リニア騒動の真相62JRが”重大事実”を隠ぺい?

事実を歪曲したリニア差し止め訴訟

リニア静岡工区の工事差し止め訴訟提起後の記者会見

  10月30日、大井川流域の市民団体らがJR東海を相手取って、南アルプスリニアトンネルの静岡工区工事の差し止め訴訟を静岡地裁に提起した。請求原因は、8月13日付で難波喬司副知事名で国交省鉄道局長宛に送った、リニア工事によって毎秒2㎥の湧水減少を試算したJR東海への疑問を記した文書を基にほとんど静岡県の主張に沿っている。国の有識者会議での議論は訴状には反映されていない。

 驚いたのは、訴状の中で静岡新聞報道を挙げて、JR東海が国の有識者会議にも県専門部会にも報告しないで、ある”重大事実”を隠ぺいしていたなどとと指摘していたことだ。

 なぜ、驚いたのか、その部分をそのまま紹介する。「9月10日の静岡新聞(朝刊)によれば、かねて専門家が指摘してきた大井川直下の褶曲地層に大量の水が貯留していることを2013年の段階で知りながら、その事実を(国の)有識者者会議にも(県環境保全)連絡会議にも報告せず、隠ぺいしていたことが明らかになった。このことは、被告(金子慎JR東海社長)の不誠実さをいっそう際立たせるばかりか、静岡県内工区のトンネル工事に伴う湧水量が従前言われてきた量をはかるかに上回ることが確実となることを意味するものである」と記されていたのだ。

 何も事情を知らない裁判官が読めば、JR東海が”重大事実”を隠ぺいしたと、そのまま信じてしまうだろう。また、メディアは『訴状によると、JRが”重大事実”を隠ぺいしたことが分かった』と報道してしまうかもしれない。

 民事訴訟では、原告側の主張が事実に則さず、偽りだったとしても、そのまま訴状に記されることがあるのだろう。しかし、今回の場合、いくら何でも、担当弁護士の勉強不足だけでは許されない。新聞を読めば、すぐに虚偽だとわかるから、これほど事実を歪曲してしまうと、訴えそのものの信頼性が失われてしまう。

 静岡県の主張に沿った請求原因を含め、また、事実の歪曲を見れば、今回の訴状があまりにいい加減につくられたことがはっきりと分かる。

 9月10日付静岡新聞1面トップ記事は、『JR東海が”重大事実”を隠ぺいした』ような報道ではないが、スクープを装った衝撃的な記事が一人歩きして、いろいろなところに大きな影響を及ぼしている。ほとんどの読者は新聞記事を事実と鵜呑みにしてしまう。これほど危険なことはない。

 静岡新聞記事に対する批判は、東洋経済オンラインで10月2日付『静岡リニア「JR非公表資料」リークしたのは誰だ』、11月5日付『JR東海と県の対立をあおる「静岡新聞」への疑問』で紹介しているから、お読みでない方はこちらを併せてご覧ください。

新聞を読めば「虚偽」だと分かるのだが 

 もう一度、9月10日付静岡新聞に何が書かれていたか、確認してみよう。

9月10日付静岡新聞1面トップ記事

 前文で『大井川直下でトンネルを掘削する際の施工上の留意点として「涵養された地下水が大量に存在している可能性があり、高圧大量湧水の発生が懸念される」と記されたJR東海の非公表資料が存在することが、9日までに分かった。JRが委託した地質調査会社が2013年に作成した。資料には事前のボーリング調査で「大量湧水が発生している」との記載もある』とJRの非公表資料を入手して、「大量湧水の懸念」をまるで隠していたと記している。

 本文、解説では、「高圧大量湧水の発生の有無は、掘削作業に当たる作業員の安全確保の判断に影響する。資料の記載に基づけば、大井川直下は山梨県側から掘削する必要があり、その場合、大井川の水が山梨の富士川水系に想定以上に流出する懸念がある」、「非公表資料に記された地質状況が大井川直下に存在すると明確になれば、作業員の安全確保の観点から工区が見直される可能性が高い」など仮定の話を続けている。

 結論的に「着工前に大井川直下の地質を重点的に調べるボーリングの追加調査は必須と言える」と注文をつけた。

 記事のどこを読んでも、訴状にある「かねて専門家が指摘してきた大井川直下の褶曲地層に大量の水が貯留していることを2013年の段階で知りながら、その事実を(国の)有識者者会議にも(県環境保全)連絡会議にも報告せず、隠ぺいしていた」とは書かれていない。

 静岡新聞は翌日の9月11日付で「非公表資料」は、2018年10月下旬、「毎秒2トン」減少の根拠を示す資料としてJRが県に貸し出したもので、大量の基礎データ資料の中に含まれている、県の関係者(連絡会議委員ら)のみに閲覧が限られていた、と説明している。これを読めば、県連絡会議に資料を提供していたことが簡単にわかる。

 また、難波副知事は、2018年11月21日の会議で、静岡新聞が「非公表」とした断面図のコメントがホワイトボートに掲示され、一般公開されていたと明言している。「有識者会議や連絡会議」どころか、一般の人たちも見ていたのだ。

 30日に訴訟を提起する前の27日、国交省で有識者会議が開かれ、「大井川直下の断層」が議論されている。資料もちゃんと委員らに配布、JRが詳しく説明した。27日時点で有識者会議委員たちも資料をちゃんと読んでいた。「有識者会議にも連絡会議にも報告せず、隠ぺいしていた」は全くの虚偽となってしまう。

