リニア騒動の真相61「政務」をしない川勝知事!

「政務をしていない」と川勝知事が公言

 10月27日の会見で川勝平太静岡県知事は「わたしは知事になって10年間以上、政務をしていない。行政に関わる仕事をしてきた」などと公言した。この発言にびっくりするどころか、悲しくなり、あんたんたる思いにさせられた。県の財源は限られた地方税や交付税などだが、これでは最低限の事業しかできない。また、国の権限で規制される事業も多いから国の許認可は重要だ。「政務」とは、永田町(自民党本部)、霞が関(官庁街)などとの強いパイプを持ち、国の力を借りて、地域の発展のために尽力することであり、各都道府県知事の大きな役割のひとつである。

 川勝知事は肝心の「政務」を全くしていないのだという。それでは、「(リニアで)国論を巻き起こす」ことはできても、リニア静岡問題が良い方向で決着するはずもない。それどころか、静岡県が抱えるさまざまな諸課題を放っておく宣言に等しいのだ。

 知事発言のきっかけは、”菅首相応援団”とされる「活力ある地方を創る会」代表に鈴木康友浜松市長が就き、沼津市長らも参加していることから知事に参加の誘いがあったのかどうかの質問が出たことだ。ちなみに、各都道府県知事への”菅応援団”参加を呼び掛けるのは、鈴木英敬三重県知事である。(写真は、鈴木知事が菅官房長官当時に「政務」で面会している=三重県HPから

 「誘いがあっても入るべきではない」として、川勝知事は「県民から選ばれ、県民のために仕事をしている。時々の政権のために仕事をするのが私の仕事ではない。地域に密着していく」などと述べていた。

 忘れているかもしれないが、川勝知事は昨年11月、鈴木知事に対して、「嘘つき(は泥棒の始まり)」と非難した。この件は、2019年11月25日『リニア騒動の真相23鈴木知事「事実無根」の真実』で紹介している。

 鈴木知事だけではない。川勝知事は7日の会見で菅首相本人に対しても「(日本学術会議の会員候補任命拒否問題で)菅義偉という人物のレベルが露見した。学問立国である日本に泥を塗った行為」などと厳しく批判した。こちらは、東洋経済オンライン10月22日『川勝知事が追及しない「日本学術会議」選考の謎』で紹介している。

 その後、1千人以上の県民らから苦情や批判が寄せられ、自民県議団が抗議したことに対して、知事は「夜学」は間違いであり、任命拒否についても「事実認識」が不正確だったと謝罪している。

 いくら謝罪があったとしても、鈴木知事が”菅応援団”に川勝知事を誘うはずもなく、菅首相本人もやめてくれと懇願するだろう。

 ところで、釈明会見で使った川勝知事の「事実認識」が不正確だったとは?

知事釈明で、再び、菅首相の教養レベルが問われる

 川勝知事は16日の会見で「任命拒否したのは官房副長官であり、菅首相が6人の学者に否定的意見を下したのではない。任命拒否した者は教養のレベルが問われる。それは菅首相の教養のレベルとは直接、結びつかない」など「事実認識」が違っていたと釈明した。

 ところが、菅首相は28、29日の衆参両院本会議で「(日本学術会議任命問題で)民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りが見られることを踏まえ、多様性が大事という前提にわたしが任命権者として判断した。今回の任命について変更することは考えていない」などと、川勝知事の「事実認識」をこなごなにしてしまった。

菅首相の教養のレベルが問われると発言した川勝知事の会見

 つまり、菅発言で、任命権者は官房副長官でなくなったから、川勝知事の「事実認識」から言えば、「任命拒否した者は教養のレベルが問われる」のは、やはり菅首相本人となってしまう。そもそも、菅首相がこれほど重要な問題ですべてを官房副長官に任せて、盲判(めくらばん)を押すはずもないだろう。官僚らの意見を十分に聞いた上で、首相が自ら責任を持って判断したのは最初から分かっていた。6人の名前など覚えてもいない。あるいは、見てもいないかもしれない。当然、個々の任命拒否理由は聞いているはずだ。ただ、菅首相は人事に関することを説明するはずもない。

 川勝知事はそんなことも分からずに、釈明会見を開いたのだろうか?

 16日の釈明会見で知事は「突然聞かれて発言してそれが物議をかもしたことはあるが、いまここにいる職員を含めて、広く会議を興し万機公論に決すというスタイルでやってきた。したがって、わたしの意見は同時に職員の意見でもある」などと述べているが、県職員は知事の「事実認識」があまりに珍妙な理屈だと承知していたに決まっている。しかし、誰も言い出せないのだ。

 本当に、知事は広く会議を興し万機公論に決すというスタイルなのか?10月24日付『リニア騒動の真相60県民栄誉賞選考の不可解な謎!』に書いた通り、もし、知事が周囲の意見をちゃんと聞く耳があれば、「県民栄誉賞」の在り方そのものが違っていただろう。

 「強い権限、権力を持つ人が間違っていると思ったことは、全身を掛けて、人格を掛けて批判するというスタンスは変わっていない」と釈明会見の終わりでかっこういいことを述べている。知事の「事実認識」に沿えば、「教養のレベルが露見した」のであるから、あらためて菅首相批判をするということになる。本当に、もう一度、菅首相を批判できるのか?

 釈明したのではなく、珍妙な「事実認識」で誤魔化したから、問題は終わりではなくなってしまう。これで、菅首相との対決姿勢がはっきりとしてしまった。かっこういいことを言うのと、心から謝罪するのは全く違うのだ。

医師不足対応で何もできていない

 27日の会見で「大学院大学」の文科省認可を発表、医師不足への対応にもなるとの発言をした。「政務」をしない知事では、医師不足の対応などできるはずもないのだ。どういうことか?

