リニア騒動の真相43「正直」こそ最善の戦略!

シナリオ通りの「知事と10市町長の会議」

市町長のマスクは5人、マスクなしも5人、その見解を聞いたほうがよかったかもしれない

 静岡県の川勝平太知事は11日、リニア南アルプストンネル建設作業道となる静岡市の東俣林道等を視察した。その視察結果を受けて、「知事と大井川流域10市町長とのリニア関連意見交換会」が16日、静岡県庁と島田、焼津、掛川、藤枝、袋井、御前崎、菊川、牧之原、吉田、川根本の10市町をウエブで結び、テレビ会議方式で開かれた。袋井市長が3度も「聞こえますか?」と大きな声で繰り返すなど、相互に何を言っているのか分からず、また音が割れてネット視聴では非常に聞き取りにくかった。そのせいか、島田、御前崎、川根本、牧之原、掛川、袋井の6市町長が意見を述べたあと、県事務局から「(川勝)知事の都合で、金子(慎JR東海)社長と会うことでよろしいか?」と尋ねると、それまでの6人の回答は賛成4、反対2だったにも関わらず、全員がすんなりと了解した。

 その後、藤枝、菊川、焼津の市長代理が用意した文書を読み上げるなど意見交換にはほど遠く、そんな中で、掛川市長が「JR東海の準備工事は静岡県の権限でストップできるのか?」と尋ねたのが、唯一、聞く価値のある議論だった。難波喬司副知事が「(許可権限を持つ河川法は)河川区域に関わるものであり、(準備工事の対象となる椹島、千石、西俣の)ヤード(トンネル工事を行うための宿舎を含めた作業場)は対象外である。ヤード拡張に伴う県自然環境保全条例による協定締結は必要」などと答えた。

 今回の目的は、JR東海の「準備工事」を認めるのかどうかの意見を聞くことであり、各自治体の行政トップにある者ならば、「権限」があるかどうかが何よりも優先するはず。それが全く「権限外」の事案にどのように当たるのか?それでも、難波副知事の回答に疑義をはさむ首長はいなかった。

 川根本町長が「ヤード内に生息する動物がどこかへ行ってしまったかもしれない」と述べたが、その疑問に回答できるのはヤード内の準備工事に関わる権限を有する自治体のみである。

 しかし、その肝心の自治体は「意見交換会」の席に呼ばれていなかった。

「準備工事」権限を持つ静岡市は外された

昨年10月の台風被害前の西俣ヤード

 JR東海が求めているヤードの準備工事とは、土砂ピット(穴)、濁水処理設備、資材置き場、坑口予定個所の樹木伐採や斜面補強など。これらの作業に関わる法律は土壌汚染対策法、森林法、土砂採取条例、県立自然公園条例など、さらに、宿舎建設のためには建築基準法の確認作業なども必要。それらの権限はヤード所在地(静岡市葵区田代)である静岡市が有している。

 静岡県が権限を有する河川法許可の審査基準に、「治水上又は利水上の支障を生じないものでなければならない」とあるから、本体工事について中下流域9市町の意見を聞くのは理解できる。しかし、今回の「準備工事」について河川法の「対象外」と難波副知事が明言した。これまでは利水に関係する問題ということで静岡市を外していた。「準備工事」を行えるのかどうかを問うのであれば、静岡市の意見を聞くのが本来の筋である。

 川勝知事と田辺信宏静岡市長との関係がどのようなものであれ、本川根町長の発言「ヤード内の工事で動植物についての影響をどう考えるか」は、川勝知事の主張する南アルプスエコパークの重要性に通じている。すべて静岡市に関わる問題であり、静岡市がリニア問題の会合を避けているかどうかは分からないが、県は静岡市に出席を求めるか少なくとも意見を聞いておくべきだった。

6月17日付日経新聞

 意見交換会の結論について、各紙は『準備工事6月再開認めず 知事と首長ら意見交換 「国の有識者会議待つ」』(日経6月17日付)などと紹介した。「JR東海社長に流域住民の思いを伝えてほしい」(島田市)、「国の有識者会議の結論を待つべき」(掛川市)、「2027年開業にこだわるヤード整備の進め方は住民の不信感が増す」(藤枝市)など的外れの意見が続いた。

 結局、「準備工事6月再開認めず」の結論で終えた。島田市長は「リニア工事に反対しているわけではない」とも述べていた。政治家としての戦略の1つかもしれないが、「本体工事」に関わる水環境問題ではないところまで「反対」してしまえば、全国の有識者は「静岡県は(本当は)リニア反対」と見るだろう。

 今回の意見交換会をシナリオに沿った”茶番劇”と批判する関係者がいたが、その批判を否定できない。静岡市を外した上で、このような結論では、まともな議論を行っているとは思われないだろう。

昨年9月の川勝知事「筋違い」発言

 昨年9月10日の定例記者会見で、川勝知事は「(田代ダムの水利権の話をJR東海に求めるのは)筋違い。第三者のJR東海は何か言うべき立場にはない。JR東海がやるべきは湧水全量を戻すことに尽きる」と述べた。

田代ダムの大井川の水は早川へ流出する

 「上流部の河川水は、その一部が東京電力管理の田代ダムから早川へ分岐し、山梨県側へ流れている。このことを踏まえた上で、静岡県の水は静岡県に戻す具体的な対策を示す必要がある」と県は中間意見書でJR東海の見解を求めた。この意見書では「田代ダムから山梨県側に流出する静岡県の水を何とかしろ」と求めているように読めるから、JR東海は「東電の管理する田代ダムについて取水の制限をするのは当社では難しい」と回答した。

 このような議論に対して、川勝知事「筋違い」は、田代ダム水利権はJR東海ではなく、静岡県、中下流域の利水者と東電との問題であることを踏まえた発言だった。

 川勝発言などを紹介した『リニア騒動の真相16「筋違い」議論の行方?」は、「Honesty is the best policy」を結論として挙げた。雷と電気が同一であることを立証して避雷針を発明した科学者で、アメリカ独立宣言起草者の政治家ベンジャミン・フランクリンは『「正直」は美徳ではなく、最善の戦略である』をモットーにしたことを踏まえ、川勝知事は「Honesty is the best policy」を承知して、「正直=最善の戦略」を取っていると評価した。果たして、今回はどうか?