「大量湧水の懸念」も可能性は小さい

27日の有識者会議(国交省提供)

 27日の有識者会議で、JR東海は大井川直下の断層についての資料を配布した。その一部が、タイトル写真の断面図である。静岡新聞が「非公表資料」とした報道したものである。ほぼ真ん中に赤のだ円があり、コメントは赤枠で囲んである。この赤枠のコメントのみを写真撮影して、静岡新聞は「非公表資料」と報道、1面トップ記事に仕立ててしまった。

 コメントには『ボーリング(B-45)では粘板岩の同一層準で大量湧水が発生している。背後に東俣の流域があり、東俣に沿う断層も分布する。東俣から涵養された地下水が大量に賦存している可能性があり、高圧大量湧水の発生が懸念される』と小さな字で書かれていた。

 このコメントにある「大量湧水の懸念」を引用して、静岡新聞は重大な問題として大きく取り上げた。

 断面図の「コメント」はタイトル写真にあるだけでも4カ所にあり、実際には断面図はもっとずっと大きく、数多くの「コメント」が注釈としてつけられていた。とりあえず、左隣にあるコメントも読んでみよう。

 『畑薙断層とその影響圏。破砕質地山であり、断層付近は粘土混じりの角礫帯が主体をなすと考えられる。全区間にわたって切羽崩壊の発生が懸念される。特に断層主部では塑性地圧の発生する可能性が高い。また大量湧水の発生が懸念される。特に終点側の砂岩粘板岩互層は要注意』

 ここにも「大量湧水の発生が懸念」と書いてある。これで分かるのは、地質調査会社は地質図や地形判読、現地踏査などで断層を見て、すべての可能性を指摘していたことだ。それが地質調査会社の仕事であり、その成果物は専門家によって分析・議論が行われていない生の基礎データでしかない。

 JRは専門家らの意見を聞いて、分析し、この断層を問題にするのかどうかを秤に掛けている。その結果を有識者会議で説明したのだ。

 JRはボーリング調査の結果などを写真で示した上で、幅3m程度の小規模な破砕質な区間を確認したが、湧水量はわずかであり、特にトラブルなく掘削できた、としている。これらの結果から、JRは「大井川直下の断層について大量湧水の可能性は小さい」と判断した。有識者会議委員たちから異論、反論はなく、そのまま結論となった。

 実際には掘ってみて判明するのだが、静岡新聞報道「大井川直下の大量湧水の懸念」は「虚偽」となる疑いが強い。そのような記事に踊らされて、リニア工事差止訴訟に使ってしまったのだ。川勝平太静岡県知事は、リニア工事差止訴訟原告団に「一歩もひくな」「しっかりと頑張れ」と言っているが、事実をちゃんと踏まえたほうがいい。

『川勝知事「JRは傲慢」』と報道した毎日新聞

 11月10日の知事会見では27日の有識者会議について、川勝知事の見解を求めた。

11月11日付毎日新聞

 毎日新聞の11日付朝刊トップ記事は『環境アセス 知事「JRは傲慢」 資料開示不十分と指摘』の大見出しで、「JR東海は環境影響評価がすべて終わっているという非常に傲慢な態度」「国土交通省の有識者会議で資料を要求しないと出てこない状況で、資料が十分に開示されていない」などの批判的な発言を紹介している。この記事からは、知事は有識者会議について、ちゃんと報告を受けていないことが明らかである。知事の批判はいつものパータンで全く同じだから、報告を受けても、理解していないのかもしれない。

 もうひとつ。毎日の記者が有識者会議の議論をちゃんと理解できていないのも確かである。前提となる「河川流量は維持されれば」について、『川勝知事は「流量が常に一定ではないことを知っている先生がいる。コメントを出せば、中下流域に影響がないかのごとく受け取られるが、理論的な枠組みでしかないにもかかわらず、影響のないことだけが結論として出てくることに疑問を持っている(委員がいる)との報告を受けている」と反論した。』と知事の主張をそのままに書いている。科学(学問)はあくまでも「理論的な枠組み」であり、それ以上でもそれ以下でもない。出席していた委員はそれぞれの知見に基づいて、すべて理解した上で結論を出している。

 11日付静岡新聞は1面準トップ『流域の不安解消 ほど遠く 非公開協議で方向性 運営に問題』の見出し記事で、国交省への不満を述べている。これでは、有識者会議委員への冒とくであり、「流域の不安解消」を妨げているのは、新聞そのものである。

 一般の人たちが、タイトル写真の断面図を見ても、全く理解できないだろう。「非公開」が問題ではなく、JRへの批判を続けたいだけである。だから、川勝知事の発言を疑問なくそのままに掲載するのだ。新聞は新聞としての役割を捨ててしまったのだろう。

 JRが地質調査会議の生の基礎データを分析、議論して評価していく作業を行うように、新聞記者は「権威」の発言に対して、疑問を抱き、その矛盾を突いていくのが仕事である。川勝知事の発言は、批判のための批判でしかないから、数多くの矛盾点が見られる。

 東京在住のフリー記者が知事会見で質問をさせてもらいたいと要望してきたため、わたしも共同で県政記者クラブに申し込んだ。ところが、記者クラブはこの申し込みを拒否した。県庁の中に無料で記者クラブスペースを間借りしているのだが、形の上だけ主催という「知事会見」でクラブ員以外には質問させない理由は何だろうか?

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