「本人訴訟」入門③法的根拠はあるのか?

ものすごく単純な裁判のはずだった!

 「本人訴訟」を決めた理由は、ものすごく単純な裁判だと考えたからだ。60万円以下の「少額訴訟」は1日で審理を終えて、審理終了後、判決が言い渡される。今回は「少額訴訟」ではないが、事実関係ははっきりとしており、68万円の請求訴訟でもあり、簡易裁判所ですぐに判決をもらえると期待した。

 新所有者のKは、旧所有者(廣田育英会)の滞納金があることを承知してマンション3階を購入した。区分所有法第8条で、新所有者は旧所有者の滞納金を支払う義務がある。Kは、管理組合と滞納金を発生させた廣田育英会の問題であると勘違いしていたが、何度もKに滞納金を請求したところ、廣田育英会の主張「債務(滞納金)は法的に存在していない」が、唯一、Kの不払い理由となった。となれば、「滞納金が法的に存在するのかどうか」だけが裁判の争点となる。

 2019年3月の管理組合総会で、廣田育英会に対する「非居住者の住民活動協力金」を議決した。これまでの経緯を見れば、常務理事のT弁護士が『「非居住者の住民活動協力金」は法的根拠に欠ける』などを記した「通知」を、わたし宛に送ってくるのが廣田育英会の常套手段である。弁護士の威信にかけて、廣田育英会は、管理組合の”横暴”をたたくはずだ。T弁護士名の内容証明郵便が届くのではないかと、毎日、どきどきしながら待ち構えた。

 1カ月近くがたち、2019年4月26日付で廣田育英会は「通知」を簡易書留で送付してきた。T弁護士ではなく、息子のHによる紙切れ1枚で、内容も非常に簡単なものだった。とりあえず、弁護士からでないことにほっとひと安心した。

 「当方(廣田育英会)はマンション管理士に相談したところ、このような根拠がなく、また一区分所有者だけの負担が増えるなどの、平等性のない管理費の実質的な値上げ要求には応じられない」ので、「従来通りの管理費を支払う」などと、一方的な主張が書かれていた。

 「平等性」云々では、管理組合総会の議決は無効にならないはずだ。T弁護士ならば、何らかの法律条項を踏まえ、「このような議決をするのは言語道断」「法的に全く誤っている」などと攻撃する。ところが、今回の通知で、Hは「マンション管理士」に相談、「根拠がない」と言っているだけだった。これでは何の説得力もないことは、法律に詳しいH自身がよくわかっているだろう。

 3月の総会で管理組合から”奇襲攻撃”を受けて、ふだんと違って、何も言えないまま、Hは「非居住者の住民活動協力金」の議決を受けざるを得なかった。その後、法律の専門家である父親のT弁護士に相談したはずだ。「マンション管理士に相談した」と書いてきたのは、T弁護士は病気にでもなったのか。これでは、管理組合総会の議決を有効と認めたことになる。Hの主張だけでは、滞納金は法的に存在していることになる。

 本当に、マンション管理士に相談したのか?それも口から出まかせか?もし、相談したのが事実でも、マンション管理士が「根拠がない」などとアドバイスするのか?いくら何でも、Hから一方的な説明を受けたから、マンション管理士も適当に話を合わせただけだろう。本当に、マンション管理士に相談したのかどうか、確認すべきだろう。マンション管理士とはだれかを廣田育英会に問い合わせた。

 拍子抜けの「通知」をもらい、甘く考え、油断があったのだ。

弁護士一家が「マンション管理士」に相談?

