リニア騒動の真相40「川勝劇場」の正当性探る?

なぜ、川勝知事は”爆発”したのか? 

 『恥を知れ、と言いたい』

5月31日付毎日新聞「知事と国交省に亀裂」の写真。左は水嶋智鉄道局長

 あまりに強烈なひと言だった。静岡県の川勝平太知事が国交省の水嶋智鉄道局長を名指しした批判である。その他にも「folly(愚か者)、(水嶋局長は)猛省しなければならない」「(水嶋局長は)会議の運営が拙劣である。マネジメントの不誠実さが現れている」「(JR東海の)金子(慎)社長を(有識者)会議に呼んだのだから、責任を取るのは会議を指揮した水嶋局長ではないか」「金子社長の発言を許したのは水嶋局長、金子社長を(有識者会議に)呼んで謝罪、撤回させるのが筋だ」「(水嶋局長は)金子社長にすべて責任転嫁させている。水嶋局長は要するに筋を曲げている、約束を守らない、やる気がない」などなど。水嶋局長へのさまざまな不満、批判が続いた。なかでも川勝知事のボルテージが最高潮に達した「あきれ果てる運営で、恥を知れ、と言いたい」が極め付けだろう。

 27日午後、静岡県庁別館の知事会見場へ足を踏み入れると、テレビ、新聞のカメラがいつもより多いのに驚いた。田辺信宏静岡市長、鈴木英敬三重県知事らに厳しい批判を繰り返した「川勝劇場」幕開けを期待していることがはっきりとしていた。

27日知事会見の取材陣

 22日川勝知事が国交省主催の有識者会議について、「会議の透明性」「JR東海への指導」について申し入れを送ったのに対して、26日水嶋局長の回答が寄せられた。いずれも川勝知事の求めを退けた。ゼロ回答に対して、川勝知事コメントは「甚だ遺憾。もはや鉄道局とは話にならない。国交大臣に直接意見を述べたい」など”爆発”寸前だった。そのコメントを読めば、各社の記者たちは、恒例の「川勝劇場(激情?)」が始まるのが必至と見たのだろう。多数のカメラの中、まさにその通りとなってしまった。

 さて、極め付けの『恥を知れ』である。水嶋局長の「恥ずべきこと」とは何か?川勝知事の批判は、主に1「会議の全面公開」、2「会議の運営」について静岡県の求めに応じなかったことにある。

 本当に、水嶋局長は恥じなければならないのか?

水嶋局長批判は「筋が通らない」

 水嶋局長は官僚であり、政治家ではない。当然、会議の運営について個人の裁量ではなく、国交省の判断基準に縛られている。法律や規則に沿って会議を運営しているはずだ。

第2回有識者会議(国交省提供)

 国交省でもすべての会議は原則的に全面公開であるが、1機密性など 2個人情報などに関わるものの他に、3「率直な意見の交換若しくは意見決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある場合」などでも会議を非公開とすることはできる。静岡県の求める「全面公開、透明性の確保」について、水嶋局長は、報道関係者の傍聴、会議後の記者ブリーフィング、議事録の速やかな公表で確保しているという。

 さらに、静岡県の求めに応じて、オブザーバーとして静岡県、大井川流域の8市2町のほか、新たに大井川利水関係者を加えた。また、沿線のリニア反対運動などを念頭に、有識者会議の各委員から、生配信での発言の取り扱われ方等に懸念が示されており、「限定的な全面公開」は委員の意向でもある。つまり、委員らの「率直な意見の交換」のために報道関係者らの傍聴に限るのは、水嶋局長個人ではなく、国交省の判断基準に沿ったものである。

5月30日付中日新聞

 静岡県の求める「全面公開」が公益上の必要性を認められるのかどうかは、最終的には赤羽一嘉国交大臣の行政的な判断に任せられる。26日付川勝知事コメント「国交大臣に直接意見を述べたい」。つまり、上位者の大臣に直訴したいのだろう。優秀な官僚であろう水嶋局長がこれほどこじれている問題をなおざりにするはずもなく、赤羽大臣の判断を仰いだ上で川勝知事に26日回答したと読むのがふつう。だから、よほどのことがない限り、国交省はこれを変えない。公務員であれば、誰もが承知する”常識”を静岡県担当者はなぜ、知事に説明しなかったのか?まさか27日記者会見で再び、川勝知事から「赤羽大臣」の名前が出るとは思いもしなかった。

 また、静岡県の会議の公開基準も国交省とほぼ同じであり、1機密性など、2個人情報などのほかに、3「公開することにより、公正かつ円滑な議事運営に著しい支障が生じることが明らかに予想される場合」という曖昧な規定で非公開を容認している。これが国交省の「率直な意見の交換」などに当たる。つまり、静岡県もすべての会議情報を「全面公開」しているわけではない。

 静岡県との約束は「全面公開」だが、具体的な会議運営を進める中で、特に委員の意向を無視するわけにはいかない。そんな事情は静岡県でも同じだろう。ああ、そう言えば、静岡県が「非公開」にした「リニア関連会議」があった。

 当然、その会議でも「率直な意見の交換」があったはずだが、会議の核心はいまでも「非公開」のままである。

10市町長は「川勝知事一任」を決めたはずだ?

