リニア騒動の真相30「北風」作戦は失敗?

屋上屋の「新たな有識者会議」提案

 1月17日、国交省の江口秀二審議官が静岡県庁を訪れ、静岡県提出の「2つの要請」に対する回答書を難波喬司副知事に手渡した。川勝平太知事からの「2つの要請」を拒否する代わりに、国交省は「新たな有識者会議」提案という”奇策”に出た。

読売新聞1月18日付朝刊

 18日付新聞各紙を読んでみても、「新有識者会議」の目的は何か、記者たちは表面的な事実しか書いていないから、読者にはさっぱり理解できないだろう。「トンネル工学や水文学の専門家で構成する会議で、これまでの県有識者会議の議論を検証する」役割とは、つまり、静岡県の有識者会議メンバーにいちゃもんを付けることのできる専門家(御用学者?)を招集するということになる。

 川勝平太知事がただ黙って、それを受け入れるはずもないだろうが、たとえ、「新有識者会議」が設立されたとしても、屋上屋を重ねるムダな時間をさらに費やし、国交省が望む「解決策」に至るのにほど遠いことははっきりとしている。なぜ、国交省がそんな”奇策”(愚策?)に出たのか分からない。

 静岡県の有識者会議に出席してきたJR東海の技術者たちは、「新有識者会議」が解決策にほど遠いことを予測できるだろう。南アルプスの現状をちゃんと把握する静岡県の手強い有識者メンバーと議論してきたからである。新たな専門家(学界の権威)を招集して静岡県の有識者会議の議論を評価しても、それぞれの意見、思惑がぶつかり合い、さらなる調査の必要性だけが出てくるだけである。「会議は踊る」のたとえ通り、早期着工に向かって進むことは期待できない。

 静岡県とJR東海との協議を主導する国交省の手綱さばきに官邸は疑問を抱くだろう。官邸の意向は「川勝を何とかしろ」だった。これでは、川勝知事の術策にはまって、土壺にはまった現実に変わりない。”奇策”は打開策にはならない。

 ここまでは川勝知事の作戦勝ちといったところか。

”3者協議会”設立で3カ月以上の空白

昨年10月4日静岡県の専門家会議

 昨年10月4日の静岡県の専門家会議で、難波副知事の会議運営に危機感を抱いたJR東海は官邸に”ご注進”した。その結果、国が積極的に関与する新たな枠組み三者協議会(連絡調整会議)をつくることになる。

 10月11日、国交省で開かれた協議では、枠組みをつくるための協議案を国交省が作成することになり、24日には藤田耕三事務次官、水嶋智鉄道局長らが静岡県庁の川勝知事を訪ね、国が主導して静岡県、JR東海の議論を整理、なるべく早期に静岡工区の着工に持っていきたい意向を示した。「新しく立ち上げる調整会議は時間を限った形で開催したい」(藤田次官)。その発言を読み解けば、早急に静岡工区の着工を実現させたいJR東海に側面から強力に支援する役割を国が果たすことである。

 国の筋書きはちゃんと見えるが、表面上は「交通整理役」という国の提案を川勝知事は受け入れる姿勢だった。ところが、このあとすぐに迷走する。

 10月31日国交省で開かれた第2回の協議が静岡県側による”リーク(情報漏れ)”を問題視され、水嶋局長は難波副知事らを厳しく叱責した。国交省から送られた「調整会議の進め方案」が静岡第一テレビによって前日(30日)夜、スクープされた。31日の協議は、リーク問題に絞られ、公文書管理などで水嶋局長は難波副知事らの責任を追及した。

 これに反発して、11月6日定例記者会見で川勝知事はこれまでの姿勢を一変、「鉄道局だけでは仕事の整理ができない。(国交省)河川局、環境省、農水省が加わった上で国が関与すべき」と国の新たな体制を求めた。そして、12月25日、「環境省や農林水産省など、水資源、自然環境に関連するすべての省庁の参画」、「国交省による、これまでの静岡県とJR東海との対話内容の評価」という「2つの要請」を水嶋局長宛に文書で提出した。川勝知事の「2つの要請」に答えなければ、協議が進まないことを国交省は十分承知していた。

 その結果、国は苦肉の策として「新有識者会議」設立という”奇策”に打って出た。藤田次官まで出張って事の解決に当たろうとしたが、時間の掛かる面倒な”宿題”を増やしただけである。

 10月4日以来、静岡県の専門家会議はストップしたままである。3カ月以上の空白が生まれ、さらに今後、「新有識者会議」人選をはじめ検討事項は山積する。そもそも国が提案した「調整会議」も頓挫したままだ。

産経社説「JR東海に一定の合理的負担」求める

 「トンネル湧水の全量戻す」と「下流域の地下水への影響」の2つの問題点ははっきりとしている。JR東海は「湧水全量戻す約束を果たせ」という静岡県の主張に対して、「安全を期すために工事中の湧水流出はやむを得ない」と説明する。トンネル工法上、どちらの主張が正しいのか現時点で判断できない。多分、時間が掛かるだろう。

