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マンション理事長へろへろ日記1裁判を起こす

マンション管理士に気をつけろ  4月29日付毎日新聞朝刊に『マンション管理のトリセツ』(幻冬舎から自費出版)を紹介する半5段広告が掲載されていた。部数の急激な落ち込みが伝えられる毎日新聞とはいえ、全国版広告だから、掲載費は決して安くないだろう。「好評につき重版でき」とうたっているから、売れているようだ。「マンション管理」に関心を持つ人が数多くいるらしい。  「管理会社と設計事務所の財布にならないために」、「悩める管理組合理事・役員 必読の一冊」というキャッチコピーも目を引いた。上半身の大きな写真つきの著者肩書には、NPO法人近畿マンション管理者協会会長、マンション管理士となっていた。ネットで調べると、「近畿マンション管理者協会」ではなく、「マンション管理者協会」が正式名称のようだ。HPでは、大規模修繕工事のコンサルタントやリプレース、理事長代行業務等の各種業務を行い、管理組合からの報酬を得ていると書かれていた。近畿地区にはマンションがたくさんあり、商売繁盛のようである。ただ、マンション管理士という肩書だけで信用するのは危険であり、マンション管理組合理事、役員は気をつけたほうがいい。  静岡経済新聞「お金の学校」の2019年7月1日付『謎の「マンション管理士」に気をつけろ!』で、マンション管理士とは何なのかを書いた。わたしのマンションをキャバクラ寮に貸し出したH育英会とのやり取りの中で、H育英会が相談したというマンション管理士と面会し、その不思議な活動を紹介した。H育英会側に立って便宜を図るような活動したマンション管理士は、そのために平然と真っ赤な嘘をついていたのである。  マンション管理士という国家資格を持つ専門家が嘘をついていたことが分かったから、すべての事情をマンション管理士の全国組織・日本マンション管理士会連合会に質問状を送った。同連合会が当マンション管理士からも事情を聞いたあと、わたし宛に謝罪とともに、当マンション管理士に対する処分の文書を送ってきた。当マンション管理士は、H育英会に便宜を図るために非弁活動を行った可能性が高い。管理会社には、数多くのマンション管理士の資格を持つ社員が働く。もしかしたら、マンション管理士が管理会社の意を汲んで活動しているかもしれないのだ。  「NPO法人近畿マンション管理者協会の会長が本音で語る一流のマンション・マネジメント」というキャッチコピー通りであれば、『マンション管理のトリセツ』は参考になるのかもしれないが、十分に注意をしたほうがいい。  もうひとつ、「国土交通省が勧めた理事・役員の輪番制は廃止すべき」と内容の一部も紹介してあった。それはその通りである。つまり、マンション管理士を信用、そのことばを鵜呑みにしないためには、理事・役員は必要最低限の知識とともに経験が必要であり、輪番制では単なるお飾りになってしまう可能性が高いからだ。つまり、管理会社に任せきりとなってしまう。  わたしのマンションは管理会社へ委託せず、自主管理を行い、わたしが25年以上、理事長としてさまざまなトラブルに当たってきた。『マンション管理のトリセツ』は何かの役に立つのかもしれないが、わたしのマンションでは少なくとも「管理会社」や「設計事務所」の財布になることはなかった。  わたしのマンションは8階一棟建てマンション(1階が駐車場)だから、7区画、7世帯しか住んでいない。管理会社に委託したくても、7世帯の管理費等では財政的な余裕はないから、管理会社に費用を払って委託するのは合理的ではない。管理会社の「財布」にならないのは、それだけお金が潤沢ではないからだ。  大規模マンションであれば、多額の収入があり、潤沢なお金の中で、”腐敗”の生まれる可能性もあり、国交省は理事・役員を定期的に交替するように勧めている。しかし、わたしのマンションのように7世帯しかない場合、どのようにしたら、将来の大規模修繕のために積立金を増やしていくのか頭の痛い問題であり、毎年の管理費等をいかに少なく済ますのか必死にならざるを得ない。  さて、そろそろ本題に入る。25年間も理事長をやっていると、さまざまなトラブルに直面する。今回のトラブルは裁判に発展してしまった。 マンションをキャバクラ寮に貸し出した育英会  どんな素晴らしい住宅でも購入後、そこで生活してみると、さまざまな問題が生じる。わたしの住むマンションでも、びっくりするようなトラブルが次から次へと起きてきた。その度に、理事長一人で対処しなければならない。トラブルに当たるのは嫌いではないが、今回のトラブルはちょっと面倒で大変である。いまも解決に至っていない。  それで、今回のトラブルの対応について、経過報告をしながら、マンションに住む人たちにマンション管理について関心を持ってもらいたい。少しでも”生きた教科書”になれば、幸いである。  わたしは、1993年にJR静岡駅から徒歩約15分~20分の繁華街にマンションを購入した。91年新築、約91㎡の専有面積でエレベーターが開くと、そのまま玄関という、当時としてはグレードの高いマンションだった。映画館やデパート、スーパーマーケットなど至近距離にある。バブル時代に計画したから、バブル崩壊で売れ残り、大幅値引きが始まった。ようやく3区画売れ、わたしは新築2年後にさらに値引きすると言う営業担当者の勧めに乗ってしまった。わたしが入居した段階では、3区画は売れ残っていた。その後、何年も掛かって、買い手がついた。その間に、マンション価格はわたしの購入したときから大幅に下げた。長期の住宅ローンを支払いながら、資産価値の下がるのを横目で見ていた。  93年に購入したあと、分譲した不動産会社とのトラブルに当たった。不動産会社が売れ残り区画の管理費等をちゃんと支払っていなかったからだ。このときには、静岡地裁で調停を行った。何とか、不動産会社から請求額の半分をもらい、その功績が認められた。95年に理事長に就いてから、ずっと理事長としてマンション管理の現場に立ってきた。  今回のトラブルの発端は、2019年7月1日付『謎の「マンション管理士」に気をつけろ!』でも書いた、7世帯のうち、唯一、賃貸に出しているH育英会所有の1区画をキャバクラ寮にしてしまった問題である。  2017年9月末、突然、H育英会から新入居の電話連絡が入った。当然、どのような入居者か聞いたが、プライバシー侵害に当たるので職業さえ言うことができないと説明された。翌日、入居あいさつに来た若い男に聞くと、”キャバクラ従業員”と名乗った。前日提出された届け出書類にある氏名、電話番号は若い男とは違い、それがキャバクラ会社の社長のものだった。そこで、キャバクラ寮としてH育英会が賃貸に出したことがわかった。  その後、何度も何度も、H育英会にはキャバクラ寮契約の解除を求めたが、H育英会は拒否し続けた。2019年3月の通常総会で、H育英会に制裁的な管理費等の値上げで対抗した。H育英会は値上げ分の支払いを拒否した。こちらは管理規約の改正とともに、滞納金請求を続けることで、キャバクラ寮の契約解除を求めていた。  昨年のコロナ禍の中、H育英会は全く連絡もなく、突然、マンションを売却した。売却を担当した不動産会社は、新たな買主に重要事項の告知を行う義務がある。わたしは、重要事項としてH育英会の管理費等滞納金68万円がある旨を知らせた。  新しくマンションを購入した女性Kは、H育英会から管理組合から滞納金と言われているが、法的根拠はないので支払う理由はないと説明を受けたのだという。H育英会の事務局員Tとその父親のT常務理事(弁護士)から説明を受けたようだ。もともとはこのマンションを購入、ここで亡くなったHさんの遺言承継人、弁護士がTであるが、面識は全くない。Kは、H育英会(亡くなったHさんの遺産の一部でつくったから、H育英会と称している)と支払う義務のない契約をしたから、管理組合には滞納金を支払わないと通告してきた。  理事長として、そのまま滞納金未払いを黙って見過ごすわけにはいかない。 静岡簡裁から静岡地裁へ「移送申立」反対  キャバクラ寮の契約解除のためにさまざまな苦労を味わされた。このまま滞納金を未払いで済ますわけにはいかない。けじめをつけなければならない。結局、管理組合が原告となり、Kを被告として、68万円の滞納金請求訴訟を静岡簡易裁判所に起こした。  3月の通常総会で議題として取り上げ、Kにも訴訟提起を説明した。友人の弁護士に会って、68万円の滞納金請求訴訟を受けてもらえるのか聞くと、面倒な手間は同じだから、100万円程度の弁護士費用となってしまう、という。少額訴訟の裁判を低価格で受ける弁護士は非常に少ないとのことだった。それで、本人訴訟と決め、訴状をつくり、立証のための詳しい証拠をつけて、3月22日、静岡簡裁に提出、無事に受理された。  4月28日になって、Kの訴訟代理人にH育英会のT弁護士が就いた、と知らされた。それだけでなく、Tは静岡簡裁から静岡地裁への移送申立書を提出してきた。なぜ、静岡地裁へ移送するのか、さっぱり理由がわからない。それで、この訴訟について、相談した友人の弁護士に連絡すると、簡裁裁判官のほうが”優しい”と曖昧なことを言っていた。  30日午後、「移送申立に反対する意見書」を静岡簡裁に提出した。  T弁護士は管理規約で「静岡地方裁判所をもって、第1審管轄裁判所とする」とあり、民事訴訟法第11条に基づく「専属的合意」による管轄の定めとしている、と移送の理由を書いていた。  これに対して、1)当マンション管理規約は「専属的合意裁判所とする」とまでは定めていない。管理規約制定時、当マンションの所在地から最も至近距離にある裁判所を選択して、静岡地裁としたのであり、静岡簡易裁判所であってもその条件は全く同じである(静岡簡易裁判所は1階にあり、2階から静岡地方裁判所になっている)。2)簡易裁判所と地方裁判所の審理に何ら変わりはないから、管理規約に反することにならない。3)3月13日開催の管理組合総会で、被告Kに対して、訴訟を起こす旨を説明した。68万円という少額であり、簡易裁判所に提訴することも説明、Kから異論、反論は出なかった。4)2003年公布の「裁判の迅速化に関する法律」では、裁判所、弁護士、当事者は裁判の迅速化を推進する責務を負う。移送すれば、5月11日の第1回口頭弁論の期日が変わり、裁判の遅延は確実である。この4つが移送反対の理由だった。  5月7日、静岡簡易裁判所書記官から電話があり、「裁判官は静岡地裁への移送を決定した」と告げられた。決定及び理由の書面到着から1週間以内、即時抗告ができる旨も告げられた。  本人訴訟としたが、相手が弁護士となれば、今回の移送申立同様に裁判テクニックは不可欠なのかもしれない。友人の弁護士に電話で、相談業務のみ乗ってもらえるよう依頼、了解してもらった。近く、弁護士と面会して、費用等についてちゃんと確認する。  民泊の場合同様に、キャバクラ寮としての貸し出しを規制できるのか、また、管理費等を制裁的に値上げしたことが法的に問題ないのかどうか、この裁判で争うことになるはずである。 ※「マンション(管理組合)理事長へろへろ日記」は、今回の裁判にへこたれないよう、その経過を報告して、みなさんの支援を得ていくのがこの連載の目的です。『裁判官も人である 良心と組織の狭間で』(岩瀬達哉著、講談社)によると、簡易裁判所の裁判官年収は約1500万円らしい。なぜ、わたしの反対意見書が採用されなかった理由がちゃんと書かれているのだろうか?

