リニア騒動の真相71県知事選・中野祐介氏出馬は?

北海道新聞の伝えた「静岡県知事候補」

 7月4日に任期満了を迎える72歳の川勝知事の4選出馬は、健康上など何らかのアクシデントが発生しない限り、ほぼ間違いないだろう。

 リニア静岡問題との関係を含めて、川勝氏の知事選への動向について、22日東洋経済オンラインに『リニアの命運握る、「6月静岡県知事選の行方」 選挙に強い川勝平太知事、対抗できる有力候補は』をアップした。今回のリニア騒動は自民県連の対抗馬について紹介するが、もし、読んでいないようであれば、まず、こちらからご覧ください。

 記事の最後に、『現在、対立候補に名前が挙がっている鈴木康友・浜松市長は、県内東、中、西の経済界が手をたずさえ、三顧の礼で迎えて、支持表明しなければ、出馬の可能性は薄い。また、圧倒的な知名度を持つタレントや県出身官僚などの有力候補者は見当たらない。このままでは、川勝知事が圧勝し、リニア計画は大幅な見直しを迫られるだろう。』と、現在のところ、自民県連の候補擁立に必死だが、具体的な立候補予定者はまだ決まっていない状況である、と書いた。

 北海道新聞が16日朝刊で『静岡県知事選に道副知事擁立論 総務省出身の中野氏』という見出しのベタ記事を掲載した。県知事選でメディアが初めて、具体的な名前を挙げた。水面下で自民が擁立を目指す候補に、「北海道副知事の中野祐介氏」が浮上したのである。

 と言っても、現在のところ、中野氏が出馬表明をするのかどうか分からない。当然、自民県連が出馬の記者会見をちゃんと整え、県内各支部に周知徹底を図り、党本部としっかりと連携できるかが勝負の分かれ目となるから、もし、立候補するにしても、その準備をしているのだろう。22日時点では、中野氏の立候補は全く聞こえてこないから、”川勝知事圧勝”は動かないとし、『県出身官僚などの有力候補は見当たらない』にとどめた。もうしばらくすると、中野氏が「最有力候補」となるかもしれない。自民県連は態勢を整え、今回選は背水の陣で臨むはずだ。 

 まず、口火を切った北海道新聞の記事を見てみよう。

 概要は以下の通り。『浜松市出身の中野氏は15日に国会内で山口泰明自民党選対委員長、塩谷立元文科大臣らと会い、意見交換した。関係者によると、知事選は話題に上ったが、党からの出馬要請はなかったという。党県連関係者によると、中野氏の名前が選択肢の1つに挙がっている。中野氏は「擁立論は聞いていない」と答えた』。記事には「出馬要請はない」「擁立論は聞いていない」など否定的なニュアンスが色濃い。これをそのまま読めば、中野氏の立候補は限りなくゼロに近い。

 北海道新聞は、中野氏の副知事辞職に関心があるのだろう。だから、本人のことば通りに、出馬に消極的な姿勢しか紹介していない。そもそも、15日の時点で、現職の副知事が、他県の知事選出馬を地元記者に匂わせるはずもない。記事はあいまいなものになることを承知の上で、それでも質問をして、否定的な回答を得ただけである。ふつうならば、実際の動きがあるまで内部情報にとどめ、ボツになってもいいくらいである。

 16日の北海道新聞記事が出たあと、県内メディアは中野氏を追っているはずだが、いまのところ、報道は一切ない。中野氏が沈黙しているのは分かるが、自民県連も過去のことがあり、あまりにも慎重になっているのだろう。実際には、各社とも追い切れていないようだ。

 さて、それでは、本当に中野祐介氏は静岡県知事選に出馬するのか?

