リニア騒動の真相47「解決」図るのは誰か?

「地下水に影響なし」ー地元は認めるか?

 JR東海はこれまで、県環境保全連絡会議地質構造・水資源専門部会で「地下約4百㍍に建設される南アルプストンネル(約8・9キロ)は、約100キロも離れた中下流域の地下水に影響を及ぼす恐れはない」と何度も説明してきた。大規模な土木事業は数多くあるが、100キロも離れた地下水への影響が問題になったことは一度もない。それでも、JR東海の主張に対して、県専門部会では反論、紛糾し、議論は進まなかった。

 本サイトでも、3月22日付リニア騒動の真相35『「ブラックスワン」が起きる』、6月7日付リニア騒動の真相41『「県益」考えた対応を!』などで、客観的に見れば、JR東海の主張が正しいことを繰り返し伝えた。約100キロ離れた河川上流部の水の変化が中下流域の地下水にどのような影響を及ぼすのかは、科学的な常識を超えた疑問であり、水循環に携わる水文学専門家の研究対象にはならない。

国交省で開かれた有識者会議。WEB参加ではなく、初めて全員が一堂に会した(国交省提供)

 第4回有識者会議が16日、国交省で開かれ、沖大幹東大教授(水文学)、徳永朋祥東大教授(地下水学)、大東憲二大同大教授(環境地盤工学)から「中下流域の地下水影響はほとんどない」などの意見が出された。「大井川の渇水時に取水制限したとしても中下流域の地下水は減っていない」「大井川下流域扇状地の地下水はそのほとんどは降水で涵養されている」など、JR東海提出のデータを科学者の知見が裏付け、会議でも大勢を占めた。県専門部会委員の丸井敦尚・産業技術総合研究所プロジェクトリーダー(地下水学)も今回はJR東海の主張を認めたが、森下祐一・静大客員教授(地球環境科学)は、トンネル掘削による上流域と中下流域の河川表流水と地下水の関係性を示す指標データを出すようにあらためて求めた。JR東海は指標データの分析、調査を行い、いずれ会議に提出する、という。これで、有識者会議の結論「中下流域の地下水への影響はない」が合意され、JR東海としてはこれまでの主張が科学的に担保されることでひと安心だろう。

 ただし、科学的な議論がどこまで尽くされたとしても、『ブラックスワン』(東日本大震災による福島第一原発事故など自然災害で極端に確率が低い予想外のことが起こり、それが大きな波及効果をもたらす現象)が起きる可能性まで否定できない。もし万が一、予期せぬ何かが起きたらどうなのか?それが流域10市町の不安でもあり、だからこそ、県は有識者会議がまとめる結論をすんなりとは認めないだろう。

「ヤード工事認めない」見解を市町も共有

国交省提供の有識者会議写真はコロナ禍の中、会場が広いことを伝えたかったのか?

 16日の有識者会議後、福岡捷二座長(中央大学研究開発機構教授)、江口秀二審議官の記者会見で、JR東海が求めている「ヤード(椹島、千石、西俣の宿舎を含む作業場)工事」について記者の質問が続いた。「ヤード工事」については、県と国の間で一応の結論が出ている。もし、疑問があるとしたら、自然環境保全条例の運用、解釈を変えた県に質問するしかない。国の”力”で県の姿勢を変えることができるかのような勘違いが見られ、「ヤード工事」の是非を有識者会議のテーマにしたらどうかなど突飛な意見が出ていた。

 6月26日金子慎JR東海社長の「対談」、7月10日国交省の藤田耕三事務次官の「対談」とも、川勝知事に「ヤード工事」を認めてもらうのが目的だった。条例を根拠に「ヤード工事」を認めないという県に対して、JR東海は条例の根拠を2度、照会、結局、県の回答に納得できないJR東海に代わって、国交省事務方トップの藤田次官が知事との”談判”にのぞんだ。「流域市町の理解が得られない」など川勝知事が拒否すると、藤田次官は「直接、流域市町に説明したい」と切り返した。国が流域市町を説得、県の姿勢を変える取り組みをしたいかのような発言に聞こえた。

 県は17日、流域10市町長すべてが国の個別訪問を受け入れる意向を発表した。同時に、「ヤード工事」に関する国の提案に対して、提案を退けた「県の見解」を県中央新幹線対策本部長(難波喬司副知事)名でまとめた。「具体的にどういう懸念があるのか、未来永劫変えられないのか」など藤田次官の疑問について、詳細に回答している。県条例の新たな運用、解釈について、藤田次官自身が自治体の裁量として認めているのだから、県の考えがそのまま10市町の共有する「見解」になるのだろう。

 今後、江口審議官が各市町を訪問しても、「ヤード整備」に対する市町の姿勢を変えることはできない。結果的に「中下流域の地下水への影響はほとんどない」という有識者会議での”中間結果”を説明して、江口審議官は水環境問題への理解を求めるくらいが関の山だろう。

 藤田次官との「対談」後、14日の記者会見で川勝知事は「事務次官に頭を下げる必要はない。ヤード整備についての話は2分で済んだが、30分以上掛け、条例の適用変更について述べた。(次官の姿勢は)変更しろという命令。一種独特の体質を感じた」など国に反発する厳しい意見を述べ、「(国の主導する)有識者会議での解決は難しい」と県の姿勢を明確に示した。

 「リニア問題解決を川勝知事に一任」で10市町長は一致しているから、「水問題の重要性をJR東海は理解すべき」「利水者の声をJR東海に伝えてほしい」など前回同様の意見が各首長から出されるだろう。

「被災現場」視察する知事の狙いは?

