上前から撮影のための位置取りをして待ち構え、それを囲むように数多くの市民らが詰め掛けた。長い間、待ち構えていただけに岸田首相が現れたときの市民らの熱狂は大きかった。陣営によると、1500人の市民らが詰め掛けたというが、実際には、その半数以下の7百人程度だった。それも、ほとんどすべて動員によるものである。岸田首相が7日に静岡入りするニュースは報道されたが、いつ、どこで遊説するのかは、前日(6日)夜まで候補事務所には連絡されなかった。その後、動員が掛けられ、集まったのはほとんどが年配者であり、企業からの動員と分かるスーツ姿はちらほらだった。つまり、昔からの熱心な自民党支持者が出迎えたのだ。  この人数を多いと見るかどうかだが、一方、川勝知事は告示日の朝、陣営にも連絡を入れず、突然、現れたせいか、支援者の姿はほとんど見えなかった。そして告示後、初の土曜日となった9日夕方に、東急スクエアという若者が多い静岡市の繁華街に川勝知事が現れた。陣営による支援者への告知や動員もなかったのか、応援の市議ら関係者とメディアだけが目立ち、関係者を含めても周辺には30人ぐらいしかいなかった。それでも川勝知事の「しんちゃん」「しんちゃん」の”熱唱”が、繁華街を通り過ぎる人たちの耳に少しは響いたのかもしれない。(※コロナ禍の中で、いずれの陣営も動員は難しいだろうが、翌日の新聞等で報道される。岸田首相、川勝知事の報道では圧倒的に岸田首相を大きく扱っていた)  「700対30」。組織票だけで選挙が決まるのであれば、自民党の圧勝は間違いない。ただ、選挙はそう簡単には決まらない。  その大きな要因が、岸田首相に対抗するように、これまで国政選挙を支援したことのない川勝知事が”参戦”したことである。知事は相変わらず、リニア問題に絡んだ南アルプスの水を掲げた応援演説を行っている。6月の県知事選に続いて、参院補選も「リニア選挙」の様相を色濃くさせることができれば、選挙結果は違ってくるのかもしれない。 告示前予想は”自民勝利”だった  今回の参院補選は、6月の知事選に立候補、自民現職だった岩井茂樹氏の辞職に伴うものである。このため、岩井氏の残りの任期(2022年7月28日)がそのまま引き継がれる。任期切れとなる約8カ月後の来年7月、再び、参院選が行われる。立候補したのは、自民新人の元御殿場市長、若林洋平氏(49)、元県議で立憲民主、国民民主が推薦する無所属新人の山崎真之輔氏(40)。そのどちらが当選したとしても、いずれも来年の選挙に出馬、再び、争うことが予想される。静岡選挙区は定員2であり、これまでの選挙事情から言えば、両者とも当選する可能性は高い。(※共産党の鈴木千佳氏も立候補していることは後ほど紹介する)  告示前の事前予想では、もともと欠員となっているのが、自民議席だったこともあり、自民候補の楽勝と見られていた。選挙民の関心もそれほど高いわけではないから、組織戦を展開する自民に有利と見るのがふつうである。しかも、任期は1年足らずである。来年7月に参院選が予定されている。今回選で若林、山崎両氏のどちらかが落選しても、落選した候補も来年になれば、晴れて参院議員に就くことになるのだ。大きなアクシデントがない限り、そう決まっている。だから、両候補にそれほどの悲壮感は感じられないのも仕方ないのである。  ところが、周囲はそう見ていない。選挙期間中に任期満了となる衆院選が控えており、自民は議席を失ったときのショック度合いが大きく違うのだ。菅政権から岸田政権に交替したばかりで、参院補選を勝利に結びつけられず、もし、万が一、自民候補の落選となれば、岸田政権への打撃は計り知れない。自民支持の凋落がはっきりとしてしまう。メディアは大騒ぎとなり、衆院選への悪影響は必至である。それだけに力が入るのは、負けられない自民党の側である。  そこに川勝知事が乗り出したことで、ますます自民は負けるわけにはいかなくなった。何しろ6月の知事選で自民候補に約33万票の大差で圧勝した勢いがある。県民に人気のある川勝氏の支援によって、勝敗の行方を左右する可能性さえ出てくる、との見方は間違っていないだろう。  そう、何と言っても、『「命の水」を守れ!』である。 参院補選の最大の争点は「水」ですか?  自民への対決姿勢を強める川勝知事は、告示前日にあった6日の会見で、県議会の知事会派「ふじのくに県民クラブ」に所属していた山崎真之輔氏の支持を旗幟鮮明にした。これまでの選挙戦に対する知事の姿勢とは大きく違っていた。どう考えても、山崎氏を応援すると言うよりも、リニア推進勢力への反対姿勢に見えてくる。  「参院補選の最大の争点は水である。また熱海の土石流でもある。熱海の土石流は盛り土の問題であって、山の破壊が行われた。