認知症のなぞ2 効かない”薬”を処方する医師

薬で認知症は治らない

 「認知症は薬で治らないの?」「治らない。認知症を治す薬は世界中、どこをさがしたってない」(「老乱」久坂部羊著、朝日新聞出版、2016年11月)

 阪大医学部出身の久坂部氏は高齢者を対象とした在宅訪問診療などに従事するとともに、「廃用身」「破裂」など事実に基づく医療情報を踏まえて小説を発表。「老乱」でも、登場人物の認知症専門クリニック医師が認知症は病名ではなく、状態を指すことばであり、原因となる病気は70ほどある、さらに、記憶障害、見当識障害、判断障害などの「中核症状」を一般に認知症と呼んでいると説明する。

 「認知症を薬で治すのは今のところはむずかしい状況です。脳の活性化とか刺激療法など、いずれも有効と言い難いのが実情です」

 本サイト「認知症のなぞ1」で記したように、母の主治医は母を「アルツハイマー型認知症」と診断した。判断能力が著しく失われ、成年後見を受けなければならないほどの心神喪失状態という診断書を静岡家庭裁判所に提出、母は静岡市内の神経内科医から別の診断書をもらって争っていた。

 当時、高齢(87歳)の母は時々、物忘れ症状を見せた。加齢に伴う物忘れは誰にでもあることで、それを認知症と区別するのは非常に難しい。母は介護度認定を受けておらず、介護保険用の主治医意見書を必要としていたため、主治医が処方する睡眠導入剤とともに、最も軽い認知症治療薬アリセプトに不満を述べなかった。主治医は母にアリセプト(塩酸ドネペジル)3mgを処方していた。

専門医はアリセプトを使わない

 10年前、認知症を専門にした富士山麓にある御殿場高原病院を取材した。1979年4月に開院しているから、ことし40年目を迎える。当時、30年間の治療効果について、清水允煕(のぶひろ)院長が語ってくれた。「認知症の進行を抑えるとされるアリセプトを使うことがあっても、症状が改善されることはまずありません。わたしの経験では数百例のうちで、効果が認められたのは1例程度に過ぎません」と、清水院長はアリセプトがはっきりと効果の期待できない薬だと断言した。医師が薬の効能がない、と言うのだ。本当にびっくりした。それではどうするのか?

 「老化に伴う高血圧、高脂血症、痛風などの症状に合わせた薬は別として、ここでは認知症の薬をなるべく使わず治療する方針を貫いています。それで症状が改善でき、経過が良い場合は退院させることも多いのです」その言葉にさらに驚いた。そんなことが可能なのか?

御殿場高原病院の清水院長(2008年当時)

 清水院長は具体的な治療法について、「75歳女性、夫の過去の浮気が許せない」「『嫁がお金を盗った』という77歳女性」「自分の家に居るのに『帰る』という74歳女性」「外出(徘徊)を止めようとすると暴力を振るう77歳男性」などそれぞれのケースに沿って説明してくれた。治療、看護、介護について、家族を含めて周囲がどのように対応するかが重要なのだ、という。

 「老乱」でも、日付とか前の晩のおかずとか幼稚園の子供に聞くような質問をすることが高齢者の精神状態を悪化させる、尊厳のある一個人として認めることが重要であり、逆にほめたり、感謝することで認知症の人は自分が周囲からどう受け止められているのか敏感に感じ取って、厄介者ではなく、存在を大切にされているといい気分だけが残る、と書かれていた。

 御殿場高原病院はまさに、その方法を実践し、「尊敬と感謝」を注ぐことで症状を改善させていると説明した。もし、母を認知症と診断したならば、主治医はどうして、そのような治療法を選択できないのか?

グラマリールという危険な薬

 「①お年はいくつですか? ②きょうは何年、何月、何日、何曜日ですか? ③わたしたちがいまいるのはどこですか?」など、長谷川式知能評価スケールを母に受けてもらったが、それさえ、母の尊厳を傷つけていたのかもしれない。静岡県立こころの医療センターでもう一度、同じことをやるのを断った母の気持ちを一番理解したのは同センターの担当医だったかもしれない。

 ところで、母の場合、アリセプト3mgだけでなく、グラマリール25mgを処方されていたため、わたしはグラマリールをやめてもらえるよう話した。調べると、グラマリールは脳梗塞後遺症の攻撃的行為や精神興奮を抑える薬だとわかったからだ。そもそも脳梗塞を発症していないのに、その後遺症のための薬を処方する理由は何だったのか。その時点で、主治医に対する信頼は失われていた。

医者をしっかりと選ぶべきだ

静岡家庭裁判所玄関

 その後母は心不全と診断されて、2週間ほど入院した。それから3カ月後、静岡家庭裁判所は姉の成年後見開始申立を却下した。理由を見ると、「難聴があるため意思疎通困難であるが、大声でしゃべれば通じる。自己の財産を単独で管理・処分することができる」というわたしと一緒に受診した医師の診断書が大きな意味を持っていることが分かった。

 「この診断はK医師の行った診断であり、他の医師が検査等を行って別の診断をされることは当然ありうる」というのが、主治医の弁護士による回答だったが、もし、いい加減なK医師のみの診断書しかなかったならば、母は認知症とされ、成年後見制度の適用となっていたはずである。

 もう一度、主治医宛に「どのような問診を行ったのか」など質問した。やはり、同じ弁護士事務所から、「前回の回答通り」との回答を受け取った。今後、母の主治医がこのようないい加減な診断書を出さないように自重してくれればいいのだが、逆に言えば、患者及び家族は医者をしっかりと選ぶべきなのだろう。

 難聴と認知症の関係を考えるべきだった。難聴を放置すると、認知症の発症率は高くなるだろうし、医師は難聴なのに認知症と診断するかもしれない。母は何度も補聴器を試したが、すぐに手放してしまっていた。

聴力の改善は非常に難しい

 「難聴で音の入力が少なくなると、脳の中で音をつかさどる部分の萎縮が進んでしまい、思考や記憶の働きにも影響してくる」。眼鏡と違い、聴力に合った快適な補聴器をどう探すのか、静岡市内の認定補聴器専門店を取材してみた。デジタル補聴器は必要な音だけを瞬間的に区別できるようになっていて、補聴器の改善は急速に進んでいるとのこと。いずれにしても、自分自身で試してみるしかない。

 最後に、タイトル写真に使った「プラセプラス」。皮肉のような話だが、”危険な医師”からの”危険な薬”ではなく、本物のプラセボ(偽薬)として安心して患者に奨められる。最初から薬効成分を含まないのだから、副作用もない。当然、プラセボ効果(薬を飲んでいるという自覚で精神的な安心感を得る)は期待でき、自己免疫作用で病気を治す場合がある。

 「自分も認知症になると思う? はい75% いいえ25%」(朝日新聞2016年1月16日付)。物忘れなのか、認知症なのか、はたまた医師を受診して認知症治療薬を処方されても、その効果を期待してはいけない。変な話である。

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