リニア騒動の真相93「流域の理解」を得るとは?

金子JR東海社長の初の意見交換会

 JR東海の金子慎社長と大井川流域9市町(焼津市は欠席)の首長との意見交換会が9月18日、静岡市内で開催された=タイトル写真は、意見交換会冒頭の金子社長あいさつ=。国の第12回有識者会議が9月26日、国交省で開かれた。国の有識者会議では、JR東海がほぼ望んでいた通り、リニア工事による中下流域の水環境に影響はないとされる中間報告書が提出される見通しとなった。JR東海、国ともリニア静岡工事の着工にこぎつけ、絶望的となった2027年開業の遅れを1日でも取り戻し、品川―名古屋間の開業に向けて、何とか一歩を踏み出したい意向であることははっきりとわかる。

 金子氏は今後も意見交換会を開催したい意向のようだが、熱意の点で評価できても、相互が理解し合うような意見交換の場にはならない。金子氏が理解できているのと同じ科学的・工学的なレベルで、流域の首長たちはリニア水問題を理解しているわけではない。首長たちは、あくまでも、政治家として、この問題に向き合っているだけに過ぎない。

 6月20日投開票の静岡県知事選で、リニア問題を焦点に立候補した川勝平太氏が圧勝したことで、リニア問題の解決は、川勝県政の任期4年間、前に進まないとの見方が大筋である。4期目の任期切れとなる2025年6月の知事選がどうなるのか、そこにいまから、注目せざるを得ない。つまり、現在のところ、解決の糸口さえ見えないのだ。流域市町の首長たちは、リニア問題に関して原則的に知事一任の姿勢を取る。いくら大掛かりな会議を重ねたとしても、無駄な努力でしかない。

 2018年10月に静岡経済新聞ウエブサイトを立ち上げ、『リニア騒動の真相』コーナーを設けて、川勝知事や県の専門部会、国の有識者会議、JR東海の取り組みなどを報道してきた。はっきりと言って、3年前と現在で何も変わっていない。議論は平行線をたどり、その中身の本質は全く同じである。県の専門部会、国の有識者会議など茶番に等しいが、それを言ってはおしまいだから、知事をはじめ担当者は会議の中身を評価したふりをする。それぞれの会議に多額の費用を掛けているが、それだけの価値はないということだ。

 26日の国の有識者会議に出席した静岡県の難波喬司副知事が「JR東海から資料の提示や分かりやすい説明がされるようになった」「今後対話を進められるようになった」などと発言した。本音(皮肉?)もいくぶん交じった社交辞令であり、もともと議論を複雑にして、一般の人たちに分かりにくくしてきたのは、県専門部会であり、難波氏本人である。難波氏の発言の肝は、国の有識者会議による中間報告が出たとしても、はい、分かりましたと了解するわけもなく、JR東海との対話はこれからも続いていく、それだけのことである。

 川勝知事の意向に沿って、議論を進めている以上、難波氏らのJR東海に対する姿勢は厳しいものにならざるを得ない。

「中流域の水環境に影響なし」が国の有識者会議結論

  国の有識者会議で中間報告案が示された。これまでの議論は、リニアトンネル工事による「中下流域の表流水への影響 」、「中下流域への地下水への影響」の2つが大きなテーマである。

中間報告案が示された国の有識者会議(国交省提供)

 中間報告案では、「中下流域の表流水への影響」について、『導水路トンネル出口(椹島地点)よりも上流の河川流量は減少する。一方、導水路トンネル出口(椹島地点)より下流側の河川流量は、山体内に貯留されている地下水が導水路トンネル等により大井川に戻されるため一時的に増加し、トンネル掘削完了後はやがて正常に落ち着くことになるが、いずれの段階においてもトンネル湧水量の全量を大井川に戻すことで中下流域の河川流量は維持される』