 静岡県はさまざまな問題を抱えるが、最も大きな問題のひとつが医師不足である。静岡県には新設の浜松医大1校しかない。東京には13校、愛知、神奈川両県には4校もある。よく財政規模を比較して、北陸3県と同じと胸を張るが、北陸3県(福井、石川、富山)には4校の医大がある。だから、静岡県の医師不足は深刻な状況であり、根本的な解決は医大新設しか方法はない。

 2009年夏、「県東部地域に医大誘致」を公約に掲げて、川勝知事が初当選したとき、わたしは、ある雑誌に『(医大誘致に向けて)頑張れ、頑張れ!川勝知事』という記事を書いた。当時、ある医科大学病院の財団理事をしていたから、実質的にも応援しようとした。

 医師が偏在する東京都の人口は1250万人で、13の医科大学があり、1600人の新入生がいる。7千人に1人が医学部の新入生がいる計算である。

 北陸3県同様に、医師の数が多いのは山梨県である。川勝知事が最近、連携を強める山梨県は人口70万人で1医科大学、6500人に1人の新入生がいるから、東京都より恵まれている。

 対する静岡県は約370万人の人口に浜松医科大学しかない。新入生は3万2千人に1人、全国平均の約3分の1、山梨県の約5分の1である。これだけを見ても、静岡県の医療環境が貧しく、医師不足を招いていることがわかるだろう。

 だから、静岡県に少なくとも2つの医科大学があって誰も文句を言う筋合いではない。

 この課題こそ、政治家としては当然取り組むべき仕事である。だから、『頑張れ、頑張れ!川勝知事』という記事を書いたのだ。

 静岡県が取り組んでいるのは、月額20万円を貸与、貸与期間の1・5倍期間を県の公的医療機関で働けば、返還免除となる奨学金制度のみである。医学生は6年間で1440万円を受け取ることができ、9年間働けば返還免除となる。当初から、奨学金制度の効果について、大学、医療関係者から疑問の声が出ていた。そもそも大学卒業したばかりの研修医など使いものにならない場合が多く、患者からしてみれば、初めての経験を積んでいく研修医に診てもらうことには抵抗感が強い。

 川勝知事に大きな期待を寄せた。ところが、知事に就任して10年以上たったが、「医科大学」誘致は全く進んでいない。その理由は何か?

京大関係者が多い大学院大学設置のための委員会

 知事は「県民から選ばれ、県民のために仕事をしている」と述べて、大学院大学設置をする。大学院大学設置の基本構想など取材してきたが、中身を見れば、単に京大関係者らのポストをつくるだけのもので、県民の側を向いてはいない。「研究成果を国内外に発信する世界へ羽ばたく、知と人材の集積拠点」など美辞麗句だけを並べているだけの組織である。当然、医師不足に対応できるはずもない。

 「政務」に励まなければ、医科大学の誘致はとうていできない。10年間以上、「政務」をしてこなかったというのだから、県民は裏切られたことになる。いまからでも遅くない。ちゃんと「公約」を思い出して、「政務」に汗を流し、医大新設を目指すべきだ。

千石ヤードのボーリング調査さえ認めないとは!

 静岡県は23日、JR東海が追加でリニア工事に関わるボーリング調査を行うことを発表した。西俣ヤード、椹島ヤードの2カ所でボーリング工事を実施することを県は認めたが、千石ヤードでボーリング調査を行うことは県自然環境保全条例を盾に拒否した。

 県専門部会、国の有識者会議でも畑薙山断層帯での破砕帯を調べるためには、複数の専門家から千石ヤードでのボーリング調査を行う必要性が指摘されていた。西俣ヤード、椹島ヤード同様に、トンネル掘削につながる工事ではない。もっと言えば、静岡県が問題にしている水環境保全のためにも必要がある畑薙山断層帯に関わるボーリング調査を県のほうから拒否したのである。

 ことし7月、ヤード準備工事の際には、トンネル掘削につながるとして県自然環境保全条例を盾に3カ所のヤード準備工事を認めなかった。その際、難波喬司副知事名で、宇野護JR東海副社長に宛てた7月3日付文書には、ヤード工事は認めないが、「地質状況をより詳細に把握するための調査に必要な整地などトンネル掘削工事の一部ではないものについては条例上、特に問題はない」などと記している。つまり、ボーリング調査は条例とは関係なく行うことを認めていた。それなのに、千石ヤードでのボーリング調査は条例を盾に拒否したのだ。

 担当課長に聞くと、「条例の解釈を拡大した」と話した。自然環境保全条例とは、開発行為などによる動植物の貴重種保全が目的であり、今回の千石ヤードでのボーリング調査地域に貴重種は存在しない。県がもっと数多くボーリング調査をやるべきだと何度も言ってきていたのに拒否したのは、川勝知事の判断だろう。

 川勝知事は16日の釈明会見で「基本的に弱いものをいじめないことを原則中の原則としている。しかし、権限を持ったり、権力を持った人に対しては、間違っていると思ったことははっきりと言う」と述べた。最終的には、すべて知事が責任を持って判断することだから、千石ヤードのボーリング調査を認めない判断は、権力の濫用となってしまう。まさに言行不一致である。

 このような判断は、リニア工事計画を進めている沿線の都県から厳しい批判を受けるだけだろう。JR東海と議論して、静岡県にとって良い解決方向を見出すのは、知事の責任である。「政務」とは何かをちゃんとわきまえるべきである。

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