リニア騒動の真相45「闘い」は正々堂々とやるべき

難波発言の信ぴょう性を疑う

7月4日付静岡新聞朝刊

 「昨年6月13日の現地視察によって、(川勝平太)知事は(5㌶以上の静岡県自然環境保全条例に基づく自然環境保全協定締結が必要な)ヤード(宿舎を含む作業基地)工事が本体工事であることを確認した」。静岡県は3日午前、川勝知事、金子社長との対談内容に疑問を抱いたJR東海からの照会に対して、「(椹島、千石、西俣の3)ヤード整備はトンネル本体工事の一部であり、認められない」という回答書を提出した。同日午後、難波喬司副知事は記者会見を行い、昨年6月時点で「JR東海が求めている3ヤードの準備工事はトンネル掘削工事の一部」と川勝知事は認識、今回の対談で唐突に県自然環境保全協定を持ち出したわけではないことを明らかにした。

 県担当理事によると、昨年5月31日大井川水利調整協議会が県庁で開かれ、「なし崩しにトンネル工事に入ることがないように釘を刺された」ことで、川勝知事は現地視察でヤード工事の現地を見るのが大きな目的の一つとなったという。

 本当にそうだったのか?

 昨年の現地視察2日前、6月11日の会見で川勝知事は2011年5月以来、8年ぶり2度目の現地視察について、①現場で安全に工事がなされているのか、②自然生態系に対する破壊が進んでいないか、③JR東海が整備している林道や建築物が将来の観光に生かせるのかの3点を視察の目的に挙げた。

昨年6月13日現地視察。千石ヤードの囲み取材

 13日現地視察では、椹島ヤード、千石非常口トンネル予定地に続いて、千石ヤードの宿舎建設予定地で囲み取材を行った。その前後で、川勝知事は今回問題になっている沈砂池、濁水処理設備、工事用道路トンネル坑口などの準備工事予定地を見学してはいない。囲み取材を終えるとすぐに、知事一行のみが報道陣とは別に西俣ヤードを視察するため慌てて出発した。千石ヤードでは今回、JR東海が申請する準備工事予定地を川勝知事は現地で確認しなかった。難波発言は額面通りに正しいとは言えない。

 その後28日の会見で、川勝知事は現地視察を振り返って強く印象に残った2点を挙げて、①所有者の特種東海が全く手に負えない「赤崩れ」の山地崩壊のすざまじさ、②県公用車がパンクしたことを踏まえ、作業の安全に関わる林道整備の重要性などを詳しく述べた。作業の安全確保に関係して、JR東海による市道閑蔵線トンネル整備の必要性にも言及した。しかし、昨年視察後の会見で、「大きな目的だった」県自然環境保全条例に関わるヤード整備についてひと言も触れなかった。ことし6月11日の知事視察後の囲み取材でも昨年印象に残った①、②に触れたが、県自然環境保全条例について全く触れていない。川勝知事が県条例を口にしたのは金子社長との「対談」が初めてである。

 これで果たして、川勝知事は昨年6月の時点で県自然環境保全条例の協定締結を念頭に現地視察をしたと言えるのか?

「なし崩し」を拒否できる県の許可権限

 昨年7月24日、金子社長は「5月20日に申請をした静岡県の許可が非常に遅れている。これでは準備工事に入れない」などと発言した。この席で、準備工事には地権者の同意が必要であることを明らかにした。当時、金子社長が問題にした準備工事とは、千石ヤード宿舎整備を指している。

大井川左岸から右岸に電線を通すのには河川法の許可が必要

 JR東海は千石ヤード整備に入るに当たって、大井川左岸から右岸を飛び越えて電線を引く必要があり、静岡県から河川法の占用許可を得なければならなかった。このため、5月20日にJR東海は占用許可申請を提出したのだが、標準審査期間の28日を過ぎ、2カ月以上たっても許可が下りていないことに金子社長が不満を述べた。その2日後、26日の知事会見で中日記者が、その件を問いただした。担当局長は、JR東海の申請が準備工事か本体工事なのかを慎重に精査している旨を述べた。それから3週間後の8月13日、県はJR東海から申請のあった河川占用を許可した。

 県は、千石ヤードと西俣ヤードを結ぶ約4㌔の工事用トンネルをトンネル本体工事の一部に位置付け、掘削を認めない方針をJR東海に告げた。この結果、千石ヤード工事で必要な957kW供給できる電線架設を認めたが、工事用トンネル掘削で必要な1400kWの電線架設は認めなかった。水環境問題をテーマとする県中央新幹線環境保全連絡会議での協議を行い、「施工計画」「環境保全計画書」などを了解した上で本体工事に必要な許可を出すことになった。つまり、JR東海は「なし崩し」でトンネル本体工事へ一歩も進めないのだ。

 昨年5月31日に開かれた大井川水利調整協議会は、20日にJR東海から河川法の申請があったため、それに関する意見を聞くことが目的だったのだろう。「なし崩し」云々は出たかもしれないが、県は河川法の許可権限でトンネル本体工事をストップできることを説明したに違いない。県自然環境保全条例で利水者の意見聴取をする必要性は全くないのだ。

 昨年7月26日の会見で、ヤード整備について特種東海の同意が必要であることに関して、中日記者は知事の見解を求めた。結局、川勝知事は質問をはぐらかせて答えなかった。今回、県自然環境保全協定を結ぶのに当たって、当然、地権者の特種東海の同意は必要だが、利水者でもある特種東海は県の承認をJR東海が得ることを求めている。この経緯については、『リニア騒動の真相42雨中の「こんにゃく問答」対決』『リニア騒動の真相43「正直」こそ最善の戦略』を参照ください。

