リニア騒動の真相23鈴木知事「事実無根」の真実

三重県知事を「うそつき」と非難

 『三重県知事をうそつきと非難 静岡知事、リニア駅発言で』。あまりに強烈な見出しの記事が全国を駆け巡った。

 11月19日静岡県の川勝平太知事の記者会見を伝える「共同通信」配信を全国の地方紙、スポーツ紙、ロイターなどが見出し、記事をそのままに掲載した。静岡県内の主要テレビ局、新聞が同じ内容を伝えているが、リニアに関する三者協議へ知事が農水省の関与などを求めた発言、大井川の流域自治体とJR東海との交渉などを伝える記事のほんの一部分でしかなかった。

 共同通信は、静岡県にかかわるリニア問題の協議内容ではなく、川勝知事の三重県知事に対する「うそつき」非難のみに絞り、ダイレクトに伝えた。配信された見出し、記事を北海道、秋田魁、新潟、信濃毎日、岐阜などの全国の地方紙がそのままに使った。共同通信の記事は以下の通り。

鈴木英敬三重県知事(三重県HPから)。経産省出身、自民推薦

 『静岡県の川勝平太知事は19日の記者会見で、リニア中央新幹線の三重県内の駅に関する自身の発言に「事実無根」と抗議した三重県の鈴木英敬知事に対し、発言内容は事実だとして「うそつきは泥棒の始まり」と非難した。 川勝知事は6日、公表されていない三重県内の駅設置場所について「(鈴木知事が)90%亀山市に決まったと言っていた」と述べ、8日に三重県から抗議を受けた。川勝知事は会見で、先月31日に催された天皇の即位を祝う「饗宴の儀」の際に鈴木知事から直接聞いたと強調した。』

 共同通信記事を読んで、鈴木知事は怒り心頭に達したかもしれない。記事は、知事発言の事実を伝えてはいるが、背景や言葉の意味を正確に伝えていない。川勝知事の誹謗中傷なのか、正鵠を射た論評なのか、それとも何か別の理由があるのか全く判断できない。単に両者の対立をあおっているかのようだ。

 なぜ、川勝知事はこのような発言をすることになったのか?そもそもの始まりは、2週間前の11月6日川勝知事の記者会見だった。

「90%亀山で決まり」発言は”事実無根”?

「リニア騒動の真相21」タイトル写真の川勝知事

 6日記者会見の知事発言をもとに、静岡経済新聞は「リニア騒動の真相21 正々堂々の『ちゃぶ台返し』」のタイトル記事をUPしている。10月31日国交省で開かれた国、静岡県、JR東海の「非公開」三者会議の内容を川勝知事が明らかにした上で、国交省鉄道局幹部による静岡県職員への「罵倒」「叱責」を厳しく批判したことなどを取り上げた。

 その記者会見では、川勝知事は名古屋以西のリニア駅について三重県知事、奈良県知事と「饗宴の儀」に同席したときの会話を披露していた。「リニアの真相21」記事で伝えなかったのは、川勝知事のリニアに対するひとつの見識を示すものだが、国交省で開かれた国、静岡県、JR東海との三者会議の内容とはかけ離れていたからである。「うそつきは泥棒の始まり」発言の発端であり、どんな内容だったか、振り返ってみる。

 川勝知事は、従来からリニア開業は2027年の品川ー名古屋間ではなく、品川ー大阪間に延伸した上で、開業年の目標を考え直したほうがよいと明言していた。川勝知事の考えに呼応したような発言が、三重県の鈴木知事から飛び出していたことを会見で紹介した。11月1日に放映されたNHK名古屋の番組「ナビゲーション」で、鈴木知事がリニア開業は2033年伊勢神宮の式年遷宮に間に合わせてほしいとする発言をアナウンサーが言ったのを川勝知事が聞いた、としている。(※複雑な言い方になったのはあくまで川勝知事の発言であり、この番組を見ていないから詳細不明)

 大阪への延伸を開業の目標にしたほうがいいと考える川勝知事は「(三重、奈良とも)まだルートも決まっていないようですけれど、あなたはどこに駅を造りたいのか」と三重、奈良の両知事に尋ねた。

 川勝知事の問い掛けに、鈴木知事は「90%亀山に決まった」と回答したと会見で明らかにした。奈良県知事も回答したようだ。

2016年5月の伊勢志摩サミットで安倍首相。安倍内閣の官邸スタッフを務めた鈴木知事は首相に近いとされる(鈴木知事のブログから)