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コロナ危機3「10万円」申請で何を学んだか?

「マイナンバーカード」受け取りに2カ月以上?  「マイナンバー関係 手続き(カード受取除く)待ち時間100分以上」。手書きのお知らせに驚いた。11日午前10時半ころ、静岡市役所1階のマイナンバーカード申請手続き窓口に市民が殺到、57人待ちの状態だった。その後も、待機人数は増えていく一方だった。みんなじっと窓口のほうをちらちらにらみ、我慢している。と言うのは、同日午前零時から静岡市でも「特別定額給付金」10万円のオンライン申請が始まったからだ。オンライン申請できれば、即座に給付金10万円が受け取れるのだろう。たとえ「待ち時間100分以上」でも、マイナンバーカードを手に入れたい、(アナログの)郵送での申請書など待っていられない、そんな強い気持ちの表れである。それで、家族一人当たり10万円が1日でも早く手に入るのであれば、万々歳である。  しかし、100分以上も待ち、面倒な手続きを終えたあと、窓口の担当者から残念なお知らせを聞くことになる。マイナンバーカードを申請してから、交付まで通常でも約1カ月も掛かるからだ。現在のように申請が殺到してしまうと、手元に届くまで2カ月以上、もしかしたら、3カ月掛かる恐れもあるという。(こんなことは待っている時には知らされていない)  静岡市HPによると、郵送による申請書送付は5月下旬からスタート、6月中旬には給付開始されるという。マイナンバーカードをたとえきょう(11日)申請しても出来上がるのは、どんなに早くても6月中旬であろう。その後のオンライン申請でも簡単ではない(次の項目で説明)。市民たちは何も知らずに、ただただ期待に胸膨らませて待っている。順番がようやくきて、窓口担当者から交付の時期について説明される。  少なくとも、「マイナンバー関係」窓口には「待ち時間100分以上」のお知らせだけでなく、「カード受取には2カ月以上掛かる」ことを大きく書いて知らせたほうがいい。 オンライン申請の”大難関”を越えられるか?  それでは、マイナンバーカードをすでに持っていて、オンライン申請をすれば、「10万円」をすぐに受け取ることができるのか?それも簡単ではない。オンライン申請には、いくつかの大きな難関が待ち構えている。  2016年1月マイナンバーカード制度がスタート、すぐにマイナンバーカードをつくった。ICチップの「署名用電子証明書」を付加しているか確認してみよう。このICチップでコンビニで住民票など各種証明書が取得できるようになり、市役所窓口へ行く手間は省ける。今回のオンライン手続きにも、ICチップの「署名電子証明書」が必要。この証明書には有効期限(5年間)があり、もし期限が切れていれば、「10万円」を受け取ることができない。有効期限切れ前に更新手続きを例の「マイナンバー関係」窓口で行っておかなければならない。  わたしの場合、2016年に作成、5年後の2020年誕生日(8月)まで有効となっている。これは何とかクリアした。  次に必要なのが、署名用電子証明書暗証番号(6~16文字の数字・英大文字で構成)をちゃんと覚えているかだ。申請当時、ちゃんとノートに控えたおいたからこれも問題ない。忘れてしまった人は、やはり「マイナンバー関係」窓口に並んで、暗証番号を再設定しなければならない。当然、むだな長い時間が掛かる。  そして、最後の難関が待っている。マイナンバーカードに対応した「カードリーダー」あるいは読み取り対応スマホを持っているのかどうかだ。最後の大関門で、おそらくほとんどの人が脱落してしまうだろう。「カードリーダー」って何?当然、ほとんどの人が「カードリーダ」など手にしたことはない。パソコン等に詳しい友人らに聞いてみた。誰も「カードリーダー」など持っていないし、触ったこともないと回答してくれた。  オンライン申請の静岡市窓口(市民自治推進課特別定額給付金事務局)に電話して、「『カードリーダー』を貸し出してくれるのか」と聞いた。担当者は「貸し出しはない。購入してくれ」と回答、それでアマゾンなどの通販サイトを調べてみると、通常価格の「カードリーダー」はほぼ払底していた。ちょっと高い「カードリーダー」を購入しようと、手続きすると6月末以降入荷と最後に出てきた。全国で「カードリーダー」に殺到しているからやむを得ない。「転売ヤー」の高額な代物を買ってまで、オンライン申請をするのは馬鹿らしいだろう。つまり、「カードリーダー」が用意できなければ、郵送申請をしろ、ということになる。  「マイナンバーカード」をちゃんと持っていても、オンライン申請ができる人はほんの極わずか。田辺信宏市長は7日会見して「静岡市でも11日からオンライン申請開始する」と前倒しでオンライン申請ができることを発表した。期待が大きかっただけに、市民は怒り出すかもしれない。ほとんどの市民が手続きできないからだ。担当窓口にそんな不満を述べると、「総務省が設計したことなのでこちらではなく、総務省に言ってほしい」とのことだった。  総務省は昔の自治省である。何だか、「3割自治」と言われた時代を思い出してしまった。ううむ、いまも同じなのか? マイナポイントを知っている人は?  「10万円」をすぐにもらうために、市民らが(勘違いして)窓口に詰め掛けた「マイナンバーカード」とは一体、何だろうか?  わたしの友人は1983年のグリーンカード構想同様に国民の懐具合い(金融資産、所得)を透明にして、国税や地方税の管理に使うシステムなのだという。その割には、2016年制度がスタートして、普及率は16%前後で全く浸透していない。  担当は財務省や金融庁ではなく、総務省である。静岡市役所1階には、マイナンバーカード普及を目指す「マイナポイトン」予約専用端末が幟(のぼりばた)とともに設置されていた。9月にマイナンバーカードとキャッシュレス決済を活用すると、2万円で2万5千円分として使えるポイントを得ることができるという。これで、マイナンバーカード4千万人増を目指すのだという。さらに、来年3月からはマイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになり、6千万から7千万のマイナンバーカード増を見込んでいる。  マイナンバー制度は、1「公平・公正な社会の実現―給付など不正受給の防止」、2「国民の利便性の向上」、3「行政の効率化」の3つの目的を掲げている。アメリカではトランプ大統領が3月27日に年収810万円以下の世帯を対象に、大人ひとり1200ドル、子どもひとり500ドル、4人家族で約37万円給付するコロナ対策に署名後、4月13日から給付がスタートしている。素早い対応である。  アメリカの場合、9桁のソーシャル・セキュリティ・ナンバー(SSN、社会保障番号)が国民全員に振り分けられ、銀行口座、クレジットカードを作るにもこの番号が必要である。かたや、日本のマイナンバーカードは12桁で、当然、身分証明書として使えるが、ほとんどの人は免許証、パスポートを銀行などに提示する。マイナンバーカードをつくらない人の多くが、利用価値がないから、という。  今回の「10万円」給付でオンライン申請がスムーズにできるのであれば、「国民の利便性の向上」に大いに役立つことになったが、全く期待外れである。アメリカの家庭に「ICカードリーダー」があるとは思えない。スマホも高級機種を持っているのは極わずかだ。本当に何のためにマイナンバーカード制度が始まったのか、理解に苦しむ。 マイナンバーカードで金融資産を丸裸にできる?  マイナンバーカードが16%程度の普及でも、国民の懐具合いを調べる方法は着々と進んでいる。2004年に銀行など金融機関の窓口で「本人確認法」に基づく制度がスタート、2008年には犯罪収益移転防止法が施行された。金融機関は口座開設時に本人確認を必要とし、なおかつ入出金には金融庁への報告とともにその記録を7年間保管することを義務づけた。  これで2百万円を超える大口取引や10万円を超える現金送金などする際、窓口で本人確認の提示を求められる。昔は通帳とハンコ(印鑑)さえ持参すれば、金融機関はおカネを出してくれたが、現在ではどこへ行っても身分証明書の提示が必要だ。つまり、他人になりすました口座をつくることはできないし、他人名義の通帳を譲り受けたとしても、少額でなければ、おカネを引き出すことはできない。結局、休眠口座となって国庫に入る運命である。  株式などの利益はほとんど特定口座で源泉徴収される。税務署などが本気になれば、2つの法律を使って個人の金融機関口座など丸裸にしてしまえるだろう。つまり、マイナンバーがなくても、現行の法律で金融機関の預貯金を調べることができ、個々の脱税などを追うことはできる。アメリカでも脱税に懸賞金を掛けているから、SSNだけでは巧妙な不正を行う人たちを突き止めることはできないのだろう。  個人の金融資産の把握に努めているのは、厚労省である。65歳以上の夫婦で4割が2千万円以上の金融資産を有しているという。介護施設での食費や住居費の補助を受ける低所得要件を金融資産が1人当たり1千万円以下であることを証明する必要があるが、どうも多くの人が正直ではないので、ちゃんと把握したいから、マイナンバーカードを必要という。  そうなると、ほとんどの人は「タンス預金」に走るだろう。  2024年4月から渋沢栄一の肖像を使う1万円札などに新円が切り替わる。現行のお札は旧札となり、使えなくなるという噂が一部で飛び交っている。つまり、タンス預金をあぶりだすというのだ。交換率は1対1だが、翌年くらいまでに旧札を無効にして、新札にすべて替えなければならないとしたら、こぞってタンス預金は一度は銀行などを通ることになる。タンス預金も丸裸にされるのだ。  実際には、ビリオネア(億万長者)と呼ばれる超資産家はタックスヘイブン(ケイマン諸島、パナマなど)を使っているから、金融資産をあぶりだすのはあまりに難しい。  「マイナンバー」の初期費用は約2700億円、維持費は年300億円。マイナポイント予算は2458億円と巨額である。なぜ、マイナンバーカード普及を目指すのか?だれか本当のことを知っていたら、教えてほしい。

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財布盗難。「慣れ」にご用心!