 「マンション管理士」と言っても、どのような職業か知る人は非常に少ない。2001年創設された国交省主管の国家資格。マンション管理組合の依頼を受けて、大規模修繕などの助言や指導をするのが主な仕事である。区分所有法やマンション管理適正化法に詳しくても、「弁護士」のように「訴訟代理人」となる権限を持たないから、今回のような複雑な問題に一方的に「根拠がない」など言える専門家ではない。

 一般的に「マンション管理士」の肩書は、管理会社社員が名刺に付け加える程度のものである。多くのマンション管理組合は管理会社に任せきりだから、管理会社社員がマンション管理組合の信用を得るための資格とも言える。「弁護士」のように独立して、個人事務所を構えるマンション管理士はほとんどいない。マンション管理士の資格だけではお金にならないのだ。なぜ、Hがマンション管理士に相談したと書いてきたのか、不思議でならなかった。

 2019年5月16日、静岡駅近くで、廣田育英会が知らせてきたマンション管理士「田原」の都合に合わせて、時間、場所を設定した。初対面のあいさつで、こちらは名刺を出したが、名刺を切らしたと言い、静岡県主催の「マンション管理士によるマンション管理セミナー&相談会」の1枚チラシを取り出して、講師名にある「田原忠裕」が自分である名乗った。ここで、変だと思うべきだった。

 わたしは、マンション管理組合と廣田育英会とのトラブルや対応等を詳しく説明した上で、「田原」がHの文書にあるように「非居住者の住民活動協力金」が本当に「根拠がないと言ったのか」ただした。

 「田原」は最高裁判例(数千円)に比べて高いが、「非居住者の住民活動協力金」請求に違法性等はないなどと話した。約2時間半にもわたる、わたしとの会合の結果を「田原」は廣田育英会に伝えると話していた。わたしは、マンション管理士「田原」が管理組合側のトラブルについて理解してもらった旨を組合員にメールで知らせた。これで「田原」との関係は終わりのはずだった。

 ところが、1週間後の5月23日朝、7階所有者Xに、廣田育英会から「田原」との面会を要請するメールが来たことを伝えられた。当然、わたしは「田原」との面談の結果をメールで伝えている。Xは「どうすればいいのか」と聞いてきたのだ。

 この時点では、どういう事情なのか、さっぱり分からなかった。2時間半もの面談で、「田原」は管理組合の主張を十分、理解してくれたものとばかり思っていた。

 それなのに、「田原」が別の組合員の意見を聞きたいと、廣田育英会は言ってきている。「田原」に名刺を渡したのだから、何か疑問があるならば、わたしに聞けばよいのだ。わたしの頭越しにそんな対応をすることに、強い不信感を抱いた。

 「廣田育英会Hには、わたしと同じ意見であり、『田原』に会う必要はないとメールしてください」と連絡し、「田原」に直接、なぜ、Xに会いたいと、言ってきたのか聞いてみることにした。廣田育会は管理組合の切り崩しに掛かっているのかもしれない。

廣田育英会サイドのマンション管理士とは?

 「田原」に連絡を入れた。わたしからの電話に、「田原」は驚いた様子だった。

 「田原」は「問題を解決したいが、あなたでは妥協点がなく、別の組合員と話をして妥協点を探るのだ」などと高飛車に出て、1週間前の雰囲気と全く違っていた。「あなたみたいに強情では、何の解決にもならない」と言うのだ。

 「なぜ、当マンション管理組合のトラブルに、理事長ではなく、別の組合員にまで会って事情を聞くなどの対応するのか」と尋ねると、「田原」は「相談業務を受けている静岡市に報告義務があるからだ」と答えた。「報告実績をつくることで、現在、県マンション管理士会が無償でやっている相談業務を有償にさせる資料とする」などと説明した。

 さらに、3月の管理組合総会で「3階キャバクラ寮の契約解除」問題を棚上げにさせるため、廣田育英会のHは唐突に収支決算の疑問点を投げ掛けた。わたしの単純な計算ミスと、8階所有者の滞納分が続いていて、収入があった時点で修繕積立金に入れる金額を落としていたのだ。総会後、廣田育英会には「会計担当理事が通帳を照合の上、単なる計算ミスであり、次回理事会、総会でその結果を報告する」などと送った。

 ところが、「田原」は「1年も先の総会ではまずい、ダメだ、お金のことは99%が賛成していても、1%が反対ならばダメだ。1円でも計算ミスがあってはならない」などと述べ、「ダメだ」を何度も繰り返した。何かこちらに大きなミスがあるような口調で、「田原」の「ダメだ」が真実のように聞こえてきた。

