リニア騒動の真相25「嘘つきは泥棒」だった

県議会でリニアの質問目白押し

 12月6日から12日まで静岡県議会12月定例会代表質問、一般質問が行われている。リニア中央新幹線の南アルプストンネル(静岡工区)着工に関する質問が目白押しだ。各県議会議員とも「水問題」への関心は高く、大井川下流域の水環境問題とリニアトンネル着工をどのように両立させるのか川勝知事の対応に期待する声を数多く聞いた。

代表質問のあと、雑誌静岡人をPRしてくれる廣田直美議員

 特に、6日の代表質問に立った函南町選出の廣田直美議員(ふじのくに県民クラブ)は深刻な渇水問題は他人事でないから、リニアの質問にも力が入っていた。函南町からも支援者が数多く駆け付け、廣田議員の質問に熱心に耳を傾けた。リニア南アルプストンネル掘削による水の影響について、丹那盆地で起きた過去の経験を踏まえ、廣田県議は水を守る大切さを訴えた。函南町民とって渇水は切実な問題と承知しているからだ。雑誌静岡人vol4「JR東海リニア南アルプストンネル計画 なぜ、川勝知事は闘うのか?」特集号では「7つの謎を巡る旅」の4番目「丹那盆地の謎『忘れられていく「渇水の記憶」』」として「函南町民の闘い」を取り上げた。

 約百年前、当時、「世界のトンネル事故のチャンピオン」(「鉄道の歩み80年1872-1952」日本国有鉄道発刊)と評された東海道線丹那トンネル工事は丹那盆地に暮らす人々に「塗炭の苦しみ」を与えた。

世界史に名を残した難工事

東海道線丹那トンネル(丹那神社奉賛会提供)

 1918年丹那トンネル工事がスタート、当時の最先端工法を試みたが、膨大な湧き水、温泉交じりの粘土という苦闘の連続で最初の計画では工期7年、予算770万円だったが、実際には2倍超の16年、3倍超の2600万円もの費用が掛かる世界のトンネル史上に名を残す難関工事となった。3度の大事故が起こり、公式には犠牲者67人とされるが、朝鮮人や女性の犠牲者を含めて112人あるいはそれ以上の犠牲者が出たという研究記録がある。

 そして、犠牲者はトンネル工事作業員だけでなく、トンネルから地上約60mに住む丹那盆地の人々の生活にも及んだ。丹那盆地は豊富な湧水によって、水田、ワサビ栽培、酪農などが営まれていた。ところが、トンネル着工から5年たつと湧水の減少が見られ始めた。丹那トンネルの総延長7841mの2倍、約1万5千mもの水抜きトンネルから膨大な湧き水が流出していたからだ。

 丹那トンネル掘削によって、それまで水を通さない温泉余土を取り除いてしまったため、巨大な貯水池に横穴を開けたように地下水がトンネル内にすべて流出してしまったのだ。流出した水の総量は約6億㎥、芦ノ湖の3杯分に相当したとされる。その渇水被害で丹那盆地のワサビ田は全滅、現金収入の大半を占めた稲作も壊滅状態となってしまった。

 最終的に、渇水被害の補償について鉄道省と交渉に当たったのは、静岡県の田中廣太郎知事(当時)。稲作から酪農中心の農業へ転換せざるを得なくなったが、丹那盆地の農民らの強い要請を受けて田中知事は鉄道省から約200万円という高額な補償を勝ち取っている。

現在の丹那盆地。青々とした水田が広がる

 丹那トンネルは1934年12月1日に開通した。トンネル真上の丹那盆地で起きた「悲劇」は語り伝えていかなければならない。それだけに廣田議員は「いずれ着地点のために政治判断をしなければならないときが来るかもしれないが、川勝知事には丹那盆地の悲劇を踏まえ、納得いくまで水確保を最優先に取り組んでほしい」と述べた。2015年12月、山梨県早川町の南アルプストンネル現場でリニア新幹線全線の初の起工式が行われた。その後、リニア沿線の各県で起工式が行われ、残すは静岡工区のみとなった。川勝知事は丹那盆地の「悲劇」を繰り返さないことを確認した上で、静岡工区の起工式に臨むはずである。

「文化力の拠点」事業に批判の自民改革会議

知事の間口を広げる姿勢に疑問を指摘した坪内秀樹県議

 知事野党で最大会派、自民改革会議からは坪内秀樹議員が6日の代表質問に立った。富士山の豊富な湧水、名水百選の柿田川を抱える清水町・長泉町選出だけに、リニアの水環境問題はやはり他人事ではない。坪内議員は「知事の姿勢は間口を広げていて問題の本質を見えにくくしている。環境省など他省庁への拡大や他県の知事らを突っつくのではなく、国交省主導の三者協議をしっかりとやることで信頼関係をつくってほしい」と注文をつけていた。

 

環境政策論を専門にする鈴木澄美議員

 富士常葉大学で非常勤講師(環境政策論)を務めた鈴木澄美議員(自民改革会議、富士市)は「静岡県の主張する環境保全にともなう水収支の問題は非常に難しい。環境保全をちゃんとやることは重要だが、譲れるところは譲るという落としどころを見つけなければ開発との両立はできない。障害はあるだろうが、リニアに反対しているわけではないのだから、しっかりとやってもらいたい」と話した。自民改革会議の深澤陽一県議(清水区)、佐地茂人県議(駿河区)、良知淳行県議(焼津市)、東堂陽一県議(掛川市)らにも意見を聞いたが、大井川流域の首長のスタンス同様にそれぞれに違いがあっても、水環境問題への取り組みの重要性の認識は一致していた。

