「ブリューゲル探訪の旅」への誘い1

「旅する時間」へあこがれ

 「人生は旅のようなものだ」。

  旅の恥はかき捨てと言われるが、長く生きていると、人生そのものが恥のかき捨てと気がつく。「旅する時間」が多ければ多いほど、恥の経験ばかりで、少しばかりタフな人生観を持つことができる。年のせいもあって、めったなことでは動じなくなる。若い時代(現代では50歳くらいまでか?)にこそ何度も旅の恥をかくことをおススメしたい。

 大学3年になると1年半ほど、新聞社系旅行代理店の(アルバイト)添乗員として国内各地を回った。現在、添乗員の仕事をするには「旅程管理主任者資格」が必要だが、40年前は会社の簡単な試験を受けるだけで「添乗員」を名乗った。就職活動は大学4年10月からと決まっていたから、いまの時代の状況とはまったく違っていた。

 旭日旗に似た旅行会社の旗を振り振り、ツアー客一行を先導、電子機器が発達していない時代だから、各地の旅館やレストランでは持参の現金で精算するのも役割。そんな旅行には大小のアクシデントは必ずつきもの。添乗員に資格試験を設けたのは、アクシデント対応が主な理由だったかもしれない。(責任意識の希薄で恥知らずの学生)添乗員だったから、ツアー客と一緒の「旅する時間」を十分に楽しんだ。

 サラリーマンになって、仕事が忙しければ、忙しいほど「旅する時間」こそ最高の息抜きとあこがれた。決まりきった日常生活を離れ、どんな苦労や失敗が待ち受けていても、異質な世界を回る旅の魅力を知っていたからだ。30年ほど前から、海外旅行へ出掛けるようになって、国内旅行とは全く違う恥を何度もかくようになった。語学が堪能ではないからこそ、どきどきハラハラする「旅する時間」が海外では待ち構えていた。

「旅する時間」にはテーマが必要

 いまの時代、働き方改革が叫ばれているから、忙しいサラリーマンでも「旅する時間」の余裕は十分にあるはず。ところが、「どこかへ旅に行きたい」そんな同僚たちの愚痴もよく聞いた。会社にいると、なかなか自分の都合で「旅する時間」をつくることができないのだろう。そんな愚痴を聞いていて、旅行業の資格試験(ペーパーテスト)を受け、「一般旅行業取扱主任者」の資格を取得した。「旅する時間」を提供する側から考えてみたかったからだ。

 リタイア後、旅行業を仕事にすることはなかったが、”旅コンシェルジュ”と名乗ることにした。「旅する時間」をススメるのが”旅コンシェルジュ”。どんな場合でも「旅する時間」にはテーマが必要。今回は「ブリューゲル探訪の旅」。何かテーマがあるとさらに楽しいからだ。

 約30年前に出版された「ブリューゲルへの旅」(中野孝次著、河出文庫)表紙の「雪中の狩人」は教科書でもおなじみ。中世の暗いヨーロッパの長い冬を連想させた。芸術新潮2013年3月のブリューゲル大特集で、現存する42点のブリューゲル作品がどこにあるかわかった。「雪中の狩人」はじめ「バベルの塔」「農民の婚宴」など最も多い12点を有するのがウィーン美術史美術館、大好きな「怠け者の天国」ほか2点がミュンヘンのアルテ・ピナコテーク、ナチスに収奪された「盲人の寓話」「人間嫌い」を取り返したナポリのカポディモンテ美術館。14点の作品を見学するために、2週間の予定で3都市を訪れることにした。

航空券を賢く買うには?

 旅のテーマが決まったら、旅の準備が始まる。まずは、旅費の大部分を占める「航空券を買う」。

 航空券をめぐる環境は時代によって様変わりする。過去(約20年前、ネットが主流でない時代。当然LCCもなかった)の安売りチケット購入は、HISなど旅行代理店に電話で値段を確認した上で、航空会社、トランジット(乗り継ぎ)時間などを比較して自分の旅に合ったチケットを購入した。旅行の間際になると、さばけなかったツアーの団体チケットが市場にどっと出てきて、HISなどに安売りチケットが出回るという仕組み。そんな時代が終わり、いまや、旅行代理店の経営は厳しい時代に入った。

 旅行代理店を通じなくても、ネットで航空会社に直接、旅行代理店と同じ価格で航空券を購入できる。旅行代理店を通せば手数料を取られるから、手数料分高くなってしまう。最近では旅行代理店を使う人が少なくなっている。

 その航空券を安く買おうとすれば、出発日よりも前であればあるほど価格は安い。ただし、シーズン、曜日などで値段は違うことも考慮に入れる。

 今回の航空券は、ANAのサイトで羽田からミュンヘン(ルフトハンザ航空)、ミュンヘンからナポリ(同)、ナポリからウィーン(オーストリア航空)、ウィーンから羽田(ANA)への直行便を約4カ月前に購入した。合計26万円弱だった。ミュンヘンーナポリ間が早朝便だったので、昼間便に変更するのに約1万円余分に掛かっている。すべて乗り継ぎなしで、時間も深夜早朝はないから、手ごろな値段と考えていい。

 エコノミーだが、同じエコノミーにS、W、Vなどさらに細かいクラスがあり、値段が変わる。日々そのクラスが変わっていく。エコノミーだけでも10クラスはある。クラスが変わるごとに値段は上がるが、その詳細は旅行代理店でも分からない。1年前に予定が決まっているのならば、最安値のクラスで購入できる。出発日に近づけば、近づくほど最高値のクラスに変わっていく仕組みのようだ。

 スターアライアンス(3大航空会社連合の1つ)加盟のANA(ルフトハンザ航空、オーストリア航空など)のほうが、ワンワールド(同)加盟のJALよりも航空便の都合がよく、値段もずっと安かったので、今回はANAを使うことにした。

 いつ旅行をするのか決めたら、なるべく早く航空券を購入すれば安くなるのが原則。1週間ほど迷っていたら、同じエコノミーチケットでクラス変更になり、約1~3万円も値段が上がっていた。1日違うだけでも値段は変わっていく。

ホテルはネットで探すのがベスト

 ホテル紹介サイトがこんなに便利で使いやすくなったのも最近になってからだ。人気の高いAirbnb(民泊の大手サイト)を使ってみたが、わたしにはホテルのほうが向いているようだ。多分、わたしたち世代の日本人はみな同じだろう。

サンフランシスコの高級ホテル。日本国旗が掲揚されていたので撮影

 ミュンヘンはエクスペディア(アメリカに本部のある世界最大級のホテル予約サイト)、ナポリはアゴダ(アジアを中心としたホテル予約サイト)、ウィーンはotel.com(オーストラリアのホテル予約サイト)を使い、クレジット決済した。すべて同じホテルを比較して、最安値のサイトを選んだ結果、それぞれの都市で違う予約サイトを使うことになった。多分、部屋のグレードも同じなのでそれほど違いはないはずだ。

 最大手のエクスペディアだけバウチャー(予約確認書)がメール送信されなかったが、他の2社からは必ずバウチャーを持参するようにとメール送信。これは大手かどうかの信用性の問題だろう。ただし、昔と違って予約が取れていないことはほとんどないはずだ。

 ホテルの価格は航空券と違い、旅行間際のほうがずいぶん安くなる可能性が高い。ホテル側は空室を売るより、破格の値段でも売ったほうがいいと考えるからだ。しかし、良いホテルであれば満室になってしまい、その地域で宿泊できるホテルがなくなる場合もある。価格ではなく、安心を求めるならば、早いうちに予約するほうが無難だろう。

 さあ準備は済んだ。次回は実際に旅に出て、恥のかき捨てについて書いていく。 

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