リニア騒動の真相80自民候補はどうなった?

川勝知事は4期目の知事選出馬を表明

 川勝平太知事は13日の定例会見で4期目の知事選(6月5日告示、20日投開票)出馬を明らかにした。報道各社に出馬表明を予告していたから、通常は代表のテレビカメラなど2台のみだが、テレビ各社は独自取材のためにカメラを用意、また新聞各社は、複数の記者とは別にカメラマンを配置したから、会見場は大にぎわいの状態だった=タイトル写真=。

 知事はコロナ、リニア問題は6月以降も長期的な対応が必要であり、各界各層からリニア問題に関して応援のメッセージが届き、6日には1千通余の署名を持って女性ファンたちの出馬要請があったのだという。また、県内各地あちこちで早く出馬表明をしてほしい、という声を聞いたことなど『リニア問題でそう簡単にわたしに代わる人がいないのであれば、自分がやるべき』として、出馬を決意したと説明している。

13日出馬会見する川勝知事

 さらに、きょう(13日)届いた女性の手紙を紹介した。『川勝平太様、リニア問題などでさまざまな意見がある中で6月に行われる県知事選の前に、どうしても知事に伝えておきたいと思い、お手紙を書かせていただきました。国とJRだけのためのリニア中央新幹線。静岡の環境の未来のために川勝知事の今の強い姿勢をとり続けてほしいです。中途半端で不明確で利益しか考えていないJRに負けないでください。実はわたしは10年前に川勝知事に何度かお会いしたことがあります。そのころから県や国の政治について興味を持つようになりました。

 18歳になった今、わたしは選挙権があります。まことに僭越ながら、知事は6月の県知事選に出馬してほしいと願っております。静岡を守るのは川勝知事しかいないと思っております』などと紹介した。

 公職選挙法では「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的とし、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為をしてはならない」と定めている。もし、他の候補者が名乗り出る可能性を知っていれば、いくら何でも、このようなあからさまな自己宣伝はできなかっただろう。

 会見に出席しているほとんどすべての記者はこの時点(13日)で他の立候補の動きをつかんでいないから、知事の自己宣伝に何ら疑念を抱かなかったのだろう。その証拠に、川勝知事の4期目はほぼ決まりと考えた記者の一人は「もし、このまま立候補がなければ県政史上初めての無投票の可能性がある。それについてどのように考えるのか」とまで質問したのだ。

 知事は『静岡県の抱えている問題は日本の全体の問題に関わる。被選挙権、被候補者になる人が、政策論争をしているときではない、(他の立候補がないのは)そう考えているのでは』と回答した。このあと、1期目の2009年知事選で、7月5日投票の1カ月前の6月5日に出馬表明をしたことを紹介した上で、『これからやっていくために夢を持っている人がいることを知っている。わたしはうまくバトンタッチできればいいなと思っている』など(すでに4期目以降の)新たな知事への期待にまで話が行ってしまった。

 ところが、翌日(14日)静岡新聞1面トップ記事が、自民の候補者擁立の動きがあり、「与野党激突の構図」を伝えたことで一変した。

 自民県連が、国交省副大臣、岩井茂樹参院議員の擁立へ向けて最終調整を行っているのだという。前日のあまりに平和な知事会見を見ていたから、その驚きは人一倍、大きかった。

20日に岩井茂樹氏は立候補表明?

 14日付静岡新聞の抜きネタを各社とも一斉に追い、15日付新聞各紙は『自民、岩井氏擁立へ 国交副大臣 現職と一騎打ちか 県幹部「勝算ある」』(朝日)、『リニア争点 与野党対決へ 岩井氏擁立、自民県連で急浮上』(産経)など1日遅れで報道した。取材に応じた岩井氏は「現段階ではコメントできない」など出馬の意向を避けた。

4月15日付静岡新聞

 一方、15日付静岡は『知事選2021出馬の舞台裏』(下)で、上川陽子自民県連会長と中沢公彦幹事長が10日、岩井茂樹国交副大臣を擁立することで話し合いを行い、12日に本人に打診、13日に党本部に報告したという時間的な推移の舞台裏を明らかにしている。つまり、急転直下の擁立だったというのだが、「(自民県連は)不戦敗を含め川勝知事に3連敗中の自民はすでに臨戦モード」に入ったようだ。

 前回の2017年知事選で、自民静岡支部などが支援に回った元五輪銀メダリストの溝口紀子氏が56万票だったのに対して、川勝氏は83万票だった。岩井氏は前回参院選で74万票の得票だから、勝機は十分などとの自民県連の”皮算用”まで紹介していた。15日に自民県議会議員全員、その夜には自民国会議員全員も岩井氏擁立を支持を決めて、岩井氏本人の立候補表明への準備は着々と進んでいた。

 ところが、その動きはピタリと止まってしまった。18日になっても、岩井氏の立候補表明は行われていない。一体、何があったのか?

