「甲冑の値段」から考える幸せとは?

「歯朶具足」のお値段は?

 今回のタイトル画像は、2011年9月13日に放映されたテレビ東京の人気番組「開運!なんでも鑑定団 諸国鑑定巡りIN久能山東照宮」で、家康所用の「歯朶具足」(重要文化財)を澤田平さんが鑑定した後、値段が発表される最後のドキドキする場面である。

 果たして、澤田さんはいくらと値段をつけたのだろうか?

 このサイトの最新ニュース「川勝VS田辺 ”歴史博物館”建設は棚上げを!」で静岡市が発注した甲冑レプリカの値段7千万円が高いのではないか、と指摘した。

 担当者は「時代考証をした本物に近いものだ」と胸を張っていた。

歴代将軍18領の「歯朶具足」写形

 「甲冑の値段」と言っても、ガソリンやビールなどの日常とはかけ離れた世界だから全くわからないものの一つだろう。レプリカでも7千万円と言えば、「ああ、そうか」と納得してしまうかもしれない。静岡市は臨済寺所蔵の今川義元彩色木像のレプリカを合わせて3点で約1億円を支払うのである。約1億円のレプリカを鑑賞するために歴史博物館を訪れる観光客はどのくらいの人数になるのか?それが評価の基準だ。

18領のうち展示できる御写形具足

 1869年駿府城主だった徳川家達(徳川宗家16代)は静岡潘知事となり、その13年後に江戸城紅葉山武器庫から徳川家に安置されていた甲冑類を久能山東照宮に寄進している。現在、63領もの甲冑が久能山東照宮博物館に所蔵されている。その中でも「歯朶具足」は徳川将軍家の守護神と呼ばれ、歴代将軍は御写形具足を製作、久能山には18領の「御写形具足」が伝わっている。残念ながら、この18領のほとんどがぼろぼろで修理をしなけければ、展示できない状態だ。久能山の甲冑はすべて江戸時代の幕府御用達甲冑師岩井与左衛門が製作した逸品である。久能山東照宮では2012年から「将軍の甲冑」調査プロジェクトがスタートした。

 当時、静岡市博物館構想を聞いて、御写形具足の調査、修理、保存、展示での支援を求め、落合偉洲宮司が提案書を静岡市に持参した。修理した甲冑は静岡市に「無償貸与」し、歴史博物館に展示すれば”目玉”になるのではないか、と提案した。しかし、静岡市の回答は「ノー」だった。それだけに、歴史博物館の”目玉”は何になるのか、高い関心を呼んでいた。

七代家継の写形具足を修理

 2014年10月に開催された「国宝・久能山東照宮展」では、歴代将軍のうち、6歳9カ月で亡くなった七代家継の遺品は唯一、ぼろぼろの御写形具足しかなく、実行委員会の民放テレビ局から受け取る作品貸出料を修理費用にあてることを考えていた。

修理を終えた七代家継の御写形具足

 この甲冑修理を請け負ってくれたのは、東京在住の甲冑師三浦公法、弟子のアメリカ人アンドリュー・マカンベリの両氏。2012年5月、両氏が久能山を訪れ、二代秀忠(箱書き)、七代家継、九代家重の甲冑を調査した。そのあと、三浦氏から届いた修理見積書では、1領「4百万円」だった。1年間に1領ずつ行い、3領を修理してもらえれば1200万円。しかし、久能山は50年に一度の社殿大修理で多額の借り入れを行っており、結局、展覧会の貸出料をあて、修理できるのは1領のみだった。2015年4月、七代家継の御写形具足は修理を終えて、久能山に運ばれた。数多くのメディアの前で、三浦氏の自信作を披露した。なぜ、久能山は、三浦氏に徳川家の重宝である御写形具足を依頼したのか?

ロンドン塔の家康甲冑を修理

 1613年初代英国大使サーリスは駿府城の家康を訪ね、初の日英通商条約を結び、家康はその友好を示すため英国王ジェームス1世に2領の甲冑を贈っている。3百年以上を経て、ロンドン塔に保管されていた2領の甲冑のうち、1領はぼろぼろの状態だった。1975年、英国王立武器博物館は甲冑修理を三浦氏に依頼した。さまざまな資料を丹念に調べた上で、1年半を掛けて三浦氏は見事に修理を成し遂げた。

ロンドン塔に展示の家康寄贈の甲冑

 現在もロンドン塔に展示され、数多くの観光客の目を楽しませている。案内板には家康からジェームズ1世に贈られ、日英の交流を示す重要な証拠だと説明されている。この甲冑も家康お抱えの甲冑師岩井与左衛門の作であり、リーズ市にある英国王立博物館に家康寄贈の別の甲冑も常設展示、現存している。三浦氏は「青森県櫛引八幡宮の国宝、赤糸威・白糸威の大鎧をはじめ名品甲冑レプリカ30領以上を製作しているが、江戸名人の息遣いを伝える将軍甲冑の修理はさらに重要で大きな仕事である」と話してくれたのだ。現代の名人である三浦氏の製作した30領のレプリカはすべて値段がついて、売却されている。

「本物」と「レプリカ」の違いは? 

 「レプリカ」7千万円に比べると、「修理」4百万円は桁が違うのであるが、その価値は値段通りの違いではない。

 テレビ鑑定団で、澤田さんは「歯朶具足」の値段をつけるのに、しばらく思案した末、「鑑定不能」としてしまった。その理由を「1億円でも2億円でも買うことのできない貴重なお宝」と説明した。3百年以上を経て、「歯朶具足」は昭和の時代に、三浦氏の師匠森田朝二郎氏が修理を行っている。いくら修理されていたとしても「本物」の価値は全く変わらない。お金には換えられないのだ。

 三浦氏が「4百万円」で修理してくれた七代家継の御写形具足が一体いくらなのか、澤田氏に聞いてみたい。市民、観光客はレプリカを見たいのか、本物を見たいのか、静岡市は調査すべきだ。

 さて、あなたは博物館に入館して、レプリカと本物を見て、どちらに幸せを感じますか?質問は簡単明瞭だ。

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