 さらに、「非居住者の住民活動協力金」について、廣田育英会に示した金額が最高裁判例に比べて高いことを指摘して、「違法と思われる」とまで言った。わたしがどこが「違法なのか」尋ねると、「『違法』であると断定しているわけではない。違法と思われると言っただけだ」と「田原」はかわした。

 「田原」が、廣田育英会の立場を代弁していることがはっきりとわかった。3月の総会でもHは収支計算の間違いに難癖をつけ、「お金のことは1円でも間違ってはならない」と強く言い、「すぐに訂正した上で、廣田育英会のチェックを受けるべきだ」と強硬な姿勢を見せた。「田原」はまるで、廣田育英会Hと同じ口調だった。

 専門職のマンション管理士が自信たっぷりに「非居住者の住民活動協力金は違法と思われる」などと言えば、7階Xは「違法」と頭から信じてしまうかもしれない。「田原」との会合はあまりに危険性を伴う。

マンション管理士の真っ赤な嘘が明らかになった

 マンション管理組合のトラブルを静岡市に報告すれば、マンション名などが特定される恐れがあり、「田原」の話にいくつか疑問を抱いた。

 その日の午後、静岡市に電話で確認した。「相談会のあと、マンション管理士に管理組合内のトラブルなどを報告する義務は一切ない」と担当者が答えた。マンション管理士への有償の話も一切、出ていない。これで「田原」が真っ赤な嘘をついていることが明らかになった。

 静岡県に出向き、3月9日「田原忠裕」が講師になったマンション管理士セミナーについて教えてもらった。講師は静岡県マンション管理士会からの派遣であり、「田原」個人に依頼したものではなかった。公的な仕事をする「専門家」をアピールするにはもってこいだが、名刺を出さなかったことに何らかの意図があったのだろう。

 「田原」に再び、電話を入れて、「静岡市担当者は報告義務などないと言っている」と追及すると、「田原」は嘘であることを認め、発言を撤回、「静岡県マンション管理士会へ報告をするためだ」などと述べた。

 どうも、これもうそ臭いので、日本マンション管理士連合会(東京・千代田区)に連絡を入れて、事情を説明すると、担当者は「もし、お話が事実とすれば、当該のマンション管理士は非弁活動の疑いがある」などと話した。非弁活動?弁護士の資格を持たない者が弁護士活動によって報酬を得る行為を指し、違反者は2年以下の懲役または300万円以下の罰金という罰則まで設けている。

 わたしは一連の経緯と「田原」に対する疑問点をまとめて日本マンション管理士連合会に送った。2カ月近くたってから、日本マンション管理士連合会から「田原」問題の釈明などともに、今後、「田原」は行政相談会の相談員から外す、静岡県マンション管理士会から直接の説明と謝罪を行う、などとあった。

 静岡県マンション管理士会長が連絡を寄越し、お詫びの報告に訪れた。「田原」の非弁活動の疑いに一切の説明はなかった。ただ、廣田育英会が「田原」を使って、管理組合のトラブルに介入させようとしたことは間違いなかった。

 「非居住者の住民活動協力金」の督促通知を廣田育英会に送り、その中で「田原」の非弁活動の疑いについても指摘した。2020年2月27日付で広田育英会Hからは、速達で「通知」が送られてきた。

 『法の場以外では「3階キャバクラ寮の契約」は解除しない、「非居住者の住民活動協力金」は今後とも支払いは拒否する、管理組合が正当性があると思われるのならば、裁判所の判断を仰げばよい』などと書かれていた。時効をにらんで、「非居住者の住民活動協力金」の滞納分がたまった時点で、滞納金請求訴訟を起こすことを決めていた。

 廣田育英会がマンション管理士「田原」に非弁活動を疑わせる行為をさせたことで、「非居住者の住民活動協力金」の法的根拠に疑問の余地がなくなった。「3階キャバクラ寮の契約」解除に向けて「非居住者の住民活動協力金」が有効に機能していることを確信した。

 しかし、なぜ、「非居住者の住民活動協力金」は法的根拠に欠けると指摘しなかったT弁護士が、Kを相手取った68万円の滞納金請求訴訟で被告代理人となったのか?「本人訴訟」を行ったあと、まさか、T弁護士が被告代理人で出てくるとは思わなかった。

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