狩野川、富士川、黄瀬川、大井川、レイク浜名湖これは水の問題であり、これらを山崎君は一緒に協力してやってきた。知事選で静岡県選出の議員がお辞めになられ、参院補選となった。知事選の最大の争点が水であり、リニア問題だった。静岡県の水を守るという政策を出すのが山崎君の姿勢であり、しっかりと支援していきたい」などと力を込めた。  この発言に、記者が、自民候補も水を守るということになったら、特にどちらの味方もしないことになるのか、と尋ねた。  川勝氏は「中身を確認したわけではないが、新聞には新首相が国交大臣にリニアの推進を指示した、とあった。これが自民党の方針であるとしたら、静岡県民の神経を逆なでするとかいきなりぶん殴られたとかです。岸田首相が静岡県の流域の住民に宣戦布告したという激しい表現も承っている。県民の理解が得られないのに、リニア工事を全部推進するんだと言ったら、流域住民が怒り、宣戦布告だ、いきなりぶん殴られた、神経を逆なでする、何ですかこれはという声が起こってくるのは当然のことだ。今回の参院補選は、前回の知事選と連動している、(リニア問題では)一体だから、この点については山崎君はわたしと全く同じであり、わたしは言ってみれば、”県民党”の党首であり、山崎君は幹事長だから、(リニア推進という)国の方策を認めることができない」などと切って捨てた。(※まるで、山崎候補への応援演説と思われた)  当然、岸田首相が静岡入りして、元岸田派事務総長の故望月義夫元環境大臣の墓参をすることを承知した上で、「国交大臣に対して、リニア推進しなさいと言って、はい、わかりましたと言ったとなれば、これは文字通り本当に神経を逆なでするものだ。望月さんのところに、お墓参りになると言っても、草葉の陰で、噛みつかれるじゃないというぐらいの、無理解をベースにした発言である」などと揶揄した。(※岸田首相を挑発し、自民に対する”宣戦布告”としか思えない)  さらに、この日の会見では、国の有識者会議で「リニアトンネル工事が中下流域の水環境に影響はほぼない」とする中間報告をまとめることに、”ちゃぶ台返し”発言も行っている。  川勝氏は「トンネル湧水の全量戻しが約束であり、全量戻しを受け入れないのなら工事をやめるのが約束だ」などと国の有識者会議の議論そのものを否定してしまった。つまり、前回の『リニア騒動の真相93「流域の理解」を得るとは?』に書いた通り、すべて知事選での圧勝が物語っている。選挙に勝つのが民意である。だからこそ、参院補選でも川勝氏は勝利をものにした上で、リニア工事推進を図りたい自民党にひと泡吹かせたいのである。 負けられない自民が負けるとき?  川勝知事は”県民党”を名乗り、今回は、山崎氏の応援演説に初日から駆けつけ、土、日曜日にも時間がある限り、支援するのだという。   果たして、知事選同様に川勝氏は今回の参院補選でも勝利を手にすることができるのか?6月の県知事選で川勝氏は95万票余を獲得、自民の岩井氏に33万票の大差をつけている。  前回の参院選挙(2016年7月)では、自民の岩井氏は約75万票を得票、当時民進党の平山佐知子氏(社民党推薦)が約69万票だった。単純に計算すれば、その差は6万票しかない。33万票の威力がここで通じるかもしれない。  ただ、6月の知事選とは大きく事情が違っている。知事選では共産党が川勝氏を全面的に支援した。参院補選では野党の候補者一本化ができずに、共産党の鈴木千佳氏が立候補している。鈴木氏は2019年に約13万票、2016年に約17万票を獲得した。つまり、川勝氏の95万票に貢献した共産党系の約17万票が、失われるわけだ。当然、鈴木氏はリニア建設そのものに反対を表明している。  6月の知事選では、岩井氏の出陣式に県内選出の国会議員のうち、応援に駆け付けたのは4人だけだった。今回、岸田首相登壇の前、県内議員ほぼ全員が、顔をそろえ、若林氏の支援を訴えた。総理総裁に就いたばかりの岸田首相を出迎えた県会議員ら自民関係者らも、岸田首相に恥をかかせるわけにいかないだろう。知事選で大敗した雪辱戦の意味が強く、もし、負けるようなことがあれば、岸田首相の責任が問われる覚悟をしなければならない。何よりも、衆院議員は自分自身の選挙に直結している。負けられない選挙と言うことだ。  岸田首相をはじめ自民議員らの神経を逆なでして、突然、”宣戦布告”した川勝氏が勝利できるのかどうか、24日夜には分かる。もし、自民が負けるようなことになれば、リニアトンネル静岡工区の着工の前途はさらに暗くなる。まあ、ぜひ、先週の『リニア騒動の真相93』を読み返して、国交省、JR東海とも何をすべきか考えてほしい。

ニュースの真相

リニア騒動の真相93「流域の理解」を得るとは?

