美術品「継活」のススメ

32万円の浮世絵の価値は?

浮世絵「古歌六玉川」。白い部分はマットで縁の部分ではない

 加島美術(東京・京橋)という画商の創設した日本美術継承協会主催の「美術品の無料相談会」が静岡市の駅ビルで開かれた。美術品を次世代へ継承していく「継活(けいかつ)」を提唱、美術品の売却、処分、査定、修復など美術品全般の相談を受けるのが協会の業務のようだ。各家庭に眠っている「お宝」を見てもらう良い機会で、多くの人が詰め掛けていた。

 35年前、亡父が静岡伊勢丹(当時の田中屋伊勢丹)から購入した安藤広重の浮世絵「古歌六玉川」(天保14年頃)を鑑定してもらった。Richard Lane博士というアメリカ人の鑑定書、32万円の高額領収書が残っていたから、売却できるならば、半分の値段でもいいな、と期待は高まった。USBメモリの写真を見ていた担当者が「版画の周囲(縁の部分)を見たい」と言う。額に入って、マット(白い紙)で装飾してあるから、縁の部分に気づかなかった。説明では、そこに版元などの情報が刷られているという。

 戻ってから、額を外してマット(白い紙)を取ってみると、縁の部分は見事に切除。言うなれば、オリジナル作品に傷を付けたことになる。結局、査定は限りなくゼロに近かった。32万円という値段は何だったのか。

 当時の領収書に書かれた伊勢丹に電話した。美術担当者は「販売したときに品質について説明したはず。一度売却したものは、こちらで買い取りはしない」と説明。当然、担当者は鑑定書を基に「すばらしい作品」と説明したのかもしれない。結局、その言葉を信じて、購入を決めた亡父の責任であることは間違いないが、周囲が切り取られ価値はゼロに近いと説明されたら、購入などしなかっただろう。「品質の説明をした」と言うがー。

 そもそも美術品の価値とは何だろうか?

20万円の版画の価値は?

「小さな職人」シリーズの1枚「ガラス屋」

 20年以上前、ある仕事を手伝ったお礼に友人から藤田嗣治の木口木版画「小さな職人たち―ガラス屋」を贈られた。相談会の席に、その写真も持っていき鑑定してもらった。画廊HPなどで、「小さな職人」シリーズが20万円前後で売りに出されていた。ところが、いくら藤田が人気作家でも、実際に売却しようとすると、値段は売値の10分の1以下となってしまうようだ。新聞広告を出して、静岡駅ビルの一室を借り、専門の担当者派遣など多額の費用が掛かる。もし、作品を引き取って売却しようとしても”塩漬け”になる可能性さえあるから、10分の1以下は仕方ないかもしれない。

 好きな美術品は、自宅のインテリアとして飾り、生活に潤いを与えてくれる。あるいは、好きな作家の作品を所有する満足感かもしれない。この作品もしまい放しになっているから、本当は大きな壁面を持つ人に飾ってもらったほうがいい。そのために「継活」という流通も良い手段だ。現在では一般参加のオークションなどさまざまな方法もある。

 亡父の場合、浮世絵コレクターでもないから、将来は「お宝」になると信じて購入したのだろう。まさか、評価ゼロとは思っていない。「お宝」と考えるならば、美術品はあまりにリスクが大きいようだ。

バブル景気の頂点を彩った絵画

 静岡市美術館で開催中の「起点としての80年代」に欠けている視点は、当時がバブル景気だったことだ。1982年1月熱海にMOA美術館、86年4月静岡県立美術館など美術館開館ブームが到来。80年代のバブル景気で世界中の美術品を買いあさった。MOAが10億円超でレオナルド・ダヴィンチの絵画購入というニュースが流れた(結局取りやめたようだ)。

 バブル景気の頂点は1990年5月、大昭和製紙の斎藤了英氏が当時の史上最高額8250万ドル(約125億円)でゴッホ「医師ガシェの肖像」、同2位7810万ドル(約119億円)でルノワール「ムーラン・ド・ギャレット」を購入したときだ。「亡くなったら2枚の絵画を棺桶に入れてくれ」と言ったとか。物議をかもした話題だが、合計約245億円が斎藤氏の個人財産なのか不思議だった。もしそうならば、遺族は相続税を払うことなどできないだろうから、手放すしかなくなる。

 2枚の絵画に比べて、あまり話題にならなかったが、91年斎藤氏は県立美術館にロダン「考える人」を寄贈、ロダン館に展示されている。こちらの値段は明らかにされなかった。

 あまりに目立ったことが災いしたのか、斎藤氏は93年ゼネコン汚職に絡んだ宮城県知事へ1億円贈賄の疑いで逮捕、95年に執行猶予つき有罪判決。翌年80歳で亡くなった。バブルは崩壊していた。

 亡くなる前、ゴッホ、ルノアールを県立美術館へ寄贈したいという話が流れ、取材をしたが、結局真偽のほどは分からぬまま話は消えた。

 その後、ゴッホ、ルノアールとも売りに出され、斎藤氏の購入額を軽く上回る値段で海外の個人コレクターの所蔵となった。その個人コレクターの名前は伏せられている。斎藤氏は銀座のK画廊でアンパンを食べながら、好きな絵画に囲まれている時間が一番楽しいと言っていた。(写真はいずれも斎藤了英氏が関係者に配ったオレンジカード)

 美術品の「価値」を決めるのは値段だ。国内では、富山県高岡市在住の伊勢彦信氏によるイセコレクションが有名。シャガール、ピカソ、中国陶磁器など所蔵品すべての評価で百億円超と言われる。

 それに比べると、ゴッホ、ルノアールのたった2枚の245億円がいかに桁外れだったのか。バブル崩壊後も日本の個人金融資産は増え続け、現在、約1829兆円と膨大な額だ、1人当たり1600万円くらいか。株式、預貯金が大半を占める。美術品も金融資産に見合ったものをひそかに所有しているのだろう。日本人は亡くなったときが一番の金持ちと揶揄される。

 ぜひ、美術品を死蔵せずに「継活」することをおススメする。静岡市でもオークション会が開かれ、どんな美術品があるのかみんなで楽しめれば、なおいいだろう。

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