「MIRAI」の未来は? 厳しい5年後の運命

カリフォルニアのZEV規制

 トヨタ自動車が静岡県に無償提供したFCV(水素自動車)「MIRAI」(約723万円)の無料貸出が10月からスタートした。さまざまなイベントで「未来の車」に試乗する子どもたちに、「MIRAI」は夢を与えるのだろうか?

 ことし米国カリフォルニア州で非常に厳しいZEV(排出ガスゼロ車)規制がスタートした。5月から7月まで1カ月半、サンフランシスコやシリコンバレーに滞在、ナパバレーやサンフランシスコ市内の大渋滞を体験した。ZEVは大渋滞を避けることができる「規制適用の優先レーン」を利用できるだけに、時折優先レーンをすっ飛ばす高級車を見掛けた。ただ、街中でよく見掛けたのは、トヨタのハイブリッド車プリウスだった。

 2018年規制では、自動車各社は販売する新車の16%をZEVにしなければならない。違反すると、1台当たり5千ドル(1ドル112円で56万円)という多額の罰金が課せられる。深刻なのは、ハイブリッド車は除外され、ZEVに含まれないことだ。カリフォルニア市場でもシェア1位のトヨタは義務付けられたZEVの台数が他社よりも格段に多いだけに「MIRAI」を一台でも多く売ることに必死なようだ。

 ZEVはFCV(水素自動車)、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)/PHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)の3種類のみ。

 シリコンバレーで次世代カーの研究を行う三浦さんにZEVの事情を聞いた。三浦さんによると、ZEV規制は相当な効果があり、テスラ、リーフなどの数は日本の比ではないほど多く、充電スタンドもいつもいっぱいとのこと。ところが、水素自動車は非常に少ないという。アメリカ全土だけでなく、ヨーロッパ、中国でも同じで水素自動車は全く普及していないそうだ。

水素ステーション整備に5億円

 その理由は、インフラ整備に問題が多いからだ。水素ステーション(圧縮水素供給スタンド)設立に4~5億円からの投資が必要で、年間約4千万円の運営費も掛かるから、簡単には手が出せない。現在、経営順調なガソリンスタンドでも年間売上は約2千万円というから、水素自動車がいくら普及したとしても水素ステーション経営は非常に難しい。

 ドイツは2030年にガソリン車をゼロにする方針。世界中で環境規制はますます厳しくなるから、ガソリンエンジンの時代はいずれ終わりを迎えるだろう。中国だけでなくアメリカ、ヨーロッパでも次世代の車として“水素”には目をくれない。日本だけは事情が違うようだ。”水素”は国策であり、2020年東京オリンピックでも多くの水素自動車が走るようだ。

 静岡県は、ことし5月から水素ステーション事業に最大1億円の補助金交付受付を行った。残念ながら、手を上げた事業者はひとりもいなかった。世界の趨勢から見て、水素自動車の未来は決して明るくない。

 日本とカリフォルニア州はほぼ同じ面積を持ち、カリフォルニアの流行は5年遅れで日本の最新トレンドになっていく。とすると、5年後には電気自動車が大勢をしめ、水素自動車はお目に掛かれなくなっている可能性も高い。

 ぜひ、いまのうちに「MIRAI」を体験しておくことをお奨めする。

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