川勝知事「謝罪」ー「文化力の拠点」断念を決める

川勝知事「謝罪」に自民反発?

 「不適切な発言のあったことを認め、すべて撤回します。不信を抱かれた方々にお詫びします」。静岡県の川勝平太知事は1月30日、静岡県議会自民改革会議・竹内良訓代表からの公開質問状に回答した。個別の質問への回答に先立って、まず「不適切な発言」があったことを認め、すべて撤回した上で総括的に謝罪表明したのだ。

 ところが、個別の質問に対する回答について、竹内代表は満足できず、記者から「点数は?」と問われると、「赤点」と答えた。個別の回答は、それほどに不満足な回答だったのか?以下に、個別の回答(抜粋)を紹介する。

質問1「反対する人は県議の資格はない」との発言は、民主主義に背くものだが、これについての見解を求める。

回答 当該「発言」は、県立図書館にのみかかわるものです。共産党県議の予算要望の席で出ました。県立図書館が話題になり、共産党県議は「賛成です」と明言された。それを受けての発言です。「当然ですね」というのを反語的に述べたもので、共産党県議もそう受け止められ、最後まで和気あいあいの意見交換でした。

 議会の軽視とか議員の権利の否定などでは毛頭ありません。当該「発言」部分を図書館の話題と切り離し、民主主義の否定とか、二元代表制の否定とか、拡大解釈する向きがあり、それが喧伝され、いたく当惑しております。

質問2 令和元年12月20日、自民改革会議総会並びに会派代表者会議において、「発言していない」と虚偽の説明をしたのは何故か。

回答 どちらの会でも、イエスともノーとも明答を差し上げていない。会派代表者会議において、出席者の一部から、「ごろつき」の語にこだわり、「言ったのか」、「言わなかったのか」、「言わなかったのだな」と繰り返し難詰されましたが、明言しませんでした。

 この小生の態度が、質問2になったことを残念に思い、深く自省しています。

「やくざの集団」「ごろつき」は知事の独り言

質問3 「やくざの集団」「ごろつき」はどこの集団、誰を指しているのか。

回答 だれも指していません。公明党県議の予算要望の席での意見交換のときと記憶しています。

 流域8市町の議会から出された意見書を踏まえ、「流域住民の命の水と環境を守ることを決議する」という決議案を「危機管理くらし環境委員会」が否決しました。「住民の命の水を間持つ決議をしない!」というのは、まことに意外で、そのことに対する義憤から出た不適切な発言でした。

質問4 「やくざの集団」「ごろつき」発言を未だ撤回しないのは何故か。

回答 黒を白にすることを「撤回」だと思い込んでいた。つまり、撤回は正直ではない、と思い込んでいたからです。当該発言のあったことを認めます。

 当該発言は過ちです。過ちを改めるために、当該発言を取り消し、撤回します。 

 質問1は「共産」、質問3,4は「公明」県議団の予算折衝の場での発言であり(「共産」県議の席でも「ごろつき」「やくざ」の発言があったと関係者は話している)、そもそも「自民」が問題にすること自体、不思議な話である。前回の記事(1月26日付『「誤解」自民が川勝知事の”進退”問う』を参照)で書いたが、「自民」と川勝発言を結び付けた12月20日付静岡新聞記事『知事「ごろつき」自民念頭に』に引きずられてしまったことは、自民県議団も了解しているようだ。

 竹内代表が満足できないのは、質問2についての回答。川勝知事は「やくざの集団」「ごろつき」発言をしていたのに、自民県議団の前でその発言を認めなかったことが「不誠実」と取った。

 川勝知事は「小生の態度が、質問2になったことを残念に思い、深く自省しています」と記したのだから、実際には十分なはずである。ただし、ここは政治の場である。知事野党の「自民」は「謝罪」問題を棚上げとは言いながら、十分ちらつかせた上で、知事との予算折衝に臨むのが「政治」である。その結果、県内各地の河川や道路の「県土強靭化対策」約30億円の単独公共事業を分捕った。「自民」は政治的な”勝利”を得たのである。

 それだけでなく、川勝知事はことばによる「謝罪」とともに、一大決心をして、来年度予算で思い切りよく鉈を振るった。

多くの意見聴いて「文化力の拠点」断念へ

 川勝知事との予算復活折衝に臨み、「謝罪」の回答文書について棚上げした冒頭のみ取材を許可されたが、自民県議団とのやり取りについてマスメディアの記者全員が退去させられた。その後の取材で、来年度予算案について、翌日(2月1日)付新聞で紹介したのは、静岡、読売、毎日のみである。

2月1日付読売新聞

 『県、災害対策費計上へ 「文化力拠点」見送り受け』と書いた読売が最も詳しい。「文化力の拠点」整備費用を見送るが、『床にひびが入るなど老朽化で移転が求められていた県立中央図書館の工事に向けた土地の地質調査費数千万円のみが盛り込まれる見通しだ』『当初、県立中央図書館を中心に飲食店などが入った複合施設を計画していたが、費用が高額で自民などから批判が続出。その後、川勝知事が自民改革会議を念頭に「ごろつき」などと発言したため、県と自民で対立が深まっていた』

 もう一度、川勝知事が「反対する人は県議の資格はない」「やくざの集団」「ごろつき」発言をした場面を思い出してほしい。

12月20日付静岡新聞

 『川勝平太知事は19日、来年度の予算要望に訪れた公明党県議団と共産党県議との面談で、県がJR東静岡駅南口の県有地に整備する「文化力の拠点」を巡り、県議会最大会派自民改革会議が計画見直しを求めていることについて「反対する理由は川勝が嫌いだというだけ」と述べ、強く批判した。

 知事は「やくざの集団、ごろつき」などと自民を念頭に強い言葉で非難し、公明に「(自民と)一線を画してやってほしい」と求めた。「(県立中央図書館に)いろいろ(機能を)付けて財政が膨らむのは再考すべき」と求めた共産の鈴木節子氏(静岡市葵区)には「県議会はなぜ足を引っ張るのか。反対する人は県議の資格はない」と述べた。

 文化力の拠点を巡っては、第2会派のふじのくに県民クラブも中央図書館以外の機能が「不明確」だとして導入機能の見直しに取り組む方針を示している。』(静岡新聞12月20日付朝刊)

 川勝知事の回答では、「やくざの集団」「ごろつき」は『「流域住民の命の水と環境を守る決議案」を「危機管理くらし環境委員会」が否決したことに対する義憤から出た不適切な発言』と、「水を守る」意見書否決が原因となっているが、実際は「文化力の拠点」に県議会全会派の反対に遭い、不満が募っていたことは否めない。

 読売記事にある「文化力の拠点」予算を見送り、県立図書館調査費のみを付けるというのは不思議な話である。なぜなら、県立図書館は「文化力の拠点」の中心施設だったはずである。県立図書館建設予算をつけておいて、「文化力の拠点」予算見送りでは矛盾してしまう。

 つまり、川勝知事は多くの意見を聞いた上で、「文化力の拠点」断念を決めたのである。県立図書館建設工事は、知事部局の文化力の拠点推進課から、県教委社会教育課に担当替えになる。だから、県立図書館予算のみが付いたのである。予算のない文化力の拠点推進課の存在意義は失われ、来年度にポストとともに「文化力の拠点」事業そのものが消えるはずだ。

 川勝知事は「文化力の拠点」に強い思い入れがあった。しかし、「県議の資格はない」「ごろつき」「やくざ」という不適切な発言を反省した上で、評判が芳しくなかった「文化力の拠点」を取りやめることで心からの「謝罪」を表したのである。

「新有識者会議」長は矢野弘典氏がふさわしい?

 「狸おやじ」と呼ばれた徳川家康は非常に「狡猾」だった。

60歳頃の家康像(久能山東照宮蔵)

 家康は1605年に秀忠に将軍職を譲り、天守台発掘で話題を呼ぶ駿府城に移る。外交、通貨の統制、鉱山経営などを駿府で行った。1609年オランダ、1613年イギリスとの通商条約を結び、1614年全国にキリスト教禁令を発布している。友好国としてオランダ、イギリスを選び、世界中を植民地化していた「カトリック国」ポルトガル、スペインとの関係を断絶、のちに「鎖国」と呼ばれた。

 家康が愛読したのは、唐の太宗を主人公にした『貞観政要』。太宗を美化したり、賛美したりせず、欠点も非常に多く、また多くの過ちをおかしたふつうの人として描いた。その欠点を補うために、太宗は自分自身に直言させる「諫議太夫(かんぎたいふ)」という役職を創設した。太宗の欠点を補佐するための役割は、敵でもあった太宗の兄に仕えた魏徴を抜擢した。

 太宗は魏徴の言葉をよく聞いて、改めるべきことは速やかに改めることを優先した。家康はこれをまねたのである。

 敵対した武田方の残党(大久保長安、穴山梅雪、向井正綱ら)を側近として迎え、豊臣方の残党を駿府城の守りとして安倍川の西側に住まわせ、安西衆とした。特に、青い目のサムライとなる英国人ウイリアム・アダムスは家康に直言したことで知られる。もし、アダムスがいなかったならば、日本はカトリック勢力の思いのままにされ、植民地に近い状態になっていたのかもしれない。家康の時代、世界情勢を見据えるのは非常に困難だった。いかに多くの諫議大夫を置くかにかかっていた。

 川勝知事は知事室から駿府城跡を眺め、家康同様に「諫議大夫」を周辺に置き、今回の「文化力の拠点」問題のような反対意見に真摯に耳を傾けたのだろう。

 それでなくては、リニア問題で国土交通省が提案した「新有識者会議」へ、あれほど「狡猾」な5条件を出すことはできないだろう。

矢野弘典横綱審議委員会委員長(ふじのくにづくり支援センター理事長)西日本新聞紙面から

 1月23日、静岡市を訪れた水嶋智鉄道局長と2時間半にも及んだ対話の内容は外に漏れていない。同席した矢野弘典・ふじのくにづくり支援センター理事長がどのように両者の対話を裁いたのか。『「新有識者会議」の長は、横綱審議委員会委員長を務める矢野さんが最もふさわしい』と川勝知事は提案したのかもしれない。それに対して、水野局長はどう答えたのだろうか?

 明君とは率直な意見に耳を傾け、その意見を吟味して判断することだと『貞観政要』は教える。今回の川勝知事の判断も明君に値する。さて、家康同様に川勝知事に「狸おやじ」の称号を与えてはどうか。

※タイトル写真は2月1日付静岡新聞「知事と自民県議団の予算折衝」。予算折衝が始まると同時に、メディアはすべて退去させられた

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