「本人訴訟」入門④静岡簡裁への疑問

調停は申立人に都合のよい制度?

 静岡簡易裁判所から3月17日、3階の新所有者Kが管理組合を相手取って「68万円の債務(3階の旧所有者、廣田育英会の滞納金の支払い)を負っていないことの確認」を求める「調停期日呼出状」が届いた。

 調停申立書では、廣田育英会が「専門家の意見も取り入れた上で請求自体が無効で債務がない」と言っているのに、管理組合からは何度も「支払え」と請求されるから、「公平な立場で裁判所の意見を聞きたい」と結んでいる。実際は、簡易裁判所の裁判官や調停委員から「廣田育英会(T弁護士)の主張をちゃんと権威づけ」してもらい、「Kには債務がないことを管理組合に納得させる」よう求めているのだ。

 ところが、Kが簡裁に提出した証拠は、わたしがKに送ったメール5通だけである。「請求自体が無効(法的な根拠がない)」とする専門家の具体的な意見がわかる”証拠”はどこにもない。

 Kには、2019年3月の管理組合総会の議決事項をはじめ、管理組合と廣田育英会とのこれまでの関係がわかる資料を手渡し、詳しく説明している。それでも、Kは、「廣田育英会(弁護士先生)」の言い分が正しくて、管理組合の説明が間違っていると判断した。Kは廣田育英会からの資料等は全くなしでも調停申立をすれば、68万円を支払わなくてもよいと考えたようだ。

 静岡簡裁から寄越した説明文『調停について』は、「双方の言い分を十分に聞き、事情をよく調査して、もめごとの原因をはっきりとさせた上、双方の話し合いと譲り合いによって、実情に即した解決を図ろうとする手続き」と書いてある。「調停で問題を解決しようとしているので、あなたにも調停期日に出席していただきたい」。これでは、調停申立人のペースで問題を解決する制度となってしまう。

 翌日(18日)、Kの調停に対する「照会書(回答書)」を作成、静岡簡易裁判所に持参した。

 甲第5号証は、わたしの送ったメール(「滞納金はKと廣田育英会のどちらかが管理組合に支払うのであり、Kが支払ったあと、廣田育英会に請求するしかない」などと書いた)とともに、Kからわたしに送ってきたメールもついている。そのメールで、Kは「債務の話は聞いていたが、法的に存在しないから無効と聞いている」「債務関係は廣田育英会が対応する」「Kは支払ってはならない」という「契約」を交わしているから、「債務を支払えない」と書いている。

 いくら何でも調停を求めるならば、滞納金の支払いを拒否する根拠、Kと廣田育英会との「契約」写しを管理組合に提出してほしい、と「照会書(回答書)」に書いて求めた。当然、”口約束”とは考えにくく、「契約」と書いてあるのだから、日付、当事者の署名があるのだろう。

 さらに、甲第7号証、8号証は、わたしが廣田育英会(譲渡人)の代理となった不動産会社代表に送ったメールであり、どういう経緯か分からないが、個人情報取扱業者の不動産会社からKにわたしのメールが渡っている。不動産会社代表からわたしに個人情報開示の受諾の要請はなく、いくら内容に問題がないとしても、勝手にわたしのメールを渡すのは個人情報保護法を逸脱する。手続きに不備のある証拠の却下を求めた。

 「照会書(回答書)」を提出するとともに、なるべく早く「本人訴訟」を起こすので、調停は「不調」にしてほしい、と伝えた。

 調停期日呼出状には「正当な理由なく出頭しない場合は、5万円以下の過料に処せられることがある」と書いてあった。静岡簡裁に起こす「本人訴訟」は、「正当な理由」に当たらないということか。

「訴訟」を起こすのに、「調停」が必要か?

 調停呼出期日は4月28日午後1時半。わたしは、3月22日、静岡簡裁の同じ書記官に「本人訴訟」の書類を提出、受理された。調停まで1カ月以上もある。書記官から「調停」と「訴訟」とも同じ簡裁判事と伝えられた。当然、簡裁判事は照会書(回答書)と訴状を読んでいるはずなのに、一切、連絡はなかった。

 3月22日に「本人訴訟」を起こした際にも、わたしは書記官に調停不調を求めたが、書記官は出席を要請した。本人訴訟を起こしたのだから、調停は「不調」となることは明らかなのに、調停を行う理由が分からなかった。

 4月28日、調停の席で「不調」を確認されただけで、何らかのコメントはなかった。せっかく、出席したから、M簡裁判事(男性)に「照会書(回答書)」はどうなったのか尋ねた。

 M簡裁判事の反応は全くなかった。わたしが不動会社代表に送ったメールについて尋ねると、「裁判の証拠であるならば、個人情報保護法違反には当たらない」とM簡裁判事は答えた。個人情報保護法はそんな緩い法律なのか? 

 男女2人の調停委員(何の専門家なのか説明がなかった)は何らの質問もなく、ただにこやかに座っているだけだった。当然、報酬は支払われているのだろうから、これは”税金”のムダである。わたしにとっては、時間のムダだった。

「訴状」は問題なく受理されたがー

 前後するが、3月17日に調停申立を受けると、すぐにでもKを被告とする68万円の滞納金請求訴訟を起こすことを決めた。140万円以下の訴訟を担当する簡易裁判所を訪ね、手続きについて聞いた。

 簡易裁判所では、記載例に沿って、手書きで「訴状」を簡単に作成できるようなテンプレート(定型書式)を用意していた。空欄に必要事項を記入していく方式。手書きだけに、一度、失敗するとすべて使えなくなる恐れがある。特に「紛争の要点(請求の原因)」を、わかりやすく説明するためには、何度も書き直す必要がありそうだ。空欄もそれほどのスペースはなく、長くなっても構わないとのことで、裁判所作成のひな型を基に、パソコンで「訴状」をつくることで問題なかった。

 記載例は「看板の取り外しで業者が看板を落としてしまい、原告の盆栽が台無しになった。弁償するよう求めたが、請求に対して支払いをしていないので、被告に8万円の損害賠償を請求する」という単純な事件だった。

 このような単純な事件でないことは確かであり、なるべくわかりやすく書いて、ちゃんと説明しなければ理解してもらえないだろう。「紛争の要点(請求の原因)」だけで3ページを要した。

 申立手数料は、10万円まで1000円、20万円まで2000円と10万円ごとに1000円ずつ増えていく。68万円は、70万円までだから7000円の印紙、被告へ送る切手代5330円の計1万2330円を用意した。

 訴状は、裁判所と被告の2部必要であり、これまでの主張をそのまま書いた。マンション管理組合は法人格を持たないので、2021年3月の管理組合総会で訴訟を行うことを決めた議決事項を証拠とすれば、わたしが管理組合理事長であることが分かるから、総会議決の提出が必要と、と説明を受けた。

 わたしから不動産会社を通じて、被告に68万円の滞納金を告知したメール、「非居住者の住民活動協力金」について法的根拠が示されていない廣田育英会からの2通の「通知」、「非居住者の住民活動協力金」に関わる管理規約の改正部分などの写しを証拠として提出した。

 この訴訟の第1回口頭弁論は5月11日午前11時半から静岡地裁第101号法廷と決まった。(4月28日の調停期日までにKにも到着していたはずだ。それなのに、調停を行うのはやはり、おかしい)

なぜ、静岡地裁へ「移送申立」なのか?

 4月28日、調停で簡裁に出向くと、Kの被告訴訟代理人T弁護士(廣田育英会常務理事)による「移送申立書」を書記官から手渡された。これには、びっくりした。

 T弁護士は4月22日付で静岡簡裁から静岡地裁へ移送するよう求めていた。ここで初めてT弁護士がこの裁判に参入したことを知った。「移送申立」の理由は、「管理規約で静岡地方裁判所を第一審管轄裁判所としているから、本件訴訟の管轄は静岡簡易裁判所ではない」としている。単に裁判を長引かせることがT弁護士の狙いと見て、この申立書に対して、反対意見書を4月30日、静岡簡裁に提出した。