 川勝知事は、2045年開業とされていた品川ー大阪間のリニア開業について、官邸主導でリニアへの3兆円の財政投融資が決まり、8年間の短縮が図られ、開業が2037年に前倒しされたのだから、さらに、3兆円プラスしてもらい6兆円の財投が決まれば、数字の理屈で言えば2030年開業も視野に入るという計算を披露した上で、ルート選定ですでに地元の理解が得られている裏付けとして、鈴木知事の「90%亀山に決まった」発言を明らかにした。

 翌日(7日)付の新聞各紙は、「90%亀山に決まった」鈴木知事発言を取り上げていなかったが、スペイン訪問中の鈴木知事は川勝知事の発言内容を知り、海外出張中にもかかわらず、「事実無根」であり「断固抗議すべき」と担当部長に指示した。

「知事は亀山とは言っていない」は誤報

 8日、三重県地域連携部長は静岡県くらし・環境部長へ電話で連絡を入れ、川勝知事発言に「断固抗議」した。その「断固抗議」を読売三重支局が抜きネタとして、9日付朝刊に掲載。記事の最後には『三重県幹部は、読売の取材に「知事は亀山とは一切言っていない。今後も言われたら困るため対応した」と話した』とある。読売記事を読めば、「事実無根」は「亀山」という地名を川勝知事が出したことである、と誰もが考えるだろう。読売を追い掛けた各社ともほぼ、同じ内容で伝えた。

 読売記事には、『静岡県部長が「申し訳なかった」と謝罪した』とあり、話を複雑にしてしまった。鈴木亨静岡県くらし・環境部長に確認すると、「謝罪したのは事実だが、川勝知事の発言内容の正否ではなく、謝罪にそれほど深い意味はなかった」と話した。「お騒がせして申し訳ない」と言ったところが、謝罪内容だったという。

 ところが、三重県部長は静岡県部長が謝罪したことも読売記者にしゃべってしまった。「静岡県が謝罪した」という事実だけが残り、鈴木知事は、三重県による「断固抗議」が功を奏したと勘違いしたようだ。

 スペインから帰国した鈴木知事は11日午前、定例記者会見に臨んでいる。そこで「事実無根」の内容が明らかになった。

 会見で鈴木知事は「ああういう言い方は一切していません。活発に活動されているのは亀山とかが、昔から活動されていますねって話をしただけなんで、全く事実無根である」と述べている。これで、三重県幹部が読売記者に言った「知事は亀山とは一切言っていない」が間違いであることが明らかになった。「亀山」という地名を川勝知事が出したことは、「事実無根」ではなかった。となると、「90%」が「事実無根」なのか?

 鈴木知事は「ああいう言い方をしない。何か特定の割合を言って、ああいう言い方をそもそもしない、なので事実無根だ」と述べている。つまり、川勝知事の「90%亀山に決まった」のうち、「90%」という割合を示していないのが、鈴木知事の「事実無根」だった。三重県の地元メディアに聞いてみると、(鈴木知事を含めて)三重県のリニア新駅は「亀山でほぼ、決まり」と考えているらしい。「90%亀山に決まった」ではなく、「ほぼ、亀山に決まった」と川勝知事が言えば、問題はなかったのかもしれない。

 鈴木知事の「断固抗議」の意味は、「極めてセンシティブな話を何らプロセスを経ず軽々しく言われた」「饗宴の儀で歩きながら立ち話をしたことなので、正確な言い回しとか、言った言わないを申し上げるつもりはない」「了解なく、立ち話のような場でのことを定例会見でおっしゃるのはどうか」など。川勝知事が立ち話を何の断りもなしに話題にしたことを担当部長に抗議させたのであり、「お騒がせした」という静岡県からの謝罪を受け入れたようだ。

 鈴木知事は「事実無根」と短い会見の中で5回も述べたが、その意味は読売新聞が書いた「事実無根」とは全く違っていた。「事実無根」とは「事実に基づかないこと」だが、鈴木知事の使う「事実無根」は、自分自身の”言い方”と違った場合は「事実無根」。これでは相手に伝わらないから、担当部長さえ勘違いして、読売は誤報してしまった。

 11日午前中に記者会見を済ませたあと、鈴木知事は東京へ向かった。全国知事会に出席するためである。

鈴木知事「事実無根」は単なる独特の言い回し

 午前中の記者会見で、全国知事会で川勝知事に抗議をするかと問われた鈴木知事は「この件で話すつもりはない。そもそも何ていうか事実無根なんで、わざわざ声を掛けて、やりとりをする必要性はないと思っている」と述べた。本当に「事実無根」であるならば、その問題をはっきりさせなければならない。鈴木知事の「事実無根」は本来の意味ではなく、軽い意味で使う知事独特の言い回しだから、謝罪を受け入れて終わりと考えたようだ。