鈴木康友浜松市長の線は非常に薄い

 東洋経済オンライン記事には、対抗馬として、浜松市長の鈴木康友氏の名前を挙げたが、まず、立候補はないだろうとも書いた。鈴木氏が市長を辞職して、知事選に出馬表明するためには「大義名分」が必要となるからだ。浜松市のコロナ対策だけでなく、行政区画の再編などトップの立場にある鈴木氏は自ら職場放棄するわけにはいかない。鈴木氏が出馬する環境として、自民県連が一枚岩になって要請するだけでは足りない。

 中部、東部、西部の経済界の重鎮が一堂に会して、鈴木氏へ出馬を要請する舞台を演出するくらいのことをしなければ、政令市の浜松市長という責任ある地位を放り出すわけにはいかない。数多くの団体等から請われて、出馬に至るというシナリオが必要である。

 川勝氏に失政がはっきりと見えるならば、鈴木氏の出番となるが、川勝氏はコロナでもリニアでも目立ちこそすれ、県民からは失政と批判される大きなマイナス点は見えない。

 もともと、静岡県の財政は他県に比べれば、ほどほどに豊かであり、県庁職員たちも優秀だから、県政運営の失政は表面的には見えない。川勝知事になってから、補助事業などで国の財政支援は減っている。ただ、それでも基準財政需要額に沿って、総務省は支援するし、コロナ臨時交付金もちゃんとついている。いくらコロナ禍で法人関係税収が落ち込んでいても、県民の生活はあまり変わらない。

 現職の川勝氏が選挙に強いことを経済界は十分に承知しているから、表立って、経済界の誰かが旗を振って、火中の栗を拾うようなことはしないだろう。つまり、現時点で鈴木氏出馬の可能性は非常に低い。

 こんな状況の中で、中野氏に白羽の矢が立った。15日に国会内で、自民県連が中野氏に出馬要請をしたことは間違いない。

2017年4月北海道総務部長に出向した中野祐介氏(当時)

 中野氏は1994年に東大経済学部卒業後、自治省(現在の総務省)に入省。自治官僚として、福岡市、高知県、京都府へ出向した。特筆するのは、2014年に石破茂地方創生担当大臣秘書官を務めたことだ。総務省消防庁から2017年4月、北海道総務部長へ出向、19年6月、鈴木直道知事の就任に伴い、副知事に就いた。他の2人の副知事は道職員OB。中野氏の担当は財政、地域創生、環境・文化・スポーツなど、目下のコロナ対策が最も重要な仕事となっている。

 中野氏出馬には、鈴木氏のように何らかのハードルはあるのか?

 自民県連のシナリオ通りに、中野氏が出馬するとすれば、1月末までに北海道副知事を辞職、総務省への異動となり、退職の手続きを終えたあと、2月初旬に静岡市で出馬の記者会見を行うことになる。

 中野氏は2017年4月に北海道に派遣され、19年6月に任期4年の副知事に就いた。任期に関わらず、ことし4年目を迎えるから、出向人事ではちょうど交替の時期に当たる。鈴木知事は39歳と若いから、新たな自治官僚を迎えるのに何ら問題はない。中野氏が道副知事を辞職することで、コロナ対策を担う責任ある立場を放棄したという批判を受けることもないだろう。定期異動と変わらないからだ。

 同じ自治官僚だった石川嘉延・前知事が1期目の出馬を決断したのが52歳だった。現在、50歳の中野氏はキャリアだけでなく、年齢的にもふさわしい。自治官僚の多くは、知事を目指しているから、中野氏が知事選出馬を天命と考えるのかどうか、すべて中野氏次第である。

2期目からは盤石、川勝氏は選挙に強い 

 さて、6月27日(日曜日)が投開票日、2月初旬に中野氏が立候補表明すれば、ほぼ5カ月間の選挙戦が始まる。知名度の全くない中野氏が現職の川勝氏に選挙戦で勝つためには、どのような戦略が必要なのか?

