リニア騒動の真相14 誤解の根源「高慢と偏見」

「方策(方便、嘘)」と述べたJR東海社長?

JR東海と利水者団体らとの意見交換会

 29日静岡県庁で、リニア南アルプストンネル工事に伴う大井川の水環境問題について、利水に関係する市町、団体とJR東海の意見交換会が開かれた。朝9時半から始まり、午後4時終了予定でとことん意見を交換するはずだったが、どういわけか1時間以上も前倒しの午後3時前に閉会してしまった。相互の腹の内を十分に戦わせる「意見交換会」という名称にはほど遠く、市町の利水者があらかじめ用意した質問を口頭で述べ、JR東海は誠実に技術的な側面から回答していた。利水者側の質問者(静岡県の出向者及びOBばかり目立った)は初めから、JR東海の説明を理解して納得するような姿勢ではなかった。東京電力・田代ダムへの不満など、大井川への強い思い入れを利水者の一部が述べたが、直接的にはJR東海の水環境問題との関係は薄く、解決策を見つける糸口にはほど遠かった。

中日新聞8月30日付1面

 同じ日(29日)東京で開かれたJR東海の金子慎社長記者会見を伝えた30日付中日新聞見出し『JR東海社長「全量戻す提案は問題解決の方策」』に、「本当なのか」と驚いた。

 本文記事を読むと、昨年10月「湧水全量戻す」提案は「話が進まないので、利水者の理解を得たいと方向転換した。河川流量の影響を特定し、回避できる方策があるならそれでもということだったが(実際は)なかった。問題を解決しようとした中で出てきた方策」と社長発言を紹介していた。見出し「問題解決の方策」は、JR東海社長の発言から取っているのも間違いない。

 この見出し、記事は、「湧水全量戻す提案」は(利水者の理解を得る)問題解決のための「方策」と読める。つまり、できる、できないかは分からないが、とりあえず、利水者の賛同を得るためにJR東海は「湧水全量戻し」の「方策」を打ち出したのだ。「方策」には「計略(はかりごと)」の意味があり、通常、このような「方策」を「方便」と理解する。つまり「嘘も方便である」。中日記事を読む限りでは、JR東海の金子社長は昨年10月に「嘘」をついたことになる。

 意見交換会後の囲み取材で、JR東海技術部門を代表する新美憲一リニア推進本部副本部長は「全量戻す」解釈について、想定を超える記者らの厳しい質問にしどろもどろになっていた。その同じ頃に、東京では、金子社長が「嘘」と認めてしまった、これは大変な話である。

 なぜ、中日新聞は金子社長発言を1面トップで伝えなかったのか?

リニアの電磁波影響は非公開?

 中日記事の記者会見内容について、JR東海広報に確認すると、湧水全量戻し提案は「利水者の賛同を得る」問題解決ではなく、金子社長は「河川流量の影響」解決をはかるための「方策」として発言した、という。これは本当にわかりにくい。中日記事は、社長発言の重要部分を省略したのだという。まあ、これが本当ならば、「方策」はそのまま「対策」の意味に近いのだろう。

 ただし、この通り「河川流量の影響」解決のためならば、川勝平太静岡県知事、染谷絹代島田市長らが求める「工事中に関わらず、山梨・長野への湧水一滴の流出はまかりならぬ」を守らなければならない。工事中にはできないという技術的な説明を省いてしまったからだ。工事中でも湧水全量戻しを技術的に解決するのは、前回の「リニア騒動の真相13 水一滴も流出させない」で書いた通り、本当にできるのか難しい話だ。JR東海が「湧水全量戻し」を「方策」として提案したとき、技術的にどの範囲まで考えていたのか疑問である。社内の意思疎通が図られていないあまりにお粗末な提案と言っても言い過ぎではないだろう。

 先日(8月23日)、山梨県リニア見学センター(都留市)でリニア走行実験を初めて目の当たりにした。時速500キロ走行のリニアが一瞬の間に通り過ぎる。訪れた親子連れらは大きな歓声、シャッター押しが間に合わないと嘆き、そのスピードに本当に驚いていた。

 リニアは超電導磁気浮上式による世界最速の陸上交通となるという。そのスピードとともに「キーン」という甲高い騒音を近くに住む人が耐えるのは大変だろう。その騒音を実感しようとリニア見学センターを訪れた。

 しかし、「”悪夢の超特急”リニア中央新幹線 増補版」(旬報社、2016年8月)、「危ないリニア新幹線」(緑風出版、2013年7月)は「騒音」問題ではなく、目に見えない「電磁波」問題を大きく取り扱っていた。”リニア反対本”を読めば、多くの人たちはリニア乗車をやめようと考えるかもしれない。その一番の理由が、目に見えない「電磁波」による人体への影響だ。最近、静岡県内でも「電磁波測定」「電磁波対策」をキャッチフレーズにしたセミナーが盛んに開催され、子供たちを持つ親への不安を煽ることで多くの主婦らが詰め掛けている。まさにリニアは危険な「電磁波」の代表かもしれないのだ。

 『リニア中央新幹線について、JR東海は積極的な情報公開をしない。なかでも、頑なと思えるほどに公開しない情報の一つが、「時速500キロでの走行中に車内でどれくらいの強さの電磁波が発生するか」』(「”悪夢の超特急”リニア中央新幹線」)。時速500キロのスピードのためにどれだけ強い磁界が発生されているのか、不安になる気持ちは理解できる。

 「車内の電磁波」情報を公開しない。これを読めば、JR東海の情報公開は不審な点ばかり目立ち、強い不信はリニア対する「偏見」を生むだろう。

「車内の電磁波」情報を隠している?

