リニア騒動の真相94”宣戦布告”した川勝知事

700対30で自民候補の圧勝?

 7日に告示された参院静岡選挙区補欠選挙(24日投開票)は17日間の選挙戦に入った。同選挙は14日解散、19日公示、31日投開票の衆院選挙の前哨戦と位置づけられ、全国的な注目を集めている。

 告示日の7日午後1時頃、”時の人”岸田文雄首相がJR静岡駅南口に姿を現し、自民党候補を応援する街頭遊説をした。一方、川勝平太静岡県知事が7日午前9時過ぎ、JR静岡駅北口で立憲民主、国民民主推薦の無所属候補の出陣式に突然、現れ、応援演説を行った。さらに、9日午後6時には、静岡市繁華街で「しんちゃん」「しんちゃん」と候補者の名前を親し気に連呼して、熱い応援弁士を務めた=タイトル写真=

岸田首相の遊説で勝負は決まるか?手前がSP

 まず、岸田首相の街頭演説はどうだったのか。当然、VIPであり、多くのSP(要人の身辺警護を務める警察官)を引き連れているだけでなく、静岡県警も大挙して、周辺を固めた。それだけで到着前から、”超大物”の雰囲気が伝わった。駅前大通りを隔てた狭い両歩道には、新聞、テレビのカメラが1時間以上前から撮影のための位置取りをして待ち構え、それを囲むように数多くの市民らが詰め掛けた。長い間、待ち構えていただけに岸田首相が現れたときの市民らの熱狂は大きかった。陣営によると、1500人の市民らが詰め掛けたというが、実際には、その半数以下の7百人程度だった。それも、ほとんどすべて動員によるものである。岸田首相が7日に静岡入りするニュースは報道されたが、いつ、どこで遊説するのかは、前日(6日)夜まで候補事務所には連絡されなかった。その後、動員が掛けられ、集まったのはほとんどが年配者であり、企業からの動員と分かるスーツ姿はちらほらだった。つまり、昔からの熱心な自民党支持者が出迎えたのだ。

8日付静岡新聞朝刊

 この人数を多いと見るかどうかだが、一方、川勝知事は告示日の朝、陣営にも連絡を入れず、突然、現れたせいか、支援者の姿はほとんど見えなかった。そして告示後、初の土曜日となった9日夕方に、東急スクエアという若者が多い静岡市の繁華街に川勝知事が現れた。陣営による支援者への告知や動員もなかったのか、応援の市議ら関係者とメディアだけが目立ち、関係者を含めても周辺には30人ぐらいしかいなかった。それでも川勝知事の「しんちゃん」「しんちゃん」の”熱唱”が、繁華街を通り過ぎる人たちの耳に少しは響いたのかもしれない。(※コロナ禍の中で、いずれの陣営も動員は難しいだろうが、翌日の新聞等で報道される。岸田首相、川勝知事の報道では圧倒的に岸田首相を大きく扱っていた)

 「700対30」。組織票だけで選挙が決まるのであれば、自民党の圧勝は間違いない。ただ、選挙はそう簡単には決まらない。

 その大きな要因が、岸田首相に対抗するように、これまで国政選挙を支援したことのない川勝知事が”参戦”したことである。知事は相変わらず、リニア問題に絡んだ南アルプスの水を掲げた応援演説を行っている。6月の県知事選に続いて、参院補選も「リニア選挙」の様相を色濃くさせることができれば、選挙結果は違ってくるのかもしれない。

告示前予想は”自民勝利”だった

鈴木千佳氏も立候補しているが―

 今回の参院補選は、6月の知事選に立候補、自民現職だった岩井茂樹氏の辞職に伴うものである。このため、岩井氏の残りの任期(2022年7月28日)がそのまま引き継がれる。任期切れとなる約8カ月後の来年7月、再び、参院選が行われる。立候補したのは、自民新人の元御殿場市長、若林洋平氏(49)、元県議で立憲民主、国民民主が推薦する無所属新人の山崎真之輔氏(40)。そのどちらが当選したとしても、いずれも来年の選挙に出馬、再び、争うことが予想される。静岡選挙区は定員2であり、これまでの選挙事情から言えば、両者とも当選する可能性は高い。(※共産党の鈴木千佳氏も立候補していることは後ほど紹介する)

 告示前の事前予想では、もともと欠員となっているのが、自民議席だったこともあり、自民候補の楽勝と見られていた。選挙民の関心もそれほど高いわけではないから、組織戦を展開する自民に有利と見るのがふつうである。しかも、任期は1年足らずである。来年7月に参院選が予定されている。今回選で若林、山崎両氏のどちらかが落選しても、落選した候補も来年になれば、晴れて参院議員に就くことになるのだ。大きなアクシデントがない限り、そう決まっている。だから、両候補にそれほどの悲壮感は感じられないのも仕方ないのである。

 ところが、周囲はそう見ていない。選挙期間中に任期満了となる衆院選が控えており、自民は議席を失ったときのショック度合いが大きく違うのだ。菅政権から岸田政権に交替したばかりで、参院補選を勝利に結びつけられず、もし、万が一、自民候補の落選となれば、岸田政権への打撃は計り知れない。自民支持の凋落がはっきりとしてしまう。メディアは大騒ぎとなり、衆院選への悪影響は必至である。それだけに力が入るのは、負けられない自民党の側である。

 そこに川勝知事が乗り出したことで、ますます自民は負けるわけにはいかなくなった。何しろ6月の知事選で自民候補に約33万票の大差で圧勝した勢いがある。県民に人気のある川勝氏の支援によって、勝敗の行方を左右する可能性さえ出てくる、との見方は間違っていないだろう。

 そう、何と言っても、『「命の水」を守れ!』である。

参院補選の最大の争点は「水」ですか?

