リニア騒動の真相50川勝知事”Dルート”提案か?

なぜ、決まったCルート(南アルプスルート)?

 6日から始まった中日新聞1面「考えるリニア着工 なぜ決まったCルート」の3回にわたる連載企画に本当に驚かされた。「2027年開業は風前のともしびになっているリニア中央新幹線。大井川の水資源問題をはじめ、今日まで解決の糸口が見えない数々の問題を抱えるCルート(南アルプスルート)は、なぜ、どう決まったのか」(前文)が企画意図。6、7日の2回連載はCルート決定までのプロセスを紹介、8日の最終回では、はっきりと「リニア計画の再検討」を求めているのだ。「問題の原点」とは何だったのか?

宇野副社長に詰め寄る諏訪市長(2011年6月、諏訪広域連合HPから)

 リニア計画が本格化した1980年代には、長野県駅を諏訪市、茅野市、岡谷市など6市町村の「諏訪広域連合」地域に設置するBルート(伊那谷ルート)が最有力だった。2008年になって、突然、南アルプスを貫通する直線のCルートが浮上、結局、う回ルートとも呼ばれた「伊那谷ルート」は外されてしまう。その経緯について長野県民ならいざ知らず、静岡県民は全く知らない。第1回「諏訪地域はしご外され」(6日付)写真(2011年6月)は、国の有識者会議、県リニア環境保全連絡会議でなじみの深い宇野護JR東海副社長が「もう決まったことですから」と、当時の諏訪市長らを前に神妙な面持ちで対面している。一方、諏訪市長らの「約束が違うじゃないのか」と激しい剣幕の様子も伝わってくる。(タイトル写真は6日付中日新聞1面連載記事から)

 「JRはわれわれをあおっておいて、連絡はなく、はしごを外した。人が代わっても、われわれは覚えている」。この怒りはただ事ではない。JRの「誠意不足」をいまだに憤る元諏訪市長の談話で、第1回は終わっている。この連載は静岡版のみであり、長野県で読むことはできない。長野県庁の担当課に連絡すると、すでに中日連載を承知していて、第1回をネットで読んだとのことだった。

 中日は、静岡県民に過去の出来事からJR東海の「誠意不足」を警告したかったのだろうか?

リニアは「陸のコンコルド」か?

 第2回「結論ありき審議足りず」(7日付)は国の交通政策審議会が環境への影響をほとんど顧みることなく、JR東海の思惑通りにCルートを決めた状況を明らかにした。第3回「単体の収支見通しなく」(8日付)では、3兆円の財投を決めた財政制度等審議会への批判やリニア反対論者の橋山禮次郎アラバマ大学名誉教授のインタビューで構成、過去の労力や投資を惜しんで、事業を進めると損失は拡大することを訴えた。

日経ビジネスのリニア特集

 日経ビジネス2018年8月20日号の大特集『リニア新幹線 夢か、悪夢か』を彷彿させる連載企画だった。その特集にも橋山教授は登場、リニアを「陸のコンコルド(スピードばかり追求したが、赤字続きで事故を起こして失敗)」にたとえた。中日インタビューでは、コロナ禍での新幹線需要落ち込み、財政指標の悪化を踏まえ、やはり「このまま進めばリニアは陸のコンコルドになる」と語る。2027年開業延期必至のいまこそ、計画再検討を求めているのだ。

 リニア計画再検討を求める連載の背景には、水環境問題で議論が続く静岡県との交渉の長期化が避けられないことがある。国の有識者会議で議論が続く水環境問題に加え、生物多様性の議論が始まれば、地下水位の低下などが大きな問題となり、いつまで続くのか見通せない。そのような状況の中で、JR東海に解決策がないならば、長野県全体で推進していたBルート(伊那谷ルート)のほうが良かったのではないかという意図が中日連載に見えてくる。静岡県では「ルート変更」が過去のことではないからだ。

 川勝平太知事は7月10日、国交省の藤田耕三事務次官との対談で、鈴木敏夫川根本町長「流域市町でもルート変更を1つの案としてはどうかとの意見もある」発言や県議会くらし・環境委員会で自民所属県議の「これだけもめるのならばルート変更したらどうか」発言を紹介した。当然、藤田次官はCルート決定までの長い議論を踏まえ、「ルート変更」は問題外であることを知事との対談で説明、その後の記者会見では語気強く、「ルート変更」を否定した。

 果たして、「ルート変更」は本当にできないのか?

経済優先で選ばれたCルート(南アルプス貫通ルート)

JR東海パンフレットも2006年までは伊那谷ルートのみだった(諏訪広域連合HPから)

 1979年、9都府県で設立したリニア中央新幹線建設促進期成同盟会設立当時は、糸魚川静岡構造線、中央構造線が通る”世界最大級の断層地帯”南アルプスを通過するルートは技術的に困難とされた。このため「伊那谷(Bルート)」か「木曽谷(Aルート)」のどちらかが本命視された。1989年、長野県知事は「伊那谷ルート」誘致を正式に表明した。沿線9都府県「期成同盟会」も伊那谷ルートを採択すると、諏訪地域はリニア誘致がほぼ決まりと考え、20年近くさまざまなリニア誘致への取り組みを展開した。2006年まではJR東海のパンフレットでも伊那谷ルートのみが示されていたという。