リニア中央新幹線建設促進期成同盟会資料

 リニア見学センターで配布されたリニア中央新幹線建設促進期成同盟会パンフレットには、「リニア中央新幹線から発生する磁界は人体に影響はないのか?」という疑問に、「国の基準であるICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)ガイドラインを大きく下回り、磁界による健康への影響はない」と回答している。しかし、その説明を裏付けるグラフや図はリニアから4メートル、6メートル、また8メートル高架下での測定を紹介しているだけであり、肝心の「車内の電磁波」情報は掲載されていない。

 まさか、JR東海は「車内の電磁波」情報を隠しているのか?

 JR東海HPを調べると、「磁界への対策」として「健康に影響しない超電導リニアの磁界」とあり、さらに小さな字の「磁界の健康への影響」という項目をクリックすると、「リニア車両内」について2013年12月調査時点の「超電導リニアの磁界測定データ」を得ることができる。

 ICNIRPのガイドラインが400mT(ミリテスラ)以下に対して、車内で最も高い値が0・92mTだから、「磁界による健康への影響はない」説明は間違いないかもしれない。しかし、「リニア、電磁波」を検索すると、JR東海HP以外は「磁界による健康への大きなダメージ」ばかり数多くヒットする。JR東海HPが正しければ、それ以外はすべて「嘘」の情報となるのだがー。

 JR東海は「磁界」という難しいことばを使う。「磁界」、「電磁波」を理解している人がどのくらいいるのだろうか?さらにガウス、テスラという単位が登場するが、それでは一般的な周波数の単位Hz(ヘルツ)とどう違うのか?「電磁波」の単位を理解するだけで頭が混乱して、「電磁波」イコール「健康への大きなダメージ」のみインプットされてしまうだろう。

 身近にある危険「電磁波」を考えてみればわかる。「電磁波」の代表選手・電子レンジは生卵をたった30秒でゆで卵にしてしまう。便利だが、非常に危険な「電磁波」発生機械の一つだ。もし、大きな電子レンジの中にだれかが座っていれば、一瞬の間に大変なことが起こりそうなことだけは分かる。「磁界の健康への影響」がいかに世間の大きな関心であり、その1点のみでリニア反対に参加している主婦らも多い。それを考えると、JR東海HPはあまりに不親切である。

 なぜ、JR東海は「電磁波」問題を丁寧にわかりやすく説明しないのだろうか?

「誤解」を解くことの難しさ

 JR東海広報に聞くと、「いまのところ現在のHP説明で十分であり、2027年開業の近くなれば、さらに詳しいHP、パンフレットなどを用意するかもしれない」と説明した。多分、JR東海は「電磁波」問題に対する世間の関心を小さく見ているのだろう。もしかしたら、そのようなばかげた電磁波への「偏見」を軽視しているのかもしれない。つまり、「プライド(高慢)」がじゃましているのだ。

 まさに、それは大井川の水環境問題と同じ姿勢だ。いま、まさに多くの人たちが関心あるテーマに丁寧にわかりやすく回答しなければ、ますます「誤解」が生じてしまう。時間がたてばたつほど、その「誤解」を解くことが難しくなる。

 30日付中日新聞社長発言は単なる「誤解」だろうか?「湧水全量戻す」問題でJR東海に対する「偏見」が生まれ、金子社長発言に注視の目が向けられていた。「湧水全量戻す」がいかに難しいか、JR東海の技術者たちは最初から承知していたはずだ。その中で、あのような発言をすれば、「湧水全量戻す」とさえ言えば、「南アルプストンネル(静岡工区)の着工を認めてもらえる」と軽く考えていただろう、と邪推してもおかしくない。「方策」の裏側にそんな意図があったとしたら、あまりに「高慢」である。JR東海はプライドの高い企業かもしれないが、「わが社を信じてすべて任せてくれ」と言う時代はとうの昔に終わっているのだ。

 英国の女性作家ジェイン・オースティン「Pride and Prejudice(高慢と偏見)」は「結婚」というハッピーエンドに絡みてんやわんやの大騒ぎが起こる小説。いくら時代が変わっても、プライド(高慢、尊厳)とプレジュディス(偏見、先入観)といった人間心理にじゃまされれば、ハッピーエンドにたどり着くことはなかなかできないだろう。

※タイトル写真は山梨県リニア見学センターからのリニア実験線車両。車体が薄黒く汚れているのが気になった

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