リニア騒動の真相81知事選の前哨戦スタート!

自民岩井茂樹氏の出馬はどうなった?

 18日付『リニア騒動の真相80自民候補はどうなった?』で、自民党の岩井茂樹参院議員が21日にも出馬表明すると予測した。結局、自民静岡支部や浜松支部など岩井氏出馬を求める署名提出など表面的な政治手続きのみで、岩井氏本人の立候補会見につながらなかった。派閥など水面下での調整が続き、ようやく週末までに党内でストップを掛ける動きはなくなったようだ。週明け早々、29日から始まるゴールデンウイーク前までに岩井氏が出馬表明する観測が流れている。

 それぞれの思惑とは別に、与野党一騎打ちの知事選(6月3日告示、20日投開票)前哨戦はすでにスタートしている。

 JR東海を相手取って、大井川流域の住民107人がリニア工事の差止を求める訴訟の第2回口頭弁論が23日、静岡地裁で開かれた=タイトル写真、地裁構内では写真撮影禁止=。「静岡県リニア工事差止訴訟の会」に、大井川の水とリニアを考える藤枝市民の会、大井川の水を守る62万人運動を推進する会、南アルプスとリニアを考える市民ネットワーク静岡、リニア新幹線を考える静岡県民ネットワークなど実態のよく分からない団体がリニア工事差止訴訟に加わっている。これだけ見ても、地域の住民運動というよりも、政治的な色彩が非常に強いことがわかる。

 もうひとつの見方をすれば、リニア問題で国、JR東海と「闘う」川勝平太静岡県知事を支える「政治運動」といっても過言ではない。23日午後の口頭弁論に先立って、支援者らは2時間以上も前から、20人以上の一団が静岡市繁華街で工事差止訴訟に参加するようチラシを配り、署名を求める活動を行っていた。その勢いで、静岡地裁へ数多くの支援者が詰め掛け、気勢を上げた。知事選が始まれば、署名をした人たちに働き掛け、川勝支援の輪を広げる狙いもあるのだろう。

 昨年9月静岡市で開かれた訴訟準備会では、「住民側を貫く川勝平太静岡県知事」という資料が配布され、参加者らは現職の知事支援を旗幟鮮明にした。

 23日の静岡地裁周辺で異様だったのは、遠くから公安と思われる警察関係者が支援者らの動きをチェックしていたことだ。著名な政治活動家が加わっているのかもしれない。「リニア問題」は、まさに、政権与党に厳しい批判の刃を突き付けるかっこうの材料となっている。与野党激突となれば、急進的な勢力が「闘い」の象徴・川勝当選に向けて積極的な支援活動を展開するだろう。

 反原発、反リニアを声高に叫ぶ川勝知事を中心に、すべての野党がまとまるのだろう。川勝県政も、差止訴訟の第2回口頭弁論に合わせたように、「リニア問題」にさらなる火をつける動きを行った。

全く意味のない県意見書の真意とは?

 難波喬司副知事は23日、国交省の上原淳鉄道局長にリニア有識者会議へ疑問を述べる意見書を送付した。翌日の静岡新聞は煽情的な見出しで国の有識者会議の中間報告(案)に大きな欠陥があるよう指摘した。

4月24日付静岡新聞

 静岡新聞見出し『科学的正確性欠く』があまりにも印象的だった。実際の意見書では、『科学的・工学的な議論が深まり、大井川水系の水循環の全体構造がだんだんと明らかになった』、『科学的・工学的に深い議論が行われていると認識しているが、このような形で「中間報告」が取りまとめられることを憂慮する』など有識者会議の議論が『科学的・工学的』であることを大筋では認めている。ある一部分を除いて、有識者会議が『科学的・工学的正確性欠く』という静岡新聞見出しにはつながらない。

 意見書の中身を見れば、『20年間に22回、水不足の状態が発生、慢性的な水不足に悩まされている』とあり、『大井川の水利用の実態を理解していない』と言及している。しかし、静岡県内では、四国や九州、関東地域のような水不足に悩まされた経験は非常に少ない。過去に、大井川流域の深刻な水問題があったのは、利用者の過剰利用によるものだった。

 有識者会議の中間報告(案)は『中下流域の河川流量は上流域のダムにより利水の安定供給のためにコントロールされ、扇状地内の地下水は、取水制限が実施された年を含めて扇状地内全体として安定した状態が続いている』と、利水者の非常に恵まれている状況を指摘している。ことしの計画的な取水制限でも、『水不足状態』があった場合に、利水者からの要請によって、水供給を行うのが多目的ダム・長島ダムの役割なのだが、その出番はなかった。まさに扇状地内全体は安定した状態にあるのだ。

 県は、有識者会議の指摘に反論できるような大井川流域の『水不足状態』を明らかにしていない。それなのに、有識者会議が「大井川の水利用の実態を踏まえていない」という不満を述べているが、その理由は明らかではない。

 静岡新聞が見出しに採った『科学的正確性欠く』のは、どの点なのか?『トンネル掘削完了後の恒常時には、トンネルがないときには下流に地下水として流れ地表流出していた地下水の全量を、トンネル湧水として上流の地中深くで集め、それをポンプアップして導水路で大井川に流すため、導水路トンネル出口(椹島)では河川流量は工事前よりも少し増える。その下流では、地下水の地表流出が少し減少し、河川流量の増分が相殺される』という現象を重要視していないから、『科学的・工学的に正確性を欠く』と指摘した。

 しかし、一体、誰がこの複雑怪奇な記述を理解できるのだろうか?一般読者は何が書いてあるのかさっぱり分からないだろう。

 『地下水の地表流出が少し減少する』下流域とはどの地点を指すのか、また、どのくらい量であり、椹島下流のどこまで影響を及ぼすかなど何ひとつ明記されていない。また、そのような現象が見られる『科学的・工学的』根拠も示されていない。たとえそのような現象があったとしても、井川ダム下流の中下流域への影響はないと、県も認めている。それなのに、わざわざ「地下水の地表流出が少し減少」という曖昧な現象を取り上げ、疑問点として挙げたのだ。

 有識者会議の議論を聞いていない読者らには、静岡新聞見出し『科学的正確性欠く』のみがダイレクトに伝わり、それを鵜呑みにしてしまう。一方的な内容の意見書は、知事選を想定した地元対策ではないか。それならば、意図は十分に理解できる。

 まさに愚民政策を地でいくようなものである。しかし、それだけ川勝知事の危機感が強いのだろう。

「72歳」という年齢に危機感を抱く

 今回の知事選で、川勝知事が危機感を抱く大きな理由は「年齢」である。ことし8月で知事は73歳となる。2年後には後期高齢者に突入する。4期目の終了で、満77歳となるのだ。

 昨年12月、井戸敏三・兵庫県知事は75歳を区切りに次期出馬を取りやめることを表明、引退する。ことし2月、小川洋・福岡県前知事はがん治療を理由に71歳で辞職した。それぞれの健康状態は違うから、何とも言えないが、70歳(古稀)を過ぎたところで、ふつうは老年期に入る。

静岡県作成「ふじのくに型人生区分」

 72歳の川勝知事は、違った意見を持っている。県独自の「ふじのくに型人生区分」をつくり、56歳~65歳を壮年盛期、66歳~76歳を壮年熟期にして、老年期ではない、と主張する。知事は「壮年熟期」の後半にいるから、まだまだ社会で元気に活躍する世代であり、知事職を担う年齢にふさわしいようだ。ただ、この「ふじのくに型人生区分」は健康寿命延伸のための目標であり、現在、静岡県の健康寿命では男性71・68歳、女性75・32歳と記されている。

