川勝知事「舌禍事件」ー大山鳴動”鼠”一匹?

20秒間頭を下げて、それで終わりか?

 「大山鳴動して鼠一匹」(前触れの騒ぎばかりが大きくて、実際の結果の小さいことのたとえ=三省堂、スーパー大辞林)。これは表面的なことで水面下で何が起きているのかは、メディアが紹介していないから、当然、県民は承知していない。

 参院静岡補選で野党候補の山崎真之輔氏の地元浜松市へ、応援演説に駆け付けた川勝平太静岡県知事は10月23日、自民公認候補の若林洋平・元御殿場市長の好物を念頭に「御殿場にはコシヒカリしなかない」など発言した。

 人口80万人の浜松と8万人の御殿場を比較したことで、産業、経済などすべての面で浜松(山崎候補)が御殿場(若林候補)に勝っているという訳の分からない”差別発言”に終始した。特に、若林候補の好物だという御殿場コシヒカリをやり玉に挙げ、選挙後になってから「御殿場にはコシヒカリしかない」発言にネットの批判に火がつき、御殿場市民らの怒りを買ってしまう。自民、公明県議団は抗議文を提出したから、新聞、テレビは連日、大騒ぎをした。

 火に油を注いだのは、知事が9日に行った会見で、「選挙中の論戦であり、若林・元御殿場市長に向けた難詰だった。演説が切り取られ、誤解を生んだ。誤解を解いておきたい。誤解を生んだ私に責任がある」などの言い訳に終始、ひと言も明確な謝罪の言葉を述べなかったことだ。間が悪いことに、当選した山崎氏の不倫問題を写真週刊誌フライデーに暴露され、知事に不倫報道の質問が出ると、「(山崎氏の)不祥事は残念至極。もう応援することはない」と述べる場面もあった。

 応援演説で、コロナワクチンの接種率に触れて、若林市長時代には、浜松市に比べてが接種率が極端に低いと批判した上で、現在の御殿場市長は、わたしが厳しく言ったので(接種率が)上がってきたなど「上から目線」満載の知事発言もあった。御殿場市長が知事会見に不快感を示すのは当然であり、「謝罪の言葉がないのは残念」などと述べた。

 川勝氏はすぐに御殿場市へ駆け付け、直接、市長らに謝罪を述べたあと、12日の会見で頭を20秒ほど下げ続けて、県民に向けて深く謝罪をした。=タイトル写真=(※プライドの高い知事の腹の中までは分からないが、これまで通り、新聞、テレビのカメラに対して頭を下げているだけで「謝罪」の気持ちなどさらさらないだろう。頭を下げるのは、知事職を続けていくための「通過儀礼」と思っているに違いない)。知事の思惑通り、「通過儀礼」による謝罪で幕引きとなり、メディア報道を通して、大揺れに揺れた「コシヒカリ」発言の騒動は表面的には終わりとなるだろう。

 県議会最大会派の自民県議団が、公明県議団などを巻き込んで知事の不信任案提出への動きを強めていると、新聞、テレビは、「コシヒカリ」発言に大きな”第2波”が起きると伝えた。全県議67人のうち、4分の3以上に当たる51人が賛成に回れば、不信任案が可決されるなどと大きく報じている。メディアがどんな報道するのも自由だが、実際には、これは、単なる表面的な駆け引きに過ぎないから、新聞、テレビ報道だけでは県民は理解できない。つまり、自民県議団が知事の不信任案決議提出など出来るはずもないし、するつもりもないからである。

 何よりも、このことを一番承知しているのは、記者会見で頭を下げた川勝知事である。

自民県議団の政治的な”勝利”とは?

 「大山鳴動”鼠”一匹」は、過去の事例を見れば、すぐに分かる。

 2019年12月に、知事肝煎りの「文化力の拠点」事業に強硬に反対する自民県議団を念頭に「事業を反対する人は県議の資格はない」「やくざの集団」「ごろつき」などと他会派の議員を前で暴言を吐いた。

 この騒動は、同年12月20日付静岡新聞『「文化力の拠点」巡り 知事「ごろつき」自民念頭に批判』の1段見出しの小さな記事から始まった。だから、知事は当初、大騒動にならないと考えていたのも、今回と同じである。

2019年12月20日付静岡新聞

 記事全文は『川勝平太知事は19日、来年度の予算要望に訪れた公明党県議団と共産党県議との面談で、県がJR東静岡駅南口の県有地に整備する「文化力の拠点」を巡り、県議会最大会派自民改革会議が計画見直しを求めていることについて「反対する理由は川勝が嫌いだというだけ」と述べ、強く批判した。

 知事は「やくざの集団、ごろつき」などと自民を念頭に強い言葉で非難し、公明に「(自民と)一線を画してやってほしい」と求めた。「(県立中央図書館に)いろいろ(機能を)付けて財政が膨らむのは再考すべき」と求めた共産の鈴木節子氏(静岡市葵区)には「県議会はなぜ足を引っ張るのか。反対する人は県議の資格はない」と述べた。

 文化力の拠点を巡っては、第2会派のふじのくに県民クラブも中央図書館以外の機能が「不明確」だとして導入機能の見直しに取り組む方針を示している。』

 川勝知事は当初、ごろつき、やくざなどそんな発言はしていない、と白(しら)を切った。このため、静岡新聞は当日の録音を関係者に提供することを知事了解を取り、自民県議団、メディアに提供した。この後も知事は「誤解」などと述べたため、騒動は1カ月以上も続くことになった。自民県議団は辞職勧告、不信任決議案を視野に入れた上で、『「やくざの集団」「ごろつき」とは誰を指すのか』『「やくざの集団」「ごろつき」発言をいまだ撤回しないのはなぜか』など、4項目について知事に回答を求めた。

 「誤解だ」などと言い訳に終始していた川勝知事は1月30日になって、「不適切な発言」があったことを認め、すべての発言を撤回した上で総括的に謝罪した。本サイトの2020年2月2日『川勝知事「謝罪」ー「文化力の拠点」断念決める』に詳しく書いてある。(※1年ちょっと前の出来事である)

 川勝知事の回答では、『「やくざの集団」「ごろつき」は「流域住民の命の水と環境を守る決議案」を「危機管理くらし環境委員会」が否決したことに対する義憤から出た不適切な発言』などと、「水を守る」意見書否決が原因となっている。これが「誤解」らしいが、実際は「文化力の拠点」事業に県議会全会派の反対に遭い、強い不満が募っていたことが理由であるのは静岡新聞が正確に伝えていた。

 「ごろつき」「やくざ」「県議の資格はない」と名指しされた自民県議団は、知事の不信任案等を提出しなかった。自民県議団は、不信任案をチラつかせただけである。これも、今回の「コシヒカリ」発言と同じである。実際は、水面下で、政治的な交渉を県財政サイドと行っていた。

 最終的に、自民県議団は川勝知事との予算復活折衝に臨んだ。メディアは「謝罪」の回答文書について棚上げした冒頭のみ取材を許可されただけで、記者全員が退去させられた。だから、知事と自民県議団がどんなやり取りがあったのか、県民には分からない。そこで「政治」的な交渉が行われたことだけは確かである。政治家同士の交渉だから、これをふつう「政務」と呼んでいる。(「政務」はしないと誰かが言っていたが?)

 結局、自民県議団は、自民県議らの地元の河川や道路整備について、「県土強靭化対策」として約30億円の単独公共事業を分捕った。これで自民県議団は、政治的な”勝利”を得たのである。

 今回の場合、当然、いまのところ、不信任案をチラつかせているだけだが、前回と同じ決着の仕方となるのはまず、間違いない。だから、水面下で何が起きているのか、新聞、テレビは取材すべきであり、当然、知事はそのことを十分に承知している。特に「御殿場市・小山町」選出の自民県議は、御殿場市民向けにちゃんとわかるかたちで知事の「謝罪」を求めるだろう。来年度予算について各会派との予算折衝はこれからだが、知事は、最終的に上がってくる「単独公共事業」を承認することで、問題は丸く収まると見ている。

 今回の騒動も「大山鳴動”鼠”一匹」で幕を閉じる。(※どんな”鼠”かはあとで分かるだろう)

「政務」の意味をご存じない川勝知事

 2018年10月から始めたニュースサイト「静岡経済新聞」で、川勝知事の度重なる「暴言」「差別発言」に対する「謝罪」を報道してきた。共同通信で全国配信された2019年11月、鈴木英敬・三重県知事に対して「嘘つき(は泥棒の始まり)」と非難した際も、知事は「誤解だ」と述べていた。

 2020年10月には、リニア問題関連で、日本学術会議の会員任命について問われると、知事は「菅義偉という人物の教養のレベルが図らずしも露見した。菅さんは秋田に生まれて小学校、中学校、高校を出られた。東京に行って働いたけれど、勉強せんといかんということで、夜学に通い、学位を取られ、その後政治の道に入った。言い換えると学問をされたわけではない、学位を取るために大学を出られたということだ」などと痛烈な批判をした。県民から1千件以上の苦情が寄せられると、「誤解があった」などと逃げ回っていた。いつもパターンは同じである。

 自民党総裁をバカにされたのだから、当然、自民県議団の怒りもおさまらなかった。その怒りをかたちにするのは、政治家ならば、選挙で相手を倒すことである。その絶好の機会を、半年後に迎えた。そう、ことし6月の知事選である。

 ご存知のように、6月の知事選では最後の最後になって、ようやく候補が決まった。今回の参院補選につながった岩井茂樹元参院議員が出馬した。自民県議団は一丸となり、官邸の応援もあったのだろうが、35万票という大差で敗れたのである。自民という組織の力では、川勝知事には勝てないのは明らかである。いかに実力が伴わないのか、知事に見透かされているのだ。

 今回、もし、川勝知事が「すみません。コシヒカリ発言の責任を取り、知事を辞職して、県民の信を問いたい」となった場合、本当に困るのは自民県議団である。

 「コシヒカリ」発言に反発する自民県議団は、知事候補の当てがあって、不信任決議案をちらつかせているわけではない。現在のところ、川勝知事に勝てるふさわしい候補者の当てなど全くいないのである。

 川勝知事は、今回の「コシヒカリ」発言の謝罪で、今後は「公務」のみをやり、「政務」に携わらないと明言した。多くの人が首を傾げたはずである。もし、今後、自民県議団と交渉を行い、知事の権限で、バラマキをすることを一般に「政務」と呼ぶ。「政務」を選挙応援などと言う知事の見識のなさをメディアは追及すべきだった。

 県と市町村の関係は、国と都道府県の関係と同じである。県の財源は限られた地方税や交付税などであり、国の権限で規制される事業も多いから国の予算と許認可が重要となる。「政務」とは、永田町(自民党本部)、霞が関(官庁街)などとの強いパイプを持ち、国の力を借りて、都道府県の発展のために尽力することであり、各都道府県知事の大きな役割のひとつである。

 川勝知事は「政務」をしないのではなくて、出来ないのである。知事にとって肝心の「政務」をできないから、「リニア反対で国論を巻き起こす」ことはできても、リニア問題を良い方向で決着させることは視野に入っていない。

 10月26日の知事会見で、医科系大学院大学を設置する準備をスタートすることを表明した。医師確保が目的だと言うが、実際には、研究職の医師養成に臨床の医師確保にはつながらない。会見で、川勝知事は「医大誘致をできないから」と理由を挙げた。つまり、医大誘致をできるだけの「政務」が知事にはできないからだ。「政務」に励まなければ、医科大学の誘致はとうていできない。「政務」を国政選挙の応援などと言う知事では、県民は裏切られたことになる。いまからでも遅くない。「政務」に汗を流し、医大誘致を目指すくらいのことはやってもらいたい。今回のコロナ対応で静岡県の最大の不幸が、医科大学が1つしかないことが証明された。(※知事は口をつぐんでいるだけであり、費用対効果のない医科系大学院大学でお茶を濁そうとしている)

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