リニア騒動の真相28 「宿題」が2つ残っている

「宿題」の1つー川勝知事「2つの要請」

 暮れも押し詰まった2019年12月25日、静岡県の難波喬司副知事は東京・霞が関の国交省を訪れ、江口秀二審議官に面会した。難波副知事の目的は江口審議官に、水嶋智鉄道局長宛の文書を手渡すことだけだった。国交省の提案した新たな会議体設立について、「リニア中央新幹線静岡工区の進め方について」という標題で静岡県の求める条件が記された文書である。求める条件とは、川勝平太知事の「2つの要請」である。

 1つ目の要請は、「国交省のほか、環境省や農林水産省など、水資源、自然環境に関連するすべての省庁の参画をすること」。

 2つ目が、「国交省として、これまでの静岡県とJR東海との対話の内容について評価すること」。

2019年12月27日付静岡新聞の写真。右が国交省の藤田耕三事務次官

 10月24日、国交省の藤田耕三事務次官が静岡県庁を訪れた際、川勝知事は口頭で「国は、自ら現場を調査して考えをまとめることが必要、静岡県の中間意見書、JR東海からの回答に対する見解を文書で示してほしい」と要請した。これが、「対話の評価」である。

 11月6日の定例記者会見で、川勝知事は突如として「鉄道局だけでは仕事の整理ができない。(国交省)河川局、環境省、農水省が加わった上で国が関与すべき」と「他省庁の参画」を断固として求めた。難波副知事の持参した文書は、知事の「2つの要請」を正式なかたちにして、国交省へ提出したのである。

 だから、「2つの要請」を国交省はすでに十分すぎるほど承知している。国交省が何らかの回答をするものと静岡県は待っていたが、1カ月以上過ぎても返事はなかった。

2019年12月15日付静岡新聞の国交省の水嶋鉄道局長インタビュー記事

 そんな中、水嶋局長は静岡新聞インタビュー(12月15日付)で、1つ目の要請「他省庁の関与」は「交通整理の場に、制度上接点がないメンバーを入れる意味は理解しかねる」と否定、2つ目の要請「対話の評価」は「国は環境アセスメントや着工認可で政策判断を終えている。判断するのは県」などと拒否、「2つの要請」に応じかねることをはっきりと表明している。多分、事務レベルでは鉄道局の意向は静岡県に伝えられていたはずである。

 それがなぜ、暮れも押し詰まった時期になって、静岡県は「2つの要請」を再度、持ち出したのか?そもそも「行政の常識」から見れば、水嶋局長の主張の通りであり、旧運輸官僚の難波副知事は頭では理解していたのだろう。しかし、川勝知事の要請は、流域市町村長の賛同を得ているから、静岡県のメンツが掛かっている。静岡県のメンツを立てるため、難波副知事はわざわざ東京まで出向き、要請文書を手渡すだけという単なる「お使い」の役割を果たした。つまり、静岡県の要請に答えなければ、協議が進まないことを国交省に伝えたのである。

 2019年からの「宿題」である「2つの要請」に国交省はこたえなければならないのか?

2つ目の「宿題」は「リーク」の説明

 2019年からの「宿題」はこれだけではない。

 2つ目の「宿題」のほうを国交省は忘れてはいないだろう。新たな「会議体」の枠組みを話し合う国交省、静岡県、JR東海との三者による協議が10月31日に国交省で予定されていたが、枠組み合意の話し合いは全く行われなかった。静岡県の「リーク」(情報漏れ)が原因だった。

 31日に行われた話し合いの記録が公文書の情報開示手続きによって明らかになった。一体、どのような話し合いだったのか?(※この議事録は静岡県側が作成したものであり、録音などの記録媒体をすべて詳らかにしたものではない)

 (水嶋鉄道局長) 本日(31日)は、2回目の合意文書を作成する場であったが、非常に心外であったのは昨日(30日)の静岡第一テレビの報道。

 誰がしゃべったんだ。これをやったのは。副知事なのか。局長なのか。合意文書案は、事務的調整段階であり、次官も局長も案を見ていない段階のものである。何でこんなことになるのか。こんな文言案は、自分は見ていない。

 声を荒げて申し訳なかった、こういう話は信頼関係がないと、成り立たない。国が調整役として前へ進めようとしているときに、国が地元を軽視しているみたいな世論操作をなぜするんだ。この第2ステージをぶち壊そうとしているのか。

 この内容は県がリークしたものとしか考えられない。何の意図があって県はこれをリークしたのか。リークした人物は誰か。知事が国の調整を期待すると言っているのに、リークは調整を壊したくてやっているのか。調整は、相互信頼関係が大事だ。なぜ、その信頼関係を損なうリークを県は行うのか。

 誰がリークを行ったのか特定してもらいたい。それを踏まえて、今後、県はどういう情報管理を行うつもりか明確にしてもらいたい。

 (難波副知事) しっかりと調査する。

 静岡第一テレビの「スクープ」がなぜ、国交省へ深刻な影響を与えたのか、水嶋局長がなぜ、激怒したのか理由は以下の通りである。

 (江口技術審議官) 静岡第一テレビの報道を見ると、次官の知事訪問の映像の後に、事実に反する内容で調整過程が示されているが、これでは「次官が地元を軽視した内容で、調整を行っている」ようにとられてしまう。

