リニア騒動の真相15 リニアで「名古屋」衰退へ!

川勝・大村会談は予想通りの結果

にこやかな挨拶だが、会談は予想通りに「平行線」(6日付静岡新聞1面)

 未着工のリニア南アルプストンネル静岡工区を巡り、5日愛知県公館(名古屋市)を訪れた川勝平太静岡県知事は大村秀章知事との会談に臨んだが、最初から予想されていたように両者の溝をあらためてはっきりとさせただけで、大村知事の期待した2027年開業を目指すJR東海の早期着工は遠のいた感さえある。

 JR東海の早期着工について、水環境問題の現状を説明、将来にわたり安全・安心を確保する基本協定締結の必要を訴える静岡県の立場を川勝知事が説明したのに対して、大村知事は「着工して問題があればそこで立ち止まって考えるわけにはいかないか。一歩でも二歩でも前進してほしい」など、JR東海・金子慎社長から負託された切実な思いを述べたが、川勝知事は「大井川の流量減少問題が解決されない限り、着工は認めない」とこれまでの姿勢を崩すことはなかった。

 『川勝知事「計画見直す事態」』(読売)、『川勝氏、27年開業「非現実的」』(日経)、『27年開業「現実的でない」』(朝日)など地方版トップの扱いで、読売、朝日、日経がそろって、リニアに対する川勝知事の主張をあらためて紹介した。

 その他各紙は『リニア「国調整を」一致』(静岡)、『リニア工事「国の関与必要」で一致』(毎日)、「国関与希望は一致」(産経)などと大きな見出しをつけた。

 川勝・大村会談は全く予想通りの結果だった。今回の最大のニュースは、リニア着工を後押しする中部経済圏の代表の一つ、地元紙の中日があまりに地味な報道だったことだ。

中日新聞6日付

 会談が行われた名古屋市に本社、浜松市に東海本社を構える中日は、静岡新聞と並び、静岡県でも地元紙を標榜する。その静岡が1面トップ、社会面で大きく取り上げたのに対して、中日は社会面準トップのみで、内容もあまりに地味だった。「川勝知事 水問題理解深め 大村知事と面会 主張平行線」と他社が紙面を割いて大騒ぎしているのに対して、淡々とした記事で、これまでのリニア記事と比較して拍子抜けするほど小さな扱いだった。

 リニア問題は、「考えるリニア着工」という「ワッペン」を付ける特別企画という位置づけで、知事、静岡市長、島田市長、川根本町長らのインタビュー記事を1面トップなどで大きく紹介、リニア問題を熱心に報道してきた。

 一体、中日新聞に何があったのか?

名古屋の「暗い未来」予測したのは?

  6日付中日1面トップは「京急衝突脱線、33人負傷」事故。準トップは「御前崎町の住民投票条例案可決」だった。1面のもう1本の大きな記事が「厚生年金パート加入促進」という見出しで、政府による規制の解除検討という地味な記事だった。「京急衝突脱線」は横浜市の神奈川新町駅近くの踏切で5日午前11時40分頃に起きた。首都圏の事故であり中部圏での事故ではない、それも5日付夕刊段階から報道されていた。地元紙ならば、注目の大村知事、川勝知事会談がトップに来るのが常識ではないか?

 紙面を何度も見直したが、どうもわからない。

 そして、1面記事下広告まで丹念に見ていった。「もしかしたら、これが理由かもしれない?」。とある書籍広告に目が釘付けになった。

6日付中日新聞1面広告

 中日は縦13段で記事を構成している。そのうち、縦3段、横半分の大きな書籍広告に目が止まった。「未来の地図帳 人口減少日本各地で起きること」(講談社現代新書)。「名古屋市」が黒地白抜きで目立つよう真ん中にあり、「リニア新幹線」と「広すぎる道路」が課題、と書いてある。つまり、2045年までに起こる変化の中で「リニア新幹線」が名古屋市にとっては大きな課題であり、人口減少の原因となると読める。

 週刊誌の中吊り見出し同様に、これでは何か全く分からない。しかし、77万部のベストセラー「未来の年表」人気シリーズ最新作が、「名古屋市はリニア新幹線が課題」と大きく取り上げた。

 新聞社では、当日紙面の広告欄をどこに配置するのかは重要な問題である。翌日の朝刊広告紙面は夕刊段階では決定しており、担当者は広告のみの紙面を編集局に提出、整理(見出しやレイアウトを担当)デスクはそのすべてをチェックしていく。

 「名古屋市はリニア新幹線が課題」。「考えるリニア着工」というワッペン付き記事、愛知、静岡県知事の会談ニュースの下に、名古屋市の暗い未来を予測する「未来の地図帳」の書籍広告があれば、あまりに意味深に思えるだろう。当日になって、1面の半3段広告を差し替えるのは非常に難しいだろう。整理デスクは、その書籍広告を見て、リニア記事を1面から外したのではないか?

