リニア騒動の真相75流域自治体の「同床異夢」?

国と流域市町との意見交換会は「完全非公開」

冒頭のあいさつのみ公開された会議

 JR東海のリニアトンネル工事を巡り、大井川流域の島田、焼津、藤枝、掛川、袋井、御前崎、牧之原の8市、川根本、吉田の2町の首長らと国交省との意見交換会が21日、島田市役所で開かれた。昨年12月20日に同様の会議を開催、10市町は、問題解決に当たって、地元の理解を得るよう求める要望書を国に提出していた。今回は、その要望にこたえるかたちで、2回目の会議が開かれた。川勝平太知事はリニア会議の「全面公開」を原則としているが、今回の会議は、報道関係者に対しても冒頭あいさつのみ写真撮影が認められただけだった。

 知事が「全面公開」を強く求める国の有識者会議は、報道関係者はもちろんのこと、各市町や利水者団体、県専門部会委員、県議、市町議員ら広い範囲で傍聴できる。終了後に速やかに座長コメントが示され、後日、議事録も公開されている。

21日付中日新聞朝刊

 21日付中日朝刊1面は「流域市町 議事録作らず 国交省と意見交換会 要約のみ発言者なし」という見出しで、会議の”非公開”を批判する記事を会議当日にぶつけた。中日は、昨年12月20日の意見交換会について議事録、音声データ、文字起こししたもののいずれかを情報公開するよう求めた。ところが、開示されたのは、A4判4枚の箇条書きの要約のみで、約1時間半の会議内容にはほど遠かった。ざっくばらんに意見を交わす会議であり、非公開ということだが、議事録まで作らないとなると、”秘密会議”のイメージが強くなり、会議後の囲み取材で話す首長たちが、実際の中身をどこまで明らかにしているのか全くわからないことになる。(タイトル写真は会議後に囲み取材に応じた、右から藤枝、島田、吉田、牧之原の4首長

 ”全面公開”川勝知事と10市町の首長と意見交換会も毎回、首長の要請で非公開である。10市町首長は全員一致でリニア問題の解決を知事一任という姿勢だが、”全面公開”に関して言えば、首長たちは自分たちの都合を優先しているのだから、国の有識者会議に求めることはできないだろう。有識者会議委員のざっくばらんな意見交換のために、国は限定的な全面公開としてきた。「完全非公開」に比べれば、ずっとましである。国に全面公開を求めるならば、首長たちも知事と同じスタンスで臨むべきである。

 22日付の各紙朝刊は、「(工事着工は)住民の理解を得ることが前提」など同じ見出しが並んだ。「住民の理解」とは名ばかりのことがわかる。住民が問題を理解するためには、国交省とどのような話し合いが持たれたのかちゃんと知る必要があるからだ。会議内容が非公開で、各首長らが約20分ほど囲み取材で話しただけで、理解が得られるはずもない。

 中日の開示請求で公開された会議の要約の中に、氏名不詳の首長が「信頼を構築するには、このような会議・議論を積み重ねることが一番ではないか」という意見が登場していた。「信頼の構築」とか「住民の理解」とか、耳障りのよい抽象的なことばばかりが並ぶが、具体的には全く何もわからない。

 また、島田市担当者が「誰の発言かより、流域としての発言内容が大切」と中日記者に答えていたが、”流域”と言っても、それぞれ自治体の事情は全く違うのだ。

「水利権」が各自治体の違いを鮮明にする

 第8回有識者会議で実際に大きな問題となったのは、座長コメントではなく、沖大幹・東大教授(水文学)による厳しい批判だった。この批判の中身については、東洋経済オンラインの記事で紹介する予定だが、沖教授は「(JR東海作成の水循環の概念図で)神座地点では年間19億㎥流れているとされているが、その変動幅は9億㎥である。平均値の5割の変動があり、これは非常に大きい。これは水利権量という人間が使用する方を優先しているので、川に残る流量が減ってしまうということだ」などと述べていた。

 『水利権量』ということばは非常に難しい。この難しい水利権量を調べていけば、流域の事情が全く違うことがはっきりと見えてくる。

 現在、大井川下流域にある中部電力の川口発電所(最大出力58000kw)の最大使用量は毎秒90㎥である。発電を終えて、表流水に還元された水は、川口発電所直下の2つの取水口から広域水道、農業用水、工業用水として毎年約9億㎥が取水されている。これが大井川流域の利水のための「水利権量」となる。リニアトンネル工事によって、10市町は水利権量に影響が及ぶと考えているようだ。

 県が作成した「大井川水系用水現況図」によると、川口取水口から唯一、民間の新東海工業用水(新東海製紙株式会社)が毎秒2㎥と非常に大量に利用する権利を持つ。公共では、島田市上水道が同0・173㎥、東遠工業用水同0・072㎥、大井川農業用水が季節変動で同約14・4㎥から同35・1㎥の水利権量を有している。

 長島ダムが完成したことによって、新たに新川口取水口が設けられ、大井川広域水道は季節変動で同約2㎥の水利権量を持つ。

 毎秒2㎥と言えば、トンネル工事に当たって、JR東海はトンネル内の湧水は、何も対策をしなければ、大井川流量は毎秒2㎥減少すると予測した。

 JR東海の毎秒2㎥減少予測に対して、川勝知事は「62万人の”命の水”が失われるから2㎥の全量を戻せ」と主張した。当初、62万人とは、大井川広域水道を利用する市町の人口62万879人(2016年12月現在)を指していたはず。知事は雑誌中央公論2020年11月号に『国策リニア中央新幹線プロジェクトにもの申す』と題する論文を掲載、「”命の水”と流域県民」という見出しをつけた章で、「流域10市町の62万人が利用しています」と書いている。これはどう考えても、勘違いである。

