リニア騒動の真相69「工事凍結」は思いつき?

各紙の新年インタビューではどう答えたのか?

  昨年12月23日の会見で、川勝平太静岡県知事は突然、リニア南アルプストンネル工事の静岡工区について、JR東海に「工事凍結宣言」を表明するよう求めた。その後、新聞各紙との新年インタビューが行われ、当然、「工事凍結宣言」が大きなテーマとなった。

 昨年6月の金子慎JR東海社長、7月には国交省の藤田耕三事務次官が県庁を訪れ、トンネル本体工事とは関係のないヤード基地での準備工事について再開を要請したが、知事はトンネル本体工事の一部とみなして拒否した。このため、JR東海の工事は宿舎や市東俣林道の整備に限定され、事実上、リニア工事は全面的に凍結されている。つまり、「工事凍結宣言」の有無に関わらず、JR東海は全く、手が出せない状態である。

 1月1日付中日、静岡、3日付朝日、4日付毎日、産経、5日付日経、7日付読売の各紙がすべて紙面を大きく割いて知事インタビューを掲載している。「リニア工事凍結宣言を」(読売)、「リニア工事凍結促す」(毎日)、「工事の凍結求める」(中日)、「リニア工事「一時凍結を」」(日経)など各紙のインタビュー記事の見出しに「工事凍結」が登場した。

 どういうわけか、朝日はリニア問題を落として、紙面では1行も触れていない。リニア問題は全国的に注目され、県民の関心も高いから、朝日は他紙が扱うと分かっていて、リニア問題を落とした。これも見識か?

1月1日付中日新聞知事インタビュー

 1ページ全面を割いて、知事インタビューを東海本社編集局長が行った中日を見てみよう。「リニア問題」の項目で「工事の凍結を求める」を見出しにしていた。「国交省有識者会議で結論が出た場合の対応?」が質問だった。記者会見などで知事が何度も繰り返した状況説明をした上で、「有識者会議で一定の結論が出ても、県の専門家会議でも協議し、流域住民の理解も必要になる」と有識者会議の存在を否定するような、これまでと同じ話を紹介している。全く目新しい情報はない。

 最後に、ひと言、『住民を安心させるためにも「凍結する」方針をJR東海が出すしかないのではないか』と述べ、それが見出しに取られた。「住民を安心させる」理由で、知事はJR東海に「工事凍結宣言」の表明をしろ、と言うのだ。JR東海は知事権限の前に手も足も出ない、準備工事にさえ入れない状態にある。(知事はJR東海の味方だと見ている)国の有識者会議の結論が出ても、次のステップがあり、すぐに工事に入れないことを周知させているから、いまや不安を持つ県民は誰もいない。「住民を安心させる」という知事の大義名分をとやかく言うつもりはないが、そもそも誰も不安を訴えてはいないのだ。

 逆に、地元の井川地区住民は早期着工を望む声がしきりだった。「工事凍結宣言」表明を迫るのは、単なる知事のパフォーマンスだろうか?

有識者会議は時間が掛かる?

 「リニア工事凍結促す」。強烈な大見出しの隣でにこやかに笑う毎日=タイトル写真=は「ルート変更や甲府までの部分開業をJR東海に求める考えに変わりないか」という質問に、知事は「それを考えるべき最大の責任者はJR東海の金子社長」とした上で、「有識者会議は時間がかかる。工事凍結を公式に言うことは、地元に安心感を与える」とあり、中日とほぼ同じ回答をしている。

1月7日付読売新聞インタビュー

 読売では「(有識者会議の結論が出るまで)相当時間がかかる。結論が出るまで、JR東海はトンネル工事の凍結を宣言するべき段階にきている」。いずれにしても、これからも工事の許可を出さないことを宣言している。JR東海に率先して、自ら進退を処すべきだと言っている。

 静岡では、もっと踏み込んでいた。知事は「国土交通省の専門家会議で(自然環境などに)悪影響が出る、あるいは大井川の水が全量を戻せないという結論になれば、工事をいったん凍結するのが常識だ。だが、JR東海は南アルプスにトンネルを通す大方針を変えず、建設計画を立ち止まって考え直す様子は全くない」と言うが、これは何だか分からない

 国交省の有識者会議は中下流域の地下水への影響はほぼない、という結論を出すことは明らかだ。ただ、「大井川の水の全量戻し」や「自然環境」はこれから議論が行われる。知事は議論の前にすでに、ダメだという前提に立ち、「工事をいったん凍結するのが常識的だ」と切り捨てる。こんな仮定に基づいた結論を導き出して、「JR東海は南アルプストンネルを通す大方針を変えて、建設計画を考え直せ」と迫っているのだ。

 最後に「リニア問題は新型コロナと同じように危機として県民全体に突き付けられている」と断言する。つまり、静岡県に「リニア問題」が存在することは、コロナのような厄介な存在であり、「リニア計画を抜本的に変えろ」とは、「計画を中止しろ」と聞こえてくる。

