コロナ後の世界3眞子さまの『パレートの法則』

いまのために生きるとは?

 『君たちに明日はない4』=タイトル写真は表紙です=のファイル4「リヴ・フォー・ツゥディ」(「小説新潮」2012年1月号掲載)はシリーズ連載でもひと際、興味深く、「コロナ後の世界」を考えるのに役立つ『パレートの法則』はこの回に登場する。「パレード」ではなく、「パレート」。『パレートの法則』とは何か?

 いまから約10年前の不景気な時代である。リストラ請負会社の面接官、村上真介が担当したのは、巨大外食産業グループの一角、大手ファミレスチェーンで新宿エリア10店舗を束ねる総店長兼エリアマネージャーの森山透、35歳。森山は東京生まれ。都内でも有数の中高一貫校から、早稲田大政経学部を卒業、入社後、9年目である。

 この小説のお決まりのように、ファミレス系外食産業の状況が語られる。低価格路線が影響して、店舗収益率は2%から3%であり、最も金の掛かる人件費にシビアな判断が必要となり、ファミレス系飲食店社員の8割がリストラの対象となった。(※ファミレスは牛丼チェーン、回転ずしほどの安さを売り物にしていない。中間層を対象にしていたから、バブル崩壊後、中間所得層の激減でシェアを落とした。『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(中藤玲著、日経新書)は、回転ずしは海外に比べ、日本だけが最安値の100円で消費者に提供、日本の人件費の安さがその背景にあると指摘する。それだけ日本は低所得者層ばかりとなったのだ)

 今回、村上が面接する森山は、全社員のうち上位5%の優秀な人材であり、村上の使命は外食産業グループ他部門へ転籍誘導することだった。それならば自主退職勧告の対象から外せばいいようなものだが、日本では分別解雇(いわゆる指名解雇)は正当な理由がない限り違法。表面的には業績不振による他の自主退職勧告者と同じ面接を行う。

 有利な条件の自主退職者募集の案内が社内に回ると、真っ先に辞めようとするのは森山のような上位20%の優秀な人材だという。辞めたあと、優秀な人材は引く手数多(あまた)のようだ。そうさせないのが、面接官、村上の腕の見せ所。

 森山の優秀さが紹介される。高校入学した15歳で最初のバイトを始めた。牛丼界ナンバー1のチェーン店に午後5時から零時まで働き、1年後にバイト身分のまま店長となる。(※本当にそんなことがあるのか?)

 大学入学後は、牛丼屋のバイトと並行して、現在のファミレス系飲食店で働き、1年後の19歳で大学在籍のまま契約社員待遇、店長代理となり、牛丼屋を辞めて、ファミレス系飲食店一本のバイト生活、20歳で正式な店長に昇格。26歳で大学卒業後に同社に正式入社、30歳で本部次長に昇格したが、リーマン・ショックで景気が底を打った年に、自ら希望して現場に戻った。最初に紹介したように、新宿エリア10店舗を束ねる総店長兼エリアマネージャーで3年連続、全国最優秀店長として表彰されている。16歳でバイトのまま店長という管理職となり、それ以来、”現場の星”であり続けているわけだ。

 父親は大手文房具メーカー本社営業次長であり、生活に困っていたわけではない。大学卒業後、ほとんどの者(文科系)は企業へ入社すれば、いやでも40年近く、働かなければならない。大学の4年間(森山の場合は、8年間)は、それまでの受験勉強から解放され、自由を楽しむことができる貴重な時間である。国家試験などの目標に向かって、さらなる勉強や麻雀などに明け暮れる学生もいるが、それぞれの決断である。

 わたしは大学時代、家庭教師以外に朝日新聞社系旅行会社の添乗員、ホテル・ニューオータニの客室係(夜間から朝8時まで)のバイトをやった。当時は添乗員資格などなかったから、応募即面接、すぐ採用された。就職のことは大学4年の夏頃まで考えなかった。バブル崩壊以前、学生の仕事に対する意識は、そんなふうではなかったか。

 社会全体がアバウトだったような気がする。(多分、いまよりも余裕があったのだろう)

 時代が変わり、小説の時代(いまから約20年前)森山のような、高校生から責任ある立場でバイトに明け暮れるハードな生活が出てくる。大学4年間だけで疲れてしまいそうだ。

20対80の法則とは?

 リストラ面接で森山が口にしたのが、『パレートの法則』。「『パレートの法則』をご存知ですか?」の問い掛けに、村上は首を横に振る。

 森山の説明によると、ある利益集団の中では必ず、2割の優秀者と、残る8割の可もなく不可もない層に分類され、その2割の優秀な人材だけが、組織全体を実質的に動かし、利潤の8割を稼いでいるという。

 電子辞書(スーパー大辞林)では、パレート(1848~1923)はイタリアの経済学者。一般均衡理論を無差別曲線を用いた消費者選択の理論の上に発展させ、パレートの法則など最適な経済分析の概念を創出し、近代経済学の発展に貢献したとある。『パレートの法則』は「経済社会における8割の富を、2割の高所得者が占有する状態」とあった。森山の説明とはちょっと違うようだが、「2割の高所得者が8割の富を占有する」は、日本の現状をあらわしている。

 ウエブで調べると、『パレートの法則』は応用され、マーケティングなどさまざまな分野で使われている。全商品の上位20%の商品が売上の80%を占める、全顧客の上位20%の顧客が売上の80%を占める、といった法則となり、森山の言う「企業利益の8割は2割の従業員が生み出している」もあった。20対80の法則、ニハチの法則と呼ばれる。