 整理記者は「最後の記者」だからだ。

「最初の読者 最後の記者」とは

 5日、「最初の読者 最後の記者」という書籍が届いた。2019年9月1日発行、非売品で2百部限定。著者は東京新聞(中日新聞)で整理部に約20年在籍、整理・校閲担当の編集局次長を5年余、2016年6月定年後からコラム担当の編集委員を務めている。同書は自社だけでなく、他社についても率直な紙面批判を展開したため、一般公開するのは不適切と思われ、「私家版」としたと著者は前書きで説明。そのくらいに内容は刺激的で業界の裏話が多い。

 整理記者は「最初の読者」として、読者目線で原稿を読み、ニュースの大きさを判断、分かりやすい見出しとレイアウトを基本姿勢とする。朝刊担当の夜勤(午後4時頃から午前1時頃まで勤務)が多く、内勤記者は読者から見えない地味なポジションだが、外勤記者の活躍を知らせるためになくてはならない存在だ。

 当然、さまざまな広告主への配慮も内勤記者ならではの仕事だ。新聞記者がいくら「社会正義」を唱えても、商業新聞である以上、スポンサーへの配慮は欠かせない。その重要な役目を内勤記者が受けている。公官庁を含めてスポンサー依頼の「ちょうちん記事」の絶妙な扱いも内勤記者に任されている。

 「最初の読者 最後の記者」では、ある落語家の回想録について紹介している。ある日の新聞に映画通販の全面広告があり、彼の妻が調べてみると、ネットのほうが25%も安いことを発見、落語家は「買い物はよく考えてからするべきだ」という結論。ところが、「広告主は神様です」。広告収入が減少の一途をたどる新聞社にとって通販会社はお得意様であり、そのときも、あす掲載分の回想録を差し替えることは無理だったが、せめて、タイトルを「通販」から別のものに変えてしのぎ、幸い、スポンサーの目に触れず大事には至らなかったと書いている。ストレスのたまる仕事である。

 さて、「リニア」を最大の課題とする「未来の地図帳」を早速、読んでみた。「大いなる田舎」名古屋市は現在、人口230万人を超え、さらに堅実に増加傾向にあると分析。ところが、最大の懸念材料が「リニア」。リニア開業後約40分で東京と結ばれると、「ストロー現象」(大都市と地方都市の交通網が整備され便利になると、地方の人口が大都市へ吸い寄せられる)が起きて、若い女性がこぞって東京へ行ってしまう可能性が高いのだという。名古屋市が人口減少に向かう最大の課題が「リニア」と記述している。

 現在、東京ー名古屋間は新幹線のぞみ号で約1時間40分、それが1時間も短縮されるから、懸念通りに「ストロー現象」が起きるかもしれない。「リニア」は名古屋地域に大きな経済効果をもたらすとしてきたが、本当は、逆に人口減少による衰退へ向かうというのだ。その主張を「最後の記者」整理デスクは看過できなかったのか?

 広告に最大限の配慮をする中日としては、広告とは別の紙面に話題の「リニア」記事を持っていき、地味に扱うしかなかったのかもしれない。

「他力本願」では解決しない

 川勝、大村知事会談で「国の関与必要で一致」を毎日、静岡などが大きく報道した。すでに国交省の担当室長は8月中に3日間、JR東海、静岡県の専門家、利水者らとの会議に立ち会ったが、JR東海(愛知県)からすれば、期待外れに終わっている。

 菅官房長官が6日の記者会見で「(2027年開業)予定に影響が及ばないよう、両者の間で客観的な議論が進むように国土交通省として必要な調整を行う」など政府として調整に乗り出すことを表明した。

 「官邸」がどのように調整できるか興味深いところだ。

 「最初の読者 最後の記者」に宗教から出たことばは、なぜか悪い意味に使われるので注意が必要とある。『「他人頼み」のことを「他力本願」と新聞で使うと、必ず本願寺派などの浄土真宗関係者から抗議が来るので、記者の原稿ならデスクは手直しするが、外部依頼原稿や識者談話で出てくると処置に困る』。実際に「他力本願」を「他人頼み」の意味で使った朝日新聞記事を紹介していた。

 「他力本願」を辞書で調べると、「他人の力に頼って事をなすこと」は本来的な意味からは間違った用法とある。

 川勝知事、大村知事とも両者の思惑はかけ離れている。問題解決の意味も全く違う。そこに官邸が調整に入り、双方が納得できる解決に導くことができるのかどうか?静岡県、JR東海とも「他力本願」で何とかなるなどと考えてはいないだろうが、間違った用法にならぬよう十分な注意が必要だ。

 「名古屋市が人口減少に向かう最大の課題はリニア新幹線」。もし、それが真実ならば、2027年開業を急ぐほうが間違っていることになってしまう。本当かどうか”最後の記者”に聞いてみたい。

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