 「下流域の地下水への影響」についても、「工事中にトンネル湧水の一部が流出しても大井川の流量は減らない」というJR東海の説明に「表流水ではなく、地下水の問題であり、もし、遠い将来に影響が出たときには責任を果たせ」が静岡県は主張。これも議論はかみ合わない。

 これから何度話し合っても、お互いが納得できる結論を得ることはできない。17日、江口審議官は「科学的、工学的に検証する第三者的な専門家会議を設ける」と説明したが、科学者は、それぞれの知見に基づいた学識の範囲でしか意見を言うことができない。南アルプスというフィールドを長年研究してきた者とそうでない者が意見を闘わせれば、「新有識者会議」を評価する別の諮問機関さえ必要になる。

 国交省はどうすればいいのか?

産経新聞主張

 昨年12月3日付産経新聞主張「リニア新幹線 国が地元協議を主導せよ」。多分、官邸の意向に沿った主張なのだろう。将来の日本を支えるリニアの必要性を説いた上で、「政府を交えた協議自体に注文を付ける川勝氏の姿勢には首をかしげる。関係者は冷静な話し合いを進めるべきだ」と書いた。その通りである。国交省鉄道局は冷静に本来の役割を果たすべきである。主張では以下のように国交省の役割を示していた。

 『リニア新幹線は静岡県内に駅がなく、その経済的なメリットは小さいとされる。川勝氏は今年(2019年)6月にJR東海による経済的な代償を求める考えを示唆した。同社による一定の合理的な負担を含め、国交省が主導して環境対策などでも真摯な協議を進めるべきだ』

 国交省鉄道局はJR東海に対して、『(静岡県へ)一定の合理的な負担する』よう指導すべきと産経は書いた。国交省はこれまで「新しい枠組み(調整会議)」設立、「新有識者会議」設立と国主導のかたちで議論を進める体制をつくり、静岡県の主張を何とか封じ込め、無理にでも国の意向に従わせる「北風作戦」を取った。JR東海に「一定の合理的な負担」は言ってこなかった。

 官邸に近い産経新聞でさえ、ちゃんと「北風」と「太陽」の両面作戦を薦めているのだ。「北風」作戦では川勝知事が屈しないことは、この3カ月間で国交省は理解しただろう。JR東海を国交省に呼んで、成田空港の土地収用対策を学ばせた。その意図も静岡県には分からなかった。リニアの反対運動ではないのだ。川勝知事のほうから、何らかの条件を出すことはない。

 川勝知事は「(JR東海は)誠意を示せ」と何度も繰り返して述べている。だから、国交省は「誠意」の示し方を指導すればいいのだ。

「リニア反対派」抑え込みに本腰か? 

ZAITEN2月号表紙

 ZAITEN2月号(財界展望新社)が『JR東海・葛西敬之名誉会長 国民に禍為す「リニア」の暴走』大特集を組んでいる。「過激にして愛嬌あり」のキャッチフレーズ通り、同書は歯に衣着せぬ記事のオンパレードである。

 『「川勝の本心はカネ目」「東海道新幹線の新駅づくりなどで21年の知事4選に向けた実績づくりを画策している」などとマスコミにネガティブ情報を流させた』のはJR東海らしい。

 『JR東海では沿線住民はおろか、地元首長に対しても「上から目線の葛西流」がまかり通る。実際、金子(慎JR東海社長)は記者会見でも川勝に対して「条件があれば、はっきり提示して欲しい」など繰り返し訴え、カネで片を付けたい本音を丸出しにして来た』

 『2年にわたる静岡県との協議が平行線のままであることに業を煮やしたJR東海は国土交通省を巻き込んで、19年10月、国も含む3者協議の場を設けさせた。しかし、仲介役のはずの国の担当者を国交省鉄道局長が務めるなど「静岡県を押し倒す意図が丸見え」(霞ケ関筋)だったため、まったくワークしていない。金子は県の頭越しに大井川流域10市町の首長に面会して同意を取り付ける奇策も探ったが、10市町側にすげなく断られている』

 同書によると、川勝知事を始めとする「リニア反対派」の抑え込みに官邸が本腰を入れ始め、「反対派」の情報をもらして叩きつぶすことを画策しているようである。

 さてさて物騒なことである。20日に静岡県庁で開かれる川勝知事と大井川流域10市町長との意見交換会は途中から「非公開」となった。リニア問題はすべて「公開」でという川勝知事の要請だが、そうもいかないらしい。昨年10、11月に難波副知事宛に脅迫状が計3通届いた。静岡県のリニア対応に不満を持つ”不審者”が送ったようだ。議論はいいが、脅しや暴力では解決しない。

 ただ、非公開の「県知事との意見交換会」だけを見ても一般市民は本当のところが理解できないから、何をやっているのか不満は募る。専門家や行政担当者だけの会議だけでなく、一般市民がわかり、さらに自由な意見交換の場を設けたほうがいい。

※タイトル写真は1月18日付静岡新聞写真

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