 全国知事会で、わざわざ声を掛けたのは、鈴木知事ではなく、川勝知事だった。川勝知事は、鈴木知事が「事実無根」をどんな意味合いで使っている分からないから、「事実無根」発言を問題にした。静岡県の公務員心得8カ条のうち、「心は素直に嘘・偽りを言わない」を鈴木知事に示した上で、「わたしはあなたがおっしゃた通りに言った」と問いただした。その問い掛けに、鈴木知事も午前中の記者会見で述べたように「何ら了解もなく、立ち話のような場でのことを定例会見でおっしゃるのはどうか」などと切り返せばよかったのだが、「事実とは違う。交通結節性の高い場所での設置を求めていること、亀山の商工会議所が誘致活動に力を入れていることは伝えた。『90%』という根拠のない数字を使って話すことはあり得ない」と反論した。(中日新聞12日付朝刊)。これでは、何が「事実無根」かわからないから、相手が怒ってしまうことに気づかなかった。

 鈴木知事の「事実無根」は、川勝知事の怒りに火をつけ、19日の記者会見での「うそつきは泥棒」発言につながった。 

「嘘つき」が政治家の間で横行?

 リニア中央新幹線で三重県のどこに開業しようが、静岡県には全く関係はない。関係してくるのは、2027年開業を目指すJR東海によるリニア南アルプストンネル静岡工区の早期着工問題だけである。

 川勝知事は「2027年は企業目標」として、JR東海は静岡県の水環境問題を解決することが重要との姿勢を崩さない。一方、鈴木知事は6月の知事会見で川勝知事に「早期着工に向けて誠実に対応してほしい」などの注文をつけ、さらに、リニア沿線の「期成同盟会」に川勝知事が入会申請書を提出したことに、愛知県の大村秀章知事を支援、入会反対の姿勢を明確にしている。

 鈴木知事の「事実無根」が意図的なものか、国語力の問題かは分からないが、両者の立場が違った場合、その議論、対話がいかに難しいか、今回の問題で際立ってしまった。それは、静岡県、JR東海との議論、対話でも同じことである。

 JR東海は2018年10月、「原則的に静岡県外に流出する湧水全量を戻す」と表明したが、ことし9月になって、「工事期間中の湧水を全量戻すことはできない」と湧水の一部は、山梨、長野両県に流出することを認めたため、利水者たちは強く反発している。

 JR東海の「湧水全量戻し」表明について、金子慎社長は「話が進まないので、利水者の理解を得たいと方向転換した。問題を解決しようとした中で出てきた方策」と発言、利水者たちの賛同を得るための”方便”であり、「できるかどうかわからない表明」を認めた。「湧水全量戻す」と言えば、利水者たちも理解してくれるだろうと考えたようだが、静岡県が不確実性の高い問題にさらなる回答を求めたため、JR東海は「湧水全量戻しはできない」と再度、方向転換した。

 「嘘も方便」は、辞書では「ことをうまく運びためには、一つの手段として嘘が必要なこともある」。つまり、立場が違えば、「嘘つき」も正当化されるということだ。しかし、水環境の議論で「方便」は通用しなかった。

 「嘘つきは泥棒の始まり」。こちらは強烈である。そう名指しされた鈴木知事は「事実無根」を言い立てるのだろうか?11月に入り、ことしはやったキーワードに「嘘つき」が浮上している。

2007年11月14日号「サピオ 大新聞の余命」特集号からの写真

 最近の安倍首相にかかわる「桜を見る会」問題には、さまざまな「嘘つき」がいるようで、政局に大きな影響を及ぼすかもしれない。川勝知事は「最近はあったこともなかったようにすることが政治家の間で横行している。うそつきは泥棒の始まり。人の上に立つものはうそ偽りはいけない」とも述べている。「桜を見る会」を意識しているのかもしれない。

 「事実無根」を問題にした川勝知事の「嘘つき」呼ばわりに、鈴木知事はさらなる反応を示すのだろうか?川勝知事の見立てではないが、「嘘つき」も最近の政治家に横行する資質だから、案外、喜んでいるかもしれない。ふつうそんなことはありえないが、今回の「事実無根」で「断固抗議」の内容を見ていると、政治家がふつうではないことだけは見える。

※タイトル写真は、菅官房長官に太平洋・島サミットの三重県開催を要望する鈴木知事(鈴木知事のブログから)

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *