リニア騒動の真相70昨夏の大騒ぎ意味があった!

JR東海ヤード工事再開の道が開けた?

 1月8日、静岡県は「JR東海が千石ヤード(宿舎を含む作業基地)で実施するボーリング調査等は、土地の改変面積が5㌶未満(4・98㌶)であり、県自然環境保全条例に基づく保全協定の締結は必要ない」などとする文書を公表した。ヤードは千石のほか、椹島、西俣の3カ所あり、土地の改変は3カ所で行われ、その合計面積が5㌶未満であれば、保全協定の締結は必要ない。保全協定の有無に関わらず、県は千石ヤードの地質調査について計画書を提出させ、問題ないかどうかを確認したのだ。

JR東海資料

 千石ヤードでは非常口から約3・1㌔の「斜坑」を掘削し、リニア南アルプストンネルの先進坑と結ぶ。導水路トンネルができるまで「斜坑」によって、トンネル設置の影響で流出する湧水約0・6㎥/秒を千石非常口から大井川に戻す計画である。今回の調査は、「斜坑」に沿って斜め下向きに約200mのボーリングを実施して、畑薙山断層帯等の影響を確認する。6月までの約半年間、調査が行われる。

 当初、「斜坑」を掘削することで畑薙山断層帯の湧水量がどのくらいかなどを確認する予定だったが、国の有識者会議でもトンネル本体に南アルプストンネル工事の最難関、畑薙山断層帯が及ぼす影響を予測するボーリング調査を求める意見があった。昨年9月、JR東海は千石ヤードでのボーリング調査を計画したが、県が最小限での改変を求めた結果、ヤードの改変地域を0・06㌶に縮小した。それで何とか5㌶未満におさまったのだ。

 県文書には「千石ヤード」とあるが、実際には、ヤードの名称に値する作業基地としては、まだ、機能していない。作業基地には、土砂ピット(穴)、濁水処理設備、資材置き場、坑口予定個所の樹木伐採や斜面補強などの整備が必要である。他の西俣、椹島でも同様である。昨夏、JR東海は3カ所のヤードを完成させるために、県に認めてもらえるよう要望、大きな騒ぎを巻き起こした。

 昨夏は、県条例を根拠にヤード工事再開は拒否されたのだ。県は「県条例に基づく保全協定を結ぶまでは準備工事の着手は認められない。保全協定を結ぶことがヤード工事再開の条件だ」と述べていた。ボーリング調査でも同じなのだろうか?

 県専門部会は、他の断層帯でもボーリング調査を求めている。もし、JR東海が他の断層帯について土地改変を伴うボーリング調査を行おうとすれば、現在4・98㌶だから、5㌶以上になる可能性が高い。5㌶を超えてしまう改変について、県はボーリング調査を認めないというわけか?

 県リニア担当理事は「そんなことはない。ボーリング調査はトンネル本体工事とは関係ないから、保全協定を結んでもらい、ボーリング調査を実施してもらう」とヤード工事とは違い、ボーリング調査ならば問題ないという姿勢である。保全協定は希少な動植物保全の手続きを行うだけのはずだったが、県は本体トンネルとの関連を踏まえて、ヤード工事再開では保全協定締結のハードルを高くしてしまった。

 ところが、JR東海は別のボーリング調査を計画すれば、保全協定を簡単に結ぶことができるようだ。ヤード工事再開には保全協定を結ぶことが要件だったから、これでクリアできることになる。

 昨夏の川勝平太知事主演”ドタバタ劇”の舞台に戻ってみよう。そうすれば、すべてがはっきりと分かるだろう。

「ヤード工事はトンネル工事ではない」と知事

6月16日ウエブ会議

 金子慎JR東海社長と川勝知事との初対談が決まると、大井川流域10市町長と知事とのウエブによる意見交換会が昨年6月16日、開かれた。JR東海が要望するヤード工事再開を認めるのかどうかがテーマだった。中下流域の首長たちは、ヤード工事再開を認め、「なし崩し」にトンネル本体工事着工に向かうのは避けてほしい、と要望した。ヤード工事再開と、中下流域の水問題とは全く無関係であることを首長らは承知していたからだ。ヤード工事再開に対して、首長たちは「水を守る」立場で反対の姿勢を示した。

 そんな中で、松井三郎・掛川市長は「JR東海の準備工事は静岡県の権限でストップできるのか?」と尋ねた。もし、準備工事を認めないならば、法的根拠が必要だと松井市長は指摘したのだ。公平公正に行政を司る首長であるならば、これは至極当然の話である。これに対して、難波喬司副知事が「(許可権限を持つ河川法は)河川区域に関わるものであり、(準備工事の対象となる椹島、千石、西俣の)ヤードについては対象外である。(準備工事再開によって)ヤード拡張を行うならば、県自然環境保全条例による(自然環境)協定締結は必要である」などと答えた。「県の法的権限は県条例にある」と周囲には聞こえた。

全国配信された知事とJR東海社長対談

 そして、6月26日、金子社長との対談を迎えた。1時間以上に及ぶ対談の最後に、金子社長は「ヤードの件は水環境問題ではない。それ以前の問題だと理解してもらいたい」と要望すると、川勝知事は「県自然環境保全条例は5㌶以上であれば、協定を結ぶ。県の権限はこれだけである」などと答えた。知事も「ヤード工事を認める県の権限は県自然環境保全条例のみ」と答えたのだ。