 一部報道で派閥(竹下派)に反対の動きがあるのだというが、実際は、15日から訪米した菅義偉首相の帰国(18日)を待っているのだろう。自民党総裁でもある菅首相に裁可を仰ぎ、県連だけでなく、自民一丸で知事選に臨む体制をつくるのが筋である。自民が現職知事に負けられない選挙戦と位置づけるのならば、表明するのは、遅くとも、投開票日の2カ月前となる20日(大安)となるだろう。

 静岡新聞では『リニア絡み官邸の影』という大きな見出しで、官邸が川勝知事のリニア対応に不満を募らせていると伝えたが、昨年10月17日の会見で、川勝知事が日本学術会議問題をきっかけに痛烈に首相批判したことを本人だけでなく、菅首相の周辺は決して忘れていないだろう。そちらの影響が大きいことは間違いない。

 つまり、『官邸の影』があるとすれば、まずは『菅義偉という人物の教養レベルが図らずも露見した』『夜学に通い、単に単位を取るために大学を出た。学問をされた人ではない』などという、侮辱発言に対する個人的な恨みをどう晴らすのか、その返り討ちを岩井氏に託すのが、これまた政治家としての筋なのだろう。

知事交代がない限り、リニア問題は進展しない

 リニア問題を取材していれば、今回の知事選が大きな転換点になる可能性を持つことがはっきりわかる。

 昨年暮れ、川勝知事はリニアトンネル静岡工区で「工事凍結」宣言を表明するようJR東海に迫った。昨年6月にはJR東海社長、7月に国交省事務次官が県庁を訪れ、トンネル本体工事とは無関係の準備工事再開を要望したが、知事はトンネル工事の一部とみなして拒否した。知事がトンネル設置のために必要な河川法の占用許可権限を有しているから、彼らは知事に要望した。しかし、中下流域の「利水上の支障」を盾に認めない姿勢を崩さないから、手も足も出なかった。

 その後、有識者会議が繰り返され、中下流域の表流水や地下水への影響はほぼないとの結論を出しても、県専門部会に諮り、地元の理解を得ることを知事は求める。水問題が決着しても、南アルプスの自然環境に問題ないことをすべて示せと要求する。中下流域への水の影響はほぼないと分かっていても、水一滴でも県外流出はまかりならぬという主張をメディアがこぞって報道すれば、有識者会議の結論などどこかに飛んでしまう。

 川勝知事は、甲府までの部分開業や長野県への迂回を求める。

 つまり、知事の座が変わらない限り、リニア問題の進展はないだろう。県職員たちは知事の意向に従っているだけに過ぎない。

「リニア工事」が選挙の争点か?

 17日の国の有識者会議を傍聴していて、川勝県政であれば、今後、さらに4年間、有識者会議そのものが続いていくのも間違いないとわかる。

 第11回有識者会議は「トンネル掘削に伴う大井川表流水への影響」がJR東海の想定するトンネル湧水量であれば、中下流域での河川流量は問題なく維持される、「トンネル掘削に伴う地下水への影響」は河川流量が維持されれば、中下流域の地下水への影響は、河川流量の季節変動や年変動に比べて極めて小さい。国交省作成の中間報告案に委員から異論、反論等は出なかった。今後も細部の修正のみが行われるのだろうが、大筋は変わらないはずだ。

第11回有識者会議(国交省提供)

 今回の一番の山場は、静岡県地質構造・水資源専門部会長を務める森下祐一委員が、有識者会議の議論に異論を唱えたことだ。森下氏は上流域の水収支解析を行ったように、中下流域でもシミュレーションをつくり、同様の解析モデルをつくるべきではないか、と投げ掛けた。これに対して、他の委員からは、有識者会議の議論が中下流域への影響を問題にしているのであり、そこに悪影響が出ないと判断されたのだから、さらなるパラメーターを与える面倒な作業を伴う、新たな評価システムをつくる必要性はないなどと退けられた。

 県専門部会であれば、森下氏の意見がそのまま通るのだろうが、地下水や水文学のトップレベルの専門家らによる有識者会議では、科学的、工学的な見地から森下氏の提案は完全に否定された。県委員でもある丸井敦尚氏も大勢についたから、森下氏以外はすべて徳永朋祥東大教授の意見に従ったことになる。ことばを変えれば、科学的、工学的な議論と言っても、専門家によっては意見は大きく違うのであり、客観的な物差しはトップレベルの学者たちがつくるのだ。だから、有識者会議の結論を県専門部会に諮るというのは順序から言っても、全くおかしいことになる。

 有識者会議の議論は、その目的に沿って健全な意見が交わされていることがわかる。ただ、知事の十八番である「命の水」とされる中下流域の水環境への影響について、問題がないと有識者会議の結論が出たとしても、川勝県政は別のいちゃもんをつけることはすでに書いた。

 県政記者クラブだからか、知事意見を鵜呑みにする記者も多い。有識者会議後の記者ブリーフィングでは、あまりにも恣意的な質問が飛び交い、有識者会議の議論とは遠く離れてしまい、質疑応答の時間も非常に長い。有識者会議で問題にならなかった異論、反論が続くのだから、翌日(18日)の新聞各紙は有識者会議の結論とは全く違い、国及びJR東海への批判一色に染まっている。

 その根底に、JR東海のリニアトンネル工事は自然環境にとって「悪」という記者たちの思い込みがあるようだ。

 『JR東海は約束だった湧水全量戻しを反故にした』、『リニアトンネル工事は大井川の水環境に影響を与え、南アルプスの自然環境破壊につながる』、『JR東海は利益だけのために工事を進めようとしている』、『公共工事(国家的プロジェクト、財政投融資3兆円を投入)はコロナ禍の中、ムダな事業となる』などJR東海は「悪」という思い込みで記事が作成されている。

 自然環境に影響を与えない開発事業などありえない。だから、開発する側は「悪」とみなされる場合も多い。その利便性を享受して生活しているのも批判に立つ同じ人間たちである。ただ、今回のリニア工事の場合、静岡県への利便性は全くない。

 川勝県政がこれだけ批判を繰り返す「リニア工事」が選挙の争点となって、もし、岩井氏が立候補するとしても、その対応は難しいことになる。政治家ならば、有権者の感情にどのように訴えるのか心得ているのだろうが、開発事業の推進者と見なされれば、女性たちからは強く反発を受けるだけだ。

 政治とは科学的、工学的な議論をする場ではなく、県民の感情に訴える場である。岩井氏がどのような政治家なのか、大いに期待したい。

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