治安の悪い街ナポリの実情   ことし6月、ミュンヘン(ドイツ)、ナポリ(イタリア)、ウィーン(オーストリア)の順番で各都市を初めて訪れた。そのうち、ナポリのガイドブックは非常に少なく、ネット情報では治安が悪く、すり、かっぱらいなど頻繁にあり、非常に物騒なイメージばかりだった。2018年出版された、アメリカのミステリー作家ジェフリー・ディーヴァー「ブラック・スクリーム」(池田真紀子訳、文藝春秋)がナポリを舞台にしていたので読み返した。ニューヨーク市警の元鑑識課長、四肢麻痺のリンカーン・ライム(「ボーン・コレクター」でデビュー)は、ニューヨークで起きた事件がナポリに飛び火したため、ナポリに出向き、事件解決に当たる。車椅子の旅行者リンカーン・ライムの目でナポリを紹介していた。  リンカーン・ライムシリーズには犯罪捜査がつきものだから、カンパニア州ナポリ周辺を本拠にする4大マフィアの1つ、”カモッラ”について、詳しく書いてあった。カモッラは独立したいくつかの組織の集合体であり、ナポリ駅周辺にも本拠地を置き、食品とワインの闇商売、ごみの回収などを牛耳り、資金源としている。シチリア島の「マフィア」、ナポリ周辺の「カモッラ」、イタリア南東部プーリア州の「サクラ・コロナ・ウニタ」、特に危険とされる、ナポリの南側に本拠を置く「ンドランゲタ」が4大マフィア。ナポリのカモッラも危険であり、旅行会社の友人に聞いても、ナポリの治安はあまりよくないと言うから、「おカネよりも生命が大事」という旅の鉄則を守り、カモッラ地域には近づかないと決めた。  ミュンヘンからナポリ空港に着いて、きょろきょろ見回し、直行バスでナポリ中央駅に向かい、ホテルを予約した駅前で降りた。怪しげな物売りが立ち並ぶ汚い路上を歩きながら、周囲に気を配り、スーツケースだけでなく、上着ポケットにしまったパスポートや財布には十分注意を払った。  ナポリでの一番の目的は、国立カポディモンテ美術館にあるブリューゲルの「盲人の寓話」、「人間嫌い」。朝タクシーを使い、狭い道路を抜けて、目的地に着いた。駅前を中心とした街の中はごちゃごちゃしてきれいではないが、道を聞いてもみな親切だ。街には小銃を構えた軍警察官がたくさんいて、警戒に当たっていた。ナポリ2日目で分かったのは、食べるものは安くて、おいしい、ガイドブックがお薦めしない下町「スパッカナポリ」、「スペイン街」を歩いてもまったく危険な感じはしなかった。サンタルチアの卵城など観光地は駅周辺とはひどく違い、高級リゾートの雰囲気さえした。ただし、昼間だ。  ナポリ3泊4日、危険な夜の外出は控え、何らトラブルに合わなかった。そのあと訪ねたウィーン4泊5日は全く安全で、トラブルに遭うこともなく日本に戻ることができた。 おふろカフェ美肌湯で盗難に遭う  海外ですりや盗難はつきもので、もし、そんな目に遭ったとしても仕方ないとあきらめるしかない。それが、まさか、静岡で盗難に遭うとは思いもしなかった。  11月1日朝6時起床、6時半ころ、昭府町にある銭湯おふろカフェ美肌湯(びじんゆ)に行った。2時間半くらい、サウナ、水風呂を繰り返して楽しみ、8時50分ころに銭湯を出て、帰宅した。そして、帰って気が付いたら、財布がなくなっていた。  財布がなくなったことは自宅に戻って気づいた。財布はズボン(作務衣)の左ポケットに携帯電話とともに入れていた。銭湯入館にカードが必要なので、財布からカードを出して、チェックを受け、再び、ポケットにしまった。帰りに代金を支払うのに、その日はたまたま、6百円小銭で右ポケットに入っていた。朝風呂は580円、お釣りを20円もらった。左ポケットの財布に意識が行かず、右ポケットにある車のキーを取り出して、自宅に戻った。戻る途中、財布の存在について、何ら意識していなかった。当然、左ポケットにあるものと思い込んでいた。  そして、自宅で気が付いたら、財布が消えてなくなった。  銭湯に電話して、財布の届け出がないことを聞いたが、念のため、銭湯にもう一度出掛け、早朝に使ったロッカーを確認した。当然、財布の置き忘れなどあるはずもなかった。  もしや、車のどこかに落ちているのではと期待したが、当然、そんなこともなかった。 現金2万5千円などが入った財布  盗難に遭った以外、他に理由は見当たらなかった。銭湯、車、自宅以外にどこへも寄っていないし、銭湯で財布を取り出したのは、入館時の一度しかない。帰りは、そのまま車で自宅に戻り、ポケットに財布がなかったのだ。  財布が盗難にあったことで混乱、ショックを受けたのはほんの少しの時間だった。自宅で一生懸命探したが、ムダだった。さて、どうするのか?  現金は2万5千円くらい。まず、現金が戻ってくる可能性はゼロだろう。財布には8枚ものカードを差し込むことができた。まず、何を差し込んでいたのか思い出さなければならない。免許証、保険証、クレジットカード5枚、図書館カード、デパート10%割引カードなど。その他、理容店、パン屋、マツキヨなどのポイトンカード、お守り、タクシーチケットなどが入っていた。本当に面倒くさい。もっと大切な何かが入っていたのかもしれないが、忘れてしまっている。  何よりもその革財布が気に入っていた。2012年ロンドンで購入した英国王室御用達の文具メーカー・スマイソンのブランド品、イニシャルも入れてもらっていたし、本当に使いやすかった。  まず、昼前に静岡中央警察署に出向き、会計課で落とし物の届を出し、そのあと、刑事一課に出向き、財布紛失は「盗難」以外に考えられないと伝えた。「盗難」であれば、現場検証をするとのことだが、昭府町交番の警察官とおふろカフェに出向いたとしても、単に記録を取るだけで、財布が見つかる可能性は非常に低い。  「もし、どこか別の場所で、財布が見つかったり、身分証明書やクレジットカードを悪用された場合、盗難がはっきりとする。そのときにちゃんと捜査対象にしてもらえればいい」と話すと、「盗難記録」として受理してくれた。なかなか賢い女性警官だった。  現金だけを抜き取って、財布だけ捨ててくれ、という淡い期待を抱いて、連休明けの5日まで待った。「財布発見」の連絡はなかった。  6日にまず、免許センターへ行き、免許証の再交付手続きを行った。中央署ならば、1カ月掛かるが、免許センターへ出向けば、即日交付とのこと。料金3500円。その後、保険証再交付(無料)、図書館カードの再交付(100円)を済ませた。クレジットカードのうち、アメックス(年会費7千円)は無料ですぐに送ってくれるとのこと。デビットカード機能を持つソニー銀行カードは、盗難の受理番号を知らせたので、1650円の再発行料が無料となった。  Tカード、鈴与スマイルカード、静銀アプラスカードは有料。それで、いっそのことカードを整理することにした。カードを持ち過ぎていた。自宅にも1枚置いてある。6枚も持っていても実際には使うことはない。デビットカード機能(クレジット)を持つソニー銀行カードは、使った料金の2%分がバックされる。それを使えば他のカードのようにポイントをためるのと同じだ。  おふろカフェに電話を入れて、最後に使ったレシートがちゃんと残っているので再発行すれば、ポイントがそのままつくのか確認した(ポイントがずいぶんたまっていた)。ポイントの継続はできず、単に200円の再発行費用が掛かるだけのこと。盗難に遭った現場なのに、おふろカフェの管理責任は何もないらしい。これにはちょっと腹が立った。カギを掛けたロッカーに入れておいたのに盗難にあったのだから、もっと十分な管理が必要だ。貴重品を銭湯に持っていった自分自身の責任は十分に感じているがー。  最後に残ったのが、「財布」?それ以外は「再交付」をしたので、以前と同じ日常が戻ってきたような気がする。 ナポリを見ずして死ぬことなかれ  スペインのバルセロナですりに遭ったときには、現金だけが抜かれて、財布とカードは戻ってきた。今回もそうなればいいなと考えたが、そんなにうまくはいかないようだ。  若いときであれば、財布を盗まれたら、もっと大きなショックを受けていたかもしれない。だんだん、感性が鈍くなってきている。「慣れ」は怖い。「慣れ」てしまうから、ときどき旅に出て、初めての場所での緊張を強いられることで「慣れ」ることを用心するのだろう。  「ナポリを見ずして死ぬことなかれ」。See Naples and then die.直訳では「ナポリを見てから死ね」。ナポリ湾の美しい風景をたとえて、世界中で一番美しい場所を見る幸せをあらわしている。ナポリを訪ね、いろいろ見て、食べて楽しんだら、生きているうちに実現すべきことのリストはそれで終わりという意味らしい。この世で経験すべきことはもうない。そんなはずはない。新鮮な驚きを楽しむのが旅のだいご味だが、盗難に遭うのは人生のやり直しを自覚するのにはちょうどよい。  年を取っていくと人生は悪いことのほうが多いことに気づく。でもよいことも少しはある。クレジットカードの悪用もいまのところはなく、現金その他がなくなったことだけで済んだ。財布だけでも戻ってくることを期待して、しばらく、新しい財布を購入することを待ってみる。  きっと何か別のよい知らせが来るような気がする。新たなよい経験が未来にあることを期待する。年取ってくると、「慣れ」の連続で、この世で経験すべきことはすべて済んだような気がしてしまう。新鮮な感動を持つには、「慣れ」に慣れないこと。大切な財布が戻ってくれば、きっと感動するのだがー。いまのところ(16日現在)免許証、保険証等が悪用されたという、ドキッとさせられる情報もない。

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謎の「マンション管理士」に気をつけろ!