 リニアの水環境問題ではなく、東静岡駅南口に計画されている「文化力の拠点」整備事業では川勝知事の姿勢に自民改革会議から厳しい意見が浴びせられている。坪内県議も代表質問で厳しい姿勢で知事に迫った。

名前倒れの「文化力の拠点」施設内容

スタンフォード大学にあるロダン「カレーの市民像」。静岡県立美術館の展示とは全く違う

 静岡経済新聞は2018年12月12日「現場へ行く」のコーナーで『「文化力の拠点」は”スタンフォード式”で』の記事をUPした。「大学コンソーシアム」の拠点を標榜するならば、ロダンコレクションで知られるスタンフォード大学と連携すべきという趣旨の記事を書いた。「文化力の拠点」などと大層な名前を付けるのであれば、AI、IT企業、研究所の集まるシリコンバレーの中心”スタンフォード大学”の力を借りるなど思い切ったことをやるべきだ。それでなければ、「文化力の拠点」という名称そのものが恥ずかしくなるからだ。

 それから1年たち、県議会で「文化力の拠点」事業整備に最大270億円の巨額な費用が掛かり、川勝県政、最大の「箱物事業」となることが明らかになった。2024年度のオープンを目指すらしい。決まっているのは、県立図書館の移転のみだという。これで果たして「文化力の拠点」なのかどうか疑わしい。

磯崎新氏設計のグランシップ

 すぐ隣には、建築家磯崎新氏が設計した「グランシップ」がある。「文化力の拠点」施設は、現在のグランシップ駐車場につくられる。「文化力の拠点」建物に駐車場が整備されるだろうが、来館者は非常に不便を強いられることははっきりとしている。また、従来の県立図書館への来館者は、県立美術館と共同の駐車場を利用していたが、図書館来館者の車が大半を占めていた。東静岡駅南口の「文化力の拠点」に図書館が入るとなれば、グランシップ、図書館の駐車場の確保は本当に万全なのか?

 静岡空港建設への批判が高まっていた時代、NHKの静岡空港特集番組に出演した石川嘉延知事(当時)は「静岡空港の赤字はグランシップの赤字ほどにはならない。想定内でおさまる」と述べた。当時のグランシップの赤字は3億円程度。静岡空港の赤字が果たして想定内だったか?

 磯崎氏による斬新設計のグランシップは開館当初から雨漏りが続き、最近では壁のレンガ剥落で大規模修繕も行われ、管理費用の赤字だけではすまなかった。「文化力の拠点」施設も他の県施設同様に著名な建築家を使うのだろうが、デザイン重視ではなく、使い勝手のよい利用者ファーストを優先すべきである。「文化力の拠点」整備費は明らかになったが、新たな箱物に必要な年間管理費はどのくらい掛かるのか、赤字が大きく膨らむことに懸念はないのか?

 そもそも名前倒れの「文化力の拠点」は必要なのか?施設の内容を含めて、必要性議論をリニア同様に徹底的に行うべきである。

「看過できない」事件が起きた

 「いまのその発言、看過できない」。リニアの水環境問題にかかわる静岡県環境保全連絡会議専門部会でJR東海の発言者に向けて、難波喬司副知事が厳しい指摘を行う前に使う決まり文句である。ことし何度聞いただろうか?

 「嘘つきは泥棒の始まり」。こちらは、川勝知事の記者会見での発言である。三重県のリニア新駅について「90%亀山に決まった」と鈴木英敬知事から聞いたと川勝知事が明らかにしたところ、「事実無根」で「断固抗議」した鈴木知事に対して、逆に、川勝知事は「嘘つきは泥棒の始まりだ」と非難した。詳しい内容は『リニア騒動23鈴木知事「事実無根」の真実』を参照されたい。

 2019年を象徴する川勝知事、難波副知事の非常に個性的な発言に対して、静岡経済新聞は「静岡県リニア問題の流行語大賞」に選んだ。

 この2つの印象的なことばを選んだ理由は、雑誌静岡人vol4を発刊して、その後に起きた事件を象徴するのにふさわしいからだ。まさしく、「看過できない」事件が発生、「嘘つきは泥棒の始まり」どころか、やはり「嘘つきは泥棒」だった。故意に行った犯罪を糊塗するため、組織を守るような新たな「嘘つき」を許すわけにはいかない。

 いまのところ、その内容については公表できないが、このタイトルを見れば、事件にかかわった関係者は理解できるだろう。「嘘つき泥棒」に強い怒りを覚える。絶対に「看過できない」。持つべき「品格」と果たすべき「責任」を問うつもりだ。

 県議会で、難波副知事が「県民に(リニア問題について)直接説明する機会を増やしていく」と述べた。廣田県議をはじめ多くの県議のみなさんに最新刊の雑誌静岡人vol4を購入いただいた。「看過できない」事件とは全く別で、リニア問題は来年も大きなテーマ。「丹那盆地の悲劇」を知らないで、トンネル建設で静岡県民の水を守ることが何かを語ることはできない。雑誌静岡人vol4リニア特集号を多くの方たちに読んでもらい、行政からの情報だけでなく、ちゃんと水環境問題の理解を深めてほしい。

(※『リニア騒動25「嘘つきは泥棒」だった』のタイトルは関係者のみに向けたものです)

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