 ところが、JR東海は2008年10月、1990年から行ってきたとされる「地形・地質調査」報告で、「南アルプスにおける土被り(地表からトンネルまでの深さ)の大きい長大トンネルの施工について、ボーリングなどの調査結果とトンネル専門家による委員会の見解を踏まえ、可能であると判断した」と公表、この報告を受けて、南アルプスを貫通する直線の「Cルート」が新たに加えられた。

 2010年2月、交通政策審議会が諮問を受けて、ルート選考の議論に入り、翌年の2011年5月Cルートを選択、国交相に答申した。JR東海の試算で、CルートはBルートに比べ、7分短縮され、建設費6300億円減、毎年の維持運営費190億円減、設備更新費100億円減、年間の収入では9千億円増という「費用対効果」で圧倒的な優位に立ち、判断材料となった。長野県では「20年以上リニア応援団としてのこれまでの努力は何か」「時間差はわずか7分ではないか」「工事費などの積算根拠が分からない」など不満が続出したが、最後は山梨県駅とのアクセス道路を充実することなどを条件に矛を収めるしかなかった。

 中日連載第1回で紹介されたように、諏訪地域にJR東海への不満が残っていることは確かだが、現在でも長野県で「ルート変更」を望む声が大きいのか?

「長野県がルート変更を求めることはない」

赤が工事実施中、黄色は未着手

 長野県は、リニア工事の進み具合を概略図などで公表している。7月現在、長野県内52・9㌔のうち、86・8%に当たる45・9㌔区間の工事契約が済んでいる。静岡工区とつながる南アルプス長野工区8・4㌔は鹿島、飛島、フジタのJVによって、2017年4月から工事に入り、昨年8月からは先進坑の掘削も始まっている。飯田市に設置される長野県駅など未着工区間もあり、7月豪雨による土砂崩れや大鹿村だけでも約300万㎥と言われる膨大な残土処理など未解決の問題は山積のようだがー。

 7月16日には、リニア中央新幹線建設促進長野県協議会(会長・長野県知事)が開かれ、「長野県内の工区においては、当初の計画通りに着実に進めていくこと」を決議した。静岡県内で「ルート変更」議論が出ていることに対して、「長野県がルート変更を求めることはない」と担当者は否定した。

 いまだにJR東海の「誠意不足」を忘れない6市町村で構成する諏訪広域連合。事務局を務める諏訪市担当者は「いまさら、こちらからルート変更を求めることはない。この地域の期成同盟会も長野県協議会に参加しており、現在のルートで2027年開業を求めている」と話した。山梨県駅とのアクセス道路計画も進んでいる。もし、ルート変更となれば、さらに開業が10年近く延びることになる。リニア開業が長野県全体に大きな恩恵をもたらすとされるだけに、諏訪地域でも1日でも早い開業を望む声が大きいようだ。

 川勝知事は、伊那谷でも木曽谷でもなく、諏訪よりももっと北に位置する松本空港まで延伸する”独自”の「ルート変更」を口にしていた。長野県駅が設置される飯田市の関係者は「川勝知事は、”Dルート”を考えているのかもしれない」と教えてくれた。

 えっ、”Dルート”とは?

”Dルート”ならばすべての問題は解決する?

緑の線が”Dルート”。これで問題解決だ!

 ”Dルート”とは、山梨県駅から南下して、静岡県に入り、新東名付近の内陸部を通過、長野、岐阜県を飛ばして、名古屋に至るルートである。静岡県駅は、静岡市北部あるいは川根本町に設置されれば、最難関工事となる南アルプスの断層地帯を通過することはなくなる。当然、大井川は鉄橋で越えるから、水環境に影響を及ぼすこともない。南アルプスエコパークを通過しないから、現在、国の有識者会議、県の専門部会で議論している問題すべてが関係なくなる。新東名に近ければ、新たなアクセスポイントになり、また、南海トラフ地震の影響も非常に少なく、新幹線のバイパス機能を果たすことは間違いない。

 長野県が「ルート変更」を求めていないのだから、鈴木川根本町長が「流域市町でもルート変更が1つの案」とした発言にも納得がいく。”Dルート”ならば、大井川の水環境に全く影響もなく、地域振興が図れるのである。当然、流域10市町はこぞって大賛成だろう。

 そうか、川勝知事が沿線9都府県「期成同盟会」への入会を求めているのも、静岡県のリニア新駅設置を目指そうとしているのか?いつもながら、”川勝戦略”には驚かされる。

 前回の『リニア騒動の真相49「科学者たちの無責任」?』で書いたが、1979年のリニア「期成同盟会」設置当時は、いつ起きてもおかしくないとされた「東海地震」説で静岡県は大揺れだった。リニア計画に参加できる状況ではなかったのだ。冷静に考えれば、環境問題だけでなく、”Dルート”のほうが、JR東海の経済的負担も少なくて済むだろう。しかし、いくら最善策だとしても、これだけ事業が進んでいるとき、”Dルート”提案にやすやすと乗ることはできないだろう。

 「事業の継続が損失の拡大につながると気付いても、過去の労力や投資、時間を惜しんで立ち止まれない状態を(中略)コンコルド効果と呼ぶ」(8日中日連載の結論)。

 中日の主張通りならば、”Dルート”選択はいまからでも遅くない。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *