リニア騒動の真相8 川勝知事、”怪挙”に出る!

「期成同盟会」入会は川勝知事の戦略?

 あまりに唐突で思い掛けない申し入れだった。

 5日静岡市で開かれた「中部圏知事会議」のリニア中央新幹線に関する議題の中で、川勝平太・静岡県知事は「建設促進期成同盟会」へ入会申請したことを明らかにした。

直線ルート採用で静岡県もリニア通過県に

 「入っていただくのはいいのではないか」。当日出席していた「期成同盟会」会長の大村秀章・愛知県知事は表面上、そう賛成の意向を示さざるを得なかった。「期成同盟会」は1979年の発足当初からリニアが通過する9県で構成していた。ところが、2011年5月の整備計画決定によって、JR東海は最も採算性の高い直線の「南アルプスルート」を採用、この結果、静岡県もリニア通過県となったのだ。ただし、山梨県と長野県の間、南アルプスの山岳地帯10・7キロを貫通する地下4百メートルに造るトンネル部分のみで、地上部分はない。「期成同盟会」の目的はリニア新駅設置、地域振興であり、整備計画決定以降も静岡県は全く蚊帳の外に置かれていた。

 「早期開業を求める会の趣旨に賛同してくれれば問題ない」。大村知事は静岡県の突然の申し出に警戒感を露わにした上で、「他の都府県の意向を聞きたい」と逃げるしかなかった。

 川勝知事は「2027年開業はJR東海の企業としての都合」と何度も繰り返してきた。JR東海と静岡県との対立を大村知事は承知しているだけに、どんな思惑で「期成同盟会」へ入会表明したのか、疑問を抱いたのだろう。金子慎JR東海社長が5月30日の記者会見で、静岡区間での未着工を挙げて「2027年開業に影響を及ぼす」と困惑を示したばかりだった。

 しかし、リニア通過県の静岡県が「期成同盟会」入会の権利を持つことに疑いをはさむ余地はない。だから、疑問を抱きながらも大村知事は表面上は「賛成」と言い、「他の意向を聞きたい」と判断を避けたのだ。

 なぜ、川勝知事は「期成同盟会」入会という思い切った行動に出たのか?

 その日の朝、中部圏知事会議の予定を聞いた知事は県庁知事室から富士山の美しい姿に触れていて、突如として「期成同盟会」へ入会すべきという強い閃きを感じたという。だからこそ、”怪挙”とも言える川勝知事の行動だが、優れた政治家としての戦略だったのである。

川勝知事「静岡にメリットがない」

 川勝知事の”怪挙”に、理屈で動く県庁職員たちは慌てふためくしかなかった。

 通常の場合、事務方が「期成同盟会」事務局と連絡を取り、段階を経て、関係者の合意を取り付けた上で入会申請に持っていく。もし入会となれば、分担金などを含めて予算付けをする担当部局を決める必要もあるが、突然の知事の決断に事務方が追い付けるはずもなく、とりあえず、南アルプストンネル工事の影響解消をJR東海と話し合う環境保全連絡会議担当の「くらし・環境部」に申請依頼書を作成させた。

 くらし・環境部にはリニア建設促進の役割を担う課は存在しない。その証拠に、織部康宏環境局長は「大井川の水環境問題について共通理解を求めるため」と期成同盟会の趣旨とかけ離れた入会理由を説明した。

 川勝知事名の入会申請書には、リニアの意義を褒めたたえた上で「リニア中央新幹線の整備実現に向けて、本県も沿線に位置する県として、同盟会へ加盟したく取り扱いのほど、よろしくお願い致します」とある。大井川の水環境問題を理解してほしいなど一切、触れられていない。

 もし、静岡県が「早期開業」に賛成ならば、大井川中下流域の水環境での基本協定にこだわる静岡県の姿勢に疑問を感じないほうがおかしい。

 水環境の保全問題では、最初から入り口の違うJR東海と静岡県の主張は平行線をたどっている。静岡県がJR東海の主張を了解しない以上、両者の溝は埋まりそうにない。「早期開業」を求める愛知県知事、JR東海の願いと静岡県の主張が逆行していると考えるのがふつうである。

