リニア騒動の真相6 ヤマトイワナを救え!

生物多様性を守るエコパーク

  「ヤマトイワナを絶滅の危機から救え!」

 大井川の漁協、魚類研究者、釣り人、南アルプスを愛する人々の切実な声が聞こえる。タイトル写真は「ヤマトイワナとニッコウイワナ」(静岡県内水面漁協の川嶋尚正専務理事提供)。大井川最上流域にレッドデータブック絶滅危惧種のヤマトイワナが生息する。リニア南アルプストンネルがヤマトイワナに深刻な影響を与えるのは避けられない、と魚類研究者は指摘する。 

 2014年6月、南アルプスはユネスコエコパークに登録。このエコパークは「南アルプス生物圏保存地域」が正式名称。その理念を基に、大切な自然環境を守る「核心地域」、環境教育や観光などで利用する「緩衝地域」、人々が暮らしを営む「移行地域」の3つの地域に区分。地域区分を決める最大の目的は「生物多様性の保全」と「持続可能な利活用の調和」。

 「生物多様性の保全」を掲げる南アルプスのシンボルが「ライチョウ」ならば、大井川のシンボルは「ヤマトイワナ」だ。この2つの貴重な種を守れなければ、エコパークの看板を外したほうがいい。

 「ヤマトイワナを救え」。待ったなしの緊急課題にどう対応するのか。

発電所と「維持流量」の関係

 JR東海のリニア南アルプストンネル計画地を流れる西俣川と大井川本流(合流地点までを「東俣川」と呼ぶ)の合流地点に、1995年中部電力は二軒小屋発電所を設置。同発電所の最大使用量毎秒11トン、発電出力2万6千キロワットで、西俣えん堤(高さ15メートル以下のダムが「堰堤(えんてい)」)と東俣えん堤から取水して、ポンプを使って発電所まで結んでいる。

 JR東海はリニアトンネル建設によって、大井川の表流水が毎秒2トン減少するとして、西俣川から導水路トンネル11・4キロを設置、椹島とつなぐ計画を示している。この結果、西俣川、東俣川の表流水は、椹島までの区間、大幅に減水するのは確実である。

 水力発電は、河川の「維持流量」を上回った水量のみ使用できる。表流水が減少すれば、当然、発電量は減ることになる。大井川の表流水減少で、もろに影響を受けるのは、二軒小屋発電所、その直下にある田代ダムを水源とする東京電力の田代川発電所。2つの電力会社はJR東海と発電への影響について話し合いを始めているかもしれない。 

 発電所の「維持流量」は水利権更新ごとに決められ、電力会社が示す維持流量を国土交通省は判断して許可する。「大きな環境変化」がない限り、前回の維持流量が継続されるのが大半だ。

 「大きな環境変化」。地球温暖化などによる気候変動が激しい現代で「環境変化とはどんな状況を指すのか

県自然環境保護条例の協定目指すJR東海

 西俣川の維持流量は毎秒0・12トン、東俣川は0・11トン。もし、通常、この程度の水量しかないとすれば、そこに生息する魚類、水生昆虫などは最低限の生活環境しか与えられない。

南アルプスの自然は変化している

 現在懸念されるのは、リニア南アルプストンネル建設によって、予測できない水量の減少が起きることだ。長年ヤマトイワナの研究に取り組んできた川嶋専務は「川勝知事の心配するように地下の湧水が山梨県に流れてしまえば、底が抜ける現象が起きて西俣川、東俣川上流は涸れてしまう可能性がある」と指摘。もし、そのような状況であれば、ヤマトイワナは確実に絶滅する。

 その危機感を共有して、JR東海静岡県自然環境保全条例に基づいて、県と協定を結ぶ調整を進めている。JR東海が湧水全量を戻すと表明したのは中下流域への利水の影響を考慮してのこと。減水区間についての対応は県自然環境保全条例にどれだけ寄り添うことができるかに掛かる。利水者という目に見える人々ではないだけに、非常に難しい問題でもある。

20年前の維持流量は本当に適正か?