 河川法の許可権限で「なし崩し」など到底できないことが分かっていて、さらに県が自然環境保全条例でヤード整備をストップする理由は全くわからない。

県の行政判断はあまりに一方的だ 

6月26日の「対談」

 6月26日金子社長との「対談」で、川勝知事は「県自然環境保全条例で5㌶以上であれば、自動的に委員会にかけて許可、不許可が決まる。県の権限はこれだけである」、その後の囲み取材でも「ヤード工事は明確にトンネル工事ではない。(県自然環境保全)条例を締結すれば、問題ない。条例に基づいてやっているので、協定を結べば、活動拠点を整備するのであればそれはよろしいと思う」などと述べている。

 これらの知事発言を聞いて、金子社長だけでなく、JR東海関係者はヤード整備で川勝知事の了解が得られたと受け止めた。しかし、その後、事務方の説明を経て、2度目の囲み取材で、川勝知事ははっきりと準備工事は本体工事の一部であり認められないと断言した。JR東海は29日、「対談で知事は5㌶以上であれば協定締結の可否によって判断すると述べた。速やかに協定締結の準備を整え、ヤード整備に入りたい。もし、それが困難であること及びその理由についてうかがう」旨の書面を難波副知事宛に提出した。

 難波副知事の回答は、「ヤード工事はトンネル掘削工事の一部である」という行政判断をしたという一方的な解釈を示した。このため、JR東海は3日、「条例の目的に照らして正当なものではなく、これまで担当課から説明を受けて準備を進めていたこととは違う」と不満を述べた上で、「変更した経緯と理由について明らかにしてほしい」旨を可能な限り早期で回答するよう求めた。

 JR東海は県からすでに条例に基づいた「協定書案」まで示されていた。今回の新たな対応に、JR東海は文書に「戸惑っている」と書く通り、県は従来の姿勢を大きく変えたのだ。わたしの認識もJR東海と同じであり、もう一度、昨年来担当している自然保護課職員に取材しようとしたが、”多忙だ”と断られた。市川敏之くらし・環境部長は「いまになって考えを変えたわけではない。昨年と同じ」と回答した。難波副知事は、一つの開発行為を分割して順次認めた場合、「条例の趣旨が崩壊する」とまで述べたが、そもそも県条例はヤード整備に限定していたはずである。

 果たして、どちらの主張が正しいのだろうか?

お隣の山梨県自然環境保全条例は?

 環境省所管の原生自然環境保全地域、自然環境保全地域に準ずる地域として、各都道府県は自然環境保全条例の地域指定している。地種区分では開発の可能な地域。静岡県条例の第1条で「生物の多様性の確保その他の自然環境の適正な保全を総合的に推進する」を目的とし、地域内の動植物の保全などを求めている。お隣の山梨県自然環境保全条例でも、「生物の多様性の確保その他の良好な自然環境の保全」が目的で、開発に対して動植物の保全措置を取ることなどを条件に協定書を結ぶなど同じである。

 昨年5月、JR東海に示した「協定書案」では、トンネル坑口、濁水処理施設などの1・75㌶内のレッドデータブックに記載された動植物の保全措置を取ることでヤード整備は問題ないとするのが従来の県の姿勢だった。

 ところが、今回の「対談」後に、県はトンネル掘削による河川への影響を議論している県リニア環境保全連絡会議生物多様性専門部会の結論を得ることまで求めている。

 県リニア連絡会議設置は、国のリニア環境影響評価書に基づく知事意見で、大井川の河川環境に重大な影響を与えることを危惧するための対応であり、トンネル本体工事、導水路トンネル、輸送用トンネルなど水環境に影響を及ぼす恐れのある工事に対して利水者らの不安解消をJR東海に求めている。生物多様性専門部会で主に議論になっているのは、絶滅危惧種ヤマトイワナなど水生生物をテーマにしているのはこのためである。

 自然環境保全条例の範囲が、県が従来の考えを変えてトンネル掘削工事すべてを含めることが適当か、少なくとも同じリニア工事を抱える山梨県あるいは環境省の意見を聞くべきではないか。いくら自治体に裁量があるとは言え、案件によって対応を変えるのはいかがなものか。

 山梨県議会は3日、静岡県との対立でリニア整備の遅れについて「国が前面に立って課題解決に取り組むべきだ」という意見書を可決した。開業遅れが山梨県へ与える影響が大きいとしている。

2003年中国で流行したSARSウイルスを媒介したとされるキクガシラコウモリ

 南アルプスは本州に分布するコウモリのほとんどが生息する、コウモリ類多様性の高い地域。ヒメホオヒゲコウモリ、ニホンウサギコウモリ、キクガシラコウモリ(SARSの媒介動物とされる)、モモジロウコウモリなど準絶滅危惧種が生息しているが、その分布は正確にはわかっていない。南アルプスエコパーク保全が重要となれば、それらコウモリ類について正確に調べなければならない。生物多様性をとことんやれば果てしない。「環境」を優先すれば、「リニア」はあきらめるしかなくなるだろう。

 「対談」とその後の知事会見を見れば、川勝知事が県自然環境保全条例を正確に理解していたとは言えない。そのために言い訳を糊塗するような「嘘」が出てきてしまう。川勝知事は『「嘘つきは泥棒の始まり」であり、公務員は絶対に嘘をついてはいけない」と何度も述べてきた。「闘い」は正々堂々とやるべきであり、なぜ、こんなところにこだわるのかさっぱり分からない。

 ※タイトル写真は3日の副知事会見。記者たちは肝心のJR東海の疑問について理解していなかったようだ

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