 結局、M簡裁判事は5月7日、「本件を静岡地方裁判所に移送する」という決定を下した。T弁護士の移送を求める理由ではなく、事案が複雑であるなど内容によっては、適正・公平な解決を図るために、事件を簡易裁判所から地方裁判所に裁量移送できると民事訴訟法18条で定めている。M簡裁判事は民事訴訟法18条を適用した。

 そうなると、「本人訴訟」の内容をM簡裁判事はちゃんと読んでいたはずなのに、そのまま調停を行ったのは、おかしいということになる。M簡裁判事には、4月28日の調停期日の1カ月以上も前に、わたしの訴状が届いたはずだ。それほど複雑な事案ならば、調停になじまないとその時点で判断すべきでないのか。

 『「本人訴訟」入門③法的根拠はあるのか?』の冒頭に書いた通り、「ものすごく単純な裁判」と考えていたが、M簡裁判事の見立てはそうではないことが分かった。背景には、「弁護士先生」がお出ましになった要因が大きい。こちらがいくら「ものすごく単純な裁判」と考えても、「弁護士先生」が相手となると「複雑な事案」となるのが、M簡裁判事の見立てらしい。

 民事裁判に限らず裁判は、裁判官の心証で決まる。だから、判決の認定が必ずしも真実でない場合もある。M簡裁判事は、T弁護士の移送申立のあと、民訴法18条の「複雑な事案」であると、さも、法律家らしい脚色を加えて裁量移送の「決定」を下した。

 結果的に、T弁護士の主張がそのまま通ったことになる。『「本人訴訟」入門②「弁護士」肩書の威力』通り、専門家(「弁護士先生」)に素人(管理組合理事長)が立ち向かうのは、民事裁判の上では、大いに不利ということがはっきりとした。簡裁判事らへの疑問がその思いを強くした。

静岡地裁へ移送して良かったのだ

 6月7日付で、静岡地裁民事第1部書記官から「事務連絡」が到着した。静岡簡裁への疑問が大きかっただけに、この「事務連絡」もT弁護士の画策によるもの、と頭から思い込んでしまった。

 「事務連絡」には以下のことが記してあった。

 1、「資格証明」、①代表者である理事長が選任された総会議案書及び総会議事録又は理事会議事録を提出してください。②理事長の資格証明書(理事長以外の理事2名の連署により、現在も理事長とされているのものが代表者であることを証明するという内容の文書)。なお、他に理事が存在しない場合には、他の区分所有者2名の連署による同種文書。

 2、「証拠説明書」、甲第1号証ないし甲第7号証の証拠説明書2通(正本、副本)提出してください。

 3、「証拠の提出」、甲第7号証で引用する2019年3月30日総会の総会議案書及び総会議事録の証拠化を検討してください。

 静岡簡裁では、こんなことをひと言も言ってなかった。T弁護士の要請で、静岡地裁が新たな面倒をわたしに押し付けてきたのでは、と不信感を抱いた。静岡地裁民事部書記官(女性)に電話を入れてから、地裁を訪れた。

 まず、何よりも、この「事務連絡」がT弁護士とは全く関係のないことが分かった。ほっとひと安心だ。

 「資格証明書」は民事裁判では必要であり、静岡簡裁書記官が言っていた総会の議事録では不十分とのことだった。「証拠説明書」も裁判ではふつうの書類であり、静岡簡裁では何も言わなかっただけだ。最後の「証拠の提出」も言われてみれば、何よりも必要な証拠が抜けていた。2019年3月30日総会の議案書及び総会議事録は、廣田育英会(T弁護士も登場する)との対立がどんなものであり、「非居住者の住民活動協力金」議決の経緯がはっきりとわかるからだ。

 「事務連絡」を受けてから、3つの書類を提出した。それがどれだけ、大きな意味を持つのか、T弁護士の答弁書が送られてきてから、はっきりとわかった。

 そもそも、静岡簡裁へ相談しに行った時点で、書記官はM判事に相談した上で、「この事件は簡裁で受理するのは無理だ」と言うべきではなかったのか?その後の調停手続きへの不信、M簡裁判事への疑問などが続いた。静岡地裁書記官と話をしていて、静岡簡裁から静岡地裁へ移送して良かったことがはっきりと分かった。

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