2005年6月18日静岡新聞夕刊

 いまから13年前、2005年夏、田代川第2発電所の水利権更新を機に田代ダムの河川水量回復を目指して、大井川下流域の住民たちが「水を返せ」の大きな声を挙げた。話し合いは難航したが、ついに東京電力は地元の強い姿勢を受け、「維持流量」の放流と大井川への流水還元を行った。

 そう、来年3月、二軒小屋発電所が水利権更新を迎える。中部電力が水利権更新を国交省静岡河川事務所に申請した際、静岡県の意見を聞くことになる。いまのところ、担当課の静岡県河川企画課は何ら意見を予定していない、という。

 当然、「環境変化」がない限り、中部電力は20年前と同じ維持流量を提示するだろう。維持流量に必要な要素の中にイワナの生息環境も含まれるが、国交省は同じ維持流量で問題ないと判断する可能性は高い。

 中部電力、国交省ともリニア南アルプストンネル建設での水生生物への影響は考慮の対象外である。今後、静岡県の環境保全連絡会議では水生生物への影響がテーマになるはずだが、その議論の行方は来年3月末の水利権更新に反映されないだろう。

静岡県、静岡市の連携が必要

 静岡県、静岡市は早急に意見交換を行い、相互に連携して維持流量の改善を中部電力に求めるべきではないか。ヤマトイワナにとって、毎秒0・1トン程度の維持流量が適正か?他の水生生物はどうか?リニア南アルプストンネルの影響は?エコパークにかかわる人々の意見を広く聞くべきだ。

 20年前の維持流量は現在も適正か?そこが問題の出発点だ。

 維持流量の考え方は、河川の適正な利用や河川の正常な機能を維持するため必要な流量として、1988年国交省(当時は建設省、通産省)がガイドラインを決めた。その当時、環境に対する配慮は含まれていなかった。

 91年環境庁が初のレッドデータブックを発刊。その後、97年国交省はようやく河川法を改正して地域環境への配慮を盛り込んでいる。環境アセス法が成立したのも同じ、97年である。

 二軒小屋発電所は95年7月に運転を開始している。当時は、「生物多様性の保全」に対する姿勢は希薄だった。97年にアセス法が施行されたが、生物環境をめぐる事後調査を行ってはいない。このような社会情勢の変化も「環境変化」ととらえるべきではないか。

いちばん困るのはJR東海

 県、市は最近の資料を集め、国交省へ意見を提出すべきだ。ことし3月、静岡市の調査報告でヤマトイワナの生息を確認した。ところが、JR東海のアセス調査ではヤマトイワナは文献のみで、生息を確認していない。

 今回のタイトル写真を再掲する。魚体に斑点があるのが移植されたニッコウイワナ。昨年の日本魚類学会で川嶋専務は「斑点のあるのが通常ニッコウイワナだが、斑点のあるヤマトイワナを遺伝子レベルで発見している」と発表。大井川ではニッコウイワナ、ヤマトイワナの混雑種も当然現れているが、純粋のヤマトイワナは西俣川、東俣川上流に確実に生息する、と静岡市の調査員が証言してくれた。

 現在作成中の改訂レッドデータブックで大井川のヤマトイワナは、さらに危険度の高い「絶滅危惧1A類(ごく近い将来に絶滅する)」に分類される。ヤマトイワナの生息範囲はますます狭まっている。差し迫った「絶滅の危機」も「環境変化」ではないか。

 魚類研究者らは「今回のリニアトンネル建設を機に中電からもっと水を出してもらわなければ、ヤマトイワナは確実に絶滅する」と訴える。

 中部電力の「維持流量」がそのままに水利権更新され、ごく近い将来の「ヤマトイワナの絶滅」にゴーサインをだしたとき、いちばん困るのは「ヤマトイワナ」は生息していないとアセス報告を出したJR東海ではないか。リニアトンネルの影響という新たな環境変化に対応できるの唯一の方法「維持流量」の改善しかないと考えるが、違うのだろうか?

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