「誤解」自民が川勝知事の”進退”問う

「やくざ」「ごろつき」発言が問題に

  21日、県議会最大会派の自民党県議団は「文化力の拠点」施設整備を巡り、約1カ月前に共産党県議が面会した際の川勝平太知事発言を問題にして、4項目の質問状を提出した。川勝知事は期限の30日までに文書で回答する意向を示している。質問状の4項目は以下の通り。

 1、「反対する人は県議の資格はない」との発言は民主主義に背くが、これについての見解

 2、2019年12月20日の自民改革会議総会と会派代表者会議の場で「発言していない」と虚偽の説明をしたのはなぜか

 3、「やくざの集団」「ごろつき」はどこの集団、誰を指しているのか

 4、「やくざの集団」「ごろつき」発言をいまだ撤回しないのはなぜか

 12月20日静岡新聞朝刊が報じた1段見出しの小さな記事が川勝知事の進退を問う事態にまで発展した。川勝知事は自民県議団の質問にどのように回答するのか?

 自民県議団は、川勝知事への問責、辞職勧告、不信任決議案を視野に入れるほど激怒しているようだ。川勝知事発言は、それほど大きな騒ぎを呼び起こす内容だったのか?

 もう一度、発端となった12月19日の川勝知事発言を調べてみると、鈴木英敬・三重県知事に、川勝知事が「嘘つきは泥棒の始まり」と述べた状況と非常に似ていることが分かった。つまり、新聞記事が「誤解」をつくりだし、記事を読んだ当事者たちは「事実」と思い込み、騒ぎを大きくしてしまうのだ。

 「嘘つきは泥棒の始まり」発言の「誤解」から振り返る。

「嘘つきは泥棒」発言も「誤解」で生まれた

 10月31日天皇即位を祝う饗宴の儀で、鈴木知事から「(三重県内のリニア設置予定駅は)90%亀山市に決まった」と直接、聞いたとして、川勝知事は11月6日の定例記者会見で明らかにした。

官邸に近いとされる鈴木知事(鈴木知事のブログ)

 各社とも記事にはしなかったが、読売は三重県に川勝知事発言を確認した。スペイン出張中の鈴木知事は、担当部長から川勝知事発言を聞いた上で、「事実無根だから、断固抗議すべき」と指示した。担当部長は「鈴木知事は亀山とは言っていない」などと静岡県担当者に電話連絡、静岡県担当者は事実の正否ではなく、お騒がせしたことを謝罪した。読売三重支局は「事実無根」「断固抗議」「謝罪」をキーワードに記事にし、数社が同じ記事を追い掛けた。

 スペインから帰国した鈴木知事は「事実無根」は「亀山」の地名ではなく、「90%(の比率)」であり、「断固抗議」は「極めてセンシティブな話を何らプロセスを経ず軽々しく言われた」「饗宴の儀で歩きながらのことなので、了解なく、立ち話の場でのことを定例会見でおっしゃるのはどうか」だったことを明らかにした。

 三重県側の事情を知らない川勝知事は11月11日の全国知事会議で、鈴木知事の「事実無根」発言を問題にした。「静岡県の公務員心得8カ条の『心は素直に嘘・偽りを言わない』」を示した上で、「わたしはあなたがおっしゃた通りに言った」と問いただした。

 鈴木知事は「事実とは違う。交通結節性の高い場所での設置を求めていること、亀山の商工会議所が誘致活動に力を入れていることは伝えた。『90%』という根拠のない数字を使って話すことはあり得ない」などと反論した。「90%の比率」が「事実無根」という鈴木知事の説明でさらなる混乱を招き、川勝知事の「誤解」は続いた。

 19日の定例記者会見で、鈴木知事を念頭に川勝知事は「嘘つきは泥棒の始まり」発言をする。共同通信『三重県知事をうそつきと非難 静岡知事、リニア駅発言で』の全国配信をはじめ、各社とも「嘘つきは泥棒の始まり」発言のみが目立つ記事となってしまった。 

「自民」の2文字は川勝知事発言と無関係 

 さて、12月20日静岡新聞朝刊を見てみよう。『「文化力の拠点」巡り 知事「ごろつき」自民念頭に批判』の1段見出しの小さな記事である。記事全文は以下の通り。

発端は2019年12月20日付静岡新聞朝刊

 『川勝平太知事は19日、来年度の予算要望に訪れた公明党県議団と共産党県議との面談で、県がJR東静岡駅南口の県有地に整備する「文化力の拠点」を巡り、県議会最大会派自民改革会議が計画見直しを求めていることについて「反対する理由は川勝が嫌いだというだけ」と述べ、強く批した。

 知事は「やくざの集団、ごろつき」などと自民を念頭に強い言葉で非難し、公明に「(自民と)一線を画してやってほしい」と求めた。「(県立中央図書館に)いろいろ(機能を)付けて財政が膨らむのは再考すべき」と求めた共産の鈴木節子氏(静岡市葵区)には「県議会はなぜ足を引っ張るのか。反対する人は県議の資格はない」と述べた。

 文化力の拠点を巡っては、第2会派のふじのくに県民クラブも中央図書館以外の機能が「不明確」だとして導入機能の見直しに取り組む方針を示している。』

 この記事では、公明党県議団、共産党県議が同じ席につき、「ごろつき」発言などをしたと勘違いされてしまう。それぞれ別の予算折衝であり、川勝知事の「県議の資格はない」「ごろつき」「やくざ」発言は共産県議の席では述べた。

 公明、共産の県議に確認して分かったのは、川勝知事は「自民」という固有名詞を口に出していないことである。それなのに、記事では川勝知事発言にない「自民」が3カ所登場、「自民」は「見出し」にも採られた。

 『県議会最大会派自民改革会議が計画見直しを求めていることについて「反対する理由は川勝が嫌いだというだけ」と述べ、強く批判した』。

 鈴木県議は、大学コンソーシアム、AI、ICT(情報通信技術)などの付随機能が不明であり、規模が膨らむことについて反対意見を述べた。記事にも、『「(県立中央図書館に)いろいろ(機能を)付けて財政が膨らむのは再考すべき」と求めた共産の鈴木節子氏』とちゃんと書かれている。川勝知事との面談で、「文化力の拠点」計画見直しを求めたのは「県議会最大会派自民改革会議」ではなく、「共産党」である。その流れの中で川勝知事は「反対する理由は川勝が嫌いだというだけ」と述べている。この面談では「自民」は無関係なのは明らかである。

 それなのにどうして、静岡新聞は「県議会最大会派自民改革会議」を記事に持ってきたのか?