 また、「中下流域への地下水への影響」は『下流域の地下水位は取水制限が実施された年も含めて安定した状態が続いていることや、中下流域の地下水の主要な涵養源は近傍の降水と中下流域の表流水であり、椹島より上流の深部の地下水が直接供給されているわけではないことなどを考慮すると、大井川中下流域の河川流量が維持されることで、トンネル掘削による中下流域の地下水量への影響は河川流量の季節変動や年―年変動による影響に比べて極めて小さい』

 つまり、リニア工事による中下流域への水環境の影響はほぼないという結論である。JR東海は、3年前と同じ主張をしてきた。国の有識者会議のメンバー(県専門部会の2委員含む)によって、JR東海の主張が権威づけされた。国の有識者会議に諮り、1年以上掛けて、ようやくJR東海の主張が認められた、と言ってもいい。

 問題なのは、メディアの報道である。静岡新聞は「表流水への影響」については、「工事期間中と工事完了後にトンネル湧水量の全量を大井川へ戻せば導水路出口(椹島)より上流域の減少量はトンネル湧水量によって補われ、中下流域の表流水は維持される」、「地下水量の影響」については、「上流域から流れてくる表流水量が維持されれば、表流水量の季節変動による影響に比べて減少量は極めて小さい」と国交省の”悪文”よりさらに分かりにくい。記事内容は、一般の読者に不親切で、理解するのは非常に難しい。あるいは、それが記者の意図なのかもしれない。(※新聞記事がこんなに分かりにくくても誰も文句を言わないのは、専門家の議論は難しいという先入観があるからだろう)

 さらに、静岡新聞の記事本文で『中心的な議題としてきた「トンネル湧水の全量を大井川に戻す方法」は、同日時点の報告案には具体的に明記していない。トンネル湧水が県外に流出する工事期間中に関しては、報告案はJRの流量予測通りになれば中下流域の表流水の量は維持されるとした。これに対して、沖大幹委員(東大教授)は「想像できないリスクがあり、分かっているリスクだけで議論しても安心しないのではないか」と指摘』などと、”疑問符”ばかりついた記事となっている。沖委員は、科学的・工学的議論を繰り返したとしても、現在の科学水準の限界についてリスクを述べただけである。

 実際に、一般県民に提供すべきは、『現在、最高レベルの科学的な議論の結果、リニア工事による中下流域への影響はほぼないとする結論が示された』である。中間報告案が奥歯に物が挟(はさ)まるような表現(悪文の典型)だからと言って、恣意的に記事の中身を分かりにくくしている。

 科学とはそんなもので、絶対的な確信を得た結論を与えることはできない。今後もそのような議論が続き、メディア報道も続くのだろう。

静岡市との基本合意が流域市町に与えた影響?

 それでも、今回の意見交換会で鈴木敏夫川根本町長は、リニア問題を解決させる方向を示す発言をした。鈴木発言で、3年前の事件をはっきりと思い出させた。

 金子社長は2018年6月20日、静岡市役所に赴き、田辺信宏市長と「リニア南アルプス静岡工区内の建設と地域振興に関する基本合意」を結んだ。JR東海と静岡市の基本合意が、大井川流域市町とJR東海のあつれきを生む原因の1つとなった。

 基本合意には、第1に、県道三ツ峰落合線にJR東海の全額負担(約140億円)でトンネル(約5キロ)新設すると明記された。つまり、JR東海が静岡市の地域振興にカネを出して汗をかくことをはっきりとうたっている。

 第2が、JR東海は、静岡市からの要請を踏まえ、環境保全措置で大井川中下流域にも配慮して誠実に対応する。これは、静岡市が大井川流域市町の一員であり、他の市町のことも考えているポーズを示す一項と見られている。中身はなく、表面的であり、具体的には何も言っていないからだ。川勝知事らはそのように受け取り、激しい怒りに火をつけた。

 第3が、静岡市はJR東海のトンネル工事に必要となる許認可を含む行政手続きを速やかに対応することだ。JR東海の地域振興に対する静岡市の見返りである。東俣林道の通行許可、トンネル掘削土360㎥の盛り土を認めるなどを含んでいる。

