エリザベス・ホームズの正体を暴いたのは?

資産45憶ドル、最年少で成功した女性起業家 

 ことし4月から7月まで3か月間、アメリカに滞在した。6月半ばシリコンバレーに行った際、たまたま手にしたWSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)でエリザベス・ホームズと彼女が創業した、わずか一滴の血液で200種類以上の病気の診断が受けられるベンチャー企業「セラノス」を初めて知り、びっくりさせられた。ネットで調べるとさまざまな情報を得ることができた。

 弱冠31歳で資産45憶ドル、スタンフォード大学化学工学部に進学したが、19歳で中退。2003年にセラノスを設立、彼女の発明した「痛くない血液キット」はアメリカの大手薬局チェーンと業務提携したことで急速に普及、10年間で医療費が約2千億ドル節約できると予想され、世界中から注目されていた。2014年度フォーブス誌の米国億万長者番付に「最年少で成功した女性起業家」に選ばれた。ホワイトハウス、米商務省などが協力して国際的起業を支援する機構メンバーにも選ばれていた。

 しかし、日本ではほとんど知られていない。

FBIが詐欺容疑で起訴

 その理由は、わたしが手にしたWSJはエリザベスを詐欺容疑で起訴する記事だったからだ。WSJのジョン・カレイロウ記者は2015年初めにセラノスを調べはじめ、さまざまな妨害を受けながらも、10月にエリザベスの”嘘”を告発、その後も報道し続け、とうとうことし3月証券取引委員会が50万ドルの罰金と経営権のはく奪、さらに6月にFBIが詐欺容疑で起訴した。9月にはセラノスが近く解散するという記事まで報道されている。血液検査での被害者はいないようだが、10億ドルもの損失を被った投資家が続出している。

入口にギャラリーがある静岡市文化・クリエイティブ産業振興センター

 先週、静岡市文化・クリエイティブ産業振興センターを訪れた。そのパンフレットで「文化・クリエイティブ産業」について、英国文化・メディア・スポーツ省が定義した創造産業13分野を指しているのだ、と説明してあった。ただ、それを調べていくと、同センターのパンフレットは20年も前の英国政府の定義が使われていた。当然、20年間もあれば、この分野の発展は著しく、英国だけでなく、日本の経産省でも「クリエイティブ産業を定義していない」として、知的財産権、著作権を有する産業を指し、多くのものがクリエイティブ産業になりうる可能性が高い、としている。

編集・批評・報道の役割

 エリザベスはフォトジェニックな容貌を生かし、セラノスを投資家やマスコミに売り込んでいった。必要性もあったのだろうが、秘密主義をモットーに、アップルのスティーブ・ジョブスをまねてすべて黒の衣装に身を包み、カリスマ性を演出した。オバマ、クリントン政権の高官らはエリザベスのために名前を貸した。元国務長官らがセラノスの役員に名を連ねたが、セラノスの実態を知る者はいなかった。エリザベスの起業したセラノスは「研究・開発」分野で創造産業だが、彼女の場合、セラノスと彼女自身をどのように売りこんだのかというテクニックは、「広告」分野における抜群の創造産業にあてはめたほうがいいのかもしれない。ただし、その中身は虚飾にまみれていた。

 WSJの経営者ルパート・マードックらもセラノスに個人的に投資していたから、ジョン記者への圧力は並大抵のものではなかっただろう。しかし、ジョン記者の鋭い批評精神に基づく徹底的な調査報道でエリザベスの正体が暴かれた。

 ウイキペディアによれば、いまや、英国政府の定義した創造産業のひとつに「編集・批評・報道」が入っている。シリコンバレーで有名なことば「Fake it til you make it(できるまではでっちあげておけ)」の通り、エリザベスもだまそうとしたのではなく、実現するまでの時間稼ぎをしていたのかもしれない。シリコンバレーにはスタートアップ文化(はったり文化)がまん延している。偽物が多いが、それを見極めるのは大変だ。文化・クリエイティブ産業が振興していくためには、その正当な評価とともに、偽物を排除してふるいに掛ける「編集・批評・報道」が重要であることは間違いない。できることならば、このニュースサイトもそのひとつとしての役割を果たしていきたい。

※エリザベス・ホームズの写真は「CNNenglish express2015年8月号」(朝日出版社)の記事で紹介されたものを使わせてもらいました。当時はタイム誌の「2015年最も影響力のある100人」選出など女性ヒーローだった。詐欺容疑での起訴にもへこたれず、最近でも彼女は新たな会社を立ち上げようとしているという報道もあるくらいで、相変わらず「最も影響力のある100人」なのかもしれない。

 WSJのジョン・カレイロウ記者はことし5月「Bad Blood」(未翻訳)を出版、既に映画化の話も出ている。

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