コロナ危機3「10万円」申請で何を学んだか?

「マイナンバーカード」受け取りに2カ月以上?

静岡市役所1階窓口

 「マイナンバー関係 手続き(カード受取除く)待ち時間100分以上」。手書きのお知らせに驚いた。11日午前10時半ころ、静岡市役所1階のマイナンバーカード申請手続き窓口に市民が殺到、57人待ちの状態だった。その後も、待機人数は増えていく一方だった。みんなじっと窓口のほうをちらちらにらみ、我慢している。と言うのは、同日午前零時から静岡市でも「特別定額給付金」10万円のオンライン申請が始まったからだ。オンライン申請できれば、即座に給付金10万円が受け取れるのだろう。たとえ「待ち時間100分以上」でも、マイナンバーカードを手に入れたい、(アナログの)郵送での申請書など待っていられない、そんな強い気持ちの表れである。それで、家族一人当たり10万円が1日でも早く手に入るのであれば、万々歳である。

 しかし、100分以上も待ち、面倒な手続きを終えたあと、窓口の担当者から残念なお知らせを聞くことになる。マイナンバーカードを申請してから、交付まで通常でも約1カ月も掛かるからだ。現在のように申請が殺到してしまうと、手元に届くまで2カ月以上、もしかしたら、3カ月掛かる恐れもあるという。(こんなことは待っている時には知らされていない)

 静岡市HPによると、郵送による申請書送付は5月下旬からスタート、6月中旬には給付開始されるという。マイナンバーカードをたとえきょう(11日)申請しても出来上がるのは、どんなに早くても6月中旬であろう。その後のオンライン申請でも簡単ではない(次の項目で説明)。市民たちは何も知らずに、ただただ期待に胸膨らませて待っている。順番がようやくきて、窓口担当者から交付の時期について説明される。

 少なくとも、「マイナンバー関係」窓口には「待ち時間100分以上」のお知らせだけでなく、「カード受取には2カ月以上掛かる」ことを大きく書いて知らせたほうがいい。

オンライン申請の”大難関”を越えられるか?

 それでは、マイナンバーカードをすでに持っていて、オンライン申請をすれば、「10万円」をすぐに受け取ることができるのか?それも簡単ではない。オンライン申請には、いくつかの大きな難関が待ち構えている。

金色の部分がICチップ

 2016年1月マイナンバーカード制度がスタート、すぐにマイナンバーカードをつくった。ICチップの「署名用電子証明書」を付加しているか確認してみよう。このICチップでコンビニで住民票など各種証明書が取得できるようになり、市役所窓口へ行く手間は省ける。今回のオンライン手続きにも、ICチップの「署名電子証明書」が必要。この証明書には有効期限(5年間)があり、もし期限が切れていれば、「10万円」を受け取ることができない。有効期限切れ前に更新手続きを例の「マイナンバー関係」窓口で行っておかなければならない。

 わたしの場合、2016年に作成、5年後の2020年誕生日(8月)まで有効となっている。これは何とかクリアした。

 次に必要なのが、署名用電子証明書暗証番号(6~16文字の数字・英大文字で構成)をちゃんと覚えているかだ。申請当時、ちゃんとノートに控えたおいたからこれも問題ない。忘れてしまった人は、やはり「マイナンバー関係」窓口に並んで、暗証番号を再設定しなければならない。当然、むだな長い時間が掛かる。

 そして、最後の難関が待っている。マイナンバーカードに対応した「カードリーダー」あるいは読み取り対応スマホを持っているのかどうかだ。最後の大関門で、おそらくほとんどの人が脱落してしまうだろう。「カードリーダー」って何?当然、ほとんどの人が「カードリーダ」など手にしたことはない。パソコン等に詳しい友人らに聞いてみた。誰も「カードリーダー」など持っていないし、触ったこともないと回答してくれた。

 オンライン申請の静岡市窓口(市民自治推進課特別定額給付金事務局)に電話して、「『カードリーダー』を貸し出してくれるのか」と聞いた。担当者は「貸し出しはない。購入してくれ」と回答、それでアマゾンなどの通販サイトを調べてみると、通常価格の「カードリーダー」はほぼ払底していた。ちょっと高い「カードリーダー」を購入しようと、手続きすると6月末以降入荷と最後に出てきた。全国で「カードリーダー」に殺到しているからやむを得ない。「転売ヤー」の高額な代物を買ってまで、オンライン申請をするのは馬鹿らしいだろう。つまり、「カードリーダー」が用意できなければ、郵送申請をしろ、ということになる。

 「マイナンバーカード」をちゃんと持っていても、オンライン申請ができる人はほんの極わずか。田辺信宏市長は7日会見して「静岡市でも11日からオンライン申請開始する」と前倒しでオンライン申請ができることを発表した。期待が大きかっただけに、市民は怒り出すかもしれない。ほとんどの市民が手続きできないからだ。担当窓口にそんな不満を述べると、「総務省が設計したことなのでこちらではなく、総務省に言ってほしい」とのことだった。

 総務省は昔の自治省である。何だか、「3割自治」と言われた時代を思い出してしまった。ううむ、いまも同じなのか?