金子JR東海社長の初の意見交換会  JR東海の金子慎社長と大井川流域9市町(焼津市は欠席)の首長との意見交換会が9月18日、静岡市内で開催された=タイトル写真は、意見交換会冒頭の金子社長あいさつ=。国の第12回有識者会議が9月26日、国交省で開かれた。国の有識者会議では、JR東海がほぼ望んでいた通り、リニア工事による中下流域の水環境に影響はないとされる中間報告書が提出される見通しとなった。JR東海、国ともリニア静岡工事の着工にこぎつけ、絶望的となった2027年開業の遅れを1日でも取り戻し、品川―名古屋間の開業に向けて、何とか一歩を踏み出したい意向であることははっきりとわかる。  金子氏は今後も意見交換会を開催したい意向のようだが、熱意の点で評価できても、相互が理解し合うような意見交換の場にはならない。金子氏が理解できているのと同じ科学的・工学的なレベルで、流域の首長たちはリニア水問題を理解しているわけではない。首長たちは、あくまでも、政治家として、この問題に向き合っているだけに過ぎない。  6月20日投開票の静岡県知事選で、リニア問題を焦点に立候補した川勝平太氏が圧勝したことで、リニア問題の解決は、川勝県政の任期4年間、前に進まないとの見方が大筋である。4期目の任期切れとなる2025年6月の知事選がどうなるのか、そこにいまから、注目せざるを得ない。つまり、現在のところ、解決の糸口さえ見えないのだ。流域市町の首長たちは、リニア問題に関して原則的に知事一任の姿勢を取る。いくら大掛かりな会議を重ねたとしても、無駄な努力でしかない。  2018年10月に静岡経済新聞ウエブサイトを立ち上げ、『リニア騒動の真相』コーナーを設けて、川勝知事や県の専門部会、国の有識者会議、JR東海の取り組みなどを報道してきた。はっきりと言って、3年前と現在で何も変わっていない。議論は平行線をたどり、その中身の本質は全く同じである。県の専門部会、国の有識者会議など茶番に等しいが、それを言ってはおしまいだから、知事をはじめ担当者は会議の中身を評価したふりをする。それぞれの会議に多額の費用を掛けているが、それだけの価値はないということだ。  26日の国の有識者会議に出席した静岡県の難波喬司副知事が「JR東海から資料の提示や分かりやすい説明がされるようになった」「今後対話を進められるようになった」などと発言した。本音(皮肉?)もいくぶん交じった社交辞令であり、もともと議論を複雑にして、一般の人たちに分かりにくくしてきたのは、県専門部会であり、難波氏本人である。難波氏の発言の肝は、国の有識者会議による中間報告が出たとしても、はい、分かりましたと了解するわけもなく、JR東海との対話はこれからも続いていく、それだけのことである。  川勝知事の意向に沿って、議論を進めている以上、難波氏らのJR東海に対する姿勢は厳しいものにならざるを得ない。 「中流域の水環境に影響なし」が国の有識者会議結論   国の有識者会議で中間報告案が示された。これまでの議論は、リニアトンネル工事による「中下流域の表流水への影響 」、「中下流域への地下水への影響」の2つが大きなテーマである。  中間報告案では、「中下流域の表流水への影響」について、『導水路トンネル出口(椹島地点)よりも上流の河川流量は減少する。一方、導水路トンネル出口(椹島地点)より下流側の河川流量は、山体内に貯留されている地下水が導水路トンネル等により大井川に戻されるため一時的に増加し、トンネル掘削完了後はやがて正常に落ち着くことになるが、いずれの段階においてもトンネル湧水量の全量を大井川に戻すことで中下流域の河川流量は維持される』  また、「中下流域への地下水への影響」は『下流域の地下水位は取水制限が実施された年も含めて安定した状態が続いていることや、中下流域の地下水の主要な涵養源は近傍の降水と中下流域の表流水であり、椹島より上流の深部の地下水が直接供給されているわけではないことなどを考慮すると、大井川中下流域の河川流量が維持されることで、トンネル掘削による中下流域の地下水量への影響は河川流量の季節変動や年―年変動による影響に比べて極めて小さい』  つまり、リニア工事による中下流域への水環境の影響はほぼないという結論である。