「マンションは管理を買え」とは?  マイホームは人生最大の買い物である。35年もの長い住宅ローンを組んで借金を返済していくのが通常だ。ところが、マンション購入に関して、多くの専門家が次のように言う。 「マンションは管理を買え!」  そう言われても、マンションは購入して住み始めないと、マンション管理の重要性は全くわからない。費用、立地、間取り、環境などを見て、ほとんどの場合、マンション購入を決める。しかし、質の高い「管理」こそが重要だと言うのである。そのために、「マンション管理士」という国家資格さえある。  「マンション管理士」と言っても、どのような職業か知る人は非常に少ない。合格率8~9%の国家資格「マンション管理士」(難関度は社会保険労務士などと同じくらいという)とは、委託されたマンション管理組合(区分所有者が全員加入でつくる組合)側の立場でコンサルティングするのが主な仕事のようだ。ほとんどのマンション管理組合は管理会社に任せきりの現状だから、管理会社社員が名刺に「マンション管理士」の肩書をのせて、マンション管理組合の信用を得て、各マンション管理組合の相談などに乗っている。独立して個人事務所を構えるマンション管理士は非常に少ない。  今回、ある「マンション管理士」に出会い、マンション管理士とは何かを考えさせられる事件が発生した。  わたしが理事長をつとめるマンションは8階一棟建てマンション(1階が駐車場)のため、区分所有者は7世帯しかなく、管理会社に管理を丸投げする費用はなく、長い間、自主管理を貫いてきた。いくら居住者が少なくても、マンションにはさまざまなトラブルがつきものだ。  今回のトラブルはまさに、「マンション管理士」であった。 マンション一室がキャバクラ寮に  トラブルの発端は、7世帯のうち、唯一、賃貸に出している3階区分所有者(育英会を運営する一般財団法人H)との問題である。2017年9月末、突然、Hから空室だった3階に居住者が入るという電話連絡が入った。当然、どのような入居者が聞いたが、プライバシーの侵害に当たるので職業さえ言うことができないと説明。翌日、入居のあいさつに来た若い男に聞くと、キャバクラ従業員と名乗った。前日提出された届け出書類にある氏名、電話番号はキャバクラ会社の社長のものだった。  その後、3階居住者によるびっくりするようなさまざまなトラブルが発生した。3階を除く、すべての区分所有者の要請で、昨年9月臨時総会を開催して、Hに対して3階のキャバクラ寮としての契約を解除するよう求めた。  このマンションでは2011年総会で、「事務所、仕事場など」及び「不特定多数の出入りする寮」としてのマンションの使用禁止をするルールを決めていた。Hは管理規約、使用細則で決められていないと言ってきたが、管理規約第63条で「規約、使用細則又は法令のいずれにも定めのない事項について、総会の決議により定める」とあり、当時はHも含めて賛成したルールだった。  昨年9月に臨時総会を開催、キャバクラ寮としてのさまざまなトラブルを挙げて、「不特定多数の寮としての使用はできない」ルールを守るため、即刻契約解除を求めた。理事の一人が次回の更新時に、契約を解除するまで待つという妥協案まで示した。  ところが、Hはこちらの求めをすべて無視したため、何度か書面で求めたが、逆に理事長宛に弁護士名の内容証明郵便などが送られ、契約解除に応じることはなく、総会での決議は無視されたままとなった。  再三再四、「寮としての使用不許可」を求めたが、これまで通り無視されれば、3階のキャバクラ寮は続いていくことになる。さらに、Hからキャバクラ会社との契約は「自動更新」である旨も告げられた。未来永劫、従業員の顔触れは変わってもキャバクラが存在する限り、3階は「キャバクラ寮」として使われることになってしまうのだ。  そんな状況の中、ことし3月総会で「不特定多数の出入りする寮としての使用不許可」を求めたあと、「非居住者の住民活動協力金」をHに求める議案が出され、出席したHの事務局員を除く全員賛成で可決された。この結果、4月から通常の管理費等に加えて、Hには「協力金」の支払いが決まった。Hが3階を賃貸に出しながら、自主管理の業務に全くタッチしていないことが主な理由だった。また「キャバクラ寮」との契約解除が行われるまで、「協力金」を支払えというのが提案した理事の主張だった。 マンション管理士が不公平だと言っている  4月末頃、Hは管理組合宛に「マンション管理士に相談し、このような根拠がなく、また一区分所有者だけの負担が増えるなどの、平等性のない管理費の実質的な値上げ要求に応じらない」と文書で通知してきた。  「非居住者の住民活動協力金」は最高裁の判例でも認められていて、問題ないはずだった。それなのに、マンション管理士が公平公正ではないと言っているという。そのような無責任な発言をするマンション管理士などいないだろうと考え、Hに対して、名前等を教えるよう依頼した。メールでマンション管理士名がTだと告げられた。  Tに面会して、2時間半もマンショントラブルについて、事細かく説明した。Tが一方的にHからの主張を聞いていて、実際の事情等を不承知であることを懸念したからだ。「協力金」の額が一般に比べて高いという指摘には、もしそうでなければ、Hは「契約解除」に応じることはないからだと説明した。Tは中立の立場であり、相互の意見を聞いて、最も良いアドバイスをするのが業務である。Tはマンショントラブルの事情を理解してくれた旨を管理組合員に知らせたが、何らかの解決策を見出すことはできないだろうとも考えた。  ところが、Tは「わたしではなく、別の理事に会いたい」旨を、Hから当該の理事へメールで伝えてきた。わたしの頭越しの話だったので、Tに連絡すると、「マンショントラブルを解決したいのだが、あなたでは妥協点がなく、別の理事に会って妥協点を探りたい」などと話した。理事全員がわたしと同じ意見であり、また管理者はわたしなのに、なぜ、別の理事に会いたいのか不信感を抱き、「なぜ、当マンションのトラブルにそこまで対応するのか」と聞いた。TはHの無料相談を受けたあと、わたしに面会して、マンションの事情等を聴いている。すべて無料であり、別の理事に会うのも当然、無料ということになる。  Tは「相談業務を受けている静岡市に報告義務があるから」と答え、報告実績を重ねることで現在、「無償」の相談業務を「有償」にさせる目的がマンション管理士会にあるのだと説明した。 相手側の意向に沿ったマンション管理士の発言  電話で話していて、前回の対応と違うことを実感した。Tは「区分所有法は共有部分のみを規制できるが、個々人の専有部分には及ばない」と何度も強調したからだ。つまり、「不特定多数の出入りのある寮としての使用禁止」を決めた総会のルール、管理規約、使用細則は法律違反に当たるかの発言を繰り返した。区分所有法は専有部分の規制はできないのだから、管理規約等で専有部分を規制することはできないというのだ。  さらに、「協力金」について、総会で決めた金額が一般的な「協力金」に比べて高いことを問題にした上で、Tは個人的な意見として「違法と思われる(金額)」と何度も繰り返した。あまりに踏み込んだ発言だっただけに、疑問を呈すると、「『違法』であると断定していないのだから、別に問題ない」と言うのだった。前回の話し合いでは、「協力金」を請求することに違法性等はないと断言していたのが、金額が高いことをもって「違法と思われる」と意見を変えたのだ。  これではたと気づいた。もし、別の理事がこの2点の発言を聞けば、どうなるか。「マンション管理士」という専門家による「違法と思われる」という発言であり、自分たちのしたことは「違法」と思い込んでしまうかもしれない。だからこそ、Tはわたし以外の別の理事との面会を求めたのだろう。一般的には専門家の意見は非常に重い。Tのいう「妥協点」とはマンション管理組合側に「非」があるのだから、H側の主張が正しい、と言っているように聞こえた。   本当にそうだろうか? 「違法」かどうかの判断は裁判で決めるしかない  国交省が定めた標準管理規約では、専有部分について「専ら住居として他の用途に供してはならない」と規定している。ペット飼育禁止も専有部分の話である。国交省は専有部分についての規定を許可している。当マンション管理規約でも「専有部分を住居以外の目的に使用することはできない」「ペット飼育はできない」などの規定があり、それについてHは反論していない。区分所有法は共有部分についてのみ規定しているかもしれないが、管理規約で専有部分の使用制限をすることに問題はないのだ。  また、Tに会った当初から、わたしは「協力金」は最高裁判例(2500円)に比べて非常に高い(3万4千円)ことを承知している、と述べた。キャバクラ寮としての賃料をこちらは知らないが、この負担がH側に高いとは思えず、十分対応可能だと説明した。「協力金」の目的はマンションルールに反して、「不特定多数の出入りのある寮」としての使用不許可を続け、マンションの資産価値を下げるなど区分所有者として「共同の利益」を守る原則に反していることへの制裁の意味が強い。  国交省担当課に聞いたところ、専有部分の寮としての規制は「違法とまでは言えないのではないか」と回答した。個々のトラブルの事情まで承知していないから断定はできないとしても、少なくともマンション管理士Tの説明とは大きな違いである。 「嘘」をつくマンション管理士とは?  「キャバクラ寮」については、個人それぞれの見解は違うだろう。そのマンションを平和な終の棲家としている住人たちにとっては大きな問題である。街中にあるマンション生活は便利なことが多いが、どのような管理をしているのか、住民の顔が見えるのかなどちゃんと調べてからマンションを購入することをお薦めする。  マンション管理士に聞いてみるのもいい。しかし、どのようなマンション管理士に聞くのか、十分注意すべきだ。  マンション管理士Tの「静岡市に報告義務がある」発言は、静岡市担当者に確認すると、真っ赤な嘘だと判明した。「嘘」をついてまでわたしたちのマンショントラブルに介入して、相手側(H)の意向に沿うような発言をするのはなぜか?  Hの常務理事は弁護士である。だから、今回のトラブルに関して、さまざまな書面を理事長宛に送ってきている。それが最後には、マンション管理士に相談して、「違法と思われる」発言をするのは全くもって謎である。

