リニア騒動の真相42雨中の”こんにゃく問答”対決!

昨年も同じ議論、県は「本体工事」を蹴る

赤崩について説明する川勝知事(真ん中後ろ姿)。赤崩れは右上の土砂崩れ

 ほぼ1年ぶりとなる6月11日、川勝平太静岡県知事の南アルプスリニア工事現地視察に再度、同行した。時折、激しい雨が降る中、川勝知事は精力的に大井川河原を歩き回り、大規模な斜面崩壊が長期間にわたって続く赤崩(あかくずれ)の現況などをJR東海の宇野護副社長、メディアの記者らに説明した。視察終了後の囲み取材で川勝知事は「宇野副社長が赤崩を間近で見たのは初めてと聞いた。ぜひ、金子(慎JR東海)社長にも大井川両岸のすざまじい土砂崩壊をご覧いただきたい」などと話した。

 赤崩から静岡工区基地となる椹島(さわらじま)ヤードに到着後、現地の作業員と話して、1年前とどこが違うのか、そして「準備工事」と「本体工事」の違いが何かがはっきりと見えてきた。

 昨年7月24日、金子社長は会見で「5月20日に申請をした静岡県の許可が非常に遅れている。これでは準備工事に入れない」など、今年同様の発言をした。不当に審査を延ばしているという金子発言を受けて、担当局長は通常1カ月で終える審査が2カ月以上掛かっていることについて、「精査しているから」と答えた。

 それから3週間後の8月13日、静岡県はJR東海から申請のあった河川の仮占用を許可した。この許可によって、千石ヤードに電線、水道管が通り、作業員らの8棟の宿舎のための「準備工事」が始まった。今回の知事視察に立ち会った作業員たちは千石ヤード宿舎を使っていると答え、毎日、約40㌔離れた井川地区から東俣林道を通う危険なでこぼこ道から解放された。

昨年6月千石ヤード宿舎は使われていなかった

 昨年8月の段階で、静岡県は「本体工事」について認めなかった。千石ヤードから西俣ヤードまで2車線の工事用トンネル約4㌔を建設する予定であり、工事用トンネルを掘り出すためには大量の電力が必要となるが、許可しなかった。JR東海は、あらためて大型重機などを動かす電線仮設の許可申請をしなければならない。当時、「精査」が必要だったのは、「準備工事」と「本体工事」を区別する作業をしていたからだ。その結果、宿舎用など957kWの電力供給を認めたが、工事用トンネル建設の約1400kWの電線架設は除外された。

 「本体工事」に入るためにはどうしても静岡県の許可が必要となる。だから、それ以外の樹木伐採や整地など静岡県に許可権限のないすべてが「準備工事」と考えればいい。「準備工事」をJR東海が進めたからと言って、なし崩しに「本体工事」に入ることなどできるはずもない。

「準備工事」はちゃんと進んでいた!

 「今月中に静岡工区での『準備工事』に入らなければ、リニアの2027年度開業は難しい」。金子社長の発言を受けて、川勝知事は「トンネルを掘るための工事なら本体工事の一環だ。2027年はJR東海の単なる企業目標にすぎない」などと答える。

 金子社長の求める「6月中の準備工事再開」が大きなテーマとなり、記者たちの質問が集中した。「本体工事」と「準備工事」の違いは何か?川勝発言は融通無碍に変わった。実際のところ、川勝知事は「本体工事」と「準備工事」の違いを十分に理解した上で、「禅問答」をしていたのではないか。12日付新聞各紙は「準備工事 月内再開認めず」(産経)「知事、『準備工事』に否定的」(静岡)などの見出しが並んだ。

 それでは次の2枚の写真を見てもらおう。

昨年6月の椹島ヤードからの写真

 1枚目は2019年6月13日に現地視察をした際の椹島ヤードから大井川を見下ろしたものであり、2枚目は今回の視察で知事がJR東海からの説明を受けた、ほぼ同じ位置からのもの。左側に見える赤い矢印がリニアトンネルからの湧水を流す導水路トン

今年の視察(昨年とほぼ同じ位置である)

ネル排出口付近を指す。ところで、1枚目の写真と2枚目では大きく違うのがわかる。昨年は大井川河原は大量の砂利堆積が続いていたが、今回は膨大な河原の砂利がきれいに片付けられ、さらに導水路付近が一段高くなり、河原には排水のための水路ができている。赤い矢印の区域は整地されている。「準備工事」は着々と進んでいたのだ。12日、JR東海が発表した資料では、赤い矢印区域の濁水処理設備等の設置や樹木伐採、斜面補強など手をつけたいようだ。ただ、2枚の写真を比べると、手前の斜面補強はすでに行っているように見える。

 現地視察後、宇野副社長に「もし、『2027年度開業』が絶対に外せないならば、静岡県には何の権限もないのだから、地権者の特種東海製紙に強く要請すべきではないか」と聞いた。宇野副社長は「静岡県の”了解”をとってくれと特種東海が言っているから」と答えていた。

 現地視察をしたあと、川勝知事、宇野副社長の話を聞くと、まるで「こんにゃく問答」だった。とんちんかんでわけのわからない「禅問答」である。

「こんにゃく問答」ー特種東海が”了解”求めたから?