 このあとの囲み取材で、川勝知事は「ヤード工事は明確にトンネル工事ではない。5㌶以上の開発であれば、(県自然環境保全)条例を締結すれば、問題ない。条例に基づいてやっているので、協定を結べばよい。活動拠点を整備するのであればそれでよろしいと思う」などとはっきりと述べた。「ヤード工事はトンネル本体工事ではない」と明確に示し、条例で求める協定を結ぶのが、ヤード工事再開の要件だと示した。この発言からは、知事はJR東海のヤード工事再開を認めたと取れたが、メディアは知事の発言内容が分かりにくく、再度の囲み取材を求めた。

 1時間以上経過して、再び、川勝知事が囲み取材に臨むと、前回の発言を180度変えてしまう。知事は「本体工事と(準備工事は)一体であり、ヤード整備を認められない」と述べた。根拠となるのは、県自然環境保全条例であり、自然環境保全協定を結ぶことだった。この協定締結には、環境影響評価書の国交大臣意見にある地元の理解を得ることが必要で、そのためには、現在、議論をしている県生物多様性専門部会の結論を得ることが条件となるなど、と事務方が説明した。

 7月10日、国交省の藤田耕三事務次官がヤード工事の再開を要請するために県庁を訪れた。川勝知事は「県自然環境保全条例では委員会を設けて、専門部会で許可する。条例について金子社長はご存じなかった」などと述べている。

 JR東海、国と県の文書でのやり取りもちゃんと残っている。

「なし崩し」工事しないと担保したが

 知事、社長対談を受けて、JR東海は6月29日、「当初、知事は保全協定の可否で判断すると回答、その後の会見でトンネル本体工事とヤード工事は一体と発言した。その真意を教えてほしい」などと県に質問した。

7月3日の難波副知事会見

 県は7月3日、わかりにくい4ページの文書で回答した。文書を公表したあと、難波副知事が会見を開き、1時間以上にわたって、メディアの質疑に応じた。「1、県自然環境保全協定の対象となる開発行為の考え方」から始まる文書には、ヤード工事はトンネル掘削本体工事の一部であり、協定を締結する段階ではない、と締め括っている。注目すべきは、「その他」項目に「地質調査は条例締結を行うことなく着工できる」など、「調査工事はトンネル本体工事とは無関係である」と書いてあったことだ。

 県の回答に対して、JR東海は3日、「ヤード工事はトンネル工事とは関係なく、水資源に影響を与えるものではない」から、ヤード工事を認めてほしい、と要望書を提出した。

 県は7日になって、5ページもの長い文書で回答した。「県生物多様性専門部会を開いている。その結論が出てから、保全協定を結ぶことになるのだから、その議論を進めること」を求めている。

 国交省は9日、『1、「なし崩し」でトンネル本体工事はしない。2、県はヤード工事再開を認める。3、有識者会議の結論で坑口の位置や濁水処理設備等に変更があった場合、それに従う』という3つの提案を文書で県に示した。

 県は17日、「1、命の水に対する思い・南アルプスの自然の保全への思い」で始まる6ページもの文書で、やはり、開発行為の一体化を主張して、条例の運用によって保全協定締結ができない見解を縷々述べている。

 結局、県は条例に基づく保全協定締結がなければ、ヤード工事再開を認めることができない主張をしたのである。

 一連の経過を見ていけば、県も流域自治体も、作業基地を整備するヤード工事は、河川法の許可権限に縛られるトンネル本体工事とは無関係である、と考えていた。それで、県条例を根拠に、ヤード工事もトンネル本体工事と一体化したものと拡大解釈して、ヤード工事再開を認めないことにしたのだ。

 ただ、7月3日の文書では、「地質の調査工事は条例に関係なく着工できる」と記した。このときは、地質調査のためのボーリングはやぐらを組む程度であり、土地の改変などを伴わない、と見ていたようだ。

「ヤード工事」再開を認めるべきだが

2019年6月、千石非常口辺りを視察

 そして、千石ヤードの調査ボーリングである。ある程度の土地改変を伴う説明だった。それでも、最小限の土地改変で、今回は5㌶未満におさまった。新たなボーリング調査が出てくれば、そうはいかないだろう。しかし、「地質調査は本体工事ではない」と文書に示しているから、県は地質調査と言ってくれば、認めざるを得ないのだ。

千石ヤードを視察した川勝知事

 一方で、ヤード工事はトンネル本体工事の一部と判断している。「ヤード工事の再開は認められない」の主張はいまのところ、変えることはない。ただ、これまでと同様に、ヤード工事再開を認めない根拠を県条例に求めると、ボーリング調査との整合性がなくなってしまう。ヤード工事を認めないために、トンネル本体工事と一体であると県が解釈する根拠を何に求めるのか?

 そうであるならば、JR東海は、県が求める井川―大唐松断層帯を調べるボーリング調査を行えばいい。このボーリング調査で、県自然環境保全条例に基づく自然環境保全協定を結ばざるを得なくなる。保全協定の締結を終えたあと、ヤード工事再開を要望すればいい。県は、これまでのように、トンネル本体工事と一体だから認めないとする法的根拠を県条例に求めることはできない。昨夏の主張はちゃんと文書に残っている。その主張の整合性を保つのは難しいだろう。

 もともと、国交省の提案通り、ヤード工事を再開したからと言って、トンネル本体工事を「なし崩し」に行うことなどあり得ない。流域市町が心配したのは、ただ、それだけである。県は当初、ヤード工事はトンネル本体工事と無関係と考えていた。それなのに工事を認めない屁理屈をつくってしまった。

 昨夏の大騒ぎは何だったのか?JR東海が是が非でも、ヤード整備再開を望むのであれば、土地改変を伴う地質調査を提案すべきだ。それで、大騒ぎに意味があったことがわかるだろう。

タイトル写真は、昨年6月のJR東海社長の県庁訪問に大騒ぎしたメディア

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