 地域振興から見れば、田辺市長は井川地区住民の悲願とも言える県道トンネルを勝ち取ったように見える。ところが、この基本合意が、大井川流域の市町に冷や水を浴びせる結果となり、田辺市長に対する厳しい評価を決定的なものにした。

 川勝知事は前日の19日、「リニア工事による大井川の流量減少への影響について、オール静岡の態勢でJR東海と交渉していく」と発言したばかりだった。当然、田辺市長は知事発言を承知していた。静岡市は、県や流域市町に対して、JR東海との基本合意を事前に報告して、了解を取るべきだった。それまでは、静岡市は流域市町の一員として、国やJR東海への働き掛けを行ってきたからだ。

 何よりも、静岡市は合意書で、大井川の流量減少対策について、流域にも配慮して環境保全措置を取るようJR東海に求めている。これはいくら何でもバカにしているように見えた。「流域にも配慮しろ」は上から目線であり、流域市町の怒りを買った。

 リニア静岡工区は静岡市葵区に位置し、リニアトンネル工事現場は大井川の源流部にある。あらゆる環境問題は、静岡市の所管する法律、条令が関係する。県同様に、静岡市がリニア工事の”生殺与奪権”を握っていた。他の流域市町には何らの権限もないから、「流域にも配慮しろ」と上から目線になったのかもしれない。

 大井川流域市町は、静岡市だけが抜け駆けして、地域振興につなげた”裏切り行為”と取り、川勝知事はじめ流域市町の首長は田辺市長を厳しく批判した。金子社長は、地元の反発など理解せずに、静岡市との基本合意締結後の会見で、「大井川の水利権者に直接、説明をしたい」などと呑気に述べた。当然、流域の首長らはそっぽを向いたまま、JR東海の説明に耳を傾ける姿勢を示すことさえなかった。

 そして、ようやく今回の意見交換会にたどりついた。

「市道閑蔵線トンネル」の持つ意味とは?

 鈴木町長の発言が、なぜ、3年前のJR東海と静岡市の基本合意書に結び付いたのか?

 鈴木町長は意見交換会で、「静岡市道閑蔵線トンネル建設」をJR東海に要望したからだ。川勝知事は21日の知事会見で鈴木発言を取り上げて、「もともとJR東海が作業する上で安全に井川の奥に行けるよう閑蔵線のトンネルを掘ると言われていた。それは今後のことを含めても掘るべきではないか」などと述べた。

 「市道閑蔵線トンネル」は、JR東海が静岡市に提案した。

 静岡市道閑蔵線は、新東名高速道路島田金谷インタチェンジからリニア工事の拠点となる静岡市井川地区を結ぶ、唯一、大型車通行不可で狭隘な道路が続く約5・8キロの区間。

 2017年12月、井川地区で開かれたリニア検討状況説明会で、JR東海は、閑蔵線に約2・5キロのトンネル整備を提案した。このトンネルによって、リニア関連の工事車両が安全かつ安定的に通行できるだけでなく、新東名高速道路島田金谷インタチェンジから南アルプス地域までのアクセスが飛躍的に改善され、南アルプスエコパークへの観光誘客に寄与できるなど多大な効果があると説明した。JR東海の説明通り、南アルプスと大井川流域を結ぶのに、閑蔵線トンネルは重大な意味を持つ。

 意見交換会では、鈴木町長だけでなく、染谷絹代島田市長も閑蔵線トンネルの必要性を述べた。3年前に、JR東海が流域市町の意見を聞く機会を設けていれば、”地域振興”についてもっと違う方向で話が進んでいたのかもしれない。(※この件については、近く、公開される東洋経済オンラインの記事をご覧ください)

 国の有識者会議でも「地域の理解」を得ることがテーマになっていた。沖教授の言う通りに、科学には限界がある。だからと言って、「地域の理解」を得るために、意見交換会を何回繰り返したとしても、結論は得られない。

 リニア問題解決のために何をすべきか?この3年間はムダに過ぎたと断言できる。JR東海はちゃんと足元を見て、地域の理解を得るための取り組みを行うべきである。

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