JR東海は、3年前と同じ主張をしてきた。国の有識者会議のメンバー(県専門部会の2委員含む)によって、JR東海の主張が権威づけされた。国の有識者会議に諮り、1年以上掛けて、ようやくJR東海の主張が認められた、と言ってもいい。  問題なのは、メディアの報道である。静岡新聞は「表流水への影響」については、「工事期間中と工事完了後にトンネル湧水量の全量を大井川へ戻せば導水路出口(椹島)より上流域の減少量はトンネル湧水量によって補われ、中下流域の表流水は維持される」、「地下水量の影響」については、「上流域から流れてくる表流水量が維持されれば、表流水量の季節変動による影響に比べて減少量は極めて小さい」と国交省の”悪文”よりさらに分かりにくい。記事内容は、一般の読者に不親切で、理解するのは非常に難しい。あるいは、それが記者の意図なのかもしれない。(※新聞記事がこんなに分かりにくくても誰も文句を言わないのは、専門家の議論は難しいという先入観があるからだろう)  さらに、静岡新聞の記事本文で『中心的な議題としてきた「トンネル湧水の全量を大井川に戻す方法」は、同日時点の報告案には具体的に明記していない。トンネル湧水が県外に流出する工事期間中に関しては、報告案はJRの流量予測通りになれば中下流域の表流水の量は維持されるとした。これに対して、沖大幹委員(東大教授)は「想像できないリスクがあり、分かっているリスクだけで議論しても安心しないのではないか」と指摘』などと、”疑問符”ばかりついた記事となっている。沖委員は、科学的・工学的議論を繰り返したとしても、現在の科学水準の限界についてリスクを述べただけである。  実際に、一般県民に提供すべきは、『現在、最高レベルの科学的な議論の結果、リニア工事による中下流域への影響はほぼないとする結論が示された』である。中間報告案が奥歯に物が挟(はさ)まるような表現(悪文の典型)だからと言って、恣意的に記事の中身を分かりにくくしている。  科学とはそんなもので、絶対的な確信を得た結論を与えることはできない。今後もそのような議論が続き、メディア報道も続くのだろう。 静岡市との基本合意が流域市町に与えた影響?  それでも、今回の意見交換会で鈴木敏夫川根本町長は、リニア問題を解決させる方向を示す発言をした。鈴木発言で、3年前の事件をはっきりと思い出させた。  金子社長は2018年6月20日、静岡市役所に赴き、田辺信宏市長と「リニア南アルプス静岡工区内の建設と地域振興に関する基本合意」を結んだ。JR東海と静岡市の基本合意が、大井川流域市町とJR東海のあつれきを生む原因の1つとなった。  基本合意には、第1に、県道三ツ峰落合線にJR東海の全額負担(約140億円)でトンネル(約5キロ)新設すると明記された。つまり、JR東海が静岡市の地域振興にカネを出して汗をかくことをはっきりとうたっている。  第2が、JR東海は、静岡市からの要請を踏まえ、環境保全措置で大井川中下流域にも配慮して誠実に対応する。これは、静岡市が大井川流域市町の一員であり、他の市町のことも考えているポーズを示す一項と見られている。中身はなく、表面的であり、具体的には何も言っていないからだ。川勝知事らはそのように受け取り、激しい怒りに火をつけた。  第3が、静岡市はJR東海のトンネル工事に必要となる許認可を含む行政手続きを速やかに対応することだ。JR東海の地域振興に対する静岡市の見返りである。東俣林道の通行許可、トンネル掘削土360㎥の盛り土を認めるなどを含んでいる。  地域振興から見れば、田辺市長は井川地区住民の悲願とも言える県道トンネルを勝ち取ったように見える。ところが、この基本合意が、大井川流域の市町に冷や水を浴びせる結果となり、田辺市長に対する厳しい評価を決定的なものにした。  川勝知事は前日の19日、「リニア工事による大井川の流量減少への影響について、オール静岡の態勢でJR東海と交渉していく」と発言したばかりだった。当然、田辺市長は知事発言を承知していた。静岡市は、県や流域市町に対して、JR東海との基本合意を事前に報告して、了解を取るべきだった。それまでは、静岡市は流域市町の一員として、国やJR東海への働き掛けを行ってきたからだ。  何よりも、静岡市は合意書で、大井川の流量減少対策について、流域にも配慮して環境保全措置を取るようJR東海に求めている。これはいくら何でもバカにしているように見えた。「流域にも配慮しろ」は上から目線であり、流域市町の怒りを買った。  リニア静岡工区は静岡市葵区に位置し、リニアトンネル工事現場は大井川の源流部にある。あらゆる環境問題は、静岡市の所管する法律、条令が関係する。県同様に、静岡市がリニア工事の”生殺与奪権”を握っていた。他の流域市町には何らの権限もないから、「流域にも配慮しろ」と上から目線になったのかもしれない。  大井川流域市町は、静岡市だけが抜け駆けして、地域振興につなげた”裏切り行為”と取り、川勝知事はじめ流域市町の首長は田辺市長を厳しく批判した。金子社長は、地元の反発など理解せずに、静岡市との基本合意締結後の会見で、「大井川の水利権者に直接、説明をしたい」などと呑気に述べた。当然、流域の首長らはそっぽを向いたまま、JR東海の説明に耳を傾ける姿勢を示すことさえなかった。  そして、ようやく今回の意見交換会にたどりついた。 「市道閑蔵線トンネル」の持つ意味とは?  鈴木町長の発言が、なぜ、3年前のJR東海と静岡市の基本合意書に結び付いたのか?  鈴木町長は意見交換会で、「静岡市道閑蔵線トンネル建設」をJR東海に要望したからだ。川勝知事は21日の知事会見で鈴木発言を取り上げて、「もともとJR東海が作業する上で安全に井川の奥に行けるよう閑蔵線のトンネルを掘ると言われていた。それは今後のことを含めても掘るべきではないか」などと述べた。  「市道閑蔵線トンネル」は、JR東海が静岡市に提案した。  静岡市道閑蔵線は、新東名高速道路島田金谷インタチェンジからリニア工事の拠点となる静岡市井川地区を結ぶ、唯一、大型車通行不可で狭隘な道路が続く約5・8キロの区間。  2017年12月、井川地区で開かれたリニア検討状況説明会で、JR東海は、閑蔵線に約2・5キロのトンネル整備を提案した。このトンネルによって、リニア関連の工事車両が安全かつ安定的に通行できるだけでなく、新東名高速道路島田金谷インタチェンジから南アルプス地域までのアクセスが飛躍的に改善され、南アルプスエコパークへの観光誘客に寄与できるなど多大な効果があると説明した。JR東海の説明通り、南アルプスと大井川流域を結ぶのに、閑蔵線トンネルは重大な意味を持つ。  意見交換会では、鈴木町長だけでなく、染谷絹代島田市長も閑蔵線トンネルの必要性を述べた。3年前に、JR東海が流域市町の意見を聞く機会を設けていれば、”地域振興”についてもっと違う方向で話が進んでいたのかもしれない。(※この件については、近く、公開される東洋経済オンラインの記事をご覧ください)  国の有識者会議でも「地域の理解」を得ることがテーマになっていた。沖教授の言う通りに、科学には限界がある。だからと言って、「地域の理解」を得るために、意見交換会を何回繰り返したとしても、結論は得られない。  リニア問題解決のために何をすべきか?この3年間はムダに過ぎたと断言できる。JR東海はちゃんと足元を見て、地域の理解を得るための取り組みを行うべきである。