リニア騒動の真相27知事の「説明責任」

牧之原市長、袋井市長、吉田町長、静岡市長に面会

 先週、杉本基久雄牧之原市長、原田英之袋井市長、田村典彦吉田町長、田辺信宏静岡市長を訪ね、リニア南アルプストンネル計画の問題点について、各自治体の立場や諸事情からどんな考え方を持つのか聞いた。

県庁職員時代JR東海との交渉に当たった経験を持つ原田英之袋井市長

 田辺市長を除く、大井川流域の8市2町長は非公式のかたちで会合を持ち、トンネル建設に不可欠な河川法の許可権限を持つ川勝平太知事に一任してJR東海との交渉を任せることを決めている。

 田村町長は「リニアトンネルが南アルプスの破砕帯を貫通する。その結果、下流域の地下水が枯渇する可能性がある。JR東海は流域自治体の地下水へ影響が全くないことを説明しなければならない。静岡県環境保全連絡会議の専門家全員が納得できるまで説明責任を果たさな

新聞報道による、川勝知事発言を憂慮する田村典彦町長

ければならない。影響が少しでもあるならば、南アルプスを貫通することは容認できない。また、どんな影響が出るか分からないのであれば、やめてくれということだ」と厳しい口調で話した。「将来、地下水への影響が出たとき、町の存続にかかわる致命的な問題。地元のために闘う」。

 田村町長、田辺市長と面会したのは静岡県議会最終日の20日、その日の静岡新聞朝刊は川勝知事による衝撃的な発言を伝えた。鈴木英敬三重県知事に対する「嘘つきは泥棒の始まり」発言に勝るとも劣らない強烈な内容だった。県議会に大きな衝撃を与えただろうから、県議会最終日と重なり、川勝知事発言がどんな混乱を巻き起こすのか吉田町、静岡市でも話題になった。

自民県議団は「やくざの集団」「ごろつき」?

静岡新聞12月20日付朝刊から

 『「文化力の拠点」巡り 知事「ごろつき」自民念頭に批判』の一段見出しの小さな記事である。『JR東静岡駅南口の県有地に整備する「文化力の拠点」計画の見直しを求める自民県議団を念頭に、「反対する理由は川勝が嫌いだというだけ」と強く批判した上で、「やくざの集団、ごろつき」などと非難、さらに「反対する人は県議の資格はない」と述べた』。中日をはじめ他社の新聞には掲載されていない静岡独自の記事だった。

 もし、知事が本当にそんなふうに言ったのならば、自民県議団を侮辱、挑発したことになる。その影響が大きいだけに静岡新聞記者は慎重に「事実」のみを伝えたはずである。

 県議会終了後、自民県議団は総会に川勝知事を呼び、発言の真偽を問い質した。自民県議らの前で川勝知事は「良識の府を預かっている方に対して、ここでも口に言うのがはばかられるような言葉を言うのをあえて言うことはありません」と難しい言い方をした。古参の自民県議は、知事は発言を全面的に否定した、と言うのだ。別の県議は「(知事は)稀代の嘘つき」と述べたが、その発言の真偽を確認することができない以上、その場では知事の否定を受け入れるしかなかった。

 自民県議団と知事のやり取りを経て、静岡新聞はどのように書いたのか?記事を否定されたようなものだから、記者は真っ向から川勝知事を「嘘つき」と闘うのではないか?

 この案件を記事にした21日付静岡新聞の見出しは『川勝知事「議会軽視ではない」 「ごろつき」発言で釈明』。

 『発言の撤回や謝罪はせず、「議会を軽視したことはない。力を合わせ県の発展のために務めねばならない」と訴えた。取材時の音声記録によると、川勝知事は19日の公明党県議団、共産党県議との面談で自民を念頭に「ごろつきと一線を画して堂々と正論をやってほしい」と発言、「(文化力の拠点整備に)反対する人がいたら県議会議員の資格はない」とも述べていた』。知事が前日の記事内容を否定したとは書いていない。さらに、『自民の議員総会で知事は、文化力の拠点整備に議会から批判があることについて「当局の説明不足」が原因だとの認識を示した』

 この記事では何だか分からない。前日(20日)の記事が「嘘」なのか「正しいのか」?

 今回の記事には「やくざの集団」が省かれていた。また、議会の反対理由が「川勝が嫌いだというだけ」ではなく、「当局の説明不足」になっていた。これでは二枚舌となる。

 それで、静岡新聞社に「やくざの集団」「反対する理由は川勝が嫌いだというだけ」は、知事が言ったのかどうか、「音声記録」にあるのかどうかを尋ねた。

 静岡新聞社からの回答は「いずれの知事発言も記者の音声記録に残っている」だった。もし、これが「真実」ならば、川勝知事は「嘘」をついたことになる。

知事は「嘘・偽り」を言わない!

 「嘘つきは泥棒の始まりです」。そう発言した11月17日、川勝知事の定例記者会見を確認してみた。(その発言の経緯については、『リニア騒動の真相24鈴木知事「事実無根」の真実』を参照)

 記者会見の席で、川勝知事が「嘘・偽り」について政治家としてどのように発言したのか。

 『ふじのくに公務員の心得8カ条の第2条「嘘・偽りを言わない」というところに赤線を引っ張って三重県知事に差し上げた』『静岡県庁では、一切、身に私を構えず、「嘘・偽りを言わない」ということを心得にしている』(※「身に私を構えず」は江戸時代、薩摩藩で使われた私利、私欲を追うなの意味)

 『最近はあったこともなかったことにするようなことが、政治家の間で横行している。嘘つきは泥棒の始まりです。ましてや人の上に立つ人は、嘘偽りを言ってはいかんというふうに強く思っておりまして、そういう意味では、そういう資格を持った政治家かなと思いますけれど、これは不健全なこと』『最近の、いわば強弁をして、言い張り続けて、事実を隠すといいますか、事実と異なる状況の説明に終始してしまうということが横行しておりまして、大変危険なことだと思っております』『それで事柄ばれたら、それを不都合だからといって、なかったことにするといったような強弁を言い続けて、それが勝ちだとみたいな、そういう事態が横行しているのを、私は一国民として憂いております』

 知事会見の記録は文字になってしっかりと残っている。「嘘つきは泥棒の始まり」と形容して鈴木三重県知事を批判したのだから、川勝知事は「嘘・偽りを言わない」を信条としているのは間違いない。となれば、自民県議団に対して「やくざの集団」や「ごろつき」と言っていないだろうし、「反対する理由は川勝が嫌いだからだ」「反対する人がいたら県議会議員の資格はない」などと言うはずもないだろう。

 果たして、川勝知事か静岡新聞社のどちらが正しいのか?

魂を売らない政治家とは? 

映画「東京裁判」のチラシ一部

 「君は知っているか」。そんなキャッチフレーズのチラシを見て、映画「東京裁判」(小林正樹監督)を35年ぶりに見た。4時間37分もの長いドキュメンタリーは太平洋戦争の戦争責任を追及した。東京裁判は戦勝国の政治判断によって天皇の訴追を除外し、日本を侵略戦争に導いたのは東条英機ほか陸軍の軍人らA級戦犯に限定した経緯を描いた。

 映画に戦後の首相として登場する岸信介は戦時中の重要官僚として、また東条内閣の閣僚として、A級戦犯とされたが、東京裁判を免れた人物の代表であり、東京裁判の被告席に座らなかったことだけで軍国主義者ではないことになり、戦争責任を解除されたとみなされた。巣鴨刑務所を出てわずか8年、政界の最高位におさまった。戦後、「妖怪」と称され、虚実ないまぜにした岸の政界工作、権謀術策はさまざまに伝えられている。

 岸内閣の下で行われた総選挙で自民党が圧勝するのは、世界恐慌を思わせる不況の時期と重なり、軍需景気が盛り上げてくれるかもしれない経済的恩恵への期待感だった。この期待が、岸の戦争責任などを問う声を押し流した。失業や倒産におののく人々は政治家の質よりも目先の利益を求めることを優先した。岸の孫に当たる安倍晋三首相は、民主党政権の失敗と景気低迷という岸と同じような状況の中で誕生、長期政権を維持している。しかし、安倍首相個人にかかわる問題も数多く起きている。

 川勝知事は森加計問題や桜を見る会などを念頭に『最近の、いわば強弁をして、言い張り続けて、事実を隠すといいますか、事実と異なる状況の説明に終始してしまうということが横行しており、大変危険なことだと思っております』と安倍首相らの事実と異なる”釈明”を批判している。つまり、そのような政治家とは一線を画していると言いたいのだろう。

静岡空港建設に尽力した杉本基久雄牧之原市長

 2市8町の首長は、川勝知事にリニア問題での解決について全権委任している。杉本市長、原田市長、田村町長らは経済的な利益をJR東海に求めていない。首長の何人かが、「経済的利益で政治家の魂を売った」と田辺市長を厳しく批判した。孫子の世代に禍根を残さない、住民たちにとって生命ともいえる水問題の解決のみを知事に求めた。そこには、知事の「嘘・偽りを言わない」など指導者としての質を信頼してのことだろう。

 川勝知事の定例記者会見は24日午後2時から。その席で、今回の発言について、知事はちゃんと説明するのだろうか?知事は「説明責任」をはっきりと果たさなければ、この問題はあとを引くだろう。

※タイトル写真は川勝知事への雑誌静岡人vol4贈呈の際に撮影したものです。雑誌発刊は、リニア問題で知事を応援する意味合いが込められています。知事の説明責任は重要になります。『リニア騒動の真相25「嘘つきは泥棒」だった』に関わる問題はまだ解決していません。ちゃんと終わってから報告します。

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