 森山は「上位2割の優秀な人材だけを集めて、新たな営利組織を作っても、そこでは本来は優秀だったはずの人材が平凡な層(8割)に落ちていき、全体としての2割の比率は変わらない」と説明する。

 会社側がいくら優秀な人材2割を残したとしても、結局、本来、優秀だった人材が平凡な8割になってしまうから、優秀な人材確保はムダ、と言いたいようだ。(※逆に言えば、平凡な8割が別のところへ行って、優秀な2割になるかもしれない。なかなか難しい)

 森山が教える20対80の法則は多くのことにあてはまる。

基数の少ない「パレートの法則」では

 静岡経済新聞で、マンション管理組合理事長として滞納金訴訟を起こしたてん末を紹介する『ニュースの真相「本人訴訟」入門⑧』は現在、わたしの「当事者適格」を被告側が問題にしている。毎年、理事長の選任手続き決議を行わないで、25年間、理事長職に就いているのは管理規約違反であり、理事長としての当事者適格に欠けると被告は主張、訴訟の却下を求めている。

 裁判所は、わたしを理事長と決議した総会の議事録を提出せよと求めている。総会で、理事長選出決議を行ったのは最初の1回限りで、その後は一度も理事長選出決議を行っていない。わたしが選出された総会の議事録さえ存在しない。議事録を作らなかった手続きに問題があるからと言って、裁判官はわたしを理事長の「当事者適格」に欠けるとして訴訟を却下するのか?

 たった6世帯(被告を除く)しかない管理組合で、理事長を務めることができるのは、わたし以外にはいない。他の居住者は共稼ぎ(昼夜勤務)などであり、夫婦ともに忙しい。まず、物理的に無理である。当然、自主管理のマンション管理組合理事長としての適性も必要である。

 50世帯のマンションであれば、費用の面で余裕があり、管理会社を使うことができ、理事長職は誰がやっても問題ない。『パレートの法則』の2割から言えば、10人くらいは理事長にふさわしい人がいて、マンション管理業務の見識がある。30世帯で6人、20世帯でも4人程度は理事長にふさわしい人材がいる。

 7世帯しかないマンションの2割は1・4人。ふさわしいのはたった1人(たまたま、その1人にわたしがいた)。適性以前に個々の事情から理事長職を務めることができない。だから、毎総会で理事長候補を出して議論すること自体がムダである。そんなことは考えれば、すぐにわかるはずだ。理事長の報酬は、最初の5年間無報酬、その後19年間、月5千円、裁判に至るトラブルが始まった2019年から月1万円と安いから、ボランティアと考えなければやっていけない。

 現在、5世帯の各組合員に理事長を受任できない理由をそれぞれ書いてもらった。そんな個々のプライバシーを開示しなければ、裁判官は理解できないらしい。

 裁判官が『パレートの法則』を承知していれば、こんな簡単なことはすぐに分かったはずだ。

男女関係に「パレートの法則」をあてはめる

 男女の関係も『パレートの法則』があてはまる。100人いれば、そのうちの20人はお互いに意中の人となる。学生時代、職場、サークルなどのつきあいの中から、相対的に相手を選ぶことになる。絶対的にたった1人の選択は、単なる思い込みである。100人いれば、20人は同じようなものである。恋は盲目という錯覚は数多い。

 『パレートの法則』は、秋篠宮家長女の眞子さまにもあてはまる。なぜ、眞子さまは小室圭氏を伴侶に選んだのか?

 眞子さまの周囲に、伴侶にふさわしい若い男性が少なかったのだろう。ICU(国際基督教大学)時代、つきあった男性は何人いたのか?『パレートの法則』を使えば、100人の男性が身近にいれば、そのうち、20人前後、結婚してもよいと思われる好みのタイプがいる。その中から、さまざまな条件を基に選べば、20人程度は同じようなもので、今回のような騒ぎにはならなかった。

 眞子さまの周囲に若い男性は10人もいなかったかもしれない。10人いれば、2割は1人か2人。当然、男性側も好みがある。皇族の女性を恋人にしたい男性はなかなかいない。眞子さまがつきあえる男性は限られる。ICUという狭い範囲の中で、眞子さまは恋人を1人に絞り、ついに伴侶に決めた。小室氏は特異の人物である。

 『パレートの法則』を使えば、わたしのマンション管理組合理事長同様に選択肢が少なく、眞子さまは小室氏以外に選ぶ相手がいなかったことが分かる。限られた選択肢とはいえ、小室氏が眞子さまの好みならば、他の誰かが文句を言う筋合いではない。小室氏の打算にとやかく言う筋合いでもない。世間がこれだけ騒ぐのは、眞子さまの将来が幸福かどうか心配だからだ。眞子さま本人は将来の不安など抱いていないのだろう。

 『パレートの法則』を教えてくれた森山の登場する小説タイトルは「リヴ・フォー・ツゥデイ」。「きょうのために生きる」が一番大事と教える。きょうのために森山は会社を退職する。眞子さまも全く同じで、コロナ禍の中、いま現在が一番大事で、皇族の身分を離れ、結婚してアメリカへ行く。

 眞子さまの『パレートの法則』は、選択肢が少なすぎて、ふつうならばうまく行かない可能性が高い。結婚生活は経済分析だけでは解明できない。その行方は「コロナ後の世界」で、最も注目すべき事件だろう。

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