1月20日県庁で開かれたリニア関連会議

 ことし1月20日、「川勝知事と大井川流域10市町首長とのリニア関連意見交換会」が静岡県庁別館で開かれた。14日にもらった通知では、非公開となっていたので、「川勝知事はリニア関連会議はすべて公開と言っていた」と担当課に話した。16日の修正で「知事あいさつ」まで公開とし、会議終了後に難波喬司副知事、染谷絹代島田市長が囲み取材に応じるとのことだった。「率直な意見の交換」の場であり、「非公開」はやむを得ないのかもしれない。

 事務局の島田市に「議事録」公開を求めたが、静岡県、関係市町との調整があるので、しばらく待てとの連絡。1カ月以上過ぎた3月11日になって、ようやく手続き終了の連絡をもらった。開示費用を支払った文書は、調整が繰り返され、「議事録」と呼べるものに程遠かった。「鉄道局はリニア推進の立場であり、公平・公正な調整役ではない。国の新しい有識者会議のメンバーを公平・公正にするために、県からメンバーを入れる必要がある」、「全量回復と水質保全を大前提とした上で、JR東海の責任において、不測の事態に対し恒久的な対策を行う確約がない限り、基本協定の締結は認められない」、「想定外の事態(地下水の枯渇)に対し、誰も責任を取り続けることができない。JR東海は100年、200年、300年、400年と責任を取り続けてくれない」などが首長の意見だが、すべて匿名扱い。

 昨年12月、雑誌『静岡人vol4リニア南アルプストンネル 川勝知事はなぜ、「闘う」のか?』を発刊したあと、雑誌寄贈を兼ねて、10市町長に取材を申し込んだ。5市町長は受けてくれたが、日程調整を含めて残りの市長との面会はかなわなかった。藤枝市担当者は「北村正平市長はリニアに関しては知事と全く同じ考え。そう書いてくれて構わない」と回答した。

 つまり、1月20日の会議は、リニア問題についてJR東海、国交省からいろいろ働き掛けがあるが、10市町長の「川勝知事一任」を決めるのが趣旨だったという。

 政治家の会議でもあり、「非公開」はある意味、理解できる。ただ、川勝知事はすべてのリニア関連会議を「公開」と決めて、国交省に厳しい意見で求めるならば、まずは、「隗より始めよ」の格言を思い出してほしい。情報公開されたあの程度の意見が交わされたのであれば、「非公開」にする理由は全くないからだ。

知事の現地視察は時期尚早である

5月30日付中日新聞

 27日午前、金子社長の謝罪文が静岡県に届けられた。川勝知事は金子社長に「公の場で謝罪、撤回する必要がある」と述べ、金子社長は29日の会見で静岡県から抗議を受けた自身の発言を謝罪、撤回した。さらに、流域の10市町長に「謝罪」の手紙を送る旨も明らかにした。これで川勝知事が水嶋局長に『恥を知れ』と批判した問題は解決した。

 26日の川勝知事コメントは、「面会等についてはJR東海の社長発言等を見守ったうえで改めて関係者と調整したい」としていたが、27日金子社長「謝罪」の手紙を受け取ると、川勝知事は会見で突然、現地視察をした上で金子社長と面会するのかどうか判断すると述べた。

 早期の面会を要請した金子社長の手紙(20日付)について、川勝知事は静岡市と約束した三峰バイパストンネル(仮称)について、その後どうなっているのか、完成見通しをはっきりと表明せよ、リニアトンネルの作業道となる静岡市東俣林道の安全確保を放置したまま「(面会の)お願い」は筋違いなどとする手紙(22日付)を送っている。知事の手紙に対して、27日付金子社長「謝罪の手紙」は、トンネルについては「間もなく、静岡市と施工協定を締結した上で、工事発注を行う予定」、東俣林道は「12月に工事を開始した、作業員の安全については林道が完成するまでの間にしっかりと確保する」など説明されていた。

 会見で川勝知事は「私は(トンネルや林道工事は)なさっていないのではとの認識だったので、実際にどのくらい進んでいるのか見に行きたい。6月中下旬にでも現場を見て判断したい」などと発言、降って沸いたような現地視察が決まったのである。

 静岡市に確認すると、三峰バイパストンネルは金子社長の手紙通り、施工協定締結前なので、昨年6月の知事視察と現地の状況は全く同じとのこと。東俣林道の改良工事については、12月から沼平ゲートから1・5キロ区間の舗装工事に入ったが、作業のできない1、2月期の冬期間を挟み、現在、付帯の排水構築物などの埋め込み工事を行っている。舗装工事にまだ入っていないようだ。つまり、トンネルも林道工事も現地の状況は見た目では昨年とほぼ同じ状況である。昨年10月の台風19号の被害を受けた、林道崩落区間に仮設道路を設置するなど静岡市の災害復旧工事視察は知事の任ではないだろう。

 現在の状況を知りたいのであれば、多忙を極める知事が現地に出向くまでもなく、担当者が早期に現地に入り、Webを使い、その状況を詳細に知事に報告すれば済む。その上で判断すればいい。

 今回の「川勝劇場」では、新たなハードルをつくり、肝心の「議論」を遠ざけているとしか見えない。これでは周囲が不信感を抱くだろう。金子社長から、ちゃんとした「謝罪」を受けたのだから、トップ同士の「議論」を早急に持つべきである。大井川流域10市町長は「川勝知事一任」でまとまっているはずだ。

 「科学的、工学的な議論」は県委員を交えた国の有識者会議に任せ、「政治的な議論」の場となる川勝、金子トップ会談スタートを周囲は期待している。当然、これは「公開」でやってほしいがー。

※タイトル写真は「川勝劇場(激情?)」となった27日の知事会見

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