 リニア進捗遅れの”元凶”静岡県がなぜ、「期成同盟会」に入会したいのか。大村知事にも、川勝知事の行動は”怪挙”に映ったはずだ。

 川勝知事は「リニア推進派」であることを公言してきた。しかし、「リニアには賛成だが、静岡県にデメリットはあっても、メリットは何もない」。今回の”怪挙”の中で、川勝知事は「リニア建設での『静岡県のメリット』を示してほしい」と初めて言及、水環境問題ではなく、「静岡県のメリット」論をはっきりと展開したのである。

「1県1駅」を約束したJR東海

 リニア計画は1970年代に始まり、中央新幹線建設促進期成同盟会がちょうど40年前、79年沿線9都府県(東京、神奈川、山梨、長野、岐阜、愛知、三重、奈良、大坂)で設立された。リニア計画の当初から静岡県を通過せず、茅野、伊那周辺を通過する「迂回ルート」を長野県などは強く要望してきた。

 「期成同盟会」各県の働き掛けが功を奏して、2009年8月、JR東海の松本正之社長(当時)は「期成同盟会」総会の席上、リニア通過県には「1県に1駅ずつ設置するのが適当」と停車駅の設置方針を示した。JR東海は、通過する各県に「1県1駅」設置を約束したのだ。

 「期成同盟会」への入会とともに、2011年「南アルプス」ルートを採用したのはJR東海なのだから、通過県の静岡県から見れば、当然「1県1駅」の権利があると考えることはできる。川勝知事もそう考えたのもかしれない。

 南アルプス直下約4百メートルのトンネル内に新駅設置はほぼ不可能であり、当初、JR東海の要請を受けた静岡県は、東海道新幹線に余裕が生まれ、静岡空港に接続する新駅構想に追い風になるとの理由だけでリニア支援を決めていた。「静岡空港新駅」は静岡県の悲願の一つと言ってもいい。

 しかし、JR東海は「リニア開業後、東海道新幹線に余力が生じた場合は検討の対象」としただけで、実際は、「静岡空港新駅」計画を真っ向から否定してきた。リニア開業に協力することで、JR東海が静岡県の意向に忖度してくれるものと静岡県は大いに期待した。

静岡県の切り札は「河川法許可権限」

 2010年12月、川勝知事は東海道新幹線トンネルの西側出口付近に地上駅を整備する費用負担の少ない「静岡空港新駅」構想を提案した。この提案に呼応するように、国交省交通政策審議会はリニア整備の意義の中に、広域防災拠点として「静岡空港新駅」の可能性を初めて盛り込んだ。知事は国交相に強く陳情したが、肝心のJR東海はそれまでの姿勢を崩さなかった。リニア整備が始まったが、静岡県へ協力を求めるJR東海の口から「静岡空港新駅」設置についてはひと言も触れられなかった。「聞く耳を持たぬ」姿勢から一歩でも変化が生まれることを静岡県は期待したが、JR東海の姿勢に変わりなかった。

 その期待が見事に裏切られた結果が、現在の静岡県の強硬姿勢につながっているのではないか。

 昨年8月、川勝知事は「リニア南アルプス工事での水減量分はすべて戻してもらう。これは県民の生命に関わる問題」と強い姿勢を見せると、JR東海は「減量分すべてを戻す」とあっさりと知事のことばに従うことを表明した。しかし、問題は解決しないのだ。なぜならば、JR東海にとって、大井川の利水者協議会の議論が問題ではない。静岡県の持つ河川法の許可権限こそが厄介な代物なのである。

「越すに越されぬ大井川」については「リニア騒動の真相3」で紹介

 「リニア騒動の真相3 ”越すに越されぬ大井川”」で詳しく紹介した静岡県の唯一、絶対の強みである。JR東海は静岡県にその許可権限がなければ、とうの昔に南アルプス区間の工事に着手していたはずである