 金子社長は26日、県庁を訪れ、川勝知事と会談する。1時間の予定であるが、川勝知事は10市町長との意見交換会結論「6月中の準備工事再開は認められない」を伝えるだけなのだろうか?20日付静岡が「県庁本館の正面玄関で金子社長を知事が出迎える」として、”異例の厚遇”という記事を書いた。単にマスメディアのための演出ならば、金子社長は出迎えを断り、そっと裏口から入ったほうがいい。”異例の厚遇”が単なる表面的なものではなく、知事の「正直=最善の戦略」であるかは政治家としての評価につながるだろう。

大井川開発の歴史は大倉喜八郎に始まる

 6月14日付『リニア騒動の真相42雨中の”こんにゃく問答”対決!』でそもそも「準備工事」は静岡県の権限ではないのだから、「JR東海は地権者の特種東海に要請すべき」と書いた。

大倉喜八郎(東海パルプ創業者、同社の100年史より)

 南アルプスの24430㌶という広大な社有林経営のためにことし4月誕生した特種東海関連会社・十山(本社・静岡市)の鈴木康平社長は「(準備工事でJR東海が静岡県の了解を得てもらうのは)利水者でもある当社の価値を守るため」と答えている。「死の商人といわれた大倉喜八郎には、日露戦争で缶詰に石ころを入れて送ったという噂が根強く流れていた」(河原宏『日本人の「戦争」』築地書館)という大倉喜八郎がその広大な山林を買収した。噂通りの冷徹な商人を創業者に持つならば、どうしてJR東海の最大事業に手を貸さないのだろうか?

 「東海パルプ100年史」(2007年12月)序章は、「大倉喜八郎と井川山林」を詳しく書いていた。「電気好き」だった大倉は渋沢栄一らと大倉組内に東京電燈(後年、東京電力に吸収)を設立したとある。関係者によると、大井川の水を田代ダムから早川に流して電力事業に乗り出したのは、大倉だったようだ。

 田代川第1、第2発電所は大井川から最大取水量4・99㎥/秒の水利権を持つ。東電は田代ダムに貯水される大井川の水を最大4・99㎥/秒使用できる。南アルプストンネル開設後、大井川表流水の減量分0・7㎥/秒のうち、JR東海は0・4㎥/秒を西俣非常口から西俣川に戻すとしているが、田代ダムからの維持流量を増やすほうがずっと大井川の水は戻るはずである。

 特種東海が南アルプスの地権者としてではなく、下流域の利水者としての立場で、JR東海に県の了解を求めるように主張するのは田代ダムの話を振られたくないからなのだろうか?

 大倉の時代、井川地区をはじめ南アルプスは林業が栄え、多くの人々が生活の糧にしていた。11日の知事視察に同行した記者たちは、大井川河岸にあまりに大量の流木が押し寄せているのに驚き、林業がいかに廃れてしまったのかを目の当たりにした。

 林業の栄えた大倉の時代は遠い昔であり、井川などの貧しい過疎地域も中下流域からは遠い場所にある。だからこそ「水を飲む者はその源を思え(飲水思源)」が大切なことばとなる。

「飲水思源」の感謝が解決の糸口だ

6月11日知事視察で河床の上がった畑薙橋を見学する参加者

 「飲水思源」は、静岡市出身の高橋裕東大名誉教授(河川工学)が教えてくれた。30年前、中国でその言葉を知った高橋教授は当時、日本の各地で起きていたダム反対運動を連想したという。「下流でダム開発により水資源の恩恵に浴する人々は、上流でダムによって水没した人々や集落に思いを馳せよう」と話した。

 林業が廃れたいま、特種東海は椹島を中心に観光開発に期待を掛けている。それが、上流部に生活する人々に恵みをもたらす可能性は大きい。

 「桶つくるさわらの島の新事業、でき上るまでたがをゆるめな」。1926年大倉喜八郎が90歳を記念して、標高3120mの赤石岳登頂のときに読んだ歌が残る。当時の新事業とは水力発電だったが、いまや観光開発こそ期待の新事業である。

 26日午前、奇しくも静岡市で特種東海の株主総会が開かれる。金子社長はその席へ出向き、特種東海社長に懇願したほうがいい。さらに、午後1時半からの知事との面会に同席をお願いすべきだ。「準備工事」がテーマであるならば、地権者の同意は欠かせない。それが南アルプス観光開発につながる。

 20日付中日は1面トップ記事で「2027年リニア開業が絶望的な状況」を伝えた。本体工事に6年余も掛かるのであれば、準備工事を6月から始めてもとても2027年に間に合わない。知事も副知事も「河川法の許可権限」を取引材料にしないと重ねて明言してきた。水環境問題は科学的、工学的に議論を重ねても、正しい結論を得るのは非常に難しい。当初、JR東海は流域の市町へ思いを馳せることをしなかった。だから、これほどまでに静岡県の理解が得られていない。JR東海も「飲水思源」の感謝のことばを胸に流域の人々に向かい合ってほしい。

※タイトル写真は静岡県庁で川勝知事が10市町長とのウエブ会議にのぞむ様子。撮影後、事務所に戻り、パソコンで会議を視聴した

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *