リニア騒動の真相98川勝知事に「勧告」すべきは?

知事不信任案を提出できなかった自民

 11月14日付『川勝平太知事「舌禍事件」ー大山鳴動”鼠”一匹』タイトル記事で、『県議会最大会派の自民県議団が、公明県議団などを巻き込んで知事の不信任案提出への動きを強めていると、新聞、テレビは、「コシヒカリ」発言に大きな”第2波”が起きると伝えた。全県議67人のうち、4分の3以上に当たる51人が賛成に回れば、不信任案が可決されるなどと大きく報じている。メディアがどんな報道するのも自由だが、実際には、これは、単なる表面的な駆け引きに過ぎないから、新聞、テレビ報道だけでは県民は理解できない。つまり、自民県議団が知事の不信任案決議提出など出来るはずもないし、するつもりもないからである。』と伝えた。

 記事公開の直後に、「自民県議団に”秘策”があり、不信任案決議案を提出するのはほぼ、間違いない」と関係者から伝えられた。それを裏付けるように、22日まで、新聞、テレビは連日のように知事不信任案提出が確定的な動きであるかのような報道が続いた。普通に考えれば、否決の可能性が高いのだが、不信任案提出が行われるよう錯覚させた。もしかしたら、とんでもない”秘策”が隠されているのだろうと期待もした。ところが、臨時県議会前日の23日になって、不信任案提出の雲行きがおかしくなり、結局、その日のうちに、自民県議団の不信任案提出がないことがはっきりとした。こうなると、”不信任案提出”を声高に叫ぶことで、川勝知事へ何らかのプレッシャーを掛けるのが目的でしかない。しかし、それは一体、何のためなのか?

 辞職勧告決議案は議長を除く、出席議員66人のうち、自民、公明県議ら47人が賛成、知事与党のふじのくに県民クラブの県議19人が反対に回り、可決された。不信任案の可決は、出席議員の4分の3、52人の賛成が必要だから、5人も不足していた。もし、不信任案を提出していたら、反知事勢力は大恥をかいたわけだ。

 ただ、川勝知事は、常日頃、五箇条の御誓文第一条「万機公論に決すべし」を規範としていると口にする。もし、それが知事の本心ならば、議会の決定に従うのが筋である。知事辞職勧告は、県議会全体の意思であり、まさに「万機公論が決された」ことになる。ところが、今回、知事は「万機公論」を「いろいろな人の意見を聞く」の意味にとどめてしまい、「会議の結論に従う」を無視した。さらに「公務を果たしながら県民のための県政に全力を投じたい。県民に負託された任期を全うしたい」など、辞職を完全に否定したから、辞職勧告決議は何の意味も持たなくなった。

 表面的には、知事は反省の弁を述べているが、「辞職勧告」に馬耳東風であり、何らかの深刻な影響も与えないことも分かる。知事答弁はすべて政治的な思惑でしかない。

 川勝知事は12日の会見で、20秒間頭を下げて、新聞、テレビのカメラの前で謝罪した。今回の「辞職勧告」可決によって、12月1カ月分の給料と期末手当(冬のボーナス)を返上すると述べ、謝罪の具体的な内容を示した。頭を下げるだけよりはましだが、ただ、それくらいのダメージ(お金の問題)は、知事にとって、いかばかりの痛みにもならない。

 6月の知事選に続いて、不信任案決議案で大騒ぎを演出した自民県議らの大敗北に終わった。『大山鳴動』を起こしたが、”鼠”の姿があまりにも小さすぎる。

あまりに軽いリニア問題での知事発言

 2018年12月、雑誌静岡人vol4『JR東海リニア南アルプストンネル計画 なぜ、川勝知事は闘うのか?』を発刊した。これまで国の政策に異を唱える静岡県知事はいなかった。複雑怪奇な部分があるリニア問題をわかりやすく紹介することで、川勝知事の応援をしたいと考えた。これまでの静岡県政とは一風違う、川勝県政に大いに期待したからだ。「7つの謎を巡る旅」特集の「川勝平太の謎」で、まず、知事インタビューを行った。7つの謎表紙2

 『2017年10月10日の記者会見。突然、川勝知事はリニア新幹線の南アルプストンネル工事での水減量問題に触れ、「湧水全量戻し」を前提にJR東海に「誠意」を示すよう求めた。その後、2年間にわたり何度も議論を重ねたが、膠着状態は続き、いまのところ、解決の道筋は見えてこない。「(解決には)誠意を示すことが大事」。知事の発言に込められた真意は何か?』が前文であり、反リニアを唱える知事の真意を探り出すことが目的だった。

 インタビューは1時間ほど行ったが、リニア問題に対する「知事の真意」に迫ることもできず、知事から「解決への糸道」を示す発言さえ得ることはできなかった。当時は、単に慎重な姿勢を示していると思えた。

 結局、3年が経過して、さまざまな知事の発言を見ていくと、2017年当時の発言と全く変わっていないことが分かる。「静岡県の6人に1人が塗炭の苦しみを味わうことになる。それを黙って見過ごすわけにはいかない」「全量を戻してもらう。これは県民の生死に関わること」「もうルートを変えた方がいい。生態系の問題だから。水が止まったら、もう戻せません。そうなったら、おとなしい静岡の人たちがリニア新幹線の線路に座り込みますよ」などなど。知事のリニア問題に対する考えは3年以上の前の時点で止まったままである。

 3年間、ほぼすべての県リニア環境保全連絡会議専門部会、国の有識者会議に出席してきた。11月23日公開された静岡リニア問題、「印象操作」だった県の反対理由 | 新幹線 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)のタイトル記事を公開した通り、国の有識者会議の結論は中下流域の水環境に影響はないのであり、それに異論を唱える県のやり方はあまりにも姑息である。だから、正確な情報が県民に伝わらない。

 4年前に止まってしまった”知事時間”への迎合をリニア問題の担当課が行っている。今回のコシヒカリ発言と同様に、知事発言はあまりにも軽いのだ。

静岡空港建設の残土は熱海土石流の400倍超

 雑誌静岡人の「川勝平太の謎」では、知事の「真意」は分からないまま「静岡空港新駅が解決の糸口になる」と提案した。もともとの静岡空港計画では、新幹線新駅を静岡空港ターミナル直下に建設、新幹線と結び付けて、どこにもない利便性の高さを訴えていた。東京、大阪などどことも結ぶことのない静岡空港の唯一の特色が、「新幹線新駅」だった。

 ところが、JR東海は「これ以上、新駅をつくれば新幹線のスピードを出せなくなる。あり得ない」と拒否した。静岡県の提案は、こだま駅の静岡ー掛川間に「空港新駅」の設置を求めたところに無理があった。だから、雑誌では、東京ー名古屋間ののぞみ号を想定した「空港新駅」設置を提案した。

 リニア問題以前に、川勝知事が「空港新駅」で働き掛けを行ったが、JR東海は聞く耳を持たなかった。リニア問題が大きくクローズアップされ、反リニアを唱えることで、空港新駅計画でJR東海に聞く耳を持たせることができる。そう考えた。どう考えても、静岡空港新駅の存在価値はそこにしかない。ところが、この4年間、知事は何らの働き掛けを行っていなかった。

 水環境問題への批判から始まり、熱海の土石流災害が起きてからはリニア工事で排出される360万立方mの建設残土を問題視して、盛り土の批判を繰り返している。知事は10月6日の会見で「トンネルを掘ったら残土も出る。残土、どこに置くのか。今はもう、盛り土も厳しいでしょう。その盛り土も360万立方m出て、しかも、それを大井川の河原に積み上げる。熱海土石流は5・5万立方mだから、67倍ですから」などと発言した。

 それこそ、静岡空港建設で、約2700万立法mの残土を盛り土高75mに埋め立てる工事を行った。静岡空港工事の建設残土は、リニア工事の7倍近い残土である。つまり、静岡空港建設で、熱海土石流の400倍以上の残土が出ている。すべて環境配慮型の造成工事を行ったのであり、JR東海による360万立法mの残土計画を知事が正確に理解していないことがはっきりと分かる。少なくとも、計画上、JR東海の360万立方mの残土処理に問題は見られない。

 川勝知事は、今回の「コシヒカリ発言」同様に対立をあおる手法を取ることには長けている。3年間、リニア問題を追い掛けていて、知事の姿勢を見ていると、リニア問題を煽ることはできても、政治家として、どのように決着させるかの手腕には疑問が大きい。川勝県政では前に進むことはないのだろう。

 となれば、自民県議団は12月定例会で知事に「公務」と「政務」をちゃんと説明すべきだ。

 川勝知事は、21日にオンラインで全国知事会議に出席、26日には官邸で開かれた全国知事会議に出席している。これは「公務」である。知事は21日、医療産業が集積する県東部地域、温泉観光施設が多くある伊豆地域に「リゾート医療福祉研究スーパー特区」設置を提案した。岸田首相が公約で掲げる「デジタル田園都市国家構想」を実現させるためのものだという。そのスーパー特区がどのような財源や規制緩和を求めるものか、さっぱり分からないが、知事は学者ではなく、政治家なのだから、具体的に何が必要で、どのような手続きを踏むのかを含めて、提案について官邸との会合を持ち、スーパー特区を実現させなければならない。これが「政務」である。全国知事会議で「スーパー特区」提案するのが、「公務」であれば、その実現を水面下を含めてさまざまに行うのが「政務」である。永田町、霞が関に何度も出掛けて、何度もお願いを繰り返さなければならない。言い放しだけならば、学者の仕事である。

 21日の知事会議では、首都機能の移転を要望した。これも同様である。川勝知事の「公務」は知事会議に出席することであるが、そこで発言したことを実現するためにさまざまな取り組みを行うのが「政務」である。まさか、国政の選挙応援を「政務」だと勘違いしている知事だから、「政務」がいかに大切であり、その実現のハードルがいかに高いのかを踏まえて、発言することを求めなければならない。

 知事はこれまで何度も暴言、失言を繰り返してきた。今回の辞職勧告決議を受けて、「来年は生まれ変わった人間となると富士山に誓った」という。「県政に全力で当たる」のであれば、ぜひ、「政務」に汗をかくべきである。県庁組織のトップとして知事が、県政発展のために何をすべきかを自民県議団らは県議会12月定例会で強制力のある「勧告」をすべきである。

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