 6日午前、静岡県はリニア工事で大井川の水資源や自然環境にどんな影響が出るのか議論した結果を「中間意見書」にまとめ、JR東海に送付した。その同じ日の午後、「期成同盟会」総会が東京で開かれ、JR東海の金子社長は「2027年開業に影響を及ぼしかねない」と再び、静岡の未着工区間を懸念材料に挙げた。そんな中で、会長の大村知事は国による調整を求めた。いずれも静岡県の持つ河川法許可権限に手出しはできないからだ。

JR東海と静岡県の対立を紹介した日経新聞6月7日付朝刊記事。解決策は見当たらない

 期成同盟会総会は川勝知事の「入会依頼書」を棚上げにした。総会へ出向いた担当者は大井川の水環境に関する中間意見書を持参したが、総会への出席は認められず、中間意見書も持ち帰った。大井川の水環境保全を求める中間意見書が配布されれば、期成同盟会の趣旨と異なると静岡県の入会拒否の理由にすることができたかどうか?あいまいなままに「入会依頼書」は来年6月の期成同盟会総会まで棚晒しにされ、何ら議論されることはない。

 だからと言って、静岡県の期成同盟会入会への権利を奪うことはできない。

「誠実に対応する」はどんな意味か?

 一方、静岡県の中間意見書に対して、JR東海は「中身を確認した上で、これまで通り誠実に対応いたします」とコメントした。

「南アルプストンネル工事に着手」。JR東海の早期着手を願う説明パネル

 「誠実に対応すべき」は、過去にJR東海が約束した「1県1駅」と川勝知事は言ってくるかもしれない。そのためにこそ、知事は期成同盟会入会の意思を示したのである。リニア通過県の静岡県が「1県1駅」を求める権利も奪われない。ただし、その1駅がリニア新幹線ではなく、「静岡空港新駅」であることをJR東海もそろそろ承知すべきなのだ。大井川の利水者協議会メンバーの島田、焼津、藤枝、掛川、牧之原、多くの企業もこぞって期待しているのだから。

 川勝知事が期成同盟会入会の申請という”怪挙”に出たことで、ようやく、JR東海との議論は新たな局面に入り、その中身もはっきりとしてきた。JR東海の誠実な対応を静岡県は求めている。これまで、JR東海への「期待」は裏切られてきただけに、川勝知事のさらなる手腕に「期待」は高まる。

静岡市は140億円トンネルを勝ち取った

 「静岡には残念ながらリニア駅は造られない。(ユネスコ)エコパーク指定を受けた南アルプス地域とリニア新幹線なら、静岡はエコパークを取る。なぜならリニアには何のメリットもないからだ」。川勝知事の口調は滑らかとなり、ようやく「静岡県のメリット」論を明らかにして、議論を始めている。

 そのためにか、川勝知事は13日、南アルプスエコパーク内のリニア準備工事を視察する。

JR東海が作成した140億円トンネルのイメーズ図

 当然知事は県道189号線(三ツ峰落合線)を通るはずだ。1年前の6月20日、田辺信宏静岡市長がJR東海の金子社長と基本合意書を締結した。当初、JR東海は市道閑蔵線の全線二車線化(約100億円)を提案したが、静岡市は強く県道三ツ峰落合線トンネル(約140億円)を求め、とうとう140億円トンネルを勝ち取った。

 ことし4月、静岡市は道路計画課に「中央新幹線関連道路推進室」を設けた。現在、トンネル建設に向けて調査に入っている。すべてJR東海の費用負担である。静岡市の許可権限(東俣林道使用など)に対する「メリット」(補償)が140億円トンネルだとだれもが見ている。

 さあ、次は、JR東海は「静岡県のメリット」を川勝知事にちゃんと示してほしい。そうでなければ、いつまでもJR東海は静岡県との議論を続けることになるだろう。 

※タイトル写真は中日新聞6月6日付朝刊。にこやかな川勝知事の左隣が大村愛知県知事。心なしか暗い表情に見える

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