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「浜名湖うなぎ」ブランドが消える日

うなぎはどんなに高くても食べる?  先日近くの鰻店「池作」店頭の貼り紙「値上げのお知らせ」を見て、「ああそうか」という深い感動を覚えた。シラスウナギ不漁の影響で、6月からうな丼もうな重も2百円値上がりする。年に数回、この店を利用するのは近くにある他店よりも値段が安いからだ。この店が6月に値上げすると、うな丼2200円、上3000円、特上3700円、うな重3000円、特上3700円。  10月から消費税8%が10%に上げられるから、便乗値上げがなければ2%分の物価上昇だ。うなぎ価格の2百円アップは、6%から10%もの値上げになる。だから、いまのうちに一度食べておこうという気持ちにさせられた。  すぐ近くにある老舗鰻店がこの近辺では値段が一番高い。「ブランドうな重7千円、国産うな重4500円」。この値段だから、わたしはこの店に一度も入ったことがないが、多くの客でにぎわっている。駒形通りにある刺身、天ぷらなども提供する鰻店は「うな丼2300円、うな重3300円、特うな重4000円、棚うな重(2串)5100円」。ちょうど中間くらいの値段で、こちらも決して安くはないが、客入りはまずまずだ。  20年前浅草の老舗高級鰻店で、うな重特2200円~2300円、お安い店では1500円~1700円で食べることができた。浜松の老舗で棚うな重(2串)が2900円だった。デフレが定着した平成時代、すべての商品が安くなった。ところが、うなぎだけは別格である。うなぎは約70%も値上がりしたことになる。うなぎと同じように物価が値上がりすれば、インフレターゲット2%を大幅に超えるから、日本のデフレ脱却も可能だ。もしかしたら、うなぎは日銀政策に大きなヒントを与えるかもしれない。  鰻店の客入りが悪くてつぶれたという話を聞かないから、どんなに高くなっても日本人はうなぎを食べたいのだろう。 シラスウナギの謎は解明できない  20年前に浜名湖うなぎを取材したとき、養鰻業組合の代表が「日本人は年間に1人当たり5匹のウナギを食べている」と教えてくれた。いまも変わりないだろう。  これまでに 吾(われ)に食われし鰻らは仏となりて かがよふらむか  歌人の斎藤茂吉は鰻が好きで好きで仕方がなかった。この歌について「これまでずいぶん鰻を食べた。自分は必ずしも高級上品を要求しない。鰻であればどんなものでもよかった。自分の食べた鰻のことごとくが成仏して天国で輝いている」と説明。茂吉の日記を調べると、年5匹どころではなく、年50回以上も鰻を食べていた。「鰻のおかげで仕事がはかどった」と書いているから、茂吉の業績を鰻が支えたのだろう。そんな茂吉のように1週間に一度、鰻を食べるうなぎ好きも結構多い。  ウナギは初夏に外洋で誕生し、約半年間掛けて体長5、6センチに成長、シラスウナギと呼ばれる稚魚に育つ(タイトル写真が”白いダイヤ”と呼ばれるシラスウナギ)。冬になると、シラスウナギは浜名湖、天竜川、大井川などの沿岸にたどりつく。シラスウナギを網で捕るのだが、「池作」の貼り紙にあったように不漁が続いている。特に今シーズンは大不漁で値段が上がり、その影響で養鰻業者は高い値段でシラスウナギを買わざるを得ないのだろう。  いまから約120年前、浜名湖で養鰻業は始まった。近くでシラスウナギがたくさん捕れたことも理由の1つだった。静岡県水産試験場浜名湖分場が戦前の1934年、ウナギ研究を最大テーマに設立された。シラスウナギの好漁、不漁に左右されることから、浜名湖分場では人工ふ化研究を62年にスタートした。  30年以上を経て、96年浜名湖分場で2万匹以上、大量の人工ふ化成功のニュースが流れた。しかし、ふ化した幼生はすぐに全滅した。浜名湖分場だけでなく、国の研究機関や大学など日本中でこぞってウナギ完全養殖を目指して、大量の人工ふ化技術を競った。しかし、幼生からシラスウナギに成長させることがいまもできない。結局、明治の昔と同じで天然のシラスウナギが頼りで、ことしのような大不漁が続くと、シラスウナギ価格は上がり、うな丼、うな重に大きな影響を与える。  京都市東山区に全国で唯一、ウナギ(水蛇=みずち)を信仰する三島神社がある。平安時代創建の神社の言い伝えでは、神の使者であるウナギが付近の魚をすべて食べてしまい、三島の大神が激怒、ウナギの子縁を召し上げてしまった。このために、ウナギは、子縁が少なく、どこで産卵するのかも不明なのだという。  1200年前から続く謎は、どんなに科学が進歩しても解明できない。 愛知、鹿児島、宮崎産が”浜名湖”に化けた時代  フランス料理には70種類以上のうなぎ料理があるが、日本でうなぎ料理と言えば、鰻を焼いた蒲焼きに決まっていた。茂吉も蒲焼き以外は食べなかった。福岡の「鰻のせいろ蒸し」、京都の「鰻雑炊」などもあるが、やはり日本人は茂吉同様にうな丼かうな重で決まりだ。  江戸時代初めに、香りのよい醤油が生まれ、美酒かみりんに鰻を浸し、醤油の中に突っ込んだ。徳川家康はウナギの天国のような湿地帯だった江戸を切り開いた。江戸城に入り、山を崩し、川を埋め、用水路を掘ったため、住民が増え、江戸は大都会になったが、天然ウナギの宝庫で、うなぎ蒲焼きは日本人の生活に欠かせないものになった。  ウナギ養殖が家康に関係の深い浜松で始まり、江戸だけでなく日本全国で鰻料理が食べられるようになった。戦後、「浜名湖うなぎ」はウナギの一大ブランドに成長した。1961年「うなぎパイ」が誕生したのも、浜松がうなぎ産地だったことと大きく関係している。「うなぎパイ」はウナギ由来の「うなぎエキスパウダー」が含まれ、「夜のお菓子」と呼ばれている。  20年前「浜名湖うなぎ」ブランドにあやかって、愛知、鹿児島、宮崎などのうなぎがいつの間にか「浜名湖うなぎ」に化けて店頭に並ぶこともしばしばだった。ところが、今回調べてみると、「浜名湖うなぎ」を売り物にしているうなぎ店はめっきり少なくなった。浜名湖うなぎに代わり、愛知、宮崎、鹿児島産などのうなぎ蒲焼きがそのまま店頭に並び、中国産に比べ高値で売られている。  駿河湾では、サクラエビ不漁が大きな問題になっている。浜名湖でもアサリ不漁が伝えられる。いずれも駿河湾、遠州灘、浜名湖の環境変化に原因があるのだろうが、これまでの乱獲がその大きな理由であるのは間違いない。  すべては「異変」ではなく、これが自然の本来の姿である。静岡県水産試験場浜名湖分場は50年以上もシラスウナギの謎を追い掛けてきたが、その成果を得られることはできなかった。浜名湖(浜松市西区舞阪)のウナギ養殖池はほとんど埋め立てられ、浜名湖うなぎは風前の灯火だ。いくら科学が進歩しても、自然を人間の力で何とかしようとすることに限界はある。鰻という日本人が大好きで、いくら高くても購入する商品であっても、ブランドを守ることなく、手をこまねいていれば、その運命はおのずと決まる。  約百年間続いた「浜名湖うなぎ」ブランドの消える日はもうすぐである。

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バブル崩壊前夜、マンション購入すべきか?