「自民念頭に批判」は記者の思い込み?

 そして、何よりも誤解を誘うのは見出しである。『知事「ごろつき」 自民念頭に批判』。鈴木県議は、予算折衝の最中には「ごろつき」「やくざ」という発言はなかった、約10分間の予算折衝が終えたあと、「文化力の拠点」計画への不満を持つ”誰か”に対して、川勝知事は「ごろつき」「やくざ」と言ったと話す。知事の「ごろつき」「やくざ」発言は予算折衝中の正式な発言ではなく、”オフレコ”発言に近いものだった。静岡新聞記者は「音声媒体」で、「ごろつき」「やくざ」発言を確認できた。それがどうして、記事の見出し『知事「ごろつき」 自民念頭に批判』となったかだ。公明県議団の席で、「(自民と)一線を画してやってほしい」発言をしたのは事実だが、なぜ、記事で「自民」と断定しているのか公明党県議には分からないという。

 予算折衝をする共産、公明県議の前で、無関係の自民を念頭に知事が話をすることなどありえない。鈴木県議、公明県議団とも自分たちの予算折衝記事に「自民」が出てくる理由が分からないと首をかしげる。

 鈴木県議は「川勝知事が図書館はひびが入り、5年も持たない。これ(図書館建設)に反対するのは県議の資格はないなどと述べた」と聞いた。『「文化力の拠点」=図書館など』であり、川勝知事は「文化力の拠点」に反対することが、誰も反対することのない「図書館反対」と結び付け、各会派の折衝でも文化力の拠点に反対意見を言われ、頭に来たのかもしれない。しかし、だからと言って、鈴木県議に向かって「県議の資格はない」発言はあまりに大人げない。

 川勝知事が「ごろつき」「やくざ」「県議の資格はない」発言をしたのは事実である。静岡新聞記者の「音声媒体」を他社の記者や議会関係者らは確認した。しかし、なぜ、知事発言が「自民」と結び付けられたのかは、誰も確認していない。ひとつ言えるのは「自民」と静岡新聞が見出し、記事で結び付けたことで、知事発言の騒ぎは大きくなった。

 静岡新聞記事は、川勝知事のすべての批判を「自民」と結び付けたから、自民県議団は侮辱、挑発されたと思い込み、怒り心頭となった。

 20日付静岡新聞朝刊を読んだ自民県議団は、同日午後県議会終了後、川勝知事を呼び、発言の真偽を問いただした。自民県議らの前で川勝知事は「良識の府を預かっている方に対して、ここでも口に言うのがはばかられるような言葉を言うのをあえて言うことはありません」と難しい言い方をした。

 知事の真意は、「ごろつき」「やくざ」とは言ったが、自民県議らに言ったものではないと言いたかったのかもしれないが、静岡新聞記事が頭にある自民県議は川勝知事発言を「嘘」と受け止めた。竹内良訓自民県議団代表は「その場限りのごまかしや虚偽の発言が見受けられる」と知事の過去の発言を問題視していたから、バイアスが掛かっていたのだろう。

「破邪の剣」抜き持つ政治家であってほしい

 結局、自民県議団による公開質問状提出にまで発展してしまった。自民県議団からの質問1は、誠意を持って謝罪すべきだが、実際は鈴木県議に向けたことばである。質問2は、前回同様の回答でもいいのだが、このような混乱を招いたのだから、丁寧に説明しなければならない。質問3、4は、知事の「独り言」を静岡新聞記者が聞きつけて、「針小棒大」にしてしまった例であり、自民県議団が怒るべき話ではない。

 今回の問題は、知事部局が「事実」を踏まえ、すぐに収拾に当たれば、自民が公開質問状を提出する事態にまで発展しなかったはずだ。静岡新聞記事によって、周囲は知事の不適切な発言と「自民」との関係を「誤解」、他のマスコミもその「誤解」を拡散、ほとんどの人は「事実」が何か見えなくなってしまった。

 改めて、2014年「文化力の拠点」計画立ち上げに際して、基本構想委員会の議事録を読んでみた。「文化力」について、川勝知事は「静岡県に必要な価値の体系」と説明している。知事の理想に追い付くのは並大抵ではない。「図書館」という名称にとどめておいたほうがいい。

 川勝知事は理想に燃えて政治に取り組んでいる。時々、強烈なことばによる応酬はあるが、政治は人々の生活を守るためにある。

 『破邪の剣を抜き持ちて 舳(へさき)に立ちて我呼べば 魑魅魍魎(ちみもうりょう)も影ひそめ 金波銀波の海静か』(旧制一高寮歌「嗚呼玉杯に花うけて」)が頭に浮かんだ。「破邪」とは邪説、邪道を打ち破ること。雑誌静岡人vol4「なぜ、川勝知事は闘うのか?」を読まれ、川勝知事の理想とその求めるものを理解してほしい。

※タイトル写真は1月22日付静岡新聞「知事に公開質問状」の写真です。

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