リニア騒動の真相22 早期着工の「視界」ゼロ

台風19号で東俣林道は寸断される

 昨年10月17日から「リニア騒動の真相」連載を始めて、1年が経過した。この1年間では、JR東海が強く望んできたリニア南アルプストンネル静岡工区の「早期着工」へ向かう兆しさえ見えてこない。「流出する湧水全量戻し」議論は紛糾したままであり、今後もJR東海は静岡県環境保全連絡会議専門部会で理解を求める議論を続けていくしかない。当分、時間は掛かりそうだ。

 静岡県との合意を目指す鈍い動きだけでなく、「早期着工」に向けた環境は国やJR東海の思惑とは裏腹に、予期せぬ自然災害の発生によって視界がきかない状況に陥ってしまった。

 東日本へ記録的な被害をもたらした台風19号は、10月11日から12日に掛けて、大井川源流部に深刻な影響を与えた。リニア南アルプストンネル静岡工区へつながる静岡市東俣林道約27キロ区間のうち、林道起点の沼平ゲートから4・2キロ地点で道路そのものが崩落、その手前3・8キロ地点では道路が一部損失した。(タイトル写真は3・8キロ地点の道路一部損失現場。クラックが入り、危険な状態=静岡市提供)

 それでも、約3週間後の11月5日までに、3・8キロ、4・2キロ地点をう回する、幅4㍍の仮設道路約1・5キロが大井川の河原に設置され、工事用の4トントラックの通過ができるようにした。リニア建設を優先して、静岡市の河川への仮設道路設置について、静岡県は一次占用許可として災害復旧に向けた緊急措置で通行を許可している状態だ。

斜面崩壊が各地で起きた

 全崩壊は1カ所だったが、JR東海の工事宿舎につながる千石ヤード付近の林道約2キロ区間でも道路半分が損失してしまった。現在も大型車両は通行できない状況。その他、林道の30カ所の斜面から大量の土砂流出があり、撤去作業に追われている。今回の大雨で地盤が緩んでいるため、少しの雨量で路面、斜面の崩壊が起きる可能性が高い。

 7月1日、静岡市は、リニア建設にともなう東俣林道改良工事に関する協定をJR東海と結んだ。リニア南アルプストンネル(静岡工区)建設をスムーズに進めるための措置である。静岡市が林道の「通行許可」「工事許可」を出すことで、今後増える工事車両を安全かつ円滑に通行できるようJR東海独自で林道を整備することを可能にした。

 東俣林道は、そのままの状態では大型車両がすれ違うにはあまりに狭隘で、ガタガタの道路は危険な個所が多いから、土砂崩れが発生、通行止めとなることもしばしば。台風19号被害を見れば、一目瞭然だ。

東俣林道山側を掘削して道を造っている

 7月の協定締結後、9月までにJR東海は現地の測量、設計を行い、林道工事着手に向けた協議をスタートさせることになっていた。約80億円を掛けて路面舗装、落石対策、道路拡幅、ガードレール新設、橋梁補修、待避所の設置など全面的な改良工事を行うとJR東海は発表。具体的な改良工事に入るためには、それぞれの工事区間で静岡市の許可を得る必要があった。JR東海から工事実施の申請はなく、結局、台風19号の被害で林道改良工事計画そのものが完全にストップしてしまった。

西俣ヤードまでの被害は甚大だ

 台風19号による災害復旧を行う主体は静岡市。11月補正予算に国の補助金を見込んだ災害復旧工事費を計上して、12月に国の査定を受けた上で工事に入る予定。工事が順調に進んだとしても完全復旧するのは、早くても2021年3月頃になる見込みという。

 災害復旧の期間中に、東俣林道の改良工事に入るのは難しいと見られる。JR東海の林道整備スケジュールは、2019年度中に開始予定だったが、少なくとも1年以上の遅れになることは間違いない。

 南アルプストンネル本体工事に入るための準備工事として、千石非常口から西俣非常口まで約4キロの工事用輸送トンネル新設を行う予定だが、工事車両等の安全を考慮すれば、林道整備が終わっていない段階で無理にトンネル掘削工事に入ることはできないだろう。

台風19号前の西俣ヤード

 台風19号の被害は東俣林道だけにとどまらなかった。静岡市管理の東俣林道終点から先へは、特種東海製紙管理の私道につながっている。林道終点から約5キロ先に南アルプストンネル本体工事の基地となる西俣ヤード(斜坑トンネル設置予定場所)があるため、特種東海製紙管理の私道をJR東海が大型車両の安全通行のために整備した。

台風19号後の西俣ヤード。護岸がえぐり取られ、資材置き場が消えた

 今回の台風被害を調査した静岡県くらし・環境部によると、JR東海が整備した二軒小屋発電所下流仮桟橋2カ所が流出、管理道5カ所で土砂崩落が起きていた。リニア南アルプストンネル建設基地となる西俣ヤードの資材置き場も大きくえぐり取られてしまったようだ。

台風19号前の仮桟橋

台風19号後の仮桟橋

 台風被害を受けた東俣林道を使うことができず、その先に続く特種東海製紙管理の私道まで大型車両や重機を運び込むことができないから、復旧の見通しは立てない状況だ。静岡県との合意を得て、トンネル本体工事の「早期着工」を強く望むJR東海だが、自然災害による準備工事の遅れをどのように取り戻すことができるのか不透明。JR東海広報室は現在、全くわからない状況と回答した。

 ことし8月13日付で千石宿舎に電線や水道管を引く大井川の占用許可が静岡県から下りている。いくら許可が下りたとしても、道路が寸断され、思うように使えない状況で、準備工事さえままならない。これから雪のシーズンに入るため復旧工事は困難になる。

流域首長がJR東海と会わない理由?

 今月6日の島田、掛川、藤枝、焼津の各市長を皮切りに、国交省の江口秀二審議官が大井川流域の各市町長に面会して、地元の合意を得る努力を始めている。リニア南アルプストンネル静岡工区の早期着工への地ならしとも言える「非公開」会談を行った。7日付中日新聞は、各市長ともJR東海が地元を軽視し、住民へ説明する姿勢が全く見られないという不満を伝えていた。

 各市長の意見を踏まえ、JR東海の金子慎社長は13日の定例記者会見で流域市町長に個別に面談して、「大井川の表流水は減少せず、地下水にも影響を及ぼさない」などと水問題の懸念を払拭して、地元の理解を得たい意向を示した。すでに各市町に面会を打診したことも明らかにした。

 ところが、藤枝、焼津、菊川、牧之原、袋井、川根本、吉田の市町長はJR東海との面会を断り、島田、掛川の両市長は返答を保留した。各市町長はこれまでのJR東海の対応に不信、不満が強く、金子社長からJR東海の立場をいくらまくしたてられても「聞く耳」を持たないという姿勢を明らかにしたようだ。

 この背景に何があるのか?

 リニア計画が始まった2014年、JR東海は静岡市の井川地区で第1回の事業説明会を開催している。それから、さらに2回、井川地区で説明会を開き、井川地区と静岡市内を結ぶ「140億円の県道トンネル」地域振興策を全面に出して、静岡市との合意書を交わした。水環境問題の深刻さは最初から分かっていたはずなのに、5年前、JR東海は大井川下流域の市町には一度の説明会も行わなかった。

 そんな状況の中で、2017年10月10日の記者会見で川勝平太知事はJR東海の対応について「明確な抗議」を行い、「湧水全量戻し」を前提に「(解決には)誠意を示すことが大事」と厳しく述べた。ところが、知事の「誠意を示すこと」発言にJR東海は何ら反応を示すことなく、そのときにも下流域の市町住民向けの説明会等を開くこともなかった。

 静岡県は「湧水全量戻し」を前提にした会議を重ね、JR東海からの説明を受けてきたが、利水者の求める「水の確保」議論は紛糾したまま続いている。2018年8月、JR東海は地元への理解を求める説明に回りたいと、難波喬司副知事に申し出たが、副知事は「利水者や市町と個別に交渉することを控えてほしい」という趣旨の要請をした。今回、JR東海が市町訪問を見合わせていたのは、難波副知事にストップを掛けられたからだと説明している。そんな紛糾している最中に、JR東海が地元の理解を得る交渉に入りたいというのであれば、ふつうストップを掛けるのは当然だろう。

 5年前、遅くとも知事の「誠意」発言のあった2年前、JR東海は井川地区同様に下流域の自治体を回り、水減量で迷惑を掛けることになるとなぜ、説明会を開かなかったのか?金子社長はJR東海の主張を述べるばかりで「大井川の表流水に問題はない。地下水に影響はない」と説明しているが、現在の議論から見れば、立場の違いを鮮明にするだけで、何らの説得力を持たない。JR東海の論理を相手に押し付けようとしていると見られるのが落ちである。2年前、川勝知事は「誠意」について説明した。ところが、いまだに、JR東海はその意味さえわからないようだ。

 「世界最大の活断層地帯」南アルプスでの工事は、”不確実性”課題の多い難工事になることが分かっている。だから、議論は紛糾している。その上、台風19号によって、大井川源流部がいかに風雨など自然の脅威にもろい地域であることも明らかになってしまった。いくら、JR東海が「大丈夫」と太鼓判を押しても、これではだれも納得できないだろう。

 大井川の上流部、下流部ともにリニア工事の早期着工へ「視界」ゼロの状態が続きそうだ。

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