21日の知事視察の目的地である水没した「東俣林道河川内道路」入り口(静岡市提供)

 川勝知事は21日、七月豪雨で大きな被害を受けた東俣林道を視察する。視察と言っても、スケジュールでは沼平ゲートから約3・8キロの地点まで行ったところで、昨年10月の台風19号被害で一部欠損、崩落した約1・4キロ区間の「東俣林道河川内道路」入り口が目的地。今回の豪雨で「河川内道路」は水没したままであり、その先に進むことはできないからだ。そこで午後12時50分から10分間、被災状況の説明を受ける予定。 

 最も大きな被害に遭ったのは、ゲートから約18・2キロ先の崩落した道路(※タイトル写真=静岡市提供)であり、市担当者が現地調査に向かうのは、「河川内道路」の水が引き、使えるようになってからで、7月いっぱいは無理だろう。現地調査を終えたあと、災害復旧計画を立て、予算査定などに入り、実際の工事に入るまでに4カ月以上掛かる可能性がある。知事の視察現場と違い、今回の崩落道路に「河川内道路」はつくれない。応急工事でどこまで通行可能となるのか、JR東海にとっては厳しい状態が続く。

 そんな状態の中で、知事視察の狙いはどこにあるのか?

 金子社長は「ヤード整備」について、6月中に認めてもらえなければ、2027年リニア開業は困難という見解を示した。その後、県庁を訪れた藤田次官は7月中に認めてもらえるよう要請した。しかし、7月豪雨の影響で林道がずたずたとなり、復旧の見通しもつかない中で、「ヤード工事をやらせてほしいは机上の空論に等しい」(川勝知事)。南アルプスの極めて過酷な工事現場を多くの人に知ってもらうのによい機会なのだろう。県の対応に批判的な自民党超電導リニア特別委員会、中部経済連合会宛に今回の視察案内を送った。

 第4回有識者会議でJR東海は大井川流域の基本的理解を深める目的で「大井川流域の現状(素案)」を委員に示した。江口審議官は「大井川の現況が一体どうなっているのか、非常にわかりやすい資料」と述べた。ただ、文字や写真で現況を確認するのと実際の大井川上流部の自然の過酷さを肌で感じるのとは「大違い」である。

 今回の有識者会議はウエブではなく、初めて委員全員が一堂に会して、議論した。福岡座長は「顔と顔を突き合わせて、意見交換することでお互いに理解が深まった」などと話した。その「違い」と似ているだろう。

昨年より「糸のもつれ」はひどくなった

昨年7月6日号の週刊東洋経済記事

 昨年10月の台風19号の被害、今回の7月豪雨による被害などを経験、昨年からことしに掛けてどれだけリニア工事が進捗したのか、気になるところだ。ちょうど昨年のいまごろ、「リニア2027年開業に暗雲 工事認めない静岡県の狙い」(週刊東洋経済7月6日号)、「リニア中央新幹線トンネル工事にストップをかける静岡県」(週刊新潮7月18日号)、「リニア建設を阻む静岡県ー川勝知事の『禅問答』がもたらす、これだけの弊害」(ITmediaビジネス、7月23日)など、週刊誌、ネットメディアで南アルプストンネル着工に「待った」を掛ける川勝知事への批判が続いた。

 週刊東洋経済7月6日号(1日発行)は、『「JR東海に媚びを売る必要はない」「(工事の遅れを)静岡県のせいにするのは失礼千万だ」―。6月11日に行われた静岡県の定例会見で、川勝平太知事はJR東海への厳しい批判を繰り返した』で始まる。出だしを読んだけでも、1年前の記事とは思えないほど、いま現在の状況と似ている。

 『リニアの建設工事に合意する見返りとして、JR東海に空港の新駅建設をのませようとしていると考えれば、川勝知事の発言にも合点がいく』『沿線の静岡市や浜松市は(「ひかり」の)停車本数の増加を強く訴えており、県としては、こうした声を無視できない』など、静岡県が見返りを求めているのだと指摘した。果たしてそうなのかどうかは分からないが、県民の多くがJR東海に不満を持っていることは確かだ。

 『今の膠着状態が続くと、JR東海が進めるリニアプロジェクトの2027年開業は難しくなる。(中略)最終的にはお互いが歩み寄り、決着を図るしかない。しかし、その糸口はまだ見えていない』と締め括っていた。

2020年7月18日付毎日新聞記事。1年たって、さらに剣呑な雰囲気だけが伝わる

 『お互いに歩み寄る』どころか、JR東海が国を前面に立てて、自分の主張をすれば、県は新たな問題を提起して、ハードルを高くしてくる。「中下流域の地下水の影響」議論が浮上したのは、昨年10月静岡県が問題提起したからだ。「ヤード整備」について認めないという姿勢も、県が最近、条例の運用、解釈を変えた。つまり、「解決の糸口」どころか、「糸のもつれ」はひどくなる一方である。被災現場の知事視察も、別の狙いがあるのかもしれない。

 県が何らかの異論を唱えるパターンが繰り返され、解決の糸口は全く見えない。解決を図りたいならば、JR東海は歩み寄る姿勢を見せなければならない。「糸のもつれ」をこれ以上、ひどくしては、手がつけられなくなる。1年前の「暗雲」どころかいまや、「豪雨」に見舞われ、リニアの必要性まで問われる。1年後の記事はどうなっているのか?

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