謎の「マンション管理士」に気をつけろ!

「マンションは管理を買え」とは?

 マイホームは人生最大の買い物である。35年もの長い住宅ローンを組んで借金を返済していくのが通常だ。ところが、マンション購入に関して、多くの専門家が次のように言う。

「マンションは管理を買え!」

モデルルームではマンション管理はわからない

 そう言われても、マンションは購入して住み始めないと、マンション管理の重要性は全くわからない。費用、立地、間取り、環境などを見て、ほとんどの場合、マンション購入を決める。しかし、質の高い「管理」こそが重要だと言うのである。そのために、「マンション管理士」という国家資格さえある。

 「マンション管理士」と言っても、どのような職業か知る人は非常に少ない。合格率8~9%の国家資格「マンション管理士」(難関度は社会保険労務士などと同じくらいという)とは、委託されたマンション管理組合(区分所有者が全員加入でつくる組合)側の立場でコンサルティングするのが主な仕事のようだ。ほとんどのマンション管理組合は管理会社に任せきりの現状だから、管理会社社員が名刺に「マンション管理士」の肩書をのせて、マンション管理組合の信用を得て、各マンション管理組合の相談などに乗っている。独立して個人事務所を構えるマンション管理士は非常に少ない。

 今回、ある「マンション管理士」に出会い、マンション管理士とは何かを考えさせられる事件が発生した。

 わたしが理事長をつとめるマンションは8階一棟建てマンション(1階が駐車場)のため、区分所有者は7世帯しかなく、管理会社に管理を丸投げする費用はなく、長い間、自主管理を貫いてきた。いくら居住者が少なくても、マンションにはさまざまなトラブルがつきものだ。

 今回のトラブルはまさに、「マンション管理士」であった。

マンション一室がキャバクラ寮に

 トラブルの発端は、7世帯のうち、唯一、賃貸に出している3階区分所有者(育英会を運営する一般財団法人H)との問題である。2017年9月末、突然、Hから空室だった3階に居住者が入るという電話連絡が入った。当然、どのような入居者が聞いたが、プライバシーの侵害に当たるので職業さえ言うことができないと説明。翌日、入居のあいさつに来た若い男に聞くと、キャバクラ従業員と名乗った。前日提出された届け出書類にある氏名、電話番号はキャバクラ会社の社長のものだった。

3階居住者による延べ4カ月もの無断駐車

 その後、3階居住者によるびっくりするようなさまざまなトラブルが発生した。3階を除く、すべての区分所有者の要請で、昨年9月臨時総会を開催して、Hに対して3階のキャバクラ寮としての契約を解除するよう求めた。

 このマンションでは2011年総会で、「事務所、仕事場など」及び「不特定多数の出入りする寮」としてのマンションの使用禁止をするルールを決めていた。Hは管理規約、使用細則で決められていないと言ってきたが、管理規約第63条で「規約、使用細則又は法令のいずれにも定めのない事項について、総会の決議により定める」とあり、当時はHも含めて賛成したルールだった。

 昨年9月に臨時総会を開催、キャバクラ寮としてのさまざまなトラブルを挙げて、「不特定多数の寮としての使用はできない」ルールを守るため、即刻契約解除を求めた。理事の一人が次回の更新時に、契約を解除するまで待つという妥協案まで示した。

 ところが、Hはこちらの求めをすべて無視したため、何度か書面で求めたが、逆に理事長宛に弁護士名の内容証明郵便などが送られ、契約解除に応じることはなく、総会での決議は無視されたままとなった。

 再三再四、「寮としての使用不許可」を求めたが、これまで通り無視されれば、3階のキャバクラ寮は続いていくことになる。さらに、Hからキャバクラ会社との契約は「自動更新」である旨も告げられた。未来永劫、従業員の顔触れは変わってもキャバクラが存在する限り、3階は「キャバクラ寮」として使われることになってしまうのだ。

 そんな状況の中、ことし3月総会で「不特定多数の出入りする寮としての使用不許可」を求めたあと、「非居住者の住民活動協力金」をHに求める議案が出され、出席したHの事務局員を除く全員賛成で可決された。この結果、4月から通常の管理費等に加えて、Hには「協力金」の支払いが決まった。Hが3階を賃貸に出しながら、自主管理の業務に全くタッチしていないことが主な理由だった。また「キャバクラ寮」との契約解除が行われるまで、「協力金」を支払えというのが提案した理事の主張だった。

マンション管理士が不公平だと言っている

 4月末頃、Hは管理組合宛に「マンション管理士に相談し、このような根拠がなく、また一区分所有者だけの負担が増えるなどの、平等性のない管理費の実質的な値上げ要求に応じらない」と文書で通知してきた。

 「非居住者の住民活動協力金」は最高裁の判例でも認められていて、問題ないはずだった。それなのに、マンション管理士が公平公正ではないと言っているという。そのような無責任な発言をするマンション管理士などいないだろうと考え、Hに対して、名前等を教えるよう依頼した。メールでマンション管理士名がTだと告げられた。