 大井川広域水道の利用自治体は、島田市、焼津市、掛川市、藤枝市、御前崎市、菊川市、牧之原市の7市で2016年当時約62万人だった。現在では、人口減少に伴い、約60万7千人となっている。この疑問を県水利用課に投げ掛けたところ、地下水利用を含めた2018年度水道統計調査の結果を示して、地下水を揚水する吉田町の上水道人口を含めて62万809人になると教えてくれた。

 ただし、これでも7市1町であり、知事の書いた「10市町」ではない。つまり、袋井市と川根本町は、知事の言う”命の水”とは関係ないことがわかる。袋井市では農業用水を使っているから、9市町の全人口となれば、72万人を超えてしまう。62万人の”命の水”にこだわるならば、8市町である。

 特に、吉田町は上水道をすべて地下水に頼っているから、他の自治体とは全く事情が違う。

県の文章は複雑怪奇だ

 国の有識者会議では、下流域の地下水にはほぼ影響はないという方向性を確認している。県は難波喬司副知事名で国交省の上原淳鉄道局長宛にリニア有識者会議へ今後の議論に関する提案を22日、送付した。

 提出書類の1枚目に鏡があり、(参考)が裏表2ページ、(資料1)が13ページ、(別紙1)が15ページ、(参考資料1)(参考資料2)。どこが肝心の提案なのか非常にわかりにくい構成である。担当理事によると、(参考)が「考察と提案」のポイントであり、それを読めばわかるのだという。

 その中に、「中下流域の地下水の涵養構造」という項目がある。そこには『全体的に、「トンネル湧水量を全量大井川に戻せば中下流域の河川流量は維持される」という内容は、専門家による分析としては理解できる』と書かれていた。「中下流域の地下水の涵養構造」と「中下流域の河川流量は維持される」とがどのようにつながるのか、全く分からない。標題と中身が全く違うのである。日本語の文章としてつながらない。「座長コメント」を批判するのであれば、県は誰が読んでも分かるようにちゃんとこなれた文章にすべきである。

 流域自治体の事情の違いを念頭に読めば、大井川広域水道を利用する7市は「中下流域の河川流量は維持される」に強い関心を持つ。「中下流域の地下水の涵養構造」には吉田町は特に強い関心を示すだろう。

 県の文章は、”流域”全体を意識したために非常にわかりにくくなっているのかもしれない。

 (資料1)と呼ばれる文章には、「4、中下流域の地下水の涵養構造」とあり、「県の考察」として『「中下流域の地下水は上流域の地下水によって直接供給されている可能性は低い」と確認されているが、地下水学的には、「上流域の深層地下水によって…」の方が正確な表現である』と書かれている。

 つまり、「吉田町の地下水」にはあまり影響が及ばないことを県も認めているようだ。とすれば、知事の「62万人の”命の水”」から、吉田町民は外したほうがいい。吉田町長は意見交換会後の囲み取材に臨んでいたが、この事実を理解していたようには思えなかった。

 また、県の考察には「地下水学的」という複雑な地下水の問題を簡単に表現したことばが登場している。今回、県が国に送付した文章は、難波副知事でなければ、理解できないような表現が非常に多い。

 県の文章は有識者会議の事務局宛に送付しているが、これでは有識者会議委員も理解するのに苦労するだろう。14日付『リニア騒動の深層74「座長コメント」撤回する?』に書いたように難波副知事を有識者会議に招請したほうがいい。これほど一方的で難解な文章を公開されても、「流域の住民」は全く理解できない。

大井川の本当の水問題とは何か?

 「水利権」問題で利水とは全く無関係なのが川根本町である。

 大井川は上流部の井川ダム直下の奥泉ダムから、長島ダム、笹間川ダムなどを水路管で結んでいる。表流水のほとんどが水路管を流れている。川根本町のある中流域の河川流量は非常に少ない。県は国に送付した文書で「中下流域の地下水の涵養構造」について「非専門家が理解できるような、よりわかりやすい説明とする必要がある」と書いているが、県は中流域をつなぐ水路管によって河川流量が維持され、また、地下水は涵養されていない事実について全く触れていない。水路管によって、中流域の地下水は表流水に戻っていないはずだ。

 1980年代の「水返せ」運動は、水路管で流れてしまう表流水を大井川に戻せ、という運動だった。大井川は”河原砂漠”となり、生物は生息しない場所となり、茶の栽培に必要な川霧が立たないことで川根筋の多くの住民らが運動に参加、全国的な注目を集めた。

 川根本町の塩郷堰堤からの維持流量をさらに増やしてほしい、と地元の人たちは願う。川口発電所まで運ばれる水路管の大量の水は、いずれ下流域の利水に使われる。少しでも多くの水を河川に戻すことをどう考えるかのか、意見交換会後の囲み取材で4首長に尋ねた。

 結局は、下流域の利水団体の水利権量は絶対に減らさないというのが回答だった。

 川根本町の住民らは「川口発電所のための水路管の末端から大量の上水道、農業用水に直接、取水され、困っていない」現状をちゃんと理解している。だから、中流域の正常流量について議論すべきなのだ。

 沖教授が莫大な「水利権量」を口にしたことで、何が最大の問題か明らかになった。

国交省は河川担当者を出席させるべきだ

 今回の会議の出席者は、上原淳鉄道局長、江口秀二審議官、嘉村徹也中部運輸局長で鉄道担当者ばかりだった。これでは、リニアトンネル工事推進のための説明はできても、大井川の水利権量を巡る状況を語ることはできない。ぜひ、次回の会議には大井川の水利権を説明する中部整備局担当者を出席させるべきだ。そうすれば、リニア静岡問題は解決の方向に近づくはずだ。

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