 リニア静岡工区工事で最大級の恩恵を受ける特種東海はなぜ、JR東海の意向を無視するのだろうか?

 JR東海が「準備工事」を進めたい椹島、千石、西俣の3つのヤード、それに続く道路などいずれも地権者は特種東海である。また、特種東海(島田市の旧東海パルプが前身)は毎秒2㎥もの水利権を有する、大井川の恩恵を受ける利水者でもある。リニア工事は流域の10市町には何のメリットもないが、特種東海は”リニアバブル”とやゆされるくらいに経済的な恩恵にあずかるといわれる。

椹島はリゾート地に生まれ変わる(パース図)

 椹島に建設される大型の宿泊施設はリゾートホテルに転用される。また、東俣林道が整備されれば、特種東海の二軒小屋ロッジ、ウイスキー工場などを含め南アルプス観光の発展が大いに期待できる。リニア工事後にはすべて特種東海が運営していく。それなのに、特種東海はJR東海の要望になぜ、首を縦に振らないのか?

 昨年のように静岡県に権限があるならば、川勝知事に許可を求めるのが筋だが、今回の「準備工事」は違う。ところが、川勝知事が認めないから「準備工事」ができないと報道、そのために、2027年リニア開業の遅れは必至とメディアは伝える。

椹島ヤードの宿舎建設が進む(今回の視察)

 「準備工事」再開のために、金子社長は川勝知事の面会を求める。23日開催のJR東海株主総会で、川勝知事が認めないから、「準備工事」に入れず、2027年開業が遅れると説明するのだろうか?これでは静岡県がストップを掛けているようだ。静岡県に「準備工事」を止める権限など全くないのだから、特種東海と話すべきである。

 2027年開業にどうしても「準備工事」が必要ならば、民間のトップ同士で話し合えば、何とかなるはずではないか。わからないのは、川勝知事の顔色をうかがうことで特種東海にどれほどのメリットがあるのかだ。そもそも、JR東海、特種東海との間にどのような契約があるのかもさっぱりわからない。もし、「2027年開業」が遅れた場合の責任はJR東海か、静岡県か?はたまた特種東海か?

 川勝知事、宇野副社長の「こんにゃく問答」を演出したのは、実は特種東海だったかもしれない。

「崩れ文化」を共有する流域市町のための視察

13日、畑薙橋付近で説明を受ける水嶋局長(その向こうが赤崩)

 13日、国交省の水嶋智鉄道局長、江口秀二技術審議官らが報道陣を入れないで現地視察をスムーズに行った。午後6時半からの会見で水嶋局長は「『準備工事』、『本体工事』といったことばが乱れ飛んでいるが、観念的、抽象的なことばの議論に陥らないで建設的な議論が行われることが重要」などと話した。まさに、その通りである。

 ただし、川勝発言が観念的、抽象的な「禅問答」となったのは、JR東海にも責任がある。権限に基づかない、あいまいな”了解”を求められたからである。水嶋局長は「県が判断を行う場合、どのような法的根拠によるものか明確に示す必要がある」と指摘、それでは、特種東海から川勝知事に託された”了解”はどのように考えるのか、水嶋局長に尋ねたが、はっきりとした回答は得られなかった。多分、当事者同士ではないので深く立ち入ることはしないのだろう。金子社長は昨年から「準備工事」ということばを使い、静岡県もその違いを認識していた。一度、国交省主導でJR東海、特種東海の会合を持ったほうがいいのではないか。”了解”などという法的根拠や制度とは関係のないあいまいな手続きのための面会を求められているのだから。

 16日のウエブによるリニア関係10市町長意見交換会(焼津、藤枝、菊川は代理)が行われたあと、今月中に川勝知事は金子社長と話し合いを持つのだろう。

 川勝知事が、金子社長にも見せたいと言った「赤崩」は崩壊面積約38㌶にも及ぶ大規模な崩壊地である。もし、赤崩の治山事業を行えば、数百億円規模に膨れ上がる。リニアトンネル工事で最大の残土置き場となる燕沢(つばくろさわ)で、堰堤の土砂が埋まっていることを川勝知事は指摘した。1966年から、静岡県の要請で林野庁の民有林直轄事業がスタートしているが、あまりに大規模なために広範囲には手が付けられない。かろうじて、燕沢には治山用の堰堤が築かれている。大井川両岸の「崩れ」はいたるところで見られる。

 下流域には生命に匹敵するほど大切な水同様に、大井川の大量の土砂も大切である。長い年月を掛けて堆積していき、大井川平野を形成した。さらに駿河湾に流れ出て美しい海岸部をつくる。川勝知事は、大井川の「崩れ文化」を話すことで、その流域に暮らす人々の生活に思いをはせてほしいと金子社長にお願いするのだろうか。

 どのような決着点か見えてこないが、国交省が適切な指導に入る姿勢だから、建設的な結論に向かうはずである。

※激しい雨の中、川勝知事(左)、宇野副社長が燕沢の残土置き場を視察した

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