三島市長選の真相 「品格」を見抜く責任は?

高さ変更「歓迎」の記事

 「中止をするなら私を殺して」。7月23日、三島市役所で三島駅前再開発事業に反対する市民団体を前に豊岡武士市長が突如、靴を脱いで、部屋の壁を前にして座り込み、「はい、どうぞ殺してください」と目をつむり、両手を合わせて首を下げた。打ち首を待つようなパフォーマンスは全国ニュースに流れ、大きな話題を提供した。市長はその後の記者会見で「再開発事業に対して不退転の決意を示した」と述べた。

コンペで提案された高層タワーマンション

 4日の知事会見で、読売新聞記者が「三島市長は知事の考えを踏まえて高層タワーマンションの高さを下げると表明した。これについての知事の受け止め方は?」と質問。川勝平太知事は「歓迎する。一方、コンペで負けたグループの計画は勝ったグループより高さは低かった。そちらとの調整をしなければならないのでは」と疑問を呈した。

 5日付中日新聞朝刊は『三島再開発 高さ変更「歓迎」』の見出しで知事会見を記事にした。その記事によると、事業計画では、高さ99・5メートル、24階建ての高層マンション建設に対して、知事は「三島駅の玄関口にふさわしくない」と反対、豊岡市長は11月22日の記者会見で「高さを下げる必要がある」と表明し、知事や計画に反対する一部住民に配慮する姿勢を見せた、という。

 もし、知事発言のように高さを下げるならば、コンペで負けたグループは黙っていないだろう。本当に大丈夫なのか?

「高さ下げる」表明は記者の誤解?

 三島市を取材すると、担当者は「市長は高さを下げるとは表明していない」と驚くような発言をした。もし不審があるならば当日の記者会見資料がHPにあるので読んでくれ、という。

駐車場を囲むビルの地権者らとも協議?

 豊岡市長の発言は「高さを下げる必要があると感じておりますので、準備組合や事業協力者に相談するよう、職員に指示をしております」とある。担当者に聞くと、市長は単に「必要を感じている」だけにすぎず、これは”検討する”というたぐいの話らしい。いまだ、市長の指示に従って、高さをどうするかという話し合いは持たれていない。通常、行政の”検討”とは”やらない”に等しい。「高さを下げると表明」は記者たちが誤解しているというのだ。地権者、事業協力者と”検討”して、三島市はマンション計画を変えない可能性がはっきりした。当然、高さは99・5メートルのままだ。

 何かおかしい。

選挙の争点から外す戦略

 8日三島市に出掛けた。9日告示、16日投票という市長選の掲示板がいたるところにあった。

 そうか、選挙前だったのか。7月の”首切り”パフォーマンスに続く、豊岡市長の「不退転の決意」を示す、したたかな選挙戦略だと分かった。知事らに配慮して「高さを下げる必要があると感じている」と”リップサービス”をすれば、選挙の争点から「高層マンションの高さ」は外れてしまう。新聞、テレビが市長発言を誤解してくれれば、まさに市長の思うツボである。

 選挙選が終わり、しばらくたってから、3者協議したが、相手側の了承が得られないので、高さは計画通りにすると再表明すればいい。豊岡市長は最後まで「高さを下げる必要」を感じていたが、結果、そうならなかったとしても、市長の責任ではない。当初の計画通りに進めることが3者にとって都合がいいだろう。ただ、選挙前、高さに反対していた市民は「下げる」ものと誤解して、現職候補を支持するかもしれない。

 市民(選挙民)はマスコミ報道を信じる。なぜ、記者たちは市長発言を誤解したのか?

「知事の品格」が問われた選挙戦略

 2001年7月の静岡県知事選挙。当時、2006年開港予定の静岡空港へ即時中止を求める動きが活発だった。新聞、テレビがむだな大規模公共事業の典型として静岡空港特集がしばしば組まれ、厳しい批判が寄せられていた。その動きの中で、現職知事への対立候補として、元西武百貨店社長が出馬表明、石原慎太郎東京都知事、田中康夫長野県知事、石原軍団と呼ばれる芸能人ら多数が支持を表明、激しい選挙戦が予想されていた。

 ところが、空港推進を訴えた3期目の現職が圧勝した。選挙のほぼ2カ月前、現職は空港反対勢力が求める住民投票条例案に賛成して、空港建設は「住民投票の結果に従う」と表明、住民投票案を採決する議会は知事選後に行われることになった。それで、「空港建設の是非」は選挙戦の争点からかき消されてしまった。

知事の失職につながった「立ち木」伐採跡

 現職知事の当選だけで空港建設推進という結論を持つ者はいなかった。空港反対の県民だけでなく、一般の多くの県民が初の住民投票を望み、空港建設の是非を問うことに期待した。予定通りだったのか、過半数を占める自民党県議らが条例案を否決した。住民投票案に賛成した知事が、空港建設が県民をいかに幸せにするのか問いたいと、議会に強く訴えることもなかった。

 住民投票条例案賛成は単に姑息な選挙戦略だった。政治家としての器の小ささにがっかりした者が多かった。2009年3月、4期目の知事は空港開港前に建設地の立ち木問題の責任を取り、失職した。県知事選当時、空港利用者150~160万人という予測は半分以下に下回り、毎年赤字を出し続けている。「知事の品格」を見抜けなかった選挙民の責任かもしれない。

”ミスリード”は現職に有利

豊岡市長の選挙事務所。事業協力者(業者)が現職を強く支持するのは間違いない

 三島市の豊岡市長は巧妙な発言を行っていた。記者会見でどの程度低くするかの問いに「技術、経済効果、採算性など多角的に事業者が最終判断する」(静岡新聞)と、高さを下げることを前提にした答弁をした。そのような答弁に記者たちは”検討”ではなく”実施”と誤解したのだろう。

 29日の市議会で、三枝邦昭計画まちづくり部長は「知事の考えを踏まえ、高さを下げる」と答弁したと静岡新聞が報道。三島市に確認すると、あくまで市長発言を繰り返しただけで「高さを下げる」とまで明言していない、という。ほぼすべての記者が頭から市長発言を誤解しているようだ。

 マスメディアの”ミスリード”は市長選で現職に大いに有利に働くのだろう。「市長の品格」を見抜けないツケはどんなかたちで回ってくるだろうか?

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