マイナポイントを知っている人は?

 「10万円」をすぐにもらうために、市民らが(勘違いして)窓口に詰め掛けた「マイナンバーカード」とは一体、何だろうか?

 わたしの友人は1983年のグリーンカード構想同様に国民の懐具合い(金融資産、所得)を透明にして、国税や地方税の管理に使うシステムなのだという。その割には、2016年制度がスタートして、普及率は16%前後で全く浸透していない。

静岡市役所1階のマイナポイント予約専用端末。誰も見向きもしない

 担当は財務省や金融庁ではなく、総務省である。静岡市役所1階には、マイナンバーカード普及を目指す「マイナポイトン」予約専用端末が幟(のぼりばた)とともに設置されていた。9月にマイナンバーカードとキャッシュレス決済を活用すると、2万円で2万5千円分として使えるポイントを得ることができるという。これで、マイナンバーカード4千万人増を目指すのだという。さらに、来年3月からはマイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになり、6千万から7千万のマイナンバーカード増を見込んでいる。

 マイナンバー制度は、1「公平・公正な社会の実現―給付など不正受給の防止」、2「国民の利便性の向上」、3「行政の効率化」の3つの目的を掲げている。アメリカではトランプ大統領が3月27日に年収810万円以下の世帯を対象に、大人ひとり1200ドル、子どもひとり500ドル、4人家族で約37万円給付するコロナ対策に署名後、4月13日から給付がスタートしている。素早い対応である。

 アメリカの場合、9桁のソーシャル・セキュリティ・ナンバー(SSN、社会保障番号)が国民全員に振り分けられ、銀行口座、クレジットカードを作るにもこの番号が必要である。かたや、日本のマイナンバーカードは12桁で、当然、身分証明書として使えるが、ほとんどの人は免許証、パスポートを銀行などに提示する。マイナンバーカードをつくらない人の多くが、利用価値がないから、という。

 今回の「10万円」給付でオンライン申請がスムーズにできるのであれば、「国民の利便性の向上」に大いに役立つことになったが、全く期待外れである。アメリカの家庭に「ICカードリーダー」があるとは思えない。スマホも高級機種を持っているのは極わずかだ。本当に何のためにマイナンバーカード制度が始まったのか、理解に苦しむ。

マイナンバーカードで金融資産を丸裸にできる?

 マイナンバーカードが16%程度の普及でも、国民の懐具合いを調べる方法は着々と進んでいる。2004年に銀行など金融機関の窓口で「本人確認法」に基づく制度がスタート、2008年には犯罪収益移転防止法が施行された。金融機関は口座開設時に本人確認を必要とし、なおかつ入出金には金融庁への報告とともにその記録を7年間保管することを義務づけた。

 これで2百万円を超える大口取引や10万円を超える現金送金などする際、窓口で本人確認の提示を求められる。昔は通帳とハンコ(印鑑)さえ持参すれば、金融機関はおカネを出してくれたが、現在ではどこへ行っても身分証明書の提示が必要だ。つまり、他人になりすました口座をつくることはできないし、他人名義の通帳を譲り受けたとしても、少額でなければ、おカネを引き出すことはできない。結局、休眠口座となって国庫に入る運命である。

 株式などの利益はほとんど特定口座で源泉徴収される。税務署などが本気になれば、2つの法律を使って個人の金融機関口座など丸裸にしてしまえるだろう。つまり、マイナンバーがなくても、現行の法律で金融機関の預貯金を調べることができ、個々の脱税などを追うことはできる。アメリカでも脱税に懸賞金を掛けているから、SSNだけでは巧妙な不正を行う人たちを突き止めることはできないのだろう。

 個人の金融資産の把握に努めているのは、厚労省である。65歳以上の夫婦で4割が2千万円以上の金融資産を有しているという。介護施設での食費や住居費の補助を受ける低所得要件を金融資産が1人当たり1千万円以下であることを証明する必要があるが、どうも多くの人が正直ではないので、ちゃんと把握したいから、マイナンバーカードを必要という。

 そうなると、ほとんどの人は「タンス預金」に走るだろう。

2024年の新札がこんなに早く決まっている理由もわからない。現行のお札を無効にしてしまう?

 2024年4月から渋沢栄一の肖像を使う1万円札などに新円が切り替わる。現行のお札は旧札となり、使えなくなるという噂が一部で飛び交っている。つまり、タンス預金をあぶりだすというのだ。交換率は1対1だが、翌年くらいまでに旧札を無効にして、新札にすべて替えなければならないとしたら、こぞってタンス預金は一度は銀行などを通ることになる。タンス預金も丸裸にされるのだ。

 実際には、ビリオネア(億万長者)と呼ばれる超資産家はタックスヘイブン(ケイマン諸島、パナマなど)を使っているから、金融資産をあぶりだすのはあまりに難しい。

 「マイナンバー」の初期費用は約2700億円、維持費は年300億円。マイナポイント予算は2458億円と巨額である。なぜ、マイナンバーカード普及を目指すのか?だれか本当のことを知っていたら、教えてほしい。

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