 つまり、藤田事務次官が地元軽視を指示したような印象を与え、静岡第一テレビの報道は国交省全体の姿勢にとられてしまうことが逆鱗に触れたのだ。「事務的調整段階」であり「事実に反する調整段階」案だったから、水嶋局長、江口審議官が大問題とし、難波副知事は「(リークを)しっかりと調査する」と明言、静岡県側の議事録に記された。

10月31日の協議後の記者会見を伝えた静岡新聞の写真。左端が難波副知事。

 しかし、2カ月以上たっても、静岡県は「しっかりとした調査」の結果を回答していない。もし、10月30日の「リーク」がなかったならば、3者による新たな会議体の話し合いは進み、会議体は11月中に立ち上がっていたはず。静岡県の「リーク」で水嶋局長は難波副知事らを激怒、その報告を受けた川勝知事は水嶋局長の対応に一気に硬化した姿勢を見せた。「鉄道局だけでは仕事の整理ができない。環境省、農水省、河川局などの関与を求める」という「他省庁の参画」発言につながった。

 川勝知事が「他省庁の参画」を求めるもともとの原因は、静岡県側の「リーク」にあった。とすると、静岡県からの要請文書はブーメランのように静岡県に戻ってきてもおかしくない。

 「2つの要請」文書を受け取った水嶋局長は、逆に「10月30日のリークについて静岡県はしっかりとした調査の経緯を含めて、リークした人物名を明らかにして、その理由等を説明してもらいたい」などの要請文書を難波副知事宛に提出することができる。本当に「調整案」だったかは別にして、「しっかりと調査する」と述べたことは非常に重い。

「他省庁の参画」「対話の評価」は必要か?

 そもそも静岡県の求める「他省庁の参画」と「対話の評価」は本当に必要かは大いに疑問だ。

 難波副知事が水嶋局長に提出した要請文書では、「他省庁の参画」は「複数の市町長が環境省、農水省が新たな枠組みに加わってほしいという要望があった」、「対話の評価」は「地質構造・水資源専門部会長から国交省の評価をもらいたいという意見があった」などを理由に挙げているが、十分な説得力に欠ける。

静岡市役所内の環境省事務所。担当者はいつも不在。何のために部屋があるのか理解できない

 環境省は環境影響評価書提出前であれば、当然、自ら積極的に会議体に参画することを求めるだろう。すでに環境省の意見を踏まえた上で、国は事業認可をしているのである。今更、環境省が何らかの意見を言える立場ではなく、南アルプス国立公園を保全する役割から単にオブザーバーとして席を温めるにすぎない。農水省の参画はもっと理解し難い。水源地の森林を保全する役割を林野庁は持つが、森林整備は林野庁と連携、静岡県が主体となって取り組むことのほうが多い。言うならば、静岡県自身の問題である。

 何らかの権限を持たずに議論に参画しても、各省庁が本来の役割を果たすことができないことを難波副知事は承知しているはずである。川勝知事は県民向けに環境省や農水省などの名前を出し、小泉進次郎環境大臣らに面会、参画を要請することもできるだろうが、一体、環境省、農水省にどんな実務的な役割、機能を求めるのか、はっきりとしない。

 国交省内部はどうか。鉄道局の問題であり、河川局は積極的に参画していない。大井川の管理等で言えば、他省庁よりも河川局のほうがさまざまな権限、予算を有している。それでも河川局は鉄道局の問題だとして口を差しはさむことはしない。

静岡県は「リーク」問題を説明すべきだが

 今回、面談記録の公文書を情報開示して、川勝知事への私信(焼津市の酒造会社社長=名前等は伏せられていた)、「リニア中央新幹線には避難機能が欠けている」と題した静岡県立大学特任助教の小論文(いずれも写し)が、10月24日の藤田事務次官との面談記録の参考文書として添付されていた。

この写真のみを静岡市が提供した。これだけでは東俣林道のひどい被災状況は分からない

 特にびっくりしたのは、台風19号による東俣林道で沼平ゲートから4・2キロ地点の約150㍍の崩落現場写真だった。静岡市が提供したのは3・8キロ地点の路肩決壊個所だけで、4・2キロ地点の崩落現場写真で台風被害がいかにひどい状況だったか、初めて分かった。

 なぜ、静岡市は最もひどい崩落現場写真を提供しなかったのか?(※タイトル写真と左の写真が情報公開で提供。すっぽりと道が消えてしまった崩壊現場で、完全復旧が2021年3月頃の理由がよく分かる。河川内の仮道路の様子は不明、現地への立ち入りが禁止されて新聞、テレビの報道はされない)

 2019年からの「宿題」に、行政が情報をちゃんと出さないことがある。行政は多くのことを隠したがるから仕方ないかもしれない。しかし、「リニア問題」に限って言えば、川勝知事はすべてを公開した上で議論すると言っている。そうであるならば、まずは、10月30日の静岡第一テレビへの「リーク」は静岡県側が行ったものかどうかの調査結果、そして、もし、静岡県の「リーク」であれば、「リーク」した人物は誰か、その経緯、理由を含めて正々堂々と公表すべきである。そうでなければ、川勝知事のすべてを公開して議論する「発言」の信ぴょう性に疑問符が付くことになる。

 2019年からの「宿題」が2つ残っている。2つの「宿題」の答えを出すには、「無理」を通さなければならない。「無理」を通せば、「本音」がはっきりと見える。ぜひ、2つの「宿題」をテーマに公開討論会を行うべきである。それで、鉄道局のスタンスもはっきりとするだろう。そして、解決の糸口が見えてくるはずである。

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