 Tに面会して、2時間半もマンショントラブルについて、事細かく説明した。Tが一方的にHからの主張を聞いていて、実際の事情等を不承知であることを懸念したからだ。「協力金」の額が一般に比べて高いという指摘には、もしそうでなければ、Hは「契約解除」に応じることはないからだと説明した。Tは中立の立場であり、相互の意見を聞いて、最も良いアドバイスをするのが業務である。Tはマンショントラブルの事情を理解してくれた旨を管理組合員に知らせたが、何らかの解決策を見出すことはできないだろうとも考えた。

 ところが、Tは「わたしではなく、別の理事に会いたい」旨を、Hから当該の理事へメールで伝えてきた。わたしの頭越しの話だったので、Tに連絡すると、「マンショントラブルを解決したいのだが、あなたでは妥協点がなく、別の理事に会って妥協点を探りたい」などと話した。理事全員がわたしと同じ意見であり、また管理者はわたしなのに、なぜ、別の理事に会いたいのか不信感を抱き、「なぜ、当マンションのトラブルにそこまで対応するのか」と聞いた。TはHの無料相談を受けたあと、わたしに面会して、マンションの事情等を聴いている。すべて無料であり、別の理事に会うのも当然、無料ということになる。

 Tは「相談業務を受けている静岡市に報告義務があるから」と答え、報告実績を重ねることで現在、「無償」の相談業務を「有償」にさせる目的がマンション管理士会にあるのだと説明した。

相手側の意向に沿ったマンション管理士の発言

 電話で話していて、前回の対応と違うことを実感した。Tは「区分所有法は共有部分のみを規制できるが、個々人の専有部分には及ばない」と何度も強調したからだ。つまり、「不特定多数の出入りのある寮としての使用禁止」を決めた総会のルール、管理規約、使用細則は法律違反に当たるかの発言を繰り返した。区分所有法は専有部分の規制はできないのだから、管理規約等で専有部分を規制することはできないというのだ。

 さらに、「協力金」について、総会で決めた金額が一般的な「協力金」に比べて高いことを問題にした上で、Tは個人的な意見として「違法と思われる(金額)」と何度も繰り返した。あまりに踏み込んだ発言だっただけに、疑問を呈すると、「『違法』であると断定していないのだから、別に問題ない」と言うのだった。前回の話し合いでは、「協力金」を請求することに違法性等はないと断言していたのが、金額が高いことをもって「違法と思われる」と意見を変えたのだ。

 これではたと気づいた。もし、別の理事がこの2点の発言を聞けば、どうなるか。「マンション管理士」という専門家による「違法と思われる」という発言であり、自分たちのしたことは「違法」と思い込んでしまうかもしれない。だからこそ、Tはわたし以外の別の理事との面会を求めたのだろう。一般的には専門家の意見は非常に重い。Tのいう「妥協点」とはマンション管理組合側に「非」があるのだから、H側の主張が正しい、と言っているように聞こえた。

  本当にそうだろうか?

「違法」かどうかの判断は裁判で決めるしかない

 国交省が定めた標準管理規約では、専有部分について「専ら住居として他の用途に供してはならない」と規定している。ペット飼育禁止も専有部分の話である。国交省は専有部分についての規定を許可している。当マンション管理規約でも「専有部分を住居以外の目的に使用することはできない」「ペット飼育はできない」などの規定があり、それについてHは反論していない。区分所有法は共有部分についてのみ規定しているかもしれないが、管理規約で専有部分の使用制限をすることに問題はないのだ。

 また、Tに会った当初から、わたしは「協力金」は最高裁判例(2500円)に比べて非常に高い(3万4千円)ことを承知している、と述べた。キャバクラ寮としての賃料をこちらは知らないが、この負担がH側に高いとは思えず、十分対応可能だと説明した。「協力金」の目的はマンションルールに反して、「不特定多数の出入りのある寮」としての使用不許可を続け、マンションの資産価値を下げるなど区分所有者として「共同の利益」を守る原則に反していることへの制裁の意味が強い。

 国交省担当課に聞いたところ、専有部分の寮としての規制は「違法とまでは言えないのではないか」と回答した。個々のトラブルの事情まで承知していないから断定はできないとしても、少なくともマンション管理士Tの説明とは大きな違いである。

「嘘」をつくマンション管理士とは?

街中のマンションは快適で便利だ。管理組合のことも聞いてから購入しよう

 「キャバクラ寮」については、個人それぞれの見解は違うだろう。そのマンションを平和な終の棲家としている住人たちにとっては大きな問題である。街中にあるマンション生活は便利なことが多いが、どのような管理をしているのか、住民の顔が見えるのかなどちゃんと調べてからマンションを購入することをお薦めする。

 マンション管理士に聞いてみるのもいい。しかし、どのようなマンション管理士に聞くのか、十分注意すべきだ。

 マンション管理士Tの「静岡市に報告義務がある」発言は、静岡市担当者に確認すると、真っ赤な嘘だと判明した。「嘘」をついてまでわたしたちのマンショントラブルに介入して、相手側(H)の意向に沿うような発言をするのはなぜか?

 Hの常務理事は弁護士である。だから、今回のトラブルに関して、さまざまな書面を理事長宛に送ってきている。それが最後には、マンション管理士に相談して、「違法と思われる」発言をするのは全くもって謎である。

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