すぐそこにある「マンション絶望未来」  タイトル写真の「不動産バブル崩壊前夜」(週刊東洋経済)の見出しはあまりに衝撃的。その少し前の特集は「すぐそこにある、マンション絶望未来」。中国経済の減速、ヨーロッパ経済の不透明などが連日報道され、景気減速による危機的な状況がひたひたと近づいている様子を伝える。平成バブル崩壊とともに、地価は上がり続ける「土地神話」は崩れたが、その後もマンション建設は順調に続いた。2007年アメリカの住宅バブル崩壊、サブプライム住宅ローン危機(日本ではミニバブルが続いていた)、2008年リーマンショックで一挙に大不況の波に襲われた。それからまた10年以上が過ぎた。雑誌タイトルの「バブル崩壊」前夜に不安を持つ読者は多いだろう。いまマンションは買い時か否か?  お先真っ暗な見出しやタイトルは、雑誌購買をうながすための出版社の常套手段かもしれない。そうは言っても、バブル景気をあおってきた2020東京オリンピック開催、”令和”改元の祝賀ムードも終わり、異次元の財政出動の弊害が再来年(2021年)以降に起きてもおかしくない。  思い起こせば、1991年「平成バブル崩壊」を引き金に不動産業界は長い冬の時代に入った、と言われる。わたしは93年に”バブルマンション”を購入した。果たして、その判断は正しかったのかどうか? 東海地震をにらみ地盤の強固さ調査  バブル時代に計画された91年竣工の分譲マンション購入を勧められたのがきっかけだった。住宅ローン返済を考えれば、マイホーム購入を検討すべき年齢を過ぎていた。当時は「年収の5倍」が住宅ローン借り入れ額の目安と言われた。バブル崩壊の実感はさらさらなく、当時サラリーマンの年収はちゃんと増え続けていた。「年収の5倍」を頭に入れれば、借金の不安を感じることはなかった。  静岡市で人気の安東、大岩地区などの戸建て地域ではなく、JR静岡駅の徒歩圏内、映画館やデパートに近い中心部に住むのが希望だった。阪神大震災、東日本大震災も起きておらず、2000年までには東海地震が発生すると信じられていたから、戸建てより鉄骨鉄筋コンクリートマンションのほうが安全であり、地盤の固い地震に強い地域がどこかを探した。最初、中古マンションを回ってみたが、中心部の地価の高い静岡市の土地柄とあいまって、古い割には高値安定傾向で、良い物件は非常に少なかった。  そこで新築の2年落ちマンション、JR静岡駅まで約15分、駿府城公園まで約10分とパンフレットではうたっていた。便利な中心部で周囲の環境も悪くなく、液状化などの心配のない強固な地盤を確認、さらに大幅値引きがその気にさせられた大きな理由だった。  何度かの交渉後、大幅値引きするという営業マンの勧誘にまんまと乗っていた。豪華なマンションのパンフレットに、当時の売り出し価格表が添付されていた。約8518万円から約6122万円、いかに”バブル価格”だったかいまになればわかるが、中古マンションを含めて中心街のマンション供給は少なく、高値の時代だったから、まあそんなものかと考えた。「1千万円程度の値引き」に応じる交渉から始まった。「1千万円」の値引きに驚いた。マンション価格とはどうなっているのか?  「土地代+建設費用+販売管理費(広告費など)+利益」。新築マンション価格は業者が以上の4点を計算した上で、適当なマンション価格をつける。ふつうに考えれば、1千万円もの値引きをすれば、業者の「利益」はゼロに近くなるだろう。ところが、さらなる交渉を重ねると、とうとう値引き額は2千万円となった。本当なのか。それで何かこちらが得した気持ちにさせられてしまった。ついに「買いたい」と言っていた。 年利4%、35年返済で当初の倍額に  マンション購入となると、真っ先に頭に浮かぶのは住宅ローンをいくら借りるかという問題だ。頭金を工面して、結局3500万円を30年間で借りることにした。当時の公的融資は、財形住宅融資と年金住宅融資。2つの公的融資を目いっぱい借りることで、3500万円調達のめどを立てた。  財形住宅融資年利4・1%、年金住宅融資年利4・32%と4・5%。それぞれの「金銭消費貸借契約書」が手元にあるが、返済期限は平成40年(2028年)9月。39歳で契約したから、返済終了は74歳である、70過ぎてローン返済の未来は想像したくもなかった。  35年ローンで毎月15万円程度の返済。3500万円の借金で、当初の年間利子だけで約150万円。もし、35年間で返済していたら、ほぼ倍額7千万円近くを支払う計算だ。97年1月の財形住宅融資償還額は9万9202円(元金分4万5486円、利息2万5636円、団体信用特約料2万7608円、手数料472円)、98年10月の年金融資償還額は7万3811円(元金6万1118円、利息1万1658円、手数料300円、特約料735円)の合計約17万3千円を支払っている。  繰り上げ償還を行い、50歳までを目標に、遅くとも定年の60歳までには住宅ローン完済を目指した。  バブル崩壊で大騒ぎしていたが、サラリーマン収入はその前後で極端に変わっていなかった。実際は、ミレニアムを迎える2000年を境に会社側の給料減額が露骨に始まる。「新入社員は3年で辞める」はこの頃から。辞める最大の理由は、仕事の割に昔のような給料を払わなくなったからだ。政府がデフレ脱却を目標にしても、若い人たちの給料が上がらない、住宅ローンの年利4%時代はもしかしたら、良い時代だったのかもしれない。 賃貸のほうが費用は少ない  現在の金利は当時に比べて極端に低い。年金住宅融資は2005年で新規受付を終了。現在の財形住宅融資は金利0・76%(当初5年間)とある。金利4%に比べれば、夢のような時代を迎えている。  当時の消費税は2%だった。住宅ローン金利は1%前後で限りなくゼロに近づいているが、消費税は10月から10%にアップする。増税を機会に、人生最大と言える”借金”に踏み出そうと考えている人は多いだろう。もし、気に入った住宅(あるいはマンション)があるならば、多額の”借金”を気にするべきではない。グッドタイミングは「買いたい」という気持ちを持ったときだ。  繰り上げ償還の目標を立て、ふだんの生活でなるべくムダな費用を節約、いまの時代ならば副業もOKなのだ。   マンション購入ではなく、賃貸という方法もある。これは非常に難しい問題だ。29階建ての呉服町タワーマンション(2014年竣工)は75平方㍍で賃料月24万円(入居一時金72万円)、27階建て七間町エンブルマンション(2017年竣工)は93平方㍍で同29万円(同87万円)。管理費・修繕積立金、固定資産税などの負担はないが、年288万円から348万円の家賃は決して安くない。  購入よりも賃貸のほうが気は楽なことは確かだが…。 固定資産税額を調べるべきだ  マンション購入で、ほとんどの人が全く考慮外になっているのが、固定資産税額。バブルマンションの場合、建設資材など建築費が非常に高く、その価格が固定資産税額と密接に関係する。  もし、現在、マンション購入を検討しているのであれば、固定資産税課を訪れ、購入を考えているマンションの固定資産税額を確認したほうがいい。5月7日まで縦覧制度を利用、七間町エンブルマンション、呉服町タワーマンションなどの固定資産税額を見ることができる。  購入時のドタバタの中では、固定資産税が高いのかどうかなど考える余裕などない。翌年3月静岡市から固定資産税等通知書が届く。わたしの場合、最初にもらった固定資産税額は年約28万円だった。びっくりしてしまった。年間4回に分割でき、毎回約7万円の支払いは本当に痛かった。  入居から26年を経て固定資産税は下がったが、その後のバブル崩壊後に建設されたマンションに比べて、固定資産税額は非常に高い。その年の建設物価で固定資産税が決まり、その後は係数を掛けるだけだから、安い建設物価時代の固定資産税は安く、バブル時代の固定資産税は高止まり。その年の建設物価を再計算してくれるわけではない、バブル時代の高値の固定資産税額がその後もずっと追い掛けてくる。ところが、マンションの市場評価額は新築マンションのほうがずっと高く、固定資産税額だけはわたしのマンションのほうが高いという不公平が続く。  ここ数年続いたマンション価格の上昇を見れば、建設物価も高値であり、固定資産税額も同じように高いはずだ。七間町エンブルマンション、呉服町タワーマンションなど最近建設された高層のマンション購入を検討する場合、ローン返済計画とともに毎年支払う固定資産税額を調べることを奨める。当然、高層階であれ、低層階であれ、固定資産税額は変わらないことも頭に入れておいたほうがいい。

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よくわかる銀行ー豚の貯金箱との違いは?

20万円では利子のつかない時代   タイトル写真は、小学校高学年から中学生を対象にしたPHP研究所「よくわかる銀行」(2018年2月時点の情報)の「貯金箱と銀行の違いは?」に使われた図で、「銀行の口座に預金してお金をふやすことを『貯蓄』といいます」と説明されていた。  果たして、この図は正しいのか?  先日静岡銀行呉服町支店へ行き、NPO法人の普通預金通帳に記帳しようとした。2度やっても「取引はありません」と表示。2018年2月から記帳していない。「休眠口座」の制度が始まった。毎年1回通帳記帳すれば、取引をしたことになるのだろう。ATMに通帳を通せば、利息が印字され取引成立のはずだ。それなのに3度目の正直でも「取引はありません」という画面。約20万円も残高があるのに、利子がつかないはずがない。そう考えて、窓口へ行った。  説明によると、普通預金金利0.001%だから10万円あれば、1年間の利子は1円。ところが、利子は半年ごと(2月、8月)2回つくから、利子も半分になるという。半年ごとの20万円の利子計算は次の通り。  20万円×0.001%×半年(1/2)=1円  しかし、これでも1円の利息はつかない。税金が20.315%掛かるから、税引き後1円ではなく、80銭弱となる。銀行利子は1円以上だから、80銭では利子はつかなくなると説明。つまり、20万円の普通預金では利子がつかなくなる。計算では、残高25万円以上ないと利子1円さえ獲得できない。(25万円の場合、半年ごとに1円、年利2円)  ちょっと複雑だが、こんな簡単なことさえ知らなかった。 銀行は預金者の味方か?  それで静岡市立図書館へ行って、「お金」「銀行」を書名に入れて調べると、300冊以上がヒットした。その中から、なるべく簡単な子供向けに書かれた最近の本を探した。「よくわかる銀行」(PHP研究所)「池上彰のはじめてのお金の教科書」(幻冬舎)「新しい時代のお金の教科書」(ちくまプリマー新書)の3冊を借りた。  そこで、タイトル写真に使った「よくわかる銀行」の「貯金箱と銀行のちがいは?」の図に出くわした。10000円を銀行に預けると、1年後には10001円(金利が年0.01%の場合)。普通預金(年利0.001%)ではなく、一般的な定期預金なのだろう。ただ、定期預金でも税金は掛かるのだから、この場合、1円を獲得できないはずだ。静岡銀行で聞いたことが事実ならば、1万円の定期預金では金利1円はつかない。PHP編集部に連絡を入れた。  それに対して、担当者は「税法では、1円未満の端数は税金が掛からないことになっている。だから、1円の利子はそのまま預金者が受け取るはずだ」と説明。約20%の税金も預金者に代わって、銀行が支払っているにすぎない。その税金が掛からないのならば、1円はそのまま預金者の所得になるという論理だ。銀行の説明が違っているのか?  それで、都市銀行の三菱UFJ銀行静岡支店に確かめた。担当者によると、1円の利息は80銭弱、税金は約20銭で両方とも端数になり、端数は切り捨てることになる。つまり、静岡銀行と同じで1万円の定期預金では1円はつかないことになる。1万3千円の定期預金でないと、1円はつかないわけだ。PHP担当者の「預金者の利益」となる説明通りにはいかず、「銀行の論理」が優先する。つまり、利子はつかないから、豚の貯金箱も銀行口座も同じというわけで、「よくわかる銀行」の図は間違っている。  普通預金だと、ようやく25万円で1円、100万円で約8円、1千万円で約80円。本当に本当か?と目を疑いたくなる。1千万円を預けて、たったの年80円。それに比べて、ATM時間外(PM6時以降、AM9時まで)手数料は108円だから、1千万円の利子よりも手数料のほうが高いことになる。  お金をふやす「利子」の面だけを見れば、豚の貯金箱と銀行は同じだ、というわけだ。 0.35%もの高金利の銀行とは  利子をふやしたい場合、どうするのか?  静岡市内でいま、最も金利の高い定期預金を出しているのは、横浜幸銀信用組合静岡支店(静岡市葵区黒金町)のファースト定期預金(3月29日まで。5年間、年利0.35%、税引き後0.280%)。ちょうど、知人から百万円の定期預金が満期になるが、高金利のところはないか聞かれ、紹介した。100万円で利息年3500円。一般的な定期預金金利(0.01%、利息年100円)に比べると、35倍ものずば抜けて高い金利だ。  その話を友人にしたあと、ネット銀行(通帳はなくカードのみで、スマホなどで取引)のソニー銀行を調べてみた。ソニーのキャンペーンは、紹介者に1500円、100万円預け、条件さえ満たさば4千円を翌々月にプレゼントするという。さらに、カードを2カ月間コンビニなどで5回使えば、1千円をプレゼント、合計5千円が3カ月後に預金者の口座に入ってくる。横浜幸銀に1年間預けるよりも、2倍近くの現金が3カ月間で稼げる。  ドル預金の金利は2.2%。1ドル111円として計算すれば、100万円の預金で1年後に約1万7000円の金利(為替手数料15銭)。為替リスクをちゃんと頭に入れて取引できれば、はるかに高い金利を得る。最初横浜幸銀に行こうかと迷った友人は、結局、最初から5千円得になるソニーを選んだ。  PHP研究所「よくわかる銀行」のサブタイトルは「仕事の内容から社会とのかかわりまで」。それでは、図に書かれたような預金者の1円(約20銭が税金、約80銭が利子)はどこに行ってしまったのか?子供のときから、正確な情報を与えなければ、わたしたちと銀行のかかわりはとうてい理解できない。