 平均の健康寿命から見れば、川勝知事の健康寿命は終えている。ちなみに、知事選出馬を予定する岩井氏は52歳で「壮年初期」としている。

 毎日、1159段の階段を登って出勤する久能山東照宮の神職たちの定年は65歳、権宮司は70歳、宮司は75歳である。百歳まで現役の宮司や寺院住職もいるかもしれない。しかし、神職や学者らと違い、激務の知事職はなかなかそういうわけには行かない。どんな人間であれ「年齢」には勝てない。知事の不安のひとつが、「年齢」にあることは間違いない。

 田辺信宏静岡市長が23日の会見で「(岩井氏は)若いのでよりよい県政を目指すという胆力で訴えてもらいたい」と述べ、川勝知事の「年齢」に暗に触れて、自民候補への支援を鮮明にしたことが印象的だった。

 前回の2017年知事選では、静岡市を廃止する「静岡県都構想」をぶち上げて、川勝知事は田辺市政を批判した。今回のリニア問題でも折に触れて、田辺市長を批判、やり玉に挙げている。

「井川地区はほったらかしだ」を忘れていない

72歳としては髪も黒々で非常に若い川勝知事

 「年齢」を含めて、川勝知事は13日の出馬表明会見で、自身の健康状態などにひと言も触れなかった。知事は「オリンピックパラリンピックの成功」「コロナを機に医療産業を育てていく」「リニア問題を見据えて命と環境の世紀にふさわしい地域づくり」など「オリパラ」「コロナ」「リニア」の3つを公約に挙げていた。

 知事選公約で忘れてはならないのは、静岡市を廃止、特別区を設置する川勝独自の「静岡県都構想」である。前回の2017年知事選では、知事は「静岡市は政令指定都市としては失敗事例。人口は70万人を切った。葵区は広く、(田辺市長は)南アルプスの裾野にある井川地区はほったらかしだ」などと痛烈に批判した。現在でも、川勝知事と田辺市長との関係は最悪状態だ。その最も大きな理由は、リニア問題に対する姿勢である。

 田辺市長は2018年6月、リニアトンネル建設に全面的に連携・協力、JR東海は地域振興のために約140億円の県道トンネル建設を進めるなどとした基本合意書を金子慎JR東海社長と結んだ。田辺市長が知事への報告を無視したため、「寝耳に水」の川勝知事は激怒、田辺市長を”悪者”扱いをして、徹底的に批判した。リニア問題を議論する流域自治体から地元の静岡市を外してしまう。

 ただ、考えれば分かるように、もし、田辺市長が知事に相談を持ち掛ければ、JR東海との基本合意を結ぶことはできなかっただろう。前年度の知事選で、川勝知事が「井川地区はほったらかしだ」と批判したことに反発、JR東海から過疎地域の振興を勝ち取ったから、井川地区の住民らは田辺市政を大歓迎した。

 昨年11月27日、県リニア環境保全連絡会議が開かれ、地元の井川地区自治会、観光協会、漁協、山岳会の4団体代表が出席、意見を述べている。「田代ダムから山梨県に行く水問題もあり、ダムを使うなど知恵を使って解決してほしい」「JR東海が悪という報道は偏っている。過疎高齢化が急速に進んでいるので何とかしてほしい」「いまの技術ならば解決できるのではないか」「ダムによって、下流域の人たちは灌漑用水を受けている」などの意見が出ている。いまのところ、県は井川地区の意見をすべて無視したかっこうだ。

 そもそも知事の「静岡県都構想」は掛け声だけで、「二重行政の解消」に取り組むと言うが、実際、全く何もやっていない。「井川地区はほったらかしだ」と言うならば、知事は、一体、何をすべきなのか?

 井川地区では過疎高齢化が進む。そこに住む人たちが何を望んでいるのか?72歳で選挙戦にのぞむならば、知事は同じ高齢者の意見に耳を傾けてみてはいかがか。

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