リニア騒動の真相20「暗闘」が始まった

難波副知事が謝罪した?

 「リニア 国交省、主導権狙う 議論打開は見通せず」(静岡)、「リニア工事問題、国主導で協議へ」(日経)、「合意文書まとまらず 『国交省論点整理を』」(中日新聞)など、11月1日付各紙の見出しは全くバラバラで、10月31日国交省で行われた国、静岡県、JR東海の三者協議を新聞記事だけで読み解くのは非常に難しい。

 これまでの「静岡県対JR東海」(国はオブザーバー)という構図から、「静岡県対国、JR東海」という新たな構図を決める会議は「非公開」で行われた。約30分の会議後、国交省の江口秀二審議官、静岡県の難波喬司副知事、JR東海は宇野護副社長が囲み取材に応じた。当然、3人とも通り一遍の表面的な話に終始したから、実際の会議の内容を伝えていなかった。

 静岡新聞だけが記事の最後で「会談では地元テレビ局による確認文書案の報道を巡り、難波喬司副知事が『信頼関係を損なう』として陳謝する場面もあった」と書いた。難波副知事が謝罪した?それが会議の中身を伝える唯一の記事だった。

 一体、何があったのか?

「地元の理解を得ることに努める」?

 調べていくと、会議の前日、30日夜、静岡第一テレビが「県が求める『地元の理解』という文書が一時消えていたことがわかった」と”独自ネタ”を伝えたことが、難波副知事の謝罪の理由だった。(中日は後追いで、31日朝刊にその内容を伝えた)

 第一テレビの”独自ネタ”は、10月30日に国から届いた三者の合意文書案についてだった。文書案には、県が求めていた「地元の理解を得ることが条件」の文言がなかった。県は「地元の理解」を条件としてきたから、国の対応に疑問を持ち、問い合わせたのだろう。その結果、国から届いた修正案には「地元の理解を得ることに努める」という文言が加わっていた。当然、その文言にはJR東海の強い意向がにじんでいる。

 「努める」とは、「地元の理解を得ることが条件」ではないから、ハードルははるかに低い。県の満足できる文言にはほど遠かった。その不満を交え、文書案の経緯を県の誰かが第一テレビ記者に話したのだろうか。

 もし、「合意文書案」の中身を話したとしたら、地元だけのニュースであり、国交省の目にとまることなど考えなかったのかもしれない。

 結局、三者による「非公開」の会議は、国、JR東海の「地元の理解を得ることに努める」、静岡県の求める「地元の理解を得ることが条件」の文言案修正の議論は消えてしまい、国からの情報が流出した静岡県の「公文書管理」だけに焦点が当てられた。

「手強い存在」難波副知事をつぶせ!

 国は、責任者の難波副知事を厳しく問い質したのだろう。その結果、難波副知事は「信頼関係を損ねる」と謝罪しなければならなかった。今回の会議は、「国からの情報流出」「静岡県の公文書管理」に絞られ、三者よる新たな会議の進め方など全く議論されなかった。

 国、JR東海とも、修正案の「地元の理解を得ることに努める」だけで十分だと考えている。静岡県の求める「地元の理解を得ることが条件」を飲むことは承服できないだろう。「公文書管理」問題で難波副知事を“古巣”の国交省(旧運輸省)に呼び、県よりも国のほうが上位官庁である”ムラの常識”を思い出させた上で、今回の情報流出があまりにひどい”失態”だと叱責した。何度もパンチを浴びせれば、今後、国の立場を有利に働かせることができる。だから、第1回の三者会議は会議の具体的な内容に入らず、県の”失態”だけをテーマに絞る戦略を立てたのだろう。とすると、リークしたのは、本当に県なのか?という疑問さえ浮かんできてしまう。

 そんな推量をするのは、国交省の藤田耕三事務次官が川勝平太知事に面会した大きな理由のひとつに「難波副知事の存在」があったからだ。

 国交省事務方のトップが24日、突然、静岡県庁を訪れた。藤田事務次官は、2027年開業に間に合うよう、リニア南アルプストンネル静岡工区の着工を急ぐJR東海側に立って、国が積極的に関与することを川勝知事に説明、静岡県の柔軟な対応を求めたい意向を伝えた。国の責任で、静岡県の合意を早急に勝ち取りたいのだ。

10月4日の会議であいさつする難波副知事

 この訪問に至った経緯の背景には、難波副知事という「手強い存在」が大いに関係があったらしい。藤田事務次官の静岡県庁訪問を伝えた25日付中日新聞の記事は「10月4日、JR側が湧水と地下水の関連は『分からない』と発言し、難波副知事が声を荒らげ、けんか別れという場面があり、それが今回(藤田次官の訪問)の呼び水になったとの見方がある」と書いている。

 これには驚いてしまった。まるで、静岡県の会議運営に問題があり、これでは「決着が図れない」と国は判断した、という意味である。国主導で会議を運営し、何とか「地元の理解を得ることに努める」程度の文言に落としてしまい、合意のハードルをぐっと低くしたい。そのために、「手強い」難波副知事の存在が邪魔である、と考えたとしてもおかしくはない。

会議後の難波副知事。自信に満ちている

 難波副知事はこれまで何度も、『いまの発言は看過できない』という決めゼリフでJR東海との議論の最中にかみついた。それは、「地元の理解を得るのが条件」という静岡県の姿勢を厳しく見せることに大きな効果があった。余人をもって代えがたい。難波副知事の役割を、吉林章仁副知事、県庁職員が代わることなどとうていできない。

 「難波副知事をつぶせ」。これが国交省の戦略だとしてもおかしくない。

 それを如実に現わしていたのが、三者会談後の囲み取材での難波副知事の表情である。いままでとは全く違い、あのタフな難波副知事がうなだれ、意気消沈した様子を見せていた。「非公開」の会議で何があったのか?

政府は本気で静岡県へ攻勢

 昨年10月の「湧水全量戻し」表明から一転して、ことし9月、工事期間中の「湧水全量を戻すことができない」とJR東海は明言した。その結果、「湧水全量戻し」議論で攻勢に立ち、静岡県は厳しく追及の手を緩めなかった。しかし、こんなどうでもいいところに”落とし穴”があった。

 藤田事務次官が川勝知事に面会を求めたのは、官邸の指示だという噂が流れた。その数日前、JR東海の葛西敬之名誉会長が安倍晋三首相に面会したことから、葛西会長の用向きは「静岡県での早期着工に向けて政府の積極的な関与を求めた」という観測である。リニアに3兆円の財政投融資を安倍首相が指示したことは間違いないのだから、政府としても黙っているわけにはいかない。

 政府が本気になって、静岡県へ攻勢を仕掛けてくる。まずは、「手強い存在」難波副知事をつぶすために、からめ手から攻めてきた。

 国交省は、一体となって矢面に立つ難波副知事を攻めてくるだろう。逆に、静岡県、流域自治体が一丸となって、国、JR東海の攻勢をかわせるのかどうか。すべて三者協議の枠組み、進め方(どこで開催し、だれが司会をするか、公開か非公開など)に関わってくるだろう。

 「三者協議」によって、「静岡県環境保全連絡会議」を消滅させてしまいたい。そうなれば、静岡県の主張は骨抜きにされる可能性が高い。

「暗闘」はすでに始まっていた

 この仕掛けを読み解いていくうちに、日経ビジネス特集「リニア新幹線 夢か、悪夢か」(2018年8月20日号)が再び、頭に浮かんだ。リニア推進のために、今回のような「暗闘」をJR東海は辞さないからだ。

日経ビジネス特集の最初に登場した川勝知事

 パート1「速ければいいのか 陸のコンコルド」、パート2「安倍『お友だち融資』3兆円 第3の森加計問題」「名誉会長激白 どうにも止まらない葛西敬之インタビュー」、パート3「『平成』の終焉 国鉄は2度死ぬ」。タイトルだけ読んでも、日経ビジネス特集がリニア問題にいかに切り込んでいるのかわかるだろう。JR東海の”終焉”まで予測しているのだ。

 現在、静岡旅行記者協会は雑誌「静岡人vol4 なぜ、川勝知事は闘うのか?」特集号の発刊準備中である。ニュースサイト「リニア騒動の真相」を読めばわかるが、問題があまりに複雑怪奇になっていて、一般読者には難解なようだ。静岡県の問題に絞って、なるべく、わかりやすいかたちで紹介したい、静岡県民が「リニア騒動」問題を基本から理解できるようにしたい、それが雑誌発刊の理由である。

 また、何よりも、日経ビジネス特集冒頭に登場した川勝知事の「全量戻してもらう。これは県民の生死に関わること」という厳しい発言に、しびれてしまったからだ。

 リニアトンネル工事の着工を認めない知事の姿勢は非常にわかりやすい。いままで、こんなかっこういい発言をした静岡県知事はいなかった。静岡県は国の指示に黙って従う「模範生」だったから、まさか、川勝知事がリニアトンネル工事ストップの旗頭になるなど考えてもいなかっただろう。

 昨年8月の日経ビジネス特集は大反響を呼んだ。いまや、さらに激しい応酬を繰り広げているから、バトルの広がる現状を日経ビジネスが紹介するのがふつうであり、さらなる取材を進めている最中だろうか。こちらは日経ビジネス特集に触発されて雑誌発刊まで決めたのだから、ぜひ、日経ビジネス記者も取材したい。

 それで、まず、日経ビジネス記者に会おうと思った。日経BPに連絡を入れると、驚いたことに、担当記者は日経BPを辞めてしまっていた。大反響を呼んだ、高い評価の特集をまとめることのできる優秀な記者が社から離れてしまったのだ。その裏側に何があったのか?

 まさにこちらも「暗闘」だろう。目の上のたんこぶとなる「手強い存在」を排除したのだろう。日経BPは日経本社の意向に従ったのかもしれない。日経新聞であれば、まさか、日経ビジネス特集のような「危険な記事」は掲載しなかっただろうから。

 まず、担当記者は編集部門から外された。それが退社に至るきっかけになったのだろう。どのような「暗闘」があったのか、担当記者に話を聞かなければ分からないが、いまのところ、消息はつかめない。

静岡県はどのように攻勢するか

 さて、「暗闘」に静岡県は持ちこたえられるのか?

 三者による「合意文書」に静岡県の意向をちゃんと盛り込めるか、「地元の理解を得ることが条件」は最低限の約束だろう。今回のような「非公開」ではなく、正々堂々とすべて「公開」を求めるべきだ。綱引きに勝つためには、川勝知事の働きに期待するしかない。矢面に立つ難波副知事を支援できるのは川勝知事しかいないのだから。

 「突然踏み込んできて『トンネル掘るぞ』と来た感じ」(川勝知事)の表現通り、あまりに甘くみられてきた「静岡県」だから、「おとなしい静岡の人たちがリニア新幹線の線路に座り込みますよ」(日経ビジネスリニア特集の川勝知事発言)。どのような取り組みに出るべきか。まずは「おとなしい静岡の人たち」が一致団結しなければならない。

※雑誌「静岡人 なぜ、川勝知事は闘うのか?」特集号の表3(裏表紙裏)の広告がいまのところ、決まっていません。ご希望であれば、なるべく早くおっしゃってください。11月末頃に県内書店で販売される予定です。詳しくは、編集部へ連絡ください。

※タイトル写真は日経ビジネス特集「リニア新幹線 夢か、悪夢か」からです。

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