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美術品「継活」のススメ

32万円の浮世絵の価値は?  加島美術(東京・京橋)という画商の創設した日本美術継承協会主催の「美術品の無料相談会」が静岡市の駅ビルで開かれた。美術品を次世代へ継承していく「継活(けいかつ)」を提唱、美術品の売却、処分、査定、修復など美術品全般の相談を受けるのが協会の業務のようだ。各家庭に眠っている「お宝」を見てもらう良い機会で、多くの人が詰め掛けていた。  35年前、亡父が静岡伊勢丹(当時の田中屋伊勢丹)から購入した安藤広重の浮世絵「古歌六玉川」(天保14年頃)を鑑定してもらった。Richard Lane博士というアメリカ人の鑑定書、32万円の高額領収書が残っていたから、売却できるならば、半分の値段でもいいな、と期待は高まった。USBメモリの写真を見ていた担当者が「版画の周囲(縁の部分)を見たい」と言う。額に入って、マット(白い紙)で装飾してあるから、縁の部分に気づかなかった。説明では、そこに版元などの情報が刷られているという。  戻ってから、額を外してマット(白い紙)を取ってみると、縁の部分は見事に切除。言うなれば、オリジナル作品に傷を付けたことになる。結局、査定は限りなくゼロに近かった。32万円という値段は何だったのか。  当時の領収書に書かれた伊勢丹に電話した。美術担当者は「販売したときに品質について説明したはず。一度売却したものは、こちらで買い取りはしない」と説明。当然、担当者は鑑定書を基に「すばらしい作品」と説明したのかもしれない。結局、その言葉を信じて、購入を決めた亡父の責任であることは間違いないが、周囲が切り取られ価値はゼロに近いと説明されたら、購入などしなかっただろう。「品質の説明をした」と言うがー。  そもそも美術品の価値とは何だろうか? 20万円の版画の価値は?  20年以上前、ある仕事を手伝ったお礼に友人から藤田嗣治の木口木版画「小さな職人たち―ガラス屋」を贈られた。相談会の席に、その写真も持っていき鑑定してもらった。画廊HPなどで、「小さな職人」シリーズが20万円前後で売りに出されていた。ところが、いくら藤田が人気作家でも、実際に売却しようとすると、値段は売値の10分の1以下となってしまうようだ。新聞広告を出して、静岡駅ビルの一室を借り、専門の担当者派遣など多額の費用が掛かる。もし、作品を引き取って売却しようとしても”塩漬け”になる可能性さえあるから、10分の1以下は仕方ないかもしれない。  好きな美術品は、自宅のインテリアとして飾り、生活に潤いを与えてくれる。あるいは、好きな作家の作品を所有する満足感かもしれない。この作品もしまい放しになっているから、本当は大きな壁面を持つ人に飾ってもらったほうがいい。そのために「継活」という流通も良い手段だ。現在では一般参加のオークションなどさまざまな方法もある。  亡父の場合、浮世絵コレクターでもないから、将来は「お宝」になると信じて購入したのだろう。まさか、評価ゼロとは思っていない。「お宝」と考えるならば、美術品はあまりにリスクが大きいようだ。 バブル景気の頂点を彩った絵画  静岡市美術館で開催中の「起点としての80年代」に欠けている視点は、当時がバブル景気だったことだ。1982年1月熱海にMOA美術館、86年4月静岡県立美術館など美術館開館ブームが到来。80年代のバブル景気で世界中の美術品を買いあさった。MOAが10億円超でレオナルド・ダヴィンチの絵画購入というニュースが流れた(結局取りやめたようだ)。  バブル景気の頂点は1990年5月、大昭和製紙の斎藤了英氏が当時の史上最高額8250万ドル(約125億円)でゴッホ「医師ガシェの肖像」、同2位7810万ドル(約119億円)でルノワール「ムーラン・ド・ギャレット」を購入したときだ。「亡くなったら2枚の絵画を棺桶に入れてくれ」と言ったとか。物議をかもした話題だが、合計約245億円が斎藤氏の個人財産なのか不思議だった。もしそうならば、遺族は相続税を払うことなどできないだろうから、手放すしかなくなる。  2枚の絵画に比べて、あまり話題にならなかったが、91年斎藤氏は県立美術館にロダン「考える人」を寄贈、ロダン館に展示されている。こちらの値段は明らかにされなかった。  あまりに目立ったことが災いしたのか、斎藤氏は93年ゼネコン汚職に絡んだ宮城県知事へ1億円贈賄の疑いで逮捕、95年に執行猶予つき有罪判決。翌年80歳で亡くなった。バブルは崩壊していた。  亡くなる前、ゴッホ、ルノアールを県立美術館へ寄贈したいという話が流れ、取材をしたが、結局真偽のほどは分からぬまま話は消えた。  その後、ゴッホ、ルノアールとも売りに出され、斎藤氏の購入額を軽く上回る値段で海外の個人コレクターの所蔵となった。その個人コレクターの名前は伏せられている。斎藤氏は銀座のK画廊でアンパンを食べながら、好きな絵画に囲まれている時間が一番楽しいと言っていた。(写真はいずれも斎藤了英氏が関係者に配ったオレンジカード)  美術品の「価値」を決めるのは値段だ。国内では、富山県高岡市在住の伊勢彦信氏によるイセコレクションが有名。シャガール、ピカソ、中国陶磁器など所蔵品すべての評価で百億円超と言われる。  それに比べると、ゴッホ、ルノアールのたった2枚の245億円がいかに桁外れだったのか。バブル崩壊後も日本の個人金融資産は増え続け、現在、約1829兆円と膨大な額だ、1人当たり1600万円くらいか。株式、預貯金が大半を占める。美術品も金融資産に見合ったものをひそかに所有しているのだろう。日本人は亡くなったときが一番の金持ちと揶揄される。  ぜひ、美術品を死蔵せずに「継活」することをおススメする。静岡市でもオークション会が開かれ、どんな美術品があるのかみんなで楽しめれば、なおいいだろう。

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お金と仕事と健康とー作家橋本治さん

棺の仏様を見ると「羨ましい」  『他人の葬式に行って、棺の中に横たわっている仏様を見ていつも思う。「ああ、もう頑張らなくていいんだなァ」と。「死ぬとゆっくりと出来る」と私は思っているから、安らかに眠っている仏様を見ると「羨ましいな」と思う。』(橋本治著「いつまでも若いと思うなよ」新潮新書、2015年10月)  橋本治さんは1月29日71歳になる2カ月前、「羨ましい」と思っていた仏様になり、天国に旅立った。2017年の日本人平均寿命は男性約81・1歳、女性約87・3歳。平均から比べれば、71歳は死ぬには早すぎる。新聞等には「肺炎」のために亡くなったとある。  橋本さんはアルコールを口にしない。大量の喫煙、長時間の机仕事、運動不足だったが、長い間、病院と無縁の生活を送っていた。62歳のとき、脚が赤い斑点だらけになり、ふくら脛の付け根が締め付けられるように痛くなり、大学病院を受診。そこから、いままでのツケを支払わされる。  さまざまな検査が行われ、肺がスカスカの状態で慢性閉塞性肺疾患を疑われたが、肺がんの兆候はなかった。心臓の動悸が異様に速く、動脈硬化が進んでいた。痛みの原因となった赤い斑点症状は、毛細血管が炎症を起こしてただれる「顕微鏡的多発血管炎」という難病だとわかる。自己免疫異常が背景にあるが、原因不明。  入院中に微熱が続いたことで「カリニ肺炎」(本人の申告だが、以前はカリニ肺炎と呼ばれていたニューシモチス肺炎のことで免疫低下時に起こる日和見感染症でエイズの末期症状。実際は他の肺炎ではないか?)と診断され、肺炎は約3週間で収まった。当初から心臓の状態が悪いことがわかっていて、検査で冠動脈2本が詰まっている心筋梗塞と判明。心臓カテーテル手術を受け、血管炎、肺炎、心臓病で約4カ月間の入院生活を送ることになった。体重は約20キロ減り、別人のように痩せてしまう。長年の不摂生で体はボロボロの状態だとはっきりした。  退院したあと、「大腿骨の先が折れてギザギザになったのが、虫歯みたいになった股関節にグサッと突き刺さるみたいな痛み」(橋本さん)で脊柱管狭窄症と診断され、歩行困難となり、杖なしで歩けない状態にもなる。当然、病院通いが続き、医者から処方された薬を毎日20錠以上服用。脊柱管狭窄症の激しい痛みは収まったが、しびれは続き、脚の筋肉と末梢神経に受けたダメージに苦しみ、慢性貧血状態が続いていた。  ところが、足がしびれて歩行困難で貧血状態であろうとも仕事はどんどん引き受けていた。否、仕事をせざるを得なかったのだ。 借金5億円のための作家生活  『平成30年の間に、俺は5億円以上の金を銀行に払ったぞ。70までローン返すのに躍起になっていた人間だ』(「九十八歳になった私」講談社、2018年1月)  68歳のときに書いた、30年後も作家を続けている自分をモデルにした小説。70歳まで30年間、借金を支払っていたのは事実のようだ。だから、どんなに体がボロボロでも、机仕事に向かわなければならなかった。  「本を書く、原稿を書くのは今時儲かる職業ではない。そういうところに属していながら、私は結構な借金を背負っています。その返済をしながら、生活を成り立たせるのは楽じゃありません」(「乱世を生きる市場原理は嘘かもしれない」2005年11月、集英社新書)。  本書のまえがきには「この本のテーマがなんなのかは、今のところよく分からない。この三部作(『「わからない」という方法』『上司は思いつきでものを言う』)のテーマも分からない」。これでは読者も著者が何を言おうとしているのかはっきりと分からなくなってしまう。当時の橋本さんの仕事を見れば、さまざまな出版社から発行された大量の著作物が並んでいる。  なぜ、そんな借金生活を送らなければならなかったのか?  1億8千万円の買い物をする  『新潮社の駆け出し編集者として初めてお目にかかって以来、事務所のテーブルをはさんで話をうかがうことが、原稿をいただくに等しい喜びだった』(朝日新聞2月1日朝刊、「橋本治さんを悼む」松家仁之氏)  そのころ、橋本さんは新宿の都庁近くにあったマンションの一部屋を賃貸していた。松家氏はそこで橋本さんの原稿をもらい、おしゃべりを楽しんだようだ。その事務所が借金の原因になるとは思いもしなかっただろうが。  バブル経済に浮かれていた時代、家主から事務所の部屋(30坪)を坪単価6百万円、計1億8千万円で「買わないか」と持ち掛けられた。銀行に相談すると、1億6千万円分を70歳までの30年間、毎月約百万円ずつ、残りの2千万円を毎月50万円4年間で返済するプランを提示され、その計画を受け入れたのだという。1988年40歳のとき、借金生活がスタートした。  いま考えるとあまりに無謀な話だが、橋本さんによると、その前に1億円以上の額を稼いでいたから、そのくらいの返済ならば大丈夫だと考えたのだろう。多額の借金と連動した団体信用生命保険に強制加入させられ、こちらは毎月20万円の支払いがあった、という。  銀行の返済プラン百万円に生命保険20万円が含まれていたのかどうかわからないが、毎月百万円を30年間払い続けると、3億6千万円。62歳で”病気のデパート状態”となった頃には、百万円から『半額近い60万円超の支払い』と書いているから、小説「九十八歳になった私」の『5億円以上支払った』はちょっと大げさなのかもしれない。  ただ、マンションを購入すれば、区分所有者として管理組合に加入、管理費、修繕積立金を毎月支払わなければならない。それがいくらだったのか分からないが、そのようなマンション支出を含めれば、30年間で5億円も満更大げさではないかもしれない。  いくら仕事をしても、稼ぎは借金でなくなってしまう。こんな自転車操業の状態が続けば、健康に悪影響が及ぶのは間違いない。 原因不明の上顎洞がん  亡くなる7カ月前、昨年6月26日ころ、上顎洞がんステージⅣと診断される。鼻の横のへっ込んだ部分の上顎洞にできる原因不明の癌。慢性腎不全で抗がん剤は使えず、外科手術を受けている。『左の髪の生え際から横に一直線、眼の下を切って、そこから鼻に沿って切り下げます。その直角部分をベロンと開いて中の肉を取り出します』。約16時間もの手術だった。  『「闘病」とは、医者が病に対してするもので、患者はおとなしく言うことを聞いていればいいのです。「気を失う」は究極の言いなりで、だから私はその通りになっていましたが、面倒なのはその後です。十六時間かけて切り刻まれたものを前のように復旧させるのが私の仕事』(いずれも「遠い地平、低い視点」筑摩書房ウェブページから)。「前のように復旧させる」のは簡単な仕事ではなかった。12月26日退院したが、再び入院、1月29日に「肺炎」で亡くなった。喪主は母親だった。  『七十歳と言えば「古稀」の年で、「人生七十、古来稀れ」なんだから、人間の寿命が七十であってもいいんじゃないかという気がする』(「いつまでも若いと思うなよ」)。40歳から多額の借金に追われ、自己破産を選択せず、昨年30年間を無事に迎えたから、すべて返し終えたはずだ。そのことをちゃんと書いてほしかった。  『「この人生は仕事だけということにして、死んで生まれ変わったら遊んでいるということにしよう」と思った』(「いつまでも若いと思うなよ」)。多分、仕事がいちばん好きだったのだろう。