 まず、過去の川勝氏の知事選を見てみよう。2009年7月に行われた知事選は石川知事の後継を決める選挙だった。当時、石川氏は68歳で5期目の出馬に意欲的だった。ところが、静岡空港の立木問題で政治責任を問われ、任期を待たずに辞職した。その後継者として石川県政で副知事を務め、三島市出身で、労働省のキャリア官僚坂本由紀子氏が自民、公明の推薦で立候補した。

 現在のリニア問題同様に静岡空港の立木問題は全国的な注目を集めた。開港前だった静岡空港建設に疑問を抱く県民は非常に多かった。一方、川勝氏は民主、社民、国民新の推薦を得て、民主旋風の追い風に乗っていた。保守王国とされる静岡県でも自民に逆風が強く、坂本氏は1万5千票余の差で涙を飲んだ。天性の雄弁家である川勝氏は爽やかな印象を与え、あっという間に女性たちの人気を得たのも事実である。

 2期目が圧巻だった。64歳の川勝知事の対抗馬は、57歳の広瀬一郎氏で、自民支持にも関わらず、75万票もの大差がついてしまった。6月16日の投開票日に対して、広瀬氏の出馬表明は4月8日であり、正味はほぼ2カ月間強の選挙戦だった。自民県連が広瀬氏の推薦を求めたが、党本部は難色を示し、すったもんだの末、結局、「支持」にとどまったのが大きく影響した。自民は最後まで一枚岩とならず、その結果が選挙戦の大差につながった。

 3期目では、最後に宮沢正美・県連幹事長が出馬を断念したことで、自民候補はいなくなった。柔道家の溝口紀子氏が出馬、自民静岡市支部などいくつかの支部は推薦した。徒手空拳ながら、溝口氏は27万票差で終えたから、前回選の記憶もあり、よく健闘したと見られている。

 後援会組織を持たないが、川勝氏は選挙では圧倒的な強さを見せている。2期目の自民県連の惨敗、3期目の屈辱的な候補者見送りと3回の選挙に自民はなす術もなかった。4期目を阻止するためには、強い候補を擁立するしかない。

自民が一枚岩になれば勝機はある

 自治官僚の中野氏ならば、全くタイプの違う川勝氏に勝てる可能性はあるだろう。川勝氏の1期目に民主旋風が吹いたように、周囲の状況が大きく左右するからだ。

 今回選が、前回選(2017年6月)と大きく違うのは、国政の状況である。2017年10月の衆院選は、自民が圧勝したが、前回選には自民推薦候補を出すことができなかった。今回選では、中野氏が出馬表明すれば、党本部はすぐに「推薦」を出すだろう。

 衆院選は、10月の任期までに解散総選挙があると見られるが、すでに自民が大きく議席を減らすと予測されている。自民現職は現在、必死となり、選挙区を固めているだろう。

 6月までに解散、総選挙が行われない場合、静岡の8選挙区では水面下でし烈な選挙戦が展開されるだろう。知事選は前哨戦と見られるから、各候補とも必死で中野氏を支援、自らの選挙戦も有利に導こうとするはず。中野氏は現職議員の8選挙区をこまめに回り、名前を売り込むことができるのだ。

 逆に、5月までに解散、総選挙が行われた場合、中野氏は8選挙区で連携して、各候補の応援に出掛けることができ、大いに名前を売ることができる。いずれにしても、衆院選の動きは中野氏には追い風となるはずだ。

 自民が一枚岩になるかどうか?自民がこぞって中野氏を応援できるならば、中野氏に大いに勝機がある。2013年の広瀬氏のように、自民がばらばらで応援態勢を整えなければ、惨敗の憂き目に遭ってもおかしくない。組織を持たないが、個人的な絶大の人気を誇る川勝氏に対して、組織で対抗する戦略が機能しないようならば、中野氏は窮地に陥る。

 出身、年齢、キャリアをはじめ川勝氏と中野氏では大きく違い、選挙戦略も重要となる。ここまで中野氏の出馬を前提に書いてきた。おっと、まずは、何よりも、中野氏が立候補できるのかどうか、注目したい。

※タイトル写真は、静岡県知事室の川勝平太知事の机

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