川勝VS田辺1 ”歴史博物館”建設は棚上げを!

駿府城跡地が博物館機能を有する

知事の「棚上げ」意見を伝える静岡新聞記事

 川勝平太静岡県知事は6日の記者会見で、2021年秋以降にオープン予定の静岡市歴史文化施設建設を「いったん棚上げすべき」という意見を述べた。「駿府城跡地自体が博物館機能を有し、旧青葉小学校跡地に博物館を建設すれば二重投資になる」という理由書を静岡市に送っている。それに対して、7日、田辺信宏市長は来年4月の市長選出馬表明とともに、「歴史文化施設建設の見直しはしない」と明言した。

 今回の川勝知事と田辺市長との論争では、軍配は知事に上げるべきだ。

「世界の笑い物」になる可能性

 知事の「駿府城自体が歴史博物館である」という認識は正鵠を射ている。本サイトでも「大御所石垣公開プロジェクトを目指せ」(https://shizuokakeizaishimbun.com/2018/11/11/oogosho/)という記事をUPしている。それだけではない。この博物館計画を調べていくと、あまりにずさんな内容が明らかとなった。「世界に輝く静岡」5大構想の1つとしているが、このままでは50億円から60億円という多額の事業費が無駄になることは想像に難くない。「世界に存在感を示す」を掲げているが、「世界の笑い物」になる可能性さえある。

 将来に禍根を残してはいけない。田辺市長には「説明責任」が生じている。いったん、この大型プロジェクトを中止すべきだ。

展示目玉は本物ではなく「レプリカ」

 何よりも、歴史博物館をなぜ、つくるのか、その理由を説明しなければならない。コンセプトが最も重要である。静岡市と静岡県が共同で取り組んだ「日本平夢テラス」は「日本一の富士山眺望」を訪れる観光客に楽しんでもらうコンセプトがあった。本サイトでは「日本平夢テラス ”稼ぐ”ことを意識せよ」という記事をUPした。(https://shizuokakeizaishimbun.com/2018/10/31/n/)

 翻って歴史博物館の展示内容を見ればコンセプトが明らかになる。静岡市の説明によると、目玉展示は久能山東照宮所蔵の家康所用「歯朶具足」(国重要文化財、右の写真)、静岡浅間神社所蔵の伝家康着用「紅糸威腹巻」のレプリカだという。この2つのレプリカ制作費用が7千万円という金額にも驚いたが、目玉展示がレプリカで、そのために50億円以上の施設事業費を掛けるのは異常である。これで観光客を博物館に呼び込めるはずもない。

本物展示でも来館者は少ない

 久能山東照宮博物館は家康所用の3つの甲冑(歯朶具足、金陀美具足、白檀具足)など国宝、重要文化財78種185点、歴代将軍の63領もの甲冑など2千点もの将軍コレクションを所蔵している。しかし、観光客の多くは14棟の国宝社殿や重要文化財の楼門、神楽殿、家康神廟(墓)などを参拝していくが、博物館への来館者は非常に少ない。もっと悲惨なのは、「紅糸威腹巻」を展示する静岡市文化財資料館(静岡浅間神社内)にふだん、ほとんど来館者の姿がないことだ。たとえ本物を展示していても、博物館を訪れる観光客は少ないということをまず、認識すべきだ。

 そのために、久能山東照宮ではスペイン国王から家康に贈られた西洋時計(重要文化財)のレプリカを制作、本物の隣に並べて来館者を増やす努力をしている。大英博物館キュレーターから絶賛された西洋時計は摩耗を防ぐため保存展示して、その代わりに、内部の状態を見せる精巧なレプリカを動態展示している。ロンドンの古時計保存管理士による制作費用は約1千万円。日本を代表する複数の甲冑師に聞いたが、7千万円という甲冑レプリカ費用に首をかしげ、その値段に見合う来館者はないと断言した。

「徳川家康ミュージアム」の失敗

 静岡市によると、歴史博物館ではビジュアルに家康の生涯を見ることができることも「売り」だと説明した。

閉鎖状態の徳川家康ミュージアム

歯朶具足着用で馬上の家康

 2006年11月にオープンした「徳川家康ミュージアム」(静岡市駿河区古宿)をご存じだろうか?歯朶具足(レプリカ)着用の関ヶ原合戦に向かう馬上の家康をはじめ、家康の生涯をビジュアルに紹介、さまざまに展示の工夫が施された。目玉の一つとして家康の眼鏡、日本最古の鉛筆、コンパスなど精巧なレプリカを展示。さらに、施設隣に久能山東照宮の分社まで設置した。ところが、訪れる観光客はほとんどなく、現在、閉鎖状態である。

 歴史博物館は、徳川家康と今川義元をメーンテーマに「観光施設」として多くの観光客が足を運ぶような博物館を目指しているというが、現状や過去の事例などを見れば、オープン前から将来の悲惨な姿が予測できる。

 ここは、川勝知事の「いったんガラガラポンにすべき」という意見に従うべきだ。「日本一の天守台跡発見」などによって、駿府城跡地の利活用は今後議論されていくのだから、いったん中止にする理由は十分ではないか。施設設計費などの違約金を支払うのも仕方ないだろう。

 わたしは地下に「大御所石垣公開施設」をつくり、地上には来館者が数多く訪れる博物館のアイデアを次回の「ニュースの真相 川勝VS田辺2」で提案したい。

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