1月5日付日経新聞知事インタビュー

 日経は、さらに具体的に書いてあった。「私がJR東海の社長なら、これ以上話がこじれると事業それ自体をあきらめる最悪の事態になりかねないと考える。ここは事業者として静岡工区の一時凍結を表明すべき」、「三大都市圏を約1時間で結ぶリニアは感染症のウイルスを移行させるインフラにもなりかねない。国会に委員会を設け、リニアをこのまま進めてよいか、中間評価として審議すべき」と、知事の飛躍した論理にとどまるところはない。

 リニア計画は三大都市圏を1時間で結ぶことに価値があるから事業化したのだ。「リニアは感染症のウイルスを移行させるインフラ」に説得力があるかどうかわからないが、知事は「JR東海がリニア事業をあきらめる最悪の事態」を演出したいようだ。「リニア計画を中止しろ」と迫っているのが、はっきりと分かる。

お金に換えられぬリニア水問題?

1月4日付産経新聞知事インタビュー

 産経を読んで、すべてはっきりと見えてきた。見出しは「リニア水問題 お金に換えられぬ」。知事は「水の問題はお金に換えられない。南アルプスの地中は複雑で、毛細血管のような水脈がいったん断ち切られると、山は健康体でなくなる。希少な植物やさまざまな昆虫、生物を守れるのかということだ」と言っている。

 まるで子供の作文を読んでいるようだ。予算(お金)と法律(条例)が県知事の仕事である。お金の絡まない問題は何ひとつもないが、そう言ったほうが正義の側に立っているように見える。

 「リニア工事凍結」を求める理由を「お金には換えられない」「毛細血管のような水脈がいったん断ち切られると、山は健康体でなくなる」など情緒的なレベルで訴えられれば、リニア工事は永久に凍結せざるを得ない。JR東海がいくら科学的に説明しても、最初から聞く耳はないだろう。

 知事の要請に従って、JR東海が「工事凍結」を表明すれば、リニア計画中止を求める世論の追い風となり、大騒ぎとなる。リニア工事差止訴訟は論拠を得たことになり、コロナの影響で、新幹線需要が落ち込み、在宅勤務の奨励などでリニア整備の意義に疑問符をつける学者らも多いから、全国的な反対運動は大きな盛り上がりとなるだろう。知事はそのような効果を期待して、JR東海に「リニア工事凍結」表明を迫っているのだろう。

 ことし6月に知事選を控えているだけに、各紙とも4選出馬を聞いている。知事は4選出馬でも真意を明らかにしない。知事インタビュー紙面は知事として県民に対するポイントを獲得する絶好の場であり、対抗馬も出ていない現状で真意を明らかにするはずもないが、当然、出馬する意向ははっきりと見えている。

 リニアをコロナと同列の危機としてとらえ、知事選の争点にするのに、「リニア工事凍結宣言」は非常にわかりやすい。暮れの記者会見で、突然、「リニア工事凍結宣言」を迫り、新年の各紙インタビューであらためて紙面をにぎわせた。そのまま、知事選の争点にするのには絶好のテーマである。JR東海は何も言えないから、誰も反対はできない。

 つまり、「リニア工事凍結宣言」は、”パフォーマンス知事”の頭に浮かんだ思いつきだろう。だから、理由など何もないのだ。そのような場当たり的な思いつきにメディアは単に振り回されている。

 コロナ禍の中で、静岡県のあまりに貧しい医療体制に危機感を抱く自民県議が、昨年12月の県議会一般質問で、知事の公約である「医大誘致はどうなったのか」とまじめに追及したのが印象的だった。2009年夏、川勝知事は県東部地域への医大誘致を公約に掲げて知事選に出馬、初当選した。愛知、神奈川県が4医科大学、人口70万人の山梨県に1医科大学であり、人口約370万人の静岡県に1医科大学では医師確保ができていないのは自明である。

 それから10年余がたったが、医科大学誘致の声は全く聞こえてこない。医大誘致には、地域病院のベッド数緩和など政治的な課題が多く、それだけ政治家としてはやりがいがあるだろう。知事は政務が苦手だから、永田町や霞が関へ出掛けて、課題を解決できる政治力はないのだろう。清水地区の桜ケ丘病院問題を知事は批判してきたが、それよりも、東静岡駅の県有地に医科大学を誘致して、桜ケ丘病院のベッド数を活用するなどの方策を検討することはできる。ただ、そちらの難しい課題には手を出さない。

 JR東海が手も足も出ないリニア問題は言いたい放題でも、静岡県が取り組むべき課題については黙ったままである。12月県議会の答弁でも、自民県議の質問をはぐらかせただけで、何の回答もしていなかった。6月の知事選まで半年を切った。川勝知事のパフォーマンス政治は4期目も続くから、リニア計画は一歩も前に進まないだろう。JR東海は本当に、リニア工事凍結宣言を表明したほうが無難かもしれない。

 新年の新聞各紙インタビュー記事を読んで、その思いを強くした。

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