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保険2 保険に加入しないが「基本」だ!

2050年年金はもらえない  静岡グランシップで開かれた講演会「お金について考えてみよう タイゾーの金融経済超入門」(金融庁、日本銀行、静岡県などの主催)の中で、元政治家、タレント杉村太蔵(39歳)は「2050年に70歳になるが、わたしは年金をもらえない」と嘆いた。その前段で、60年前に制定された国民皆年金法の制度設計が間違っていたことも指摘。つまり、いまから30年後、国のミスもあって年金を受け取ることができないひどい時代が到来する、それが「タイゾーの金融経済超入門」の趣旨だった。「歴史的にいま、わたしたちは大転換点の時代にいる」と自虐的なギャグを交え、会場の若い人たちをステージに呼んだりして「大転換点の時代」を説明。軽妙なおしゃべりは詰め掛けた多くの人の笑いを誘っていたが、30年後?に年金受給者入りする若い人たちが、「2050年の未来」をしっかりと実感できたのかどうか。  2009年厚生労働省は「2031年に厚生年金積立金が枯渇し、年金制度が破綻する」と試算、さらに2050年までに厚生年金だけでなく、国民年金も積立金が枯渇すると予測した。2050年は65歳以上の年金受給者1人当たりを現役世代(20~64歳)1・2人で負担する人口割合となる。年金積立金が枯渇、現役世代が支払う年金保険料を65歳以上に回すこともできず、年金財源を新たに確保しなければ、70歳のタイゾーは年金を受け取ることはできないわけだ。  そんなに暗い時代が到来する話なのにエンタテインメントに徹した「タイゾー」ショーは大笑いが続いた。年金制度の破綻など誰も信じていない? 「年金」保険に入れば、将来安泰か?  先週知人の独身女性A子さん(53歳)から6通もの保険証券を預かって中身を吟味してほしい、と依頼された。保険はすべて日本社のみで、義理がらみで頼まれ加入したものばかり。リストラで会社を移り、年収がほぼ半減したため無駄な出費を減らしたい、できれば、整理したいのだが、自分では理解できていないという。計算すると、年間約60万円も保険料を支払っている。これでは整理したい気持ちはよくわかる。  6通のうち、「年金」保険は3通もあった。1通目が「個人年金保険10年確定」。1990年24歳のときに加入、60歳まで36年間、毎年8万8千円支払い、60歳から10年間80万円ずつ合計8百万円を受け取る。掛け金の合計317万円だから、約2・5倍の保険金を受け取る。最後の受け取りは69歳だが、この保険を”お宝保険”と他社の営業社員が言ったとのこと。いまの時代から見れば、確かにそうなのだろう。  2通目は「年金払い積立傷害保険」。1996年30歳のとき加入、60歳まで毎月1万円(年12万円)支払う。30年間合計360万円、60歳から64歳まで5年間、毎年約110万円ずつ合計550万円を受け取る。傷害保障が約1千万円あるため、その分年金額が少なくなる仕組みだ。  3通目は豪ドル建て無配当個人年金保険。2年前、51歳で加入、65歳まで毎月1万5千円総額252万円を支払う。契約時積立利率2・5%とあるが、小さな字でいくつもの(注)がつき、肝心の70歳から10年間受け取る年金額は会社の定める方法で計算する金額とあるだけ。金融庁が外貨建保険への監督強化を打ち出したニュースが流れたばかり。本サイト「保険1 積立利率3%のなぞ」で指摘したように為替手数料、為替リスクなど考慮した上で加入すべきだが、保険証券には何ら記されていない。なぜ、最近になってこんな危ない保険に加入したのか? 保険に入っても大損する  2001年8月号の「文藝春秋」に『生保破綻で大損した筆者が教える「賢い保険術」』を書いた。当時、千代田生命加入当時5・5%の予定利率の生命保険を「転換」するように勧められたのを機会に、千代田と交渉した記録を紹介した。1997年の日産を皮切りに、東邦、第百、大正、千代田、協栄、東京の7つもの生保が破綻したことなど懐かしい記憶である。  わたしの場合、千代田破綻後の保険金は6割カット、予定利率も1・5%に引き下げられた。魑魅魍魎のうごめく保険会社を回り、保険の基礎知識を得ることができたのは貴重な財産になった。現在も保険会社の体質は変わっていない。20年が過ぎて、A子さんの”お宝保険”のように過去の予定利率の高い保険はお荷物だろう。最近の保険は1・5%に遠く及ばないのだから、大損する仕組みははっきりしている。  はっきり言えるのは、「保険はできるだけ入らない」がすべての基本だ。保険会社が儲かる仕組みの保険ばかりで、加入者にとって得になる保険など皆無。やはり相談を受けた自営業者のB子さんを年金保険に加入させたのは、税制上の利益(年間8万円の保険料で4万円の所得税控除)を受けられるからだ。10年間支払い、元金が戻ってくるのは15年も先のことだが、それでも税制上のメリットは大きい。  生命保険が必要なのは子育て期間中のみで、年間10万円以内(年8万円で4万円所得税控除)×20年間程度の死亡保障が高い定期保険がお薦め。がん保険も医療保険も不要である。 「金を稼ぐ」パワーが必要  さて、タイゾーの講演会で厚生年金、国民年金もひどいことがわかった。こちらも「保険はできるだけ入らない」を実践できるのか。会社に勤めていれば、いやでも給料天引きで厚生年金保険料が引かれる。まるで税金である。ほとんどのサラリーマンの場合、「年金保険料=税金」のようだ。  厚生年金、国民年金が保険である理由は、将来の生活保障(タイゾーの説明通り当てにならない)とともに、病気やけがなどの障害認定を受けたときに受給できる障害基礎年金や被保険者の遺族に支払われる遺族年金の役割を有しているからだ。それを考えるとますます、民間の保険に加入する必要がなくなってしまう。  講演会で、タイゾーは「元本保証」で利率20%、30%という投資詐欺が横行しているので注意をするよう呼び掛けていた。日本人の好きな「元本保証」につけこんでいる、という。くれぐれも厚生年金、国民年金が「元本」割れにならないことを祈るが、タイゾーは大丈夫なようだ。   タイゾーは「悲惨な世代」に向けて政府広報のスピーカーを務め、全国津々浦々に出掛けて2百回以上を超える「タイゾーの金融超入門」講演会でギャラを稼いでいる。年金が破綻しようが、「金を稼ぐ」パワーがありさえすれば全く問題ないことを訴えていた。会場に詰め掛けた若い人たちは、タイゾーの年金に頼らず生きる「パワー」に共感していたが、本当に大丈夫か。保険会社破綻や旧社会保険庁のずさんな年金をめぐるさまざまな事件を見てきただけに、将来、年金制度に何が起きるのかわたしにははっきりと見える。  ところで、静岡県金融広報委員会が取材に訪れたわたしに「注意」することがあると言って会場の外につまみ出された。結局、何らの「注意」もなかった。それが一体何だったのかぜひ、知りたいものだ。書いてはならないことを書くな、ということもかもしれない。それは何だろうか?