 自民への対決姿勢を強める川勝知事は、告示前日にあった6日の会見で、県議会の知事会派「ふじのくに県民クラブ」に所属していた山崎真之輔氏の支持を旗幟鮮明にした。これまでの選挙戦に対する知事の姿勢とは大きく違っていた。どう考えても、山崎氏を応援すると言うよりも、リニア推進勢力への反対姿勢に見えてくる。

 「参院補選の最大の争点は水である。また熱海の土石流でもある。熱海の土石流は盛り土の問題であって、山の破壊が行われた。狩野川、富士川、黄瀬川、大井川、レイク浜名湖これは水の問題であり、これらを山崎君は一緒に協力してやってきた。知事選で静岡県選出の議員がお辞めになられ、参院補選となった。知事選の最大の争点が水であり、リニア問題だった。静岡県の水を守るという政策を出すのが山崎君の姿勢であり、しっかりと支援していきたい」などと力を込めた。

 この発言に、記者が、自民候補も水を守るということになったら、特にどちらの味方もしないことになるのか、と尋ねた。

 川勝氏は「中身を確認したわけではないが、新聞には新首相が国交大臣にリニアの推進を指示した、とあった。これが自民党の方針であるとしたら、静岡県民の神経を逆なでするとかいきなりぶん殴られたとかです。岸田首相が静岡県の流域の住民に宣戦布告したという激しい表現も承っている。県民の理解が得られないのに、リニア工事を全部推進するんだと言ったら、流域住民が怒り、宣戦布告だ、いきなりぶん殴られた、神経を逆なでする、何ですかこれはという声が起こってくるのは当然のことだ。今回の参院補選は、前回の知事選と連動している、(リニア問題では)一体だから、この点については山崎君はわたしと全く同じであり、わたしは言ってみれば、”県民党”の党首であり、山崎君は幹事長だから、(リニア推進という)国の方策を認めることができない」などと切って捨てた。(※まるで、山崎候補への応援演説と思われた)

 当然、岸田首相が静岡入りして、元岸田派事務総長の故望月義夫元環境大臣の墓参をすることを承知した上で、「国交大臣に対して、リニア推進しなさいと言って、はい、わかりましたと言ったとなれば、これは文字通り本当に神経を逆なでするものだ。望月さんのところに、お墓参りになると言っても、草葉の陰で、噛みつかれるじゃないというぐらいの、無理解をベースにした発言である」などと揶揄した。(※岸田首相を挑発し、自民に対する”宣戦布告”としか思えない)

 さらに、この日の会見では、国の有識者会議で「リニアトンネル工事が中下流域の水環境に影響はほぼない」とする中間報告をまとめることに、”ちゃぶ台返し”発言も行っている。

 川勝氏は「トンネル湧水の全量戻しが約束であり、全量戻しを受け入れないのなら工事をやめるのが約束だ」などと国の有識者会議の議論そのものを否定してしまった。つまり、前回の『リニア騒動の真相93「流域の理解」を得るとは?』に書いた通り、すべて知事選での圧勝が物語っている。選挙に勝つのが民意である。だからこそ、参院補選でも川勝氏は勝利をものにした上で、リニア工事推進を図りたい自民党にひと泡吹かせたいのである。

負けられない自民が負けるとき?

 川勝知事は”県民党”を名乗り、今回は、山崎氏の応援演説に初日から駆けつけ、土、日曜日にも時間がある限り、支援するのだという。 

 果たして、知事選同様に川勝氏は今回の参院補選でも勝利を手にすることができるのか?6月の県知事選で川勝氏は95万票余を獲得、自民の岩井氏に33万票の大差をつけている。

 前回の参院選挙(2016年7月)では、自民の岩井氏は約75万票を得票、当時民進党の平山佐知子氏(社民党推薦)が約69万票だった。単純に計算すれば、その差は6万票しかない。33万票の威力がここで通じるかもしれない。

 ただ、6月の知事選とは大きく事情が違っている。知事選では共産党が川勝氏を全面的に支援した。参院補選では野党の候補者一本化ができずに、共産党の鈴木千佳氏が立候補している。鈴木氏は2019年に約13万票、2016年に約17万票を獲得した。つまり、川勝氏の95万票に貢献した共産党系の約17万票が、失われるわけだ。当然、鈴木氏はリニア建設そのものに反対を表明している。

 6月の知事選では、岩井氏の出陣式に県内選出の国会議員のうち、応援に駆け付けたのは4人だけだった。今回、岸田首相登壇の前、県内議員ほぼ全員が、顔をそろえ、若林氏の支援を訴えた。総理総裁に就いたばかりの岸田首相を出迎えた県会議員ら自民関係者らも、岸田首相に恥をかかせるわけにいかないだろう。知事選で大敗した雪辱戦の意味が強く、もし、負けるようなことがあれば、岸田首相の責任が問われる覚悟をしなければならない。何よりも、衆院議員は自分自身の選挙に直結している。負けられない選挙と言うことだ。

 岸田首相をはじめ自民議員らの神経を逆なでして、突然、”宣戦布告”した川勝氏が勝利できるのかどうか、24日夜には分かる。もし、自民が負けるようなことになれば、リニアトンネル静岡工区の着工の前途はさらに暗くなる。まあ、ぜひ、先週の『リニア騒動の真相93』を読み返して、国交省、JR東海とも何をすべきか考えてほしい。

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